インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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遅くなってすいませんm(_ _)m
残業につぐ残業に休日出勤で書く時間がなかなかとれませんでした(汗)

ほんと、休日出勤は勘弁してほしい……


勝つために

カズキからの予想外すぎる発言に、関係者である面々は突然のことで数秒ほど思考が停止してしまった。

 

「(……ばばばばば、ばれちゃったぁぁぁ!!!?)」

「(ななななな、なんでぇぇぇぇぇ!!!?)」

「(まてまてまて、まてぃ!

 私らが魔法を使ったのは、なのはちゃんが私にしたO・HA・NA・SIの時だけ。

 でも、あの部屋に碓氷先生はいなかった。

 やっぱり一夏くんの昨日のあれは、わざとやった?

 それとも……)」

「ちょっと、これってマズイんじゃない?」

「もしかしなくても、そうだよ」

 

なのは、フェイトはパニックとなりはやても混乱する中、必死に思考を巡らせていた。そんな3人を見て、アリサとすずかもヒソヒソ声で今の状況のマズさを話し合う。

 

一方で、一夏とゲキリュウケンも彼女たちとは違った意味で混乱していた。

 

「(おいおいおい、いきなり何言ってんだ!この人!)」

『(そうか、昨日言っていた仕込みとはこのためのものか)』

「(どういうことだよ?)」

『(お前たちは魔法使いか?と聞かれて、すぐに冗談と流されたのに再び

 同じようなことを聞かれたら、いくらなんでもお前たちを怪しいと思うだろ?

 だが、向こうは表だってこちらに聞き返すことはしにくい。

 何故なら……)』

「(そうか!俺たちは、あいつらの正体が分かっているけど、向こうは本当に

 俺たちがあいつらと同じような人間だっていう証拠がないから、

 下手なことを言えないんだ!)」

『(正解だ。

 しかも、昨日からのカズキの行動のおかげで、

 何も知らない奴に聞かれてもカズキなら変なことを言ってもおかしくないという

 空気が少なからず作られている)』

「(変に勘ぐられたりしても、こっちはうまくはぐらすことができるってことか)」

『(そういうことだ。

 付け加えるなら、こっちにはあちらにない強みがある。

 それは……)』

 

「(例え、俺や一夏の正体が他の奴らにバレてもそのリスクはあちらよりかなり

 低いということだ♪)」

 

目の前で相当慌てているなのはやフェイトをおもしろそうに見ながら、

カズキは今の状況を楽しんでいた。

 

「(向こうは、バレたら次元レベルでややこしいことになる可能性があるけど、

 俺たちは別に“この世界”でやましいことなんてしていない。

 そもそも、敵さんたちにはバレてるわけだしなぁ~。

 それでもバレないに、越したことはないけど……。

 

 まあどちらにせよ、これでこいつらは俺への注意をずっと気に掛けなければならない。

 いつ、自分たちのことがバレかもしれないというプレッシャーの中でな♪

 

 逆に俺のことを調べようとしたら、ククク。

 

 さあ、どう動く?管理局のお嬢さん方?)」

 

内心でケタケタと、悪人が浮かべる笑みをしながらなのはたちの出方を窺っていたカズキだが、

思わぬところからその計画は崩れ去ってしまう。

 

「カズキン先生~

 時空管理局ってなんですか~?」

 

ゆったりした口調で、マイペースに生きていく少女。

のほほんさん(一夏命名)こと本音が、逆にカズキに質問してきた。

 

「(ちょっ!のほほんさ―――ん!?)」

「(っ!助かった!

 これで、碓氷先生の狙いが分かる!)」

 

本音の質問に一夏は焦り、はやてはカズキの目的が分かるかと身構えるが、当のカズキには何の動揺も見られなかった。

 

「(このパターンできたか。

 当然と言えば、当然だな。だが、何の問題もない……)

 ハハハ♪ごめんごめ~ん。

 説明しなきゃわからないよね。

 実は、最近小説なるものを書くのにはまっていてね?

 平凡な高校生が、平行世界を駆け巡って悪と戦うってものなんだけど、

 時空管理局って名前が思った通りの印象を与えるのか知りたくてね~

 

 ところで、カズキン先生って俺のあだ名?」

「そうで~す♪」

「ほ、本音失礼だよ」

 

スラスラと息を吸うかの如く自然に、嘘の理由を述べてごまかすカズキだが、本音の言葉に疑問を投げかけた。

 

気楽にその疑問に答える本音に簪は、彼女をたしなめた。

 

「別に気にすることないよ~

 そんな風にあだ名をつけられたことないし、何より気にいったよその名前♪」

 

あっけからんと教師がそんなのでいいのか?というぐらいのノリで

あだ名を了承するカズキであった。

 

「ところで、碓氷先生。平行世界って何ですか?」

「うむ。確かにさっきの説明だけでは、よくわかりません」

 

本音の意外な活躍?によってある程度、緊張感あふれる空気から朝のさわやかな空気へと戻りシャルロットと箒がそれぞれ、カズキの言った平行世界についての説明を求めてきた。

 

「平行世界っていうのは、簡単に言うと“もしも”の世界だね。

 例えば、初めてISを動かした男は一夏じゃない世界、ISが発明されなかった世界も

 ひょっとしたら、あるかもしれないってことさ♪」

「へぇ~。おもしろい考えですね」

「だろ?」

「(っ!あかん!この人の考えが全然読めへん!

 これが素でも、本性を隠してたとしても腹の探り合いはこの人の方が何枚も上や!)」

 

カズキのように、腹の探り合いを図っていたはやてだったが、この数分間のやりとりで彼の方が完全に上手であると悟ってしまった。

 

「それで?みんなは時空管理局って聞いてどう思った?」

「えっ!?ええ~っとへ、平和を守る正義の味方……かな?」

「わ、私もそんな感じです……」

 

カズキからの質問に、フェイトとなのはの二人は本当のことを言うわけにもいかなにので無難な回答をしてやりすごそうとした。

 

「……俺は、きなくさい感じがしますね。なんとなく」

 

そんな、なんとかのりきって安堵しかけたなのは達に追い打ちをかけるかのように一夏が彼女たちにとって爆弾となるようなことを答えた。

 

「き、きなくさいってどういうこと……?」

「ん?いや~、正義っていうか平和を守ってはいるんだろうけど、自分たちは絶対正しい!とか

 間違うことなどあり得ない!とか思ってるような部分がありそうだな~って」

「「「……」」」

 

たどたどしく聞いてきた簪に、一夏は自分の考えを述べ件の本人たちは静かに耳を立てていた。

 

「それに、組織っていうのは上にいくほど腐る奴も出てきやすいし、

 下の奴が本分を全うしていても、上のせいでねじ曲がってしまうかもしれないしな……」

「確かに、私もそう感じたな」

「うん。いきなり、平和を世界を超えて守っている組織のものですとか言われても

 簡単には信じられないよね」

「おお~、みんなよく考えてるね~」

「本音もちょっとは考えて……」

 

思い思いのことを言う一夏たちに、なのは達は少々呆然とし

それを見守るアリサとすずかも苦い表情を浮かべた。

 

「なるほどなるほど♪ 

 ありがとう、大分参考になったよ♪

(まずまずだな……)」

「いつまで食べている!食事は迅速に効率よく取れ!授業に遅れた奴はグラウンドを

 走らせるぞ!」

 

カズキが仕掛けた先手の成果にほくそ笑んでいると、そこに千冬が現れ食事を促した。

 

「やぁ、千冬ちゃんおはよう♪

 昨日はよく眠れたかい?

 大好きな弟が来たことがうれしくて、一夏くん人形をいつもより強くだきしm……」

 

ドガァァァ―――ン!!!

 

カズキが言ったことをきっかけに、二日目で早くも恒例となった

千冬とカズキの激しいじゃれあいをBGMにしながら、食堂に居るものは急いで朝食をすますのであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そして、時間は進み、本日の授業2時間目が終了した時点で一夏はかなり疲労していた。

更に……

 

「(な、なんかきまずい……)」

 

ISの基本知識の一つである、操縦者の保護や補助機能の説明の際、何故か下着の話や彼氏彼女の関係という話が出てきて、男にはいづらい空気となっているのだ。

 

そんな少しグロッキーな一夏のことなどおかまいなしに、千冬があることを説明するために彼の元にやってきた。

 

「織斑、お前のISだが準備に時間がかかる」

「俺のIS?」

「予備機がないから、学園で専用機を用意することとなった」

 

千冬の言葉に周囲がざわつき始める。

 

「せ、専用機!?一年でもう!?」

「いいなぁ~。私も欲しい~」

 

現在、世界に存在するISは全部で467機と数が限定されている。

 

ISにはコアという心臓部があり、これがあってISは初めてIS足り得るのである。

このコアは開発から10年経った今でも、その機能の全容が解明されていない完全なブラックボックスとなっている。

 

そのため、コアの量産の目途は未だに立っておらず、新しくコアを開発できるのは開発者の篠ノ之束だけとされている。

 

本来、専用機というのは国家あるいは企業に属する人間にしか与えられないものであり、その内の一機を数カ月前まで“平凡な一般人”であった一夏に渡されるのだから、騒ぐのもむりないことである。

 

「それって、要約するとデータ収集のための実験体ということだよね?」

「身も蓋もない言い方をすればな……」

 

教師ではなく姉としゃべるような言い方でも、千冬は一夏を咎めなかった。

彼女自身も弟にそんなことをさせたくはないのだが、良くも悪くも世界中から注目されている一夏には、自衛のための力が必要であるのもまた事実であるため、思い悩んだ末専用機を渡すことを了承したのだ。

 

「まあ、もらえるものはありがたくもらっときますよ」

「……」

「そんなに、心配しなくても大丈夫だよ千冬姉♪

 俺には頼りになる連中がたくさんいるし、

 千冬姉が大好きなカズキさんもいるんだし……、いたっ!」

「余計なことを言うな!後、織斑先生だ!」

 

苦虫を噛んだような顔をする千冬に向かって、一夏は軽い口調でからかいを含んだ気遣いをするが、照れ隠しに頭を叩かれてしまった。

しかしそれは軽くはたく様なもので、千冬自身も一夏の気遣いだと気付いているようだ。

 

「あ、あの織斑先生。篠ノ之さんって、篠ノ之博士の関係者なんですか?」

 

一人の生徒が、千冬にある質問をしてくると箒がギクッ!

と反応をするのを一夏は目撃した。

 

「……、いづればれることだが、確かに篠ノ之は束の妹だ」

 

篠ノ之束。

この名前を世界で知らない者は、千冬やエレンの名を知らない者以上にいない。

彼女こそISを開発、完成させた張本人であり、自他共に認める稀代の天才なのである。

 

もちろん一夏やカズキも面識はあるが、どういう人物なのかと尋ねられたら……

 

「う~ん、なんていうか“天才”?」

「ただの“ガキ”だよ」

 

となんと答えていいのかわからないような感じと若干トゲを含んだ言い方で答えるだろう。

 

「やっぱり、そうなんだ!すご―――い!!!」

「有名人の身内が二人もいるなんて!」

「ねぇねぇっ!篠ノ之さんも天才だったりするの!?

 ISの操縦の仕方教えて~!」

 

本人の気も知らず各々勝手なことを口走りながら、箒に詰め寄るが彼女自身は多少人見知りがあることも手伝って、軽いパニックとなった。

 

みかねたアリサやはやてが助けようとしたら、パンパンと手を叩く音が鳴り響いた。

 

「騒ぐなガキども。

 家族なら似ているところも当然あるが、基本別の人間だ。

 現に、私と織斑を見てみろ。

 こいつと私が全く同じように見えるか?」

 

千冬がそう言い放つと、騒いでいたクラスメートは静まり返った。

 

「そうだよね。ごめんね、篠ノ之さん。勝手なこと言って騒いで……」

「私もお姉ちゃんがいるけど、比べられて嫌なことあったもん」

「私もそういうことあったから……」

「えっ!あっ!い、いやわ、私もその……」

 

皆、頭が冷えて箒に謝罪していくが当の本人もどうしていいのかわからず、オロオロするはめになった。

その様子をほほえましそうに、アリサをはじめ千冬や一夏も見ていた。

 

「で?カズキさんはいつまでそこで見ているんですか?」

 

一夏がそうつぶやくと、彼以外のものが頭に?を浮かべ周囲を見てみるとドアのすき間からこちらを見ていたカズキの姿を捉えた。

ビデオカメラを構えた姿を――。

 

「いや~、青春してるな~と思ってつい♪」

「お前と言う奴は……。

 まあいい山田先生、号令を」

 

カズキの行動にツッコム気になれなかったのか、千冬はため息をはきながら次の授業を始めた。

 

 

 

「あっ、そうだ。カズキさん、いいですか?」

 

授業が終わり、教室を去ろうとしたカズキを一夏が引きとめた。

 

「なんだい、一夏?」

「セシリア・オルコットの戦闘映像が欲しいんですけど、準備にどれくらいかかります?」

 

一夏の問いかけに、先ほどのように周囲がざわつき始める。

 

「おいおい、本人がいる前でしかも教師にそんな贔屓をさせるようなことを

 尋ねるの?」

「勝負に勝つ可能性が0.1%でも上がるなら、なんでもするアナタが言いますか、それ?

 それにアドバイスは求めていませんし、もしも彼女が俺の戦闘映像……、

 といっても入試の時のものしかないけど、見たいといったらあなたは見せるでしょう?」

「確かにね♪

 こういう勝負は、フェアじゃなきゃおもしろくないからね~」

『(どの口が、そんなことをほざくか!)』

 

セシリアに勝つための手段を講じる一夏に、彼女も助けを求めるなら手助けをするのがフェアと言うカズキにゲキリュウケンは、ツッコミを入れた。

 

一見、不利に見えるが客観的に見てうまく突いていけば一夏が有利な点が数多くある。

それに気付かないカズキではないのだ。

何故なら、一夏に戦術や戦略を叩きこんだのは、他ならぬカズキなのだから――。

 

「そんなものは、結構です!

 専用機を使おうが、わたくしの勝利に変わりはありませんわ!」

 

机を叩きながら、件の人物であるセシリアが立ちあがるがその体は震えていた。

 

「その様子だと、昨日の千冬ちゃんのお説教が相当堪えているみたいだね。

 そんなので大丈夫なのか?」

「問題ありませんわ!」

 

癖なのか狙っているのか腰に手を当てたポーズで、セシリアは教室を出ていった。

 

 

 

時間は更に進み、放課後。

一夏は、箒やシャルロットといった昨日一緒に昼食をしたメンバーで剣道場にいた。

そこで箒と対峙しているが、箒が剣道の防具をつけいてるのに対し、一夏は道着を着ているだけである。

 

「一夏、本当にいいのか?」

「いいっていいって♪」

 

何故こんなことになったのか。

それは昼食時、昨日と朝食時と同じメンバーで食事を取ろうとした時、会長である楯無が今度は最初から待ち構えており、昨日の訓練の話の続きをしてきたのだ。

 

楯無は、現役の国家代表であり学園内でも彼女に勝てるものは教師でも千冬やエレンを除いて

ほとんどおらずIS学園最強の生徒なのだ。

 

今年入学した一年を除いて、その強さは全生徒が知るところであり、

ひそかに一夏にコーチを申し出ようとしていたとある三年生は泣く泣くあきらめたというのは今は関係ないことである。

 

教えを請うのにこれ以上ない人物だが、そう簡単に納得できないのが乙女心。

箒たちが文句を言おうとすると、楯無の背後に虚が現れた。

会長としての仕事をトラン○ムよろしく終わらせたのだが生徒会ではなく、実家の更識家から急な仕事が入ったということで、楯無を呼びに来たのだ。

 

文句を言う楯無であったが、虚の背後に湧き出た白い魔○並の黒いオーラに黙り込み、

そのまま連行されていった。

 

唖然とする残された面々を余所にして、一夏は箒に剣道場で打ち合いたいと頼んだのだ。

当然他のメンバーがそのまま行かせるわけもなく、全員で剣道場にいるというわけである。

 

そして、箒はルンルン気分で剣道場で一夏を待っていたのだが、

一夏は防具をつけずに現れたのだ。

どういうつもりだと、問いただすがこのままで打ち合い先に一本を取った方の勝ちと一夏は言ってきたのだ。

 

流石に、ふざけているとしか思えない言葉に箒は怒るが、一夏は剣道はもう辞めて今は剣術を習っていることとどうしても、この勝負が必要だと真剣な顔で言うものだから箒は顔を赤くしながら、渋々了承して今に至る。

 

ちなみに、そんなやりとりが気にいらず約二名終始不機嫌だったのをここに記しておく。

 

「しかしだな、いくらなんでも防具なしというのは……」

「大丈夫だって♪

 千冬姉やカズキさんには、竹刀じゃなくて木刀でいつもボコボコにされてるんだぜ?

 それに比べたら……」

 

何度も確認する箒に大丈夫だと一夏は答えるが、

最後の方はどこか遠くを見るような目をしていた。

 

「……わかった。お前が言い出したんだから、手加減はせんぞ!」

「おう、こい!」

「はぁぁぁ!!!」

 

 

 

数分後、その場にいたなのは達や噂の男子を見に集まってきたたくさんのギャラリーがいるとは思えないほどその場は静まり返っていた。

 

「どういうことだ」

「どういうことって、言われても……」

「どうして、どうして…………そこまで強くなっている!!!」

 

そう、打ち合い始めたら箒は一夏に竹刀を当てることは一切できなかったのだ。

 

どんなに速く、鋭く、打ち込んでものらりくらりとかわされ続け、呼吸が崩れた一瞬のうちに打ち込まれ決着がついたのだ。

 

「どうしてって言われても、鍛えたから?」

「それは、そうかもしれないが……。

 だが、これでは私は何も必要ないではないか……」

 

涙ながらに言葉を紡ぐ箒であったが、彼女は悔しかったのだ。

いくら、開発者の妹とはいえ自分はISに特別詳しいというわけではない。

そんな自分を一夏は頼ってくれたのだ。

一夏と一緒にやっていた剣道。転校して離れ離れになった後も、これが彼と繋がっていた証明と言わんばかりに鍛錬を続けてきた。

 

なのはたちに出会わなければ、その剣はただ相手を打ち負かすだけの暴力になっていたかもしれなかったが、彼女たちのおかげで道を誤らずに済み、中学では全国優勝までしたのだ。剣道なら力になることができる。

そう思ったが一夏に決められた瞬間、彼女は分かってしまったのだ。

 

彼の実力は、自分が教えられることのないぐらいの高みにあることを――。

 

「悪かったな、箒。

 ISの練習をする前に、どうしてもお前の剣を見て自分を見つめなおしたかったからさ」

「……どういうことだ?」

 

頭をかきながら、照れ臭そうに一夏はこの勝負をもちかけた理由を話し始めた。

 

「剣術を学んだって言っても、その基本は剣道からきてるからさ、

 初心に返りたい時はそれを見るのが一番なんだけど今の俺じゃ全然できない。

 

 そこで全国優勝をしたお前の剣を見れば、って思ったんだけど……

 すごいな箒。

 どれだけ、剣道を一生懸命やってきたのかわかるきれいな剣だったぜ」

「/////」

 

箒が一夏の強さを分かったように、一夏もまた箒の剣道に打ち込んできたひたむきな想いを理解していたのだ。

もっとも、一番肝心な部分は分かっていないが。

 

箒も剣のこととはいえ、一夏にそんなことを言われるとは夢にも思わず昨日の簪のように顔を真っ赤にしてオーバーヒートしてしまった。

 

「どうした、箒?顔が赤いぞ?」

「「「「「「「「「「『(お前のせいだよ!)』」」」」」」」」」」

 

ゲキリュウケンと皆の心が一つになったツッコミが炸裂したが、

一夏に届くことはなかった。

そんな中、重い空気を出しているものが二人ほどいた。

 

「「…………」」

「かんちゃん~ 

 そんなにふくれないで~」

「あかん。シャルロットちゃんが、なのはちゃんと同じ道に……」

「私と同じ道って、どういう道のことなのかな?はやてちゃん?」

 

どうやら、また嵐が起きそうである。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それじゃ、今日は張り切っていくわよ!」

「はい、お願いします楯無さん」

 

一夏は今ISの訓練を行うために、アリーナに楯無と共にいた。

急な仕事が入ってこないよう念入りに準備をして、

楯無は多少強引にコーチ役を買って出たのだ。

 

もちろん、いつものメンバーも一緒である。

現役の国家代表の手ほどきなど、滅多に見られるものではないから私たちもと建前は立てているが、本当はこの油断ならない女と一夏を二人っきりしてなるものか!という思いがあったりする。

 

そんな恋する乙女たちの燃える想いなど知らずに、一夏は準備運動を念入りにしていた。

何故かマスクをしていて。

 

「おりむ~。

 風邪でも引いたの?」

「いや、違うよのほほんさん。

 これは、お手軽な心肺機能養成ギプスだよ」

「いや、どう見てもただの濡れているマスクにしか見えないのだが……」

 

箒の言うように、一夏がしているのは正真正銘ただ濡れているだけのマスクである。

 

「こうやって、濡らすことで通気性最悪になって取り込む酸素が少なくなるんだよ」

「それって、高地トレーニングのこと?」

「そんなの決闘までに効果あるのかな……?」

 

シャルロット、簪が一夏がやろうとしていることを理解するが決闘までの少ない期間で効果が出るのか疑問であった。

 

「効果がないと言えばないし、あると言えばあるな。

 少なくとも、重い荷物を持って下ろしたとき体が軽くなったような気がするぐらいの

 効果はあるさ。やれることは、なんでもやらないとな……」

 

一夏がそうやって、特訓の説明をしている傍らではやては満悦をしていた。

 

「それにしても……イイ光景やね~

 眼福眼福♪」

「はやて、おじさんくさいわよ……」

「なんか、フェイトちゃんは着なれているって感じがするけど……」

「そうかな?」

「フェイトちゃんのバリアジャケットと似ているもんね。ISスーツって」

 

彼女たちは、ISスーツというISを動かすための服を着ている。

肌の微弱な電位差を検知できるため、操縦者の動きをダイレクトに機体に伝えることができるものだ。このスーツを着なくてもISを動かすことはできるが、反応速度は着ている状態よりも低い。

 

見た目は、スクール水着やレオタードに近いためスタイルがそのまま出るので、はやてみたいなものにはたまらない光景となるわけである。

 

「と・こ・ろ・で♪

 一夏く~ん、どうして私たちと目を合わせないようにしているのかな~?」

「うっ!」

 

そう、先ほどから一夏は楯無をはじめ、その場にいるものたちと

まともに目を合わせようとはしなかった。

 

皆、アイドルやモデルでもおかしくないかわいい子たちなのだ。

そんな子たちが、ISスーツを着ている光景は健全な男子にとっては、まぶしすぎるのだ。

 

「ひょっとして、照れてる?照れてるのかな~?」

「(わかってて、言ってるよこの人!)

 め、目のやり場に困るということで/////」

「いや~ん、一夏くんのエッチ♪」

「は、早く始めましょう!」

 

楯無のからかいをごまかすために、一夏は練習を急かした。

でなければ、背中に刺さる鋭い眼光や冷たい眼差しに耐えられそうにはなかった。

 

約一名は、一夏のその様子を楽しんでいたりする。

 

「じゃあ、今日一日はISの基本的な動かし方がリクエストみたいだけど、

 本当にそれでいいの?」

「はい。どっちにしろ、こんな短期間で大したことは覚えられるほど器用じゃないので

 今日は、動かし方をとにかくマスターしてアリーナを使える残り一回で

 模擬戦とかをするのがbetterだと思うんです」

「わかった、それじゃみっちりきっちりやるから覚悟してね♪」

 

 

 

 

 

「さて、今日はこれでお開きとしましょうか」

「は、はい。あ、ありがとう、ございました……」

「「「「「「「「「お、おつかれさまでした……」」」」」」」」」

 

日が沈むころには皆疲れきって、ほとんどのメンバーが座り込んでいた。

一夏も、立ってはいるが汗だくで息も若干きらしている。

楯無も多少汗はかいているが、けろりとしている。

 

「じゃあ、最後にクールダウンして部屋に戻ってね♪」

「「「「「「「「「「は、はい……」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

「ふぅ~、疲れた」

「改めてやってみると、基本も難しいね……」

「みんな、ありがとうないろいろと手伝ってくれて。

 部屋でお茶でも出すよ」

「やった~♪」

「この気配りを普段から箒ちゃんにできてたら、文句なしなんやけどな~」

「「「「うんうん」」」」

 

練習後、部屋に戻る帰り道で一夏は、皆に手伝ってくれたお礼にお茶の提案を出す。

この気配りのほんの1、2割でも女心の気配りに回せればいいのにと漏らす者もいた。

 

だが、この時の一夏は気付いていなかった。自分が嵐に近づいていることに……

 

 

 

「俺が、お茶を入れるから皆はゆっくりしていてくれ」

『(おい、一夏。部屋の中に誰かいるぞ)』

「(みたいだな。

 でも、敵意や悪意は感じないな。

 いつでも、対応できるようにゆっくりと……)」

 

ガチャと一夏は自室である1025室のドアをゆっくり目に開けた。

 

「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」

 

ドアを開けて聞こえてきた声を聞き終わるや否や、一夏は素早くドアをバタリと閉めた。

 

「……」

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

「え~っと、ここは1025室。俺と箒の部屋に間違いなし。

 ……相当、疲れているのかな?

 裸エプロンをしている楯無さんを見るなんて、ははは」

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

『(お~い、一夏~)』

 

一夏は、今見たことが余程信じられないのか口に出しながら必死に否定しようとする。

 

「うんうん、きっと俺は疲れているんだ。

 特に今日は、慣れないことをしたからな~、ははは。

 さっき見たものは幻、夢だ。

 

 そして、俺の背中に刺さる鋭かったり、

 冷たかったり笑っているけど笑っていないような視線も

 きっと気のせいだ!」

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

『(目を逸らすには無理があるぞ――)』

 

一夏は、背中に刺さる視線を振り払うかのように現実逃避を図るが、その視線がそれを許しそうになかった。

 

「気のせいったら、気のせいだ。

 ついでに、たぬきの耳と尻尾がよく似合う奴からカズキさんがおもしろいものを

 見つけた時と同じような視線を感じるのも気のせいだ!

 ドアを開ければ、そこには誰も!」

 

意を決して、一夏が再びドアを開けた。

 

「お帰り。私にします?私にします?それとも、わ・た・し?」

「幻でも夢でもなかった!そして、選択肢が一つしかない!!!」

 

どうやら、裸エプロンをした楯無というのは現実だったようだ。

 

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

「っ!ていうか、何してるんですか楯無さん!?」

 

一段と鋭さや冷たさが増したような視線を背中に受けて、

一夏は慌ててその視線から逃げるように楯無に問いただした。

 

「何って、特訓をがんばった男の子をもてなそうかと~♪」

「はぁぁぁ~。

 楯無さんにもお茶出しますから、皆と待っていてください……」

「むぅ~。こんな美人のお姉さんがこんな恰好をしているのに反応薄くない?

 そんな子には、こうだ♪」

「うわっ!?」

「「「っ!!!!!」」」

「「「「「「なっ/////!!!?」」」」」」

 

あろうことか、楯無は一夏の後ろに抱きつき豊満な大きさを持つものを

これでもかと押し当ててきた。

 

その光景に、一夏に恋する者は声にならない声をあげ、

他のものは顔を真っ赤にして驚きの声をあげた。

 

「ちょっ!楯無さん!」

「よいではないか~よいではないか~♪」

「楯無さん、いい加減にしてください!

 後、一夏もだらしない顔をするな!!!」

「お、お姉ちゃん!」

「会長もだいた~ん」

「一夏?やっぱり、大きいのがイイノカナ……?」

「(男の子って、こういう恰好が好きなのかな?

 わ、私もこの恰好をすれば/////)」

「フェイト?あんた、何考えているのかまるわかりよ?」

「一夏くんも男の子なんだねぇ~」

「やっぱり、OHANASIが必要かな?」

「いや~青春の1ページやね~」

「だぁぁぁ!皆、落ち着け!

 後、楯無さんも水着でも恥ずかしいんでしょう!その格好!

 とっとと服着てください!!!」

 

部屋はあっという間に青春と言う名の嵐が吹き荒れたが、一夏の言葉で楯無が固まった。

 

「えっ?何でエプロンの下が水着って分かったのかな?

 後、私が恥ずかしいって/////」

「抱きつかれた時に、心臓が速くなっているを感じたので……

(ゲキリュウケンの感覚越しだけど)」

 

そう、裸にエプロンという恥ずかしい恰好と見せてその下に楯無は水着を着ていたのだ。本人も余裕のある態度で、一夏をからかっていたが内心相当恥ずかしかったようだ。

 

「じゃあ、水着だってわかったのは?」

 

乙女の直観か、これは問いただしておかないといけないと本能で悟ったシャルロットは一夏が答えなかったことについて楯無と同じように聞いた。

 

「ああ、それか?

 服越しに伝わる感触が、なんか違ったからさ」

「と言うと?」

 

取り敢えず、みんなが落ち着いたのに安堵したためか一夏は自身が答えを誘導されていることに気がつかなかった――

 

「いや~、あねさん……知り合いのお姉さんがよく“私の乳をくらえ!”とか言って、

 俺や友達の顔を胸に押し付けてからかってくるんだけどさ~

 その時の感触と楯無にさんに抱きつかれた時の感覚が違ったから、エプロンの下に

 何か着てるってわかったんだ」

「「「「…………」」」」

『(おい、バカ!)』

 

一夏は、部屋の温度が真冬並のなったことに気がつかない――。

 

「まあ、俺をからかうのは“アイツ”をからかうついでなんだろうけど、

 勘弁してほしいぜ~

 おかげで、いろいろと慣れちまったけど/////」

「なあ、一夏。

 その人は、どんな人なんだ?」

「どんなのって……、所謂肉食系って奴かな?」

「美人?」

「ああ、美人だな」

「……押し付けるって、大きいの?」

「そうだな、大きいぞ」

「私や箒ちゃんよりも?」

「う~ん、そうですね」

『(……)』

「「「「「「……」」」」」」

 

先ほどから、ゲキリュウケンやなのは達は一言もしゃべっていない。

いや、しゃべれないのだ。

 

「「「「「「……、じ、じゃあ私たちはこれで!」」」」」」

「うん?お茶はいいのか……って、あの箒さんシャルロットさん?

 なんで二人は、まるで俺を逃がさないようにするみたいに腕を組んでいるのかな?

 なんで、楯無さんと簪さんも拳をバキボキならしてアップをしているのかな?

 ねえ!!!」

『(一夏、お前のことは忘れん!)』

「(なんだよ、その今生の別れみたいな感じは!)」

「「「「「「それじゃ!!!」」」」」」

 

そう言って、なのは達は1025室の部屋を後にした。

 

数秒後、とある朴念仁の悲鳴が学生寮に響き渡ったが、

その翌日一夏は昨日部屋に戻った後の記憶がなかったそうだ。

 

唯一、真相を知っているゲキリュウケンは決して

何が起こったかを語ることはなかった。

 

 

 

そして、時はまたたく間に流れセシリアとの決闘当日となった――。

 

 




次の更新も同じくらい長くなるかもです。

ですが、途中でやめるなんてことは絶対にしたくないので、温かく見守ってもらえれば幸いです。

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