インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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お待たせしました。
2019年最後の更新、全校集会の後編です。

前回登場した謎の人物の正体が明らかに!



IS学園は更に動く

IS学園の体育館は、先ほどまでの島全体を揺らさんばかりの騒々しさが

嘘のように静まり返り、多くの者がお口あんぐりなことになっていた。

今、起こっていることが信じられず目を何度もこすったり、思いっきり

自分や隣の者の頬をギュ~~~~~っとつねる者も多数である。

 

「ルルーシュ。

 僕の目、おかしくなったのかな?

 カズキさんが、怯えて腰を抜かしているように見えるんだけど」

「奇遇だな。

 俺も同じものが見えているぞ。

 ……スザク。一夏の奴は、どんな顔をしているか見えるか?」

「え~っと……ああ、いた。

 他のみんなと同じで、ものすごく驚いているって顔をしているよ」

「まあ、あんな顔になるのもわかるけどな」

「ここから、特定の人物を探せて見ることができる

 お前達も大概だがな」

 

壇上の傍らにいたルルーシュ達も目の前の光景が信じられなかったが、

素早く立ち直り現状を分析しながらも、スザクとジノの規格外っぷりに

呆れる。

 

「……見ろ。一夏の姉である彼女も目をパチパチさせて驚いている。

 俺達の中でも特にカズキとの付き合いが長い二人が、あそこまで

 驚くということは、二人もあんなカズキは見たことがないのだろう。

 ならば、導き出される結論は……あの源恋華という女は、カズキが

 この世界に来る前からの知り合いの可能性が高い」

 

そうやって、ルルーシュが分析している間にも事態は、

また新たに動き出した。

 

「やぁ♪」

「あ、えっ…と……ど、どうも……」

 

誰も考えもしなかった恐れおののいている状態のカズキに、源恋華は

知人のように気さくに挨拶をする。

カズキは未だに、目の前の現実を受け入れられないのか

歯切れの悪い返事を返す。

 

「……………………。

 疑問は山のようにありますが…………何で、ここにいらっしゃるんですか?

 貴姉(きし)?」

 

 

 

 

 

カズキは現在進行形で、大混乱していた。

自分がある人達を探していれば、遅かれ早かれ自分のことはこの人の耳に

入るとは分かっていた。

そうならない為に、細心の注意を払いに払ってきたつもりであったが、

それでも知られてしまったようだ。

いや。

この人なら、自分の情報網をかいくぐって密かに近づくことも朝飯前に

やってのけるだろう。

頭では、分かっているのだ。自分が出し抜かれたことは。

しかし。

そんなことは、関係ないと。

すぐにこの場から逃げろと体が……全ての細胞が意見を揃えて叫んでいる。

カズキの心は、恐怖の色一色に染まっていた。

手は汗でぐっしょりと濡れ、体の震えが止まらない……。

心臓はバクバクと動いて、全身に血液を送り出しているというのに、

背筋は氷点下のように冷たい。

決して忘れることができない……そして思い出したくない記憶が、

嫌でも思い起こされる。

目の前で人なつっこそうな笑みを浮かべる“姉弟子”に、

完膚なきまでに叩きのめされた敗北と言う、苦い記憶が…………。

人生最大の敗北が、自分から全てを奪ったあの男とのなら、ワースト2は

間違いなく頭によぎっているものだろう。

だが、敗北にしろ恩にしろ受けた借りは必ず返すカズキであるが、

この人物にはリターンマッチを挑もうとは露ほども思えなかった。

絶対に勝てないと言えるほどの実力差があるとは思っていない。

向こうも腕を上げているだろうが、自分だって昔にはない力がある。

叩きのめされた子供の時とは違うと断言できるが、それでも――――

芸術的なまでに洗練された超絶技巧で身体を破壊され刻みつけられた、

理解すら及ばない力に対する絶対的な恐怖。

必要だったことは分かる。

増長し、慢心していた当時の自分に身の程と世の広さを思い知らせるために、

あの敗北は必要だったと。

力に酔い、天狗になっているガキに極めて有効な手段だったと

自分でも言える。

納得もしている。

だから、カズキはそれをやらせた自分の師に常々思うのだ…………

 

 

 

“いくらなんでも、あれはやりすぎだったんじゃないんでしょうか、師父”と。

 

 

 

「ふふふ♪

 そんなに震えちゃうぐらい、私とまた会えたのがうれしいのかな~?」

「ははは……」

「あの~……お二人は知り合い……何ですか?」

 

まるで、鈴がIS学園で初めてカズキと会った時のようなやり取りをするカズキと

恋華に、虚がおそるおそる尋ねる。

全校生徒と教師陣は、ゴクリと息を飲みながら見ているのがわかっているのか、

恋華はわざとらしく指をあごに当てて考える仕草をする。

 

「知り合いって言えば確かに知り合いって言えるかな~?

 ねぇ?

 色々と知ってるもんね~。

 あ~んなことも、こ~んなことも♪

 熱~い夜に……ね♡」

「「「「「「「「「「えええぇぇぇぇっっっっっ!!!!!?」」」」」」」」」」

 

意味深な笑みを浮かべて恋華が口にしたことに、カズキを除くその場にいた全員が

驚愕の声を上げて、体育館を揺らした。

 

「えっ!じゃあ、ひょっとして碓氷先生の元カノ!?」

「ちょっと待って!

 碓氷先生がいくつの時の話なの!」

「うおっ!千冬姉が見たことない顔に!?」

 

一瞬で、体育館は先ほどと同じ……否。

それ以上の騒ぎに包まれて、大混乱となる。その中で一夏は、千冬が

大変な顔になっているのを見て、驚きの声を上げる。

 

「この人は……」

 

大騒ぎの中で、カズキは昔と変わらない姉弟子に頬を引くつかせる。

確かに嘘は言ってはないが、真実を言っているわけでもない。

わざと誤解されるように誘導しているのに、恋華は少しも悪びれた様子は

ない。

そして、それはいつもカズキお得意の十八番でもある。

 

「とう!プリティラビット、再び参上!

 ふふふ。

 そこの変態宇宙人と知り合いってことは~?

 人に知られた恥ずかPi!!!なことも知ってるのかな~?」

「モチのロンよ♪」

「厄介なことにね……」

 

復活したプリティラビットは、頭のウサミミをピコピコ動かして、

恋華に接近する。

仮面の下に隠れている顔は、悪~い笑みになっていることだろう。

 

「それじゃあ、余すことなく全~~~部教えてくれるかな?

 答えは聞かないけど♪」

「この子、おもしろそうね~。

 自尊心が高くて、自分が特別って思っているとこが……ふふふ♪

 ねぇ?もらってもいい?」

「どうぞどうぞ。お好きなように」

「ちょっと、何を言って……」

 

にっくきあんちくしょうをギャフンと言わせる日がとうとう来たとばかりに、

プリティラビットはハイなテンションでカズキの弱みを握ろうと恋華に

グイグイ迫るが、詰め寄られる恋華は微塵も自分の優位を疑っていなかった。

そして、新しいおもちゃで遊んでいいかと聞くかのようにカズキに

確認を取るとカズキは少しもためらわず、束を恋華に押し付ける。

自分を無視して話を進めるカズキと恋華に、束が口を挟もうとすると恋華の手が

束の腰へと回され引き寄せられた。

 

「ほへ?」

「それじゃ、いっただきま~す♪」

 

もう片方の手で、引き寄せたプリティラビットの仮面をちょうど二人の顔が

隠れるように外すとちゅっと柔らかいもの同士がくっついたような音が響き渡る。

 

「んんっ!?

 んっ!…っ!んぶ……」

 

プリティラビットが驚きの声をもらし、必死に恋華の手を振りほどこうと

抵抗するが、その様はどこか弱弱しかった。

仮面に隠れて何をされているのかは、いや。

隠れて見えないからこそ、余計に想像が働いてしまい誰もが今起きていることに

思考が停止していた。

くぐもったプリティラビットの声に交じって聞こえる水気をはらんだ音が、

想像に拍車をかけていた。

ただ一人、カズキだけがヤレヤレと言った感じで苦笑い浮かべて肩をすくめた。

 

「~~~っ……ぷはっ!

 ごちそうさま♡」

「はぁ………はぁ……こ、こんにゃにょ……はじ……め、れて……」

 

恋華から解放されたプリティラビットは、その場で崩れ落ち激しく息を

整えるがろれつが回っていなかった。

振りほどこうと思った瞬間、今まで感じたことのない快感が稲妻の如く

口から駆け抜け、体から力を奪っていき、なすがままにされてしまったのだ。

仮面に隠れているが、全員その下の表情は“見せられないよ!”なものに

なっているのを幻視した。

 

「あはは……この人は、男も女も両方いける口だから、気を付けた方が

 いいよ?」

「愛の形は千差万別で、私のはこういう形なだけよ。

 それにしても……成長中の青い果実もいいけど、成長した大人の体というのも

 色んな所がまだまだ柔らかそうで、なかなか♪」

 

呆れ半分で注意を促すカズキだったが、恋華はどこ吹く風であり、

教師陣に目をやりジュルリと舌なめずりをして、彼女達に戦慄を走らせた。

 

「あっ、忘れてた。

 雪にも君のことを伝えておいたから」

「雪って……雪姉さんに!?」

 

唐突に手をポンと叩いてわざとらしく、今思い出したかのように恋華が

伝えたことは、カズキを再び驚愕させた。

それを見払ったかのようにカズキの携帯が震える。

素早く携帯を取り出して、画面を見た瞬間カズキは顔を引きつらせる。

画面には未読メールの知らせが表示されており、その数は37件と

なっていた。

開くべきか放置するか数瞬、考えている間にもどんどんメールが

カズキの携帯に届いていく。

 

「どうしたの?メール、読まないの?」

 

首を傾げて尋ねて来る恋華に、カズキは訝しむ。

この姉弟子がよからぬことを企んでいるのは明白であるが、回避しようにも

判断材料が皆無のため、メールを読まない選択はカズキにはなかった。

 

「うっ……」

 

メールを開いたと同時に、とてつもなく面倒なことになっているとカズキは

理解してしまった。

メールの内容は、相手が照れているのか短いものであったが……。

最初は恋華に自分のことを聞いて、会えるのが楽しみとか近況を尋ねるようなもの

だったが途中から、

 

“ねぇ、恋ちゃんから聞いたけど一つ屋根の下で

女の人と住んでるって聞いたけど、嘘だよね?”

“か、家族ぐるみの付き合いをしているってどういうこと!?”

“ケガをした時にあ~んしてもらったって!?”

“すぐに行くから待ってて!!!”

 

等々、恋華が色々と雪という人物に吹き込んだことが簡単に想像できる内容であった。

誤解しやすいように。

 

「カズちゃぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!」

 

体育館の外から女性の叫び声が聞こえ、全員の目が出口に視線を向けると、

その目の前で出口が“斬り裂かれた”。

 

「「「「「「「「「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!?」」」」」」」」」」

 

何度目になるかわからない驚きの声が、体育館に響き渡る中で姿を現したのは、

黒髪ロングの大和撫子を彷彿とさせる女性であった。

巫女装束に身を包み、手には日本刀、頭には“カズちゃん命!”と書かれた

ハチマキを巻いている。

 

「……いたぁぁぁっ!!!

 お前が、織斑千冬かぁっっっ!!!!!!」

「貴姉……?雪姉さんに何を吹き込んだんですか?」

 

体育館に突撃してきた女性は、千冬の姿を見るや否や親の仇を見るような目で、

日本刀を向ける。

カズキは、知り合いなのかその女性……雪がこんなことをする原因を作ったであろう

恋華に何を言ったのかを聞く。

 

「何って、君と織斑千冬とのことをありのまま~~余すことなく♪」

「どうして知っているのかって聞くのは、聞くだけ無駄ですね」

 

追及したところで現状を好転できるわけではないので、

諦めの表情で早々にカズキは恋華への追及を断念する。

今、優先すべきは頭に血が上って完全に暴走している人物を

何とか止めなければならないからだ。

 

「カズちゃんは、何も悪くいない!

 カズちゃんは騙されているだけだもん!

 この泥棒猫っ!よくも私のカズちゃんを誑かして汚したなっ!!!

 天誅ぅぅぅっ!!!!!!!!!」

「落ち着いてください、雪姉さん!」

 

大変な顔になってピクリとも動かない千冬に向かって、斬りかかろうとする

雪をカズキはザンリュウジンを拾って止めに入る。

 

『だぁぁぁっ!俺を修羅場に巻き込むんじゃねぇ!!!?』

「どいて、カズちゃん!

 その泥棒猫を斬れない!」

「どけるわけないでしょう!」

 

涙を流しながら悲鳴を上げるザンリュウジンを無視して、カズキは

雪の攻撃をさばいていく。

その激しい攻防に、カズキはあの斧をどこから出したのかとか、

斧がしゃべらなかった?とか、空中を飛んでいないとか誰も声を出せなかった。

 

「どうなってんだこれ?

 あのカズキさんが、いつも俺達でからかって遊ぶみたいに、

 恋華って人に遊ばれてるぜ?」

 

信じられないといった声を出して、一夏は見たことのないカズキに

唖然となる。

壇上の恋華は、そのカズキがいつもしている笑顔で心底楽しそうに

笑っており、ますます一夏達を困惑させた。

 

『(私にも何が何だか……)』

「と言うか……カズキさん、押されてね?」

 

何が起きているのか現実に戻ろうとする一夏は、再び信じられない光景に

目を疑う。

自分より強い相手と相対しても、常に余裕な態度を崩さないカズキが必死の

形相で雪の剣をさばき、その上徐々にさばききれなくなっているのだ。

 

「……っ!だ、大体よく考えてください!

 貴姉が俺について変なことを言うのは、俺達をからかう時じゃないですか!

 一つ屋根の下って言うのだって、ここの教員寮にいるんだから言い方の一つ

 として言えるでしょ……っ!」

「えっ?……なぁ~んだ、そうだったんだ~」

 

刀とザンリュウジンが鍔迫り合いになった瞬間、カズキは畳みかけるように

矢継ぎ早に誤解を解こうとする。

それを聞いて、雪は少し考えて安堵の表情を浮かべ落ち着きを取り戻す。

 

「じゃあ、じゃあ、恋ちゃんが言ってたあれもそういう誤解なんだね?」

「あれ?」

「カズちゃんが昔、織斑千冬の放課後の時間を買ってたとか、

 メイドさんの格好で色んな遊びをしたとか……」

「それは、事実ですね」

「ちょっとっ!!!!!

 何で、そこは誤魔化さないの!?

 本当のことだけども!」

「いや、だってこれは誤解じゃなくてホントのことだし」

 

折角、暴走列車みたいな人が落ち着いたというのに、消えかけた火種に

ガソリンどころかニトロをぶっかけるカズキに一夏が声を荒げる。

他の者達が驚きの声を上げる暇もない電光石火の速さである。

一夏のツッコミを受けたカズキは、恥じるところは何もないと言わんばかりに

堂々としているが、今回は悪手だった。

雪は浮かべていた安堵の表情のまま、固まっており、

恋華は腹を抱えて笑い転げていた。

 

「…………アハ……アハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

 

顔を俯かせた雪は、虚ろな笑い声を上げるとどこに隠し持っていたのか、

大量の暗器をそでから取り出す。

 

「あっ、ヤバイ。完全にR指定だこりゃ」

 

自分の手にも負えない事態にしておきながら、カズキは他人事のように

現実逃避し始める。

 

「ふん!」

「はう!」

 

そんな千冬でもカズキでもどうにもできそうにない

IS学園史上、最大のカオスは起きるのも突然だったが終わるのも突然だった。

雪は、背後からチョップを頭に叩き込まれ、気絶させられた。

小柄で小生意気そうな10歳ぐらいの少年によって。

 

「よう。久しぶりだな、カズキ」

「師兄!

 何で、あなたまで!?」

 

どこからともなく現れた少年は、気軽にカズキに挨拶すると

カズキは驚きの声を上げる。

その声には、目上の者を敬うような敬意も込められていた。

 

「何でも何も、お前が俺達のことを探してたんだろ?

 で、突っ走るこいつを追いかけてきたんだ。

 聞きたいこともあるだろうが、後でな」

「……ありがとうございます、師兄。

 あなたが来てくれなかったら……どうなっていたか……っ!」

 

まるで、弟を諭すように話す少年にカズキは口元を押さえ、涙ぐみながら

感謝を告げる。

 

「……ふっ。

 色々と噂は耳にしてたが、存外元気にやってるみたいだな。

 最後に見た時には考えられないぐらい、いい顔してるぜ」

 

昔のカズキを知っているのか、少年はその変化に微笑を浮かべて

満足すると雪の首根っこを掴んでそのまま立ち去ろうとする。

 

「ああ、師兄。あれも……何とかなりません?」

「……無理だ、頑張れ」

 

去り行く少年に、カズキは言外に恋華も連れてってくれと頼むが、

どうにもならないと断られ肩を落とす。

 

「……はぁ~~~~~。

 どっと疲れた…………この後、どうしよう」

 

嵐が過ぎ去ったとばかりに少年が立ち去った後、

カズキは重い……重~~~いため息を吐くと、周りを見やる。

壇上で、笑いすぎて出てきた涙をぬぐう恋華。

理解が追い付かず、困惑する教師陣と生徒達。

大変な顔になったまま、ピクリとも動かない千冬。

放置されたまま、ビックンビックンしているプリティラビット。

流石にどうしたものかと、カズキは途方にくれるのであった。

 

 

 





新キャラの正体は、カズキの姉弟子でした。
しかし、やってきたのは一人ではなく(笑)

弟子の順としては、
師兄と呼ばれた少年>源恋華>雪>カズキとなっており、カズキは
末っ子の位置です。

師兄と雪姉さんと呼ばれたキャラの名前などについては、また次回。

イメージとしては、
師兄は、BLEACHの日番谷 冬獅郎。
雪姉さんは、緋弾のアリアの星伽 白雪を二十歳ぐらいにした感じです。
お判りでしょうが、雪姉さんは少々(?)危ない人です(汗)

源恋華は、Strawberry Panicの源 千華留です。

それでは、良いお年を!

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