インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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なかなか執筆の時間を取ることが難しい(汗)
今回は、タイトルの通りです。


夏祭り

「いや~、みんなと会うのも久しぶりだな~。

 おっ!来た来た♪」

 

修業を終えた一夏は、同じく修業を終えた仲間達と久しぶりに会えると

心待ちにして彼らを待っており、その姿が見えると手を振るが、段々と

姿が見えるにつれて顔が引きつっていった。

 

「久しぶりだな、わが友一夏よ」

「だ、弾……?

 なんか、とんでもなくパワフルになった……なぁ……」

 

どんな鍛え方をしたのか、弾は世紀末な世界にいそうな程、筋肉がついた

体となり、胸には七つの痣がついていた。顔も何故か劇画風であった。

変わり果てたと言っていい親友の姿に呆然となる一夏に追い打ちをかけるように、

底抜けに明るい声で話しかける者がいた。

 

「やっほー!い~ち~か~♪」

「へっ?ほ、ほう……き?」

「そうだよ~♪

 み~~~んなの魔法少女、箒ちゃんだZE☆」

 

姉である束と色違いのエプロンドレスで、魔法のステッキ?を手に持って

束のようなテンションでポーズをとる箒に、一夏は声を失う。

 

「はっ!他の……他のみんなは!?」

 

何が起きたのかと我に返った一夏は、まさかと思い他の面々を見やると……。

 

「さあ、準備はよろしくて?」

「我が右目に封じられし、禁断の力……今こそカイガンの時!」

「行くぞ、豚ども……」

「……(もさもさ)」

「殴り込みよ!」

「ピパポポポ……」

「なんでやねん!!!!!?????」

 

頭にマがつくお仕事をしている女性が来てそうな高級毛皮を着てサングラスを

かけたセシリア。

黒のゴスロリで固めて、体の至る所に包帯を巻いて芝居かかった仕草と

セリフの中二病をわずらったような鈴。

きれいだが、規律に厳しそうな鞭を持った軍服姿のシャルロット。

草を食べている眼帯をつけた十中八九ラウラであろう、黒いウサギ。

さらしを巻き、背中には愛江洲(あいえす)と書かれた特攻服でクサリを

ジャラジャラさせている楯無。

目を光らせて意思表示するロボットな簪。

変わり果てた面々に、思わず普段使わない関西弁で腹の底から声を出した一夏を

誰が責められよう。

 

「はっ!そういえば、明は!

 まさか、明もお前らみたいに!?」

「私はここだ……」

「っ!ああ、よかった!

 お前は、大丈夫だっtへぶっ!」

 

明も、こんな変わり果てた姿になったのかと辺りを見回すと、

いつも通りの明で安心した一夏だったが、突然その顔を両手で押さえられる。

 

「ばべらざん?だにお?(あきらさん?なにを?)」

「お前の唇は……柔らかそうだな……」

「ふぁっ!?」

 

まっすぐ自分を鋭く見つめる暗殺者の目の明に一夏は戦慄し……。

 

「それ、完全に人を“や”る目じゃねぇかっ!!!!!?

 あれ?」

 

ベッドから飛び起きて

自分の視界に入る実家の二階にある自分の部屋に、一夏はしばし呆然となる。

 

「なんだ……夢か……」

 

一夏は、ツッコミ所がありすぎる仲間達の姿が、夢であったことを心から

安堵して、カーテンを開ける。

 

「いい天気だ……♪」

 

どこまでも広がる青い空と羽ばたく鳥達の鳴き声に、改めて

夏の修業を終えて実家に帰ってきたことを実感した一夏は、着替えて

一階に降りていった。

余談だが、同じように修業を終えたユーノもツッコミどころだらけの

なのは達の夢を見ていたりした。

 

 

 

「というわけで、諸君!

 夏祭りだよ~♪」

「「「「「「「「はい?」」」」」」」」

「「「夏祭り?」」」

「はぁ~~~」

 

織斑家のリビングにて、集まった面々はカズキの唐突な言葉に首を傾げていた。

修業メニューは全てこなすことができた一夏達だったが、カズキから最終メニューを

伝えるから織斑家に集合となっていた。

輝く笑顔で言われたので、どんなぶっ飛んだものが出て来るのかと身構えていたのだが

予想の斜め上をぶっ飛ぶ言葉に、一夏達は面食らう。

もっとも千冬は大体の予想がついていたのか、深いため息をもらす。

 

「みんな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっているよ?

 な~に、修行の締めとなる最終メニューは、

 “夏祭りでみんなと楽しくどんちゃんだぜ!”だ♪

 イエ~イ!」

「いえ~い♪」

 

頭にハチマキを巻き、法被を着て、どこから見ても夏祭りへ参加準備万端

な格好のカズキと同じくノリノリな冬音に、一夏達は反応に困る。

 

「修業メニューは、全員達成できたからね。

 最後は、リフレッシュも兼ねた夏休みの思い出作りだ」

『っていうのは建前で♪

 とにかくみんなで騒ぎたいってことよ~』

「修行して強くなったと気を抜くのもよくないけど、

 逆に張り詰めすぎるのもよくないからね~。

 ガス抜きできる時にガス抜きしておかないと♪」

「心配しなくても、みんなの分の浴衣の準備はしておいたからね♪」

 

もっともらしいことを言って、カズキ自身が楽しみたいとバレバレであったが、

言っていることがあながち間違いでないので、一夏達は反論しづらかった。

そして、この計画を最初から聞いていたのか雅は、全員の浴衣を準備済みで

あり、これはもう参加するしかないと一夏達は苦笑する。

 

「ああ、そうだった。人気のない場所に行く時は、注意するのよ~?

 こっそりと“子供は見ちゃダメ♡”な愛の育みをしてる人達が、

 いるかもしれないから」

「「にゃっ//////////!!!?」」

「「ぶふっっっ!!!!!」」

「「「「「「「ぴょっ//////////////!」」」」」」」

「うん?」

「ん~~~?……ああっ!」

『おいおい、笑いながら何を言っているんだ、彼女は……』

『ラウラ以外、何を注意されたかわかっている模様』

『こうなっちまったら、しばらくあいつら妄想から帰ってこないぜ?』

『まあ、昔から雅はあんな感じだ』

 

青信号は手を上げてわたりましょうと言うぐらいな軽いノリで、

注意するようなことでないことを言われて、一夏と千冬はなのはが驚いた時の

ような声を上げ、太夏と弾も思いっきり吹き出す。

明達はそろって顔を真っ赤に沸騰させて変な声を上げ、ラウラは雅が何を言っているのか

わからず首をかしげる。

冬音は、少し間を開けて理解してポンと手を叩く。

そんなプチパニックを魔弾龍達とカズキはヤレヤレと、眺める。

 

「カズキ君と千冬は大丈夫だろうけど、一夏と太夏が明ちゃんと冬音と一緒に

 姿を消した時も気を付けないといけないわね。

 探していたらバッタリ……なんてことも……ふふ♪

 特に太夏は、うってつけの場所とか知っているから……」

 

雅の暴露に、太夏へと全員の視線が向かうが太夏は耳まで赤くして顔を逸らせる。

それが雅の言葉が真実だと証明し、一夏達は何とも言い難い空気になる。

 

「それにしても、雅さんが何を言っているのかわかる辺り、

 みんな随分と耳年増だね~」

「仕方ないわよ~。

 そういうことに興味津々なお年頃なんですもの~。

 でも、注意しておかないとバッタリ……肩を寄せ合って耳元で

 愛を囁き合うような場面に遭遇したら互いに気まずいでしょ?」

「「「「「「「「「「「うん?」」」」」」」」」」」

「確かに、自分達の他に誰もいないと思って聞かれたら恥ずかしいセリフを

 言っているのを聞かれたら……相当恥ずかしいでしょうね~」

 

“この二人は何を言っているんだ?”と冬音とラウラ以外の面々が、

カズキと雅に疑念の視線で見ていると、不思議に思ったのか二人ともラウラのように

首を傾げる。

 

「どうしたのかな、みんな?」

「大勢の人がいる中で、コッソリ子供が見るのも味を知るのも早すぎる

 熱々で甘々な恋人の愛のささやきについての注意だったんだけど……」

「何か違うことを思い浮かべたのかな~?」

 

ニタニタと笑うカズキと雅の顔は、まさにしてやったりと言うのは

まさにこういう顔であろうという顔だった。

薄暗い林の中で、浴衣を着はだけて人には聞かせられないような乱れた息を出す

自分と相手を想像した面々は、両手で顔を覆い声にならない羞恥の悲鳴を上げて悶絶した。

 

「ああ、今日の祭りでは箒の神楽舞もあるからね~♪」

「ひゃっ//////////!?」

 

すっかり失念してたのか、カズキの指摘に箒は飛び上がる。

ついでに言うと、その神楽舞を見逃してなるものかと一人のシスコンが撮影機能を

搭載したドローンやビデオカメラを何十台と用意していたりする。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おおお~!」

 

色んな食べ物を売っている色とりどりの屋台の数々に、賑やかな声。

 

「……おおお~~~!!!」

 

どこからともなく漂ってくる食欲をそそらされる香りに、太鼓の音と

ラウラは初めて見る祭りの風景に目をキラキラさせて感嘆の声を上げる。

そしてあっちへフラフラ、こっちへフラフラと、どの屋台から見て回れば

いいのかと右往左往する。

 

「お~い、ラウラ~。

 別に屋台は逃げたりしないから、一人で行かないようにな?」

「完全に気に入ったみたいだな、あれは」

 

目を離したら確実に迷子になりそうなラウラを一夏と弾は、

うちわ片手に微笑ましいものを見る目で見る。

 

『完全に初めての祭りにはしゃぐ妹を見るお兄ちゃんの目になっているぞ、一夏』

「それより、一夏!

 何か言うことないわけ!」

 

妹を見守る兄の眼差しをしている一夏へ、鈴がビシっ!と指を指して

抗議の声を上げる。

浴衣という、夏ならではのおめかしをしたのだから、何か言ってほしいのが乙女心である。

雅が用意したのは、青、ライトイエロー、白百合色、紺鼠、水色、薄紫、藍色の生地に

アクセントとして花等のデザインが少々あしらわれているシンプルなものであった。

それ故、着る者の魅力をより引き出していた。

余談だが、彼女達はサイズを測られた覚えはないのだが、雅が用意した浴衣は

ピッタリであったことを記しておく。

そして何故かラウラの浴衣はフリルがついて、ミニスカタイプであり、髪も鈴のように

ツインテールにまとめられていた。

 

「何かって、言われてもなぁ~?

 みんなが可愛いのは、今更言うまでもないだろ?

 浴衣だって雅さんが、見立てたんだから当たり前に似合っているし……」

「「「「「「…………///////////////////!!!」」」」」」

「おお~!みんな、このりんごアメというのみたいに顔が真っ赤になったぞ!」

『お前は、朴念仁なのにそういうことを言うから……』

 

何の迷いもためらいもなく、一夏は明達をかわいいと言い着物も似合っていると

ほめるという究極の不意打ちをノーガードで受けてしまい、明達は言葉を失う。

突然黙り込む彼女達に首を傾げる一夏と無邪気に笑うラウラに、ゲキリュウケン達は

何と言っていいのか分からない顔を浮かべる。

 

「なんでこいつは……こう……さぁっ!」

『彼女を落とすには、これぐらいのイケメンセリフを

 恥ずかしがらずに言えるようになる必要があると分析する』

「ますます“落とされる”子が増えていくね、こりゃ」

『いつか、今が笑えるぐらいの修羅場が起きそうだな』

「やれやれ。あの女たらしは、誰に似たんだか」

『お前だよ、太夏。

 お・ま・え』

 

妙な敗北感を覚える弾をよそに、カズキと太夏は保護者目線で一夏の

将来を心配するが、太夏は息子と変わらないことをバクリュウケンにツッコまれるの

であった。

 

「お待たせ~みんな~♪」

「うん?また、何かしたのか一夏?」

「ふふ♪ほ~んと、太夏そっくりね~」

 

遅れてやってきた冬音、千冬、雅だったが、頭から煙を上げている

明達を見て、何があったのか瞬時に察して千冬は頭を抱える。

 

「さぁ~て!

 箒ちゃんの神楽舞まで、まだ時間があるし自由行動にしましょうか♪」

「じゃあ、まずは何があるか、軽く見て回るか。

 本格的に回るのは、箒の神楽舞が終わってからにしようぜ。

 みんなで小遣いを出し合えば、結構遊んだり食べたりできるからな。

 千冬姉達は?」

「私達は私達で、酒を飲みながら楽しむから、ガキはガキ同士で

 楽しんで来い」

「そうそう、大人になったらこういう金の使い方ができちまうんだから、

 子供だからこその金の使い方で楽しんで来~い」

 

目当ての一つである箒の神楽舞までの空き時間を利用して、

祭りを見て回ろうと雅が提案すると、一夏が思案して千冬と太夏は

送り出そうとする。

そんな彼らは、飲食スペースの席に座って既に酒を手にしていた。

出店で買ったと思われる大量の食べ物をテーブルに広げて。

 

「いや~大人になってよかったことの一つが、こういう財布の中をあんまり

 気にしないでお金を使えることだよな~。

 ガキの頃から、こんな風にする大人たちがうらやましくてよ~」

『やっていることは、子供と変わらんがな。

 それに、財布は確実に軽くなっているぞ?』

「今日も色んな屋台があるね♪」

「それじゃあ、大人組と子供組でわかれるってことで……っと!

 そうだった。弾、ちょっとおつかいを頼まれてくれないか?

 エビ焼きを買ってきてほしいんだ。

 パンフを見たら、この辺りには売ってないみたいでさぁ~」

「別にいいですけど……って!

 ここから結構離れてるじゃないっすかぁ~」

「そう言わずに頼むよ~。

 おつりは、お駄賃にしていいからさ?」

 

財布の中身を気にしない大人な金の使い方で、子供のようなことをする

太夏に呆れる一夏達だったが、気持ちはわからないでもないし

バクリュウケンがツッコミをしてくれるので何も言わなかった。

そして、自分達もと言う所でカズキが弾を呼び止めておつかいを頼む。

頼まれた店は、ここから離れていたが弾はしぶしぶ引き受ける。

 

「じゃあ、よろしくね~。

 で、楯無隊員?

 首尾は?」

「万全です♪」

「さぁ~て、みんな?

 祭りを楽しもうか♪」

「「「「「「「(あっ。これ、何か企んでるな)」」」」」」」

 

弾がいなくなるのを見計らって、カズキは楯無に含みのある顔を向ける。

楯無も同じような顔をしているので、一夏達は何かあるとわかったが、

とばっちりを受ける危険があるので、あえて何も言わなかった。

 

「ここみたいですね……」

「早く行こうよ~、お姉ちゃ~ん♪」

「ほら、そんなにはしゃがないの本音」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ここだ、ここ。

 昔、箒に教えてもらったんだよな~」

 

一夏達は、適当に屋台を見て回った後、神楽舞を見るために

少々離れているが、人気がほとんどない穴場スポットに移動した。

 

「それにしても、みんな何か顔が赤いぞ?」

「ううううるさい///////!

 何でもないわよ、バカ!」

『触れてやるな、一夏。

 男も女もそういうことへの興味は、変わらないのだろう』

「そういうことへの興味とは、何だ?」

 

人気がなくなっていくにつれて、明達の顔は赤くなっていったが

目的の場所につくとガクリと肩を落として、苦笑いを浮かべる。

理由に見当もつかない、一夏とラウラが首を傾げる中、鈴の叫びが木霊した。

 

「それにしても、色んな人達がいたよなぁ~。

 カズキさんと同じぐらいの技で型抜きを競ってた人とか、

 父さんと一緒に太鼓叩きに参加してた人とか、

 母さんや雅さんと話してたのなんか、花魁みたいだったよな~」

『ああ、本当に色んな者達がいたなぁ……』

「ちょ~っと、現実逃避するには無理があるんじゃないかしら、一夏君?」

「触れたくないのは、わかるがな」

「「ははは……」」

「うむ!創生種達も楽しませるとは、祭りの力とは偉大だ!」

 

一夏とゲキリュウケンは、ここに来るまでに目にした者達を思い返し

少し遠くを見る目をする。

楯無と明のツッコミも耳に入っていなさそうだ。

その理由は、ラウラの言葉から推して知るべし。

 

 

 

「なかなか、やりますね……!」

「ふっ……この程度で驚くのかい?

 親父さん?

 あなたのことだ、まだとっておきがあるんじゃないか?」

「いいぜ、あんちゃん達……。

 だったら、この俺の最高傑作を見せてやる!

 抜けれるもんなら抜いてみやがれってんだぁっ!」

「おもしろい……相手にとって不足なし!」

「じゃあ、尋常に……」

「「勝負!!!」」

 

最早、板ではなく立体から削り出すという彫刻と言っていい

よく分からなくなった型抜きに、法被と浴衣を着た男二人が目にも止まらぬ早業で

挑戦していた。

 

「はっ!」

「ふんっ!」

「ばかな!?基本の叩きで、あそこまで出すなんてベテランでもなかなかできねぇぞ!」

「それだけ、基礎をしっかり鍛えているってことよ……」

「やるじゃねぇか、あの二人」

 

ハチマキを巻き、輝く汗をまき散らして一心不乱に太鼓をたたく

どこかの世界最初のIS操縦者とそっくりな顔をしている者と

部下にジャ〇プを買ってこさせていそうな者は、準備運動は終わりとばかりに

ギアを上げてばちを振るう。

 

「がんばれ~太夏~」

「あらあら、あなたの知り合いもなかなかやるわね~」

「夏の祭りで、おもしろいものがあるからって

 滅茶苦茶練習してたのよね~」

「ははは……」

 

そんな太鼓叩きを冬音と雅は、観覧席に座って眺めていた。

途中で知り合ったトラディショナルな肩と胸元が大きく露出した

浴衣を着た花魁みたいな女性と、乾いた笑いを浮かべる千冬と共に。

知り合った女性は、どこかの金髪な執務官が出会ったら躾けられた犬の如く

言うことを聞きそうである。

彼女だけでなく、他にも自分の知り合いと共に関係者がいるなと直感した

千冬は、現実から逃れるためにビールをグイっと飲むのであった。

 

 

 

「ふぅっ…やはり、風呂はいい……」

 

箒は、温泉宿にも引けを取らない篠ノ之神社の風呂場で神楽舞の前の

禊ぎを行っていた。

風呂場には箒しかいないため、体を伸ばすたびに小さな水音がこだまして、

箒の気分を和らげていく。

 

「……さて!」

 

湯船から上がった箒は、頬を叩いて気合を入れる。

 

「これで準備は、万端ね」

 

純白の衣と袴の舞装束に身を包み、金の飾りを装った箒は普段より

ぐっと大人びていて、神秘的な雰囲気を漂わせる美しさであった。

 

「ああ、口紅は自分で……」

「う~ん、あの小さかった箒ちゃんがこんなに立派になって……。

 私も歳を取るわけよね~」

「雪子叔母さん……」

 

感慨深く自分の成長を喜んでくれる親戚に、箒は気恥ずかしくなるが、

歳の部分に何とも言えなくなる。

この叔母はもう40代後半なのだが、30代と言われても通じてしまいそうな

若々しい外見なのだ。

そこで、ふと思う。

自分の周りには、実年齢と外見が合っていない人物が多くないか?と。

雅は言うに及ばず。冬音も大学生や千冬の姉妹でも通じるほど若々しい。

加えて友人であるなのはの母、桃子も数年間会っていないが、何故だか

最後に会った時から変わった姿を想像することができなかった。

 

「(どうしてこう、私の周りは姉さん然り色々と人間離れした人が多いんだ?

 ……ああ、ダメだ。姉さんも歳をとった姿が想像できない……)」

 

外見でなく、色んなものがぶっ飛んでいると言っていい面々に対して、箒は

考えるのを止めた――。

 

 

 

「キレイだ……」

「うん……」

「そうですわね……」

 

一夏が案内した穴場でラウラ、シャルロット、セシリアの海外組は、

始まった箒の神楽舞に見惚れて呆けた声で感想を述べていた。

 

「確かに、綺麗としか言いようがないわね」

「ええ」

「まさに剣の巫女ね」

「すごく似合ってる……」

 

同じように鈴、明、楯無、簪も言葉少なめに感嘆の声を上げる。

右手に刀、左手に扇。

一刀一閃に由来する篠ノ之剣術の型の一つ、“一刀一扇”の構え。

それは一見すると侍の出で立ちなのだが、箒は手にした刀でそんな思い込みを

両断していく。

 

シャン……

 

扇につけられた鈴が静かにそして厳かに鳴り響く。

それに合わせて刀が空を切っていく。

決して派手やかなものでもない……。大きく素早く動いているわけでもない……。

しかし、その舞を……箒を見ていた者達は目を離せなかった。

まるで、神聖な何かに祈りを……想いを捧げるような巫女の……

一人の女の子の姿に誰もが息をのみ、その後ろに花びらが舞うのを幻視した。

 

「…………」

『(さっきから静かだと思ったが、一夏も彼女達のように見惚れているみたいだな。

 これは、明もうかうかしてたらひょっとするかもな……)』

 

意外などんでん返しもあるかもと、ゲキリュウケンは神楽舞を舞う箒に言葉を失う

一夏に肩をすくめる。

 

 

 

「よっ。おつかれ」

「い、一夏っ!?み、みんなも!?」

 

一夏達は神楽舞を終えて浴衣に着替えた箒と合流するが、何故か箒は

慌てふためく。

 

「み……見たのか……神楽舞……」

「ああ……なんて言うか……すごく様になってた/////」

「お、お世辞などいい//////」

「お世辞なんかじゃないよ!」

「うむ。あれが日本の巫女というものなのだな」

 

自分の晴れ姿を知り合いに見られるのは、照れ屋な箒には言い難い気恥ずかしさが

あるのだが、それを知ってか知らずかシャルロットとラウラは箒ににじりよって

興奮の声を上げる。

 

「ほんと~絵になっていたわ~」

「一夏が見惚れるぐらいだったしね~」

「何言ってるんだよ、鈴!」

「仕方ないさ、あれは誰でも目を奪われる。

 不思議と悔しさは感じないが、あんまり箒にばかり目を行くと……」

「目を行くと何!

 手で遊んでいるくしで何をする気なんだ!?」

「もちろん、一夏の目をブスッ……と」

 

楯無も素直に箒を褒めるが、鈴はどこかジト~っとした目を一夏に送る。

それに焦った声を上げる一夏だったが、静かに笑いかける明に戦慄を覚え、

同じようにくしを持っていた簪がおしおき内容をまとめる。

 

「一夏さん!今度、ぜひとも私のバイオリンを聞いてく……!」

「あれ?一夏さん?」

「「「「「「「「「『ん?』」」」」」」」」」

 

今夜、箒に大きく差をつけられてしまったとセシリアが負けてなるものかと、

自分の晴れ姿を見てもらおうとした時、突然一夏を呼ぶ声に全員がそちらに

目を向ける。

 

「おー、蘭か」

 

祭りの本番はここからのようだ――。

 

「あっ。ユーノやなのは達も祭りに来るって言うの忘れてた」

『お前って、時たま抜けてるよな~』

「うまうま♪

 お姉ちゃんはうまくやってるかな~?」

「それは、彼がヘタレでないかによるわね~」

 

カズキは、テーブルに出店で買った大量の食べ物を囲いながら、しまったと言った声を

上げる。ザンリュウジンの反応からして、本気で忘れていたようだ。

そんなことには気を止めず、傍らで本音がリンゴ飴をペロペロしていた。

雅達と“偶然”出会った露出が大きい浴衣をきた女性の隣に座って。

 

「(本当はフェイトに渡すつもりだったけど、彼女に渡してもおもしろそう

 だったし♪)」

 

実は、この女性。

雅達と出会う前に虚と本音に出会っており、カズキのようにこれはおもしろいことになる

と感じた直感に従い、虚にあるものを手渡していた。

 

「(どどどどど……どうしましょう//////////////!!!

 ここここれって、アレですよね?

 “ナニ”がどうして、“ソウ”なって、ああで、こうするためのアレで……//////!)」

「(うおおおっっっ!!!?

 まさか、眼鏡の知的さが浴衣の美しさがここまでベストマッチするなんて!

 沈まれ~~~俺の理性ぃぃぃ!!!)」

『(初々しいこと、この上ない)』

 

勢いに押され、虚が渡されたのは家でも学校でも見つかったら、家族会議に

職員室呼び出し待ったなしとなるもので、弾が知ったら理性が木っ端微塵に

なるかもしれないものと記しておく。

 

「カズキン先~生~?

 そう言えば、うわさのおりむ~のお父さんとお母さんは、どこですか~?」

「のほほんさんや。

 世の中には、子供が知らない方がいい大人の事情ってのがあるんだよ」

「ひょっとしたら、千冬の弟好きがパワーアップするか、束ちゃんの妹大好きパワー

 が目覚めるかもしれないわね~。

 もちろん、一夏も♪」

「ふぅ……。酒がうまい……」

「ほんと、あなた達っておもしろいわ~♪」

 

いつの間にか姿を消している太夏と冬音に、カズキと雅は意味ありげな笑みを

浮かべるが千冬は、月を眺めながら酒を味わい、その様子を浴衣の女性は

楽しそうに眺めるのであった。

 

 

 

「こっそり、二人っきりにならない?なのは?」

「へ?……ふぇぇぇぇぇ////////////////////////!!!!!?」

「私らもいるのに、えらい大胆やな~?」

「ユ~ノ~~~~」

 

祭り会場のある場所で、一夏達のように遊びに来ていたユーノ達だったが、

なのはへのささやきによりその場は火山の火口のごとき危険地帯に早変わりした。

小声だったにもかかわらず、聞き耳を立てていたのかしっかりとはやて達にも

聞こえていたようで、はやては笑ってはいるが醸し出す空気はしっとりと重く、

アリサは今にも体から炎を爆発させそうである。

 

「冗談だよ、冗談♪

 みんなでちゃんと行くつもりだから」

「「なっ!?」」

「~~~~~~~!!!!!」

「み、みんなといいい一緒に!?

 はぁぅぅぅん~~~~~~~~!!!」

 

ユーノの予想外の言葉に、一転してはやてとアリサは驚愕し、なのははリンゴ飴よりも

顔を真っ赤にして頭から煙を出した。

とろけた表情で、自分の体を抱きしめるフェイトにツッコミを入れる者はいなかった。

 

「何を勘違いしてるか知らないけど、一夏が絶好の花火スポットを知っている

 みたいだから、みんなで見ようって話だからね?

 少年誌で表現できないようなことをするわけじゃないからね?」

「私は、別にみんなと一緒にそういうことをしてもいいけど?」

「「「「……え?」」」」

 

イタズラの種明かしをするような身振りで、説明するユーノだったが、

さらっとぶっ飛んだ発言をしたすずかに、なのは達共々目が点になる。

じっと見られるすずかは、意味深な微笑みを浮かべるだけであった。

 

「明かりが月の光しかない暗がりの中にいる私達を、夜空に咲いた

 花火が照らして……はぁ……はぁ……」

 

ほおを紅潮させ、息を乱して妄想の世界へと旅立っているフェイトを

連れ戻そうとするつわものはその場にはいなかった。

 

 





一夏の夢に出てきた弾は、世紀末に出てきそうな感じになっていました。
他の面々もなんで!?な姿で(笑)
ユーノが見た夢では、なのははギター片手にプリティでキュアキュアな
衣装でイエーイ♪と。
フェイトはへっぽこクルセイダー。
はやては、ラウラと同じく動物化してタヌキにwww
アリサは箒のようにキャピキャピ♪な感じの魔法少女www
すずかは、エスデスの服でドSの笑みを浮かべ(汗)


祭り会場で、カズキ達大人組と一緒にいたのは、
一体〇〇エス達なんだ~(棒読み)?

神楽舞は、もう少し描写したかったんですが、原作でもそんなに
描かれていなかったので、こんな感じに(苦笑)

虚は何をもらったんでしょうね~。

ユーノ達も浴衣ですが、すずかの妖艶さは日に日にパワーアップ
しているようで。

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