インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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お待たせしました!

残業に次ぐ残業に、引っ越しとなかなか時間を取れず、
気が付いたら前回から約4か月と今までで
一番間が空いてしまいました(汗)

季節が変わって寒くなってきましたが、最近のアニメは
単にアニメにしているだけというのを感じずにはいられない
今日この頃です。

グリッドマンみたいに、昔の作品のリメイクとか復活とか
やってくれないかな?


プールとは、海に並ぶ乙女の戦場なり

少女達は、唖然とした。

恋の戦いが本格的となる夏本番に向け、臨海学校の時とは違う新たな戦装束(水着)で、

鈍感な一夏の目をライバル達から自分に釘付けにしようと意気込んでいた。

だが、そんな意気込みなどお子ちゃまレベルだと、言わんばかりに

目の前の人物は圧倒的だった。

色んな意味で。

グラビアモデルも涙を流して悔しがるプロポーションに、

少し動いただけで見えてはいけないものが見えてしまいそうな

少年マンガ掲載ギリギリのワインレッドカラーのマイクロビキニ。

何より、そんなギリギリな自分の姿に恥ずかしさを全く感じていない大胆さ。

以前、フェイトが目覚めさせてはいけないものを目覚めさせるキッカケ

を作った、色々な意味で忘れたくても忘れられない相手……

創生種が一人、クリエス・リリスの姿に。

 

「奇遇ね~。こんな所で会うなんて♪

 フェイトは、元気?」

 

予想外すぎる相手の登場に固まる一夏達に構わず、リリスは気さくに

話しかける。

 

「あれ?どうかした?」

「「どうかした?

 じゃあ、ねぇよっっっ!!!!!

 何やってんだぁっ!!!」」

『気をつけろ。こいつは、どんな戦い方をするかわからん!』

『一瞬も油断するべきでない』

 

反応を見せない一夏達を心底不思議そうに見てくるリリスに、

一夏と弾が心の底からのツッコミを入れる。

続いて、ゲキリュウケンとゴウリュウガンが相手の未知数な力に

警戒をする。

 

「何やってんだって、

 ここはプールなんだから泳ぎに来たに決まっているじゃない?」

「どうして、“何でそんなこと聞くの?”な不思議そうな顔されるの!」

「これ、俺達がおかしいの?聞き方が変だったの?」

「え?何?

 こいつ、知り合いのお姉さんとかじゃなくて、俺達の敵なの?」

 

変な質問をされたみたいに返してくるリリスに、一夏と弾は頭を抱え

太夏も混乱する。

 

「確かに彼女は、俺達の敵だけど……本当にただ遊びに来ただけ

 みたいだね」

『おいおい、そんなバカな……』

「それが、本当に遊びに来ただけなんですよね~」

 

混沌としてきた中、カズキが苦笑いしながらリリスがここにいる理由を

推察し、ザンリュウジンも釣られて苦笑すると後ろから何者かが声を

かけてきた。

 

「あっ。お前も来てたのか」

「ええ~と……カズキさん?」

「まさかと思うけど、こいつって……」

「うん。クリエス・レグドだよ」

『『「「……はぁぁぁっ!?」」』』

 

声の主を見るとカズキは、久しぶりに顔を見た友人にするような反応を。

そして、正体を告げられた一夏達は再度驚きの声を上げるのであった。

 

「我々の計画も最終段階だと言うのに、他の二人は全然仕事を

 してくれなくてね……。

 流石にやってられなくなって、仕事をグムバに押し付けて

 リフレッシュに来たのですが、まさかリリスもいるとは……はぁ」

「なぁ~んだ~。レグドも遊びたかったんじゃない♪」

「創生種も色々大変なんだな……」

「ええ……。本当に……」

「「何であんたは、普通にしてんだぁぁぁっ!!!」」

 

遠い目をして空を眺めるレグドに、カズキがしみじみしていると

一夏と弾のツッコミがプールサイドに響き渡る。

その頃――。

グムバは、レグドに押し付けられた書類の山に肩を落として

ため息をついていた。

 

「おい、こいつも敵なんだ……よな?」

『一夏達の反応からして間違いないが、メタルエンパイアとは

 大分というか、かなり毛色が違う連中だな』

『そうなんだよな~。

 こんな感じだから、こっちも調子が狂いっぱなしでよ~』

「慌てなくても、大丈夫さ。

 本当に何か企んでいるなら、姿を見せるにしても俺達が

 遊んでいる最中に見せるはずだ。

 それに……リリスの能天気ぶりも、レグドの哀愁も本物だよ……」

「能天気って、何よ~。

 私は、遊びでも本気で遊んでいるだけよ?」

「それが、問題なんですよ……」

 

レグドとリリスの何とも言えない会話に、どんな反応をすればいいのか

わからない太夏とバクリュウケンをよそに、リリスの能天気なマイペースに

レグドは頭を押さえた。

 

「なんか、本当にカズキさんの言うように大丈夫そうだな……」

「ああ。

 押し付けられた仕事にズ~ンってなってるグムバの姿も、

 簡単に想像できるぜ」

『となると、ベルブもここにいるのか?』

『可能性は極めて高い』

『いやいや~。案外、山で子供を引き連れて昆虫採集とか

 やってんじゃねぇか?』

『本当に、どういう敵なんだ?

 創生種というのは?』

「いえ、ベルブは山でキャンプを楽しんでますよ?

 ハンモックでの昼寝が最高だとか」

 

自分にも身に覚えがあるのかレグドの気苦労に、少なからずの同情を

しているカズキの姿に、本当に戦いにはならないとわかると

一夏と弾もレグドに同情を覚え始めた。

何せ、自分達や仲間達と似た苦労の気配を醸し出しているのだから。

そんな中ゲキリュウケン達が、

もう一人の創生種であるクリエス・ベルブも同じように、

遊びに来ているのではと勘繰る。

しかし、そんな勘繰りの斜め上をいくレグドの言葉で一夏達は本気でズッコケた。

そんな一夏達を雅と冬音はズッコケることなく、アラアラと微笑んだり、不思議そうに

見るのであった。

 

「まあ、そういうわけだから。

 今日はお互いに遊びに来たってことで、戦闘は無し。

 存分に楽しみましょ♪

 ……ところで、さっきから人の形をやめてるあの子、大丈夫?

 下手な魔物より禍々しいわよ?」

 

ズッコケた一夏達を笑いながら、プールを楽しもうとするリリスだったが

先ほどから妖怪と言われても違和感のない真っ黒い“モノ”になっている

鈴を指差す。

真っ赤な口からもれるケタケタという笑いは、聞く者達の背筋に悪寒を

走らせた。

 

「しょうがねぇんじゃねぇ?

 あんな超弩級な最終兵器を見せられたら、文字通りお子ちゃまレベル兵器

 の鈴じゃ戦いにもならな、どがばばば!!!?」

 

怖いもの知らずというか学習しないというか、余計なことを口にした弾は

黒くなった鈴から、目にも止まらぬ高速拳をその体に叩き込まれる。

 

「すごいですね、彼女。

 ベムードを倒したユーノの拳よりも速いのでは?」

「……ああ~。

 鈴は、お姉ちゃんみたいなこの大きい胸がうらやましいのか」

「ひゃうん!ラ、ラウラ//////////!」

「なるほろ~。

 女の子もうらやましがるぐらい、おっきいのね、これ。

 人間の姿で人前に出るようになったのは、最近だから自分のスタイルって

 よくわからなかったのよね~。

 なんなら、そこの銀髪の子と一緒にあなたも触ってみる?」

 

レグドが鈴の黒化パワーアップに感心する中、ラウラは鈴が何故あれほど怒るのか

合点がいくと明の胸を前から揉み始める。

同じく鈴の黒化の理由を知ったリリスは、わざとなのか天然なのか

前かがみになって胸を強調するように腕を組んで、鈴の嫉妬という黒い炎に

大量のガソリンを注ぎ込む。

 

「GAAAAAA!!!!!」

「ごげばで!な、なんで俺ぇ!?

 蹴るなら、あっち……あああ!!!」

『そういう星の運命だと受け入れるしかない』

 

ヤベーイ!ぐらい真っ黒になった鈴は、怒りの矛先を弾にぶつけて踏みつける。

 

「ふっ。甘いな、リリスとやら。

 今日のプールで一番魅力的な女はお前でなく、俺の冬音だ!

 まあ、変な目を向ける奴はぶっ飛ばすがな!」

「何言ってんだよ、この親父は……。

 一番は、明だ!」

『この馬鹿は……』

『父親と息子と言うのは、変な所が似るものなのだな』

「清々しいほど華麗に、三途の川に送られようとしてる仲間をスルーしてますね。

 というか、彼らは何を張り合っているんですか?」

「あれは、自分の嫁が一番っていう男の意地の張り合いのバカな場合だから、

 気にする必要はないよ」

『って、お前は参加しないの?お前も意外とそういう所は、バカっぽいじゃん』

「千冬ちゃんが一番なのは、言うまでもないだろ?」

 

プールサイドの女王とばかりに、ポーズをとっていくリリスに太夏が反論すると

一夏がそれは違うと待ったをかける。

そんな彼が一番だと主張する背中と脇が開いた競泳水着風の白い水着の冬音と

藍色のビキニの明は、何を言っているのか分からなかったり未だにラウラに

胸を揉まれていた。

一方、仲間を助けようとせず意味の分からない張り合いをする一夏と太夏に

首を傾げるレグドに、カズキがその張り合いについて説明するが

続くザンリュウジンの言葉を皮切りに千冬の飛び蹴りが炸裂する。

 

「……なんて言うか、私にメロメロなあっちの男達もそうだけど、

 魔弾戦士も結構バカよね~」

「あらあら。男なんて基本的に、バカな生き物よ?

 だから、みんなも男のそんなバカな所にいちいち怒ってたらキリがないわよ」

 

バカとしか言い様のないことを繰り広げる男達に、リリスは何とも言えない表情になり

チューブトップタイプの黒いビキニを着る雅はいつもの笑顔で呆れて、グヌヌと

唸る箒達になだめの言葉をかける。

しかし、自分達を無視して明の魅力を太夏に主張する一夏をにらみつける

彼女達の耳に届いているかは、怪しかった。

 

「バカな生き物って言うけどさ~。

 自分の歳とか、考えない水着を着ている人よりはマシっつーの」

「さて、私はあちらにあるここの目玉であるウォータースライダーというのを

 体験するとしますか」

 

これ以上関わると自分にも飛び火すると思ったのか、レグドはその場を

後にした。

弾以上の余計なことを口にし、星座を模した鎧を纏った少年達が

黄金の技を受けたように吹き飛ぶ太夏を気に留めず。

 

 

 

「では!第一回ウォータヘブン水上ペア障害物レースの開催です!」

 

司会の女性が大きくジャンプすると、同時にプールサイドは歓声で爆発した。

具体的には、大胆なビキニに包まれた最終兵器が言葉で表現できない動きを

見た男性陣によるもので。

 

「これが、男の悲しい性というものなんですかね~。

 実に業が深い」

「全くだよ。まあ、どうしようもないんだけどね~」

 

歓声を上げて、隣やレースのスタート地点にいる女性たちから鋭い視線を

送られているのに気付かない男性達を見て、レグドとカズキは呆れた声をもらす。

浮き輪に寝そべったり、抱きかかえてプールの流れに身を任せて。

 

「そもそも何でこんなことになったんだっけ?」

「確か、お前が例の如く全員に引っ張りだこになって、プールを回っている時に

 これの参加アナウンスが流れたからだろ」

『目的は、優勝賞品と思われる』

『気になるのは、明と虎白以外は別段驚くのではなく待っていたとばかり

 目を光らせたことだな』

 

パラソルの下でくつろぎながら、イベントを眺める一夏と弾はあれよあれよと

言うままに進んだ事態に呆然としていた。

 

「十中八九、カズキさんが絡んでいるんだろうけど、いいんじゃね?

 俺達に被害は、なさそうだし」

『『「(いや、お前に一番被害があると思うぞ)」』』

 

他人事のように構える一夏に、ゲキリュウケン達は心の中でそっと

この後ほぼ確実に起きる騒動での憐みをそっとつぶやく。

それを証明するかのように、スタート地点に立つ箒達の目は獲物を

狙う肉食獣の目であった。

 

「優勝賞品は南国の楽園・沖縄五泊六日の旅ペアチケット2セットだ!

 友達と行くもよし!

 恋人や旦那さんと行くもよし!

 南国の海で爆発しろや、リア充どもぉぉぉっっっ!!!!!」

 

レースの商品を紹介する司会のお姉さんだったが、後半になるつれ

涙声となっていく。

 

「翻訳すると、

 “何で、恋人のいない私が人様の恋路を後押しなくちゃいけないんだ!”

 といったところでしょうか?」

「彼女も青春したいんだろうね~」

「それにしても、彼女達のやる気はすごいですね。

 オーラとなって見えるようですよ」

「昨日、このイベントで優勝すれば旅行先で明と同じように

 一夏と同じ部屋で過ごせれるよ~って教えたからね♪」

「なるほど。彼女達にとってこのイベントは、人生の大一番ということですか。

 しかし、商品のチケットを手にしてもペアの者が同じように彼を

 連れて行こうとしてもめるのでは?」

「何を言ってるんだい?

 ……だ・か・ら♪

 おもしろいんじゃないか~。

 今もどうやって相手を出し抜こうかと画策してるかと思うと……くくく」

「表面上は協力しているように見えて、一番の敵は隣にいるペアとは……

 いやはや~。

 しかも、そうなるように仕向けられたのも気づいていないようですし、

 恋は盲目というのは、こういうことを言うのでしょうか?

 ですが、あなたの気持ちはわかりますね。

 確かにこれは、見てるだけでおもしろい」

「へぇ~。君もいける口のようだね~」

『似た者同士だな、お前ら』

 

聞いたら、顔が引きつるのを止められないような会話を

笑ってするカズキとレグドに、ザンリュウジンのツッコミがプールに

流れていった。

 

「何をやっているんだ、あいつは……」

 

その光景を眺めながら、千冬は関われば疲れるだけだとツッコミを放棄して

プールサイドでくつろぐことを決めた。

 

「おい、バクリュウケンよぉ……。

 これ以上、目の前のバカ共が冬音の水着姿を見て騒いだら、

 一秒間に一億発の光速拳を撃てそうだぞ、俺は……ヒヒヒ」

『いや、バカはお前もだからな?』

 

何故か、雅と共に出ている冬音に歓声を上げている男達にギラついた

笑みを浮かべる太夏(バカ)のことも気に留めず、千冬は夏の青空のまぶしさ

を堪能するのであった。

 

「それで……何で私のペアがお前なのだ!!!」

「あぶれちゃったんだから、仕方ないじゃない~」

 

スタート地点で各ペアが準備運動を進める中、箒はどうしてこうなったと

叫び声を上げる。

それをペアである“リリス”が、なだめる。

ちなみに、参加しているメンバーは次のようにペアを組んでいる。

 

・明、虎白

・セシリア、鈴

・シャルロット、ラウラ

・楯無、簪

・雅、冬音

 

この水上レースがペアで行うものだとわかると、

自然な流れで二人一組のペアが組まれていき、気が付いたら自分一人だけ

あぶれている状態になった箒だったが、それならおもしろそうだからとあれよあれよと

同じように参加していたリリスとペアを組むことになったのだ。

勢いというのは、恐ろしいものである。

 

「千冬さんがいてくれれば……」

「まぁまぁ~いいじゃない、別に。

 私と組んで正解だと思うわよ?アレを見ると」

 

頭を抱えてうずくまる箒に、リリスが指さしたのはペアを組んだ

仲間達の姿だったが……。

 

「(これぞ、まさに天から与えられた逆転のチャンス!

 明がいない二人きりとなれば……)

 えへへ……」

「だ、大丈夫か虎白?よだれが垂れてるぞ……?」

「(邪魔者がいない二人きりの旅行ともなれば、夏の解放感も相まって……

 ああ!いけませんわ……///////////////!)」

「(南国の旅行……しかも二人旅なら、いくら唐変木な一夏でも……ヒヒヒ)」

「(恋人の目が届かない場所で、男と女が同じ屋根の下……。

 僕なんだか、ゾクゾクしちゃうよ~)」

「シャ、シャルロット……その笑みは何だか怖いぞ……」

「う~ん。お風呂でバッタリ混浴っていうのは、お約束すぎるし……

 いっそのこと寝ている間に、布団にもぐり込もうかしら?」

「みんな考えていること顔に出すぎ……。

 (こっそり、ペアルックみたいなものを買おう!)」

「みんな、張り切ってるね~。

 私達も負けないよ~」

「ほんと、面白くなりそうね~」

 

一部を除いて、捕らぬ狸の皮算用の例として用いられそうなぐらいの皮算用を

している面々に、箒は何も言えなくなる。

各々の妄想に浸っている中で、優勝したらどうやって相手を出し抜こうかと虎視眈々と

画策しているのが手に取るようにわかった。

 

「ね?

 勝っても、後々出し抜く必要のない私と組んで正解でしょ?

 まあ、あれはあれで見てておもしろいんだけど♪」

「……そうだな」

 

後半の部分は、聞かなかったことにして箒はレースに集中することにした。

 

「では、ルール説明です!

 この巨大プールの中央にある島にペアと協力して渡り、フラッグを

 取れば優勝です!

 島へはコースを渡っていきますが、途中でプールに落下しても

 失格にはなりません。

 ただし、スタート地点からやり直しとなります。

 そして!途中に設置されている障害物は、ペアと協力しなければ

 クリアできないものとなっており、ペアの絆が試されることとなります。

 更に、他ペアへの妨害もアリなので相手の動きにも注意が必要です!」

 

司会のルール説明を聞きながら、各々はコースを観察していた。

ゴールとなる中央の島は、ワイヤー宙づりになっておりショートカットも

簡単にできないようになっていた。

 

「よく考えられているわね~。

 で・も♪

 あなた達や私にとっては、大した問題じゃないんじゃな~い?」

「無論だ……!

 この程度のレースなど、カズキさんの修業に比べればままごとにもならん!」

 

コースを眺めてリリスは箒を煽るが、背後に炎を燃やしたかのように

箒は激しくリリスの言葉に同意した。同じく、明達もうんうんとうなづく。

バランス感覚を鍛えるために、不安定な場所を時には水を入れた桶を持って

駆け抜けるような修行をしてきた彼女達にとって、この程度の障害物コースなど

何の障害にもならなかった。

 

「……とまぁ~、ここまでは全員考えつくだろうね~」

「つまり、彼女達の最大の障害となるのは……」

「それでは、参加者のみなさん!

 位置について……よ~い……スタート!」

 

プールに流れながら、のんびりレースを眺めるカズキとレグドが

呑気に歓談していると競技用のピストルの音が響き、レースが開始された。

二十四名十二組のペアは一斉に――。

 

「はっ!」

「よっ!」

「っそぉ~い!」

「っ!」

「「「「きゃあああっっっ!」」」」

「参加選手そのものということですね」

 

走り出すことなく、足払いとすぐさま妨害を行うが素人の不意打ちなど

明達に通じるはずもなく、容易くかわされた挙句カウンターで逆に

プールへと落とされてしまう。

落下ペアの悲鳴を気に留めず、明達は走り出す。

 

「くっ……」

「待ちなさーい!」

 

妨害を仕掛けてきた面々も遅れながらも、先を行く彼女達を追いかけていく。

 

「さぁさぁ!

 開始直後から波乱のスタートになりましたが、そんな妨害等なんのそのと

 華麗にかわして進んでいく先行グループですが……速い速い!

 ほとんどが女子高生のようですが、その正体は裏社会を暗躍する

 忍者か!スパイなのかぁっ!」

「あながち間違ってないよな~」

「滑りやすい足場に、妨害ありとか、普通じゃしないような訓練をしている

 あいつらに有利すぎだろ」

 

不安定なコースをものともせず、サーカスかと見紛う曲芸じみた動きを

見せる明達に司会のお姉さんの解説も熱を帯びていく。

もっとも、一夏と弾はこれぐらい当然と周りの興奮に流されることなく

観戦する。

 

「落ちなさい、明!」

「甘いぞ、鈴!」

「虎白さん、覚悟!」

「おわっ!?」

 

レースが中盤になると、先頭グループで動きが出始めた。

このまま行くと、アクロバティックな動きが得意な明に持っていかれると

鈴とセシリアのコンビが勝負を仕掛けてきたのだ。

 

「相手してもらうわよ、創生種さん?」

「あら~?

 私、体を動かすのは苦手なんだけどな~」

「この隙に!」

「そうは問屋が卸さない……!」

 

同じく、楯無・簪ペアもリリス・箒ペアに仕掛ける。

特にリリスは実力未知数ということもあり、明に次ぐ強敵と楯無は判断し

ここでプールに落としてしまおうと猛攻する。

しかし、体を動かすのは苦手と言うリリスは、そんな楯無の攻撃を軽々とかわしていく。

先に行こうとする箒もそれを阻む簪も、その光景に目を奪われる。

観客のボルテージも明達の戦いに比例して、グングンと上がっていく。

具体的に説明すると、一部の者達の“あるもの”が激しく揺れ動くのを

見た男性観客達によって。

 

「よし!みんなが足を止めている今がチャンスだよ、ラウラ!」

「チャンスなのは同意だが、こういうおいしい所を狙う奴に限って

 予想だにしない事態に遭うと兄様が言っていたのだが……」

「それは、他にも忘れちゃいけないことを見落としているからじゃないかしら?」

「わっ!雅さん!?」

 

荒れ模様になっている隙にゴールを目指すシャルロット・ラウラのペアは、

背後に突然現れた雅・冬音ペアに驚愕する。

特に、冬音は千冬と違って本音のようにほわ~んとして運動ができるといった

感じがしないのに、訓練した自分達についてこれるとは思っていなかった。

雅に関しては……考えるだけ無駄な気がして、その辺りは雅だからという理由で

シャルロットは無理やり自分を納得させた。

 

「や~ね~、シャルロットちゃん。そんな幽霊を見たような驚き方をして~」

「えっ、あっ……い、いや~。その~」

「がんばろうね、ラウラちゃん♪」

「はい、母上!」

「「「待てぇっっっ!」」」

「おお~っと!

 先行組が勝利のために強敵を落とさんとしている間に、

 初っ端で落とされたペア達が追い付いてきたぞ!」

 

雅の追い付きに、シャルロットが引きつった笑みを浮かべる傍らで

冬音がラウラと呑気な会話をしていると、司会の実況に先行組は

はっ!と後ろに目をやる。

明達もかなりのペースで進んでいたのだが、互いに落とそうとした

タイムロス以上に後方組の執念が怒涛の追い上げとなっていた。

 

「優勝は、私のものだぁぁぁっ!」

「人生の勝ち組への切符をよこせぇっ!」

「南の島で二人っきりの旅行、二人っきりの旅行、二人っきりの旅行、

 二人っきりの旅行、二人っきりの…………旅行!!!」

「こうでもしないと、あいつは手を出してこないのよ!!!」

「追い上げ組は、年齢を気にする年頃なのか!

 凄まじい迫力だっ!!!

 というか、どいつもこいつも勝ち組なのかよ、こんちくしょ!!!」

「約一名は、年頃なんて歳じゃないけどな……」

『おい、太夏。雅がこっちを見ているぞ』

 

明達と同じ、いや。

明達よりも“ちょっと”大人な分、似たような理由で参加しているペア達の意気込みは、

彼女達を一瞬たじろかせる程であった。

そんな彼女達に目をくれず、雅はコースから遠く離れて観戦している

太夏を見ていた。

いつもと変わらない微笑みを浮かべているが、どこか寒気を

感じさせる笑みであった。

念のため補足すると、太夏の現在いる位置は人間の聴覚でレースコースから

言葉が聞こえるような位置ではない。

 

「ふっ……その意気やよし!

 だったら、こっちも勝つために手段は選ばないわ……とおりゃっ!」

 

瞬く間に自分達に追い付き、プールに落とそうとしてくる相手に

鈴は不敵に笑うと猫のようにしなやかに動き、逆に彼女達をプールへと落とす。

 

「甘いわっ、小娘!」

「勝つためなら、何度でも私達は蘇るっ!」

 

プールに落とされたペアは、すぐさまスタート地点に戻るべく素早く水面から

上がるが、妙な解放感を覚える。

 

「勝負に勝つ鉄則は、相手の嫌がることをすることにある……」

「「きゃあああっっっ////////////!!!?」

 

鈴は、相手から奪い取った水着のブラを指で意味ありげな笑みを

浮かべて回すのと同時に、会場は歓声と悲鳴で爆発した。

 

「こういうハプニングもプールならではというか、お約束という奴

 なんですね」

「鈴の奴もやるね~。

 水着の女性相手に、これ以上ないぐらいの有効な攻撃だし、何より

 水着をはぎ取っちゃいけないルールなんてないから反則にもならない」

『てか、これで失格とかにしたら観客が黙ってないだろしなぁ~』

「元々型にはまらない考えのできる子だったけど、一体誰に影響を

 受けたのやら~」

「私の目の前に、影響を与えたと思われる

 こういうゲームで勝利の為なら手段を選ばないような人が一名いますけどね」

『どっからどう見ても、お前の影響じゃねぇか』

 

手に持つはぎ取った水着を観客の方へ放り投げた鈴は、

キラーンと目を輝かせて他の追い上げ組の水着を奪おうとするのを

レグドとカズキは、プールの流れに乗ってまったりと眺める。

ザンリュウジンが言うように、鈴も一夏のように色々とカズキの

影響を受けているのであろう。

 

「へっへっへっ~。

 さぁ~て……次はあんた達の水着を頂コウカァ~?」

「鈴さん!目的が変わってきてませんか!?」

 

あらかた、他のペア達の水着を追いはぎの如く剥ぎ取りプールへと落としていった

鈴は、新たなるターゲットを明達に定めるがその目は異形のモノのように

怪しく輝かせており、セシリアが引き気味に驚愕の声を上げる。

 

「揺レルダケノ無駄ナ脂肪ノ塊ナンテ、別ニ隠ス必要ナンテナイノヨ……

 ヒッヒッヒッ……」

「あららら~。

 大変ね。あれは、“持っている”女性の水着をはぎ取る妖怪“水着剥ぎ取り”。

 嫉妬に支配された持たざる女性がなってしまう、古の妖怪よ~」

「いや、そんな妖怪いるわけないだろ」

 

異形のものと呼んでも差し支えのない姿の鈴に、明達は及び腰となるが

呑気に楽しそうな声で場を茶化すリリスに、箒のツッコミが冷静に入る。

最早、ペアであるセシリアとそうでない者の区別もついていないのでは?と

明達が鈴を警戒していると……。

 

「ゴールゥゥゥ!!!

 優勝は、見た目は全然そんな感じがしない雅・冬音の保護者ペアだぁっ!」

「「「「「「「「「……えっ?」」」」」」」」」

「あら~?」

 

何の前触れもなく、響き渡るレース終了の合図に明達は間の抜けた声を

上げる。

彼女達が目をやると、ゴール地点でフラッグを手に

雅と冬音が慎ましく観客に手を振っていた。

ゴール手前付近下のプールには、マッチョ・ウーマンと表現できる二人の女性が

浮いていた。

後で、その二人がオリンピックでレスリング金メダルと柔道銀メダルの武闘派ペアだと

知って明達は再び驚くこととなる。

 

「結局、優勝は雅さんと冬音さんか」

「ほとんど、雅さん一人でやったようなもんだったけどな。

 母さんは雅さんの後をついていっただけで」

『息切れ一つせず、訓練を受けている彼女達に易々とついていくのものそうだが、

 最後のあれはすごかったな。

 全員が鈴の暴走に釘付けになっている間に、通り抜けた

 オリンピックペアへ一瞬で追い付いた雅が手刀で気絶させたのは』

「それだけどさ……一夏。

 雅さんが手刀を振り下ろしたのって、見えた?

 俺、腕を振ったようにしか見えなかったんだけど」

「う~ん、俺も腕が一瞬ブレたと思ったら、あのオリンピックペアが

 落ちてたから、何をしたのか全然見えなかった……」

『彼女が最初から全力で勝ちに行った場合、参加選手全員がプールに

 落とされていた可能性は極めて高い』

『何度目かわからない今更な疑問なのだが……本当に、彼女はただの一般人なのか?』

「「さ、さぁ……?」」

 

ある意味予想通りの予想を裏切る結果に、一夏と弾は苦笑いを浮かべる。

雅が、最後に明達でも正面からぶつかったら苦戦する武闘派ペアをあっさりと

落とした動きは、人並外れた鍛錬を行っている一夏と弾でも終わってから、

何をしたのか推測するしかないぐらいの速さで、見えなかったも同然であった。

改めて雅の底知れなさに、一夏と弾はこれ以上考えても無駄と引きつった笑みを

するしかなかった。

藪をつついたら蛇というレベルでないとんでもないものが飛び出てくるのは、明白である。

 

「そう言えば、このレースの賞品だけどさ。

 冬音さんは、太夏さんと行くとして雅さんは誰と行くんだ?」

「あっ。言われてみれば、そうだな」

「ふふふ♪」

 

一夏と弾が何を話しているのか聞こえているのか、わかっているのか、

雅はがっくりとうなだれている明達を尻目にいつものように微笑むのであった。

 





ギリギリな姿であるリリスの水着姿は、「ゆらぎ荘の幽奈さん」に登場する
荒覇吐 呑子の水着姿です。
自分のスタイルは破壊力あるんだな~とは、思っていますがあまり自覚はなく。

レグドの人間の姿は、ようやくいい想像ができるキャラが見つかりました~。
「はたらく細胞」の樹状細胞をロン毛にした感じです。
他の細胞の黒歴史をアルバムにしている辺り、カズキと似ていて
気が合いそうなのでwww

太夏が吹き飛ばされた黄金の技は、お好みのものを想像してくださいwww

頭の中のイメージを文章で表現するのは、やはり難しい。
ですが、楽しいです。やっぱり。はい。

これからも、更新速度は、遅めですが完結までがんばっていきます。

感想・評価、お待ちしてま~す。

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