インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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間が空いてしまい申し訳ありません。
資格の勉強やら仕事やらで時間が取れず、
意欲もなかなか出なく(汗)

まあ、書き出せたら筆はのるのですが、それまでがまた。


夏の風物詩

「おのれ~貴様も余から明を……」

「この度は、本っっっ当にすいませんでしたぁっ!!!」

 

不敵に笑って話し合いという脅迫をするリュウジンオーに、

龍士はボロボロにされてもまだ、状況を理解せず反論しようとするが

サスケによってその頭を地面に叩きつけられる。

 

「このバカには私どもが、よ~~~く言って聞かせますんで!

 何とぞ……何とぞ!!!」

「サスケ……貴様~!」

「いい加減に相手をよく見ろ、このバカっ!

 この方達は、魔弾戦士……つまり魔弾龍様に選ばれた存在なんだぞっ!!!」

「魔……弾りゅ……。な……なにぃぃぃっ!!!?」

 

強制的に土下座のような姿勢をとらされた龍士は、サスケをにらみつけるが

ようやく自分の前にいる者がどういう存在か理解し、驚愕する。

 

「すっげぇ、驚いてますね」

「どうなってんだ、バクリュウケン?」

『カズキが言っていただろ?

 私達、魔弾龍は最高位の龍だと。

 土地神やそういう類の存在は、人間以上に位と言うものに敏感なんだ。

 つまり、奴らにとって私達魔弾龍やお前達魔弾戦士は、雲の上の存在

 と言っていい』

『知らぬ内に、とんでもない相手にケンカを売ったのだと

 ようやく理解した模様』

 

離れた場所から、リュウジンオーの前で行われるコント劇場に

マグナリュウガンオー達は呑気な声をもらす。

 

「それで?返事は?

 大人しく謝るの?

 それとも、俺達にメンドくさいことをさせるの?

 ねぇ、どっち?」

「はいぃぃぃ!

 すいませんでしたぁぁぁっ!!!

 ほら、ぼさっとしてないで、てめぇも頭下げて謝れっ!

 地べたに、グリグリこすりつけて!」

「ず、ずびまぜんでじた……」

 

ザンリュウジンを肩に担いでポンポンと叩きながら、朗らかに

聞いてくるリュウジンオーに、サスケは再び地面に頭を叩きつけて

謝罪し、同じく龍士の頭を地面にこすりつけて謝らせる。

強制的に地面とサスケの手のサンドイッチにされた龍士は、

しぶしぶといった感じで、謝罪を口にする。

 

「やれやれ~、これで終わりだな~」

「ですね~」

『ふと思ったのだが……』

『どうした、ゴウリュウガン?』

 

このバカらしい騒動もようやく終わりかと、バクリュウケンドーと

マグナリュウガンオーが胸を撫でおろすと、ゴウリュウガンが何かに

気が付いたようにつぶやき始める。

 

『将来的にカズキが、千冬と結婚したら一夏達と家族になる……』

『千冬が聞いたら、照れ隠しで吹き飛ばされるが……、

 そうなるな』

『それがどうかしたか?』

『いつか、一夏に子供ができて今回みたいなことが

 起きたらどうなるのだろうな~と……』

「「『『あっ』』」」

 

ゴウリュウガンのつぶやきに、何だと感じるゲキリュウケンとバクリュウケン

だったが、続く言葉に弾と太夏共々ゴウリュウガンが言わんとしていることを

察する。

 

『言うまでもなく確実に親バカになるだろうし、太夏も同様に孫バカになるのも同様。

 息子であれば、相手もろともからかうで済むだろうが、

 娘であったら……まず間違いなく、今回程度では済まない……』

「「『『………』』」」

『一夏が姉離れした反動から千冬も姪っ子のことを一夏に負け劣らず、

 可愛がるだろうし、ましてや子供には何かと甘いカズキも義弟

 と言う身内の子供を可愛がらないはずがない。

 あの土地神みたいな奴に手を出されたりしたら……』

「ちょっと待て、おい。

 もしも、そんなことになったら雅さんも加わるだろうし、下手したら

 冬音も……」

「明の奴だって、黙ってねぇぞ……」

 

ゴウリュウガンが気づいてしまった“もしも”の可能性に、

その場にいる全員が震え上がった。

そんなことになったら、息子と一緒に真っ黒なヤベーイ姿になるであろう

太夏自身でさえ、途中から他の家族の暴走に恐れおののく姿を容易に想像

できてしまった。

 

『一人だけでもキレたら手に負えそうもないのに、全員がそろって

 怒り狂ったら……沈むな、日本』

『バクリュウケンの言葉を否定できる要素を見つけられないな……。

 というか、日本が沈む程度で済むのか?』

「「『『……』』」」

 

ゲキリュウケンの言葉に誰も言葉を発しなかった。

真っ黒な姿で暴れまわるであろう親ばか親父に、纏っている空気だけで全てを斬り裂ける

であろう伯母ばか、あらゆる搦め手で目標を仕留める母親忍者、

エグイ笑みを浮かべながら相手の黒歴史をエグッていく伯父。

更に、怒ったらどんなことになるか全く予想ができない祖母二人(っ!殺気!?)

……ではなく、祖母と優しい“お姉さん”(冷や汗を流して)。

考えただけで、相対したら裸足で逃げ出すか土下座して許しを請うかな相手に

止めたり、戦う等の選択肢はなかった……。

 

『まあ、今回みたいなことでなくても、彼氏ができても

 とんでもないことになりそうではある』

「はは……ははははは!

 やめようぜ、ゴウリュウガン♪」

「そうだぜ!まだ、娘ができるってわけじゃないんだし、

 息子が生まれるのを期待しようぜ!

 そん時は、そん時だ♪」

 

ゴウリュウガンの言葉を弾と太夏は笑い飛ばすが、その声は引きつっており、

誰から見ても現実逃避なのは明白だった。

何故なら、可能性というのを考えるのなら息子と娘の両方が生まれる

かもしれないのだからだ。

 

「お~い~。

 ちゃんと“話し合った”ら、分かってくれたから帰るよ~」

『“話し合い”ね~』

「何、突っ立ってんだよ~」

「「『『『……はぁ』』』」」

 

先のことを考えて頭を悩ませていると言うのに、知ってか知らずか

呑気な声を上げるカズキと一夏に、彼らは深くため息をつくのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(どうして、こんなことになった!?)」

 

織斑一夏は、自分でも人生で一番だというのがわかるぐらい

混乱していた。明を取り返し、後はゆっくり過ごすだけのはずだったのに。

 

「い、一夏……///////////////」

 

頬を赤くして呼吸も興奮気味で早くなっている明は、一夏と向き合いながら

彼の膝の上にまたがっていた。

 

「(そ、そうだ/////////。

 こここここれは、全部おばば様の所為なのだから仕方ないんだ!

 断じて、自分からやっているわけではない////////!!!)」

 

時は、一夏達が明の屋敷に帰ってきた所まで遡る――。

 

彼らが全員無事に帰ってきたことに、待っていた者達は大喜びし、

祝いに夕食で騒ぐ流れとなった。

そして、片づけの中おばばにこっそりと呼び出された明は、

同じく一夏を一人明の部屋に呼び出しているから、二人きりとなって

“男”と“女”になってこいと親指を立てられたのだ。

無論、明は顔どころか体中を真っ赤にして抗議するが、そんな明を見て

おばばはニヤリと笑いながら、もう遅いと告げる。

夕食で、明が飲んだお茶にこっそりと想い人のことを考えると

胸の高鳴りが止められなくなる秘薬を入れたと、イタズラが成功したような

笑みで言われ、明は唖然となる。

たたみかけるように、一夏の暴走の瘴気?に当てられたからとゲキリュウケンも

カズキの元に預けられており、本当に二人っきりになれると教えられ、

混乱したまま明は自分の部屋へと送り出された。

 

「よう、明。おばばさんから、用があるって聞いたけど、

 どうしたんだ?」

「ひ、ひやっ!べ、別に//////////

 (どうしたと言うのだ!心なしか、一夏が煌めいているように見える!?)」

 

部屋に入るなり明は、雷に打たれたような衝撃に襲われる。

いつも通りと変わらないはずなのに、一夏の言葉や笑みに少女マンガの

エフェクトみたいなフィルターがかかっているように感じて、明の体温は

一気に上昇する。

 

「(これが、おばば様の言っていた秘薬の効果か/////!?

 こ、こんなのとても耐えられな……)」

「あれ?なんか、顔が赤いぞ。風邪か?」

 

頭どころか体中から湯気が出そうな程の昂ぶりに、明はこんな状態で一夏に

触れられたりでもしたら正気でいられないと直感する。

だが、当の一夏はそれを知ってか知らずか部屋に入って立ったままの

明の挙動不審を風邪かと心配して、おでこを触って熱を測ろうとする。

 

「ど……どひゃぁぁぁっ/////////!!!!!」

「うおっ!?」

 

どうにかなってしまう所を、何の心構えもせずにいきなり触られたものだから、

明は思わず一夏の足を払いそのまま、馬乗りになる。

流石に意表を突かれたため、一夏も一瞬呆然となるが今の体勢がヤバすぎるもの

だと理解する。

 

回想終了。

 

「おい、明///////!

 早くどいてくれないと色々とマズい/////////////!」

 

何せここには、友人達だけでなく双方の家族もいるのだ。

こんな“子供には見せられないよ~♪”な所を見られたら、

弁解やら何やらがとんでもなく大変なことになる。

 

「私がくっつくのは、そんなに迷惑か////////////?

 (どうせ、この変な気持ちは薬のせいなんだ!

 勢いでやってしまえ//////////!)」

「迷惑なんかじゃないけど……そうじゃなくて!」

「ほ、本当はもっとこうやってお前を感じたいぞ///////////?

 やっぱり、こんな女らしくない女にこんなことされても嫌か?

 一応、女らしい所もあるんだぞ//////////!」

「おいぃぃぃっ///////////!!!」

 

明は一夏に乗ったまま、上着をはだけて下着姿を一夏に見せつける。

当然の如く、一夏も明以上にオーバーヒート寸前となり、顔が真っ赤になる。

 

「どどどうなんだ//////////!」

「どうも何も/////////////!!!

 好きな女にこういうことされて、嫌な男がいるわけねぇだろう!

 それに、明は可愛い女の子だよ////////////////。

 今だって、理性が負けそうでマジでヤバイんだよっ!!!」

「そ、そうか……////////////////////」

 

馬乗りのまま押し合いをしている内に下着がズレて、丸見えになっているのにも

気付かないまま明は黙り込み、二人は無言となる。

明が一夏にまたがったまま……。

ほんの少し開いたドアから、覗かれているのにも気づかずに。

覗いていた者は、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらその場を後にした。

同じように覗いて、二人のやりとりにオーバーヒートして

頭から煙を吹き出している者の声がもれないようにその者の口を塞ぎながら。

 

 

 

「うん?どうしたんだ、二人とも?

 顔が真っ赤だぞ」

「な、何でもないぜ千冬姉////////////」

「そ、そうです!何でもないです///////////////!」

 

しばらく抱き合っていた一夏と明は、時間が経つにつれ頭が冷えたのか

自分達の現状を理解し、服を整えて居間へと戻った。

だが、まだ興奮は冷めきれていなかったのか顔は赤かったようで、

居間でくつろいでいた千冬に気遣われる。

そんな、一夏と明の言葉と反応に、他の者達は目をギラリとキラめかせる。

 

「私達が、目を離した隙に二人っきり……」

「しかもお顔は、これでもかと言うぐらい真っ赤ですわ」

「そんな顔で、何もないって誰が信じるって言うのよね……」

「ほんと、油断も隙もないよね~」

「どうしたのだ、みんな??」

「私達やご両親もいるのに、大胆ね二人とも♪」

「夏……それは、若き青い衝動を開放させる季節。

 あり得ない状況だからこそ、その快感は計り知れない……」

「ラウラ以外、目が笑ってねぇ~」

『関わると危険』

 

目から光を消して影を差した笑みを浮かべながら、IS学園の少女達は

一夏と明に視線を突き刺す。

夕食の片づけの手伝いやお風呂等の準備を手伝っていて、一夏と明が姿を消して

いたことに気が付かなかったのだ。

そんな彼女達にラウラは首を傾げ、弾は爆発寸前な爆弾を解体するようにと

言われたみたいに戦慄するのであった。

 

「で?何かあったのか、とっとと説明しろ。

 そこで笑っている変態宇宙人」

「…………~♪」

「ふふふ♪」

 

生徒達の嫉妬に呆れながら、千冬は全てを企てたと見て間違いない

カズキにこの空気を何とかしろとばかりに説明を投げる。

投げかけられた本人は、さっきからケケケと悪魔の笑みを浮かべており、

心底この状況を楽しんでいるのは誰もが見て取れた。

同じく雅もこの状況を楽しんでいた。

 

「おお、ここにおったか明」

「おばば様/////////!」

「かっかっか!

 そう身構えるでない。いや、実はさっきこっそりお前に飲ませたと

 言った薬だったが……すまん!

 入れたのは、ただの風邪薬じゃったわ~」

「え……?風……邪薬……?」

「うむ。

 健康な者が飲んでも、多少心臓がバクバクするぐらいじゃから

 問題はないじゃろ。

 いや~“うっかり”入れる薬を間違えてしまったわ!

 かっかっか!」

 

イタズラが失敗したのにおばばは笑い声を上げるが、明の耳には

入っていなかった。

 

「ただの風邪……薬?

 えっ?それじゃ、さっきのは薬の所為じゃなくて……」

「明が、素でやったって言うの///////////////////!?」

「~~~~~~~~~~~////////////////////////////////!!!!!!?」

 

おばばの言葉に呆然となった明は、カズキの傍で頭から煙を吹き出して倒れていた

虎白がガバッと顔を上げて口にした言葉で、自分が何をしたかを理解して

頭が沸騰する。

 

「お、おい薬って……」

「~~~/////!!!

 記憶を失えっっっ~~~!!!!!」

「ぼべらばっ!」

「ほう~……。

 つまり、記憶を抹消したくなるようなことをした……と?」

「ああああああんな、恥ずかしいことを……

 やっぱり、明はムッツリスケベェェェッだぁぁぁぁぁっっっ///////////////////!!!」

「「「「「「一夏(さん)?」」」」」」

「かっかっかっ!

 “たまたま”間違えたと言うのに、それ以上に面白いことになったわい♪」

「でしょ♪」

「青春よね~♪」

「いや、こうなるってわかっていたら“たまたま”じゃないんじゃ……」

『言うだけ無駄である』

『そんなことを気にする者達ではない……』

『いいじゃんいいじゃん♪

 面白けりゃよ~♪』

 

どういうことか分からない一夏は、聞く間もなく羞恥で真っ赤になった明に

ぶっ飛ばされ、記憶を(物理的に)消されにかかる。

それだけでなく、千冬と再び頭からやかんのように煙を吹き出した虎白の言葉で、

再び十字架に磔にされるようだ。

若者達のそんな青春の一コマを、画策したであろう元凶達は高みの見物とばかりに

存分に堪能し、弾はツッコミを入れるもゴウリュウガンとゲキリュウケンによって

無駄と諭される。

そして、ザンリュウジンもまた元凶達と共に目の前の青春劇場を堪能するのであった。

 

「兄様兄様。さっきから、父上と母上の姿が見えないのですが?」

「そう言えば、そうだね」

「あの二人なら、自分達の部屋に戻っているわよ」

「実は、さっき母上がこれを飲んだら顔を赤くなって、父上を探しに

 行ったのですが……」

「あっ。

 それは、最初に明に飲ませようとした想い人を見ると興奮する薬じゃな」

 

一人ラウラがキョロキョロと太夏と冬音が、どこに行ったのかと

探すと雅から部屋にいると言われるが、続いてわかったおばばの言葉に

その場にいた全員がビシリと固まる(記憶を消されにかかっている一夏を除く)。

 

「冬音もああ見えて、太夏に負け劣らず……ふふふ」

「二人の部屋ってさ……結界が張ってあるんだよね~。

 部屋の中の音が、外に漏れないようにする風の結界……」

 

雅がポツリとつぶやき

カズキが思い出したように、太夏と冬音の部屋に仕込んだものを言うと、

二人が今しているかもなことを察し、みるみる全員の顔は真っ赤になる。

赤くなっていないのは、あちゃ~となっているカズキとおばば、

変わらず楽し気に微笑む雅に、意識をきれいな河に飛ばされそうになって

何が起きているのかわからない一夏ぐらいである。

 

「試しに結界……解いてみる?」

「「「「「「「「「「解くなっ////////////////////!!!」」」」」」」」」」

『あれ?てことは、バクリュウケンの奴……』

『我々には、どうすることもできないっ!』

『無事を祈るばかりである』

「何故、みんな顔を赤くしているのだ?」

「ラウラちゃんは、気にしなくていいのよ~。

 強いて言えば、千冬が持っている宝物が一夏とラウラにも

 できるかもしれないってことよ♪」

「教官が、持っている宝物?」

 

ポリポリと頬をかきながら、太夏と冬音が何をしているか

確認してみるかと聞くカズキに、年頃の若者達は顔を朱に染め声をそろえて

異を唱えた。

何が起きているのかさっぱりわからず首を傾げるラウラに、雅は

微笑みながらうれしいことが起きるかもしれないと意味ありげに微笑む。

後日、この時何が太夏と冬音の二人が何をしていたのかとラウラから

尋ねられたクラリッサが

素っ頓狂な声を上げ答えに戸惑うのは、ご愛敬である。

 

 

 

『私はただの腕輪私はただの腕輪私はただの腕輪私はただの腕輪

 私はただの――』

 

一方、件の太夏と冬音の部屋でバクリュウケンは、壊れたレコードのように

同じ言葉を一心不乱にボソボソと言い続けて、自分に言い聞かせていた。

そんな自分のつぶやきどころか、存在すら忘れている二人の方に、

意識を向けないようにして。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふ……あああ~。よく寝たぁ~」

「やっぱり、こうやって朝ゆっくりするのはいいよなぁ~」

『二人とも気が抜けすぎだぞ……と言いたいが』

『たまには、良いと思われる』

 

次の日の朝。時刻は7時過ぎ。

目を覚ました一夏と弾は目をこすりながら少々だらしない

顔で居間へと足を運ぶ。

そんな彼らにゲキリュウケンは苦言をもらすが、強く言うことは

なかった。

 

「一夏、明の奴は?」

「朝の訓練だってさ~。

 俺達も朝ごはんを食べたら、軽く走りにでも行くか」

「おお~早起きだね若人達よ~」

『私はただの腕輪私はただの腕輪……』

 

弾と一夏がのんびりと雑談をしていると

そこへ太夏がやって来るが、腕のバクリュウケンは未だにボソボソとつぶやきを

繰り返し、太夏も心なしか昨日よりもやつれて足をガタガタさせていた。

 

「うんうん。夏休みだからと言って、朝寝坊はよくないよな~。

 てなわけで!

 今回の休みを楽しむために、しおりを作っておいたぞ♪」

「何だよ、しおりって……。

 こういうのって、配るにしても昨日じゃん」

「え~っと……何々……。

 何だ、これ?

 朝は6時起床って、こんなのみんな守れるんすか?

 特にカズキさん。俺、同じ部屋だったけど今日は、まだ寝てたし。

 あの人、別に朝に弱いってわけじゃないけど、他人に起こされると

 すっげぇ~~~不機嫌になるんすよ?」

「前に俺達が寝ている傍で、騒いで起こしちゃった時は、

 地獄の鬼もビビるってぐらいの怖い目で睨まれたよな~。

 まさに低血圧魔王って奴?

 あっ。そう言えば、母さんも朝は弱いって言ってたな……」

「うっ!!!

 あ……ぁぁぁ……」

 

何故かテンション高めの太夏に、ちょっと引き気味となる一夏と弾は

渡されたしおりの中の一つの項目に、目が留まる。

かつて、その項目に関係することで恐ろしい目にあった者としては、

二度とゴメンなのだが、それを聞いた太夏は目をハッ!と見開いた。

 

十数分前……。

 

「お~い、冬音~。

 いつまで、寝てるんだ?早く起きて……」

「……っ(低血圧怪獣の目)!」

 

太夏は、低血圧怪獣の不機嫌な目に睨まれひるんで固まった。

 

「うおおおっっっ!!!

 カズキぃぃぃ!!!

 怪獣が!低血圧怪獣がっ!!!」

「…………ッ!

 うっせぇな……寝ているのが見えねぇのか、てめぇは……。

 竹を当ててそのガラクタな目をポン!とほじくり出して、

 虫メガネでも入れてやろうか?

 ……ちっ。バカが……!」

 

たまたま隣の部屋だったカズキの元に突撃した太夏に待っていたのは、

低血圧魔王の怖い目と毒を含んだ予想だにしなかった口撃。

 

恐怖の思い出し、終了。

 

「うっうっ……。

 ぐっ……ううっ……うっ……」

 

太夏はとても怖かったのか、部屋の隅に体育座りで声を押し殺してすすり泣いて

足元に小さな水たまりを作るのであった。

 

「ああ、ごめん父さん……」

「よっぽど……怖い目に合ったんすね……」

 

みっともなくポロポロと涙をこぼす大人に、一夏と弾は暖かい声をかけるのであった。

 

「それにしても、昨日鈴達はよく納得したよな。

 この部屋割りに」

「うん?何か、変なとこってあったけ?」

『そう思っているのは、お前だけだ』

『後は、考えたカズキ本人と雅ぐらいである』

 

すすり泣く太夏を放置して、弾は一歩間違えれば戦争になりかねなかった

昨日の出来事に今更ながらも安堵する。

反対に、全く疑問を感じてない一夏をゲキリュウケンとゴウリュウガンは

斬って捨てる。

その部屋割りとは……。

 

・太夏、冬音

・雅、千冬

・一夏、明

・弾、カズキ

・シャルロット、ラウラ

・楯無、簪

・箒、セシリア、鈴

 

であり、カズキから説明を受けた一夏と雅以外は、当然猛抗議した。

しかしそんな抗議などカズキには、のれんに腕押しの如く、

IS学園で同室だったからとか、布団や部屋の数が足りないからとか

で言いくるめられ、彼女達は言い返せずぐぬぬ……と唸るしかなかった。

気圧されながら虎白もこの争いに、参戦したがこれ以上の人数を泊めるのは

無理とあっさり蹴落とされた。

その後、カズキがヒソヒソと何かを囁き、千冬以外が素直になって従ったのが

少々気がかりだった。

 

「な~んか、嫌な予感がするんだよなぁ~……。

 この爽やかな朝が、嵐の前の静けさ?……みたいな?」

『やめろ、弾。それ以上は、シャレにならん』

『フラグが立つと言う……』

「明達の何を心配しているのかわからないけど、

 カズキさんがいつもみたいに何かを企んでいるかもって言うのは、

 わかった。

 だけど、それってあの人が企んだ時点で手遅れじゃねぇのか?」

 

この後に起きるかもしれない騒動に、弾は現実逃避をしたくなるが、

ゲキリュウケンとゴウリュウガンがそれ以上は、騒動が起きるキッカケに

なりかねないと釘を刺す。

だが、一夏のもっともな指摘に一同は押し黙る。

カズキが何かよからぬことを企んでいるとわかって、

一夏達にどうにかできたことなどないのだ

 

「やあ~おはよう!諸君!」

「ああ、カズキさん」

「おはようございます」

「ひっ!?」

 

何とも言えない空気を気にすることなくカズキが、顔を見せると

挨拶をする一夏と弾と対照的に、太夏は悲鳴を上げガタガタと震える。

 

「おはよう~。

 あれ、太夏。どうしたの、そんなに震えて?」

「い、いや!ななななななんでもにゃいぞ!」

『何でもあるだろ、その反応は……』

「あっ。バクリュウケンが、戻ってきた」

「ふぅ~。あれ?何かあったのか?」

 

カズキに続いて冬音も姿を見せるが、二人の反応はいつも通りだった。

どうやら、それぞれ怪獣と魔王の目をしたことは覚えていないようだ。

そんな二人に必要以上にビビる太夏に、ようやく現実に戻ってきた

バクリュウケンに一夏が、気が付いたところで明が戻ってきた。

 

「何でもねぇよ。ただの織斑家の日常だ……」

「はっ?」

「おはよう、みんな」

「うむ、おはよう!」

「「「「「「お、おはようございます……」」」」」」

 

状況を的確に一言でまとめた弾に、明が疑問の声を上げたところで

千冬以外の残りの面々も顔を見せる。

いつも通りの雅とラウラを除く者達は、若干寝不足みたいに疲れ気味だった。

 

「どうしたんだ、みんな?

 そんな、目の下にクマなんか作って……」

『興奮して、なかなか眠れなかったみたいだな♪』

「ほんとにもう……ねぇ~。

 若いと言うか何というか……。

 まあ、そのおかげで存分におもしろいものが見れるんだよね~♪」

 

首を傾げる一夏の隣でザンリュウジンとカズキが、悪魔がするような

黒い笑みを浮かべているのを見て、弾と太夏はゾゾゾ!と背中を這う

悪寒に襲われた。

 

「では、諸君。

 朝ごはんを食べ終わったら、準備をして行こうか?

 夏の楽園……ウォータヘブンへ!」

 

 

 

「一体、何を企んでいるのかと思ったらプールって……」

「いいじゃねぇか、一夏♪

 夏のプールは、お約束だろ!」

「そうだぜ、一夏!

 こないだの臨海学校では、ほとんどバイトで遊んでいる暇は

 なかったからな!存分に楽しませてもらうぜ!!!」

「そうだね~。“楽しい思い出”を作らないとね♪」

 

身支度を整えて目的地に出発して、約一時間。

先月開いたばかりのプール、ウォータヘブンの

プールサイドで、魔弾戦士陣こと男子組は、各々の水着に着替えて

女性陣を待っていた。

片や十数年ぶりだったり、バイトだったりで、久々に水と戯れることが

できるとテンションが高い太夏と弾だったが、カズキの意味深な

思い出発言に一夏と弾はビシリと固まる……。

 

『そうだな、これが“最後”のプールになるかもしれないしな』

『ついに念願であった、彼女とのアハハ♪ウフフ♪なプールデートは、

 夢となった……か』

『海とは違ったイベントが盛りだくさんで、楽しみだな♪』

「……やだな~、ゲキリュウケン。創生種に勝てば、来年だって来れるじゃねぇか」

「そ、そうだぜ、ゴウリュウガン……ななな何を言っているんだよよよよよ?

 まだ、わからにゃいだろ!」

 

相棒達の不吉な言葉を、一夏と弾は引きつりながら笑い飛ばそうとする。

目を背けて忘れようとしていた、地獄の修業後半戦を考えないようにして。

 

「太夏~。お待たせ~」

「ごめんなさいね。更衣室が、混んでて遅くなったわ」

「……夏とは、素晴らしい季節だな」

「ええ……そうですね」

 

そうこうしている内に、着替えを終えて水着となった女性陣が姿を

見せたが、それを見た太夏と弾は達観した目をして、夏の素晴らしさを

語った。

 

――――っっっ!!!!!!!!!!

 

全員が揃った所で、ひと際大きい歓声がプールサイドに響き渡った。

 

「さっきから、なんか騒がしいな」

「あっちにいる来ている客に、騒いでいるみたいだよ?」

「うっひょっ~!すげぇー美人!」

「モデルか!?」

「あんな人と一日デートできたら、俺もう死んでもいいかも♡」

 

何事かと一夏が気に掛けると、カズキがそのわけを教えるように

周りの客というより、走り回る男達に指を向ける。

プールサイドだというのに、気にも留めず走る男達は

何かに当てられたように目にハートマークを浮かべていた。

 

「はぁ~い♪」

「ん?……はぁ~?」

「へ?」

 

そんな中、一夏達にある女性が声をかけると一夏と弾は口を

開けて間の抜けた顔をさらす。

 

「おい、一夏……何を見……惚れ……て」

 

一夏と弾の反応に、鼻の下を伸ばしたのかと

機嫌が急降下する明は指を向けて後ろ後ろと指す一夏に、振り向くと

二人と同じ、口を開けて間の抜けた顔となる。

それは彼女達だけでなく、カズキ以外のIS学園勢も同じであった。

一夏達の前に現れたのは……

 

「久しぶりね♪」

 

マイクロビキニを身につけた……クリエス・リリスだった――。

 

 

 





ゴウリュウガンが危惧した出来事は、一夏でなくても
弾やカズキでも起きる可能性は十分にありますwww

一夏と明は、少年雑誌で表現できないようなことはしてません。
表現ギリギリなラッキースケベなだけです(キリっ!)

発端の薬は、カズキがおばばにそういうのがあるかと聞いたのが
始まり。飲ませたと思いこませて、実は飲んでいなかったと
したのはカズキの考え。その方が、ばらした時がおもしろいからですwww

だけど、冬音が飲んだのは完全に予想外。
一応、結界は用意してたけど・・・。

低血圧怪獣と低血圧魔王は
”桜蘭高校ホスト部”からです♪
カズキは朝に弱いわけではありませんが、他人に起こされると
超不機嫌となります。


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