インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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最新話です。
新作も始めましたが、なかなか並行して進めるのは難しい(汗)

やっとこさ、仕事も落ち着きができて終わりも見えてきましたが、
見落としや急なものが出るかもで油断できません(泣)

そろそろ、久しぶりに遊戯王のデッキを組みたい・・・。


壁を越えろ!

「う~ん……。

 確かにカズキさんが言うように、なのは達にはこういう試練が

 必要かもしれないけど……やっぱりというか、予想通り苦戦しているな……」

 

佇みながらユーノは、空中に投影されているディスプレイの映像を見て

渋い表情を浮かべる。

そこには、バリアジャケットの色が影のような黒を基調としたものだけで

それ以外は鏡から抜け出したようにそっくりな自分に苦戦しているなのは達の姿があった。

 

「三人とも苦しいだろうけど、ここはがんばって……。

 力も技も全く同じはずの相手に、勝てない理由……。

 それは……!」

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「ほらほら、どうしたん?

 “私”の実力は、その程度なん?」

 

倒れ伏す自分を嘲笑いながら見下ろす“はやて”に、シュベルトクロイツを杖代わりにして

はやては、何とか立ち上がる。

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんも同じように、このドッペルゲンガーみたいなんと

 戦っとるんかな……?

 最大の敵は自分自身とは、よう言うたもんや……」

 

苦悶の表情を浮かべるはやては、この戦いのきっかけを思い出していた。

自分達が信じていた組織の真っ暗な裏の面を知り、未だに途方に暮れていた

はやて達は、ユーノからカズキが決戦に向けての修業をするけど、

自分達もどうだと言う申し出が伝えられたのだ。

一瞬呆ける三人だったが、渡りに船とばかりなこの申し出を受けたのだ。

そして待っていたのは、カズキが用意した相手を1対1で倒すというシンプルな課題。

だが、対戦相手は彼女達の想像を超えていた。

戦闘フィールドに転送されたと思ったら、目の前にいたのはかつて自分達を

元に生まれたマテリアルズのように自分と瓜二つの相手。

どういうことかと戸惑う彼女達を気に留めず、相手は襲い掛かってきた。

使う魔法も戦い方も、自分達と全く同じであったが、戦いは一方的なものとなり、

なのは達は苦戦を強いられた。

自分達の“影”のような相手の攻撃は……

 

「ハハハハハ!

 遅い遅い遅――――い!!!」

「速い……っ!」

 

フェイトよりも速く鋭く――

 

「私の魔法は、どんな防御も貫く……っ!」

「きゃぁぁぁっ!?」

 

なのはよりも重く苛烈であり――

 

「それで、攻撃のつもりなん!」

「うわぁぁぁ!」

 

はやてより圧倒的であった――。

 

「一体、どうなってるんですか!

 相手は、はやてちゃんと互角のはずなんですよね!」

 

悲鳴を上げるようにリインは、ユーノに詰め寄る。

力が互角のはずなら、勝負は拮抗するはずなのに何故ここまで差が出るのか。

 

「確かに三人が戦っているのは、三人の分身……影と言っていいよ。

 力は確かに互角だけど互角じゃない。

 何故なら……」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「非殺傷設定を解除しとるんか……」

「やっと気づいたん?いくら何でも、能天気すぎるんとちゃう?」

 

自分と相手の違いに気づき、はやては苦虫を嚙み潰した表情を浮かべる。

デバイスでも未知のスキルでもないのなら、はやて達も同じように非殺傷設定を

解除すれば、最低でも五分五分に持っていくことができるのだが……。

 

「何を、解除するんをためらっとるんかな~?

 そのままで私に勝つつもりなんやったら、ちょいと舐めすぎとちゃうん?

 薄々感づいとると思うけど、私はあんたの影や。

 これは、戦士が自分に欠けているものを見つけるために

 自分自身と向かい合うための試練でな~。

 私らとあんたらの力は、全くの互角なんや。

 つまり……あんたもその気になれば、周りを簡単にこんな風に

 ぶっ壊すことができるんやで?」

「……っ!」

 

はやてが非殺傷設定を解除するのを躊躇するのは、そのためなのだ。

周囲は自分達の魔法の余波で、見る影もなくボロボロでありここで自分まで

鎖を解き放ったら、いくら戦闘のための特殊な空間でもどうなるかは想像に

難くなかった。

 

「ま~だ、わかってないようやな~?

 自分達は世界を壊すこともできるっちゅうことに?」

「そんな……」

「そんなことない!

 この力は、みんなを守るためのものだ!」

 

はやて(影)は創生種がそうなるよう仕向けていた、大半の局員が

いつの間にか忘れてしまっている魔法の力の一面を指摘した同時刻、

フェイトの方も同じことをフェイト(影)から告げられていた。

 

「な~に、怒っているのかな~?

 魔法だって所詮は、ち・か・ら♪

 何かを守るだけでなく、壊すことだってできるんだよ~ん。

 まあ、それはISも魔弾の力も同じなんだけどね~」

「違う……違う違う違う!!!」

「そうやって、否定しても事実は変わらないよ~ん♪

 そんなに……」

「信じたくないのかな?

 ユーノ君がくれた、みんなを守るための魔法が、“壊す”力でも

 あるってこと……」

「間違ってる……魔法は、何かを守るためにあるんだよ!

 壊す力なんかじゃない!」

「だって、魔法でみんなを守れなきゃ自分に存在する価値は無い?」

「っ!!!?」

 

なのは(影)の言葉に、なのはは心臓を掴まれたように全身から血の気が

引き、ガタガタとレイジングハートを握る手が震え出す。

 

「本当は、それが一番怖いんだよね?

 魔法が無くなったら、何も残らない自分が……」

「……て……」

「やっと見つけた自分にできること。

 魔法があればみんなの役に立てる、みんなが自分を見てくれる、

 必要としてくれる、一人ぼっちにならなくてすむ……」

「……めて……!」

「だから、今怖くて怖くて怖くて仕方ないんだよね?

 その魔法が、本当は何の役にも立たないかもしれないってことが。

 自分達が創生種にいいように踊らされて利用されていることが。

 ユーノ君達に、足手まといの邪魔もの扱いされるかもしれないことが!

 自分だけ置いてけぼりにされるのが!」

「やめてっっっ!」

「目を背けて逃げ出す?そうすれば、楽だもんね?

 嫌なことを考えなくて済むもんね?

 見なくて済むよね?

 そうやって……」

「そうやって、守ってきたんだよね~♪

 自分の弱い心をさ~♪」

「うっ!」

 

こちらを小馬鹿にする笑みを浮かべて見下すフェイト(影)に、フェイトは

必死に応戦するが、その動きは精彩さを欠いていた。

 

「その自分の弱い心を見られたくないから……

 知られたくないから、自分の全部見せているようにして隠してるんだよね?

 他人とは、違う力を持っていることに安心してたんでしょ?」

「そ、そんなこと……」

「ないのか……な!」

 

フェイト(影)の言葉を否定しようとするフェイトだが、迷いなく否定することができず、

そのできた隙にフェイト(影)はフェイトを吹き飛ばす。

 

「本の中の物語みたいに、普通の女の子だったのにある日特別な力を

 手にした自分達は選ばれた……特別な存在やと思っとたん?

 助けを求める声は誰でも助けれる、どんな敵や困難も超えていける?

 アホちゃうんか?

 どんな力があろうとなかろうと、人間はどこまでいってもちっぽけな存在や」

「くっ……!」

 

心底呆れ果てた顔で見てくるはやて(影)に、悔しさで言い返そうとするはやて

だったが、何も言葉にすることはできなかった。

否定したくても、納得している自分がいるからだ。

 

「はぁ~~~。しゃ~ないな~……。

 あんたらがそんな風に考えるようになったのも、創生種がそうなるように

 管理局のシステムを整えとったからやし、出血大サービスで教えたるわ。

 あんたらに、今一番欠けとるもんを。

 それは、非殺傷設定を解除して戦う覚悟でも……」

「どうすればいいかを考え続けることでも……」

「自分の弱さから目を逸らさないことでもない……。

 人一人を助けることの難しさ!

 自分が、何の為に魔法を使うと決意したのかを思い出すこと!」

「「「っ!!!?」」」

 

場所は違えど、自分達に欠けているものを突き付けられたなのは達は、

目を見開いて驚愕し、その視界は真っ白に包まれた――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あんた達、生きてる……?」

「ああ……」

「何とか……な……」

 

空を見上げながら寝転がる鈴の空気に消えそうな声の問いかけに、

同じように倒れ伏す箒とラウラが、生気が感じられない声で返事をする。

 

「ここに来て……何日経ちましたっけ……?」

「10日ね……」

 

木に背中を預けたセシリアが俯きながら誰となく質問すると、隣に座り込む

楯無がそれに応えた。

 

「鳥……こっちの気も知らないで、気持ちよさそうに飛んでる……」

「…………っ!

 こんなの……こんなの一体何の意味があるのさ!!!」

 

自分達の頭上を回りながら見下ろしてくる鳥をうらやましそうに簪が見ていると、

たまらなくなったシャルロットが地面に拳をぶつけて叫び声を上げる。

その様子を木の枝に立ち、見ている者がいた。

顔は、口元だけ開いた獣を模した仮面で隠し原住民のような民族服を

着ている何者かは、しばらく箒達を見ていると木から木へ飛び移り姿を消した。

この者こそ、彼女達がここまで憔悴している原因であった。

 

無人島での修行を言い渡された箒達は、拠点となる場所と四苦八苦して食料を

確保して食べようとした瞬間、この謎の人物にそれを奪われたのだ。

腕や足の細さ、体つきから自分達と同じ女だというのはすぐにわかったが、

この人物は相当な実力者であり、彼女達の中でも頭一つ実力が抜けている

楯無も軽くあしらわれてしまった。

その時の動きは、誰もが見惚れてしまう程鮮やかなものであった。

 

襲撃は、それからも毎日行われ、食料は奪われ続けた。

体力と精神力は、比例するように消耗していき、食料調達もままならなくなっていき

思考もマイナス方向に傾いていった。

厳しい訓練をしてきた彼女達でも、ここまでの“食べれない”ということに

直面したことは無い。

 

「おい。このまま、今日を過ごすのか?

 食料を探しに行かないのか?」

 

先ほど姿を消した襲撃者はしゃがんで、倒れ伏す彼女達に

問いかけるが、誰も返事を返そうとはしなかった。

 

「食わなければ、死ぬぞ?」

「…………や……だ」

「嫌……です」

「こんな所で……」

「このまま……」

「終わりたくない……」

「生きたい……」

「死にたくない……死にたくないよぉ……!」

 

倒れたまま彼女達は、涙を流して懇願する。

生きたい、死にたくないと――。

そうやって、何度もつぶやいている内に彼女達の意識は途切れる。

 

「ん……」

 

気を失った簪が、目を覚ますと自分達が並ばせながら寝かされていた。

そこへパチパチと何かが焼ける音が聞こえ、香ばしいにおいが鼻孔をくすぐると、

襲撃者が焚火を起こし、魚を串焼きにして焼いていた。

そして、つられるように箒達も目を覚ましていく。

彼女達の思考は、自分達に何が起きたかより目の前で焼かれる魚に

釘付けとなる。

焼き上がったのか、襲撃者が串を一本手に取ると、彼女達の方を向いて

その魚を差し出してきた。

 

「……っ!」

 

ごくりと誰かが唾をのみながら喉を鳴らすのを合図に、誰かの腹の音も鳴った。

女子として、とても誰かに聞かれたくない音だが、気にする者はおらず、

全員一斉に駆け出して、差し出された魚に手を伸ばす。

すると、初めから渡すつもりだったのか、侵入者は順番に魚を彼女達に渡していった。

10日ぶりの食事を、彼女達は涙を流して噛み締めた。

 

「助かったぁ~。

 一夏や弾がたまに言ってた、生きていることはおいしいっていうことが

 わかったわ……」

「確かにな……。空気がおいしいとはよく言うが、今は本当においしいと

 心から思うよ……」

 

食事を終えると、襲撃者はいつの間にか姿を消していたが、彼女達はそれには

触れず、ただ生き残れたことを喜んでいた。

鈴と箒は、たまに一夏と弾が口にしていたことの意味を実感し、

食べられることのありがたみを感じ取っていた。

 

「そうですわね。

 何もできないまま、終わってしまうのかと思いました」

「僕も同じこと、思ったけど……考えたんだ。

 もしも、僕達がここで死んでいたらどうなっていたんだろうって」

「うむ。確かにここで朽ち果てたら、お兄ちゃん達は悲しむだり、兄様も

 代表候補生を死なせたことで責任を問われるだろうが、

 世界から見たらそれほどな影響はないだろうな……」

「そうね、私達がいなくなっても一夏君や碓氷先生が戦うのを止めるとは

 思えないし……私達がいなくても世界は回り続けるわね」

「お姉ちゃんの言うように、ちっぽけな存在だね。私達」

「おい、簪。今何でこっち見て言った?

 正直に言ってみ?

 全力で拳を叩き込んであげるから……ね?」

 

同じように生き延びることができた一同は、自分達の経験したことを

改めて振り返り、自分達が如何に小さな存在かということを理解する。

何故簪は、鈴を見ながら口にしたかはたまたまであろう。

 

「だが、そんなちっぽけな存在な私達が集まって、世界と言う途方もなく

 大きな存在となっている……」

「食物連鎖。植物は草食動物に食べられて、草食動物は肉食動物に食べられて、

 肉食動物は死んで微生物に分解されて植物の栄養になる……命の循環」

「私達は世界の一部であり、世界は私達自身でもある……」

「それが、“一は全 全は一”」

 

拳をゴキゴキ鳴らす鈴をスルーして、ラウラは簪の言葉に異を唱えるが、

どちらも間違ったことは言っていなかった。

その矛盾を簪が自然の摂理で説明し終わった時、箒は空を見上げながら

かつて一夏と弾が口にしたことを同じことをつぶやき、カズキからの

課題の答えをシャルロットがまとめた。

 

それから、彼女達は残りの無人島生活を全力で過ごした。

当初は捕まえることはできても、食べることにかなり抵抗があった

野ウサギもさばけるようになり、歯が立たなかった食料襲撃者とも

徐々に戦えるようになっていき、連係プレーも自然と身につけていった。

そして――。

 

「さて、まずは一か月の無人島サバイバルお疲れ様。

 それで?“一は全 全は一”の答えを聞こうか?」

「はい!」

「「「一は、命!」」」

「「「全も、命!」」」

「……ぷっ……くははははは!!

 いいだろう。合格だ」

「「「「「「「やったぁぁぁ!」」」」」」」

 

課題の期日にやってきたカズキに、全員で見つけた答えを

口を揃えて言うと、カズキは目をパチクリすると大笑いして合格を言い渡す。

 

「でも、残りの夏休みの修業ってかなりキツそうだよね……」

「そうですわね……。

 これから一夏さん達と肩を並べられるようになるとなれば……」

「ああ、大丈夫だよ。鈴、セシリア。

 ここは時間の流れが違う空間だから、元の世界では一日しか経っていないんだ」

「ええっ!?」

「そうなんですか!」

「びっくり仰天……!」

 

抱き合いながら合格を喜んでいた面々は、一転して残りの夏休みで

行われるだろう修行の密度にげんなりしていると、カズキから驚きの

言葉を聞かされ目を見開いて驚く。

 

「驚いてもらえて、何よりだよ。

 ということは、つ・ま・り♪

 ここでの生活が、天国だと思える修行をみ~~~~~っちりと……

 できるわけだよ♪」

「へっ?」

「ここが……天……国?」

 

夕飯の献立を告げるような気軽さで、カズキが告げた内容に楯無がビシリと

固まり、その一端を知っているラウラはガタガタと震え出す。

無人島生活が天国と思える修行と言えば、カズキは冗談抜きでそう言う

修業を間違いなくすることをラウラは、過去の経験から知っているのだ。

その震えは伝染し、先ほどまでの喜びはどこに行ったのやら、全員ガタガタと

震え出す。

 

「じゃあ、帰る前にもう一人連れて行かないとね。

 お~い~。帰るぞ~」

「……!」

 

彼女達の震え具合を楽しそうに眺めたカズキは、森に向かって

声をかける。

すると、一つの影が彼らの前に舞い降りた。

その正体は彼女達から幾たびも食料を奪った、襲撃者だった。

 

「こいつは!」

「何よ!やろうっての!」

「お待ちください、箒さん、鈴さん」

「うん。

 ここが、碓氷先生が用意した空間だって言うなら……」

「そいつは、無人島に住んでいる者ではなく、お兄ちゃん達の仲間なのでは?」

「うむ、正解だ」

 

襲撃者はラウラの推測に答えながら仮面を脱ぐと、長髪をたなびかせて

その素顔を見せた。

 

「あ、あなたは!」

「確か、アカメさん?」

「うん。初めての奴もいるから、紹介するよ。

 彼女は、アカメ。いざという時の保護要員も兼ねて、

 この課題を手伝ってもらったんだ。ご苦労だったね、アカメ」

「何、大したことはない。

 食事を奪って、基礎戦闘を鍛えただけだからな」

「ちょっと、待ちなさいよ!

 保護要員なら、何で最初からいるって言わないのよ!

 って言うか!鍛えたんじゃなくて、襲ってきたわよそいつ!」

 

呑気に初対面の三人に、アカメを紹介するカズキに鈴が怒鳴り声を上げて、

食ってかかる。

 

「何を言ってるんだい?

 一か月もあれば、人間どれだけ成長できると思っているの?

 時間は有意義に使わないと。

 精神だけでなく、肉体的にも鍛えられたんだ。

 存分に感謝してくれていいよ♪」

 

笑いながら親指をたてるカズキに、鈴達はその場にへなへなと脱力して

座り込む。

 

「まあ、よかったじゃないかお前達。

 もしも、カズキが私でなくエスデスに頼んでいたら、

 こうして生きていなかったかもしれないのだから」

「「「「「「「……はい?」」」」」」」

「ああ。修行には、そのエスデスとの内容もあるからね?」

「「「「「「「……え?」」」」」」」

 

座り込んだ彼女達に、アカメがしゃがみ込んで励ますが、

その口から放たれた言葉に、一同は呆然とする。

更に追い打ちをかけるように、カズキから聞きたくなかったことが

聞かされ、しばしの間彼女達の思考は停止した。

 

「しっかり頑張るんだぞ。でなければ、氷漬けにされるぞ?」

「三途の川から戻ってこれるように救命具の準備もしないとね~。

 これで、IS側の戦力は何とかなるとして、魔法組の方はどうなったかね~」

 

カズキは空を見上げながら、同じく課題を出したなのは達のことを

思い浮かべた――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「…………」

「これで、おしまい?

 あっけないね……」

 

なのは(影)は、仰向けに倒れるなのはをつまらないものを見る目を

しながら止めを刺すべく、手に持つレイジングハートのコピーを構える。

 

「それじゃあね~」

「ここまでみたいやね」

 

時を同じく、フェイト(影)とはやて(影)も倒れているフェイトとはやてに

止めを刺そうとしていた。

 

「(人一人を助けることの難しさ……。

 そうだよ……。人を助けるのは、簡単なことじゃない。

 なのはやユーノ……アルフ、お兄ちゃん、母さん。

 みんなが、私を助けるために手を伸ばしてくれたから、私は今ここにいる……)」

「(そうや……。

 私は、リインフォースが残してくれた力を正しく使うため……。

 誰かの力になれるならって!)」

「(最初は、ジュエルシードを集めてユーノ君の手伝いをするためだった。

 でも、フェイトちゃんや色んな人と出会って変わっていった。

 自分の魔法で、困っていたり涙を流している人の手を握れるなら、

 力になりたいって。

 そうやって、握っていく内に忘れてたんだ。

 握れることが……自分なら助けられるのが当たり前だって……。

 全力で……全開で……伸ばさなきゃ、届かないのに!)」

 

なのは達は、忘れていた自分達が魔法を使っていくと決めた理由を思い出し、

拳を力いっぱい握りしめる。

 

「(助けようとするのに管理局とか魔法があるからとか、関係ない!)」

「(誰かが助けを求めるなら、自分の精一杯で力を貸せばええ!がむしゃらに!)」

「(それで足りないなら、みんなで力を合わせればいい!)」

 

瞳に確固たる意志を宿して立ち上がったなのは達は、止めを刺そうとする

影達にデバイスを向ける。

 

「へぇ~。やぁ~っと、その気になったんだ~」

「ほなら、見せてみ!あんたの思いを!」

「そう来なくっちゃね!」

 

影達は立ち上がったなのは達を見て、待ってましたとばかりの笑みを浮かべて、

立ち塞がる。

 

「「「受けてみて!これが私の全力全開!!!」」」

「「プラズマザンバー……」」

「「響け終焉の笛、ラグナロク……」」

「「スターライト……」」

「「「「「「――ブレイカー!!!」」」」」」

 

制限も手加減もない、文字通りの全力で全開の力がぶつかり合い、

ユーノが見る映像は光しか映せなかった。

 

「はやてちゃん!フェイトさん!なのはさん!」

「うっわぁ!?大丈夫かな、これ……」

 

その映像に、リインは悲鳴を上げユーノも焦った声を上げる。

なのは達自身もただではすまないだろうが、なのは達がいる空間も壊れるかも

しれないほどの一撃であったからだ。

 

「ユ、ユーノさん!早く三人を!」

「ちょっと待って!今調べる!」

 

ユーノが素早く端末を操作して、三人の状態を確認すると映像の光も

収まり徐々に画面が見れるようになっていく。

そこには……。

 

「ああっ!?」

「……!」

 

映し出されたのは、倒れ伏すなのは達三人とその傍で立つ三人の影であった。

 

「そ、そんな……」

「……」

 

信じられない光景にリインは言葉を失い、ユーノは黙ってそれを見つめた。

 

「……いい一撃だったよ。君の思いが籠っていた……」

「せや……。

 そうやって、あーやこーやって考える前に、まずは動くことや……」

「忘れないでね。一人じゃできないことでも、みんなと力を合わせれば

 できる“かも”しれないことになるってことを」

 

影達は、気絶して倒れるなのは達に何をするわけでもなく微笑みながら、

語りかける。

気絶しているから聞こえるわけでもないのに、その声は満足気で……

少しずつ影達の体が薄くなっていく。

 

「課題は、クリアだよ」

「けど、ここからが本番やで?」

「この先に待っているのは、誰にも想像つかない……。

 だけど、忘れないで。

 周りには、力を貸してくれる友達がたくさんいるってことを……。

 ああ、それと……早くユーノ君に返事しないと他の誰かに取られちゃうよ?」

 

与えられた課題を成し遂げたことを告げて、影達はその場から消えた。

なのは(影)が、最後に危機感を煽る言葉を発した瞬間、ビクリとなのはが

反応した。

 

「え~っと……これって、つまり……」

「無事に……とは言えないかもしれないけど、合格ってことだよ」

 

ためらいがちなリインに、ユーノは頷きながらなのは達が課題をクリアできたと

答える。

 

「でも、喜んでばかりもいられないよ?

 本当に大変なのはこれからだ……」

「ですね!なのはさんに、負けないようはやてちゃんをしっかり応援しないとです!」

「……」

 

ユーノの言葉を少し勘違いしたリインはむん!と拳を握って、

ガッツポーズをする。

これからが、大変になるのはユーノも同じようだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『…………!』

「え……え……えええええっっっ!!!!!」

 

食林寺で、ゲキリュウケンを振り下ろした一夏の驚愕の声が轟いた。

その横では、弾が口をあんぐりと開けて言葉を失っていた。

彼らの目の前には、鋭い刃物で斬られたような裂け目が地面に刻まれていた。

 

「一夏……お前、いつから月牙〇衝を撃てるようになったんだよ……!?」

「いやいやいやいや!俺、そんなに力入れてないぞ!

 せいぜい、素振りぐらいのつもりで……!」

 

二人が行っている食義の修業内容は、感謝の念を感じて火を灯すつくしの前で

座禅を組んだり、卵のように割れやすいご飯粒を一粒一粒はしで取ったり、

少し揺らしただけで崩れるプリンを頭にのせて食義の構えを保ったりと、

何の意味があるのかわからないと思えるものばかりだった。

開始してから数日で、普通なら一か月はかかるレベルをできるようになった

二人はシュウから、試しにゲキリュウケンを軽く振り下ろしてみるよう言われ、

予想だにしなかった結果に仰天するのだった。

 

「では、弾君。君は、修行に使っているサボテンの針を

 撃ち落としてみてください」

「へっ?」

「はい!どうぞ!」

「ちょっ!」

 

いきなり自分にも一夏のように、試しをふっってきたシュウに弾は、

身構える暇もなく針を飛ばしてくるサボテンの攻撃にさらされる。

 

「こなくそっ!」

「おいおい……」

 

奇襲に近い攻撃にも関わらず、弾は針まみれになることなく全ての針を

撃ち落とした。今までの弾より遥かに上の精密な早撃ちに、一夏は目を見開く。

 

「マジ……かよ……!

 どこに飛んでくるか、直感的にわかったぞ……あれだけの数、全部が!」

「繰り返し、食への感謝を行うことで……“集中力”が向上しているのです。

 それは、動作の素早さと正確性に繋がります。

 今のお二人は、無駄な動きが削られ最低限の力とフォームによって、

 本来持っている力を発揮できるようになってきています」

『何と!』

『できるようになってきているということは……!』

「ええ。これは、まだ食義の入り口です。

 修行を続ければ、呼吸をするように自然に

 今以上に破壊力のある技を出せるようになりますよ」

「す……すげぇ……」

 

どうしてカズキが、この食義を会得させようとしているのかを

理解してきた一夏と弾は武者震いで体を震わしていく。

 

「よーし!修行を続けて、食義を極めるぞ!

 弾!!」

「おうよ!!」

 

それぞれの課題をこなしていく少年少女達は、その後も修行を続け、

来る決戦に備えて力を着けていった――。

 





ISメンバー以上に、なのは達の部分を書くのが難しかったです。
無理やり感を自分でも感じます(汗)
修業描写は今回で終わり、次回からは夏休み的な感じになるかも
しれません。
異世界に行って修行というのは、”龍の戦士たちの日常”で
載せると思います。

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