インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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2017年最後の更新ですが、
前回と同じくらい遅くなりすいません(汗)
なかなか執筆時間の確保が難しく。

一夏メインの話にするはずが、カズキが中心になってしまった(苦笑)

明日から冬コミのために、東京に行ってきます。



人間の表と裏

物心がつく頃には、一夏の傍に両親はいなかった。

だからと言って、思うところが無いわけではないが一夏が父と母を恨んだり憎んだり

することはなかった。

そういう感情を持つには、一夏の中にある親との思い出はおぼろげであり、

また姉の千冬共々、吉永雅が親代わりとして愛情を注いでくれたため、

そんなことを考えることもなかった。

だが、一番大きな要因は時々見る夢であった。

夢の中で一夏は赤ん坊であり、大人だけどどこか子供っぽさを感じさせる男に

抱っこされているのだ。

男は、これ以上嬉しいことはないとばかりに笑みを浮かべており、夢の中の一夏も

その笑顔を見ていると嬉しくなって笑うと、男は子供がちょっとしたことに

感動するように心からの笑みを返すのだ。

そして、夢はいつも小さな女の子が男から自分を抱っこするのを奪い、ショックで

崩れ落ちる男をきれいな女の人が慰めるところで終わる。

目が覚めた時、一夏は夢のことをほとんど覚えていないが夢の光景と自分を抱き上げる

男の温かさだけは、心に残っていた。

 

――これが、幼き日の自分達家族の日常だと気付いたのはつい最近のことである…………。

 

 

 

「お前の父、織斑太夏を利用していると言ったんだ。

 リュウケンドー、いや……織斑一夏」

「どういう……ことだ!」

 

肩を貸すGリュウケンドーを突き放し、近くの岩場に腰かけたオルガードに

Gリュウケンドーは動揺を隠せなかった。

 

「時空管理局に故郷を滅ぼされ、戦いの傷と星の大樹の恩恵も失ったことで

 ただ死を待つだけだった当時の私は、とにかく生きることに全てを注いだ……。

 一秒一秒が、十年にも百年にも感じられる時を私は管理局への復讐という執念だけで

 生き延びた……」

「……」

「どれ程の時が流れたか分からないが、私の前に突如としてある男が現れた……

 それが貴様の父、織斑太夏だ……。

 私は最後の力を振り絞り、織斑太夏の体を乗っ取った。

 この男から感じた力を使えば、復活できるかもしれないと直感したからだ。

 結論から言えばその直感は的中し、私は蘇ることができた……。

 織斑太夏が持つ……貴様たちと同じ魔弾龍の力も得て以前以上の強さを持ってな……」

「そ、そんな……こと……が……!」

『落ち着け!一夏!』

 

オルガードが語る事実に、一夏は言葉を失い、体を震わせながら後ずさる。

 

「事実だ……。でなければ、何故私が貴様の父の名やお前の名を知っている?

 体を乗っ取ったことで、織斑太夏の記憶も見ることができるからな……」

『……ということは、一夏がお前に対して全力で戦えなかったのは!』

「ああ。おそらく、本能が戦っている相手が父だと察して拒絶したのだろう。

 そう考えれば、私もお前に対して本気で戦えなかったのも、

 故郷の世界を感じて、地球で上手く戦えなかったのも全て説明がつく……。

 私の中の織斑太夏の意識が、自分の子や自分の世界を守るために

 私の力を抑えたのだろう」

「父さんが……魔弾戦士だって言うのは、知っていた……。

 母さんを助けるために戦って……その中で行方知れずになったのも……。

 それが……こんなとこ、ろで……!」

 

予想だにしない衝撃から、徐々に思考が追いついてきた一夏は、今目の前に

自分の父がいるのだと思い至る。

 

「だが、今の状態を生きていると言えるかな……」

『“今”の状態とはどういうことだ?』

「父さんに……何かしたのか!」

「故郷に戻り、我が子と遭遇したからか、眠っていた奴の意識は覚醒しはじめ、

 私に干渉し始めた。お前のように復讐を止めろと……な。

 今は、その意識を完全に封じ込めている。

 私が死なない限り、織斑太夏が解放されることはないだろう」

「っ!?」

『くっ!』

 

父親を道具のように言うオルガードの非情な物言いに、一夏とゴッドゲキリュウケンは息を呑む。

 

「だが、まだ死ぬわけにはいかん……。復讐を成し遂げるまでは……!」

「…………」

『一夏……』

 

ボロボロになりながらもオルガードはGリュウケンドーに剣を向け、

Gリュウケンドーもまたゴッドゲキリュウケンをオルガードへと構える。

 

「そら見たことか。散々言っていたが、結局貴様も私と同じだ……。

 目的を成すためなら手段など、問わなくなる。

 それが、人間だ!

 デグス・エメルの言葉を借りれば、誰でも簡単に誇りも良心も捨てるんだ!!!」

「……っ」

『お前!?』

「何の真似だっ!!!?」

 

Gリュウケンドーに対して構えていたオルガードだったが、今度は彼が予想もしなかった

Gリュウケンドーの行動に動揺した。

一夏は、ゴッドゲキリュウケンを盾に収めたのだ。

 

「父さんが俺達と同じ魔弾戦士として戦っていたのを知ったのは、カズキさんに

 修行をつけてもらい始めた頃だ……。

 その時は、別に好きでも嫌いでもなかった。物心つく頃にはもういなかったし、

 どう思えばいいのかもよく分からなかった……。

 だけど、俺は知った!

 父さんも俺達と同じように、この世界を!みんなの明日を!

 守るために戦っていたことを……!

 そして、母さんを救う戦いの中で行方知れずになったことを……」

「…………」

「何かを守るために、命を懸けて戦ってきた父さんが……何かを犠牲にして

 助かっても、絶対に喜んだりはしない……!

 ――父さんは、必ず助ける!そして、あんたもだ!」

 

Gリュウケンドーは、オルガードに背を向けるとここまで来た道へと走り出す。

こちらを追いかけに来ているデグス・エメルを迎え撃つために――。

 

「私を……助ける……だと?

 何故、憎むべき相手にそんなことができる……」

 

一人残されたオルガードは、Gリュウケンドーの選択に誰となく問いかけの言葉を

発する。その目に映るGリュウケンドーの背が、何故かオルガードには弟の姿と

かぶって見えた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「やっぱり、Mリュウガンオー……弾を連れてこなくて正解だったね」

『ああ。俺にもわかるぜ。この扉からあふれる怨念って言うの?

 とにかく、碌なもんじゃない気配がな……』

 

一人、見つけた生産工場を進むリュウジンオーはたどり着いた扉の前で、

気を引き締めていた。

魔弾戦士のような特別な戦士でなくても、警鐘を感じさせる不穏な空気を

受け止めながら、ゆっくりと扉を開けていく。

 

『何だ、ありゃ?』

 

扉の先には開けた空間が広がっており、明かりもなく薄暗かったが、うっすらと

何かが置かれているのがわかった。

変身し探査に秀でている風術を用いるリュウジンオーには、この程度の薄暗さなど

何の問題もなかったが、置かれていた物体……液体が入ったガラス円筒に浮かんでいる

ものを見て、仮面の下で険しい表情を浮かべる。

 

『な、何だよこれは……』

「何様のつもりなんだろうね、ほんと…………」

 

彼らはガラス円筒の中に浮かんでいる“モノ”に対し、驚愕と吐き捨てるように

言葉を絞り出す。

浮かんでいたのは…………“人間の脳髄”であった。

それも一つや二つではない。部屋の中にあるガラス円筒には、まるで標本のように

――否、実際に標本として並んでいた。

 

「普通の人間が見たら、阿鼻叫喚だね。

 俺も不愉快極まりないけど……」

『“電気変換”、“炎熱変換”、“回復”……これは……』

「どうやら、この犠牲者達は魔力変換資質やレアスキル保持者のようだね。

 そして、ナンバリングに各データ……想像以上にふざけたことをやっているね……」

『どんな神経してたら、こんなことができるんだよ……!』

 

恐ろしさを感じさせる程の冷静な声で、分析をしていくリュウジンオーだったが、

口から出る言葉には隠し切れない嫌悪と怒りが滲んでいた。

 

「どんな神経も何も、自分を選ばれた存在とか神なんかだと勘違いしているんだろうね。

 自分以外は、全部道具ぐらいにしか思っていないんだろう……。

 最も、これは自分にない力を持った妬みってものを感じるけどね」

 

魔力変換資質とレアスキル。

前者は、魔力を直接的な自然エネルギーに変換できる能力であり、

後者は普通の人は持っていないマネのできない稀少スキルである。

その希少さから、様々な特例措置が施されることも多い。

 

『ちっ!余計に自分を惨めにしているって言うのが、わからねえのか!

 ん?おい、カズキ!

 あの奥のガラスの中にいる子!まだ、生きてい、る……ぞ……』

 

ザンリュウジンは、立ち並ぶガラス円筒の中で奥に置かれているものの中に

吊るされていた“もの”が、まだ人の形をしていたのを見つけるが、段々と

声を失っていく。

 

「…………っ!」

 

そのガラス円筒に近づくリュウジンオーは、血が出んばかりに拳を握りしめる。

ガラス円筒の中にいたのは、一夏達とそう歳が変わらない少女だった。

だが、その体には手足が無く全身にチューブが繋がれており、最早

“生きている”とはとても言えない姿であった。

 

「離れたところからの風術じゃ分からなくても、近くまでいって調べれば何とかできる

 かもって億に一つの可能性があったけど……。

 だめだ……。これは、俺にも……ジェイル達にも……どうにもできない……。

 “生きている”けど“死んでいる”と言っていい……」

『この子が……この子が何をしたって言うんだよ……。

 こんな目に合わなくちゃいけないようなことをしたって言うのかよ……』

 

少女が入っているガラス円筒を調べるリュウジンオーは、もうこの少女を救うことが

できない事実に目を背けたくなり、ザンリュウジンは悲痛な声を上げる。

そして、そんな彼らの声が聞こえたのか少女は、虚ろな目を向けて、最後の力を

振り絞るかのように唇を動かした。

声など聞こえるはずがなかったが、ハッキリと彼らには少女の声が耳に届いた。

コ、ロ、シ、テ、と――。

瞬間、カズキは変身を解き、血よりも赤い光が床一面に広がる。

 

『カズキ、何を……』

「君がどういう子かは、俺は知らない……。

 だけど、理不尽への怒りや恨みはわかる。

 ただ普通に家族と過ごしたかった……ただ普通に友達と遊びたかった……

 ただ普通に生きたかった……」

『……っ!』

 

彼女に向って手をかざすカズキが何をしようとしているのかわかった

ザンリュウジンだったが、それを止めることはできなかった。

最早、彼女を救う手段があるとしたら一つしかなかったからだ。

 

「だから、そんな当たり前の日常を奪ったやつや運命を恨むなとも憎むなとも言わない。

 来世の幸せを願うことしかできず、これから君の命を刈り取る俺に

 感謝する必要もない……、

 だけど、その怒りも悲しみも現世(ここ)に置いていくといい。

 それは俺が引き受けよう……。

 じゃあ……!」

 

彼女の視界が真っ赤に染まると――。

 

「どうしたの?ぼ~っとしちゃって?」

「何か悩み事か?」

「え?」

 

彼女は、椅子に座り両親と食事をしていた。

無くなったはずの手で、スプーンを持ち足にはスリッパを履いていた。

 

「お~い~。迎えに来たよ~」

「ほら、お友達が迎えに来ちゃったじゃない。

 早く食べちゃいなさい」

「今日も一日、楽しんできなさい」

「う、うん……」

 

目の前の光景に混乱しながら、少女は家のドアへと向かう。

 

「あ~!やっと来た!もう、遅いよ!」

「ご、ごめん……」

「早く行かないと、遅刻だよ?

 ほら、走る走る!」

「っ!うん……!うん!!!」

 

自分の手を握る友達の手の感触を感じて、少女は自分の身に起こった悪夢より悪夢な

現実が悪い夢だったのだと理解した。

両親との食事も友達の手の温かさも夢じゃない。

そんな幸せを噛みしめ、涙を流しながら、学校へと続く道を走っていく。

少女の意識はそこで途絶えた――――。

 

「…………」

 

カズキは、目を細めながらガラス円筒のパネルに映し出されていた少女の生命データが

死亡を表示するのを無言で見つめた。

 

『……なあ、今何したんだ……?』

「幻覚を見せたんだよ……。

 脳が現実だと錯覚する現実(ほんもの)より現実のように見える……ね。

 本当は、相手が最も恐れる光景を見せて徐々に生命活動を鈍らせ、眠るように

 命を消すものなんだけど、今回は彼女の記憶の中でも最も残っている……

 帰りたいという光景を見せた。

 せめて、最後ぐらいは偽りでも幸せを……ふっ。傲慢だね。

 軽蔑するかい、ザンリュウ?」

『するか、馬鹿。そんな資格なんかねえよ……』

「貴様っ!私の貴重なサンプルに何をしたぁぁぁっ!!!」

 

互いに自分の無力を胸に刻もうとするカズキとザンリュウジンの前に、憤怒の形相の

老人が現れた。

 

「この愚か者がっ!貴様が壊したサンプルがどれ程、貴重かわかっているのかっ!!!

 許さんぞ!

 天に選ばれた私にたてついたことを後悔させてやる!!!」

『……無駄なのは分かっているけど、一応念のため聞いておくぜ?

 ここにいる人達の人生を奪っておいて、罪の意識とかねえのか?』

「ふん!罪だと?何をいっているのだ?

 有象無象の存在がこの私の礎になれたのだ!

 その身を捧げられたこと!涙を流して喜ぶべきことだろがぁっ!!!」

「もういい……喋るな……」

 

自分の行いに罪の意識を一ミリたりとも感じず喚き散らす老人に、カズキは

鋭く細めた目に冷徹な怒りを宿しそれを言葉に乗せて吐き捨てる。

 

「俺も外道だって自覚はあるけど……お前はそれ以下の……

 外道にも劣るクズだ……」

「こ、この私が……ク、クズだとぉぉぉっ!!!?」

「加えて、自分がいいように利用されていることにも気付かない微生物レベルの

 知能……いや、この言い方は失礼だな。微生物に対して。

 お前が、この世界でやらなければならないことがあるとしたら

 ただ一つ……自分の息の根を止めることだけだ。

 少しでも人間としての誇りがあるなら、自分という存在を恥じろ……」

「貴様ぁぁぁっっっ!!!!!」

 

存在すら否定され、怒りの頂点を超える老人は凄まじい目つきをカズキに向けるが、

カズキはどこ吹く風で微塵も揺るがない。

 

「いいだろ……貴様の愚かさを骨の髄まで刻み込んでやる!」

「御託はいいから、早くかかってこい。

 どうせ、ここまでやってできたのものなんて、素質がなくても魔力変換やレアスキル

 を使えるようになる薬とかだろ?」

「なっ!何故、それを!?」

 

自分が今まさに懐から取り出し使おうとした注射器の中身を言い当てられ、

老人は驚愕する。

 

「お前みたいな奴の幼稚な考えなんて、すぐわかる。

 そんな子供の遊びにもならないことのために、殺されたんじゃ彼らも救われないな……」

「ど、どこまで私を虚仮にするつもりだぁぁぁ!!!」

 

どこまでも上から見下すカズキの言葉に、怒りの頂点の頂点が超えた老人は手に持つ

注射器を自分の首へと打ち込む。

数秒とたたず、その体は瞬く間に変化していく。

筋肉が膨れ上がって服を破り、鍛え抜かれたような肉体が顕現し、その体には力が

漲っているのが見て取れた。

 

「……ふふ……はははははっ!

 素晴らしい……!素晴らしいぞぉぉぉっ!

 これが、貴様が幼稚といった力よ!その味をこれからたっぷr……ごがっ!」

 

自分に敵はいないとばかりに、高笑いする老人だったが、突然のどを押さえて苦しみだす。

 

「どうかした?ずいぶん、息苦しそうだね?」

「き、きざ……ま……い、一体なに……を」

「な~に。単純なことさ。風術を使って、お前の周りの酸素を薄くしているだけさ。

 どんな薬を使って強化しても、元が人間の体である以上酸素が無くなれば

 呼吸できないからね~」

 

いつもの人を小馬鹿にしたからかい口調でありながら、心底下らないとばかりに

苦しみ膝をつく老人をカズキは、冷たく見下す。

 

「酸素を……操、る……バカ……な……。

 そんな、こ、とが……」

「信じようが信じまいが、それができる術があるから、

 お前はそうやって無様に這いつくばっているんだろ?

『常識なんてものは、見方一つひっくり返るもんだ。

 研究者の端くれなら、それぐらい知っておけよ』

「風術も魔法の親戚みたいなものだけど、どうだい?

 魔法とか不思議な力でなく、呼吸できないっていう特別でも何でもない

 “普通”に死にかける気分は?」

 

淡々と心底つまらなそうに語るカズキの言葉は、老人の耳には入っていなかった。

状況を打開しようにも、カズキがどうやって酸素の量を減らしているのか皆目見当も

つかない。

その上、自分が開発した薬によって得られた力を使おうにも、こんな呼吸困難な状態では

思考も回らず魔法を使うための術式の計算などできるはずもなかった。

 

「げっ……がっ……!」

「ところで、お前……このまま窒息死なんて“生温い”

 死に方ができるなんて思っていないよな?」

「へ?」

 

カズキの侮蔑を含んだ声に老人が間抜けな声を上げると同時に、

風がその体を浮き上がらせ無防備な態勢をさらす。

そこにいつの間に取り出したのかカズキは、旧式のオートマチックの拳銃を

取り出し、何のためらいもなく銃弾を数発撃ち込む。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

「喚くな、うっとおしい……。空気がもったいないだろう。

 撃ち込んだのは、ただのカプセルだから痛いだけで死にはしない……」

『いや、そうやって空気を使わせてるのお前だから』

「(なん……だ?)」

 

カズキに何かを撃ち込まれた老人は、カズキとザンリュウジンの漫才が

スロー再生のようにゆっくりと聞こえた。

 

『で?こいつに、何を撃ち込んだんだよ?』

「超人薬っていう、体感時間を延長させる薬さ。

 事故にあった人が数秒間の時間を数分間って、何十倍にもゆっくり感じたって

 話を聞いたことないかい?

 これは、それを強制的に引き起こす薬さ」

 

カズキは、拳銃から弾を取り出しながら中身をザンリュウジンに説明する。

その顔は微笑んでいたが、どこか寒気を感じさせるものが含まれていた。

 

「要するに、同じ時間でも普通より思考を長く行えるのさ。

 そして、適切な効果を得るのは、このカプセルに入っている薬一滴分を数万倍に

 薄めたのが適量なんだけど、それをこのまま接種したら一秒が数百年単位で

 感じられるようになるよ……」

『ん?てことは……』

「そう……今、こいつは普通より数百倍に伸ばされた時間を感じているのさ。

 ふふ、こうしている間にもう千年ぐらいの時間を体感しているんじゃないか?」

「…………」

 

カズキは、そうやって先ほどから倒れ伏して何の反応も返さない老人に

手を向けて、再び風で浮き上がらせる。

 

「だから……一秒で感じる痛みも数百年感じるし、

 こうやって……感じる苦しみも恐怖も数百年単位で感じるのさ――」

 

浮き上がらせた老人をカズキは回転させ、地面へと降ろしていきゆっくりと

その体を“すり潰していく”。

 

“あれから、どれだけの時間が流れたのだ……?

 何故、この私がこんな理不尽な目に合わなければならない……。

 私が何をしたと言うのだ……。

 そして、いつになったら……私の体は全てすり潰されるのだ――?

 はやく…………はやくはやくはやくはやくはやく!

 はやく、私を殺してくれぇぇぇぇぇっっっ!!!!!”

 

気の遠くなるほどの時間の中で響く悲痛な叫びは、誰にも届くことはなかった――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「一体、どういうつもりですか?」

「どうも何も、お前の邪魔をするつもりだよ」

 

オルガードと別れたGリュウケンドーは、デグス・エメルと対峙していた。

Gリュウケンドーが自分と戦うつもりなのは見てわかるが、

それでもデグス・エメルは呆れた声を出して肩をすくめた。

 

「わかりませんね……オルガードは、あなたにとっても敵なのでは?」

「それがどうした?

 敵だからって、殺されるってわかっている奴を見捨てる

 理由にはならないし、オルガードには助けられた恩もある。

 何より、絶対に守らなきゃいけない理由ができた!」

『気を付けた方がいいぞ?

 このバカは、こうと決めたらとことん一直線で絶対に諦めないぞ?』

 

迷いのないGリュウケンドーの言葉とそれを誇らしげに語るゴッドゲキリュウケンに、

デグス・エメルは戦闘態勢に入る。

 

「やれやれ……私は頭脳派で、直接戦うのは得意ではないのですが……ね!」

「っ!」

 

まずは互いに出方を伺うと見せかけ、デグス・エメルは右手の砲門で奇襲を仕掛けるが、

Gリュウケンドーはそれを紙一重でかわす。

 

「おりぃゃゃゃっっっ!!!」

「くっ!」

 

今度は自分の番とばかりに、Gリュウケンドーはゴッドゲキリュウケンで反撃の隙を

与えないよう連続で斬りかかる。

デグス・エメルは苦悶の声を上げながらも、Gリュウジンオーの猛攻を捌いていき、

両手を交差してゴッドゲキリュウケンの刃を受け止める。

 

「おいおい、どこが直接戦うのは苦手なんだ!」

「嘘は言っていませんよ……他の者達と比べれば――!」

「おわっ!」

 

デグス・エメルの言葉をそのまま受け止めていたわけではなかったが、Gリュウケンドーは

相手の隙を冷静に突いてくるような技巧派と思われた彼の体捌きや自分と力負けしない

パワーに苦言をこぼす。

そして、一瞬だけわざと力を抜いて拮抗状態を崩して隙を作ったデグス・エメルは、

Gリュウケンドーを蹴り飛ばす。

 

「得意ではありませんが、しようと思えばこれぐらい!」

「こ……のっ!」

『強いと言うより、戦いが“巧い”……』

 

どこかカズキに通じる戦い方をする目の前の敵に、

Gリュウケンドーとゴッドゲキリュウケンは、どう戦うべきか思案する。

この手の相手の一番怖い所は、何をしてくるのか“わからない”点にある。

真っ向勝負をしてくると見せかけ相手の意表を突く、散々搦め手を使ったと

思いきやド直球の正攻法を仕掛けてくる等、次の手を読むのが非常に難しいのだ。

 

「だったら、手は一つ!」

『賭けに近いが、お前らしいよ』

「む……」

 

デグス・エメルは、Gリュウケンドーの行動に眉をひそめる。

盾とゴッドゲキリュウケンを合体させ大型剣にすると、それを盾のように悠然と構えて

動きを止めたのだ。

 

「(これは……マズイかもしれませんね……)」

 

Gリュウケンドーの狙いを見抜いたデグス・エメルは、内心で冷や汗を流し始める。

次の一手から、Gリュウケンドー達が考えていたように幻術や目くらましといった

本来の自分の戦い方である搦め手を交えた攻撃をするつもりだったが、Gリュウケンドーはそういったこちらの次の攻撃を読むのを止め、動きを見せたら誘いだろうが何だろうが、

真っ向から打ち破る手段をとったのだ。

 

「(普通なら、出方が分かっている分こちらが有利で、出方がわからない相手は

 賭けになるのですが、彼ならどんな罠も真っ向から打ち破ってくるかもと

 思わせるだけの気迫を感じさせられますね……)」

 

要は気合いという精神論で勝負という子供じみた策とも言えない策なのだが、

あいにく創生種達はその手の計算や論理などを人間は、吹き飛ばすことができる

生き物であることを知っていた。

故に、一端退くのも一つの手だったのだが、デグス・エメルはその策を取ろうとは

しなかった。

 

「(何故でしょうね……引いた瞬間、斬られるという確信めいた予感がある

 のもそうですが……。

 不思議と勝負してみたい気持ちを抑えられない……。

 いいでしょう。真っ向勝負……受けて立ちましょう!)」

 

人間だったら不敵な笑みを見せるであろうデグス・エメルは、右手の

砲門を引くとそこに紫色の光が集まっていく。

 

「(如何なるものであろうと侵しつくす猛毒、“ベノム・ブラスト”。

 例え魔弾戦士の鎧であっても、ただでは済まない私の切り札……受けてみなさい!)」

 

互いにいつでも動ける構えとなった二人の間に、静寂が流れる。

そして一陣の風が吹き、草が揺れる小さな音が、大きく彼らの耳へと入った。

 

「はぁぁぁっ!!!!!」

「ベノム・ブラスト!!!」

 

一直線に自分へと駆け出してくるGリュウケンドーに向けて、デグス・エメルは

紫色の光球を放つ――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「決して逃げられない死の恐怖というのを味わっただろうけど、そんなもの……

 貴様が奪ってきた人達が味わってきたものに比べれば、蚊に刺された程度だろ……」

 

カズキはすり潰されていく老人を何の感慨も感じさせない目で見下ろしながら、

冷たく吐き捨てた。

 

「さて……彼らをこのままにしておいたら、またクズみたいなカスに利用されるかも

 しれないから、跡形もなく焼き尽くして葬るとして……」

『ん?なんだ?』

 

カズキが自分にできるのは、こんなことだけだと部屋の中にあるガラス円筒を見渡し

目を伏せると老人がすり潰された場所から黒い煙のようなものが現れる。

 

「ああ、クズから発生したマイナスエネルギーだね」

『だねって……おい!』

 

怒りのままに行動して自分達がマズイことをしたかもしれないのに、呑気な声を上げる

カズキにザンリュウジンは慌てふためく。

 

「落ち着きなよ、ザンリュウ。回収される前だから、浄化は問題なくできる。

 だけど、これではっきりしたね。

 創生種は、これも見越していたんだ……。

 手に余る力を手にした人間が、人の道を外れることを……っ!」

 

目の前のマイナスエネルギーをザンリュウジンで切り裂きながら、

カズキは鋭く目を細めながら、舌打ちする。

 

「使うことができる者が限られている力を与えて、マイナスエネルギーが

 生まれやすい環境を作っただけじゃない……。

 人間には、自分の為なら平気で他者を踏みにじる面があることを

 知っていたんだ……っ!」

 

人間の強さを警戒する慎重さだけでなく、自らの欲望の為なら容易く

倫理を捨て“道”を外れることを何とも思わない人間の愚かさも理解

している創生種にカズキは、忌々しく顔を歪める――。

 





一夏と千冬の父親、織斑太夏は魔弾戦士でした。
どんな戦士かは、もう少々お待ちを(汗)

今回のカズキの戦闘元ネタは
「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」からです。
そこに、ブリーチのマッドサイエンティスト。
涅マユリが作った超人薬を混ぜました。
今回のクズみたいな奴をジワリジワリと苦しめるのは、
本当に面白い(黒笑)

デグス・エメルの姿は、レグド達と同じく
ミクロマンのデモン三幹部です。

さて、次こそは書きたいところまでいきたいな(汗)

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