インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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夏休み編がどれぐらいかかるか分からなくなってきた(汗)


少女たちの夏

「…………」

 

とある世界で復讐の騎士オルガードが、澄み切った青空を見上げながら

一人佇んでいた。

 

「あの時……リュウケンドーを助けたのは、貴様が原因か――。

 ……下らない。今更、昔のように……リュウケンドー達のような戦士に

 戻ってどうするっ!

 今の私に守るものは……必要ない!」

 

オルガードは自分の傍に誰かいるように、拒絶の声を上げる。

瞬間、彼の脳裏に失われた日常(たから)の光景がよぎった――。

 

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

「にいさーん!」

「クラード!星守の騎士(テラナイト)見習い、合格おめでとう!」

 

オルガードは、嬉しそうに自分に駆け寄ってくる子供に同じように

喜びの声で出迎えた。

駆け寄ってきた子供……弟のクラードの肩をつかむと祝福の言葉を

口にし、柄のない短剣を手渡す。

 

「この剣は、合格祝いのお守りだ」

「ありがとう、にいさん!

 僕、絶対にいさんみたいな星守の騎士(テラナイト)になれるよう、がんばるよ!」

「なれるさ。クラード、お前ならきっと……」

 

しかし、運命は非情な刃を日常へと振り下ろす。

 

「にいさーん!」

「クラード!」

「子供の命を助けてほしいなら、武器を捨てろ」

「貴っ様らぁぁぁっ!!!」

「オルガード、ここは奴らの言う通りにして、チャンスを待つしかない!」

「すまない……みんな……」

 

時空管理局に人質に取られた弟を救うため、掴んだチャンスの前に仲間の言葉を

聞き入れ剣を捨てるオルガードだったが……。

 

「っ!オルガード!」

「なっ!?」

「ははははは!」

 

何かに気付いたオルガードの仲間は、彼を突き飛ばすと胸に殺傷設定の

魔法を受けその命を刈り取られてしまう。

 

「うわぁっ!?」

「がっ!」

「きゃあああっ!」

 

同時に、周りの仲間達も次々と命を刈り取られていく。

 

「っ!?これが……これがお前達の正義か!!!

 時空管理局ぅぅぅぅぅ!!!!!」

「そうだ。正義の為に多少の犠牲は、必要だ。

 正義の犠牲になれるのを光栄に思え」

「ぐわっ!!!」

 

感情がない声を放つ時空管理局の先兵の凶弾に、オルガードも

倒れ伏してしまう。

 

「にいさーん!!!」

「お前も正義の為の礎になるがいい」

「っ!やめろぉぉぉっっっ!!!!!」

「あああっっっ!!!」

「クラードぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!!」

 

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

「あの日……弟のクラードだけでなく、仲間達も卑劣な手段で殺された……。

 最早、私の生きる意味は復讐のみ!

 この命は、そのためにある……!」

“やめろ!お前が一夏を助けたのは、お前の中に復讐心以外の心が

 残っているからだ!”

「黙れ!もう、私に時間はあまり残されていない……うっ……!」

 

オルガードは胸を押さえ、地面に崩れ落ちる。

 

“待つんだ!まだ、間に合う!”

「……っ!うるさいっ!」

 

弟に渡した短剣を取り出したオルガードは、その剣を自分の胸へと突き刺した――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……」

 

ジジジジジーと太陽が燦々と地面を照らし、自身の存在をアピールするセミ達の合唱

を聞きながら、シャルロットはある家の前で表札とかれこれ、にらめっこを10分ほど

続けていた。

熱中症の心配がされるが、彼女の心は頭上で輝く太陽よりも熱く燃えているため、

流れる落ちる汗とは裏腹に暑さはあまり感じていないようだ。

その心の炎を灯している眼差しは、“織斑”と書かれた表札に注がれていた。

 

「うん、大丈夫。碓氷先生も一夏が、今日家に帰ってくるって言っていたし、

 他のみんなも用事があるって言っていたし……よし!」

 

シャルロットはようやく意を決し、インターホンへ指をおそるおそる伸ばしていく。

 

「何をしているんですか、シャルロット?」

「ひゃっ!?あ、明!?」

「あら?明ちゃんのお友達?」

 

背後から声をかけられ、シャルロットは素っ頓狂な声を上げ振り返るとそこには、

スーパーの買い物袋を提げた明と雅が立っていた。そして……。

 

「え~っと、ナビによるとこの辺りのはずなのですが……」

「ん?あれは、セシリア?」

「あらあら♪今日は、お客さんがたくさんね♪」

 

戸惑う少女達を眺めて、雅は楽しそうな声を上げる。

 

「はい、麦茶をどうぞ♪今朝作ったばかりだから、薄いかもしれないけど……」

「い、いいえ!」

「お、お構いなく……!」

 

雅に促されるまま、家へと上がったシャルロットとセシリアは緊張した顔で

ソファーに座る。

 

「それにしてもどうしたんですか、二人とも?

 連絡もなしに、一夏の家に来るなんて……」

「それは、こっちのセリフだよ!」

「どうして、明さんが一夏さんの家にいるのですか!」

 

買ってきたものを片付ける明に、二人は抗議の声を上げる。

明の手つきは、自分の家で片づけをするかの如く自然であり、昨日今日来たという

感じではなかった。

 

「う~ん、実は……これがカズキさんからの修行なんだ……」

「「修行?」」

 

雅に聞こえない様、雅が離れた隙に明は、シャルロットとセシリアに近づいて小声で

この家にいる理由を囁く。

 

「ええ。狙われていることを知らない人に狙われていることに気付かれない様に、

 護衛するというものです。雅さんには、家の都合でしばらく私は他の家に泊まらなければ

 ならないと説明しています。

 カズキさんや気配を消すのに長けた仲間達から、雅さんを守る……はずだったんですが、

 修行が始まって五日。

 一度も襲撃がないんですよね……」

「それはこの修業が、本当は私が明ちゃんのことを知るのが目的だからよ♪」

「「「うわっ!?」」」

 

明達がコソコソと話していると、いつの間にか席を離れていたはずの

雅も混ざり明達は大いに驚く。

 

「実はね~?カズキ君にお願いしたのよ~。

 ゆっくり、話したことなかったから、しばらく近くで明ちゃんを見てみたいって♪」

「そ、そうでしたか……。

 だったら、何でわざわざこんな……」

「ふふふ♪護衛なら、24時間私の傍にいるからじ~~~っくりと観察

 できると思ったのよ~」

「か、観察って何のために……」

 

ピンポーン。

シャルロットが、雅の言う観察のことを聞こうとするとインターホンが鳴り、中断される。

 

「宅配でしょうか?見てきます」

「お願いね」

 

明が玄関に向かうと、残されたシャルロットとセシリアは再び緊張した顔となり、

雅はニコニコの笑顔を浮かべる。

 

「それで?あなた達は、どうして一夏を好きになったのかしら?」

「「ぶぅぅぅぅぅっっっ!!!!!」」

 

ど真ん中ド直球のストレートボールを投げられ、乙女にあるまじき

吹き出しをしてしまうシャルロットとセシリア。

 

「ふふふ♪夏休みに、わざわざクラスメート……それも男の子の家に来るんだもん。

 そう考えるのは自然よ~」

「えええ、え~っと……」

「そ、そのですわね……」

「続きは、みんなが来てからね?」

「ちょっ!何で、明が一夏の家にいるのよ!」

「おおお落ち着け、鈴。どうせ、一夏が家に誘ったとかそういうことだろrrr」

「箒、それ招き猫……」

「もう!これじゃ、ドッキリ突撃隣のあの人の家に“来ちゃった♪”計画が、

 台無しじゃない~」

「うむ!お姉ちゃん、私達はお兄ちゃんが帰ってくると聞いて、遊びに来たのだ!」

「さ~て、麦茶を用意しないと♪」

 

聞き慣れた声が玄関から聞こえたことで、シャルロットとセシリアは揃って

ため息をつくのだった。

 

「結局、お約束……」

「あははは……」

 

織斑家のリビングは現在、満員電車状態な人口密度であった。

シャルロットとセシリアに続き、鈴、箒、簪、楯無、ラウラといつもの面々が

この家に揃った。その状況に、簪がつぶやき明は苦笑する。

 

「全く、何でいつもの顔ぶれを夏休みにも見るのよ!」

「考えることは、みんな同じ……」

「と言うよりは、カズキさんと雅さんの企みでしょうね」

「大正解☆」

 

鈴の叫びと簪のつぶやきに、明が補足をすると雅は手を上に回して

○を作って、イタズラ成功♪な笑顔をする。

 

「明ちゃんもそうだけど、他の子達ともゆっくり話してみたいって

 カズキ君と話してたのよ~。でも、想像以上に皆とおもしろく会えたわ~」

「面白くですか……」

 

ニコニコと笑う雅に、箒は引きつった笑みを浮かべる。

この場合は魔弾戦士等のことを悟られない様、修行と称した計画を

画策したカズキがすごいのか、

それとも雅が大物なのかはたまたその両方か……。

少女達が、察するには二人の人物は存在が大きすぎた。

 

「ああ、そうだ。セシリアちゃん……だっけ?」

「あ、はい」

「なんか、入学初日一夏に色々と言ったそう……ね?」

 

笑顔の雅がセシリアの肩に優しく手を置いた瞬間――、

ゾクリと明達の背に悪寒が走った。

 

「え……あ、あの……その……」

 

セシリアはすぐにでもその場から逃げたかったが、体は蛇に睨まれたカエルの如く

一ミリも動けなかった。

優しく置かれたはずの手は、万力で締められているような感覚を覚え、雅の体から

発せられている(ように見える)千冬以上の威圧から、言葉もうまく口にできなかった。

見れば箒は鈴と、楯無と簪は抱き合いながら震え、シャルロットとラウラは明を盾にする

ように背後に隠れる。

 

「ふふふ♪そんなに怖がらなくて、大丈夫よ~。

 ちゃんと反省しているのは、カズキ君から聞いているから♪

 でも、反省してなかったら……ふふ……ウフフフフフ♪」

「(反省していなかったら、何ですのーーー!!!?)」

「「「「「「「(ガタガタガタガタ)」」」」」」」

 

影を差した笑みから一転して、最初に出迎えてくれた明るい笑顔に戻ってくれたと

思いきや、再び影を差した笑みとなる雅に明達は戦々恐々である。

 

「そう言えば……ラウラちゃんもカズキ君と出会ってなかったら、いちゃもんを一夏に

 つけてとんでもないことをしたかも……ってカズキ君から聞いたわね~」

「ひぅっ!?」

 

グルリと人形が首を回したような動きで、自分に顔を向けてきた雅にラウラは、

巨大生物に睨まれた小動物のように涙目で震え出す。

 

「おおおおおお姉ちゃん!この人は、一体何なんだ!

 教官でもここまで怖くないぞ!?」

「そんなの私達が聞きたいわよ、ラウラ!」

「わかっているのは、雅さんには誰も勝てないということだ。

 千冬さんだけじゃない……姉さんもカズキさんも勝てないんだ……!」

「ただの一般人……のはずなんですが……」

 

震えるラウラは明に助けを求め、鈴と箒が続いて雅のことを同じように震えながら

口にする。雅がどういう人物なのかは、明も聞きたいらしくその言葉は自信なさげである。

 

「ゴメンなさいね~。ついつい、千冬や一夏のことになると熱くなっちゃって♪

 二人とも子供の頃から見ているから、もう~色々と心配で心配で。

 特に、一夏のお嫁さんになってくれるかもしれない子にはつい……ね~?」

「「「「「「「……へ?お嫁……さん……?」」」」」」」

「お嫁さん?」

 

笑顔から影を消した雅は、自然にとんでもない発言をして明達の度肝を抜く。

唯一ラウラは、意味が分からず小動物のように首を傾げる。

 

「カズキ君に頼んで、明ちゃんを観察させてもらったのは、一夏のお嫁さんとして

 ちゃんと見てみたかったからなのよ。

 で、一夏にはもったいないぐらいのいい子っていうのはわかったけど、他の子も

 負け劣らずのいい子ばかりで、ふふふ♪

 決めるのは一夏だけど……もう!

 こんな罪作りなところまで、あの子達に似なくていいのに!」

「「「「「「「////////////////////////////」」」」」」」

「???」

 

自分の世界に入った雅は、惚気のように楽しく話しているとプンプンと

かわいく怒る。

当然、明達は言葉を口にする余裕はなく、ラウラは頭に?を飛ばすばかりだった。

 

「ああ、そうだ!折角だから、イイものを見せてあげるわ♪

 ちょっと待っててね~」

 

何かを思いついた雅は、足取りを軽くしてリビングを後にした。

残された明達は、顔を真っ赤にして沈黙を続ける。

 

「……うん?これは、教官とお兄ちゃん?」

 

沈黙を不審に思うラウラは、何気なしにリビングを改めて見回すと

棚に飾られているいくつかの写真が目に入る。

 

「ああ、それは一夏や千冬さんの昔の写真だ」

「懐かしいわね~」

「私が、昔見た時より増えているな」

「一夏さんの……」

「昔の写真……」

「それじゃあ、早速……」

「拝見するとしましょう♪……あれ?」

 

飾られた写真を懐かしそうに眺める箒や鈴を見て、興味が湧かないわけがない

他の者達は楯無の言葉を合図に見始めるが、ある違和感に気付く。

飾られている写真は、学校の入学式や卒業式、運動会、剣道の大会等様々なのだが、

写真に写っている雅の姿が服装以外、今と少しも変わっていないのだ。

一夏や千冬は、ランドセルを背負っていたり学生服だったりで時間の流れを

見て取れるが雅は全くと言っていいほど、歳をとっていないのだ。

 

「それね……うん……」

「雅さんは……その……一夏と千冬さんのご両親が子供の頃からの

 知り合いらしくてな……」

「私達が考えている以上に……その……”大人”なんだ……」

 

雅のことを知る鈴、箒、明は何とも言えない表情で写真の姿について話していく。

 

「一夏さんと織斑先生のご両親が子供の頃からの知り合いって……」

「見た目は、20代の主婦だよね?」

「日本のYOUKAIというものか?」

「未来の技術を使ったアンチエイジング?」

「どれにしたって、雅さんの本当の年齢は……」

「私の歳がどうしたのかしら?」

 

あ~だこ~だと、みんなが口にし、楯無が雅の歳を言おうとした瞬間、その肩を

セシリアの時以上に”優し~~~く”雅に掴まれてしまう。

 

「ひゃっ!?」

 

ブリキの人形のようにギギギと楯無が顔を回すと、先ほど以上に笑顔に影を差した

雅がそこにいた。

 

「楯無ちゃんだったわよね?

 ちょ~~~っと、あっちの部屋で”お話”……しましょうか?」

「は、話ならここで……」

「楯無さん……あなたのことは……忘れません!」

「色々あったけど……いざ、いなくなると……うっ!」

「どうか……安らかに」

「「「「(ガタガタブルブル)」」」」

 

雅の笑みが以前会った時に、ラバックをおしおき?した時の笑顔と同じだと

思い出した楯無は、必死に打開策を探すも箒、鈴、明の三人は今生の別れと

悲しみの言葉を口にするだけで、残りのメンバーも震えるだけだった。

 

「ちょっ!あっさり、見捨てないでぇっ!?」

「それじゃあ、乙女(?)の年齢を勘ぐる悪い子がどうなるか……

 たっっっぷりと教えてあげるわね~♪

 遠慮はいらないわよ~」

「いやぁぁぁぁぁっっっ!!!!!

 遠慮させてぇぇぇ!!!!!」

 

楯無は全力で抵抗するも首根っこを掴んでいる雅の手は、ビクともせず、

ただ引きずられていくのであった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

好奇心から破滅を自ら呼び込んでしまった哀れな少女の悲鳴が、家中に響き渡った……。

 

 

 

「じゃ~ん!これが、みんなが気になる一夏と千冬の成長の記録で~す♪」

「…………」

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

自慢の宝物を見せるように、アルバムを手に持つ雅だったが、彼女のワクワクとは

反対に少女達は気が気でなかった。

雅に連れていかれた楯無は、魂が抜けたように無反応でほにゃ~とした表情の

ままであった。

果たして、連れていかれた先で“何”をされたのか……。

 

「まずは……これからかしら♪」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ねぇ~ねぇ~レグド様~。いいでしょう~?

 魔弾戦士達と遊んできてもさ~」

「ダメです」

 

目の前のパネルを操作するレグドに、一夏達にちょっかいを出していいか

ねだるグムバだったが、レグドはあっさりと切り捨てた。

 

「あなたは、面白がってこちらの情報を口にする可能性が大いにあります。

 こちらの計画も最終段階に入っている今、不確定要素はできるだけ避けたい所……。

 そう、彼の者のように――」

 

空中へと映し出した映像には、どこかへと向かっているオルガードの姿が

映し出された。

そして、レグドの横には目覚めの時を待っている三体の獣が静かにその時を

待っていた…………。

 

「こちらが準備しているように、あちらも力を蓄えるようですから、

 ちょっかいをかけるならそれが完了した頃を見計らった方がいいでしょう。

 強くなった彼らの力を確認する意味も含めて……」

「ちぇ~、わかりましたよ~。

 あっ!そう言えば、他の二人はどうしたのさ?」

 

レグドの言葉に納得したが、それでも退屈でしょうがないと暇を持て余している

グムバが、ここにいないベルブやリリスのことを聞いた瞬間、レグドの手が

ピタリと止まる。

 

「…………」

「レグド様?」

「ベルブとリリスですか?……ベルブは“他の世界のジャンプは、ここと同じなのか?”

 と色んな世界のジャンプを探しに……。

 リリスは、“な~んか、面白そうなプールができたから遊びに行ってくるわ♪”

 と水着を手に泳ぎに行きました……。

 二人とも“調整とか計画とか小難しくて面倒なことは、お前に任した!”

 と、私に仕事をブン投げてね――」

「……」

 

レグドの背中から哀愁がただよい、グムバは“優秀すぎるのも大変だなぁ~”と

同情の視線を送るのだった。

 

「確かに、今の段階は待つ割合が多くを占めてますが、それでもやることは

 山積みなんですよ?

 “猫の手も借りたい”とは、人間もうまいことを言いますね。

 暇なら、細かい事以外で手伝うとかいう発想はないんですかね、あの二人は……?」

 

同情の視線を送っていたグムバは、ブツブツとつぶやくレグドに風向きが変な方に

向きかけているのを感じとり、この場からコソ~っと逃げ出そうとする。

 

「さて、リュウケンドー達と遊びたいということは、あなた暇なんですよね?

 では手伝ってもらいましょうか?」

 

だが、グムバが背を向けた瞬間レグドに肩を掴まれ、和やかな声の裏に有無を言わせない

迫力で迫るレグドにグムバが取れる手は一つしかなかった。

 

「……はい……是非とも手伝わせてください……」

 

涙を流しながら、協力を願い出るグムバを見たら一夏達は、優しい眼差しを

送るかもしれない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それでね……♪」

「これは、初めて見ますね……///////」

「ち、小さい一夏さん小さい一夏さん……///////」

「この頃から、千冬さんにベッタリだったのね……」

「あわわわ////////こんな写真まで//////////」

「ふむ。これが、お兄ちゃんと教官の子供時代か」

「意外とやんちゃ坊主だったんだ……」

「こんなお宝写真を見れるとは、思わなかったわ♪」

「少しも飽きませんね///////」

「ただいまー」

 

織斑家では現在、思い出のアルバム公開で大いに盛り上がっていた。

復活した楯無も含めて、全員が食い入るように一枚一枚を目に焼き付け、雅も

写真を見せれてうれしいのかご機嫌である。

そんな織斑家に新たな人物がやってくる。

 

「雅さん、一夏の奴は帰ってきましたか……うん?

 何か賑やかだと思ったら、お前達……か……」

「あら、お帰りなさい千冬♪」

 

ドアを開けて姿を見せたのは、白いワイシャツにジーパンという行動的な服装の千冬

だった。そして、雅が明達に見せているものに気がついて言葉を失っていく。

 

「一夏なら、まだ帰ってきてないわよ?

 まだ、終わらないのかしらね~。おいしいものを作るための合宿?」

「あ、あの雅……さん?机に広げているそれは……」

「もちろん、織斑家の宝物……千冬と一夏の成長記録よ♪」

「何で、こいつらに見せているんですか……」

 

頬を引くつかせる千冬はあっけらかんと言う雅に、いつもの事なのか諦めたように

ガクッと肩を落とす。

 

「せっかく来てくれたんだし、久しぶりに二人の写真を誰かに見せたかったのよ~。

 最近だと、カズキ君ぐらいにしか見せてないしね~」

「はぁ~~~……うん?ちょっと待ってください……カズキに……見せ……た?」

 

雅の言葉に引っかかるものを覚えた千冬は、嘘であってほしいと雅の顔を見るが、

彼女はニコニコと子供がイタズラを成功させたような笑顔を浮かべていた。

 

「ええ~見せたわよ。一夏のも千冬のも……ね♪」

「…………ちょっと出かけてきます――」

 

プルプルと体を震わせたかと思った次の瞬間、千冬は風を置き去りにしていく速さで

家を後にした。

明達が驚く暇もなく、ポカ~ンとしていると……

 

「た、ただ……いま……。

 今、千冬姉がすっげぇ~速さで出ていったけど、何かあった……って。

 あれ?みんな?」

 

千冬と入れ替わる様に、一夏が帰ってきた。

見るからにフラフラで服はボロボロの状態だった。

 

 

 

「はぁ~~~。よりにもよって、それを見られるなんて……」

「照れない照れない♪」

「そうよ、かわいいじゃない♪キシシ♪」

 

帰ってきた一夏は、頭を抱えて机に突っ伏していた。

明達が見ているものに気がつき、千冬のように言葉を失うと膝から崩れ落ちたのだ。

そんな一夏を楯無と鈴が、励ますが表情は笑いを堪え切れていなかった。

開かれたアルバムには、スヤスヤと眠る赤ん坊の一夏が映っていた……

ヒラヒラの女の子用の服を着た一夏が――。

 

「ちなみに、カズキ君にも見せたことあるわよ?」

「最悪だぁぁぁ!!!!!」

 

赤ん坊の自分を見られるだけでも恥ずかしいのに、一番バレたくない人に

既に見られていると知り、一夏は頭を掻きむしりながら叫びを上げる。

 

「それにしても、本当にかわいいよ♪」

「ああ、これはいいものだな//////」

「シャルロットと箒の目が輝いている……あっ。

 これは、ヒーローごっこをやっている時かな?」

「気にすることはないだろ、一夏?子供だったんだから////////」

「さっきから、顔がにやけっぱなしだぞ、お姉ちゃん?」

「一夏と千冬の母親は、演劇が好きで裁縫も得意だったから、

 自分で色々と服を作ってたのよ~。

 二人が生まれてからは、二人を可愛くするのが楽しかったみたいで

 色んな衣装を着せたのよ♪」

 

子供時代の写真を見られた一夏の葛藤を気にすることなく、

明達は黄金の時間を堪能していく。

雅も続いて、一夏や千冬が色んな衣装を着ている理由を述べていく。

ちなみに、明達が見ている写真にはお揃いのフリフリの衣装を着て恥ずかしがっている

千冬と無邪気に笑っている一夏や動物パジャマで眠っている二人、タキシード、ゴスロリ等々、

本当に多種多様な写真があった。

 

「ふふふ♪そろそろ、麦茶のお代わりを入れてくるわね♪」

 

悶えながら葛藤する一夏の姿を心から楽しむ雅は、ご機嫌で麦茶を取りに

台所へと向かった。

 

「そう言えば、一夏。あんた、そんなボロボロになるまで、どんな修行を

 弾とさせられてたのよ?」

「ああ、それは私も気になっていた」

「お兄ちゃんが、こんなになるなんて……

 きっと、とてつもなく凄まじいものに違いない!」

 

机に突っ伏す一夏に、鈴が一夏を見て気になっていた全員の気持ちを雅に聞こえない様に

小声で代弁し、明もそれに続く。

中でもラウラは、ワクワクと言った感じで目を輝かせていた。

 

「……どんな修行だった……って?

 無人島で、鬼ごっこをさせられたんだよ……ゲキリュウケンだけを持って……

 “デカイ”蛇とな……」

『我ながら、よく生き残れたものだ……』

 

デカイを強調して今にも笑い出しそうな声で修行内容を語る一夏と、

どこか遠くを見ているようなゲキリュウケンに、全員呆気にとられた。

笑いの中に狂ったものをにじませる一夏に気付かず……。

 

「蛇と鬼ごっこって……」

「それのどこが、修行なんだ?」

「無人島ということは、サバイバルか?」

「確かにラウラさんの言うように、それは大変ですわね」

「自給自足の生活……」

「大自然に心身ともに鍛えてもらう……まさに、夏休みの醍醐味ね♪」

「そんな修行、楽勝じゃない」

「……そうかそうか~。大きくなったら、ある世界で大陸を貫通しちまう鼻息を

 吐いたり、山を切り取って地球を一周させたり、月サイズの隕石を吸い込めるような

 生き物と互角レベルになる蛇との鬼ごっこを君達は、簡単と言うのだね?

 へぇ~~~……」

「「「「「「「……へ?」」」」」」」

 

鬼ごっこなんて楽勝と言わんばかりの彼女達の反応を見て、一夏は俯きながら口角を

上げて意味深な笑みを浮かべる。

そんな箒達に半ば呆れていた明を除く面々は、続く一夏の言葉にマヌケな声を上げる。

 

「俺達が相手したのは、子供の中の子供だろうけど……そこまで言うなら

 皆はそういうことができる”大人”の方の蛇と鬼ごっこできるようカズキさんに

 頼んでみるよ……ククク……」

「「「「「「「ごめんなさい!ちょっと待ってください!!!」」」」」」」

「ははは……」

『はぁ~』

「あら?どうしたの、みんな?」

 

一夏が口にしたとんでもない生き物は、普通ならそんなバカなと鼻で笑えるが、

カズキが絡むと真実味が増し、箒達は必死に一夏に頭を下げるのであった。

そこへ丁度良く、雅が麦茶のお代わりをもってやってきた。

 

「それにしても、こうしていると昔を思い出すわね~」

 

お茶を配りながら、懐かしげにつぶやく雅に一夏達の視線が自然と

集まる。

 

「ふふふ♪あの子達の周りには、自然と人が集まってね~。

 毎日が楽しかったわ~♪」

 

雅の視線は一夏と千冬の写真の隣に置かれている、二人によく似ている

男の子と女の子が映っている写真へと向かう。

一夏に似た顔立ちの男の子は、Tシャツに半ズボン姿で鼻へ絆創膏を張り、

その手には虫取り網と自慢気に見せるカブト虫という如何にもと言った

ワンパク坊主。

千冬に似た顔立ちの女の子は、本音のように穏やかな感じで動物キャップを

被って大型の犬に抱き着いていた。

 

「本当にどこで何をしているのかしら、この二人は?」

 

呆れながら寂しそうに呟く雅の顔から、一夏達は目が離せなかった。

 

 





楯無は以前ラバックがされたように、雅に(´°ω°`)な顔にされました。
具体的には、”まほらば”と言う作品の原作の方でされる「愛のある」折檻
をされています(汗)

最後の写真に写っているのは、一夏と千冬の両親です。
詳しくは、今後の夏休み編で。

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