インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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最近、急に降るかもしれない雨に気を使うこの頃です。
今期のアニメも大体スタートして、見るモノが固まってきました。
夏コミの準備もそろそろしなければ。

今回の敵は、自分で書いててかなりムカつきました(苦笑)


平等な理不尽

「とりあえず、ここで降りようか?」

「はい。ありがとうございます」

『ちょっとは、元気が出たみたいだな♪』

 

カズキ達は、目的のビルから少し離れた場所に着地していた。

姿などは、風術を応用した光学迷彩でくらましているので人目につく心配もない。

 

「君の伯父さんっていうのは、あそこでキョロキョロしている人かい?」

「そうです。少し遅れたから、心配させちゃったみたいです」

「なら、早く行ってあげるといい。俺は、折角のパーティーに邪魔にならない

 ようにするよ」

「え?」

 

歩いてパーティーのビルに向かうと、その入り口で心配顔をしている男性が秀人の

伯父だとわかると、カズキはそこから風のように姿を消した――

 

「おお!いたいた。おーい、秀人!

 遅かったから、心配したぞ!やっぱり、一緒に来るべきだったかな」

「そんなことないよ、伯父さん。ちょっと、道に迷っただけだよ」

「それ、持ってきたのか?姉さんのラジオ」

「うん……」

 

駆け寄った伯父が秀人のポケットに入っているラジオに気がつくと、

どこか遠くを見る目になる。

 

「懐かしいなぁ……。姉さんが高校の時だったかな?

 急にラジオにはまって……よく付き合わされたよ。

 まさにラジオの虫ってやつ!

 ……もし、姉さんが事故で死んでなかったら、秀人もラジオの虫に

 なったのかな……」

「――……」

 

伯父の言葉に英人はうつむき、ある光景を思い出す。

 

“おい!ガレキの下に親子がいるぞ!”

“急いで応援を!”

“お、母……さん。助けが……来てくれたよ……。

ねぇ……お母さん……!

お母……さん?”

 

デパートへ買い物に出かけ、何かが爆発しガレキの下敷きになったあの日。

救助隊の声で気がついた時、目にした……自分をかばうように抱きしめていた

母の姿を秀人は生涯忘れることはできないだろう――。

 

「…………」

「(いけねっ!)

 ご、ごめん!思い出させちゃったな……」

「えっ……あっ……大丈夫だよ、伯父さん。

 僕なら大丈夫だから。

 伯父さんもいてくれるしね」

「秀人……。

 よ~ぅし!今日はたくさん食べような!

 美味しものが、たっくさんあるぞ~!」

 

しんみりとした空気になりかけたが、それを振り払うように二人は

ビルの中へ入っていった。

 

 

『それにしても、珍しいよな~』

「何が?」

『お前が、あんな励ましをするなんてさ。

 いつもなら、俺達が通訳しないとわからないような励まし方をするのに』

「ふっ。たまにはそういう時もあるさ」

『ふぅ~ん?ところで、カズキ。秀人に、ついていなくてよかったのか?』

「風術を使って見張りはしているし、近くに俺がいたら相手が何をしてくるか

 わからないからね。

 それに、ちょっと調べたいことがあるからね……」

『あの分身からして、そんなに大した相手じゃないと思うんだが……』

 

向かいのビルの屋上で腰かけながら、カズキは手持ちのパソコンであることを

調べていた。その間も風術で、秀人の見張りは怠っていない。

 

「大した相手じゃないというのは同感だけど、問題はそこじゃない。

 秀人を“狙って”いることだよ、ザンリュウ」

『どういうことだよ?』

「俺達が、今まで対処してきたミールの実験体は理性を失い、

 本能の赴くまま行動していたけど、今回の相手は的確に行動している。

 人間みたいにね……」

『おいおい……創生種の力に呑まれなかった人間がいるっていうのか!?』

「まあ、あのガキが一応は創生種になれたんだから、成功例が一つぐらいは

 あってもおかしくないけど、狙いは一体なんだ?

 ここに来るときに風術で秀人を視てみたけど、どこにでもいる普通の子供だった」

『それじゃあ、何で……』

「――そういうことか。大体の答えが見えてきたよ……。

 とりあえず、お前はこっちに定期連絡しに来ているウェイブとタツミに、

 急いで連絡をしてくれ。俺は……」

 

敵の正体を掴んだカズキは、ザンリュウジンに指示を出して立ち上がると、

屋上に秀人をつけまわしていた分身体が、無数に現れた。

 

こいつら(お客さん)の相手をしよう……。

 “邪魔になりそうだから消しとくか”……そんなところかな?

 随分、舐められたもの……だね!」

 

歯をカチカチと鳴らして、襲い掛かってくる理を外れた魔の存在へ、カズキは駆け出す――。

 

 

 

「ほー!養子もお考えですと?」

「ええ……。秀人も受け入れてくれますし……。

 何より、互いに唯一の家族になってしまいましたから、それが一番かと……」

 

パーティーへと参加した秀人と伯父の二人は、他の参加者達へ挨拶をして回っていた。

 

「うんうん。それがいい。家族は一緒にいるべきです。

 良かったね、秀人君!」

「はい、ありがとうございます!

 お母さんがいなくなった時は、すごく辛かったけど……

 伯父さんのおかげで立ち直ることができました!」

「いや~、子供なのに本当にしっかりしているね」

「そっ、そうですか?」

 

伯父やカズキの願い通り、楽しい時間を過ごす秀人だったが……

“悪意”というのはそんな時間を壊す為に牙を磨くのだ――

 

「楽しんでるかい?秀人く~ん♪」

「えっ?」

 

男とも女ともつかない声に、秀人が振り向くと伯父の顔に例の分身体が張り付いていた。

 

「ぶっ壊しにきたよ。君のぜ・ん・ぶ・を♪」

 

分身体が離れた伯父は、そのまま気絶しそれを合図にパーティー会場のあちこちで

爆発が起きる。

 

「何!?今の音!」

「ば、爆発?……爆弾!!!」

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」

「お、伯父さん!」

 

パーティーに参加していた人々は、我先にと逃げていく中、秀人は倒れた

伯父へと駆け寄る。

 

「へぇ~。秀人君は逃げないんだ?

 普通、わが身大事で逃げ出すのに、ほんとうにお人よしだねぇ~。

 まっ、逃げてもムダなんだけどね♪

 後一分で、あちこちに仕掛けた僕のかわいい分身(ペット)

 ドッカ~ンってなるからさ~。

 このビルが吹き飛ぶ爆弾がね♪」

 

秀人に心底楽しんだ声でしゃべりかける分身体は、見る見るうちにその姿を

変えていき、下半身がクモで上半身が人間のガイコツのような“化け物”となった。

 

「さあ、秀人君。

 傷心を癒している君へ、僕からのとっておきのサプライズプレゼントだよ~。

 存分に楽しんでくれよ!」

「(なんだよ、コレ?何なんだ……)」

 

化け物の言葉は、秀人の頭に最早入っていなかった。

あまりに常軌を逸した現実に、思考が追いついていなかった。

 

「いいよいいよ!その顔!

 最っっっ高だよ!でも、大丈~夫♡

 君は殺さないからさ♪

 だってさ~。君、アレでしょ?

 僕が前に“爆破した”デパートの生き残りでしょ?」

「えっ?ば……くは……し、た?」

 

呆然としていた秀人は、化け物が発したある言葉に反応をして

幸か不幸か思考を取り戻してしまう。

 

「いやぁ~今思い出しても、ほんとムカつくわぁ~。

 全員殺すはずだったのに、君生きているじゃん?

 完璧主義者の僕としては許せない汚点だよ、ホント。

 だから、新しい力を手に入れて秀人君を見つけた時は、興奮したよ~」

「(何を言っているんだ?)」

「すぐにヤっちゃおうと思ったんだけど……君の周りの人間を

 目の前でヤった方がおもしろいかな?って気がついてさ~♪

 ギャハハハハハ!」

 

秀人は化け物の言葉を理解したくないはずなのに、極限に追い込まれた思考

が否応なく現実を理解してしまう。心では認めたくないのに、体は自然と目から

涙を流していく。

 

「(嘘だ……お母さんが……事故じゃなくて殺されて……

 伯父さんも殺されるなんて――)」

「それじゃあ、君の絶望が始まる記念日☆

 じっ~~~くりと、目に焼き付けて味わってよ♪

 ご~、よ~ん、さ~ん、に~、い~~~ち……」

「(嘘だ……)

 やめてぇぇぇぇぇ!!!!!」

「ゼロぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

不条理を告げるカウントダウンがゼロになった瞬間、秀人の周りを風が

吹き抜けた――。

 

「……あれ?」

「遅れてすまない、秀人」

 

風が吹き抜け、声が聞こえた方を向いた秀人の目に映ったのはザンリュウジンを

アーチェリーモードで構えた、カズキの姿だった。

 

「ぐげっ!」

「カズ……キ……さん……」

「こいつが仕掛けた爆弾、無駄に数が多くてね……。

 全部処理するのに、時間がかかちゃったよ」

『後は、俺達に任せろ!』

 

化け物を躊躇なく攻撃したカズキは、秀人を守るように彼の前に立つ。

 

「ごめんなざい……ごん、な……僕が……。

 僕のせいで……こんな……」

「俺が“謝られる”意味が分からないね?」

「え?」

 

俯き涙を流しながら、謝る秀人にカズキは疑問の声を上げる。

 

「別に君は、俺に“助けてくれ”って言ってないだろ?

 助けることも、守ることも、決めたのは“俺自身”だ。

 だから、俺がケガしようが手足がぶっ飛ぼうが、それは

 “俺自身”の責であって、君が気に病む必要はない。

 寧ろ君には、“どうして、もっと早く助けに来てくれなかった!”と

 俺を責める正当な権利がある」

『……』

 

カズキの言葉に、秀人は唇を噛みしめさっきまでとは違う意味で流れる

涙が止まらなかった。不器用な言葉とは、裏腹に伝わってくるカズキの

思いやりに……。

その様子にザンリュウジンは、口を挟まなかった。

 

「とにかく、安心してくれ。君の悪夢は……

 今、終わる……!」

「お前……何で生きて……いやそれより、どういうことだよ?

 僕の爆弾(ペット)に何をしやがったっっっ!!!」

 

化け物は、起き上がると巨大な足をカズキに振り下ろすが、アックスモードへと変えた

ザンリュウジンで軽々と受け止められてしまう。

 

「――んなっ!?」

「……ふん」

「ごがっ!」

「何をしたって……言っただろ?全部処理したって?

 確かに一つ潰したら、それを感知して他が爆破するっていうのは厄介だけど、

 それなら全部を“同時”に潰せばいいだけさ。

 探査こそが、風術の真骨頂だからね」

『いや、それ。かなり規格外なことだからな?』

 

化け物を殴り飛ばしたカズキは、つまらないことだと言いたげに自分がしたことを

述べるが、ザンリュウジンが冷静にツッコミを入れる。

カズキが行ったのは、風術による探索である。

これにより、ビルのどこに爆弾があるのか、そして爆弾がどういうものかまで

調べ、風による遠距離攻撃で全てを同時に切り裂いたのだ。

ビルの中を隈なく調べ、ピンポイントで同時に遠隔で処理した等、誰が聞いても

そんな馬鹿なことと信じないだろう。

やってのけたのが、カズキ以外であったのなら――。

 

「ああ、横に注意した方がいいぞ?」

「な、に……?」

「「おおおおおりゃぁぁぁっっっ!!!!!!」」

 

倒れ伏す化け物にカズキが忠告した直後。

横の壁を破壊して、グランシャリオを纏ったウェイブと白と鋼色の鎧を

纏ったタツミが化け物を蹴り飛ばした。

 

「……」

「ご苦労だったね、二人とも。

 秀人。彼らは俺の仲間で、黒い鎧が“修羅化身、グランシャリオ”。

 白いのが、“悪鬼纏身、インクルシオ”だ。

 まだまだ成長途中だけど、秘めたポテンシャルはかなりのものだよ」

 

乱入者の登場に唖然とする秀人に、カズキは何事もなかったかのように自然に

ウェイブとタツミの紹介をする。

 

「“ご苦労だったね”じゃないですよ、カズキさん!」

「いきなり、俺とウェイじゃなくてグランシャリオに

 おつかい感覚でこっちに来てくれって、

 何の説明もなしに呼び出すんですから!」

「いや、何。それには仕方がない理由があるんだよ。

 得体の知れない化け物に襲われて、傷心の少年の心を救うには

 二人の鎧みたいに、カッコイイ姿のヒーローが助けるのが一番だろ?」

「「呼び出した理由がソレ!?」」

「……と言うのは、冗談で。二人なら護衛も戦闘も申し分ないからね。

 他のメンバーは、大体が戦闘向きだから」

『カッコイイとかの所は、半分マジだったろ?』

「あははは……」

 

漫才としか見えないカズキ達のやり取りに秀人は、苦笑を浮かべるばかりだった。

 

「はぁ~。まあ、何にせよ。ちゃちゃっと片付けちゃいましょう」

「俺とインクルシオの攻撃がもろに入ったから、ダメージも相当のはずだ」

『けど、それにしても妙に静かなような……』

「っ!離れろっ!」

 

こんなこと(漫才)をしている場合ではないと戦闘へと意識を切り替える一同だったが、

カズキが二人に蹴り飛ばされた化け物の異変に気がつくとその体から光が溢れだし……

カズキ達を巻き込んで爆発した――。

 

 

 

「……あれ?」

「大丈夫か?」

「え、あの……インク……ルシオ……さん?」

 

爆発を見て反射的に目をつぶった秀人が目を開けると、自分を心配して顔をのぞき込む

インクルシオことタツミの顔が目に映った。

タツミは爆発から秀人をかばうために咄嗟に、自分の体が盾になるように

彼を抱きかかえたのだ

 

「一体何が……」

「あの野郎~。破れかぶれで自爆しやがったな」

 

秀人が自分達の身に何が起こったのかと、辺りを見回すと部屋は見る影もなく

黒焦げの状態だった。秀人達や倒れ伏す伯父の辺りを除いて――。

 

『カズキが張った風の結界のおかげで、全員無事みたいだな』

「ザンリュウジン!」

「お前、何でそんな所に!?」

 

状況を確認しようとするタツミとウェイブの目に、床に置かれたザンリュウジンが

目に入った。

 

『あの野郎……。俺を置いていきやがったんだよ!』

 

 

 

「はぁ……はぁ……。流石に……あれなら、死んだっしょ……」

 

ビルの屋上で、先ほどまで秀人を襲っていた化け物がビルの屋上で息を荒くして

大の字で寝っ転がっていた。その下半身は、クモではなく二本足をしていた。

 

「いや~あんな化け物みたいな奴がいるなんて、予想外で焦ったけど

 最後に笑うのは僕みたいに賢い奴さ!

 まさか、自分の体を爆発させて、逃げるなんて誰も思わないでしょ♪

 体の半身が無くなったから力も大分弱まったけど、ククク。

 これで、僕が死んだと思っているだろうから、力を取り戻して現れたら秀人君

 はどんな反応をするかな~。

 ついでに、僕の邪魔をしたあいつらの知り合いにもお礼をして……」

「そんな気をつかわなくてもいいよ?」

「っ!?」

 

全身ボロボロで息も絶え絶えながら衰えるどころか、更に狂気を加速させる

化け物は、背後から耳に入った言葉に戦慄した。

後ろを振り返ると、かすり傷一つ負っていないカズキが佇んでいた。

 

「どどど、どうして!?」

「お前みたいに、他人をおもちゃとしか見ていない奴が、

 自分と一緒に誰かを道連れなんて度胸のいる真似なんかするわけないからね……。

 あの場面での爆発は、逃亡のためっていうのはすぐわかったよ」

「何なんだよ……何なんだよ、お前!!!」

「何だっていいじゃないか……。

 俺は、ただの地獄への案内人さ……。倉野伸之(くらののぶゆき)

「なっ!?」

 

狼狽する化け物に対して、カズキは笑顔で気さくに語り掛ける。

だが、その笑みから温かさは一切感じられなかった。

 

「倉野伸之。爆弾に異常なまでの執着を見せ、

 その爆発とそれに伴う悲鳴に快楽を覚えた愉快犯。

 被害者は、秀人の母親を含めて多数。

 警察との逃亡の際に事故で息絶えるが、完全に命が尽きる前に

 クソガキ(ミール)に拾われ

 人間から創生種へ変わるための実験体とされる。

 そして数少ない成功例として復活し、クソガキがいなくなった後は手に入れた力で

 再び爆弾遊びで更に被害者を増やす……何ともまぁ、大変素敵で

 不愉快極まる経歴だね~倉野くん?」

「何だって……何だって聞いているだろ!」

 

化け物は自分の正体を見破られ、笑顔で嫌悪感を隠そうともしないカズキに

言い知れぬ恐怖を感じ始めるが、既に遅かった――。

 

「言ったじゃないか……俺は……」

 

カズキはおもむろに手を上げ、手のひらを地面にかざすと――。

 

「地獄への案内人だって――」

 

倉野を中心として、魔方陣が展開された。血よりも赤い光を放つ魔方陣が――――。

 

「こ、これは!?」

「知っているかい?命を奪うっていうのにも、色々ある。

 殺されそうになって、自分の身を守るために反射的に望まずして……。

 金が欲しいっていう、欲のため……。

 愛する者を奪われた復讐のため……。

 自分の快楽のため……。

 色んな理由があるけど……人間の誇りや魂を捨ててまで

 命を奪う奴が…………“まとも”な地獄に行けると思うなよ?」

「な、何を言って……うわっ!?」

 

淡々とカズキが言葉を紡いでいくと、魔方陣の光が収まり落とし穴のような

ものが現れ、倉野は落ちそうになるが辛うじて手を引っ掛けて落ちるのを免れる。

 

「ひ……ひぃぃぃっっっ!!!!!?」

 

穴の奥を見て倉野は悲鳴を上げた。

最早、言葉にならない怨嗟の声を上げるおぞましい姿の

亡者達が倉野目がけて手を伸ばしているのだ。

 

「この穴は、ちょっと特別な地獄に繋がっている。

 お前みたいに道を外れてまで理不尽を世にもたらす奴が、永遠に苦しむための……ね?

 罪を犯した魂は、仮初の肉体を与えられていつ終わると知れない苦痛が

 地獄で与えられるけど、そこは違う。

 肉体だけでなく、魂も終わることのない永劫の苦しみを味わう。

 お前の場合は、殺した人達と同じ痛みを体験できるんじゃないかな?

 一人一人のね。

 肉体も魂もその地獄では滅びることが無いから、永遠に……フフッ♪

 良かったじゃないか。大~好きな爆弾の味をその身で、味わえ続けるなんて

 早々できることじゃない。爆弾好きには、たまらないんだろ?」

 

必死に落ちないようにしている倉野に対して、カズキは誰もが見惚れる清々しい

笑顔を向ける。

そんな、笑顔や言葉の陽気さとは異なり、うっすらと開けたカズキの目からは

夜の闇さえ凍えさせる冷たさを放っていた。

 

「俺の家系は今でいう悪霊退治、それもお前みたいに人間をやめてこの世に害なすモノを

 退治するのを専門にしていてね~。最も、直接地獄へ繋げるこれは禁術だけど。

 そんな歴史ある技で、地獄に行けるのを光栄に思うといい」

「たたた、助けてくれ!

 僕が悪かった!も、もう二度と誰かを襲ったりしない!だから!!!」

 

自分がようやく、決して怒らせてはならない存在の怒りを買ってしまったことに

気付いた倉野は必死に命乞いをする。

 

「ふふふ……。

 他人の命は平気で踏みにじれるのに、自分の命が踏みにじられるのは嫌……

 ってわけか…………

 ふざけるなぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

倉野の命乞いに顔を俯かせたカズキは、不気味な笑いをしたかと思ったら

突如として怒りの声を上げる。

普段は、自分の感情を悟られない様に飄々と余裕のある態度は今のカズキには

なかった。

 

「自分より弱い奴は踏みにじって奪いたいけど、強い奴には踏みにじられたくない、

 奪われたくない……何様のつもりだ!

 助けてほしいだと?お前は、一度でもその言葉を聞き届けたことがあるのか!

 奪われ、残された者の気持ちを考えたことがあるか!

 永遠に癒えることのない心に刻まれた傷の痛みを!

 降りかかった理不尽への絶望を!抗えない無力感を!

 怒りを!悲しみを!!!!!」

 

怒りの表情で大声を上げるカズキの脳裏に、降り注ぐ雨の中で悲しみと怨嗟の涙を上げる

一人の少年の姿が映し出される。

 

「突然の事故、病気による余命の宣告……。

 理不尽な運命っていうのは、確かに誰にでも訪れる……。

 お前は秀人や多くの人に理不尽をもたらして、今度は“俺”に理不尽をもたらされる……。

 ただ、それだけのことだ……。

 ――お前に、ザンリュウで斬る価値はない」

「いやだいやだいやだいやだいやだぁぁぁ!!!!!」

「そもそも……子供に理不尽をもたらす奴は地獄行きっていうのが、

 俺の信念(ルール)なんだよ――」

 

最初から倉野の意見など聞いていないのか、カズキは一切の躊躇もなく

穴に落ちまいとしがみついている腕を風の刃で切断する。

 

「あああああぁぁぁぁぁっ!!!」

「文句の続きは、そっちに行った後で聞いてやる……。

 俺もいずれそこ(地獄)に行くからな――」

 

腕を切断された倉野は、亡者達に掴まれ地獄へと堕ちていった。

穴は役目を終えたためか、何事もなかったように消え去り、後に残った

カズキは、誰に言うわけでもない言葉を静かに口にした。

 

「出るタイミングを逃しちゃったな、タツミ」

「ああ。けど、あんな感情的になるカズキさんは、初めて見たぜ」

『秀人を見て……昔を思い出したのかもな……』

 

カズキを追って、屋上へとやってきたザンリュウジン達は影からカズキを見ていた。

そして、何も言わずそこから立ち去ったのだった。

 

 

 

「伯父さんは2、3日入院する必要があるみたいだけど、

 体に分身体が憑りついているわけでもないから、安心してくれ」

「本当に、何から何までありがとうございます……」

 

カズキ達は、秀人の伯父を病院へと運び廊下でその状態を話していた。

だが、秀人の顔は優れなかった。

 

『おい秀人、そのラジオ……』

「……はい。さっきの騒ぎで、壊れちゃったみたいで……」

 

秀人は手に持つラジオのスイッチを入れるも、カバーが割れて中が露出した

ラジオからは雑音しか聞こえなかった。

 

「カズキさんに言われたようにいつかは吹っ切らなきゃっていうのは

 分かっていたんですけど、まさかこんなすぐになんて……。

 色々ありすぎて、ちょっとすぐには立ち直れない……かな……」

 

自分を脅かす存在は去ったが、引き換えに心の支えであるものを失って

落ち込む秀人に、ウェイブとタツミは励ます言葉が見つからなかった。

カズキはそんな秀人を見て、少しだけ考え込むように目を閉じて意を決したように

目を開ける。

 

「秀人。出かける時、泥棒が入らない様に家には鍵をかけるよね?」

「え?あ、はい……」

「鍵をかけるのは、泥棒が入る“かも”しれないという“もしも”を

 避けるために必要なこと……。

 このまま、“この人”を放っておいたら、その想いは歪んで面倒なことに

 なるかもしれない。君も立ち直ることができず、前に進めないまま道を踏み外して

 しまうかもしれない……。

 ……だから、これはそんな“もしも”を避けるために必要なことだ……」

 

何の前置きもなく、語り掛けるカズキに全員が首を傾げるが、カズキが秀人の

ラジオを握るとそこから光が溢れだし、人の形へと集まっていく。

 

「おい、まさか……」

「えええぇぇぇっ!?」

 “秀人――”

「あ、そんな……。

 おか……あさ、ん……」

 

半透明で光っている秀人の母が目の前に現れて、ウェイブとタツミは驚愕し、

秀人は言葉を失ったまま涙を流す。

 

“秀人を守っていただき、本当にありがとうございました”

「俺は、俺の仕事をしただけですよ。

 秀人。そのラジオに、君のお母さんが憑いていたのはすぐにわかった。

 でも、見えることもしゃべることも出来ないから、今一時的に

 君とお母さんが会話できるぐらいに俺の力をわけたんだ」

「カズ……キ……さん」

「残念ながら、触れることはできないけど……せめて別れの言葉を……」

“いいえ、十分すぎます。

秀人、ごめんね。もっと傍にいてあげたかったのに一人置いていちゃって……。

これから先も大変なことが、たくさん起きるかもしれないけど、一人で

抱え込まないで――。

誰よりも優しいあなたに手を差し伸べてくれる人達が、きっといるから――”

「……う゛ん

(傍にいてくれてたのは……気のせいじゃなかった――。

ずっと……いてくれてたんだ――)」

 

触れることはできないけど、秀人を抱きしめるように母は手を回し、別れの言葉を

紡いでいく。

その光景に、最初は驚いていたウェイブとタツミも涙を滝のように流す。

 

“これからは、空の上から秀人を見ているからね――”

「お母さん……ありがとう――」

 

秀人の言葉を最後に、母はその場から姿を消した。

今度こそ、本当に秀人の前から……。

 

「さて、秀人。これは、俺がよく行く食堂の住所だ。

 何か困ったことや相談したいことがあったら、そこに行くといい。

 俺がいなくても、赤い長髪でバンダナを巻いた奴に言えば、俺と連絡がつくから。

 まあ、何もなくてもうまい食堂だ。一度、行くことを薦めるよ」

「はい。本当に……本当にありがとうございました……!」

「で?どうする、そのラジオ?

 直そうと思えば、元通り直せるけど?」

「……これは――――」

 

秀人に、弾の実家の住所を書いたメモを渡すとカズキは、ラジオを直すか問いかける。

少し考えた後、秀人は――。

 

 

 

「“このままでいいです。お母さんとは、ちゃんと繋がっていられますから”

 ……かぁ~。しっかりしてるな~タツミ?」

「ああ、全くだ」

 

カズキ達は、カウンターに座ってラーメンを食べていた。

急な呼び出しをしたからと、カズキが遅めの夕食を奢っているのだ。

 

『それにしても、あんなことをしてよかったのかよ、カズキ?』

「うん?」

『一時的とは言え、下手に霊とかを見えるようにしたら、それをきっかけにして

 眠っていた力が目覚めちまうかもしれねぇだろ?

 そしたら秀人の奴、面倒なことになるぞ?』

「わかっているよ、ザンリュウ。

 だけど、彼をあのままにしていたら、母親を追い求める

 心の隙を誰かに狙われるかもしれないし、母親の方も母親で子を守りたいっていう

 想いが歪んで悪霊になってしまうかもしれない……。

 形はどうあれ、死んでしまった魂がこの世に居続けるのは、よくないからね……。

 例え、我が子を見守りたいという理由でも……」

 

飄々としながらも、真剣な感情を帯びた言葉にウェイブとタツミは息をのむ。

 

「確かにお前の言うように、今回俺が力をかしたことがきっかけで、秀人の

 眠っているかもしれない力が目覚める可能性はある。

 それでも、この別れは必要だったんだ。俺と同じ道を歩ませないためにも……。

 まあつまり、要約すると秀人のためって言うより俺が過去の自分を見たくないからって、

 自己満足なんだけどね~。

 それに……別れも言えない理不尽な別れっていうのはごまんとあるんだ。

 こうやって、たまたま出会えたおかげでちゃんとした別れができる

 なんて、他の人からしたら理不尽だと思わせてもいいだろう――」

「「……」」

 

カズキの言い分に、思うところがあるのか二人は何も言わない。

 

「それで?お前は、何をしに来たんだ……クリエス・レグド?」

「な~に、ちょっとした見学ですよ?」

『「「っ!!!?」」』

 

ウェイブとタツミがカズキの横に目を向けると、いつからそこにいたのか

長髪で人当たりのよい印象を与える顔だちの青年が座っていた。

 

「私もミールの実験でちょっと気になる点が、ありましてね?

 個人で調べていたんですよ。

 そしたら、驚くことがわかりましたよ。

 この実験には、時空管理局も一枚嚙んでいるようです」

「管理局が?おい、まさか……」

「ええ、私達に反旗を翻そうとしている者達がいるようなんです。

 その者達が、反旗が漏洩するのを防ぐための目くらましとして

 実験体を世に放ったようです。

 最も、無駄なことだと思い知ることになるでしょうが……」

「全くこの忙しい時に、面倒なことを。はぁ~」

「「『って……。何普通に敵同士で、会話してるんだぁぁぁ!!!!!』」」

「?だって、今戦うつもりはないんだろ?レグド?」

「ええ。今は、食事を楽しんでいるだけです。

 人間の創造する力というのは、本当に私達の想像を超えていきますね~。

 あっ。ラー油をとってもらいます?」

「それじゃあ、そっちのコショウをとって」

「どうぞ」

 

敵同士にも関わらず、ラーメンを食べるカズキとレグドにザンリュウ達は

呆れて言葉が出てこなかった。

 

「そう言えば……」

「どうしました?」

「何かを忘れているような……」

 

カズキは、ふと何かを思い出そうと頭を指で叩く。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ははははは!懐かしいな、弾!

 カズキさんに初めての課題を出されたのが、この無人島だったよな?」

「そうだな、一夏♪

 “一は全、全は一の答えを探せ”……武器に変えれなくなったゴウリュウガン達と

 ナイフ一本で放り込まれたよな~。

 いや~最初はどうなるかと思ったぜ~」

「そして、初心を思い出す為って、また放り込まれたんだよな~」

「あははは!」

「ははは!」

「ゲゲゲゲゲ!!!」

『二人とも、現実逃避している場合じゃないぞ!』

『追いつかれるのは、時間の問題である』

「「……なんでここにデビル大蛇なんかがいるんだぁぁぁっ!!!!!?」」

 

一夏と弾は背後から自分達を食わんとする猛獣から、全力で逃げていた。

二人は現在、修行前に初心を思い出す為にと、最初の修行を行ったある無人島へ

来ていた。そこで彼らを待っていたのは、

紫色の蛇のような長い体からいくつもの手を生やした三つ目の猛獣、

デビル大蛇との食うか食われるかの命がけの鬼ごっこであった。

 

『だが、データにある大きさよりも遥かに小さいな』

『恐らく、幼生であると推測。今回の為に、カズキが用意したのだろ』

「そんなことはどうでもいいんだよ、ゲキリュウケン!」

「そうだ!幼生だろうが、消化液とか毒針があるヤバイ生き物に変わりねぇだろ!

 初心を思い出す為なのに、お前達を武器に変えられない様に

 しないのはおかしいと思ったんだよ!」

「ゲジャァァァッッッ!!!」

「「助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!!」」

 

一夏と弾の叫びが無人島に響き渡る――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「う~ん……ウェイブとタツミに、何かさせようと思ったんだけど……

 まあ、いいか」

「何だろうな、タツミ……」

「ああ、カズキさんが忘れてなかったら一夏達と一緒にとんでもない目に

 あわされた気がする……」

 

 

 





一夏達が行った最初の修行と言うのは、ハガレンの無人島サバイバルです。
そして、デビル大蛇は原作で最初の方に出たものよりサイズは小さい
子供です。それでも危険生物に変わりありませんがwww
果たして、一夏達の運命は(笑)

レグドの人間体は、印象は人当たりの良い好青年です。


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