インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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今回は、早目に更新できました~。
そして設定を除いて、やっと50話目。ここまで長かった~。
前半はコミカル、後半はシリアスとなっております。
それでは、どうぞ!


日常の裏の非日常――

「いい……いいわ!!!

 純粋だったあの一夏君が、あんな悪魔の微笑みをするなんて/////!!!」

「店長、鼻血!鼻血!」

 

カズキ直伝の笑みを浮かべる一夏を見て、さつきは恍惚とした表情で鼻血を滝の如く

流して、血の海を広げていく。

 

「シャルロット!お兄ちゃんのあの笑みは、何だ!

 よくわからないが、見ていると背中がゾクゾクするぞ!」

「ええ~っと、あれは碓氷先生と同じタイプの笑顔って言うか何て言うか……。

(あの笑顔で、甘い言葉を耳元で囁かれたら……あぅぅぅ~~~////////)」

「全く、一夏と言う奴は……//////

(もしも、二人きりの時にあれをされたら――)」

“ふふふ、どうしたのですか?

そんな小鹿のように足を震わせながら、期待に満ちた目をして?

そんなに私にいじめられたいのですか?”

“ば、ばか!そんなことあるわけないだろ///////!”

「(だぁぁぁぁぁっっっ!!!私は何を考えて////////////!!!!!!?)」

 

恍惚とした表情を浮かべるさつきや客以上に、顔を真っ赤にして他人には見せられない

妄想をする明達に収集がつかなくなるが、その時事件が起きた。

 

「全員、動くんじゃねぇ!」

 

突如として店内に響く怒声に、全員の視線が向かうとそこにはジャンパーにジーパン姿の

男が三人雪崩れ込んでいた。

しかも、三人とも顔を覆面で隠し背中に背負ったリュックからはお札がはみ出ており、

手に持った拳銃を店内の人間へと向けていた。

甘い夢から現実へと無理やり引き戻されたお客の何人かが、事態を理解していくと

一人が悲鳴を上げ、それを合図に次々と悲鳴が上がっていく。

 

「きゃあああっ!?」

「いやぁぁぁっっっ!!!」

「うるせぇ!静かにしやがれ!」

 

リーダーと思われる男が拳銃を上に向かって発砲すると、客達は静まり返る。

そう。メイド・ラテに強盗犯が逃げ込んできたのだ。

漫画やアニメでお馴染み?のどこかマヌケさを感じさせ、正義のヒーローに

簡単にやられるかませ犬なキャラのお約束?な格好の強盗犯だが、それでも

強盗犯は強盗犯。武器を持っている以上、従わざるを得ない。

 

「あー、犯人一味に告ぐ。君達は完全に包囲されている。大人しく投降しなさい。

 繰り返す――」

 

強盗犯がメイド・ラテに雪崩れ込んでから、然程の時間が経たないうちに店の周りを

駆け付けた警官隊が包囲を固め、投降を呼びかける。

 

「どうしやしょう、兄貴!このままじゃ……!」

「うろたえんじゃね!こっちには、人質がいるんだ。

 ビビることはねぇ!」

「高ぇ金払って手に入れたコイツもありやすしね」

「……何か、こういう警察や犯人のやりとりって、マンガやテレビで見たことある……」

「……タイムスリップしちゃったのかな、私達?」

 

人質という非日常な出来事にも関わらず、目の前で行われる一昔前の“お約束”に人質となった

客達は、呑気な感想をもらす。

そんなことを言われているとは気づかず、犯人達は大金をはたいて入手したコイツ……

ショットガン、サブマシンガンを店の前の警官達に向かって発砲していく。

 

「人質の中に、僕達みたいな厄介ごとに慣れている人間がたまたま居合わせたのも……」

「お約束ですね……」

「それじゃあ、お嬢様方の穏やかな一時を台無しにした無礼な方々を排除、ゲフン。

 もとい、掃除すると致しましょう」

「うむ」

 

発砲音で現実へと再び引き戻された人質達とは対照的に、いつもと変わらない調子の

メイドと執事がお嬢様達の平穏を取り戻すために、動き始める。

 

「うん?なんだお前!」

 

入手した銃器の発砲に満足した強盗犯の一人が振り向くと、無言のラウラがじぃ~っと

視線を送っていた。

 

「大人しくしねぇなら……」

「おい、待てよ。折角だし、接客してもらおうぜ?

 時間はたっぷりあるんだしさ~」

「何してんだ、おめぇら?」

「あっ、兄貴!いやね?

 折角のメイド喫茶なんだし、この可愛い子におもてなしを

 してもらおうかと……」

「そうだな……。おい、メニュー持ってこい!」

「お持ちしました」

 

こちらを観察するようなラウラを訝しむ強盗犯達だったが、それ以上に可愛い子と

お近づきになりたいという欲求が勝り、だらしない顔で席に座ろうとするとラウラの

背後からトレーを持った明が姿を見せる。

 

「うおっ!?こっちのメイドさんも可愛い/////!」

「胸もでけぇ!」

『(……おい。気持ちはわかるが、せめてもう少しだけ我慢しろ)』

「…………」

 

突然姿を見せた明に一気にテンションを上げる強盗犯だったが、

離れた所で待機する一夏はきれいな笑顔を浮かべる。手をゴキリ!と鳴らしながら――。

執事でありながら、“あくま”みたいなことをしやしないかとゲキリュウケンは

必死に一夏をなだめる。

 

「それじゃあ、早速……って、なんだこりゃ?」

「水でございます」

「水って……あの……」

「メ、メニューは……」

「こちらは、ご主人様やお嬢様の穏やかな一時を邪魔する方々への

 特別メニューとなっており――ます!」

「ふん!」

 

明がトレーで運んできた氷を入れただけの水道水が入った3つのコップに、強盗犯達は

戸惑い、ラウラが説明を付け加える。そして、ラウラがコップの一つを手に持ち、

強盗犯の一人に投げかけると同時に、明がもう一人の顔面めがけてトレーを投げつける。

 

「冷っ!?」

「っでぇぇぇ!?」

「ふっ!」

「てぇぇぇい!」

 

突然襲い掛かった冷たさと痛みで強盗犯の二人が目をつぶった隙を逃さず、

一夏とシャルロットは飛び蹴りを強盗犯達に叩き込む。

 

「てめぇらぁぁぁ!!!」

「遅い!」

「ふん!」

 

一夏達の奇襲に強盗犯のリーダー格は、当然のように怒り手に持つ拳銃の

銃口を向けるが、明がそれを持っていた手ごと蹴り上る。

更に、ラウラが無防備となった鳩尾に拳を放つ。

 

「ぐぇっ!?」

「はぁぁぁっ!」

 

あまりの痛みにリーダー格の男が腹を抱えて膝をついた瞬間を狙って、シャルロットが

かかと落としを決めて男を床に沈めた。

 

「やっぱり、執事服でよかったかな?思いっきり足上げても平気だし」

「このぉっ!……へ?」

 

倒れ伏す男を見ながら、シャルロットが自分の服装に安堵していると

水をかけられた方の男がダメージから回復し、サブマシンガンを構えると

その銃口には食事で使うナイフが刺さっていた。

 

「失礼」

「はっ?ごげっ……!?」

 

呆ける強盗犯の背後に回った一夏はその首に手を回すと、何のためらいもなく

グギリ!と音を鳴らして“おとした”。

 

「お、おめぇら……本当に執事とメイドか……?」

 

目の前で起きた出来事に最初に一夏に飛び蹴りを叩き込まれた一人が、床に倒れながら

信じられないという声で一夏達に問いかける。

しかし、これは当然の結果である。

軍人であるラウラはもちろん、専用機持ちとなれば『ありとあらゆる事態』を

想定とした訓練を受ける。

その中には、ISを使えない場合を想定した事態も含まれる。

付け加えるなら、一夏も同様に魔弾戦士に“変身できない”事態を見越した訓練を

受けている。

明も魔弾戦士の力となるべく、厳しい修練を積んでいるので言わずもがな。

たかが、使い慣れていない武装をした素人の強盗犯等、この4人の敵ではないのだ。

 

「ふっ。メイド・ラテの執事とメイドたる者、強盗程度を撃退できないで

 どうします?」

「くっ……ぬ……」

『(ノリノリじゃないか……)』

 

倒れ伏す男へ素敵な笑みで答える一夏に、ゲキリュウケンは呆れた声を静かにこぼす。

そんな中、男はふとあることに気付く。

今の自分の位置ならあと少しで、明のスカートの下が見えそうになり動こうとすると

……その視界を食事用のナイフが遮った。

後数センチずれていたら、永久に視界が遮られただろう。

 

「おや、すみません。私もまだまだですね。

“うっかり”とナイフを落としてしまいましたよ~。ふふ♪

 気を付けてくださいね?ひょっとしたら、また“うっかり”落として今度は

 …………ね?フフフフフ――」

「……はい」

 

笑顔だが、光を宿していない目で倒れる強盗犯に語りかける一夏に

強盗犯は本能に従って、意識を手放すのだった。

 

「制圧、完了」

「ふぅ~」

「お疲れ様でした」

「「「「「…………」」」」」

 

正しく電光石火の早業に、さつきも従業員も人質のお客達も揃って呆然とし、

事態を理解するのに時間を要した。

 

「ええ~っと、助かった……の?」

「あの華麗な動き……お姉様//////♡」

「執事さんの冷たい笑みに容赦のなさ……ぜ、是非私を下僕に/////」

 

それぞれが事態を飲み込んでいくと、強盗犯が撃退されたのに気付いたのか警官隊が

店の中へやってきた。

 

「みんな、マズイよ!

 僕達代表候補生で専用機持ちだから、取り調べとかになったら大変なことに!」

「そうですね。では、店長。私達はこれで失礼します」

「――ふざけんじゃねぇぇぇ!全部吹き飛ばしてやるぅぅぅ!!!」

 

シャルロットの言葉に一夏達が裏口から抜け出そうとすると、リーダー格の男が

フラフラながらも立ち上がり、着ていた革ジャンを広げる。

そこには、プラスチック爆弾の腹巻が巻かれており、男の手には起爆装置らしきものが

握られていた。

 

「最後までお約束にしなくても……」

「全く往生際が悪い!」

 

誰かが口にしたのを合図に、ラウラが先陣をきって一夏達が動きす。

ラウラは強盗犯が落とした拳銃を蹴り上げ、飛び上がったシャルロットがそれを掴む。

ダダダダダッ!!!

 

「「「「チェックメイト!」」」」

 

ラウラは自前のハンドガンを。シャルロットはラウラが蹴り上げた拳銃、明はクナイ、

一夏はナイフを使って、強盗犯の体に巻かれていた爆弾の信管と導線“だけ”を

的確に撃ち抜き、切り裂いた。

 

「まだやる?」

「次は、その腕を吹き飛ばすか?」

「ごめんなさぁぁぁいいい!お助けぇぇぇ!!!!!」

 

ニコリと笑うシャルロットと絶対零度の視線を送るラウラの二人に、銃を突き付けられ

今度こそ、強盗犯は敗北を認め命乞いをする。

それを見て歓喜で震えるメイド・ラテを後に、一夏達は風のようにその場から去った。

 

 

 

「ふぅ~~~。ここまで来れば大丈夫かな?」

「全く、お前といるといつも気が休まらないな」

『何かに憑かれているんじゃないか?』

「なかなか、刺激的な体験だったぞ!」

「あははは……」

 

公園へと逃げ込んだ一夏達は、そこで一息ついていた。

すると一夏はあることに気付く。

 

「あれ、この公園ってあのクレープ屋がある所じゃないか?」

「クレープ屋?」

「おいしいと評判のクレープ屋です。

 よかったら、みんなで行きますか?」

「それって、ひょっとしてミックスベリーを食べると幸せになれるって

 ジンクスがあるお店?さっき、メイド・ラテの人から噂を聞いたよ?」

「ええ、それで合ってます……///////」

 

一夏の言葉からクレープ屋に行くことが決まったが、シャルロットは

何故か頬を赤くした明に、恋する乙女の直感を感じ取っていた。

 

「おっ。あったあった♪」

 

目的となるクレープ屋は、すぐに見つかった。

客がそこそこ集まっており、大半が中学生か高校生の女子だった。

 

「じゃあ、頼もうか?すいませーん、ミックスベリーを4つ下さい」

「ざんねーん。もう売り切れみたいだよ、ミックスベリー」

「ははは……ごめんねー。ミックスベリーは人気でねー」

 

早速注文をするシャルロットだったが、同じようにミックスベリーを注文したのか、

前に注文した子から売り切れだと知らされ、店の主である30代前半と思われる男性

からもすまなさそうな声が上がる。

 

「そうなんですか……」

「じゃあ、おじさん。イチゴとブドウを二つずつで♪」

「おっ、君は……わかった。ちょっと待ってくれ♪」

「…………//////」

「?」

 

肩を落とすシャルロットに変わり、一夏は別の注文をする。

以前来たのを覚えていたのか、一夏の顔を見ると男性は温かい目で笑うと

クレープを作り始める。その傍らで顔を赤くする明に、ラウラは首を傾げた。

 

「お待たせしましたー♪」

「ありがとう、おじさん」

「あっ、一夏お金……」

「いいって、今日は俺が奢るよ。

 で、どれがいい?」

「うーん、じゃあイチゴ」

「私はブドウを」

「それじゃあ、明はイチゴでいいか?」

「わ、わかった/////」

 

クレープをそれぞれ受け取るのを見ると、一夏はイタズラ小僧の笑みを

浮かべる。

 

「それじゃあ、ミックスベリーを食べようかな?」

「え?」

「む?」

「なっ!?お前h、むぐっ//////!?」

「「「なぁぁぁっ////////////////////////!!!!!?????」」」

 

一夏は自分のクレープを一口食べると、手に持つクレープを明の口に

含ませる。その光景に周りは驚きの声を上げる。

 

「……~♪」

「……/////////」

 

ニコニコと微笑む一夏の視線に明は何かをためらうが、観念したように

自分のクレープを口にすると、今度はそれを一夏に食べさせるかのように

差し出す。

 

「……んぐっ。やっぱり、おいしいなミックスベリー♪」

「……お前はどうして、そう……////////」

『(何も口になどできないのに、口の中が甘い……)』

 

ここには、自分達しかいないかの如く振舞う一夏と明に、周りは

ただ呆然とするばかりだった。

 

「イチゴとブドウ……なるほど。

 ブルーベリーということだな、店員?」

「うん、正解」

「ブルーベリー?……あっ。あああっ!?」

 

呆然とする周囲の中、唯一人ラウラは何かに気付き店員に確認を取り、

シャルロットも遅れて気がつく。

 

「ひょっとしてミックスベリーって、イチゴのストロベリーとブルーベリーを

 一緒にしてってこと!?

 ……って、ブルーベリーはブドウじゃないよ!」

「まあまあ、お嬢ちゃん。細かいことは気にしない気にしない♪」

 

シャルロットのツッコミを店員は軽く受け流す。

つまり、食べると幸せになれるミックスベリーとは二種類のグレープを

食べ合いっこさせることで味わえるものだったのだ。

食べ合いっこできるほど仲の良い友人で、味わえばより絆も深まり幸せに

なるだろう。

ましてや――

 

「恋人同士なら、尚更ね~。いや~青春してて、おじさん羨ましいよ~」

 

苦笑いを浮かべる店員の前には、楽しそうに笑う一夏と顔を赤くする明が

じゃれ合っていた。

もちろん、周りの大半は悔しさと羨望で地団駄を踏んでいるが、何人かは

何かを決意したようにガッツポーズをしていた。

 

「では、シャルロット。私達もミックスベリーを堪能しよう。

 はむっ……。ん……」

「ラ、ラウラ?この状況で……はぁ~。

 わかったよ、あ~ん……。

 美味しいけど気のせいか、なんかしょっぱいな……」

 

マイペースにミックベリーを味わいたいラウラは、シャルロットに一口食べた

クレープを差し出す。一夏と明のようにミックスベリーを堪能するが、その味は

どこか塩味がきいていた。

そんなシャルロットを置いて、ラウラはクレープの味を楽しんでいた。

 

「それにしても、ここまで有名になるなんて、あのカップルには感謝だね」

「あのカップル?」

「そう。そもそも、このミックスベリーは10年前ぐらいにあるカップルが

 君達と同じようにして食べたのが始まりなんだよ」

「へぇ~」

「あの時は、驚いたよ~。

 彼女が食べていたクレープを彼氏がパクッと食べたと思ったら、

 顔を真っ赤にした彼女が日本刀振り回して追いかけっこを始めたからね~」

『「「「…………」」」』

 

幸せのミックスベリーの始まりを聞いて、一夏達だけでなくゲキリュウケンも無言となる。

件のカップルが、自分達の身近にいる気がしてならなかった。

 

「お兄ちゃん!何故か、兄様と教官の顔が思い浮かんだぞ!」

「奇遇だな、ラウラ。俺もその光景が頭に浮かんだよ」

「私もだ」

「僕も」

『(右に同じく)』

 

みんな顔を見合わせて苦笑いを浮かべる中、ラウラは意味が分からず

首を傾げた。

 

 

 

「う~~~。思った通り、かわいいよラウラ!!!」

「そうか?」

 

時刻は夕食の時間を過ぎ、シャルロットとラウラの寮部屋でシャルロットは

悶えていた。

本日購入したものの一つ。色違いでお揃いのパジャマを早速着てみたのだが、

ラウラの姿にシャルロットは目を輝かせ、ラウラはよくわからないと首を傾げる

ばかりで、その仕草がますますシャルロットの目を輝かせた。

 

「ところで、これは本当にパジャマなのか?」

「そうだよ。かわいいでしょう♪」

「パジャマにかわいいとか、必要なのか?」

 

はてなマークを頭に浮かべて、再びラウラは首を傾げる。

2人が現在着ているパジャマは、袋状になったパジャマに全身を入れるもので、

フサフサした耳としっぽに、手足に肉球がついた……のほほんさんが愛用するような

着ぐるみパジャマ、猫さんversionだった。

ちなみにラウラは黒猫、シャルロットは白猫である。

 

「ねぇ~ねぇ~ラウラ~。ちょっと、にゃ~んって言ってみて?

 にゃ~んって♪」

「にゃ~ん?これでいいのか?」

「~~~!ラウラ……可愛い♪」

「???」

 

シャルロットに言われるまま、猫の鳴き声をマネるラウラ。手振りまでやる

オマケつきである。

感激したシャルロットは、ラウラに抱き着き頬ずりをする。

ラウラは訳が分からず、混乱するばかりである。

余談だが、後日ラウラの着ぐるみパジャマでの猫のマネはメイド服のモノと合わせて

ドイツのある部隊に送られ、感激の声と鼻血を吹き出す音が途絶えなかったそうだ。

そして、吹き出された鼻血で赤く染まった部屋と幸せな顔で鼻血の海に沈む隊員という

異様な光景が怪談話として恐れられるのは少し先の話である。

 

「シャルロット、そろそろ放してくれ。少し熱い……」

「え~。いいじゃん、もうちょっとだけ♪」

 

何かのエネルギーチャージの音が聞こえるぐらい、シャルロットのポカポカメーターは

グングンと上昇していく。そこへ……

コンコン。

 

「は~い~。どうぞ~」

 

扉をノックする音を聞いて、シャルロットは気楽にそれに応える。

 

「邪魔するぞ……」

「へっ?お、織斑先生!?」

「教官!?」

 

部屋に入ってきた予想外の人物に、シャルロットとラウラはそのままの姿で固まる。

一方の千冬は、刀のように鋭く細めた目で二人を見下ろす。

 

「何、大したことじゃない。そんなに畏まる必要はない。

 ……カズキが一夏から聞いたのだが……今日バイトしたらしいな?

 メイド・ラテで……」

「え?あの……その……はい……」

「(ガタガタガタガタ)」

 

口元を釣り上げた笑みを向けながら問いかけてくる千冬に、シャルロットとラウラは

体を震わせながら答える。

 

「まあ、私の昔のバイト等別に隠すことでもないし、誰に話しても構わないが……。

 笑い話にされるのはちょっと……なぁ?」

「「ひぃっ!?」」

 

2人は“優しく”肩に置かれた千冬の手に、飛び上がる。

 

「ふふふ……ははははは――」

「「あ……あははは……」」

 

目元が笑っていない笑みをこぼす千冬に、シャルロットとラウラは乾いた笑いを

するしかなかった。

聞いたらギョっとする笑い声が、夏の夜のIS学園寮に響き渡った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ぐげっ!ごぼ……」

「一丁上がり……と」

『お疲れさん』

 

IS学園から少し離れた夜の繁華街の人気のない路地。

そこで、カズキは一仕事終えて首をゴキゴキ鳴らしていた。

切り刻んだ異形の残骸を足元に散らばせながら――。

 

「さて、安心して修行できるよう面倒ごとは、さっさと片づけますか」

『だけど、死んでも面倒ごとを残すとか勘弁してほしいぜ、あの小僧』

「同感だね……」

 

現在、カズキ達は魔物退治に勤しんでいた。

ミールが改造した魔物を――。

 

事の始まりは、臨海学校後からだった。

カズキはミールが自身を創生種に変えたことにある疑惑を覚え、近頃

行方不明や不可思議な事件が起きていないか調べたのだ。

 

“ミールの様な自分を至高と考えるような奴が、何の確証もなく

 自分の体をいじることをするだろうか?”

 

ひょっとしたら、一般人を攫って創生種に変わるための実験をしているのでは

ないかと調査を開始すると、不審な行方不明が多数起きているのがわかった。

カズキ達は、違う世界からの侵入者に目を光らせているが、ミールは大分前から

表の世界に忍び込み、その隙を突いて実験を行っていたようなのだ。

 

「だけど、その実験のほとんどは失敗だったみたいだな……」

『後に残ったのは、理性も何も失わされた哀れな被害者達の成れの果てだけ……』

 

カズキとザンリュウジンは、足元に散らばる異形の残骸がミールのように塵となって

消えていくのを目を逸らさず、見届ける。

 

「データを取るために残していたのか、わからないけど管理していた奴が

 消えたことで世に解き放たれた……」

『それで被害が増大って……はぁ』

 

ため息をこぼすザンリュウジンと同じ気持ちのカズキだが、その視線は

どこか別の方を向いていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(なんだコレ?)」

 

ある場所で、小学校の低学年と思われる一人の少年が腰を抜かして声を失っていた。

今彼の目の前に、化け物としか言いようのない巨大なクモが立ちはだかり

彼を嘲笑っていた。

 

「(なんだコレ?なんだコレ?なんだコレ?なんだコレ?なんだコレ?

 なんだコレ!!!!!?)」

 

生理的嫌悪を感じさせるその姿に、少年は逃げるという選択肢が

思い浮かばないほどパニックに陥る。

 

「あ……あ……」

 

異形のクモが口を開き唾液を垂らした瞬間、一筋の閃光が真っ直ぐクモの

体に走り、文字通り真っ二つに切り裂いた。

 

「……え?」

「ケガはないかい?」

『俺達が来たからには、もう大丈夫だぜ少年!』

 

彼の前に現れたのは、不敵な笑みを浮かべてザンリュウジンを担ぐカズキだった。

 

 

 

「……じゃあ、お兄さん……カズキさんは噂の魔弾戦士なんですか?」

『おうよ!そんでもって、俺は相棒のザンリュウジンだ。よろしくな!』

 

カズキとザンリュウジンは場所を変え、助けた少年、大空秀人に自分達のことを

説明していた。

 

「それで、俺達はある事件の後始末をしているところだったんだけど、

 たまたま君が襲われているのを見つけて、助けに入ったんだ。

 ところで、君はあの怪物に何か心当たりはないかい?

 あいつは意図して、君の前に現れたような気がするんだけど……」

「……わかりません。

 数か月ぐらい前に僕の前に現れて、その時はケタケタ笑ってすぐ消えたんですけど、

 それからもたまに出てくるだけで、何もなかったんですけど……。

 あれは、一体何なんですか?」

「俺達も詳しいことは、調べている所なんだ。

 わかっているのは、新種の魔物と呼ぶべきもので俺達が片づけなきゃいけない

 ってことだ」

「そうですか……でも、ありがとうございます。

 もうカズキさんが退治してくれたから、安心ですね」

 

自分を襲ってきた怪物はカズキに倒されたと、安心する秀人だったが、

カズキは顔を横に振る。

 

『あ~……水を差して悪いんだけどよ……』

「まだ、何も終わっていないよ」

「え?」

「さっき俺が倒したのは、相手の偵察や観察に使う分身体だ。

 それを操る本体が、まだ残っている」

「そ、そんな……」

『心配すんなって!寧ろ、お前は自分のラッキーに感謝するべきだぜ?

 何てったって、俺達と出会えたんだからな!』

「ザンリュウの言う通りだ。俺達が、君を守る。

 だから、安心してくれ」

「はい……ありがとうございます」

 

知らされた事実に、震える秀人だったが、ザンリュウジンとカズキの言葉に

笑みを浮かべる。そして、ズボンのポケットからラジオを取り出す。

 

「それは?」

「……お母さんの形見です……。

 お母さん……そんなにモノを持たなかったから、これぐらいしかなくて……。

 これを聞くとお母さんが、今も傍にいてくれる気がするんです。

 おかしいですよね、そんなの……」

『ぞんなごとあ“るが――!!!』

「どんな人間だって大切な人がいなくなったら、何かに面影を求めるのは

 当然のことだし、現実として認めたくないのも自然さ。

 前を向くにも、後ろにあったものを確認するものも必要だしね」

 

渇いた笑みを浮かべる秀人にザンリュウジンは、号泣しながら彼の言葉を否定し、

カズキは助言を与えて彼の頭を撫でる。

 

「さて……と。そろそろ君を送っていこう。

 家はどこだい?」

「あっ、いえ。あそこに送ってもらっていいですか?」

 

秀人が指さした方向には、巨大なビルが建っていた。

 

「伯父さん、お母さんの弟さんが僕を引き取ってくれて、元気づけようと

 パーティーに誘ってくれたんです」

「へぇ……」

「正直、あまり行きたくなかったんですけど行きます!

 ちょっとずつ、僕も前を向かないと!」

「……わかった。あそこまで送っていこう」

「ありがとうございます!」

 

そして、カズキはデルタシャドウを呼び出し、ちょっとした空の旅を

秀人に送った。

 

『(なあ、秀人が狙われているなら

 あんな人が集まった場所に行くのはマズくないか?

 もし襲われたら……)』

「(その危険はわかる。だけど、もし秀人が狙われているのだとしたら、

 逆に現れない方が危険だ。秀人が姿を消したら、無差別に誰かを襲う可能性が

 高い……。倒した分身から感じた気配は、そういうことをするイカれ野郎だ)」

 

空の旅の中、カズキは静かに秀人を狙うモノへの怒りを燃やしていた。

いつもと少し違う彼の胸中には、何があるのか……。

 

 

 

「グフフフ……。

 秀人くん、喜んでくれるかな?僕のサ・プ・ラ・イ・ズ・プレゼント♪

 ぎゃははははは!楽しみにしててね~秀人く~ん?」

 

ドス黒い悪意は、静かに忍び寄っていた――

 

 





原作のミックスベリーにオリジナル設定を加えましたwww
千冬は、別に昔していた自分のバイトがバレても構いませんが、
それでも多少恥ずかしいし、笑われるのは・・・ね(苦笑)?

一夏の”あくま”で執事はまた出そうかな~?

最後にカズキは、修行を行うためにちょっとした後始末を。
ジャンプの読み切りがモデルです。

そして、次回……カズキがブチ切れます!

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