インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの 作:すし好き
社会人の天敵である残業の襲撃に加えて、休日出の奇襲まで受けていました(泣)
とにかく、最新話完成です。
そしてついに!
教室にいた子たちは、息を呑んだ。
一夏が言ったことは、戯言。
所詮、男が言う負け惜しみのはずなのに、言い返す言葉が出てこなかった。
一夏の迷いのない瞳が、纏う空気がそうさせているのか、自分たちが知る男という存在と彼は何かが違うと本能で悟った。
いや、そもそも自分たちの男への認識が間違っていたのか……。
そんな中、セシリアは自分がこの男に気圧されていることが信じられなかった。
ひょっとして、自分はとんでもない相手に喧嘩を売ってしまったのでは?という考えが頭をよぎるが、すぐにそんな考えを振り払う。
自分は、代表候補生だ――!
男に気圧されることなんてない――!
必死に、そう自分に言い聞かせるが一瞬でも頭をよぎった不安というのは簡単に拭うということはできなかった。
皆が固唾を呑む中、そんな空気自分には関係ないとばかりにカズキが動いた。
「ところで、一夏。これ、渡しとくね」
「何ですか、コレ?」
「アリーナと訓練用ISの使用許可書。
とりあえず、来週までの一週間でとれたのは二日分だからね~」
カズキが一夏に渡したのは、練習用のISと訓練に使うアリーナを
使用する際に必要な許可書だった。
「ちょっ!碓氷先生!
何で、もう持っているんですか!!!?」
山田先生が驚いて問いかけるが、当然である。
本来、ISの訓練に必要なこの許可書は、最低でも数日前に
予約をとらなければとれるものではないのだ。
そんなものを何故、カズキが持っているのか?
「ああ、コレ?
予約とれないかな?って担当の人にお願いして、
“コレ”見せたら快~~~く取らせてくれたよ♪」
“コレ”といって、カズキが見せたのは黒い表紙に白いオドロオドロシイ文字で
――“悪魔手帳”――
と書かれた手帳だった……。
「やっぱり、それだったか……」
その手帳のことを知っているのか、一夏の頬は引きつっていた。
よく、見ると千冬も苦虫を噛んだような顔をしている。
「な、何なんですか?それ?」
「それは、カズキさんが集めたいろん~~~な人たちの知られたくない黒歴史や秘密が
つまった手帳ですよ」
「く、黒歴史にひ、秘密ですか……?」
山田先生がおそるおそるといった感じで尋ねると、その手帳の使い方を見てきた一夏が答えた。
「うん、そうだよ。
例えば、……。
弟とその友達の絡みに興奮したり、夜にオバケが怖くて一人でトイレにいけなかったり、
照れ隠しで相手の顔にグーパンチをかましちゃったとかね☆」
「「「なぁっっっ――!!!?」」」
使い方の例としていくつか、手帳に書いてあることをしゃべったら、心当たりがある子が驚きの声をあげた。
「ハハハ、別にオバケが怖くても気にすることないと思うんだけどな~♪
千冬ちゃんだってその手の映画を見た時は、一人でお風呂に入ることも寝ることも
できなかったから、一夏を引っ張ってきて一緒に……」
ザシュ!
さらっと千冬の黒歴史を暴露したカズキに、ためいらなく刀を振り下ろす千冬
だが、カズキが持っていた出席簿を斬るだけに終わって、見事にかわされてしまった。
「お前と言う奴は……、余程命が惜しくナイノダナ?」
再び降臨した幽鬼に皆が震える中、カズキは飄々とした態度を崩さなかった。
「別に恥ずかしがることは、ないじゃん。
俺だって、昔はオバケが怖かったんだよ?」
「うっそだぁ~」
フォローなのかカズキも自分がオバケを怖いとバラすが、一夏が否定の声をあげた。
それはクラスの面々も同意見だった。
千冬をここまでおちょくるもとい、振り回す人がオバケを怖がるなんてとても信じられなかった。
「ほんとだって。
後ろにオバケがいるって聞いたら、どこかのマヨラーみたいにマヨネーズ王国の入り口
を探したり、知り合いが百物語とかした時は、家で一人寝ていたら怖くなって、
みんなのとこに突っ込んだこともあるんだよ~。
それも頭から、ハハハ♪」
「信じられないな……」
笑いながら、話すカズキに一夏をはじめとしたクラス全員が、疑いの目をするのをやめなかった。
「まあ、でも今は大丈夫だけどね♪
実際、話してみたらいい奴らだったからね~♪」
「へぇ~、なるほど。…………ん?」
「「「「「えっ?」」」」」
「むっ?」
もう、オバケは怖くないと言うカズキだが、その言葉の変なところにカズキ以外のクラス全員が疑問を浮かべた。
「「「「「(……話したって……、一体“誰”と!!!?)」」」」」
「アハ☆」
誰と話したのかは、わかるが果たして事実なのか冗談なのか……。
カズキのつかみどころのない笑顔から、それを判断できる者はその場にいなかった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「では、これで4時間目を終了する……」
授業の終わりを告げる千冬だったが、どこか覇気がなかった。
それは、生徒の皆も同じであった。
あの後、授業を始めるものの皆どこかぎこちなかった。
カズキは、そんな様子がおかしいのか、これといって千冬をからかうこともなく授業を過ごし、教室を後にした。
「ふぅ~。
やっと、昼か。
ここまで、長く感じた時間も初めてだな~
でも、皆さっきからどうしたんだ?」
『(事の発端がどの口で、言うんだ?)』
「ん?」
そう。
あの発言のせいで、一夏は初日からクラスメートに少し距離を置かれているのだ。
だが、一夏からしたら別におかしなことをしたという自覚がないため、何故彼女たちがよそよそしいのか理解していないのだ。
そんな中、カズキと同じく教室に流れる異様な空気なんか関係ないZ・E☆
と動く少女がいた。
もっとも、彼女がそんな空気を呼んでいるのかは甚だ疑問だが……。
「おりむ~
一緒にご飯、食っべよ~♪」
「そのおりむ~っていうのは、決定なのかい?のほほんさん?」
「細かいことは、気にしな~い気にしな~い♪」
一夏に話しかけたのは、眠そうな目をして長い制服の袖をパタパタと振っている
布仏 本音であった。
「ところで、のほほんさんって?」
「ああ、それ?なんか名字は呼びにくいし、かといって名前で呼ぶってのもあれだから
俺もあだ名を考えたんだ」
『(いきなり、あだ名というのもどうかと思うが……)』
「おお~。いいねいいね♪
おりむ~、いいセンスしてるよ~。
でも、なんでのほほんさん?」
「なんか、空気がのほほんとしてるから」
「なるほど~」
「ところで、何の用だったけ?」
「え~~~っと……、なんだったけ?」
「あらら~」
本音ことのほほんさんは、ボケかツッコミかと聞かれたら大半のものが前者だと答えるだろう。そして、一夏も非常識な仲間たちからしたら基本ツッコミ役であるが、ボケる時は誰かが止めないとそのボケが止まることはない。
まあ、ようするにツッコミがいないとボケ同士はいつまでもちょっと待て!みたいなおかしな会話を続けるということだ。
本来なら、昼食に行くはずなのにのほほんさんと一夏の間にはほにゃ~とした空気が流れていた。
「うぉい!何ボケ同士で、漫才してんのよ!あんたたちは!!!」
「ツッコミなしの漫才って、あれかい?私への挑戦か!!!」
そんな空気を見かねたのか、元来の世話焼き体質かはたまたツッコミの血が騒いだのか、ほにゃ~とした空気を切り裂くものたちが現れた。
「「うん?」」
「あんたたち!
昼ごはんの話してたのに、何であだ名の話になってんのよ!」
「ツッコミもおらずに漫才とか、舐めとんのか!」
「アリサちゃん、落ち着いて~」
「お、おい。アリサ」
「はやてちゃんも落ちつこう?」
「はやても、何か話ずれているよ~」
一夏と本音にツッコミを入れたのは、アリサとはやてであった。
その後ろから、彼女たち二人をなだめるすずかと箒、なのは、フェイトが現れた。
「のほほんさんの知り合い?」
「ううん。違うよ~」
「だ~か~ら~!
ええ~い!まどろっこしい!
ほら、箒!」
「お、押すな!」
再び、ツッコミのいないボケ同士の漫才が始まってはたまらないと、アリサは自分たちの目的である箒の背中をグイグイと押して前に出した。
「箒?」
「えっ、あっ、そ、そのだな……、ひ、久しぶりだな一夏/////」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「へぇ~。箒の小学校時代の友達か~。
それが、こんなとこで再会なんてすごいな」
「いやいや。すごいのは、あんたもやで織斑くん。
男のあんたと女の園のIS学園で再会とか、お釈迦様もびっくりやで♪」
一夏たちは現在、食堂にいた。
あのまま、教室で話をするのもあれなので食堂へと場所を移したのだ。
もっとも、はやてやアリサは再会した初恋の相手にどうすればいいのか途方にくれている箒のための場所をセッティングするのが目的であったが……。
「この場合、知り合いの女の子を引き寄せる一夏の体質がすごいんじゃないかな?
フランスで会った僕まで、いるんだからね♪」
「そうだな、昔離れ離れになった“幼馴染み”の私と再び会えたのだからな……」
「もう一度会えるかわからなかった、
別の国の”私”とまた会えた方がすごい気がするけどな~」
「ハハハ……」
「フフフ……」
「何で、二人とも笑っているのにこんなに怖いんだろう……?
というか……、誰か席変わってくれ!」
『…………』
ごらんのように、一夏は今箒とシャルロットに挟まれる形で座っている。
教室から食堂へ行こうとした時、これ以上ライバルたち出遅れてなるものかと
シャルロットも一夏たちに声をかけ、現状にいたるということである。
目が合った瞬間、互いの気持ちを察した恋する乙女たちは早くも牽制をし、その場で感じる体感温度は春になったばかりだというのに真冬のように寒い。
特に二人の間にいる一夏は、氷の世界にいるかのようだ。
そして、ゲキリュウケンは触らぬ神にたたりなしと言わんばかりに沈黙を続けていた。
「うっわ~!これが修羅場って奴なんやね~」
「なんかすごく楽しそうだね、はやてちゃん」
「のんきにしている場合じゃないわよ、なのは!
ただでさえ、できる大人とみせかけたドジっ子お姉さんっていう強敵までいるのに、
あのシャルロットって子、油断ならない感じの子よ!
私たちがしっかり、箒を応援しないと!!!」
「やっぱり、なんか燃えてるね。アリサ」
「自分を見てるみたいで、ほっとけないんじゃないかな?
それにしても、本音ちゃん遅いね」
そんな一夏たちを見ながら各々それぞれの反応をするなのはたちだが、食堂に集まるきっかけとなった本音の姿は見えなかった。
教室を出る前に、「私のともだちを連れてくるから、先に行っててねぇ~」といったきりで姿を見せていないのだ。
何かあったのかと、すずかが少し心配してると気の抜けるような声が聞こえてきた。
「ほらほら~、かんちゃ~ん♪
はやく、はやく~♪」
「ほ、本音!押さないで~」
火花を散らしている箒とシャルロット、その間にいる一夏以外のなのはたち5人がその声がする方に顔を向けると、にこにこと楽しそうに笑いながら、小動物を思わせるような感じの水色の髪に眼鏡をかけた子の背中を押しながらこちらにやってくる本音の姿を見た。
「やぁ~やぁ~、皆お待たせ~」
「遅かったわね。で?その子が、言っていたお友達?」
「そうだよ~
私の親友のかんちゃんだよ~」
「は、始めまして!さ、更識簪って言います……」
人見知りなのか最後の方は、消え入りそうな声で簪はあいさつをした。
「ほらほら、かんちゃん♪おりむ~にもあいさつあいさつ♪」
「ちょ、ちょっと待って、本音!
こ、こころの準備が……」
「お~い、おりむ~」
「ほ、本音!」
若干興奮気味の本音に、一夏が呼ばれて焦る簪の姿になのはたちはまさかと思った。
「な、なんだいのほほんさん?
あれ?君は……」
「はははははいいいいい!!!
さささ更識かかかかか簪とももも申しますすすすす!
先日は、あああ危ないとこをたたた助けてもらって
ああああありがとうごごごございまひゅひた!!!」
「?ああ、どういたしまして」
「はう~~~//////////」
先ほど、なのはたちに名前を言った時とは比べ物にならないぐらいにテンパる簪。
誰が見ても箒やシャルロットと同じだということが分かるが、一夏は人としゃべるのが苦手なのかな?ぐらいにしか思わず、安心させるために笑顔で答えるが、簪は逆にその笑顔でオーバーヒートを起こしてしまった。
ついでに、周りで見ていた興味本位の子たちもその笑顔にハートを打ち抜かれていたが一夏がそのことに気づくことはなかった。
「「一夏?」」
「ひっ!?」
そんな一夏に、爽やかな笑顔と声で問い掛ける箒とシャルロット。
一見爽やかと言う言葉が、これ以上ないぐらいに合う笑顔だがその背後に湧き出る赤黒いオーラが見るものを震え上がらせた。
「一夏?しばらく見ない内に、とんでもない女たらしになったなぁ~?」
「一体、あの子とはどういう関係なのかな……?」
「ど、どういうって。シャ、シャルロットと同じだよ!」
「僕と?」
「どういうことだ……?」
簪との関係を問い詰める二人だが、自分と同じだとシャルロットは赤黒いオーラを霧散させ、箒は不機嫌に先を促した。
「どうもなにも、さっき言ってただろ?
ガラの悪い奴らに絡まれてたのを助けたんだよ。
シャルロットと“同じ”ようにな」
「なるほど~」
「そういうことなら……」
“同じ”ということを強調されて、自分と同じかとシャルロットは納得し、
箒も渋々と言った感じだが一応引いた。
「どうやら、一段落みたいやな」
「あの笑顔はこわかった……。どうしたの皆?」
「「「「……いや、別に……」」」」
箒とシャルロットの阿修羅すら凌駕するオーラに肝を冷やしていたなのはたちだったが、なのはの言葉に皆同じ言葉で返した。
その目は、“それをなのは(ちゃん)が言うの?”と語っていたとか――。
「ねぇねぇ、おりむ~。来週の決闘ってどうするの~?」
どこまでも自分のペースでのんびり進んでいく本音が、セシリアとの決闘について尋ねてきた。
「そうだな、このままいけば99%負けるだろうな……」
「何を弱気なことを言っているんだ、一夏!
戦う前からそんなことを言うとは!」
あれだけの啖呵をきったにも関わらず後ろ向きな発言に箒は声を荒げるが、これには今の一夏のことを知らない者は同意見だった。
あの時、感じた空気は錯覚だったのかと思うが……。
「あのな、箒。向こうは、あんなのでも一応は代表候補生だぞ?
ということは、ついこの間ISを動かした俺とは
ISに対する理解も熟練度も桁違いなんだぞ?
普通に考えたら、100回戦って1回隙をつければ良い方だろ。
竹刀を握って、一週間のルーキーが全国優勝のお前に勝てるのか?ってぐらい
無茶なことなんだよ……」
「ぐっ!た、確かにそうだが……しかしだな!」
一夏の正論に言葉が、詰まる箒だがそれでもあんな奴に好きな男が負けてほしくないのか
尚、言い返そうとした。
「そんなに心配すんなよ。言っただろ?
100回やれば1回は隙をつけるって。
その1回を今度の決闘に持ってきて勝ちにつなげればいいんだし、
それにその1回は“このまま”だったらって、話だ。
この一週間で、10回も20回もできるように徹底的にやるだけさ」
「「「っっっ//////////!?」」」
面をくらうとはこのことか。
不敵に笑うその笑みは、誰が見てもカッコイイと言えるものだった。
特に、彼に恋心を持つ者には効果はバツグンどころではなく、簪は再びオーバーヒートし、箒もシャルロットもその一歩手前ぐらいに顔が真っ赤になった。
「カッコイイこと言うやん~、織斑くん♪
箒ちゃんの話と違って、しょうもない男やったらどうしたろうかと思っとったけど
気にいったで!
私のことは、はやてって呼んもええよ。
みんなも名前で呼ばれてもかまへんよな?」
「私は別にいいよ」
「私もフェイトでいいよ」
「まあ、しょうがないわね」
「私もかまわないよ」
「ははは、ありがとな。俺も一夏でいいぜ。
でも、実際訓練どうするかな~
ISをうまく動かすにはどうすればいいんだ?」
はやてのおかげで、一気に距離が近くなった一夏だったが来週の決闘に頭を悩ませた。
何せ、自分が今まで触れる機会がほとんどなかった領域だ。
多少の知識があるとはいえ、何をすればいいのか皆目見当がつかなかった。
「ほら、箒。チャンスよ。
一緒に訓練して、一気にライバルとの差をつけるのよ!」
「う、うむ/////
確かにそうだな/////」
「ほら、かんちゃ~ん。ガンバ!だよ~」
「が、がんばる/////!」
「こ、今度こそ!」
そんな悩める一夏に、各自我先にとヒソヒソ声で後押しされたり
決意したりして行動を起こそうとした。
「「「い、一夏!」」」
「じゃあ、私がISのこと見てあげましょうか?」
「「「えっ?」」」
意を決した三人だったが、そこに謎の人物が突如乱入してきた。
手には扇子を持っており、開かれたそれには“真打登場♪”と書かれ、
簪と同じ水色の髪をしていた。
「な、何よアンタ!突然、やってきて!」
「アリサちゃん、落ち着いて!」
「リボン見て!先輩だよ!」
「こらまた、すごいな~
箒ちゃんやフェイトちゃんに負けてないんとちゃう?」
「どこ見てるの、はやて!」
アリサが突然やってきた謎の人物に抗議の声を上げるが、それをなのはとすずかがなだめる。
ここIS学園では、学年別にリボンの色が異なっている。一年は青、二年は黄、三年は赤である。
そして、この人物のリボンは黄であり自分たちの先輩に当たるのだ。
そんな興奮するアリサをしり目にはやては、ある部分に注目していた。
それは女性を象徴するものの一つであり、持たざる者は血の涙を流して持つものをうらやむものであり、大半の男が目を奪われるものである。
はやては女だがそれに、非常に興味を持っており
同等ぐらいであるフェイトのそれと見比べていた。
そんなはやての視線に気づいたのか、フェイトは手で隠すが隠し切れていなかった。
それがなんなのかは、お察しあれ。
「お、お姉ちゃん!?」
「「「「「「「「お姉ちゃん!?」」」」」」」」
「そう、私はそこのかわいいかわいい簪ちゃんの姉、更識楯無♪
そして、この学園の生徒会長よ!」
後ろに効果音がつきそうなポーズを決め、口元に持ってきた
扇子には先ほどとは違い“生徒会長”と書かれていた。
「ねぇ、簪。ひょっとして、お姉さんも……」
「うん。お姉ちゃんも私たちと同じ」
「もう、どんだけなのさ」
簪の姉と聞いて、嫌な予感がしたシャルロットは簪に尋ねるとその予感が当たりであると肯定され、一夏の予想をはるかに超えたジゴロっぷりに呆れ果てた。
「それじゃ、早速一夏くん。ちゃんと受け止めてね♪」
「はい?」
「とう!」
「えっ?
ちょちょちょ、ちょっと!?
うわぁ!?」
「「「あああああぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
「「「「「「おおおおお/////!」」」」」」
「「「「きゃぁぁぁぁぁ//////////!!!!!?」」」」」
楯無が唐突に、一夏に尋ねるとその場でジャンプをして机を飛び越え一夏の頭上に飛びあがった。
突然の出来事にあせる一夏だが、条件反射で両手を前に出して受け止めようとする。
そして、楯無を受け止めるがその体勢に食堂にいたもの全員が驚きの声をあげた。
一夏は楯無を女の子の永遠の憧れの一つである、“お姫様だっこ”で受け止めたのだ。
「あはは♪流石だね♪」
「なんなんですか、いきなり」
「お、お姉ちゃん!すぐ降りて!」
「何をしてるんですか、あなたは!」
「……ニコッ♪」
当然、箒たちが黙っているはずがなく、シャルロットに至ってはブリザード級の
笑みを浮かべている。
「だって、このテーブルはもう空いている席はないし
話をするにはこうするしかないじゃない?」
「話だけなら、立ったままでもできるでしょう!」
「細かいことは気にしない~気にしない~」
「お、俺の意見は……?」
「ねぇ?流石にこれは、止めないとまずいんじゃない?」
「そうだけど、どうやって止めるの?あれ?」
本音とは違った楯無のマイペースぶりに、一夏たちのテーブルは一触即発の空気となり、アリサたちが何とかしようとした時、この場を収める救世主が現れた。
「会長、皆さんをからかうのはそれぐらいにしては?」
「虚ちゃん!どうしてここに!?」
「あっ。お姉ちゃん、やっほ~」
「お姉ちゃんって、のほほんさんのお姉さん?」
「はい、本音の姉で生徒会の会計を担当しています」
やってきたのは、楯無の付き人であり、本音の姉である布仏 虚であった。
「まったく、はりきって仕事を終わらせたのは王子様に会うためだったとは」
「王子様?」
「ななななな何をいいいい言ってるるるるるのかな、虚ちゃんは!」
楯無の慌てっぷりに、簪と本音以外のその場にいた全員が二人の力関係を理解した。
「ほら、会長。もうすぐお昼休みも終わりですから、今日は帰りますよ」
「えっ!いや、でも……」
「か・え・り・ま・す・よ?」
「はい……」
「では皆さん。会長がお騒がせしました。
皆さんも次の授業に、遅れないようにしてください」
有無を言わせない迫力の虚に、楯無はあっさり折れた。
その光景に残された者は、唖然とするしかなかった。
「俺たちも、教室に戻るか」
「そうやね」
こうして、昼休みの一幕は終わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時間は流れて、放課後。
「やっと、一日が終わった……」
『(まだ一日目だぞ。そんな調子で、大丈夫か?)』
一夏は疲労困憊といった感じで、机にうなだれていた。
「ああ、よかった~
織斑くん、まだ教室にいたんですね」
「山田先生?」
一夏が声をした方に顔を向けると、山田先生が書類を片手に立っていた。
「織斑くんの寮の部屋が決まったので、知らせに来ました」
ここ、IS学園は全寮制であり生徒は全て寮で生活することを義務づけられている。
「寮の部屋?でも確か、一週間は自宅から通うって聞きましたが?」
「そうだったんですけど、織斑くんの事情が事情ですから
部屋割が急遽変更になったんです」
「わかりました。でも、荷物は家にあるので一回帰ってもいいですか?」
「あっ、荷物なら――」
「荷物なら、雅さんが送ってくれたぞ。後でお礼を言うように」
「ちふ、じゃなくて織斑先生!」
「荷物はきれにまとまっていたが、何故だ?まさかと思うが……」
「多分、織斑先生の考えている通りだよ。カズキさんが言っていたんだ。
“寮で生活する荷物は自分でまとめといた方がいいよ。
雅さんならともかく、千冬ちゃんにまかせたら着替えと携帯の充電器
だけになるだろうからね~”って」
「ほおぅ~……」
千冬は一夏の荷物の纏め方を尋ねたが、予想通りの人物が予想通りに絡んでいてしかも小馬鹿にされたと思ったのか、肉食動物を思わせるような笑みを浮かべ拳をワナワナと震わせた。
「えええっと……、あっ!大浴場は使えないので、申し訳ありませんが
織斑くんは部屋のシャワーで済ましてください」
「まあ、女生徒の中に男子生徒一人ですから当然ですね」
山田先生が話題を変えようと、他の注意事項を話しかけた。
「それじゃ、私たちは会議があるので失礼しますが、
道草をくわずにまっすぐ寮に帰ってくださいね」
「カズキめ、どこまで人をおちょくれば気が済むのか……
今度という今度は……」
「じ、じゃあ俺はこれで!!!」
不穏なことを言う千冬にとばっちりをくうのはゴメンとばかりに、
一夏はすばやく教室を後にした。
教室に残された山田先生がどうなったかは、誰も知らない――。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カチカチカチ――
“ソレ”はその場で周囲を一瞥していた。
何故、自分はここにいるのか?
ここはどこなのか?
自分は何者か?
様々な疑問が“ソレ”の頭によぎるが、すぐに振り払われた。
何故なら、その疑問よりも強烈に自分のなすべきことが頭に浮かんだのだ。
“ソレ”は獲物を求めて動き出した…………
「しっかし、校舎から寮まで50メートルぐらいなのに
どこで道草をくえばいいんだろうな?」
『よくも悪くも真面目なんだろ、彼女は。
もっとも、それゆえにこれから苦労しそうだがな』
「違いない。カズキさんや千冬姉のイチャつきのせいでな」
『その苦労の原因に、お前も含まれることになるだろうがな。
ほぼ確実に』
一夏は寮へと足を向けており、周りに誰もいないことを確認してからゲキリュウケンと雑談をしながら歩いていた。
すると……。
「俺が苦労の原因って、なんだよ……っ!」
『一夏!』
「ああ!どうやら、道草をしなくちゃいけないみたいだな!」
一夏とゲキリュウケンは何かを感じたのか、走り始めた。
カチカチカチ
“ソレ”は、本能なのか一直線に大量の獲物が、いる場所に向かっていた。
その姿を見たものは、言葉を失うだろう。
何故なら、地球の生き物の姿とは異質すぎるからだ。
それでも、敢えて言葉に出すならこう言うだろう……。
“カマキリ”と――
だが、“ソレ”は当然普通のカマキリではない。
まず大きさである。
普通のカマキリは、人間の子供が手で捕まえられるぐらいに対して“ソレ”は人間の大きさを一回りも二回りも大きく、全長数メートルはあるのだ。
さらに、カマキリの特徴と言っていい両手のカマがまるで人間が使う鎌のように金属の光沢を放ち、体とは離れて磁力で浮いてるかのようなのだ。
加えてその体は、まるでハサミを立てたかのようであり持ち手に目があるのだ。
“ソレ”が獲物がいるであろう場所に進んでいると、突如世界の色が変化した。
その変化に“ソレ”は、何事かと周りを見渡す。
すると、こちらに向かってくる一人の獲物、人間の姿を見つけた。
「なんだ、コイツは?
でっかいカマキリ?」
『どう見ても、普通のカマキリじゃないだろ』
現れた人間、一夏に“ソレ”は後ずさった。
目の前にいるのは、獲物の中の一匹のはずなのに感じてるコレは何なのかと思うが、この世界に現われたばかりの“ソレ”にその感情は理解できなかった。
それこそ、生物にとって最も重要な感情、
「恐怖」であることを“ソレ”が知ることは最後までなかった……。
「相手がなんだろうと、俺たちがやることは変わらない!」
『結界は既に張ったから、遠慮はいらん!
いくぞ!一夏!』
「おう!ゲキリュウケン!!!」
一夏が左腕に巻かれているゲキリュウケンに、右手をかざして引き抜くようにするとゲキリュウケンは腕輪から巨大な剣に姿を変えていた。
「リュウケンキー!発動!」
一夏はどこからか取りだした鍵を、その剣に差し込み……
『チェンジ!リュウケンドー!』
「ゲキリュウ変身!」
剣から青い龍が空へと飛びあがり、咆哮すると一夏へと向かっていきぶつかったと思ったら、まばゆい光が一瞬彼を包み込んだ。
光がおさまると、そこにいたのは青いスーツに白い鎧をまとった戦士であった。
「光と共に生まれし龍が 闇に蠢く魔を叩く!リュウケンドー!ライジン!」
ようやく、変身までいけました~
次回も初の戦闘描写なので時間がかかると思います。
評価、感想待っています。