インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

48 / 75

今回でIS3巻までを終わらせるつもりでしたが、
予想よりも長くなり、締めは次回となります(苦笑)

それでは、最新話。どうぞ!


月が輝く夜に

「作戦は、完了だ。全員よくやった――」

 

カズキ達は旅館へ帰還後、作戦室にて千冬から労いの言葉を送られていた。

なのはとフェイトがいろいろと目覚めた直後、レグド達はそそくさとその場から

逃げ出し、一夏達はビデオ撮影をするカズキを除いた全員で何とかなのはを説得し

帰還することができた。

最もそれで、なのはの怒りがおさまるわけがなく、現在も微笑みながら黒いオーラを

体から放出し、千冬も含め誰もその姿を視界に入れないようにしている。

肝心のユーノは、治療を受けているため部屋にはおらず行き場を失った黒いオーラは

部屋に充満していく。

 

「あの~織斑先生?

 俺はいつまで、こうして正座していればよろしいのでしょうか?」

 

怒りのなのはから一同が目を逸らしている中、唯一人正座させられている一夏が

引きつった顔で千冬に問いかける。ちなみに正座時間は、30分は越えている。

 

「お前はこいつらと違って、独自行動による重大な違反を犯した。

 本来なら相応の厳罰を説教である程度すましてやろうというのに、不満か?

 後は、学園に帰ったら反省文と懲罰用の特別トレーニングで許してやろうと

 思っていたが、それでは足りないと自分から言うのなら……」

「いえ、寛大な処置をありがとうございます……」

 

自分を鋭い目で見降ろしてくる千冬に、一夏は涙を流しながら感謝の言葉を

述べる。一夏()千冬()に勝てるようになるのは、まだまだ先のようだ。

 

「――って言うのは、建前で。

 本当は、あんな大ケガをしてたのに無茶をして自分を心配させたことを

 怒っているんだよね~千冬ちゃん♪」

 

カ――――ン!

と、ゴングが鳴る音を全員が聞こえたかと思ったら、IS学園名物の

痴話喧嘩(将来のための夫婦喧嘩の練習)が、開始された。

 

「さてと、千冬ちゃんをからかうのはこれぐらいにして。

 一夏?みんな、お前のことを心配してたんだから、早く元気にならないと

 いけないよな?

 そのために、じゃ~ん!

 栄養満点特製回復ドリンク、リカバ(ティー)を用意したよ♪」

「っ!?」

 

痴話喧嘩から数分後、カズキが満面の笑みを浮かべて、取り出したお茶?

に一夏をはじめ明達も戦慄した。

 

「おっ!うまそうじゃん、そのお茶。

 俺にもくれよ」

「うん、いいよジノ」

「サンキュー♪」

『「「や、やめろぉぉぉぉぉっ!!!!!」」』

 

そんな一夏達を気にすることなく、ジノはカズキからコップを渡してもらい

それを口にしようとして、一夏と弾、ゲキリュウケンが止めようと大声を上げる。

 

「……☆$#%@!!!!!」

 

一夏達の制止は間に合わず、カズキから渡されたお茶?を口にしたジノは奇声を上げると

駒のように回転しながら天井まで飛び上がると頭をぶつけて、そのまま落下して動かなくなった。

 

『『「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」』』

「リカバ(ティー)。疲労回復に効果のあるものをた~~~っぷりと

 配合した栄養ドリンクだよ♪」

 

倒れ伏すジノを見て無言となる一夏達に、カズキは新作ドリンクの説明をする。

静寂に包まれる部屋の中で、カズキが持つリカバ(ティー)が入ったコップの底から

気泡がゴポリと音を立てた。

 

「これで本当に回復するのかって、疑問なんだね?

 大~丈夫だよ~。これを飲んだ山田先生は……ほら?」

「ええ。とっても美味しかったですよ♪」

 

カズキが指さした方を見ると、真耶が笑みを浮かべながら信じられないことを

口にした。

 

「これを飲んだら、疲れなんか吹っ飛んで何でも来いって感ジデス♪

 YA――HA――!」

 

混乱したように目を回して普段とは違う口調の真耶に、一夏達はガクガクと

震え始める。

 

「さあ、一夏。どーぞ♪」

「…………(ゴクッ)」

 

笑顔だが、有無を言わさないカズキの静かな口調に一夏は手を震わせながら

カズキが差し出したコップを掴み――。

 

「ごべがべぼ!#&@*」

 

ジノと同じく奇声を上げ、気絶した。

 

「気絶するほど、おいしかったようだね~。

 君達も疲れているだろうから、どうだい?」

「「「「「「「「遠慮します!!!」」」」」」」」

「YA――HA――!」

「おもしろいから、記録記録……」

「「…………」」

 

気絶しているジノと一夏をアーニャが撮影している傍で、真耶のテンションは

どんどん上がっていく――。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ねぇ~結局何があったの?教えてよ~」

「ダ~メ~!機密事項なんだから」

 

時は進み、夕食の時間。

シャルロットの周りに人が集まり、何が起きたのかを聞こうとしていた。

人付き合いのいい彼女なら、話を聞けると考えたのだろうが、シャルロットは

口を割ろうとはしなかった。

 

「あのね?聞いたら、いろいろ制約がつくけどそれでもいいの?」

「うっ!それは、嫌だな~」

「じゃあ、高町さん達のことは?

 何があったの……アレ?」

 

事件のことは諦めた女子達は、もう一つの気になることを尋ねた。

彼女達が指さした先には、笑顔で黒いオーラを未だ放つなのはと何かを思い出しては、

自分の体を抱きしめて息を荒くするフェイト。

そして、なのはと同じく黒いオーラと冷気を放つすずかがいた。

 

「あ、あれは……その……」

「何と言いますか……」

「フェイトが目覚めて、突撃したのよ……」

「「「「「???」」」」」

 

言いよどむシャルロットに、セシリアも歯切れが悪く、それを鈴がまとめるが

尋ねた女子達は頭に?を浮かべるだけだった。

 

「お姉ちゃん……さっきから、なのは達が怖い……」

「しっ!あっちを見ちゃダメだぞ、ラウラ。

 下手に刺激すれば八つ当たりと言う、とばっちりが来てしまうぞ」

「昔から怒ると、なのはは過激だったが、昔の方が可愛く見えてきたぞ……」

「触らぬ神に祟りなし……」

 

なのは達の迫力に、ラウラは涙目になって明に助けを求め、目を合わせない様にしていた。

箒は、自分の知っている過去と今のなのはを比べてため息を吐き、簪は爆弾に

触れないような対応を決意する。

ちなみに、カズキや千冬達教師陣は、諸々の事後処理を行っており、一夏はジノと

共に部屋で未だ気絶していた。

 

 

 

「はぁ~生き返るぅ~~~」

『あまり、洒落になってないぞ。色々と……』

 

月が空に上がり、夜の中盤と言った時間になってようやく一夏は目を覚まし、

ゲキリュウケンと共に風呂を堪能していた。

幸か不幸か目が覚めた時間は、ちょうど一夏やカズキのために浴場が当てられていた

時間なので、こうしてゆっくり入っているのだ。

ゲキリュウケンは学園の大浴場と同じように桶の中で、小さなタオルを

のせて浸かっている。

 

「なんか戦いが終わって、帰ってきてからの記憶が曖昧なんだよな~。

 気がついたら部屋にいたし、それに口の中に違和感が……」

『それ以上は、やめておけ。世の中には、思い出さない方がいいものがある』

「?」

 

完全に回復しきっていないのか、若干体に違和感を覚える一夏だったが、

ゲキリュウケンはそれを考えさせるのを止めさせた。

もしも、カズキお手製の飲み物を飲んだことを思い出したら、それだけで

再び気絶しかねない。

 

「ところで、俺がブラック・ゴスペルにやられてお前と一緒に会った

 あの子だけどさ……」

『おそらく、間違いないだろう』

 

一夏とゲキリュウケンは、あの不思議な空間で出会った少女について

考えていた。

あの口ぶりから考えて、二人の目は右腕に装着されたガントレットに行く。

 

「……どうやったら、話せるのかな?」

『私に、語り掛けるような感じではないか?』

 

気の抜けた声で語り合う二人は、

互いに返事をしながらも頭に入ってはいなかった。

 

「そろそろ上がるか……」

『そうだな……』

「いっちば~ん!」

 

長くも短くも浸かっていたわけではないが、今日は早く寝ようと湯船から上がろうと

すると背後から、元気のいい“女子”の声が聞こえてきた。

 

「もう、鈴!走ると危ないよ!」

「シャルロット、何かお母さんって感じ……」

「シャルロットは部屋でも、いつもあんな感じだぞ簪?」

「まあ、ラウラとならな……」

「ですわね」

「さて、折角女子の中で一番に入れるよう、カズキさんが

 取り計らってくれたんですから存分に……」

『「ん?」』

「「「「「「「えっ?」」」」」」」

 

互いに身に纏うのはタオル一枚という状況で、8人の男女と一匹の龍は

向かい合ったまま呆然とし、時が止まるということを体感した――。

 

 

 

「さ~て、箒ちゃんはいっくんとよろしくやってるかな~?」

 

旅館の近くの崖に設けられた柵に腰かけて、篠ノ之束は何が入っているか

分からない宝箱を開けるのが楽しみでしょうがいないといった感じで足を

ブラブラさせていた。

 

「ふっふっふ~♪

 時間制で入浴を決めてるなら、ほんのちょっとずつ時間を

 ずらしちゃえば、思わぬタイミングで鉢合わせ♪~なんて簡単だもんね~。

 さ~て、いっくんは成長した箒ちゃんのナイスバディ♡を見て、

 狼さんになっちゃったかな~?」

 

束は、空中にディスプレイを表示して妹とその想い人のドキドキイベントを

覗き見しようとするが……。

 

「「「「「「「「なぁぁぁぁぁっっっ////////!!!!!!」」」」」」」

「ちょっ!なんであんたがいんのよ!」

「それは、こっちのセリフだ!

 今は俺が使える時間のはずだぞ!」

「それよりも鈴!隠して隠して!」

「へっ、隠すって何をよ、簪?……見るなぁぁぁ/////////!!!!!」

「あれ?」

 

ディスプレイに映し出されたのは、妹と親友の弟とのラッキースケベではなく、

彼と彼を慕う者達との予想外遭遇ハプニングに、束は首をかしげる。

そうしている間にも、タオルを巻いていなかった鈴が一夏に桶など色々投げつける。

 

「ままままままさか、一夏さん……私達とKONNYOKUというのを

 するために////////」

「一夏の……エッチ///////」

「KONNYOKU……なるほど、クラリッサが言っていた入浴時の男女の

 お約束イベントの一つか」

「一夏……貴様と言う奴は……」

「誤解だ!?」

「わ、私と一緒に入るのでは足らないと言うのか……」

 

腕で前を隠しながら、物を投げつけてくる鈴との攻防をしながら、勘違いをする明達に

弁明をする一夏だったが、彼女達の耳には入っていなかった。

 

「くたばれ!」

「っと!……ととと!!!!!」

「え?」

 

どっが――ん!

と、鈴の攻撃をかわした一夏は足を滑らせて、明と凄まじい音を立てて盛大にぶつかった。

 

「あいたたた……」

「ひゃん//////」

「ん?何だ、この柔らかい……」

 

一夏が立ち上がろうとすると、下から聞こえた可愛らしい声と手から伝わる

柔らかい感触に何だと目を開けるとそこには――。

 

「~~~~~////////////」

「あれ?あれ?……あれぇぇぇぇぇ!!!!!?」

 

背中からでも水着越しでもなく直に一夏に揉まれて、顔を真っ赤にして涙目な明が

そこにいた。

 

「「「「「一夏……?」」」」」

「おお~。これが、ラッキースケベというやつか~」

「ちょっ!まっ!ゲ、ゲキリュウケン!」

『……当機ハ、エネルギー不足ノタメ、スリープモードニ、入リマス……』

「そんな機能、初耳なんですけど!?」

 

聞くのが恐ろしく感じる綺麗な声と、感心する妹分の声に一夏は相棒に

助けを求めるも、返ってきたのは片言なお知らせだった。

 

「「「「「それで?いつまで触っているのかな?」」」」」

 

直後、浴場から何かが弾ける音と悲鳴が、千冬が鎮圧に駆けつけるまで旅館中に

響き渡った。

 

「あれ~~~?おかしいな~。何で、他の子まで来ちゃったのかな~?」

 

自分が浴場で一夏と鉢合わせになるよう仕向けたのは、箒だけだったはずなのに

どうしてこうなったのかと覗き見してた束が頭を捻っていると、一通のメールが彼女の

元へと届いた。

 

“自称天才さんへ

 妹の恋路を応援するために、一肌脱いだみたいだけど、忘れてないかい?

 今の彼女には、たくさんの友達がいるから、行動には多くの不確定要素が

 あるのを?

 それに、どうせやるなら大勢の方がおもしろいだろ?

 

 ps

 ところで、ねぇ~?今どんな気持ち?

 自分が馬鹿にしてる奴に、自分の計画が利用されて、どんな気持ち~?

 天才(哀)さん?

 弟命な教師さんが大好きなお騒がせ教師より♪”

「…………うっ……がぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

メールなのに、こちらを心底小馬鹿にしたメールの送り主の笑い声が聞こえた気がした

束は、手足をジタバタさせて地面を叩き声にならない悔しさをぶつけた。

 

「――て、なっているだろうね~。あの天才(笑)は。あ~~~」

 

遠くで、束が悔しがっているのを想像しながらカズキは、マッサージチェアに

座りながら気持ちよさそうな声を上げていた。

浴場から聞こえる、悲鳴やら爆発音をスルーしながら。

 

『ホント、誰かをいじるってことは天才だよな、お前。

 あっ。千冬が、浴場に行った』

「さ~て、そろそろ部屋に戻りますか」

 

カズキが、マッサージチェアから立ち上がると浴場から、凄まじい打撃音が

聞こえたのを聞かなかったことにして部屋へと戻っていった。

 

 

 

「ふぅ~」

 

一夏は海から上がって、岩場へと腰かけた。

浴場での騒動の後、一夏は旅館を抜け出して夜の海に繰り出して、泳いでいたのだ。

 

『一夏。抜け出したのが、バレたらまた千冬の説教だぞ?』

「な~に。まさか千冬姉も、あんなことの後にまたなんて思いもしないさ」

『……まあ、痛い目を見るとしてもお前だから別にいいか……』

 

少し楽観的な一夏にゲキリュウケンは、小声でこの後起きる未来の予想を呟いた。

 

「それに何だか急に、星が見たくなってさ……。

 星の海とは、よく言ったもんだよな~」

 

一夏はそう言うと、空を見上げそこに広がる夜空に魅入った。

星は夜の海にも映り、一層幻想的に見えた。

 

『それは建前で、本当は浴場での騒動で明とあったことで、

 頭を冷やしたかったんじゃないのか?』

「ぶっ!?にゃ、にゃにを言ってりゅんですかい、ゲキリュウケンさんや!」

『図星か……』

「一夏……」

 

海へとやってきた理由をゲキリュウケンに見抜かれて、一夏が狼狽えていると

その背後から、水着姿の明が姿を見せた。

肌の露出の多いビキニは、月光を浴びて煽情的に見える。

 

「旅館から抜け出すのを見かけたらから、追いかけてきたのだが……

 何をしているんだ?」

「えっ?あっ!い、いや……ははは……」

 

明は一夏の隣へと座るが、浴場での騒動もあってかぎこちない空気が流れる。

 

「……な、なあ一夏?聞きそびれていたが、ケガの方はどうなんだ?」

「ケガ?ああ~。よくわからないけど、気がついたら治ってた」

「そんなバカなことが、あるわけないだろ!?

 あんな大ケガが、起きたら治るなんて……」

 

この場に流れる空気をどうにかしようと、明は一夏が駆け付けた時から気になっていた

ケガの具合を尋ねた。

だが、自分達を心配させないために平気なように振舞っていると

思っていた一夏の思わぬ答えに、どこまで無茶をするのかと明は一夏に背を向けさせると――。

 

「本当に治ってる……」

「考えてみたら、不思議だよな~?これって、ゲキリュウケンが治してくれたのか?」

『いや。私に、そんな力はない。となると考えられるのは……』

「白式か……」

「だが、ISに操縦者を守る機能はあってもキズを治すなんて聞いたことないぞ?」

「まあ、いいんじゃないか?治ったんだし?」

「良くない!どれだけ心配したと……」

 

コンと一夏の背中に頭をぶつけ、明は声を絞り出していく。

彼女は一夏が必ず目を覚ますと信じていたが、同時に誰よりも心配していたのだ。

絞り出されたか細い声に、一夏は何も言えなくなる。

信じているというのは、心配しないとは違うのだ。

 

「ごめん……」

「謝ってもらいたいわけじゃない……。

 だけど、止まらないし止められないと分かっていても、

 お前の無茶は見ていて辛いんだ……」

「……っ!はぁ~。

 こりゃあ、何が何でも心配させないように強くならないとな~」

「じゃあ、証明してみせろ……」

 

明の吐露に、一夏は頭をかきながら決意を固めるが、明はそれで

納得はしなかった。

 

「証明って?」

「お前の強くなるは、毎回こういう無茶をする度に思っているんじゃないのか?

 それじゃあ、何の意味もないから形として証明してみせろと言っているんだ」

「そうは言っても、具体的にどうすればいいんだよ?」

「例えば……ス……」

「ん?何て言ったんだ?」

 

自分からした要求なのに、明は顔を赤くして視線を逸らして小声となり、

一夏は聞き取れず聞き返す。

 

「だ、だから!その…………キスをして強くなるって誓え!」

「…………はぁっ!!!?」

 

やけくそ気味に叫んだ明の言葉を理解すると、一夏も顔を赤くして仰天した。

 

「何言ってんだよ、お前!」

「できないのか……そ、それなら仕方ないな。

 これで、お前の強くなるというのを証明できるのは何もないから、

 お前はもう無茶も無理もできないな!うん!

 (う、上手くいった~///////!

 できもしない注文をすれば、一夏に無茶をしないと正当に

 約束させることができる!)」

 

明の要求に一夏が狼狽えていると、明はうんうんと頷いて一人納得していた。

これは、一夏に無茶をさせないと強引にでも約束させるために

考えたものだったが……。

 

「……わかった///////」

「え?」

 

月の光で岩場に映った二人の影が、一つに重なった――――

 

「…………っっっ////////!!!!!?????」

「こ、これで、もう強くなるしかないな///////」

 

明は一夏の不意打ちに大混乱し、一夏も自分のしたことが恥ずかしかったのか

ごまかすように明後日の方向を見る。

 

「いいいいい一夏!?ななな……だだだだって、え?

 あれは、お前に無茶をしないってさせるためで!初めてで、誓いとかは////!」

「自分からしろって言っておいて、お前……。

 か、勘違いするなよ!別に約束のために仕方なくとかじゃなく、

 お前とだからというか……」

「「…………////////////」」

『(口を挟むのは野暮と思って黙っていたが、この二人……。

 過去最高に私の存在を忘れてやがる!)』

 

自分でも何を言っているのかわからなくなる一夏と明は、夜の暗闇でもわかるぐらい

顔を真っ赤にし黙り込む。

ゲキリュウケンの存在を完全に忘れて――。

 

「一夏……//////」

「…………//////」

 

潤んだ眼を向けてくる明に、一夏は無言で明の肩に手を置いて顔を近づけていき……

ごつっ。

 

「ん?」

 

額に何かがぶつかり、顔を見上げるとフィン状の物体がふよふよと浮かんでいた。

そして、先端の四角いスリットに光が収束していく。

 

「どわっ!?」

 

一夏は紙一重でフィン状の物体、ビットからの攻撃をのけぞってかわす。

明と一夏が振り向くとそこには――――。

 

「一夏……こんな人目のない場所で二人っきりで……」

 

触れたものを全て切り裂く空気を放つ箒が。

 

「……よし、殺そう」

 

光が消えた瞳で笑みを浮かべる鈴が。

 

「な~にをしてい~る~の~か~な~?」

 

うっすらと細めた目から慈悲の欠片も感じられないシャルロットが。

 

「……………………」

 

眼鏡を光らせて無言な簪が。

 

「ふふっ……うふふふふふふふふっ」

 

顔を俯かせて不気味な笑いをもらすセシリアが。

それぞれのISを纏い武器(処刑道具)を構えて、一夏へと視線を突き刺す。

余談だが、この時ラウラはクラスメート達と大カードゲーム大会で遊んでいたりする。

 

「えっ?い、いや~~~。ちょ、ちょっと夜の散歩を……。

 ハハハ……」

「「「「「…………」」」」」

「……ゲキリュウケン!」

 

一夏は、何とかごまかそうとするも箒達5人の突き刺す視線が変わることはなく、

一夏はゲキリュウケンに再び助けを求める。

 

『当機ハエネルギー回復ノタメ明ケ方マデ、休息ノタメ機能ヲ停止シマス。

 グゥ~グゥ~』

 

ゲキリュウケンは、これ以上関わっていられないと一夏を見捨t……ではなく、

試練を与える。

 

「そげな!?

 に……逃げるぞ明!!!」

「きゃあっ///////!?」

 

その場から、一夏は明をお姫様抱っこで抱えて逃げ出すが、

襲撃者達には火に油ではなくガソリンを注ぐという逆効果となる。

どうやら、彼らの臨海学校最後のイベントは鬼ごっこ(鬼が変わることのない)

となるようだ。

月が静かに照らす夜に、悲鳴と銃声や斬撃の音が響き渡った――――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あっ。忘れてた」

 

悔しさで手足をバタバタさせていた束は、飛び上がると再び柵に腰かけ

空中にディスプレイを展開する。

 

「え~っと、紅椿の稼働率は~?絢爛舞踏を含めて57%……。

 予想してたよりも早く、紅椿を使いこなしているみたいだね。

 さっすが、箒ちゃ~ん♪」

 

先ほどまでの悔しがりから一転して、映し出されるデータに束は上機嫌に

なっていく。

 

「そんでもって~?」

 

束がディスプレイを操作すると、新たな力を得た白式の戦闘映像が

映し出される。

 

「ふむふむ。このいっくんのしゃべるおもしろ剣に対抗するために、

 同じ力を使えるように進化したのか~。

 オマケに、操縦者の生体再生までしちゃうなんてね~。

 まるで――」

「――まるで『白騎士』だな。お前が、持てる技術のすべてを注いで

 作り上げた始まりのIS」

 

束の背後から、いつもの黒いスーツを着た千冬が現れた。

だが、二人は顔を合わせることなく束は柵に腰かけたまま、千冬は近くの

木に背を預ける。

顔を見なくても、どんな顔をしているのかわかる――そんな確かな

信頼が二人にはあった。

 

「さて、問題ですちーちゃん。コアナンバー001の『白騎士』は、

 今どこにいるのでしょうか?」

「正解は白式(びゃくしき)を『しろしき』と呼ぶ……だろ?」

 

束と千冬の間に、小さな竜巻が現れるとカズキが姿を見せた。

 

「カズキ!?」

「出たな……ドロボウ宇宙人……」

「かつて『白騎士』と呼ばれた機体は、コアを残して解体され

 第一世代の開発に大きく貢献した――」

 

二人の反応を気にすることなく、カズキは束が出した問題について答えていく。

 

「そして、そのコアはある研究所襲撃事件で行方不明となり、いつの間にか

 『白式』に組み込まれたと。

 ついでに、最初のISである『白式』の最初の妹と言うべき千冬ちゃんの愛機

 『暮桜』が、情報のやり取りをするコア・ネットワークで同じ

 ワンオフ・アビリティーを開発したと考えれば、『白式』が

 零落白夜を使えることの説明ができる」

「ちっ。ドロボウ宇宙人のくせに、束さんと同じことを考えやがったか……。

 じゃあ、お前はいっくんが何でISを動かせるのかわかる?

 悔しいけど、正直どうしていっくんが……男がISを

 動かせないのかわからないんだよね~」

「…………」

 

不機嫌を隠そうとしない束は、カズキにこの世界の歪みの根底についての

問いを投げかけ、千冬も黙って耳を傾ける。

そもそも、ISは一夏と箒を喜ばせるために作ったものであり、女性にしか

動かせないなんて機能はつけていないはずなのだ。

 

「証拠がないから推測の域が出ないけど……白騎士事件。

 あれ以降、ISは男に反応を示さなくなったらしいけど、多分それが

 なくても男は女ほどISを上手く動かせなかっただろうね」

「どういう意味だ?」

「天才(笑)。ISのコアを創る時、千冬ちゃんの思考パターンを

 トレースしたんじゃないか?」

「そうだよ。0から人間と同じくらいの思考をする人格を形成するのは、

 時間がかかりすぎたからね。

 だから手っ取り早く、人間……ちーちゃんの思考パターンをトレースして、

 それを参考にしてコアの人格を形成したんだよ」

「やっぱりね……」

 

疑問に対する束の答えに、カズキは自分の考えに確信を持っていく。

 

「多分、その時千冬ちゃんの思考パターンだけじゃなく、潜在意識まで

 トレースしたんじゃないか?そして、それはコア・ネットワークを

 通して全てのISにも伝わったていった……」

「おい。何が言いたいんだ?」

「俺と会った時の千冬ちゃんってかなりピリピリしてて、特に男なんか

 一夏以外嫌悪感丸出しだったでしょう?

 だから、その男嫌いなところも一緒にトレースしちゃったんじゃないかな?」

「「っ!」」

 

カズキの推測に千冬と束は目を見開く。

 

「まあ、トレースしたと言っても無自覚な潜在意識レベルなんだろうけど、

 白騎士事件を引き起こしたっていう……多分レグドかな?

 そいつが、事件を引き起こした時に眠っていた男嫌いを目覚めさせたんだよ。

 男が使っても動かせない様、IS自身も気付かないレベルでね。そして

 この世界を歪ませて、マイナスエネルギーを生み出しやすくするために……。

 そう考えると、一夏がISを動かせるのも説明ができる。

 千冬ちゃんは一夏のことが、大~~~好きだからね~。

 それも一緒にトレースしたと考えれば、ISが一夏に心を開いて

 動かせるようにしても不思議じゃない」

「うおっ!?確かにそれなら説明ができる!

 ちーちゃんは、いっくん命なブラコンだから、ISにまで影響を与えても

 おかしくない!」

「うんうん」

「お前ら……」

 

全く疑問を持たず納得する二人に、千冬は拳をワナワナと震わせる。

 

「……はぁ~。ということは、やはり今の世の中が歪んでいる根本は

 私が原因か……」

「違うんじゃないかな?」

「何?」

 

震える拳を下すと、千冬は自虐の言葉を吐くが、カズキがそれを否定する。

 

「千冬ちゃんの男嫌いは、千冬ちゃんと一夏の父親が母親を連れて二人の前から

 姿を消したから……。

 まあ、雅さん曰くどこにでもいる親バカらしいから、君達を捨てたなんて

 ことは天地がひっくり返ってもないらしいけど。

 俺が言いたいのは、すれ違って誤解から仲たがいすることはよくあることだし、

 嫌いになるってことはそれだけ父親のことが好きだったってことでもある……」

「カズキ……」

「帰ってきたら、気のすむまで殴ってやればいいさ。

 俺と違って、喧嘩できるかもしれないんだからさ。

 千冬ちゃんも、一夏も……」

 

口調こそいつもと同じく軽いが、紡がれる言葉は千冬の心を震わせていく。

だが、笑みを浮かべるカズキはどこか寂し気でもあった。

喧嘩したくても千冬や一夏と違い、カズキは親子喧嘩という当たり前な

日常の出来事を二度とすることができないのだ。

 

「む~~~。何二人だけの世界を作って・い・る・ん・で・す・か~!

 空気か!束さんは空気扱いか!」

「あれ、いたの天才(笑)?」

「心から頭に?を浮かべているその顔が、腹立つぅぅぅ!!!!!」

「本当に成長しないな、お前は」

 

カズキにいいようにからかわれる束に、千冬は呆れ交じりのため息をもらす。

 

「だ~か~ら~!

 何、自分は普通みたいな感じにしようとしているのさ!

 いっくんに勧められた白い水着を服の下に着て、ドロボウ宇宙人にこっそり

 見せようとか考えているくせに~~~!!!」

「ぶっっっっっ!?」

 

束の不意打ちに、千冬は盛大に吹き出した。

 

「いい歳して、ツンデレでムッツリでブラコンって、どんだけなのさ!」

「きききぎざまっ!!!!!」

 

蚊帳の外にされたのがよっぽど気にくわなかったのか、束は普段は言うのをためらう様な

ことも次々と言い放ち、顔を真っ赤にした千冬に首を絞めつけられて持ち上げられた。

 

「ぐ……ぐるじぃ……ギ、ギブ……ギブ……」

「まあ、千冬ちゃんは天才(笑)をいじめるのが好きなSだけど、

 自分を追い詰めちゃうようなフェイトと同じ属性持ちというわかりきったことは

 置いといて」

「置いとくな!」

「楽しそうで何より♪」

 

持ち上げた束を解放し、カズキに阿吽の呼吸でツッコミを入れる千冬に

カズキは満足とばかりにウンウンとうなずく。

 

「二人とも人を空気扱いするのは、いい加減にしない?

 いやマジで?」

 

よろよろと立ち上がりながら、束も二人にツッコミを入れるが

ダメージからか、弱弱しかった。

 

「……ねぇ、二人は今の世界は楽しい?」

「何だ、藪から棒に……。

 ……退屈はしないな」

「俺は楽しいっていうより、おもしろいね~。

 世界に、おもしろいことは満ち溢れている。

 それこそ、万華鏡のように見方一つでガラリと変わる。

 俺はそれをこの世界に来て、学んだよ……」

 

束からの問いに、千冬とカズキはそれぞれの答えを述べた。

 

「おもしろいことは、何も探さないと見つからないってものじゃない。

 例えば……さん……に……いち……」

 

カズキが右手を上げ3本の指を立てて、一本ずつ曲げて

カウントダウンしていくと――。

 

「どっかーん」

 

二方向(・・・)から聞こえる爆音が、夜の静寂を打ち破った。

 





前回の話の感想の中心がフェイトの覚醒についてで、
ビックリです。

一夏と明の海のイベントは、2巻の混浴イベント同様表現が難しく、
上手くできなかった(汗)

今回で本作品で男がISを動かせない理由が判明。
千冬の思考パターンをトレースしたことで、心の奥底で
思っていた男嫌いと、弟大好きもトレースされ、
一夏だけが男でISを動かせるということにwww

次回、一夏達と違う場所で起きた騒動をお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。