インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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新年始まって、最初の投稿です。
やっとできました(苦笑)
ほぼできたのに、最後の所で・・・
おのれ残業っっっ!!!



輝きの翼――

アーニャが纏うKNF(ナイトメアフレーム)モルドレッドの主力武装シュタルクハドロン

によって、凍っていた水柱が破壊され閉じ込められていたブラック・ゴスペルが

空へと放り出される。

 

「がっ……!」

「はぁぁぁっ!」

 

間髪入れず、瞬時にブラック・ゴスペルの懐に入ったカズキが

拳を叩き込んでいく。

 

「碓氷カズキィィィ!!!!!」

「……っと!」

 

自分の状況を理解するよりも前に、目の前に現れた怨敵を消し去ろうとブラック・ゴスペルは

デタラメに拳を振り回し始める。

だが、カズキは危なげなく振り回される拳をかわしていく。

 

「(思った通り、最初に戦った時よりパワーが上がっているな……。

 銀の福音の意識を封じ込めたことで、手に入れたマイナスエネルギーを完全に

 使えるようになったか。

 拳でこれなら、あの光弾を受けたら一夏みたいに重症程度じゃすまないな……)」

 

当たれば粉微塵になってしまう拳を紙一重でかわしながら、カズキは冷静に作戦のための

“確認”を行っていく。

 

「(そして――俺を目にしたら、周りが眼中に入らないのも想像通り!)」

 

迫るブラック・ゴスペルの拳を見ながら、カズキが笑みを浮かべた瞬間ブラック・ゴスペルを

爆発が襲った。

 

「今だ!全員、撃ちまくれ!」

 

リュウガンオーの合図で、ラウラ、簪、シャルロットがブラック・ゴスペルに

ミサイルや弾丸、レールガンを撃ち込んでいく。

 

「がっ!…っの!」

「余所見は、厳禁だぜ!」

「喰らいなさい!」

 

攻撃を受けたことで、リュウガンオー達に気付いたのかそちらに注意を払うと

左右からジノと鈴が両手に持った斧剣と双天牙月を振り下ろす。

 

「ちっ!この……っ!」

「後ろが、がら空きだ!」

「はぁぁぁっ!」

 

ジノと鈴の攻撃を受け止めたブラック・ゴスペルの背後から、明と箒の

斬撃が襲いかかり、体勢が崩れる。

 

「いつまでも調子に……」

「どうでもいいが、止まっていていいのか?」

 

海へと落下していく中、体勢を立て直し自分より上にいるカズキ達を睨み付ける

ブラック・ゴスペルだったが、そのために動きを止めた所でカズキがつぶやいた瞬間、

狙撃組と中距離組による一斉射撃が四方八方から襲い掛かった。

 

「確かにその強大なパワーや銀の鐘は脅威だが、扱うお前が使いこなせなきゃ

 意味はない。

 創生種になろうが、元々が人間である以上フェイントも有効……。

 力に溺れたな……」

『だけどよ。あんなに遠慮なく攻撃して、中の操縦者は大丈夫なのか?』

「幸か不幸かマイナスエネルギーを利用して防御力は、ISよりも上がっている。

 それに、その巨大なマイナスエネルギーのせいで、ダメージを操縦者に流すなんて

 器用なことができないみたいだ。

 加えて、天才(笑)が銀の福音のコアの状態を調べたら絶対防御の機能は

 何とか働いているみたいだ。

 ということは、おそらく……」

『意識を封じられていても、銀の福音も相棒を守るために戦っているってことか?』

「そういうこと。

 後は、こいつを使うタイミングだね……」

 

カズキは魔弾キーのようなものを手に取り、一端しまうと防戦一方なブラック・ゴスペルに

向かってデルタシャドウを駆った。

 

「いい加減に……」

「はっ!」

「キ……ザマっ!!!」

「他の事に目が行って簡単に俺のことを忘れる辺り、

 お前のアイツへの思いとは、その程度みたいだな?

 まあ、アイツの人徳とかがそれぐらいしかないとも言えるがな」

「ギザマギザマギザマっっっっっ!!!!!」

 

ザンリュウジンでブラック・ゴスペルに斬りかかるカズキは、空中にいる等関係ないかの

ように、舞を思わせる動きでブラック・ゴスペルを翻弄し、デルタシャドウと共に駆けていく。

その攻防の中で、挑発も織り交ぜることでブラック・ゴスペルは完全に冷静さが失われ、

ますます力任せの雑な攻撃となっていく。

 

「相変わらず、すごいなあの人」

「ああ。しかも俺や一夏みたいに変身してないし、お前やアーニャみたいに

 ナイトメアとかISも使っていないんだぜ?」

「大丈夫ですか、みなさん?」

「うん、大丈夫だよ明。ただ……」

「敵が人間捨てたとか言っていたけど、碓氷先生もたいがいな気がする……」

「「うんうん」」

「流石は、兄様だ!」

 

雑な攻撃とはいえ、拳の風圧だけで人間など紙切れのごとく遥か彼方まで吹き飛ばされ

そうなものをかわしたり受け流していくカズキを見て、それぞれが引きつった表情となり

簪のつぶやきに昔からカズキを知る箒と鈴が激しく頷いて同意した。

唯一ラウラだけが、素直にカズキの動きに関心していた。

 

「それにしても、あんなのと戦えるのもそうだけど、今回の作戦も無茶苦茶だよな」

「ああ、敵が自分を狙っているのを逆手にとって自分を囮にして注意を向けさせ、

 その隙に俺達に援護させる……」

『敵のパワーを考慮するとまともに、攻撃を受けたら即座に戦闘不能に

 なる危険性が大。

 そうさせないために、敢えて私達を後衛にさせることで攻撃を当てさせもしない』

「逆に、カズキさんは正面から、ブラック・ゴスペルと相対する形になってしまう」

 

カズキとブラック・ゴスペルから距離を取り、次の攻撃の機会を伺う明達は

今回の作戦を思い返し、表情を曇らせる。

この作戦は、如何に囮が敵の注意を引き付けられるかがカギとなり、

敵の恨みを買っているカズキほどその囮に適任はいないのだが、

その分危険度は明達の比ではなかった。

 

『やっぱりなかなか、硬いな!』

「そうだな。よし!この辺りで、一気に勝負をかけますか……。

 初お披露目だぜ――“グリープ”!」

 

カズキが、デルタシャドウの背部から飛び降りるて、左腕に巻いていた腕時計のようなものを

掲げると、カズキは光に包まれた。まるで、“IS”を展開したかのように――。

 

「何ですの、あれは!」

「私にもわからない……」

「カズキめ……一体何を」

「これは……エネルギー反応!」

 

それは、明達よりも離れた地点にいるセシリアとアーニャも確認でき、同じように

モニターしていた千冬や真耶も何が起きたのかと警戒していると、素早く指を走らせて

いた束が突然、その動きを止めた。

 

「何これ……推定予測エネルギーがISの約十倍!?」

 

それを見ていた面々がそれぞれの驚きを示す中、カズキを包んでいた光が切り裂かれ

その姿を現した。

体や肩は青、腕と脚は白の装甲に覆われ、背中には翼状のシールドが背負われていた。

そして、頭部にはV型のセンサーが付けられ、手には刃の部分がビームで生成された

ビームランサーが握られていた。

 

「魔弾龍の力が使えない時のために開発していた、戦闘用パワードスーツ“グリープ”。

 止められるなら、止めてみろ!」

 

全く予想だにしなかったカズキの新しい力に、ブラック・ゴスペルは動きを

止めてしまい、そこにビームランサーの突きが叩き込まれた。

 

「そらそらそらそらそら!!!」

「こ……のっ!」

 

残像によって、何十本にもビームランサーがあるように見える程のスピードで

カズキは、攻め続ける。

そのスピードは、ブラック・ゴスペルの再生速度を上回りどんどんその体に

傷を増やしていく。

 

「お前!ぼくを殺したら、憑りついている人間も死ぬってことを忘れていないか!」

「っ!」

「馬鹿め!」

 

何とか、カズキの攻撃を防いでいたブラック・ゴスペルは、人質と言うカードを切って

カズキの動揺を誘い、その隙に距離を取り一夏を落とした七つの光弾を全てカズキ一人に

向かって放った。それを見てほくそ笑む、カズキに――。

 

「ははははは!赤の他人の為に、その身を犠牲にするとは、随分お優しくなっt……。

 な、何だとっ!?」

 

ついに復讐を遂げられたとブラック・ゴスペルことミールは高笑いをするが、

着弾によって生じた煙が晴れていくと、そこに一つの影が浮かび上がり、その姿が

見えてくると言葉を失った。

 

「ちゃ~~~んと、止めを刺したかを確認せずに勝ったって

 思うのは敗北フラグだぜ?」

 

煙が完全に晴れると、そこには背中のシールドでブラック・ゴスペルの攻撃を

防いで無傷なカズキが佇んでいた。

 

「今度は、こっちの番だ!撃てぇぇぇっ!!!」

 

大型の粒子ランチャーを展開したのを合図に、リュウガンオー達と共に

ブラック・ゴスペルに一斉攻撃を行った。

 

「こんな攻撃……何っ!?」

 

すぐさま、回避しようとするブラック・ゴスペルだったが、突然体が思い通りに

動かなくなってしまい、空中に貼り付けにされたようになる。

 

「ふふふ、大したことないとあいつらの攻撃を無意味に受けすぎたな。

 天才(笑)が作ったISの動きをちょいと鈍らせる、ウイルスを攻撃の中に

 混ぜさせてもらったよ。

 効き目が出るまで時間がかったが、お前のその体の大本がISである以上、

 これからは逃げられない」

「ちっっっくしょうぅぅぅ!!!!!」

 

怨嗟の声を上げながら、ブラック・ゴスペルは爆炎に飲み込まれた。

 

「カズキさん!」

「何だよ、カズキ。そんなのあるなら、早く使えよ~」

「ふふ、こういうのはいざという時に出した方が、みんなビックリするだろ?」

「こら、男ども!呑気に話してんじゃな~い!」

「鈴の言う通り」

「そうだよ、ここで油断したら今度はこっちが痛い目に合っちゃうよ」

「しかし、シャルロット。あの全員の攻撃を受けたらひとたまりも……」

「待て、箒。あの中から、敵の反応がある」

「みたいですね……」

 

カズキと合流したリュウガンオー達は、ブラック・ゴスペルの様を見て若干気を緩めるが

ラウラと明の言葉に気を引き締める。

カズキは、倒せたと思っていなかったのか思案顔で煙を眺める。

 

「みなさん!」

「現状は?」

 

そこへ、遠距離から狙撃を担当していたセシリアとアーニャが合流したのと

同時に空間が爆発したように揺れ、その中心にブラック・ゴスペルが

自分を抱くようにうずくまっていた。

 

「な、なんだぁ!?」

「これは、まさか――『第二形態移行』(セカンドシフト)

 敵に、乗っ取られたのに起きるというのか!?」

「今の攻撃で、銀の福音に絶対防御を発動させられたと思ったんだけどな……。

 おい、天才(笑)。これは、どういうことだ?

 形態移行(フォームシフト)って言うのは、稼働時間と戦闘経験が蓄積されることで起きるんだろう?

 何で、試験運用のISに起きるんだ?」

「……推測だけど、あのISのコアと操縦者は二次移行(セカンドシフト)をしてもいいぐらいの

 時間と経験を積んでいたんだよ。

 そして、さっきの攻撃で操縦者の命が危ないと感じて……」

『操縦者を守るために、自分で発現したと……健気だね~』

「呑気な事言っている場合じゃないだろ、ザンリュウジン!

 要は、パワーアップしちまったってことだろ!?」

 

ブラック・ゴスペルに起きている現象を束が分析し、リュウガンオーの叫びと共に

全員警戒を強める。

 

「フフフ……ハハハハハ!!!

 おもちゃにしては気が利いているじゃないか!」

 

歓喜の声を上げ、手足と背中に生えたエネルギーの翼を広げて、ブラック・ゴスペルは

新たな力を手にした。

 

「……さて。それじゃあ、まずは散々邪魔をしてくれた連中から――

 片付けようか!!!」

「なっ!?」

「速っ……!?」

 

獲物を狙い定めた獣の如く、ブラック・ゴスペルが自分達を見据えたと思った瞬間、

ブラック・ゴスペルはバスターウルフをスカイモードにしていた

リュウガンオーとジノの懐に入り込みその脚をつかむと力任せに海へと放り投げた。

 

「次っ!!!」

「させるか!PXシステムON!」

 

一瞬で、リュウガンオーとジノを排除したブラック・ゴスペルがその矛先を明達に

向ける前に、ブラック・ゴスペルは尋常ならざるスピードで回り込まれたカズキに弾き飛ばされる。

 

「くっ!お前のおもちゃの能力か……だけど、さっきまでのようにはいかないよ!」

「言ってろ!」

 

カズキとブラック・ゴスペルは、ISを置き去りにするような超スピードの戦闘を

展開する。

最早、ハイパーセンサーでも残像を見るのがやっとな戦いは、二つの影が

ぶつかる度に凄まじい音を周囲に響かせる。

その最中、カズキは焦り始めていた。

 

「(まずい……まさか、PXシステムを使ってほぼ互角のスピードなんて!)」

 

PXシステム。

それは、脳波を機体制御に反映させることで、反応速度を大幅に上げられる一種のブースト機能であるが、機体や操縦者の精神に多大な負担をかかり、限度を超えて使用した場合、機体の損壊や

操縦者の精神崩壊も起こしてしまうかもしれない危険と隣り合わせなシステムである。

 

「(機体はともかく、システムの調整は完全に終わっていないからリミッターを

 解除することもできないし、使用稼働時間の60秒が来たら強制的にシステムは

 オフになる……。

 その前に、何とか!)」

「ははははは!散れ、虫けらども!」

 

カズキと攻防を繰り広げていたブラック・ゴスペルは、距離を取って回転すると

それに合わせて、形態移行前より数倍巨大な光弾が次々とばらまかれた。

 

「ちょっ!冗談でしょっ!?」

「総員、回避!当たったら終わりだぞ!」

 

でたらめに打ち出された光弾とその連射に、鈴が全員の考えを代弁するかのように

叫びラウラが急いで、指示を飛ばす。

 

「くっ!」

「うわっ!?」

「何て、衝撃……!」

 

幸いにも光弾のスピードはブラック・ゴスペルほど速くなく、かわしていける明達だったが光弾の威力は大きさに比例して昼間よりも上がっており、海に着弾した衝撃で

全員が吹き飛ばされていく。

 

「甘いよっ!」

「なっ!攻撃を曲げた!?」

 

全員が回避できたと思った攻撃だったが、その中の一つが海に着弾する前に

軌道を変え、吹き飛ばされて体勢を崩した自分に向かっているのを見て箒は驚愕する。

 

「箒!」

「明っ!?」

 

無防備な箒を救おうと背後から彼女を押しのけて明が、光弾と箒の間に

入り来むのを見て、全員に昼間の一夏が墜とされた光景が頭をよぎる。

 

「(ふっ……。こんな時に、頭に思い浮かぶのがお前との思い出ばかり

 だなんてな。一夏――)」

 

箒達とは逆に明の頭によぎったのは、戦場とは全く無縁な一夏との日常の

日々ばかりで、明は苦笑した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

少しだけ時間は遡り、カズキ達が戦闘を開始した頃、

一夏は流木に座りながら、波の音をBGMに目の前で踊る

女の子を飽きもせず眺めていた。

 

「ん?」

 

突然、女の子は踊るのをやめじぃっと空を見つめ始めた。

 

「呼んでる……行かなきゃ……」

「行かなきゃって、どこに……あれ?」

 

一夏も同じように女の子が見ていた空を見るが、そこには何もなく

視線を戻した時には、もうそこに女の子の姿はなかった。

あるのは、押しては引く波の音だけだった。

 

「何なんだ、ほんと……」

「力を欲しますか?」

「えっ?」

 

何の前触れもなく自分の背後からしゃべりかけてきた何者かに、

一夏はそこから飛びのいて身構える。

幾多の数をくぐり抜けてきた自分の後ろを簡単に取れるという事は、

声の主はかなりの力量の持ち主だと一夏は察した。

そんな一夏が見たのは、輝く白い甲冑を身に着けた女性だった。

身の丈もある大きな剣を自分の前に突き刺し、その上に両手を置いており、

その顔はガードによって隠されて、露出している下半分しか見えない。

 

「力が欲しいですか?何のために求めますか?」

「いきなり現れておいて、説明もなしかよ……。

 まあ、力は欲しいよ……。力が無きゃ何も守れないし、何も成し遂げられない」

「…………」

 

敵意は感じないが、一方的に質問してきた女性に一夏は肩をすくめるが

少し考えて口を開き、女性は黙ってそれを耳にした。

 

「でも、ただ力があればいいってわけでもない。力は、所詮力だ。

 俺は今まで、たくさんの人達に支えられて守られてきた。

 千冬姉、雅さん、カズキさん、ゲキリュウケン、一緒に戦ってくれる仲間達

 ……そして、明――」

「…………」

「俺が欲しいのは、そんなみんなと一緒に明日を歩ける力……

 自分の信念を貫ける“想い”の力だ」

「あなたの想いが道を外れ、間違ったものになった時はどうするんですか?」

「その時は……みんなが俺を殴ってくれるさ――」

 

女性の試すような問いかけに、一夏は迷うことなく笑いながら静かに答えた。

 

『だったら、いつまでもこんな所にいるわけにはいかないな』

「そうだな――ゲキリュウケン!」

 

甲冑の女性と向き合っていた一夏の背後に、青く輝く龍がたたずみ一夏はその声に

好戦的な笑みで答えた。

 

「もちろん、私も行くよ♪」

「うん?」

 

一夏の隣には、いつの間にか白いワンピースの女の子が立っていた。

 

「私だって、あなたの相棒なんだから!

 そこの龍なんかに絶対負けないんだからね!」

 

女の子がそう叫ぶと眩い白い光が、彼らを包んでいく――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

明へと迫る光弾に最悪の結果を防ごうと、それぞれが動くが距離がありすぎて

誰も間に合うことができない。

押しのけられた箒が明の背に手を伸ばすが、その手が届くことはなく

――――光弾は“両断された”。

 

「……え?」

 

それは、誰が洩らしたのか気にするものはいなかった。

九死に一生を得た明もそれを見ていた箒達も、高速の攻防を繰り広げていた

カズキとブラック・ゴスペルもただ魅入っていた。

夜空に現れた光り輝く翼を背に、絶望を叩き斬った白き龍の幻想的な

その姿に――。

 

「い、一……夏……?」

「大丈夫か、明?」

『いいタイミングで来れたようだな』

 

目の前の光景が信じられないのか明は、呆然とした声を絞り出すが

当の“新たな“白式を纏った一夏とゲキリュウケンは、なんでもないようにいつもと

変わらぬ返事を返した。

 

「さ~て……俺の分に皆の分も加えて、たっ~~~ぷりと

 お礼をさせてもらおうか!」

『存分に暴れてやれ!』

 

声高に叫ぶ一夏に呼応して、白式の新たなウイングスラスターから光があふれだす。

 

「白式・白龍(はくりゅう)!行くぜ!!!」

 

雪片を呼び出した一夏は、その瞬間明達の視界から消えブラック・ゴスペルの

翼を切り裂いた。

 

「な、何だとっ!?」

 

不意を突かれたとはいえ今の自分が全く反応できなかったことが信じられず、

背後の一夏にブラック・ゴスペルが向き直した瞬間、再び一夏はその背後に

姿を現しブラック・ゴスペルの翼が切り裂かれた。

 

ブラック・ゴスペルに取り込まれた銀の福音と同じく二次移行を果たした白式に、

追加された大型のウイングスラスター、白龍光翼(フォトン・ウイング)

圧倒的な加速を一夏に与えた。

一夏が、この戦場に駆けつけ明を救うのに間に合ったのも、この新装備

のおかげである。更に、ゲキリュウケンが自身の感覚を一夏と通常以上に

深くリンクさせることで、高速下の動きでも正確にピンポイントを狙えるという

離れ業もやってみせた。

 

「(これは速い分、瞬間加速以上に軌道を変えられないから、動きは直線的になって

 使うのはかなり難しいな。

 それに、エネルギーもかなり喰うみたいだし……でも、今は関係ないか……)」

 

実際に使ってみて、その身で白龍光翼の利点と難点を体感した一夏は、

渋い顔になるが、すぐにそれは不敵な笑みを浮かべた。

何故なら今は、その難点を気にする必要がないからだ――。

 

「……っの、ガキィィィィィ!!!」

 

怒り心頭で、一夏に負け劣らずのスピードで殴り掛からんとする

ブラック・ゴスペルだったがその拳が一夏に届くことはなかった。

 

「――っぇ!」

「言っただろ?目先の事に囚われて、俺の事を忘れるってことは、貴様の

 決意なんてそんなものなんだよ」

 

一夏への攻撃を読んでいたカズキが、ブラック・ゴスペルの腹部にカウンターの

拳を見事に叩き込み、ブラック・ゴスペルは大きく後退する。

そう、例え直線的にしか動けないことを見抜かれても、それをカバーしてくれる“仲間”が一夏にはいるのだ。

 

「どうやって回復したかはわからないが、問題ないなら

 遅れた分はきっちり働いてもらおうか?」

「ははは……」

 

にっこりと笑いかけてくるカズキに、嫌な予感をする一夏だったがすぐに気を取り直して

左腕に新装備された雪羅を起動させ、指先からエネルギー刃のクローを出現させる。

 

「行くぞ?」

「はい!」

 

カズキと一夏は、ダメージから回復しきれないブラック・ゴスペルへ

同時に斬りかかった。

PXシステムがオフになったとはいえ、カズキの攻撃は鋭く、それでいて

操縦者の命を奪わなくてもダメージが入る箇所を正確に狙っていく。

更に、今は対IS兵装とも言える零落白夜を使う一夏がいる。

雪羅のクローも加えて、注意を払わなければならない攻撃の手は単純に3倍となり、

ブラック・ゴスペルは見る見るうちに追い詰められていく。

 

「あらら~。いつの間にか、ま~た状況が変わってるよ~」

「のんきに言ってんじゃねえよ、ジノ!

 このままじゃ、一夏の奴においしいところを全部持っていかれちまうよ!」

『確かに、今回の作戦で一番の要は私と弾である以上、このままじっとしているわけには

 いかない』

「だよな♪

 やられっぱなしっていうのも、癪だしな!」

 

ブラック・ゴスペルに海へと投げ飛ばされ、何とか浮かび上がったジノとリュウガンオー

は沈んでいる数瞬の間に、再び大きく動いていた戦況に唖然とし、すぐに気を取り直すと

トリスタンとバスターウルフを駆って戦場へと飛翔する。

 

 

 

「大人しく寝ている奴じゃないってのは、わかっていたけど……

 ここまでいいタイミングだと、どこかで狙ってたんじゃないでしょうね、あいつ?」

「無駄口をたたいている場合ではないぞ、鈴」

「ラウラさんの言う通りです!私達も負けていられませんわ!」

「ダメージは、あるけどまだ打鉄弐式(この子)も私も戦える……」

「うん。女の子の扱いがなってない、礼儀知らずにお仕置きしないとね♪」

「じゃあ、全員やり返すって方向で……!」

 

攻撃を回避して分散してしまった鈴達は通信で、互いの状況を確認すると

闘志を燃え上がらせて反撃に出る。

 

 

 

「はぁぁぁっ!」

「うぉぉぉっ!」

「く……っそ!」

 

一夏とカズキの猛攻に、防戦一方となるブラック・ゴスペルは、苦し紛れに光弾を

放っていくが、カズキは軽々とかわしていき一夏は背から分離した白龍光翼(フォトン・ウイング)が装着された

左腕を楯のように構える。

 

光子反射(フォトン・リフレクション)!」

 

一夏の左腕にエネルギー膜が現れると、ブラック・ゴスペルの攻撃はその膜に

吸収されていき、ブラック・ゴスペルへと攻撃を放った。

 

「何っ!!!?」

 

自身の攻撃を跳ね返されて、驚愕するブラック・ゴスペルだったが、何とかそれを

回避するものの、かすった装甲から煙が上がる。

光子反射(フォトン・リフレクション)。分離した白龍光翼が雪羅に装備されることで起動するこの盾は、

マイナスエネルギーの攻撃を吸収しプラスエネルギーへと変換して

反射する、対魔物兵装である。

 

「ほいさっ!」

「ごっ!……ガデッ!?」

 

回避したブラック・ゴスペルに間髪入れず、カズキが背後から翼を切り落とし、

そこに弾丸の豪雨が襲い掛かる。

 

「お待たせしましたわ、一夏さん!」

「あんたばっかに、おいしい所を持っていかせないわよ!」

「僕達からのプレゼント、遠慮はいらないよ!天使もどきさん!」

「私達の力を見せてやる!」

「もう、あなたのターンは……ない!」

「一気に行こうぜ、一夏!」

「必ず来るって信じていたぜ、親友!」

「これで……決める――」

「みんな――ああ!」

 

駆け付けた仲間達に一夏は力強くうなずくと、白龍光翼を輝かせ飛翔する。

 

 

 

「全く一夏は……こっちの気も知らないで――」

 

意識を失っていたかと思ったら、自分の危機に颯爽と駆け付け、今また

みんなの先頭に立って剣を振るう。

好き勝手に自分を振り回していく一夏に、明は怒っているのか呆れているのか、

それとも喜んでいるのか自分でもよくわからない声を上げながら、苦笑する。

 

「さて、私達も行きましょうか、箒。

 ……箒?」

「(……すごい。一夏も……みんなも……

 あんな恐ろしい相手に、怯むことなく立ち向かっていく――)」

 

自分達も参戦しようとした明は、返事がなくただ真っ直ぐ一夏達の戦いを

見る箒に首を傾げる。

そんな明を気に留めず、箒は一夏達の戦いをその目に映していた。

真っ直ぐに自分達の魂を輝かせて、立ち向かっていく一夏達を――――。

 

「(私も飛びたい……一夏達のように、魂を輝かせたい!)」

 

強く――ただ強く、箒は純粋に願った。

その想いに応えるかのように、紅椿の展開装甲が稼働していき、赤と金の光が

溢れ出していく。

 

「これは!?」

「エネルギーが……回復している!?」

 

力を取り戻していく、紅椿に箒と明は揃って驚きの声を上げ、

彼女達の目の前に紅椿からウインドウが表示される。

 

・『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』発動。展開装甲とのバイパス構築、完了。

 

「これは……まさか紅椿の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)!」

「箒の願いに、紅椿が応えた!?」

「うん?これは……明!手を!」

「えっ?」

 

驚くのも束の間。箒は、何かを感じたのか明の手を握る。

すると、明のブリッツもエネルギーを回復していく。

 

「っ!まさか、自分だけでなく他の機体のエネルギーも回復できるのか!」

「ありがとう、紅椿。これなら……行ける!」

 

日が昇り始め、夜が明けていく空の闇を裂くように紅と黒の機体が駆けていく。

長い一日の終わりはもう間もなく――。

 





はい。カズキと一夏は、新たな力を手にしました♪
一夏はともかくカズキは、ISみたいなのをつけるのか、またそれを
何にするのかと迷ったんですが、こういう形に着地しました。
最初はつけるなら、自由の大天使かな~と思ったんですが、
私が知る限り見たことが無い、ガンダムWの外伝のG-UNITから
持ってきました。

男心をくすぐるロボット技術に触れたリリカル世界の紫マッドと
同じくプリン伯爵に加え、便乗したカズキも参加してトンデモ機体に
仕上がっております。
そのため、高出力高機動ですが、カズキや千冬みたいな人外な身体
能力でなければ使いこなせなくなっております。

一夏は、原作のパワーアップに新装備を追加しました。
イメージとしては、武者○伝2より登場する
撃鱗将頑駄無(ゲキリンショウガンダム)の翼です。
翼だけでなく、いろんな武器になったので参考にしました。


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