インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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最新話、できました。
新仮面ライダーや新規アニメに、気温の低下。
季節の変わり目を感じるこの頃です。
でも、残業は本当に何とかならないかな(涙)



貫く意地

「あれ?ここは……」

 

一夏は、当たり一面真っ白な空間に立っていた。

 

「なんだよ、ここは?確か俺はブラック・ゴスペルの攻撃を受けて……。

 なあ、ゲキリュウケン。一体何が……」

 

何が起きたのか、一夏は自身が覚えている最後の記憶をたどり相棒に

声をかけるが、そこであることに気がつく。

 

「ゲキリュウケンがいない!?

 そ、それに俺ISスーツを着てたのに何で制服なんだ!って、うわっ!?」

 

事態は考えていたよりもマズイのかもしれないと、察した一夏だったが

突如としてその視界は眩い光に包まれた。

 

“ほ~ら、○○~♪お前の○だぞ~”

“ふふ、これで今日から○○も○○ちゃんね♪”

“お父さん!お母さん!こんなちっちゃい手なのに、一生懸命私の手を握ってくる!“

 

光が収まると、先ほどの真っ白な空間とは違うどこまでも広がる青空と砂浜の上に

一夏は立っていた。

 

「い、今のは……」

 

息つく暇もなく展開される光景に、一夏はパニックになりそうになるが

一度深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 

「慌てるな……どうなっているかわからないけど、

 ここはあの世ってわけでもなさそうだから、俺は死んだってわけでもなさそうだ。

 ……とりあえず、歩いてみるか。

 それにしても、さっき一瞬見えたのは何だったんだ?

 見えたのは病室で、すっごく嬉しそうな家族だったけど……

 弟か妹でも生まれた場面だったのかな?」

 

現状を確認するために、歩き出す一夏だったがこの時見た光景が

彼にとって重大な意味があったのを知るのは、まだ先のことである――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ユーノ君!」

「目が覚めたんか!」

「って、そんな体で何してんだよ重症人!」

 

作戦室に姿を見せたユーノに、驚きと喜びが混じった声を上げるなのはとはやてだったが

弾の指摘に、ユーノがどういう状態なのかに気がつく。

直後、ふらつく体がとても戦えないことを物語っていた。

 

「無理するな、ユーノ。そこの天才(笑)の治療を受けたとはいえ、

 一夏以上に傷を負っているだろ」

「そんなことは、言われなくても……わかっていますよ……。

 でも、カズキさんだってわかっているでしょ?

 ルルーシュを呼ぶにしても、時間がない上にカズキさんもブラック・ゴスペルの

 相手をしなくちゃいけないからウェイブ達もこの世界のゲームなんかできない……。

 ランさんなら、将棋とかできますけどこちらも呼ぶには時間がかかる。

 なら、奴の相手をできるのは消去法で僕しかいないことを……」

「……」

 

ユーノの言葉に、カズキは黙り込む。ユーノの言うように今回現れたグムバは、

正面からこちらとぶつかろうとしない敵であり、しかもグムバが本来得意としている

ゲームは普通のものではない特殊なものらしい。

強いか弱いかではなく相性として

現在この場にいてそのゲームで挑まれても対応できそうなのは、

カズキの他にはユーノしかいなかった。

 

「あなたや他の皆が何を言おうと、僕は行きますよ。

 僕の意地にも関係していることなんで……。

 ここで踏ん張らないと、あなた達と出会ったことの全てが意味の無いもの

 になってしまう――」

 

拳を寸止めした風圧でも、吹き飛ばせそうな状態にも関わらず

迷いも怯えも感じさせない決意を宿したユーノの目を見て、カズキはやれやれとばかりに

肩をすくませる。

 

「こりゃあ、梃子でも動かなさそうだね~。

 噂だとなのはもこうと決めたら、頑固なところがあるって聞くけど

 師匠譲りだったのかな?」

「頑固って、何ですか!」

「なのはちゃんは、もうちょい自分の事を自覚したほうがええよ?

 いろいろと」

 

なのはのある意味、一夏と同じ鈍感属性にはやてがツッコミを入れているのを

聞きながら、カズキは苦笑する顔を引き締めるとユーノに向き直る。

 

「そこまで、意志を固めているならこれ以上何か言うのは野暮だな。

 だけど、一人で行くのだけはとても見過ごせないから何人かは一緒に

 行ってもらうぞ」

「わかりました」

「ユーノ君!?」

「本当にそんな体で行く気かい!」

「なのはもはやても心配してくれてありがとう。

 でも、二人をグムバと……創生種と戦わせるわけにはいかないんだ……」

「それが、お前が言った“管理局は危険だ”の理由が関わってくるのかい?」

「ええ。僕が手にした情報が確かならなのは達は……

 魔導士は奴らに勝てません――」

 

ユーノのためらいながらも意を決した言葉に、二人は息をのむ。

 

「ど、どういうことや?魔導士は勝てへんって……」

「そうだよ!た、確かに鳥さんには歯が立たなかったし、グムバとは

 戦いにならなかったけど……でも!」

「違うんだ、なのは。これは、そういう戦える戦えないのレベルの話

 じゃないんだ……」

「確かに、俺達と魔導士じゃ戦いの捉え方に差があるけど、

 経験でどうにかならないのか?

 実際、俺達は鈴達のことをかなり頼りにしているぜ?」

 

はやてとなのはの悲痛な叫びと弾の疑問の声にもユーノは首を横に振って、否定する。

 

「残念だけど、魔導士には隠された秘密があったんだ。

 創生種には絶対勝つことができない秘密が――」

 

はやてとなのはに負け劣らずユーノも辛そうな顔で、言葉を紡ぐ。

 

「今はこれ以上混乱させたくないから、奴らに勝って……フェイトを

 助け出したら一緒に説明するよ」

「今教えて……」

「待て、なのは」

 

なのはが追及しようとするがカズキが止めに入る。

 

「ユーノは何もお前とはやてを信用してないわけじゃない……。

 むしろ、逆だ。

 俺が千冬や一夏達のことを信じているように、ユーノも君達のことを

 誰よりも信用しているし、信頼もしている。

 だけど、魔導士が創生種に勝てない秘密って言うのは、その信頼が

 あってもヤバイものなんだろ?」

「はい。以前、カズキさんが推察して調べていたこと以上のものです。

 魔導士が奴らに勝つには、それに備えて造られた、あの新型デバイス

 を使わないと無理です」

「お前がそう言い切るってことは、本当にヤバイようだね……。

 わかった。

 グムバの件とフェイトを助けるのはお前に、任せる。

 福音ことブラック・ゴスペルの迎撃作戦会議には、ジノとアーニャ、

 それに天才(笑)にも参加してもらうとして、他のメンバーはひとまず

 体を休めてくれ。いいかい、千冬ちゃん?天才(笑)?」

「……ああ」

「けっ!とりあえず、聞いてやるよ。変態宇宙人」

 

千冬と束がそれぞれの返事をすると、何故自分達だけ除け者にされるのか弾や明達が

反論するよりも先に、カズキが口を開く。

 

「お前達は、福音とブラック・ゴスペルの連戦をしているんだ。

 体力も機体も想像以上に消耗している。弾もな。

 作戦とか小難しいのは、俺達に任せて休める内に休でおけ。

 いざという時のためにね……。

 それにさっき言ったことを考える時間が必要だろ?

 明には、他にやってもらいたいことがあるからそっちを任せたい」

「私にですか?」

 

自分も作戦会議に参加するとばかり思っていた明は、カズキの意外な指示に

首を傾げる。

 

「後ついでに判断材料の一つとして言っておくけど、俺はあの小僧を地獄に

 送るつもりだからね」

 

余りにも普通に告げたカズキの言葉に、全員が一瞬何を言ったのかわからず

呆けるが、頭がその言葉を理解していくと徐々に目を見開いていく。

 

「おい!カズキ!何を言って……!」

「言ったじゃないか、千冬ちゃん。

 あいつは俺に復讐に来たって。だったら、自分で蒔いた種は自分で狩らないとね……。

 それに、あの小僧は人間を止めて創生種になっているから、遠慮する必要もない」

「だ、だけど……そんな……」

 

相手は人間でなくなったから、問題ない……言いたいことはわかるが、簡単に

そう割り切れって言い切るカズキに、付き合いの長い千冬さえ戸惑いを隠せない。

最も動揺が表に出ている真耶が、途切れ途切れに言葉を絞り出すがそれを形に

することはできなかった。

 

「そもそも、あの小僧を含んだあいつを崇拝する連中は俺と同じように人間として

 いろいろぶっ壊れているんだよ。

 あいつらの目的は争いをなくして世界を平和にするってことらしいけど、

 自分達は世界の平和のために動いているから、そのために犠牲は出てもそれは

 平和のために仕方のないこと、必要なことだと何の疑いも持っていない。

 その上、平和をもたらそうとする自分達は、絶対の正義だとな思い込んでいるから、

 それを阻む者、邪魔する者は世界に仇なす者として排除するのに何のためらいもない。

 どこまで行っても分かり合えない平行線をたどるなら、どちらかが消えるしかないのさ」

 

どこまでも利己的でそれでいて正論なカズキの言葉に、このような極論な考えに

耐性を持っていない千冬達は完全に言葉を失ってしまう。

どちらが正義でどちらが悪と問われれば、どちらにも各々の正義がありどちらも悪

であると言えるだろう。

特に、同じように平和のため戦ってきたなのはとはやての動揺はひと際大きかった。

自分達と目的は同じはずなのに、真逆の道を進んで実現できると信じている者達が

存在している事実に大きな衝撃を受けていた。

 

「それじゃあ、作戦会議をするからさっき言ったメンバー以外は

 休憩してくれ。天才(笑)は解析の準備をちゃっちゃっとしてくれ」

「何、命令してるのさ?

 “大天才の束様、どうか哀れな私を手伝ってください。お願いします”じゃないの?」

「そっか……じゃあ、お前が大事にしている……

 毎年作っている等身大箒フィギュアや、箒を思って書いたポエム、一夏くん人形の

 ような箒ちゃん人形、着ていた服等々をコレクションしている

 お宝部屋の存在と場所を箒に教えてもいいのかな?

 そんなものがあると知ったら、抹消しようとするだろうな~」

「な、なんで束さんのトップシークレットを!!!

 卑怯だぞ、お前!人の宝物を人質(?)にするなんて!」

「バラされたくなかったら、馬車馬の如くキリキリ手伝え。

 天才(笑)」

「キィィィィィ――!!!!!」

 

他人の落胆など意に介さず自分のペースで進む二人のやりとりを耳にしながら

弾達は作戦室を後にした。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

カズキから休息を取る様に言われて作戦室を退出した後、明は真っ直ぐ

にどこかへ向かうと、なのはとはやてを除く全員が後に続いた。

これからどうするのかと相談しようとした矢先に、行動を起こしたので

何をと思ったが、目的はすぐにわかった。

明が向かったのは、一夏が眠る部屋だったのだ。

一夏の体は至る所に包帯が巻かれ、その枕元には物言わぬ状態となった

ゲキリュウケンが置かれていた。

 

「…………ばか――」

 

立ったまま横たわる一夏を見ていた明は、何かを堪えるように顔を歪めて

短く一言呟き、そのまま俯きその場から動こうとしなかった。

そんな一夏と明を見て鈴、セシリアは見てられないとばかりに顔を背け

見ることも耐えられなかったシャルロット、簪は部屋を飛び出した。

 

「――くっ!」

 

それに続くように箒も逃げるように、部屋から走り出した。

 

「――っし!ラウラ、一緒に来てくれ」

「えっ?な、なにを……」

 

そして、弾は眠る一夏を見て何かを決心したのかどうすればいいのか

わからずオロオロしているラウラを連れてどこかへと向かった。

 

 

 

箒は砂浜に立ちながら、沈む夕日で赤く染まっていく海を漠然として眺めていた。

手首にある待機状態の紅椿を握りしめながら――。

 

「私の……私のせいだ……!」

 

一夏が自分をかばったせいで、重傷を負ってしまった。

それだけでも、自分を許せないのに誰も箒を責めるたりしなかったのが余計に

彼女を苦しめていた。

 

「私にはもう――」

「一緒に戦う資格はない……ですか?」

「明……?」

 

一人で自責の念にかられている箒の背後に、ISスーツのまま

どこか呆れた様子の明が姿を現した。

 

「わかりやすいぐらいに、落ち込んでいますね。

 それで?何で私や他の皆は、どうして自分を責めないのかと……」

「……っ!」

「では、聞きますがあなたを責めれば一夏のケガは今すぐ治るんですか?

 目を覚ますんですか?」

「…………」

「それに一夏がケガを負ったのは、彼が自分で下した決断の結果で、

 彼自身の責任であなたが気にすることではありません……」

「気にすることではないだと!

 お前に何がわかるんだ!一夏の隣にいて、一緒に戦うことができるお前が!」

 

明の言葉に、沈んでいた箒の心に火が付き明に掴みかかり今まで

溜め込んでいた思いをぶつける。

目の前の女は想い人と共に戦えるのに、自分は足手まとい……

どこかで気づいていながら気づかない様に目を背けていた事実に、知らず知らずのうちに

箒は嫉妬を思っていた以上に抱え込んでいたのだ。

そして、足手まといな自分は助けられて当たり前なのだと――。

 

「…………わかりますよ、あなたの気持ちは。

 何故ならさっきのは、私自身が一夏に言われたことなんですから……」

「えっ?」

 

予想外の明の言葉に、箒は力が抜ける。

 

「最初、私と一夏の仲はそれほどよくはありませんでした。

 戦士としての自覚は低く、それでいて負けん気だけは一人前。

 そんな時、たまたま私一人で敵と遭遇し戦う時がありました。

 すぐに一夏と弾が駆け付けてくれましたが、当時彼らに反発していた

 私は一人で戦おうとして、返り討ちにあいました。

 そして、そんな私を一夏がかばったのです。今回のように――」

「なっ!」

「幸い、今回のような重いケガではなかったので弾と力を合わせて

 敵を倒せました。

 その後、どうして私を助けたのかと聞いたら……

 

 “助けるのに、理由なんかあるわけないだろ?

 体が、勝手に動いたんだよ。

 それに、これは俺が自分で動いて自分で勝手にケガしたんだから

 俺の責任だ。

 勝手に人の責任を奪うなよな!”

 

 ――と」

 

開いた口がふさがらないとはこういうことを言うのだろうかと、箒は感じていた。

普段周りの者達に砂糖を吐かせている二人が、最初は仲が悪かったというのだけでも

信じられないのに、明がそんな無茶をしたとはとても信じられなかった。

 

「今思うと、私は天狗になっていたところがあったんですね。

 一夏と弾も未熟だったとはいえ、彼らなりの信念があったのに

 私はそれを見ようとせず彼らを下に見て、自分の力に慢心していた。

 無論、ケガをしたのは一夏の責任とはいえ私やあなたに全くの責任がない訳では

 ありません。

 だからこそ、今動かなければきっと後悔します。

 箒。あなたは今、何をしたいですか?」

 

まっすぐ、自分を見つめてくる明に箒は一度目を閉じてゆっくり開けると

その目には強い決意が宿っていた。

 

「私は戦う!世界なんて守れなくても一夏を……友達のお前の背中ぐらいは守りたい!」

「へぇ~。落ち込んでいると思ったらいい顔してるじゃない♪」

 

箒が自分の決意と思いを明にぶつけるとそこに、鈴が現れそれに続くように

セシリア、シャルロット、簪が姿を見せる。

 

「鈴!それに皆も!」

「落ち込んでいるあんたの背中を蹴飛ばすつもりで来たんだけど、

 どうやら余計な心配だったみたいね」

「そういう鈴や後ろの皆さんもさっきまで箒と似たような沈んだ顔をしていたのに、

 ずいぶん頼もしい顔をしているじゃないですか?」

「別に~。ただ、あたしはこのままやられっ放しなのが気にくわないだけよ」

「ええ、そうですわ。

 碓氷先生や明さん達が戦うというのに、じっとなどしていられませんわ!」

「うん。ここで何もしなかったら、ユーノって人が言ってたように

 僕達と一夏が出会ったことの全てが意味の無いものになっちゃう!」

「今度は私達が、意地を貫く番……!」

「カズキさんから、落ち込んでいるあなた達のフォローを頼まれたのですが

 要らぬお世話だったみたいですね。

 ……ですが、本当にいいんですね?

 これからの戦いは、勝つしか前に進む道が無くなるんですよ?」

 

自分の意志で立ち上がった彼女達に、明はこうなるとわかっていたかのような

笑みを浮かべると、その笑みを消して再び問いかけた。

 

「大丈夫だ、明」

「どんな敵が来ようとも!」

「必ず勝つだけよ!」

「皆と一緒なら!」

「立ち向かえる!」

 

拳を握りしめ、決意を口にする箒達に明は不敵な笑みを浮かべた。

 

「だったら、もう私は何も言いません……。

 一緒に行きましょう!

 ……ところで、ラウラはどうしたんですか?」

 

明が聞いてきたことで、彼女達はラウラがいないことに気付き辺りを見回した。

 

 

 

「スーさん、おかわり!」

「なあ、弾のお兄ちゃん?こんな時に、呑気にご飯を食べていていいのだろうか?」

 

弾とラウラは、海の家で食事をとっていた。どれだけ、食べたのか弾の前には

皿が山のように積み上がっていた。

 

「こんな時だからこそだぜ、ラウラ。

 腹が減ってちゃ、いざって時に力が出ないからな!

 心配しなくても、一夏なら大丈夫!

 俺は一夏との付き合いはお前達以上に長いんだぜ?

 あいつは、こんなことでくたばるような奴じゃないからな。

 必ず目を覚まして、立ち上がるさ!」

 

弾の話を聞いて、ラウラはうなずくとイザという時に備えて

自分も目の前の食事を取り始めた。

 

「――何、呑気に飯食ってんだあんたは!!!!!」

「ぼげぇぇぇ!!!?」

 

最もラウラと弾を探しにきた鈴のドロップキックによって弾は、蹴り飛ばされ、

戦いの前だというのにダメージを負ってしまった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「大方の作戦の流れは、こんなところか」

「あのオルガードについては……?」

 

作戦室では、ブラック・ゴスペルへの対抗策がほぼまとまり、

後は予想外の事態に対する対応へと話は移った。

 

『アーニャの言う通りだな。もしもあいつが戦いに、入ってきたらどうする?』

「その心配は、ないよ」

「何故だ?」

 

きっぱりと言い切るカズキに、千冬が疑問の声を上げた。

 

「あいつは、昔の俺と同じ復讐者だからね。

 そう言う奴は、目的以外のことは目に入らなくなる。

 例え、目の前で何人死のうが関係ないし助けようとも思わない」

「あれ、でもそれじゃ……」

「そう。だからこそ、オルガードが一夏を助けた理由がよくわからないんだ。

 余程の理由がない限り、復讐に走る奴は誰かを助けたりしない……」

 

ジノの指摘にカズキもまた頭を捻る。

実際、この中でカズキは最もオルガードの心情を理解し察することができるだろう。

そんなカズキでも、何故オルガードが一夏を助けたのかそもそも何故あの場に

現れたのかわからなかった。

 

「現れたのはたまたま偶然ってことでも、説明できるけど……」

『なあ。一夏がオルガードの弟と似ていたからってことはないか?』

「う~ん、難しいところだな……」

「とにかく!一応、頭に入れておくとしてそんなに心配する必要はないんだろ?」

「まあな……」

 

どこか釈然としないままだが、これ以上考えても今は時間が無いため

ジノの言葉にカズキは思考を中断する。

 

「僕の方も方針は固まりましたし、後は……」

「失礼します」

 

後は、細かく策を詰めていくところで明達が部屋のふすまを開けて入ってきた。

 

「どうした……って、聞くまでもないね。

 その顔を見ると全員、誰に言われるでもなく自分で決めたみたいだね」

 

最後に見た沈んだ顔ではなく、覚悟を決めた箒達の顔を見て

カズキはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ、まずはジノとアーニャから作戦内容を聞いてくれ。

 俺はユーノと用があるから少し席を外すよ」

「僕にですか?」

 

ユーノがこんな時に何をと思うが、瞬間カズキは口を三日月のように歪めた笑みを

浮かべる。

 

「な~に。いくら天才(笑)の治療や治癒魔法をかけても、まだ動くには厳しいだろ?

 だから、俺が特製回復マッサージをしてやるのさ。

 これで多少体をだますことができる…………地獄の痛みと引き換えに……ね♪」

「へっ?」

 

指の関節をボキボキと鳴らしながら、心底楽しそうに笑うカズキにユーノは顔を

引きつらせる。

 

「じゃあ、俺達は隣の部屋でやってるからとりあえずどんな作戦かは

 頭に入れてね」

「ちょ、ちょっと!地獄の痛みって!」

「それじゃあ、逝こうか?」

「ま、待って!何か発音が……!」

 

ユーノの言葉には耳を傾けず彼の首根っこを掴んで引きずりながら、カズキは作戦室を

後にした。そして、一同が唖然としていると――

 

「&%$#“?@*!!!!!」

 

数秒後、声にならない悲鳴が彼らの耳に届いた。

 

「……さぁ~てと!じゃあ、作戦の説明をしようか」

「そ、そうだなジノ!」

 

冷や汗をかきながらジノと弾は、露骨に話を逸らした。

ユーノの悲鳴が聞こえないふりをしながら……。

 

「そう言えば……」

「どうしたのラウラ?」

 

全員がジノと弾に同意して、作戦内容を聞こうとすると

ラウラがふと何かを思い出したかのような声を上げ、シャルロットが声をかけた。

 

「なのはとはやての姿が見えないが、どうしたのだ?

 てっきり、来るのだと思っていたのだが……」

「確かに……あの二人がフェイトをさらわれたのに、大人しく待っているとは

 思えん」

 

ラウラの疑念に三人の仲をよく知る箒が、続くように疑念の声を上げる。

 

「ああ、あの二人なら多分……」

「OHANASI中……」

 

その疑念にジノとアーニャが答えるが、その発音の違いに明達は首を傾げるのだった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「どうしたの?エースオブエースの実力はこんなもの?」

「嘘やろ……」

「し、信じられないですぅ~~~」

 

はやてとリインは、目の前の光景に我が目を疑っていた。

時空管理局でも指折りの実力者であるなのはが、自分達よりも年下の女の子に

苦戦しているのだ。

肩で息をして地面に手をついたなのはの消耗具合とは対照的に、髪を鈴と同じくツインテールに纏めた女の子……ティアナは、特に疲れた様子を見せることなく自身の

デバイスであるクロスミラージュを油断なく構える。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「…………」」

「はやてちゃん……なのはさん……」

 

作戦室を後にしたなのはとはやては海が見える岩場に来ると、無言のまま

立ち尽くし、リインは二人にかける言葉が見つからなかった。

 

「一体、何が正しいんやろうな……」

 

今まで自分達の力を正義のため、平和のために使おうと管理局で戦ってきたが、

オルガードの復讐、管理局に隠された裏の顔の一端、そしてカズキの話を聞いて

はやては自分達の根底が崩れていくのを実感していた。

例えぶつかっても、相手の思いを受け止め自分の思いを伝えればいつか

必ず分かり合うことができると信じて疑わなかった。

しかし、オルガードやカズキの思いをどう受け止めればいいのか、自分達は

何を伝えればいいのかはやては分からなかった。

彼らに正義はない……だが、彼らを悪だと言い切ることもできなかった。

 

「……はやてちゃん。私達もユーノ君と一緒に、フェイトちゃんを助けに行こう。

 このまま、じっとしてるなんてできないよ、やっぱり。

 管理局員としても、これは見過ごせ……」

「余計なことは、しないでくれない?」

 

うなだれるはやてに、なのはが自分達も行動しようと提案するがその顔は

箒達と違って迷いが見て取れた。

そこに割って入る声が現れた。

 

「誰!」

「カズキさん達の仲間って言えばわかる?」

 

なのは達の前に現れたのは、黒い管理局の制服のようなものを着た

ツインテールの少女、ティアナ・ランスターだった。

 

「いきなり、こっちに来てあなた達を見張れって言われた時は、何でって

 思ったけど、あなた達を見てその理由がわかったわ……。

 もし、今回の戦いに参戦したいって言うなら私が止めさせてもらうわ!」

 

ティアナはカズキの指令に疑問を浮かべていたが、その真意を察し

クロスミラージュを起動させ、着ていた服とは逆の白をメインカラーとした

バリアジャケットをまとい、クロスミラージュの銃口をなのはとはやてに向ける。

 

「止めるって……何で!」

「どういうことや!」

「何でもどうも、そのままの意味よ。

 はっきり言って今のあなた達が、戦いに加わっても完全な足手まとい、

 邪魔でしかないわ。

 一夏さんも倒れている以上、勝手に動かれて敵に捕まるとかされたら

 こっちも迷惑なの」

「くっ……!」

「足手……まとい……」

 

薄々感じて無意識に目を逸らしていた事実をキッパリと突き付けられて、

二人は顔をしかめる。

 

「何を言っているんですか!マイスターもなのはさんもSランクオーバーの魔導士で、

 いろんな事件を解決してきました!足手まといなんてことは、ありえません!

 あのグムバだって、あんな結界さえなければ!」

「Sランクオーバーだから……何?」

 

ティアナの言葉に我慢できなかったリインがそれを否定するが、

返ってきたのは、問いかけだった。

 

「魔導士だから、高ランクだから勝てるなんて考えているんだったら、

 それは大きな間違いよ。

 戦場には、こうすれば勝てるこれはしちゃいけないなんてルールはない。

 強くても負けることはあるし、命も落とすことはある……。

 それにあなた達が相手にしてきたのは、あくまで人間や人間が作ったモノとかでしょ?

 人間の常識を超えた存在に、どうやって勝つの?」

「だったら……このまま、指をくわえておとなしくしてろって言うの!」

「そうよ。そう言っているじゃない」

 

自分達より年下の女の子が臆することなく、言い切ってくるので

二人の顔はどんどん険しくなる。

 

「どうしても行くって言うなら、止めにかかる私を倒していくのね。

 言っておくけど、私は仲間内じゃ下から数えた方が早い実力だから

 そんな私を倒せないなら……」

「問題外ってわけやね……」

「はやてちゃん、下がって。私がやる!」

 

なのはがはやての前に出ると、一瞬光が包み込みバリアジャケットが展開される。

 

「自分達と同じ魔導士でせいぜいBランクレベルの魔力しかない私なら、

 一人で十分ってわけ?

 いいわ。今回は、魔導士の戦いに合わせてあげる。

 クロスミラージュ、訓練モードにモード変更!」

『了解!』

 

ティアナとなのは、互いの戦闘準備が整いデバイスに光が灯る――

 

 





束の秘密部屋ですが、似たような部屋を楯無も隠してます。
千冬は・・・想像にお任せします(汗)

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