インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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お待たせしました。
夏コミ前に投稿したかったのですが、残業続きで時間がとれず(汗)
オマケに会社の休みの都合で、一日目参加できなかったんですよね(苦笑)

シン・ゴジラをようやく見に行けましたがいろんな所で
エヴァを感じましたwww


憎悪の翼

「おいおい。

 私は、銀河の彼方からこの地球を守るためにやってきた流れ星、

 宇宙ファイターXだぞ?

 碓氷カズキのことを知らないわけでないが、彼と私は別人だ」

「あっ、いや、そういうのはもういいですから。

 あの変態と知り合いなら、何とかしてくださいよ~」

 

少年の憎悪が籠った言葉などどこ吹く風のように、とぼける宇宙ファイターXだったが

隣にいるリュウガンオーがツッコミを入れる。

 

「知り合いなわけないだろ?

 ……と言いたいけど、私に恨みがある奴なんて、心当たりがありすぎて

 見当がつかないなぁ~。

 大方、昔気に入らないから叩き潰した連中の生き残りとかそんなところだろ。

 ああ別に、教えてくれなくていいぞ?

 潰した奴らのことなんかいちいち覚えていないから」

「覚えていないだと……くくく。いいさ!

 我らの同志を意識することさえ、貴様には過ぎたこと!

 せめて、僕の名を刻み、地獄で貴様の罪を永遠に悔いるがいい!

 我が名は、ミール・マーセレ!我らが夢のために、怨敵碓氷カズキを打ち滅ぼさん!」

「――――っ!」

 

宇宙ファイターXの挑発じみたとぼけに、負けじと挑発する少年ミールが

最後の言葉を口にした瞬間、

宇宙ファイターXことカズキは仮面の下で目を見開いた。

 

――我らが夢のため――

 

それは決して、カズキが生涯忘れることがない言葉……かつてカズキの全てを壊し、

今のカズキを作ったという矛盾をはらんだ言葉である。

10になるかならないかの少年だったカズキの目の前で“ある男”が、傲慢に言い放ったのだ。

 

――全ての人々に光を――

 

「……なるほどなるほど……つまり、お前はご主人様のいる地獄に行きたいと

 ……そういうことか?」

 

顔を俯かせながら笑い出した宇宙ファイターXを見て、一夏達の背中に寒気が走った。

いつもの相手をからかうようなイタズラ小僧のような笑いではなく、狂気が混じった

笑いに生物としての本能が危険を知らせる。

 

「言っても無駄だがあえて言うぞ……先に奪ったのはお前達だろうが!

 嵐脚(ランキャク)!」

 

宇宙ファイターXが脚を振り抜いて巨大な鎌風をミールへ放つと、その体はたやすく切り裂かれ霧のように霧散する。

 

「き、消えたっ!?」

「まっ、当然幻だよな……」

 

最初からミールの姿が幻影だとわかっていた宇宙ファイターX以外の者は、キョロキョロと辺りを見回していると、どこからともなく彼の声が聞こえてきた。

 

「ふははははは!何故、僕が姿を見せたのかわかっていないようだね。

 それは、確実に貴様を殺せるからだよ!」

 

再びミールが姿を現すと、その横にぐったりしたように動かない『銀の福音』がいた。

 

「あの時、落ちるこのおもちゃを誰かが助けようとすれば、中に隠れていた僕が

 不意打ちで殺せたけど今は些細なことだ。

 さあ、見るがいい!咎人に裁きを下す、偉大なこの姿を!!!」

 

ミールは両手を広げて天を仰ぐと、その体は黒い煙となる。

それと同時に『銀の福音』に、ミールが召喚した

先ほどのスライムがいくつも纏わりつき、あっという間に

薄気味悪い黄緑色をした球体となる。

 

「あ、あれは!」

「シュヴァルツ・バイザーと同じ!」

「何が起きますの……?」

「はっ!いくら、スライムが合体したところで所詮スライムよ!」

「それより、操縦者の人がマズイよあれは!」

「いくら、絶対防御があるとはいえ……」

「うん。悪い予感しかしない……」

「というか、あいつひょっとして……」

 

黒い煙を見たことがある一夏と箒は驚愕し、リュウガンオーは信じられないものを

見たような声を漏らす。

 

「お前……人間捨てたな……?」

 

リュウガンオーの答えを肯定するかのように、宇宙ファイターXは吐き捨てるように

言葉を紡ぐ。

 

「そうさ。僕は、貴様が戦っている創生種とか言う奴らを利用して

 創生種になったのさ!これで、僕は人間の体では制御できなかったような力も

 制御できるようになった!

 ――加えて、この極上のマイナスエネルギーとおもちゃとはいえそれを

 増幅できるこれが手に入った今!僕に敵はない!」

「創生種になったって……そんなことできるのか?」

 

ミールの人間を止めたという言葉に信じられないと言葉を失う箒達と

同じく、一夏を無駄と思いつつも言葉を絞り出す。

 

「……別に人間を止めるというのは、珍しいことじゃない……。

 吸血鬼や狼男に噛まれると同じになるって聞くだろ?

 ……他にも超常の存在と契約して、人の身を超える……体を改造される……

 忌避すべき魔の存在と混じり合う……。

 世の中には、結構人間を止める術が満ちあふれているのさ」

 

何でもないことのように語る宇宙ファイターXに一夏とリュウガンオーも

箒達と同じく言葉を失う。

 

「おしゃべりは、もういいかい?」

 

ミールが問いかけると、『銀の福音』を包み込んだ球体は収縮し形を変え始め

元の『銀の福音』に近いシルエットとなっていく。

だが、体を覆うアーマーは銀色から輝きが失われたようになり、一夏達を苦しめた

天使のような純白の翼は5対の悪魔のような翼へと変貌を遂げる。

そして、フルフェイスのマスクには×のような装飾が現れた。

 

「さあ……碓氷カズキを断罪する、“ブラック・ゴスペル”の完成だ!」

 

シュヴァルツ・バイザーのように、黒い煙となったミールが『銀の福音』“だった”

ブラック・ゴスペルと同化すると10枚の翼を広げ、大気が震えるほどの威圧を放つ。

 

「……って、なんでスライムが堕天使というか魔王というか……

 そんなのにクラスチェンジするんだよ!」

「それはゲームとかの話だ。実際、あれは戦いやすい姿になっただけだ。

 後は、本人の意思が反映されている。

 問題なのは、あのスライムどもだ。

 一つになったことで、巨大なシステムを制御できるような回路を形成している。

 それこそ、純度の高いマイナスエネルギーを増幅しても

 制御できるほどの……」

 

リュウガンオーの叫びに、呆れ交じりのツッコミを入れる宇宙ファイターXだったが

その後の言葉は苦虫を噛んだものへと変わる。

 

「レグドと違って、僕は肉体も憑依させているからね。

 シュヴァルツ・バイザーよりも、強く僕の意志を反映させられるよ。

 まあ、万が一僕が倒されたら中のおもちゃの操縦者も死んじゃうけどね♪」

「……」

 

ゲームやテレビで悪役が使う常套手段を現実に目の前にして、

宇宙ファイターXだけでなく、一夏達も攻撃するのを躊躇する。

 

「……お前達は、撤退しろ。こいつの相手は、俺がする」

 

少し考える素振りをして、宇宙ファイターXは一夏達に指示を出すが、その内容は

信じられないものだった。

 

「全員、特に一夏と箒はさっきの戦いでほとんどエネルギーが残っていないだろ。

 そんな状態でこいつと戦うのは、危険を通り過ぎて無謀だ。

 リュウガンオーは、こいつらの護衛で一緒に離れろ」

 

誰かが反論する前に、正論を使って宇宙ファイターXは指示を飛ばす。

彼の言うように、現在この場で戦えるのは『銀の福音』と戦っておらず消耗していない

宇宙ファイターXとリュウガンオー、そしてリュウケンオドーへと変身できる一夏だけ

である。

だが、宇宙ファイターXは彼らも下がらせようとする。

 

「護衛って……あんなのと一人で、戦うつもりですか!?」

「ああ、あれは私がまいた種みたいだからね。私が決着をつける

 (それにまだリュウケンドーの正体を千冬ちゃんに知られるわけには、

 いかないからね)」

 

そう、ミールが現れたこと、『銀の福音』を異形へと変えたことは映像越しに千冬達がいる

作戦室にも伝わっており、あまりの想定外の事態に混乱していた。

宇宙ファイターXは、自分が原因だからだけでなくリュウケンドーの正体を

知られないためにも下がらせようとしているのだ。

 

「(というわけで、無茶に付き合ってもらうよ。ザンリュウジン?)」

『(何言ってるんだ。水臭いぜ、相棒)』

「そうはいかないよ!」

 

正体がバレることなど、お構いなしに助太刀するかもしれない一夏に

もう一言ぐらい言おうとしたところで、ブラック・ゴスペルはその翼から

『銀の鐘』(シルバー・ベル)のような攻撃を行う。

ただし、一発一発が『銀の鐘』(シルバー・ベル)の数倍はあり弾の数は単純に5倍である。

 

「「総員、散開!!!」」

 

いち早く気がついたラウラと宇宙ファイターXが、指示を出し全員攻撃を

避けていく。

 

「あ~こういう戦い方をするのね……」

「はっはっはっ!

 こいつらが、余程大事なようだな!

 どうする?こいつらを見捨てて、戦うかい?」

 

ミールことブラック・ゴスペルは、一夏達ごと宇宙ファイターXを抹殺する算段のようだ。

シールドエネルギーが残り少ない彼らに、一発でもブラック・ゴスペルの攻撃が

当たれば命の保証はできないだろう。

そんな彼らを狙えば、宇宙ファイターXは必ず助けに入るし自分の身が危なくなっても

一夏達を狙えば危機も回避できる。

 

「ほらほら、どうしたんだい?

 早くしないと、僕の中の人間は壊れちゃうかもよ?

 制御できるって言っても、負担がゼロじゃないから彼女にも手伝ってもらっているからね」

「こいつ、性格悪すぎだろ!」

 

自分の絶対的な優位を微塵も疑わないブラック・ゴスペルは、嘲笑いながら

挑発をし、一夏が怒りの声を上げる。

 

「(参ったな……本気でマズイぞこれは……。

 とにかくまずは、何とかして一夏達を逃がさないと、攻撃のしようがない。

 旅館の方は、ウェイブ達がいる分まだマシか……)」

 

ブラック・ゴスペルの攻撃を避けつつ一夏達のフォローをする宇宙ファイターXは、

手詰まりな現状に顔を険しくする一方で、旅館の護衛をウェイブ達に任せたことを

正解だったと感じていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「いや、いくらなんでも舐めすぎでしょコイツら?」

「だな」

 

花月荘から少し離れた林の中で、クモの巣にかかったように糸で縛り上げられ

物言わぬ姿となった者達の骸の前で、ラバックとグランシャリオを纏ったウェイブが

呆れた声を上げていた。

 

「管理局の連中が新しい魔導実験のためにIS適正のある子を利用しようとしていて、

 学園から離れるこの臨海学校を狙ってさらいに来るかもだから、

 こうやって、護衛していたわけだけど……」

「無価値の存在に意味を与えてやるだの、魔法を使えない俺達をゴミ扱いするわ、

 怒りを通り越して呆れ果てるぜ……」

「まあ、そのバカさ加減でこっちは仕事が楽にできるからいいんだけどさ」

 

ラバックは、苦笑交じりに肩をすくめる。

自分達のことを格下だと舐めて勝手に油断してくれるのだから、これほど

倒しやすい敵はいないだろう。

 

「それにしても、こいつらのこの顔……自分達が負けるどころか、命を落とすなんて

 考えもしなかったって顔だな……」

 

ウェイブは、亡骸の信じられないという顔や苦しみに歪んだ顔の目を閉じていく。

 

「戦場に出れば、どんな力を持っていても生きるか死ぬかっていうのが

 ついて回るのに、危機感無さすぎだぜ。

 まっ、俺達に出会ったやつらはまだ運がいいよな。

 他のみんなはいろいろとエグイし、生き残った奴らも……」

「“あれ”だよな……」

 

二人は足元で、縛られ気絶している数人に憐みの視線を送ると

この任務をカズキから頼まれたことを思い返す。

カズキは、何人かは捕縛するように言いその後こう言ったのだ。

 

「捕まえた連中からいろいろと聞き出したり、持ち物から

 管理局の一員だということがわかれば、こちらから攻めることもできるようになる。

 頼むから、気絶とか捕縛とかぬるい手で来るなんてことはしないでくれよな?

 そうなればこっちが反撃しても、悪~いのは向こうだからやりたい放題攻め放題だ。

 くくく……」

 

笑いながら獲物を追い詰めるというドS全開の笑みを浮かべ、カズキは向こうが

邪魔をした自分達に攻撃してくれることを願っていた。

そうすれば、大義名分はこちらにいくらでも立てられるからだ。

 

 

 

「何だ、この程度か。つまらん……」

 

心底くだらないとばかりに、エスデスは一人海岸で自分の周りの氷を見ながら

吐き捨てるようにつぶやいた。

氷の中には、ラバックとウェイブが倒したのと同じ、管理局員が閉じ込められていた。

 

「この間の炎の剣を使う女や、あの男のような奴はそうはいないということか……。

 護衛といった守りの姿勢はやはり、私には合わんな……」

 

エスデスはそう言うと、指を鳴らして氷を砕きその場を後にした。

 

 

 

「葬る――」

「ぐあっ!」

「な、何だこれは!!!」

「た、助けてくれ!死にたくない!」

 

ラバックとウェイブがいるのとは違う場所でアカメは、次々と手に持つ

日本刀で管理局員を切り伏せていった。

斬られた者達は、バリアジャケットを着用しているにも関わらず

ケガを負ったことや傷口から広がる呪詛のような模様に恐怖し、助けを求めるも

一人また一人とその瞳から光が消えていく。

 

「うおらぁっ!」

「ぎゃあああっ!!!」

 

その傍らで、獣の耳や尾を生やしたレオーネが獅子の手のようになっている拳で

敵を殴り飛ばしていった。

 

「こんな美女に逝かされるんだ、十分いい思い出になっただろ?」

「二人ともお疲れ~」

「全く、口ほどにもないとはこのことね」

「案外簡単に、終わったな」

「うん。普段の訓練の方が、きつい」

「ごめんね、みんな。ほとんど役に立てなくて……」

 

大方の管理局員を倒すとアカメ、レオーネと共にタツミ達も一息つく。

 

「そんなことないっすよ、ボルスさん。

 ボルスさんが最初に攻撃したおかげで、敵を分断できたんですから」

「ははは……。でも、それを考えたのは私じゃなくてカズキ君なんだよね……」

「お~い、みんな~」

「遅いわよ、ラバック」

「ウェイブ、肝心なところで失敗しなかった?」

「どういう意味だよ、クロメ!」

 

アカメ達の元にラバックとウェイブが合流し、互いの状況を報告し合う。

 

「とりあえず、これで任務は完了か?」

「いや、増員や他の敵が襲ってくる可能性がある。

 もうしばらく、警戒した方がいいだろう」

「ははは、アカメは真面目だね~」

「そういう、ねえさんが能天気すぎなのでは?」

「あれ?」

「どうしたの、ラバック君?」

 

タツミ達が、敵の更なる襲撃に備えようとするとラバックの手袋が何かを察知する。

 

「糸に何か引っかかったけど……

 これ外からじゃない、旅館から誰か外に出たぞ!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

自分達が旅館から抜け出したことを知られているとは夢にも思わない

なのは、フェイト、はやての三人は人目のつかない場所でバリアジャケットを展開し終えていた。

 

「まさか、オルガードさんがこの近くに来てるなんて……」

「それに包囲の準備ができているから、討伐に参加せよって……」

「気持ちはわかるで、二人とも……。

 この間の話を聞く限り、宇宙ファイターXやリュウケンドーは

 邪魔もしなければ、協力もしないみたいやけど動かないわけにはいかへん。

 今度こそ、何とか話をするんや!」

 

千冬に部屋に戻るよう言われた彼女達はしばらくしてから、通信が入り追跡に成功した

オルガードの討伐任務への参加を命じられたのだ。

最初はとまどっていたが、今度こそ話をと意気込み同室だったアリサとすずかに

抜け出すことへのごまかしを頼み、旅館を後にしたのである。

 

「う~ん……でも、マイスター。

 さっきの通信何で、クロノ艦長からではなかったんでしょうか?」

「それはね~?こうやって、君達をおびき出すためだよ」

「「「っ!!!?」」」

 

背後から突如として聞こえてきた声に、三人が振り向くと同時に空が薄暗くなる。

 

「結界!?」

「この結界はあなたが!それにおびき出したって、どういうこと!」

 

なのは、素早くレイジングハートを謎の声の主へと向ける。

彼女に続いて、フェイトとはやても戦闘態勢に入る。彼女達は、デバイスを握る手に

自然と力を入れていた。

何故なら、木の枝に腰かけこちらを見下ろす声の主の姿を見た途端、油断できないと

直感したのだ。

声の主は人の形をしていたが、その体は鱗で覆われており背には翼が生え、

顔はまるで竜の顔を人へと変えたようなものであった。

 

「よ……っと!初めまして♪

 僕の名前は、グムバ。君達が戦った鳥の魔物、ベムードを作った者達って言えば

 わかりやすいかな?」

 

木から飛び降りたグムバは、初めて会う友達の知り合いにあいさつするかのように

軽い感じでなのは達に話しかけてくる。

 

「それで質問だけど、どういうことも何も君達と遊ぶために

 さっきの通信は僕がしたんだよ。見事に騙されちゃったね~♪

 本当は魔弾戦士達と遊びたかったんだけど、レグド様との勝負に

 負けちゃったからね~。

 指示通り、君達は僕とちょっと遊んでもらうよ♪

 ちなみに、君達の拒否権はあんまり意味ないからね。

 この結界から出るには、僕を倒すしかないよ~」

「……だったら、遠慮なくそうします!

 ディバイン――――」

「ああ、それとね~この結界の中では……」

「――バスター!」

 

グムバの言葉に、ならば話は早いと言わんばかりになのはは自分の十八番の攻撃を

行うが、それは発射と同時に霧散してしまう。

 

「っ!?き、消えた……!?」

「このっ!」

 

今度は、フェイトが瞬間高速移動魔法のソニックムーブを使ってグムバの死角に

回り込み、バルディッシュを振り下ろすがその刃はグムバの体に当たる直前で

止まってしまう。

 

「な、なんや!何が起きとるんや!」

「ふふふ、せっかちだね~君達は。

 人の話は、最後まで聞こうね~。この結界は、ちょっと特殊でね。

 相手を傷つけるような暴力行為は、許されないのさ。

 つまり、君達の魔法じゃ僕を倒せないってこと♪」

 

イタズラに引っかかった相手に、ネタバレするかのようにグムバは楽しそうに話すが

なのは達は言葉を失う。

これでは、自分達が一方的にやられるだけではないかと。

 

「心配しなくても、大丈夫だよ。この結界の中にいる全員に、そのルールは適用

 されるから、僕も君達を傷つけることはできないんだよ。

 こんな風にね♪」

「っ!」

 

一瞬姿が消えたように見えたグムバは、はやての目の前に現れ手にした剣を

はやての心臓へと突き刺そうとしていたが、その動きはフェイトのように

止まっていた。

だがそんなことは、はやてにとって些細なことだった。

グムバの動きを彼女は捉えることができず、もしもこの結界がグムバの言ったような

ものでなかったら、はやては心臓をこのまま貫かれていただろう。

自分が直面していた死という現実に、頭が理解し始めるとはやての体に震えが走る。

 

「――とまあ、普通に戦ったら今みたいにすぐに決着がついちゃうからね~。

 それじゃあ、おもしろくないからここではゲームで勝負するんだよ♪」

「ふふ……♪

 私も混ぜてもらっていいかしら?」

 

互いに相手を攻撃できないのにどうするのかとグムバが説明しようとすると、

そこへ割って入る者が現れた。

 

「あれ~?リリス様じゃん?何で、こんなところに?」

「ふふふ♪ちょっ~と、私も遊びたくなってね♪」

「うおっ!何や、あのフェイトちゃんの恥ずかしいバリアジャケットよりも

 刺激的な格好をしとるお姉さんは!

 是非、その素敵なものをモミモミさせて!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!はやてちゃん!」

「恥ずかしいバリアジャケットって、どういうこと!」

 

どこぞの業界の女王様の恰好で現れたリリスに、はやてはいつもの病気とも言える癖が

出るが、なのはとフェイトからたしなめられる。

最もリリスもはやての言うように、フェイトのバリアジャケットの別形態や

ISスーツよりも露出が激しいので、大半の男がリリスの姿を見たらはやてのように

歓声を上げるだろう。

 

「まあ、別にレグドやあんたの邪魔をするつもりはないわ。

 私が遊びたいのは……」

「っ!?」

「この子だけだから♪」

 

リリスは、フェイトの背後に瞬時に回り込むとフェイトの足や腰に手を回す。

 

「それじゃ、私達は二人っきりで楽しんでくるから後はよ・ろ・し・く♪」

「待っt……」

 

なのはがフェイトに手を伸ばそうとするも、その手は空をきり

フェイトとリリスはその場から姿を消した。

 

「あ~あ~。あの人も勝手なんだから……」

「あんたら、フェイトちゃんをどこにやったんや!」

「さあ~ね~。これはリリス様が勝手にやったことだから、僕にとっても

 予想外なんだよね~。

 でも、僕に勝てたら知っているかもしれないレグド様っていう幹部に、

 連絡を取ってあげてもいいよ♪」

 

あまりに自分勝手な発言に残されたなのはとはやては、唇を噛みしめるが

自分達の力ではどうしようもなかった。

 

「それじゃあ、勝負するゲームは……」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「くそっ!このままじゃ、じり貧だ!」

 

ブラック・ゴスペルとの戦闘が開始されて数分。

絶え間なく降り注ぐ破壊の雨に、一夏達は回避に専念せざるをえなく反撃の糸口を

掴めないでいた。

 

「調子にのりやがって、あの野郎~。バスターウルフ、スカイモード!」

「――ォォォン!」

 

リュウガンオーが声をかけるとバスターウルフから、後部の飛行ユニットが外れ

その体が左右に開く。

そして、飛行ユニットと共にリュウガンオーの背後へと装着される。

 

「これで、俺も空で自由に動けるぜ!

 ショットキー!発動!」

『ドラゴンショット!』」

 

空での機動力を手にしたリュウガンオーは、ブラック・ゴスペルの攻撃を避けながら次々と

ブラック・ゴスペルの攻撃を撃ち落としていく。

 

「ちょこざいな……!」

「余所見してていいのか?」

 

力の差も分からず、自分に刃向かってくることにブラック・ゴスペルが苛立つと

その隙を見逃すことなく、宇宙ファイターXはザンリュウジンを振るって風の斬撃で

ブラック・ゴスペルの翼を数枚斬りおとす。

 

「碓氷カズキィィィ!!!」

「うおぉぉぉ!」

『チェンジ!リュウケンドー!』

 

翼を切り落とされたことで、自分にある人質と言うアドバンテージを忘れてブラック・ゴスペルは

激昂し、宇宙ファイターXを睨み付け隙だらけとなる。

一夏は、白式に残されたエネルギーで最後の瞬間加速を行い、ブラック・ゴスペルとの間合いを詰めると白式を解除し、リュウケンドーへと変身する。

 

「――りゃあ!!!」

「くっ!足手まとい風情が!!!」

「あらよっと」

 

ゲキリュウケンをブラック・ゴスペルに振り下ろすも、その装甲にはじかれてしまう。

ブラック・ゴスペルも宿敵の荷物程度としか考えていなかった一夏達に、反撃されて

苛立ちがピークとなり、空中で無防備なリュウケンドーに拳を叩き込もうとするが

ザンリュウジンをアーチェリーモードーにした宇宙ファイターXの攻撃によって

空振りに終わる。

 

「――っと!」

「乗せてくれて、ありがとう!」

 

海へと落ちていくリュウケンドーをリュウガンオーが背中で、キャッチする。

 

「お前なぁ~、これでリュウケンドーの正体がバレちゃったじゃないか。

 一体、どうするんだ?」

 

リュウガンオーとリュウケンドーのコンビプレーに感心しつつも、宇宙ファイターXは

呆れた声を出す。

実際、この戦闘を見ていた教師陣はリュウケンドーの正体に驚きの声を上げ、

千冬は鋭い目で画面を睨み付けていた。

 

「そんなことを言ってられる相手じゃないでしょ、コイツは。

 そういうことは終わった後に、考えましょう」

「そうっすよ。俺達が力を合わせないと、勝ち目ないですよ!」

「わかったわかった……。とりあえず、一端撤退という方針はそのままで

 私達に奴を引き付けるぞ!」

『『「「おう!」」』』

「(全く……変わらないよな、こういう真っ直ぐなところは――)」

 

宇宙ファイターXは観念したように折れ、ブラック・ゴスペルへ連携攻撃を開始した。

 

「調子に……乗るなぁっ!!!!!」

 

切り裂かれたブラック・ゴスペルの翼はスライムへと戻ると、体へと吸収され再生し、

再びその翼から破壊の雨を降らせる。

しかし、今度は全員にではなく宇宙ファイターXとリュウケンドー、リュウガンオーに

集中している。

プライドを傷つけられたことで、目の前の敵しか映っていないようだ。

 

「さっきまでの余裕はどこ行ったんだ、コイツ?」

『大方、気にも留めなかった相手に攻撃されて、しかもそのせいで

 宇宙ファイターXに傷つけられたのが勘に触ったのだろう』

「何だよ、見た目通りのお子ちゃまだったのか」

『だが、そのおかげでこちらに攻撃の目が向いているのは好都合。

 せっかくの巨大なパワーも持て余しているようだ』

「人質がいるってことを忘れるなよ。あくまで目的は、こっちに引き付けることだ。

 彼女達が撤退できたら、私達も一端引くぞ」

「わかってますよ。さっきの攻撃でどれぐらいの硬さかは、分ったからな……

 月歩!」

「何だと!?」

 

リュウケンドーはリュウガンオーの背から飛び出すと、空にある足場を蹴るかのように

飛行し、ブラック・ゴスペルに接近し斬るというより殴り飛ばすように攻撃する。

 

「このまま一気に行くぜ!」

「今の内だ!撤退しろ!」

「「「「「「は、はい!」」」」」」

 

ブラック・ゴスペルの体勢が崩れた所をリュウガンオーと宇宙ファイターXが集中砲火を

浴びせ、箒達を逃がそうとする。

 

「GAAAAA――!!!!!」

 

怒りが頂点に達したのか、ブラック・ゴスペルは

最早言葉にならない叫びを上げて大気を震わせて、

リュウケンドー達を一瞬ひるませると、体の前に7つの暗黒の光弾を作り出す。

 

「吹っ飛べぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

ブラック・ゴスペルは作り出した光弾を四方八方に、撃ち出す。

狙いも何もないその攻撃を、リュウケンドー達は辛うじて避けるがかわした光弾が

海に着弾すると先ほど、宇宙ファイターXが起こしたものよりも巨大な水柱が起こり

その衝撃で今度は、リュウケンドー達が吹き飛ばされる。

 

「くっ……かはっ!」

 

中でも、最も機体のエネルギーが少なかった箒は、今の衝撃で完全にエネルギーが切れて

しまい、無防備に近い状態になってしまう。そんな彼女に、残る光弾が目前に迫る。

 

「マズイ!」

「箒さん!」

「避けてっ!」

 

それを見ていたラウラ達が叫ぶも、距離がありすぎて助けに行くことができない。

 

「(死ぬのか……私は……?)」

 

逃れられない死に対し、箒はスローモーションの世界でどこか他人事のように

感じていた。極限状態になると、冷静ながらもどこか思考が抜けてしまうのかもしれない。

だが、箒はそんな世界から無理やり現実に引き戻される。

 

「箒ぃぃぃ!!!」

 

他の者より箒の近くにいたリュウケンドーは、月歩で彼女に近づくと

体当たりで彼女を突き飛ばし、光弾から救う。

――自分がその光弾の射線に入るという、代償に。

 

「い、ちか……?

 一夏ぁぁぁっっっ!!!!!」

 

防御する暇もなく、光弾をまともに受けてしまったリュウケンドーの体は凄まじい

爆発に包まれ、その中から砕かれたアーマーの欠片をまき散らしながら変身が解け、

一夏は海へと落ちていく。

敵を足止めするために、敢えてモードチェンジをしなかったのが裏目に出てしまった。

 

「もらったぁぁぁ!!!」

 

落下する一夏を見て、冷静さを取り戻したのかブラック・ゴスペルは一夏に

止めを刺そうとする。

 

「させるかぁっ!」

「この野郎!!!」

 

そんなことを宇宙ファイターXとリュウガンオーが許すはずもなく、

ザンリュウジンとゴウリュウガンブレードモードを振り下ろす。

 

 

 

「一夏っ!」

「一夏さん!」

「このっ!」

「一夏!」

「くっ、ダメだ!間に合わない!」

「最後まで……!」

 

海へと落ちていく一夏を箒達が助けようとするが、エネルギーが無いので速度が

出なかったり、距離が離れてとても間に合いそうになかった。

 

「一夏ぁぁぁ!!!」

 

もうダメだと、箒が涙を流しながら叫ぶと一筋の光が流れ星のように一夏に向かう。

 

 

 

そして、光が収まるとそこには一夏を脇に抱えた黒い鎧を纏った騎士、オルガードが

佇んでいた――。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

その時、花月荘近くの林でまた新たな侵入者が現れていた。

 

 




今回はいろいろと出しました。

ミールの登場と行動理由は、風の聖痕2巻を参考にしています。
ミールがカズキを許せない様に、カズキもまたミールが言う同志の
存在が許せませんでした。

“ブラック・ゴスペル”の姿は、デジモンフロンティアに登場した
ブラックセラフィモンを少しメカニカルにした感じです。

なのは達が出会ったグムバは、姿はマジレンジャーの冥府神ワイバーンで
性格は彼やウィザードのグレムリンのように狡猾で刹那的な快楽のために
全力で遊びます。
彼が展開した結界のモデルは、ACMA:GAMEの閉鎖空間で、この中では
敵味方関係なく相手を傷つけるようなことはできません。

バスターウルフ、スカイモードはまんま、仮面ライダーゴーストの
マシンフーディーです。
この作品で、リュウガンオーも飛べるようにしないとと考えて
思いついたのがこれだったのですが、先に同じようなものが
出てきて驚きましたwww

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