インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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何とか7月中に完成できました(苦笑)
それにしても・・・・・滅べ!残業ぉぉぉ!!!なこの頃です(汗)


憎悪の叫び

太陽がその身から発する光が、降り注ぐ海岸に一夏と箒は並んで立っていた。

 

「来い、白式!」

「行くぞ、紅椿!」

 

二人の体が光に包まれると、白と紅の翼をそれぞれの身に纏う。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「何をしている、貴様……?」

 

突然、映像に現れた宇宙ファイターXに千冬は、地の底から響くような

低い声を出す。

気のせいか、宇宙ファイターXの姿を見た途端、何かが切れる音を一夏達は耳にし

震えあがっていた。

生徒を危険な戦場に送らなければならないことに加えて、束の引っ掻き回しに、

止めと言わんばかりの宇宙ファイターXの登場に千冬の我慢も限界だったようだ。

 

「話は、聞かせてもらったよ。暴走したISに追いつけるのが

 たった一回のワンチャンスなのに、不安がある素人二人をメインとした

 作戦しかなくて困っているんだろ?

 だったら、こういうのはどうだい?

 まず、最初の作戦通りにその二人には出てもらう。

 そして、失敗したら第二陣が到着するまでの時間を稼いでもらう」

「第二陣って、ですから追いつける機体が……」

「だから、その第二陣を運ぶのを俺達がやってあげるんだよ」

 

宇宙ファイターXの提案に、言葉を挟む真耶だったが次に発せられた言葉に

呆然となる。

 

「丁度、こちらも新しい飛行装備のテストをしたくてね。

 ISほどじゃないけど、それなりのスピードは出るから第一陣の一夏達に

 追いつくのは十分可能だ。

 だが、俺達もあまり目立つことはしたくないから、高機動パッケージの

 インストールができる機体はインストールしてもらって、協力は

 最小限にしてもらう。

 おい、そこの天才(笑)。お前なら、彼女達の機体にパッケージを

 インストールするのは簡単だな」

 

突然の提案に、みんながついていけない中どんどん話を進めていく

宇宙ファイターXは束に話を振るが、どこかその声には棘が含まれていた。

 

「ちょっとちょっと~。勝手に話に割り込んで、何言っているのさ!

 だ~~~れが、お前の言うことなんか……」

「あっ、できないのか……」

 

子供のように拗ねた声を出していた束は、ポンと手を叩くかのような

宇宙ファイターXの言葉にビシリと固まる。

 

「今……なんて言った……?」

「だから、“できない”んだろ?自分のことを天才だ天才だと言っても、

 たかが数機の準備を十数分ですることが、お前は“できない”んだろ?

 そうかそうか~。いや~、お前ならできると考えての作戦だったんだが

 “できない”のなら、仕方ないな。“できない”のなら――」

 

“できない”と言う言葉を強調する、宇宙ファイターXに束は体を

ワナワナと震わせる。

 

「なめるなよ、この変態宇宙人!

 私の実力を目ん玉開けて、とくと焼き付けろ!

 小娘ども!さっさとお前たちのISを見せろ~い!!!」

「はっはっはっ。変態宇宙人って、何を言っているんだか。

 やはり、お前は物事の見方が小さいな~。

 広く見れば、人間は地球をひっくるめて宇宙に生きている

 宇宙人でもある。そんな当たり前のことを言われてもね~。

 ああ、そうか。君はそんなこともわからなかったのか……くくく」

「むっっっきぃぃぃ~~~~!!!」

「あの、お二方?時間が無いんですよ~」

 

仮面をかぶっていて表情は分からないはずなのに、その場にいた全員は

宇宙ファイターXがものすごく意地が悪くて馬鹿にした笑みを浮かべているのが見えた。

そして、このままではいつものように延々と続くことになっていつまでも終わらない

と思った一夏が仲裁に入る。

 

「でも、どうして協力を?」

「簡単なことだよ。今回の事件は、俺達の敵が絡んでいる可能性があるからさ」

「何だと?」

 

真耶の疑問に答えた宇宙ファイターXに、頭に手を当てていた千冬は怪訝な表情となる。

 

「今回、起きた暴走をこっちでも簡単に調べてみたけど、暴走が起きるような

 要素は見当たらなかった。それこそ、どこかの妹命なシスコン兎が仕掛けでも

 しない限りね………。

 だけど、昔ならともかく今のそいつがそんなことをする可能性は低い。

 となると、人の考えを超えた何かが起きているのかもしれない。

 無論、何の証拠もない推測に過ぎないが、それでもISだけでは対応するのが厳しい

 ことが起きる可能性はある……。

 可能性があるなら、備えるべきだ」

「……いいだろ。お前の申し出を受けよう。責任は私がとる!

 各員、ただちに準備にかかれ!」

 

千冬の号令を皮切りに、全員が作業に入る。

その後、千冬は宇宙ファイターXと作戦を詳しく話し合い、内容が正式に決定した。

まず最初の作戦通りに一夏と箒で攻撃を仕掛る。

その後を追うように宇宙ファイターXがラウラを、

機体に高機動パッケージをインストールしたセシリアとシャルロットが、鈴と簪を

運搬し、一夏と箒が迎撃に失敗した場合、共闘できるようにする。

更に、一夏達だけでは落としきれない又はIS学園に襲撃を仕掛けてきた者達が

出てきた場合は宇宙ファイターXとその仲間も参戦することとなった。

 

「むぅぅぅ~~~。何で、この束さんがあんな奴の作戦に協力しないと

 いけないのさ~」

 

部屋から出て、箒達の機体を調整したりパッケージをインストールしながら

愚痴をこぼすが、その作業スピードは砂浜で見せたものと変わりなかった。

 

「まぁまぁ、束さん。

 文句なら終わった後に、いくらでも言えばいいじゃないですか」

「まあ、不確定要素を考えれば~?これが最善に近い作戦だけどさ~。

 でも、海か~。

 白騎士事件を思い出して、束さんはいい気分じゃないよ」

「……そうだな」

 

一夏になだめられるも束は嫌な思い出があるのか、渋い顔をして千冬も

似たような表情を浮かべる。

 

「全く世間もおバカさんばかりだよね~。

 私が、丹精込めて作ったISをよりにもよって兵器としか見ないんだからさ~。

 白騎士も、いろんな噂が流れているけど本当は超~超~超~~~弟大好きなブラコンで

 バストが八十……ふぎゃぁっ!」

 

ため息を零しながら、かなり重大なことを漏らそうとした束の頭に黒き宝剣(出席簿)

が振り下ろされた。心なしか、いつもより重そうな音が響いた。

 

「おしゃべりをしている暇があったら、さっさと作業を進めろ……」

「ううう~もう終わったよ~。

 頭が二つに割れたかも……」

「(普通に考えて、千冬姉だよな。白騎士って……)」

 

こうして、装備や高速飛行における注意点などの

準備を終えた彼らは宇宙ファイターX達との合流ポイントである

砂浜へと移動すると、そこには宇宙ファイターXとリュウガンオーが待っていた。

 

「来たね……。

 作戦を確認するよ?まずは、そっちが考えたように一夏と箒が

 先行し、私達がそれを追うように『銀の福音』へと向かう。

 二人が、迎撃に成功すればそれでよし。

 もし失敗したらあるいは、未知の敵が出てきたら私達も参戦する形となる。

 何か質問はあるかい?」

「あの……リュウガンオーはどうやって、行くんですか?」

 

宇宙ファイターXが作戦内容を確認して、質問があるかと聞くと

簪がリュウガンオーはどうするのかと尋ねた。

彼には、リュウケンドーのように飛行する手段などなかったはずだからだ。

 

「ああ、それは……」

「――ォォォン!」

「――アアアァァァ!」

 

リュウガンオー自身が説明しようとすると突然、獣のような声を聞こえ、

簪達は辺りを見回すと

空からデルタシャドウとそれに抱えられた狼のような“何か”が、降りてきた。

 

「バスターウルフ!」

「紹介しよう。俺達の頼れる相棒、デルタシャドウとバスターウルフだ。

 さあ、リュウガンオー」

「ああ。バスターウルフ、ビークルモード!」

「――ォォォン!」

 

リュウガンオーの声に従い、バスターウルフはブレイブレオンのように

その姿をバイクへと変形していき、その後部には翼のようなものが折りたたまれていた。

 

「こいつは、リュウガンオー専用の飛行装備だ。これで空中戦も対応できる」

「いつの間に、こんなのを……」

「カッコイイ……」

「あ、あの碓氷……じゃなくて宇宙ファイターX。わ、私も一夏のサポートを

 した方がいいのですか……?」

 

相棒の新しい力を自慢気に見せるリュウガンオーに、一夏は驚き簪は目を輝かせた。

そんな中、遠慮がちに箒は宇宙ファイターXに自分も戦うべきか尋ねる。

 

「……できたらね。だけど、今回は自分の身を守ることを最優先に考えて

 やった方がいい。その専用機を使っての戦闘は今回が初めてだから、極力

 戦闘は避けるように」

「わかりました……」

「織斑、聞こえるか?」

 

箒と宇宙ファイターXのやりとりを見ていた一夏に、千冬から

秘匿のやりとりに使われるプライベート・チャンネルで通信が入る。

 

「無理もないが、篠ノ之はかなり緊張しているようだ。

 できるだけ、サポートしてやれ」

「わかりました」

 

千冬からの懸念を受け取り一夏、鈴、ラウラ、簪はそれぞれ箒、セシリア、

宇宙ファイターX、シャルロットの背中へと乗る。

 

「よし――作戦開始!」

 

千冬の合図で、全員浮かび上がると一夏を乗せた箒が先行して飛び上がり、

他のメンバーを置いていくスピードで飛翔した。

 

「な、何よあのスピード!」

瞬間加速(イグニッション・ブースト)と同等以上に速い!」

「俺達、ちゃんと追いつけるんすかね……」

 

紅椿の性能に、鈴とシャルロットが驚愕しリュウガンオーは苦笑した。

 

「な~に、私達が追いついた時に全部終わっているなら、それに越したことはないさ。

 とにかく行くぞ!」

 

一夏達を追いかけるように、宇宙ファイターX達も飛翔した――

 

 

 

「暫時衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置を確認。

 一夏、一気に追いつくぞ!」

 

目標高度500メートルに到達し、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の位置を確認すると

箒は紅椿の展開装甲を稼働させ加速する。

その姿は、さながら紅い弾丸のようであった。

 

「(サンダーイーグルほどじゃないけど、かなり速い!

 でも、これだけのエネルギーを一体どこから……)」

「いたぞ!『銀の福音』だ、一夏!」

『(考えるのは、後だ!)』

「っ!!」

 

紅椿に疑問を感じた一夏は、箒とゲキリュウケンの言葉に意識を思考から引き戻す。

ハイパーセンサーで捉えた『銀の福音』の姿は、その名の通り銀色をしており、

その頭部からは一対の巨大な翼が生えていた。

資料によるとその翼は、『銀の福音』に搭載されたスラスターでありながら武器でもある

新システムであるらしい。

一夏は、『銀の福音』の姿を確認すると雪片弐型を呼び出し、射抜くような鋭い目をして

握りしめる。

 

「目標に接触するまで、後10秒!一夏!」

「ああ、わかっている」

 

箒は紅椿の出力を上げると、『銀の福音』との距離をどんどん縮めていくが、

一夏の視界はスローモーションになったかのように景色が映っていた。

零落白夜の一撃で決めるべく、一夏は感覚を研ぎ澄まし攻撃のタイミングを計る。

 

接触まで後5秒……4……3……2……1――

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

箒の背から飛び出すと一夏は、零落白夜を発動するのと同時に

瞬間加速を使って、『銀の福音』に接近し、雪片を抜刀術のように振り抜く。

加速した紅椿から飛び出した勢いに瞬間加速を合わせての高速攻撃。

指令室でモニターを見ていた教師達も、その場にいた箒も決まると思った一夏の攻撃は、

『銀の福音』の側面を通り過ぎて、空振りに終わる。

 

「何っ!?」

 

自分の攻撃を避けられて、驚きの声を上げる一夏だったが、それは避けられたことよりも

避けた“方法”に対してだった。

『銀の福音』は、一夏の攻撃が当たる直前に体を回転して、飛行コースをわずかにずらすことで

雪片の一太刀を文字通り紙一重で、回避したのだ。

一夏自身もTWリュウケンドーで、同じ回避の仕方をやったことはあるが、

こんな高速飛行下で相手の攻撃を見切って紙一重での回避は難しい。

 

“敵機確認。迎撃モードへ移行。『銀の鐘』(シルバー・ベル)、稼働開始”

「!」

 

『銀の福音』は回避するや否や、一夏へとフルフェイスで覆われた顔を向けると

機械音声を発し、その翼を広げる。瞬間、一夏の背にゾクリと悪寒が走る。

 

「第一作戦失敗!第二作戦へ移行します!

 箒、援護を頼む!」

 

一夏は、その悪寒に自分と箒だけでは『銀の福音』の撃破はできないと直感し、

零落白夜を解除して宇宙ファイターX達第二陣が駆け付けるまでの時間稼ぎへと作戦を

移行する。

 

「わかった!はっ!」

“La……♪”

 

箒は雨月と空裂の攻撃を交互に行い、『銀の福音』はそれを先ほどのように

紙一重でかわしていくが、一瞬だけ体勢を崩す。

 

「三十六煩悩鳳(ポンドほう)!」

“La……!”

 

そこへ、一夏が飛ぶ斬撃を放つが『銀の福音』は翼から“弾丸”を放ち、煩悩鳳を相殺する。

更に、天使が落とした羽を思わせる“弾丸”は一発にとどまらず、次々と放たれる。

その羽が、ISのアーマーにかすると爆発して一夏を吹き飛ばして体勢を崩す。

 

「これは直撃したら、マズイな……。

 そんでもって……!」

 

一夏は体勢を立て直すと、弾丸の破壊力に目を見張り苦虫を噛み潰したような表情を

浮かべる。

『銀の福音』はそのまま、弾丸を雨のように連続で放ってきたからだ。

すぐさま、一夏と箒は回避行動に専念する。

一発でも当たれば、それを皮切りにそのまま弾丸の雨をその身で受けることになるだろう。

 

「くそっ……。箒、左右から同時に攻めるぞ!

 ……箒?」

 

一夏は箒と左右から接近して、少しでも弾幕を広げさせて回避できる隙間を

作ろうとするが、箒の様子がおかしいことに気付く。

 

「こ、このっ……!」

 

箒も一夏と同じく回避に専念していたが、その呼吸は大きく乱れひどく消耗していた。

何故、ここまで消耗してしまったのか?

第四世代である紅椿とその技術が組み込まれた白式に、リュウケンドーとして

戦ってきた一夏を相手にして、翻弄してくる『銀の福音』に箒は

シュヴァルツ・バイザーと戦った時の記憶が呼び起されているのだ。

あの時は、明の叱咤もあり直接刃を交えたわけではなかったが、今は自分の身に

ISを纏い戦っていることで、戦いの恐怖がダイレクトに箒に伝わり彼女の動きに

大きく影響を与えていた。

更に、白式と紅椿のハイパーセンサーが一つの影をキャッチした。

 

「なっ!船だと!」

「先生達が海上を封鎖したのに!?まさか、密漁船!」

『(マズイぞ、一夏!奴が!)』

 

一夏と箒が、海域に侵入してきた船に一瞬気を取られた隙を見逃さず、『銀の福音』

は翼の砲門を箒へと向ける。

いち早く気がついたゲキリュウケンが警告するも一足遅く、箒は

自身に裁きを下そうとする無慈悲な天使の姿に、体が硬直してしまう。

 

「あっ……あっ……」

「箒!」

 

一夏は『銀の福音』が箒へ攻撃した瞬間、最大出力で瞬間加速

を発動し、強引に紅椿と『銀の福音』の間に割って入る。

 

「このぉぉぉっ!!!」

 

エネルギーを消失させることができる零落白夜を発動し、盾となるも代償に白式の

シールドエネルギーはみるみる減っていく。

 

「(このままじゃ、本当にマズイ!

 だけど、何なんだコイツは!

 何でコイツからもうこんなことをしたくないって苦しみと

 もっと相手をいたぶりたい様な愉悦の――“二人分”の感情を感じるんだよ!)」

 

数秒が数十分にも感じる時間の中、一夏は焦りながらも

『銀の福音』から感じる感情に戸惑いを感じていた。

そもそもISには人格が存在すると言われており、人とISの二つの感情を感じるのは

おかしくないのだが、それでも『銀の福音』から感じる相反する真逆の感情に

一夏は困惑する。

 

“LaLa……!”

 

羽を羽ばたかせ攻撃していた『銀の福音』は、突如として攻撃を止め自身に向かってくる

ビームを回避する。

 

「お持たせしましたわ、一夏さん!」

「真打ち登場よ!」

「僕の一夏にこんなことをする奴は、OSIOKIだね♪」

「お兄ちゃんは、お姉ちゃんのではないのかシャルロット?」

「みんな、油断……しないで――」

 

第二作戦の要とも言える第二陣が、一夏達に追いつき『銀の福音』に攻撃を

行っていく。

一夏は、零落白夜を再び解除して船の方に目をやるとデルタシャドウに乗った

宇宙ファイターXと飛行できるようになったバスターウルフに乗るリュウガンオー

が向かっていた。

まずは、安全のために船の避難を行うようだ。

 

「船の方は、大丈夫みたいだな。それで、お前は大丈夫なのか箒?」

「す、すまない一夏……こんな無様な醜態を……っ!」

 

箒は震える体を抱きながら、悔しそうに唇を噛んだ。

 

「……戦えると思ったんだ……カズキさんに鍛えられて、姉さんから貰った

 この紅椿があればお前や明達のように戦えるかもと……でもできなかった!

 怖くて、体が動かなかったんだ!」

 

シュヴァルツ・バイザーは箒のことを明と同じく障害として認識はしていたが、

『銀の福音』は明確に倒すべき敵として攻撃をしてきた。

つまり、箒にとって今回が本当の意味で初めての“戦い”であり、戦いの恐怖に

呑まれてしまったのだ。

 

「――それって、別に普通だろ?」

 

涙を流しながら、心情を吐露する箒に一夏はあっけからんと答え、箒は

思わず呆ける。

 

「“戦いは怖いもので、怖いものを怖いって思うのは生き物として当たり前の感情。

 何も恥じることはない。そして、人間はその恐怖と戦う術を持っている生き物でもある”

 前にカズキさんに、そう教えられたよ。

 俺もな、箒。戦いの怖さを知って、何もできなかったことがあるんだ。

 運よく勝ち続けて、仲間がいたからなのにそれを自分が強くなったと勘違いして……。

 でも、本当に強い奴に負けそうになって怖いって思った。逃げ出したくなった。

 だけど、ここで逃げたら俺の後ろにあるものが無くなるってことにも気づいて、

 気がついたらそいつにがむしゃらに立ち向かっていたよ……」

 

一夏は穏やかな口調で、自らの失敗の経験を箒に話していく。

 

「難しく考える必要なんてないんだ。

 怖いなら逃げればいいし、戦うっていうなら信じればいい。

 一緒に戦ってくれる仲間達を」

 

一夏が指を指した方を見るとそこには、『銀の福音』に立ち向かう彼女達の姿があった。

 

「数には数……マルチ・ロックオン・システム作動……『山嵐』全弾発射……!」

 

簪は迫りくる弾丸に対し、自動追尾機能を搭載した四十八発のミサイルで迎撃する。

 

“防御は危険。回避します”

「喰らいなさい!」

 

『銀の鐘』の砲撃と『山嵐』がぶつかったことによる発せられた衝撃波を

防御するのは、困難と判断した『銀の福音』は回避行動をするが回避した先に、

鈴の不可視の弾丸、衝撃砲が放たれる。

しかし、『銀の福音』は衝撃砲が見えているかのようにアクロバティックな動きで

かわしていく。だが――

 

「捕らえたぞ!」

 

『銀の福音』は体が突然動かなくなり、声の方を見やると右手を突き出してAICを

発動させているラウラの姿を確認する。

AICの発動には、集中力が必要であり『銀の福音』のような機動特化した機体を

捕らえるのは困難であるが、ラウラは『銀の福音』が来るであろうという場所に

AICを発動させたのだ。

つまり、簪と鈴の連携はAICで動きを封じるための追い込みのものであったのだ。

 

「いくよ、セシリア!」

「ええ、撃ち抜きますわ!」

 

動きを止められた『銀の福音』に、シャルロットとセシリアのアサルトカノンと

大型レーザーライフルの射撃が襲い掛かる。

 

“La――!!!”

 

攻撃による煙の中からマシンボイスが聞こえたかと思うと、『銀の福音』は煙を

吹き飛ばすかのように一回転し、セシリア達に向かってその翼を広げる。

 

“『銀の鐘』最大稼働――!”

 

翼と一緒に両腕も広げ、『銀の福音』は一気に攻撃範囲を広げエネルギー弾を放ち、

セシリア達はたまらず回避か、防御に専念させられるも誰一人その目から闘志は

消えていなかった。

 

「すげぇよな。5人がかりとはいえ、俺達が押されていたのと

 戦えているよ。

 あんな、頼りになる仲間が一緒に戦ってくれるんだ。

 いけるか、箒?」

「……ああ!怖いけど、みんなと共にならこの恐怖とも戦える!」

 

震えが消えた箒と共に、一夏は仲間達の元へと飛翔する――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「俺達の出番は、無いみたいですね」

 

船を誘導するために近づいたリュウガンオーは、遠目に一夏達の動きを見て

肩の荷を下ろしたような声を出す。

 

「安心するのは、まだ早そうだぞ?この船……何かおかしい」

 

リュウガンオーをたしなめる宇宙ファイターXは、目の前の船に感じる違和感に

警戒を強めると船の甲板への扉が独りでに開き、中から“ナニ”かが姿を現した。

 

「何だよ、アレ……」

「コイツは……!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うぉぉぉぉぉっ!!!」

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

一夏と箒は、先ほどやろうとした左右からの同時攻撃を行おうとしていた。

ジクザクに交差し、狙いを絞らせまいとするがならばとばかりに『銀の福音』は

再び『銀の鐘』による最大稼働攻撃を行う。

しかし、一夏と箒は迫るその攻撃を回避しようとも防御しようともしない。

何故なら、する必要が無いからだ。

 

「私達がいることもお忘れでなくて!」

「一夏と箒には、指一本触れさせないわよ!」

「二人は、僕たちが守る!」

「だから、遠慮なく行けぇぇぇ!」

「決めて……!」

 

『銀の福音』の攻撃は、セシリア達によって撃ち落とされたり防御されたりして、

二人に届くことはなかった。

これが、一夏が立てた作戦である。

白式のエネルギー残量を考えると、攻撃を行えるのは接近も含めてあと一回が限度。

それも一発も被弾しないという条件付きである。

ならば、防御を仲間達に任せて自分達は攻撃に専念するという、博打に出たのだ。

もちろん、彼女達からは反対された。

防御役が一つでもミスをすれば、それで終わってしまうのだが一夏は全員を信じている

と言い切り、この作戦が実行されたのだ。

普通なら、もしものことを考えて動きが鈍くなるが、彼女達は一夏に頼られたことにより

逆に心が燃えて、いつも以上の動きをしてみせ完璧に『銀の福音』の攻撃を防御してみせた。

 

「「これで、決める!」」

 

そして、紅椿の二刀と白式の零落白夜が『銀の福音』を切り裂き、海へと落ちていく。

 

ドォォォ――ン!!!!!

 

――その直後に、彼らの背後の海に巨大な水柱が立ち上った。

 

「全員、今すぐそこから離れろぉぉぉ!」

「ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

「ドラゴンキャノン……発射!!!」

 

宇宙ファイターXが大声で落下していく『銀の福音』を助けようとする

一夏達に退避を伝えると、リュウガンオーはドラゴンキャノンを『銀の福音』に向けて放つ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

時は数分ほど巻き戻る。

 

船の甲板に現れたのは、ゲル状のようなものに口と鼻以外を覆われた人だった。

 

「た……たす……け……」

 

現れた人は、言葉を最後まで口にできなかった。

ゲル状の“何か”は口と鼻も覆い隠し、その人間を飲み込んだのだ。

 

「っ!こいつ!」

「待て……こいつはちょっとマズイかもしれない……」

 

リュウガンオーは、反射的にゲル状のスライムのようなものに攻撃しようとするが

宇宙ファイターXはそれを制する。

そして、見る見るうちに甲板の隙間やドアからスライムがワラワラと姿を現した。

 

「何だよコイツらは……」

「知性のない、ただ本能のまま獲物を捕食するタイプの魔物みたいだけど……

 全部で一つの存在だな、コレは。

 一匹一匹は、遣い魔レベルでも一つになることでその能力は飛躍的に上がる

 ……だとしたら、こいつらに指令を出している本体……核がいるはず……

 っ!!!」

 

宇宙ファイターXは船にはびこるスライムの正体を見破ると、ある考えに至り

ザンリュウジンを取り出し、アックスモードにするとその刃に風を纏わせ

斬撃を放ち、船を両断した。

 

「うおっ!?」

「リュウガンオー!一夏達が、『銀の福音』から離れたらドラゴンキャノンを

 『銀の福音』に撃て!あのスライムを操っていた奴は、おそらく『銀の福音』に

 取り憑いている!」

「ええっ!一体どういう……」

「説明は後だ!とにかく、今は……」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

リュウガンオーが放ったドラゴンキャノンが『銀の福音』に命中すると思われた

瞬間、『銀の福音』は姿を消してドラゴンキャノンを回避した。

 

「ちっ!」

「消えた……!?」

 

あまりに突然のことに、リュウガンオーだけでなく一夏達も困惑し、宇宙ファイターX

の元へと集まる。

 

「一体何が……」

「あ~あ~せっかく、あと少しで何人か殺せたのにな~」

 

何の脈絡もなく、あどけない声が聞こえ、全員がその方向に顔を向ける。

そこにいたのは、少年だった。

金色の巻き毛に慈愛に満ちた笑みは、見る者が見れば畏怖を抱かせるだろう。

ただし、一夏達は瞬時に警戒に入った。

その少年は、ISを纏っているわけでも宇宙ファイターXやリュウガンオーのように

飛べる仲間に乗っていないのに宙に浮いているのだ。

 

「お前が、今回の事件を起こした張本人だな?

 あの船にいたスライムもお前が操っていたのなら、乗っていた人達はどうした?」

「ああ、全員餌になってもらったよ。

 全身に纏わりつくことで、自分が消化されて喰われていく様を数日間かけて

 たっぷり味わってもらったから、マイナスエネルギーも大量に手に入ったよ」

 

何でもないことのように、笑顔で述べる少年に先ほどのスライムを見ていない箒達でも

身の毛がよだつおぞましさを感じた。

 

「自分のために赤の他人が死んでいく……昔ならともかく、今の君は

 心が痛いんじゃな~い?」

「私のためって……手を下したのはお前だろうが」

「その傲慢さ……やはり君は生きてちゃいけないよ……。

 碓氷カズキィィィィィ!!!!!」

 

少年の挑発にのることなく静かに返す宇宙ファイターXに対して少年はこれでもかと

目を見開いて、ありったけの憎悪を込めて叫んだ。

 

 





バスターウルフによる飛行はWのハードタービュラーのように
後付け装備です。

宇宙ファイターXの参戦理由は無理やりすぎたかな(苦笑)

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