インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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連日の猛暑に加えて、残業の毎日でフラフラなすし好きです。
来月には夏コミもありますから、そっちの準備もしないと(汗)


悪意が鐘を鳴らすのを誰も知らない――

「……オルガードの世界の星の大樹……管理世界とそうでない世界……

 そして――」

 

ある部屋で、乱雑に本を散らかし手にした資料を見ながら

ユーノはワナワナと体を震わせていた。

 

「待て待て……一体誰だよ、こんなことを考えたのは……!

 早く、みんなに知らせないと……」

 

瞬間、ユーノは世界が変わったのを感じ取った――

 

「魔弾戦士達とは違った意味で、警戒しておいた方がいいと思っていましたが……

 私の勘が当たったようですね」

「お前は、一夏達を襲った……!」

 

ユーノが振り向くと、そこにはクリエス・レグドが腕を組んで佇んでいた。

 

「ふふふ……そう身構えなくてもいいですよ。

 これは誰にも気づかれないようにするための、分身で戦闘などできないんですよ

 ……ですが、こんなことぐらいはできます!」

 

レグドが、腕を突き出すと足元の影が伸びそこから三つの姿が現れる。

 

「我らを呼び出すと思えば、まさかこのような者が相手とは……」

「そうやって、いつも相手を舐めてるからお前は半端なんだよ」

「まあまあ、お二人とも落ち着いて。

 ……あなたに恨みはありませんが、消えてもらいますね?」

 

ユーノの前に現れたのは体の色が赤、青、緑と違うだけで姿形が

全く同じ3体の怪人だった。

しかも、ただの怪人でないことをユーノは放たれる気迫で感じ取っていた。

 

「彼らは、言ってみれば魔物を率いる将軍のようなものでしてね~。

 まともにぶつかれば、魔弾戦士や他の世界の戦士達も退屈させないぐらいの実力を

 持っています。

 まあ、恨むなら私だけでなく自分の頭の良さも恨むのですね……」

 

レグドがそう言い放つのを合図に、呼び出された怪人達は右手の砲門を

ユーノへと向ける。

 

「っ!」

 

そして、ユーノが何かを取り出すのと同時に彼の視界は光に覆われた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

とある海の一角で、たくさんの人がいるにも関わらず静寂の空気がその一角を

支配していた。

 

――肩で息をする箒

 

――呆然とする一夏達

 

――箒の写真を映し出したモノに突き刺さり、下半身だけがブラリと出ている束

 

「もう、いきなり何するのさ箒ちゃん!

 束さんが三日三晩、昼寝だけして作った自信作が~。

 せっかく立体映像でも見れるようにしてたのに~!」

 

突き刺さっていた束が、何事もなかったように抜け出して文句を言うと

箒は顔を真っ赤にして束をにらみつける。

 

「それはこっちのセリフです!どういうつもりなんですか、姉さん//////!!!」

 

束が箒の写真を映し出した瞬間、箒は束の懐に入るとみぞおちに拳を叩き込み、

空へと蹴りあげると、その写真へと束を蹴り飛ばして突き刺したのだ。

わずか数秒間の早業に、みんな呆然となった。

 

「だってだって~!あの人見知りで、人一倍恥ずかしがり屋でついツンしか出さなかった

 箒ちゃんが、今では友達もできて楽しく過ごしてるんだよ!

 これは、もう箒ちゃんのかわいいところを知ってもらって、もっとも~~~っと

 箒ちゃんのことを好きになってもらわなきゃ!ってなるじゃん!」

「だあああ~~~////////!!!!!」

 

束の主張に箒は頭を掻きむしり、声にならない叫びを上げるしかなかった。

それを見ていた者達は、苦笑したり温かい視線を箒へと送った。

 

「箒も大変ね~」

「もしも、アリサちゃんが箒ちゃんのお姉ちゃんだったら違う形で

 愛でるだろうけどね♪」

「そうそう……って、すずか////!」

「(あれが、ISを生みだした箒ちゃんのお姉さんの篠ノ之束さん……)」

「(私達の調査でも重要な人……)」

「(小学生の時は、話だけで会ったことなかったけど……

 箒ちゃんよりも大きいとちゃうんか!?)」

 

アリサとすずかが漫才をしている傍でなのは、フェイト、はやての三人は

難しい顔をしていた。約一名は、桃色の光に飲み込まれそうなことを考えているが。

 

「相変わらずだな、お前は。少しは、大人になれ」

「だ~か~ら~!

 何、一人だけ常識人ぶっているのさちーちゃん!

 昨日、ちんまくなってイヌ耳を生やしたいっくんが

 “ちふゆねぇ~だ~っこ♪”って、おねだりする夢見てご機嫌だったくせに!!!」

「にゃ、にゃんのことだ……?」

 

子供扱いされて心底心外だと言わんばかりの束の言葉に、顔を逸らす千冬だったが

噛んでいる言葉がそれが真実だと告げていた。

 

「子供の頃から、変わらないな束さんは。

 そういえば、カズキさんの姿が見えないけどいなくてよかったかもな」

「どういうことだ、一夏」

「いや、カズキさんと束さんが顔を合わせる度に、

 毎回互いを潰そうとしあって、大変なんだよ。

 しかも、いつもの千冬姉とのイチャつきと違ってガチでやるからさ

 ……あだっ!」

 

一夏が明に、カズキと束のことを説明しているとその頭に痛みが走る。

そこには、黒き宝剣(出席簿)を振り下ろした千冬の姿があった。

 

「織斑先生だ!

 後、碓氷の奴は今日は用事があるから後はよろしくと書置きを

 残して、姿を消した……。

 全く、どいつもこいつも……」

 

千冬がワナワナと震えていると、束が何かイタズラを思いついたような笑みを

浮かべていた。

 

「そうだ!

 ちーちゃんが如何にいっくんのことが大好きなのか、

 子供の時におねしょしちゃったいっくんを

 ちーちゃんが優しく着替えさえてあげたこの写真を見せて……」

 

ガッツポーズをして、ナイスアイディアだぜ!な勢いで実行しようとした束は

途中でその動きを止めた。

具体的には首に感じる冷たい感触によって、“止めさせられた“

 

「なあ、みんな……今日の夕食の……ウサギ鍋だけど……

 何味がいい?」

「あ、あのいっくん……?」

 

一夏は、雪片を束の首に当てながら眩しい笑顔を浮かべて、周りの者達を

戦慄させた。昨日のアレがまたか!と……。

 

「それで?束さんはどこからさばいてほしいか、リクエストはありますか?

 上半身と下半身を分けますか?それとも縦に真っ二つといきますか?

 それとも、このまま首からですか?」

「いや、だからそうじゃなくて――――チョーシにのってすんませんでした!!!!!」

 

一夏が冗談でも何でもなく、ガチの本気で自分の命を狩りにきていると

確信した束はその場でバク転を決め土下座をして許しを請うのであった――

 

 

 

「うぇぇぇ~~~。かわいかったあのいっくんが、黒くなっちゃったよ~」

 

土下座して何とか一夏の怒りを納めることができた束は、うずくまりながら

よよよ~とすすり泣いていた。

千冬も一夏が黒くなったことを嘆くのは同感とばかりに、ウンウンとうなずいていた。

最初は世界で最も有名な天才の登場に、呆然となっていた生徒達だったがカズキや千冬、

そして黒一夏で突拍子もないことに慣れてきたのか、すぐに立ち直りテストに

取り掛かる準備を始める。

 

「ね、姉さん……。い、一夏がああなったのは……その……

 そ、それだけ成長したということで……」

「…………ひゃっほぉぉぉ!!!

 箒ちゃんの慰めで、束さん大・復・活♪

 いや~箒ちゃんも本当に大きくなったよね~♪

 特に、おっぱいが!」

 

ドスっ!

 

流石に見かねた箒が束を慰めると、一転してハイテンションで叫びを上げて立ち直った。

そして、箒の成長を喜ぶが、最後の言葉を言うなり箒に木刀でぶっ飛ばされた。

どこから出したのだろうか?

 

「殴っていいですよね?」

「殴ってから言ったぁ……。ひどいよねちーちゃ~ん、いっく~ん!」

「そうだな……確かに、踏み込みは良くなかったな。

 もう、半歩ほど前に出した方が威力が出るぞ」

「?何か、箒間違ったことしましたか?」

「が~ん!ふ、二人ともあの変態宇宙人の影響を受けまくってる~~~!

 ……でも、その冷たい扱いが癖になるかも……♡」

 

一夏と千冬の自分への扱い方を嘆く束だったが、どこを間違えたのか

新しい扉を開けようとしていた。

 

「なんか、すごいね。いろいろと」

「すずかの言うとおりね。IS学園に入ってから、退屈しないわ。ほんと」

「なんか、束さんってはやてちゃんに似てるね」

「うん。何ていうか、初めて見る光景って気がしないね。

 声はなのはに似てるんだけど……」

「そうです!そうですよね、束さん!

 箒ちゃんのおっぱい、すっっっごく成長しましたよね!

 ティスティングしたい気持ちはよう~~~わかります!!!」

「ほほう~。なかなかいける口だね~。

 君、名前は?」

「はい!八神はやてと言います!」

 

束とはやてが、互いに見つめ合うと突然目をクワッと見開き

熱い握手を交わした。

 

「私達、いい友達になれそうだね」

「ええ」

「じゃあ、早速ちーちゃんにいろいろと優しくされてるあのおっぱい魔人の

 立派なものを味わおうではないか~!」

「了解です!」

「え?……えええええ!!!!!?」

 

握手を交わしてニヒルに笑ったかと思ったら、早速友情を深めるために

獲物を捕らえようと意気込む二人は手をワキワキさせ、ターゲットに定められた真耶は

思考が追いつくと驚きの声を上げる。

 

結論から言うと、真耶は捕まることはなかった。

世界最強の教師と、別世界で名を馳せる友人達によってイタズラ好きなウサギと

タヌキは、沈められたからである。

白い服が似合うクラスメートNは、赤い宝石をいじりながらご機嫌な鼻歌を

歌っていた。まるで、哀れなタヌキへの鎮魂歌(レクイエム)のように――

 

「全く、お前は……遊びに来たのなら邪魔だからさっさと魚のえさになってこい」

「ううう~、ちょっとした冗談だったのに……。

 じゃあ、そろそろ本題に行こうか!

 それでは、皆の衆!大空をご覧あれ!」

 

未だはやては沈んだままだというのに、同じぐらいのダメージを受けたはずの束は

何事も無かったように復活し、空を指差す。

その言葉に続いて、全員が空を見上げると何かがキラリと輝くのが見え、次の瞬間には

銀色のひし形をした金属の“なにか”がその場に落ちてきて、衝撃が走る。

 

「な、なんだ……!」

「ふっふっふっ……これぞ、束さんが心血注いで作り上げた箒ちゃんの

 専用機――“紅椿(あかつばき)”!

 全スペックが現行ISを上回るスペシャルなISだぜ☆」

 

落ちてきたものは、コンテナのように展開すると中から赤い装甲の一機の

ISが姿を現す。

 

「……はっ!ちょっと待ってください、姉さん!

 専用機?私の?

 き、聞いてないですよ!」

「なっははは!明日、箒ちゃんの誕生日でしょう?

 いろんな意味で成長している箒ちゃんへのプレゼントってことで、

 サプライズで用意したんだぜ☆」

 

自分の専用機と寝耳に水なことに、箒は慌てるが束は親指を立てて

笑顔で答えた。

 

「さらにさらに!

 今の箒ちゃんなら、自分だけ専用機をもらうなんてって思っちゃうんだろうから、

 他の子達にもサプライズを用意したんだぜ!」

 

続いて、束は胸の谷間に手を突っ込むとメモリーカードのようなものを取り出した。

 

「じゃっじゃ~ん♪

 これぞ、自分の専用機を持てる夢のアイテム!“そめる”くんだ!

 訓練機は動かすたびにフォーマットされて、レベル1になるけど、こいつを

 差し込んで使えばそれぞれの動きのデータが蓄積されていくんだよ~。

 つまり!ISを動かしてこれに自分のデータを入れれば入れるほど、自分色に“染める”

 ことができるのさ~♪

 さあ、者ども!この天才束さんをほめたたえるがいい!!!」

 

胸を張りながら、自慢をする束だったが周りはそれどころではなかった。

“そめる”くんの話が本当なら、訓練機全てがそれぞれの操縦者の専用機に

できるということである。

ISのコアの数の関係上、自分の機体を持てない操縦者は珍しくない。

世界のバランスが、再び崩れるかもしれないのだ。

 

「ほう~。無茶苦茶とはいえ、お前が他人のためのようなものを

 作るとはな……」

「束さんだって、いつまでも子供じゃないのさ~♪

 ――それに、私が絶対しないようなことがあいつらを出し抜く

 鍵になるかもしれなし……。

 それと、例のアレはもうちょい調整にかかりそうだから、もう少し待ってね♪」

「ああ、頼む――」

 

困惑する生徒達を余所に、千冬と束は静かに言葉を交わした。

 

「紅椿……私の専用機――」

 

箒は、太陽の光を浴びて輝く紅のISを見つめていた。

一夏がリュウケンドーとして、戦っていると知って以来、箒は何とか一夏の力に

なりたいと考えていた。

まず頭に浮かんだのは、姉に専用機を頼むことだったが、明はそんなことをしなくても

自分の力で一夏を助けていることを聞いた箒は、その案を実行するのをとどまった。

それをすれば、明にはもう勝てない気がしたからである。

そこで、箒はトーナメントのために受けていたカズキの特訓を引き続き受けていたのだが、

文字通り天から降ってきたこのチャンスに彼女は揺れていた。

 

「(正直、願ってもないことだが……妹だからと簡単に受け取っていいのか?

 セシリア達のように努力してきたわけではないし、だが……しかし――)」

「篠ノ之さんもこれで、専用機持ちか。いいな~」

「でもさ、碓氷先生の特訓を今も続けてるらしいよ?

 それなら、専用機をもらえるぐらいの実力になってもおかしくないよね~」

「だよね。ほとんどの子が一日目で脱落したのに。

 ああ~努力に勝る才能はないってことか~」

「そういうことは、努力してから言いたまえ」

「おっ!わかっているじゃないか、君達♪

 束さんも箒ちゃんならこの紅椿をちゃんと使えるって思ってるし、何より!

 間違えたら止めてくれそうな友達もたくさんいるからね~♪」

 

身内だからといろいろ言われると思っていた箒は、クラスメート達の

反応に驚いていた。更に束の言葉を聞いて、アリサ達が挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「いいじゃない、箒。もらっちゃいなさいよ」

「箒なら大丈夫だよ」

「せやで、箒ちゃん。そんで、その見事なものが揺れる様をぜひ拝ませt……ごへっ!」

「はやてちゃん?」

「全力全開の三連続OHANASI……逝ってみる?」

「まあ、碓氷先生のアレを続けてるのですから……」

「例えISの生みの親お手製でも、あたし達には簡単に勝てないわよ」

「でも、あまりアレは思い出したくないね」

「ですね……」

「約一名、もう手遅れ……」

「ひ……ひぃぃぃ!!!!!」

 

それぞれが意見を述べる中、ラウラはカズキのアレを思い出し狂乱する。

 

「みんな……姉さん。紅椿、使わせていただきます」

「はいは~い♪それじゃ、フィッティングとフォーマットをやっちゃおうか。

 束さんにかかれば、ちょちょいのちょいと終わるよ~ん♪」

 

空中投影のディスプレイを12枚呼び出すと、束は演奏するかのように滑らかに

指を動かして紅椿の調整をしていく。

無論、1枚ならともかく12枚ものディスプレイを前にこんなことができるのは

束ぐらいである。

 

「ほい、完了~。後は、自動処理を待つだけだね。

 ああそうだ、いっくん白式見せて~。男が動かすISで束さんは興味津々なんだよ~」

「あ、はい」

 

一夏が白式を展開すると、束はコードを突き刺しデータを呼び出す。

 

「へ~不思議なフラグメントマップだね~。

 見たことないパターンだね、こりゃ。いっくんが男の子だからかな?」

 

フラグメントマップというのは、ISの遺伝子のようなもので各機体によって

独自のものになる。

 

「それで、前から聞きたかったんですけど束さん。

 どうして、男の俺がISを使えるんですか?」

「ん~なんでだろうね?私にもさっぱりわからないんだよね~。

 ナノ単位まで分解すれば、わかるだろうからしてもいい?」

「その時は、分解される前にこっちが逆にナノ単位まで切り刻みます」

「はうっ!その冷たい笑顔……いい/////!!!」

 

その場にいた全員が、思った。

“この天才――もうダメだ”と……

 

「――っと!紅椿の方は終わったみたいだね。

 それじゃ、箒ちゃん。試運転と行こうか♪」

「はい。それでは――行きます!」

 

紅椿につながれていたケーブルが外れると、箒は紅椿と共に空へと舞い上がった。

 

「きゃっ!」

 

飛翔時の余波で砂浜の砂が巻き上がり、悲鳴が上がるが箒はそのことを気にかける余裕は

なかった。

ただ、飛んだだけでわかったのだ。訓練機とはまるで違う紅椿の性能に。

 

「すごいでしょう~。箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

「え、ええ、まぁ……」

 

いつも授業で打鉄を使ってやっている基本飛行を行う箒だったが、その一つ一つに紅椿の

性能のすごさを感じ取っていた。

 

「じゃあ、次は武器のテストね。腰の刀を抜いて……右が雨月で左が空裂だよ。

 雨月は対単一仕様の武装で、打突に合わせてエネルギー刃を放てるよ~。

 いっくんの技を見て、再現してみました♡」

 

束の説明を聞き、箒は試しに雨月で雲へ突きを放つと赤色のレーザー光が

雲を貫いた。

 

「それでね?空裂は、逆に対集団仕様で斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーを

 ぶつけるんだよ~。まあ、百聞は一見にしかずってことで、これを撃ち落としてみてね♪」

 

そう言うと、束は十六連装のミサイルポッドを呼び出し、箒に向かって撃ち出す。

 

「はぁぁぁっ!」

 

箒は空裂を振るうと、雨月が放ったような赤いレーザーが帯状に広がり

ミサイルを全て撃ち落とした。

 

「すごい……」

 

自分でやっておきながら、未だ紅椿の力が信じられないのか箒は呆然としていた。

 

「おおおおお織斑先生!たっ、たたた大変ですぅぅぅ!!!」

 

箒と同じように、みんなが紅椿の性能に言葉を失っていると、突然真耶が

大声で慌て出す。

 

「どうした?」

「こっ、これを!」

 

真耶に見せられた端末を見て、千冬の顔は一気に険しくなる。

 

「特務任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」

「はい。ハワイ沖で試験テストをしていた……」

「待て、山田君」

 

千冬は真耶の言葉を遮ると手を動かして、手話でやりとりをはじめる。

 

「なあ、明。確かあれって……」

「ああ。軍用の暗号手話だ」

 

一夏と明は、カズキから誰にも知られないようなやりとりをするためのイロハを

教えられているので、千冬の手話の正体がわかった。

 

「では、山田君。他の先生達への連絡を……」

「は、はい!」

「全員、注目!現時刻より、IS学園教師は特殊任務行動へと入る。

 今日のテストは全て中止。各班、速やかにISを片付けて旅館へと戻り、

 連絡があるまで各自室で待機!」

「え?」

「ちゅ、中止?特殊任務行動?」

「なのは、これって……」

「うん、何かマズイことが起きたのかも……」

 

突然の事態に、一同は騒ぎ始めるが、それも束の間だった。

 

「早くしろ!以後、許可なく室外に出た者は我々で身柄を拘束する!

 わかったら、返事をしろ!」

「「「は、はいっ!」」」

 

千冬の一喝で、女子達は慌てて行動に入った。

 

「それと専用機持ち、織斑、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、凰、更識そして

 篠ノ之はこっちに集合!」

 

千冬に呼ばれた面々は、彼女の後に続き移動する。

 

彼らの長い一日がこうして始まった――――

 

 

 

「では、状況を説明する」

 

宴会用に設けられた大座敷・風花の間。

だが、そこは現在普段とは違う使われ方をしていた。

照明が落とされ薄暗くなっており、様々な機械が運び込まれていた。

そして、中央には大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験テストを行っていたアメリカ・イスラエルで

 共同開発された第三世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。

 監視空域より離脱したとの連絡が入った。

 そして、衛星による追跡の結果、ここから2キロ先の空域を50分後に

 通過するとわかった。

 ……諸君には、この事態に対処してもらう」

 

千冬は事態を説明するが、どこか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

説明を受けていたセシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪の正式な国家代表候補

の5人は真剣な表情で、表示されているデータを見ていた。

一方、箒はただ困惑し一夏はどこか厳しい表情をしていた。

 

「教員部隊は、周辺の空域および海域を封鎖するので、本作戦は専用機持ち

 を中心に行う。意見のある者は挙手しろ」

「はい」

 

千冬の言葉に、セシリアが手を上げる。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった。ただし、これらは二か国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。

 情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視が

 つけられる」

「了解しました」

 

そうして、中央に『銀の福音』のデータが映し出され、みな顔を険しくする。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を

 行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね。しかも、このスペックだとまともにぶつかったら

 厳しいわね……」

「一番の警戒は、この特殊武装だね。防御パッケージを使っても、完全に防ぐのは

 無理かも」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だな。何が、出てくるかわからん」

「それに、このデータが全部正しいとは限らない……」

 

代表候補達は、次々と意見を出していくが一夏は黙り込んでいた。

 

「(どう思う、ゲキリュウケン?)」

『(……暴走したISに“たまたま”お前達が対処できるところにいた……。

 偶然と言うには、あまりにタイミングが良すぎる)』

「(ということは……)」

『(奴ら……創生種の仕業と考えるのが普通だな)』

 

一人、ゲキリュウケンと違った会議をしていると福音の方は、

偵察ができないかという話になった。

 

「このデータを信じるなら、アプローチは一回が限界だな」

「つまり、一撃で落とせる攻撃力を持った機体でないといけませんね……」

 

真耶の言葉に一同の視線が、一夏に集まる。

 

「つまり、白式の零落白夜しかない……ってことか?」

「うん、そうなる……」

「織斑、これは訓練ではなく実践だ。別に無理強いはしない」

「いや……やるよ。やってやる……」

 

教師としてだけでなく、姉としての心配を含めての言葉だったが、一夏は

自ら志願した。

もしもこれが創生種の襲撃だった場合、奴らに対抗できるのはここには

自分しかいないからだ。

 

「問題はどうやって、一夏を目標まで運ぶか、だね。

 エネルギーは全部攻撃に回さないといけないし、移動をどうするか……」

「それも、目標に追いつけるスピードを出せる機体じゃないと」

「それに、超高感度ハイパーセンサーも必要だぞ」

「それなら、わたくしのブルーティアーズが。ちょうどイギリスから

 強襲用高機動パッケージ“ストライク・ガンナー”が送られてますし、

 超高感度ハイパーセンサーもついてます」

 

パッケージとはISの換装装備であり、これを装備することによって、機体の性能や性質を

大幅に変更し、様々な状況に対応することができる。

 

「オルコット、お前の超音速下での戦闘訓練時間は?」

「20時間です」

「よし、それなら何とかいけるな。

 織斑と共に――」

「ちょ――っと待った!もっといい作戦が私の中にナウ・プリンティング♪」

 

作戦が決まるかというところで、天井から場に似合わない明るい声がそれを遮った。

見ると、束が逆さまに天井から顔を見せていた。

カズキと同じことをしていることを本人は気づいていなかったりする。

 

「……織斑。雪片を貸せ。今夜は私が、夕食を作ろう……」

「どうぞ、織斑先生♪」

 

千冬の言葉に一夏は躊躇なく、雪片を呼び出し千冬へと渡す。

 

「待って待って!こんなことで、息を合わせないでよう~。

 いいから聞いて!ここは、紅椿の出番なんだよ♪」

「何?」

 

雪片といつもカズキを追うのに使っている日本刀を下すと、千冬は

どういうことだと目で訴える。

 

「紅椿の展開装甲ならあ~~~っという間に、音速飛行ができるようになるよ!」

 

展開装甲という聞きなれない言葉に一夏だけでなく、千冬達も首をかしげる。

 

「説明してしんぜよ~。展開装甲というのは、この束さんが作った第四世代ISの装備だよ♪

 ISの完成を目指した第一世代、後付け武装による多様化を目指した第二世代、

 そんで操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装を試す第三世代。

 そしてそして!その先へとゆく、パッケージ換装を必要としない

 万能機となるのがこの第四世代なのさ!

 ちなみに、実験的に白式の雪片弐型にも突っ込んでみました~♪」

「は?……はぁぁぁ!?」

 

100点のテストを自慢する子供のようにムフッと胸を張って説明する束に、当事者で

ある一夏だけでなく、千冬を除く全員が驚愕する。

 

「紅椿は、全身のアーマーがそれだから箒ちゃんが使いこなせたら、

 攻撃・防御・機動と瞬時に切り替えることができる最強の機体になるね~。

 これぞ、第四世代の目標である即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)ってやつさ。ぶいぶい♪」

 

世界がまだ第三世代の開発に躍起になっているところに、次世代の機体が

完成したことに、全員驚きを通り越して言葉も出なくなる。

 

「…………オルコット。先ほど言っていたパッケージは、もうインストールしているか?」

「えっ?あっ、いえ。まだです」

「……ならば、本作戦は織斑と篠ノ之の両名を中心に行う」

「なっ!?織斑先生!わたくしとブルー・ティアーズなら、必ず……!」

 

千冬はセシリアに、作戦の要になる装備のことを聞いて少し思案して

作戦内容を変更する。

 

「話は、最後まで聞け。中心で行うと言っただけで作戦は、まだ決まっていない」

「おや?ちーちゃんは、この作戦に不満があるの?」

「大ありだ、馬鹿者。いくら機体がすごかろうが、篠ノ之に実戦経験は

 ほとんどない上に、織斑も零落白夜を自在に使いこなせん。

 予想外のアクシデントに、何かしらのミスが起きてしまう可能性は十分になる。

 ならば、それをカバーするための第二、第三の策を用意するのは当然だ」

 

千冬の言葉に束は、ブスッとして不満気な顔になる。

 

「あの~束さん?もしもカズキさんがいたら

 “へぇ~君はたった一つの作戦しか思いつかなかったんだ~。

 俺なら、千の作戦を思いついて百ぐらいを実行できるよう準備するけどな~

 ククク”

 ……とか言うんじゃないでしょうか?」

 

カズキそっくりの口調とバカにしたような顔をマネした一夏の言葉に、

束はビシリと固まった。

 

「…………うがぁぁぁ!!!

 束さんをなめるなよ、変態宇宙人!

 そっちが千個の作戦を考えるなら、こっちは一万……十万の作戦を

 考えてやるぅぅぅ!!!!!」

 

実際に、カズキがそう言うのを想像したのか束は頭をムキィィィッ!と

かきむしると負けてたまるかと、とんでもないことを言い出す。

 

「でも、他の作戦って言ってもどんな……」

 

真耶がポツリと漏らすと、部屋にある全てのディスプレイにノイズが走る。

 

「どうした!」

「ふふふ……ははははは!お困りのようだね、諸君!」

 

束と同じく場に合わない明るい声を出して、宇宙ファイターXの姿が

大型ディスプレイに映し出された――

 

 





前回に引き続き、某錬金術師ネタを入れましたがユーノは
あの人のようにはなりませんので、ご安心を(苦笑)
現れた3体の怪人は、レグド達と同じく『小さな巨人 ミクロマン』
に登場したデモン三幹部の姿です。

箒は、原作よりも丸くなっていますがそこはなのは達と
友達になれたのが大きいです。

束を手遅れ方面に動かしても違和感を感じないなwww


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