インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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今回登場する人数が多くて、難しかったです(汗)
季節はもうすぐ作中と同じ夏になりますが、何とか季節感が
同じうちに一気に進ませたいです。



海辺で感じる味は、海の水?それとも……

「ほら、本音はやくはやく!」

「置いてっちゃうよ~!」

「うえぇ~待ってよ~」

 

先に行く友達を追いかけて、全身をすっぽり覆うキツネの着ぐるみを着た少女

のほほんさんこと本音が海へ向かって駆けていく……のだが、そのスピードは走っている割には

どこかワンテンポ遅かった。

 

「おお!織斑君……と誰?あの二人?」

「海の家、いぇ~が~ず?てか、何気にかっこよくない!?」

「ほぇ~やっと追いついた……うん?

 …………うぇぇぇ~~~!なんで、ウェブウェブが~~~!!!」

 

 

 

「バカップル対策の特製ブラックコーヒーは、いかがですか~?

 ……なあ、弾。これ俺達も飲んじゃダメかな?

 さっきから、口の中が甘くてさ……」

「気持ちはわかるぜ、ウェイブ……あのバカップル、こっちに気づいていねぇぞ……」

『(周囲に人がいることを完全に無視している模様)』

 

炎天下の中、こっちは任務とはいえ働いているのに恋人とイチャイチャしていて

こちらに気が付かない一夏と明に、ウェイブと弾は歯ぎしりして悔しがる。

 

「弾さん、ブラックコーヒーを一つ……」

「あっ、は~い♪って、簪ちゃん?」

 

注文を受けたことですぐさまスマイルを浮かべる弾だったが、声をかけてきたのが

知り合いの簪であることに驚く。

 

「いくら……」

「簪ちゃん、目が怖い……よ?」

 

目を鋭く細めて睨むようにこちらに視線を送る簪に気おされて、弾は数歩ほど後ろに下がった。

彼女はフリルのついた黒のビキニを着ており、普通なら可愛らしい印象を与えるはずなのだが、

今は水着と同じ色のオーラを放っており歴戦の戦士をおののかせていた。

そして、それは何も簪だけではない。

 

「一夏め……いつから、そんな破廉恥な男になったのだ……」

「一夏さんったら……オホホホ」

「…………」

「お~い、お兄ちゃん!お姉ちゃん!ビーチバレーというのをやろう!」

 

簪と同じように、恋する乙女達は体から何かのオーラを発して鋭い視線を送ったり、無言の笑顔や手にしたパラソルをタオルのようにねじったりで、海辺は甘い空間と黒いオーラの空間の巣窟と

なって収集がつかなくなってきた。

その中で、ラウラは無邪気に甘い空間に突撃して二人をビーチバレーへと誘う。

 

「すげぇな、あの子……」

「そうだけど、お兄ちゃんとお姉ちゃん?」

『(報告によると、彼女の部下とカズキの入れ知恵で二人をそう呼ぶようになったらしい)』

 

一見すると大人の下着(セクシー・ランジェリー)と見間違えてしまうような黒の

ビキニを着たラウラは、小柄な体格が手伝って背伸びした子供のように見えて、見る者達の

ちょっとした癒しになっていた。

周りの殺伐とした空気を気にせずに目を輝かせながら一夏と明の元へと向かっていく

そんなラウラを見て、弾とウェイブの脳裏に無垢な子供によからぬことを吹き込んで

遊ぶカズキの姿がよぎった。

 

「ところで、あんた達?今更だけど、なんなの?

 ここって、確かIS学園の貸し切りになっているはずよ?」

「まさか、女の子のまぶしい水着姿を覗くために不法侵入したんやないやろな……」

 

バカップルのオーラにある程度耐性があるアリサが、弾とウェイブに何者かと問い

続くはやての言葉に、二人はずっこけた。

 

「違う違う違う!」

「俺達は、ただのバイトだよ!あの海の家“いぇ~が~ず”の!」

「そうそう。せっかくの海なんだし、海の家があった方がおもしろいかな~ってね♪」

「「「「「うん?」」」」」

 

何の前触れもなく聞こえてきた声に、その場にいた全員が声の方へと顔を向ける。

 

「やあ♪」

 

そこには、みんなが予想した通り黒と灰色のトランクスタイプの水着を着て

上半身にパーカーを羽織ったカズキが立っていた。

 

「いや~どうせ、あの二人のせいで手荷物に入れられるブラックコーヒーなんて

 一日持たないと思ってね~。

 そこで、ブラックコーヒーを手配出来て尚且つ!楽しむことができる

 場所として海の家を用意したのさ!

 もちろん、従業員は全員信頼のおける人達だから問題なしだよ♪」

 

夏の太陽の影響か若干テンションが上がっているように見えるカズキに、

みんな呆然となる。

 

「あ~で、どうする?ブラックコーヒー……買う?」

「それとも、あっちで焼きそばでも食べるか?浮き輪とかのレンタルもできるぞ」

 

この場の空気を何とかしようとウェイブと弾が、はやて達に商品を勧める。

 

「あれ、ウェイブに弾?」

「何で二人がここにいるんだ?」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんの友達か?」

「てめぇら~今頃気づきやがって……」

 

ラウラを連れてやってきた一夏と明に、弾はがっくりと肩を落とす。

 

「ははは……とりあえず、立ち話でもなんだし店の方で「ウェブウェブ~♪」

 どわっ!?」

 

ウェイブが、こんなところで立ち話も何だと海の家の方に行こうとしたら

背後からキツネに抱き着かれた。

 

「えっ!何!?って、本音ちゃん!?」

「やっほ~♪」

「ちょっと、何あれ?」

「まさか、本音まで勝ち組だったの?」

「この世界に……神はいない!!!」

 

不意打ちに後ろから本音に抱き着かれてもウェイブは、何とか踏みとどまるも

海辺は再び混沌とした空気に包まれる。

花より団子だと思っていた本音にまさかのいい人がいるなんて、誰が想像できよう。

一夏と明が出す空気に耐えていた面々は、新たな嵐に歯ぎしりして嫉妬の念を放出する。

顔を赤らめながらウェイブにコアラのように抱き着く本音は、幸せオーラ全開であった。

 

「えへへへ~/////」

「ほ、本音ちゃん?お、下りて……イダダダ!」

「…………」

 

ウェイブが、オロオロしているといつの間にいたのかピンクのワンピースの水着を着た

クロメがウェイブの隣になっており、ムスっとした顔で彼の脇を思いっきりつねっていた。

 

「ああ、彼女も海の家のメンバーだよ。それにしても……いや~青春だね~♪」

「何あの子?……って、まさかの三角関係!」

「ええい!どいつここいつもリアルを満喫しやがって!」

 

ウェイブを取り合う、本音とクロメを見てカズキは心底楽しそうに笑い、

バカップルオーラに耐性のあるなのは達は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「――ウェイブ後、弾……ボルスさんが呼んでるよ……」

「ででで……ボルスさんが?」

「何だろう?」

「えっ?ボルスさんも来てるのか?」

 

不機嫌な声でクロメから伝えられた内容に、ウェイブと弾だけでなく一夏も驚く。

 

「そういうことは、先に言えよな……」

「……」

「とにかく、早く行こうぜ!」

「俺も!」

 

本音を背中から下したウェイブを先頭に、男子三人とクロメは海の家へと走っていく。

 

「どうしたんだろう、あんなに急いで?」

「明、何か知ってる?」

「多分、ボルスさんがいるからでしょうね。三人ともすごく、尊敬してますから」

「「「「「……」」」」」

 

なのはとフェイトの疑問に明がやれやれと言いたげに、答えるとそれを羨ましそうに

見つめる者達がいた。

 

「お姉ちゃん!私達も行こう!」

「あっ!おい、ラウラ!」

「私も突撃~♪」

 

そんな明の手を引っ張り、ラウラも海の家へと向かう。本音も続くがそのスピードは

やはり少し遅かった。

 

「おもしろそうやな……私らも行こか?」

「そうね……ちょっとっていうか、かなり疲れてきたし」

「あははは……」

 

海に来て、泳いでもいないのに疲れた声を出すアリサにすずかや他のみんなは乾いた

笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

 

「戻りましたよ、ボルスさん!何かあったんですか!」

「ああ、ゴメンねウェイブくん。急に呼んじゃって……」

 

ウェイブ達に遅れる形で続くはやて達は、ボルスと呼ばれる人が海の家から

現れるのを目撃した。

店の奥から姿を現したのは、拘束衣とマスクで身を固めた胸に大きなひっかき傷がある

筋骨隆々の大男であった。

 

「「「「「…………」」」」」

「いや、大したことじゃないよ。

 浮き輪を運ぶ時に、うっかり引っ掛けて破っちゃってね。

 予備の浮き輪は、どこにあったかなって……ははは」

「ボルスさん!」

「ああ、一夏君!久しぶりだね~」

 

想定を遥か斜め上を行く人物の登場に、はやて達が固まる中

一夏は気のいいお兄さんに久しぶりに会うかのような明るい声で話しかける。

 

「どうだい、学校の方は?」

「中学までとは全然違って、てんてこ舞いの毎日ですよ。

 でも、新しい料理ができるようになったので、今度食べてみてください!」

「それは、楽しみだね♪」

「じゃあ、ボルスさん。俺とウェイブは、予備の浮き輪を取ってきます」

 

一夏と同じく明るい声で、浮き輪を取りに行く弾。雰囲気だけなら、近所のお兄さんと

子供、甥っ子と叔父のようなものだろうが、ボルスの見た目が残念なことにその雰囲気を

異様へと変えていた。

 

「えっ、ちょっ何あれ?拷問官?」

「脱獄囚?」

「でも、織斑君やウェイブって人は仲良さそう……」

「碓氷先生。あの人は一体……」

「彼はボルス。見た目は、通報モノの怪しい奴だけど、気さくないい人だよ。

 君達の相談にも乗れるんじゃないのかな?」

 

いつもの何かを企んでいるような意味深な笑みをするカズキに、周りは?を

浮かべるのであった。

 

「お久しぶりです、ボルスさん」

「明ちゃん!元気そうだね~。一夏君とはどうだい?」

「そ、それはですね……//////」

「変わりなく、かわいい明を愛でる毎日ですよ♪」

「ななな何を言って////!」

「うんうん。ますます、仲良くなっているみたいだね♪」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん……この人は……」

 

明も混じってボルスと談笑をしていると、明の背中から小動物が初めて見るモノに興味津々だけど警戒もしているようにラウラがそ~っと顔を出してきた。

 

「ラウラ。こちらは、私達がいつもお世話になっているボルスさんだ」

「お世話だなんて、そんな……」

「それはそうと、ボルスさん?何で、こんなとこでもマスクしてるんですか?」

「「「「「(コクコクコクコク)」」」」」

 

一夏のもっともな質問に、全員が同意する。

 

「そ、それは……ほら。私なんかの顔を見たら、海を楽しんでいる子達に

 悪いじゃない?

 せっかくの楽しい海なんだし……!」

「ああ!もう!

 ボルスさん、イケメンなのに何言ってるんですか!」

「そうですよ。自分を卑下しすぎるのもどうかと思いますよ?」

「うんうん。明の言う通り!

 俺、将来ボルスさんみたいになりたいって思っているんですよ?」

「ボルスさんみたいとは……こんな風に鍛えるということなのか、お兄ちゃん?」

 

自分なんかと思っているボルスに、一夏と明は鼓舞の言葉を送るが

その最中に漏らしたラウラの言葉に、聞いていた者達にボルスのように筋骨隆々となった

一夏を思い浮かばせた。

 

「違う違う!そういう意味じゃなくて!

 ボルスさんみたいな優しい大人になりたいってことだよ!」

 

みんなの反応を見て一夏が慌ててその想像を否定し、口にした言葉の本当の意味を話す。

 

「一夏君……私は、優しくなんかないよ……」

「そんなことはありません!ボルスさんがどういう人かっていうのは、俺も明も

 弾やウェイブ、みんな知ってます!」

「ええ。例え、周りやあなた自身が何と言おうとも

 私達にとって、あなたが尊敬できる大人であることに変わりありません」

「二人の言う通りだよ。少なくとも、俺なんかよりはマシな大人なのは間違いないさ」

 

一夏と明に続くように、カズキもボルスの言葉を否定する。

 

「そうやって、過去の行いを悔いれることができるのなら、

 まだ“普通”だよ……」

「ボルス。下ごしらえは済んだから、少しの間休憩したらどうだ?」

 

カズキが自虐じみた笑みを浮かべると店の方から、また別の声が聞こえ、

姿を現したのは、ボルスと同じくらいの大柄な白い袴を着て頭に牛の角のようなものを

つけた男だった。

 

「スーさん!スーさんも来てたんですか!」

「うむ。この海の家を任されたのでな」

「またなんか、出てきたで」

「見てるだけで暑そうね……」

「彼の名はスサノオ。ちょっと神経質なところがあるけどいい人?だよ」

「何で疑問形なんですか?後、その名前……」

「……コスプレが趣味だからなりきっているんだ」

 

新たな人物の紹介をするカズキだったが、すずかの指摘にやや視線を

逸らしながら若干苦しそうに答える。

 

「今考えたな、あれは……」

「そうだな、あの人たま~に抜けているところがあるよな……」

 

明と一夏はヒソヒソ声で今のカズキの対応を話す。

 

「それでだ。ボルス。少しの間なら俺や弾達でも店は回せるから、その間

 家族と海を楽しんだらどうだ?」

「いや、でも……そんな」

「家族?」

「ああ、ボルスさんは結婚してて子供もいるんだ」

「「「「「……へっ?」」」」」

 

一夏からの言葉に、聞いていた面々は間の抜けた声を出す。

 

「うん♪結婚六年目でね?ほ~~~~~んといい人♪

 私なんかにはもったいないぐらいで/////!」

 

唖然とするみんなは気にせず、

両手を頬に当てて、ボルスは照れくさそうに幸せ自慢をする。

 

「パパー♡」

「あーなたっ♡」

 

そこへ綺麗なロングヘヤーの女性と可愛らしい女の子が水着姿でボルスの元へと、

やってくる。

 

「ややっ!お前達、その恰好は!」

「スサノオさんから、折角だから家族水入らずでって♪」

「パパー♡早く遊ぼう!」

「ははは……まいったな……。

 それじゃ、スサノオさん。お言葉に甘えさせてもらいます!」

「ああ。楽しんでくるといい」

「ま、まぶしい!!!」

「こ、これが……愛っ!!!?」

 

美人な母娘の登場に本日何度目になるか分からない硬直を受けた面々は、

続くバカップルが放つオーラとは違う、幸せな家族のオーラに目を覆う。

 

「お~い、戻ったぞ……って」

「どうしたんだ、みんな?」

「何か、ボルスさん達を見たら急にああなって……なんでだろう?」

「そうだな。何かまぶしいものを見る目になっていたが……」

 

空気が入っていない浮き輪を持ってこれるだけ持ってきた、弾とウェイブは

目を手で覆うみんなに首を傾げる。

 

「そう言えば、なんでタツミがいないんだ?

 あいつもこういうのに向いていると思うんだけど……」

「確かに姿が見えないな……」

「タツミなら……」

「今頃……肉食動物に囲まれているよ……」

「「肉食動物?」」

 

一夏と明が漏らした言葉に弾とウェイブは目線を逸らしながら、同情的に苦笑した。

 

 

 

「さあ~さあ~♪誰の水着が一番似合っていると思っているのかな?

 タツミ~♪」

「もちろん、私だよなタツミ♡」

「正直に言っていいんだよ~」

「……ひ、人の魅力はそれぞれなんだからね!」

 

一夏達がいる砂浜とは少し離れたところで、別の一団が海水浴を楽しんでいた。

そこでは、一人の少年……タツミの周りを四人の女性が取り囲んでいた。

 

「い、いや~そ、それは……というか何で俺は縛られているんでしょうか?」

 

暑い日差しとは逆の冷たい汗がダラダラと流れて、グルグル巻きにされたタツミの肝は

かなり冷えていた。

 

「ヘタレて、逃げ出さないようにだよ♪」

 

黄色とオレンジの縞模様のビキニを着こなす、金髪でグラマーな女性、レオーネは

獰猛な笑みを浮かべてタツミの疑問に答える。

 

「それで……どうなんだ?」

 

シンプルな白のビキニが肌の色と合っているエスデスは、あどけない笑顔で

タツミに迫る。

 

「お姉さん……すっっっごく興味あるな~~~♪」

 

イタズラッ子の笑みを浮かべるキャンディーを加えたチェルシーは、タツミに見せるように

胸を強調して迫ってくる。

 

「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!……ケッ!」

 

傍らでそれを見ていた鈴のように桃色の髪をツインテールにまとめた、如何にも素直に

なれなさそうな少女、マインが舌打ちする。

髪型や性格だけでなく、体型も鈴と似ており彼女と同じようにタンキニタイプの

水着を着ていると記しておく。

 

「だ、だからですね?そそそそれは……」

 

しどろもどろになるタツミは、確信していた。

ここで答えを間違えたら、明日の朝日を見れないと。

一見、聞くだけなら男が見たら泣いてうらやましがる光景だが、実際に見ると

そこから誰もがこっそりと逃げ出すだろう。

何故なら、それは犬ぐらいの大きさになった竜が大型ネコ科肉食動物達に

囲まれているのを目撃し、声をかけようものなら自分が刈られると本能が告げるからだ。

しかし、その本能が聞こえながらも退避しようとしない者が一人いた。

 

「ぢぐじょう~~~!

 一夏は明ちゃんとイチャイチャしてるだろうし、ウェイブと弾はIS学園の

 可愛子ちゃん達の水着姿を見れるんだろうし、タツミやねえさん達と

 相変わらずだし、何で俺だけ!!!」

 

緑色のトランクスタイプの水着を着て、一人寂しくラバックは叫びを上げるのであった。

 

「落ち着け、ラバック。私も可愛いクロメの水着姿を見れないのは、残念だが

 これも任務だ。これでも食べて、元気出せ」

 

フリルのついた真っ赤なビキニを着て、アカメはラバックに目の前の海で取ってきたと

思われる魚を焼いたものを差し出すのであった。

 

 

 

「タツミなら、その内会えるだろうさ(肉食動物達から生きて帰ってこれたら……)」

「はぁ……」

「さぁ~て、みんな?準備体操を終わらせて、そろそろ泳ごうか♪」

 

弾とウェイブの言葉に、カズキが補足を入れるも一夏はまだどこか釈然としなかったが、

彼の言うように準備体操を始めた。

 

「(俺の考えすぎならいいけど……奴ら創生種の今の目的が本命のための

 時間稼ぎならこの辺りで陽動かつ俺達を倒すような何かしらの手を打ってくる

 可能性は高い……。

 そのための援軍として、彼らにちょっと強引な形だけど助っ人に来てもらったし、

 学園の方も狙い撃ちにツンデレガンナー、“彼ら”にも待機してもらっている。

 できれば、この備えが無駄に終わってほしいものだね~)」

 

海辺で準備体操をする一夏達を見ながら、カズキは自分の予測が考えすぎに終わることを

願った。

 

「(まあ、今は俺も楽しませてもらうとしますか♪)」

 

カズキは頭を切り替えて、目の前の光景を楽しむことにした。

 

「ウェイブ、約束通りいろんな泳ぎ方を教えて」

「いいぞ、クロメ!海ならこの海の男に任せておけ!」

「むむむ~~~

 こう~なったら~~~キャスト○フだぁ!!!」

 

クロメに手を引かれて、テンションが異様に上がっているウェイブは

藍色の水着で張り切って準備運動をしており、そんな二人を本音はハムスターの

ように頬を膨らませて見ていた。

そして、何を思ったのか着ていたキツネの着ぐるみ水着を脱ぎ捨てると

そこには……大胆な白いビキニが隠されており、包まれていたものは箒や明にも

負けていなかった。

ちなみに、本音が着ぐるみ水着を脱ぎ捨てた瞬間、砂浜に手とひざをついてorzに

なる者が続出した。

 

「ウェブウェブ~♪私にも泳ぎ方教えて~」

「ほ、本音ちゃん!?み、水着似合っているね……」

「…………ウェイブのスケベ」

「ほ~ら、できたよ~♪砂のお城だ!」

「うわ~パパすご~い!」

「あらあら♪」

「へぇ~流石に泳ぐ時は、パーカーは脱ぐんだね♪」

「う、うるさい////!あまりジロジロ見るな/////!」

「なるほどなるほど~。これが夏のカップルというやつか……フムフム」

「ちきしょう~。あいつら、存分に夏と海を堪能しやがって……。

 だけど、今年の俺は一味違うぜ!

 このバイトで軍資金を稼いで、虚さんと……!」

 

一夏達が海を楽しんでいるのとは反対に、他の女子達のテンションは下がりまくっていた。

 

「ねぇ?何でかな……海に入っていないのにすっごくしょっぱい気持ちなんだけど」

「何なの……この差は一体何なの!?」

「神よ、私達は後いくつの試練を超えればあちら側にいけるのですか!」

 

10メートルにも満たない距離のはずなのに、近づける気がしない一夏達との距離の差に

絶望する乙女達とそれを気にも留めず、海を楽しんでいる一夏達を見てカズキは

楽し気な笑みを浮かべる。

 

「いや~やっぱり海はいいね♪」

「あんたは、悪魔ですか……」

「いや、アリサちゃん。それは、むしろなのはちゃんやで」

「はやて、OHANASIされるよ?」

「私達も泳ごうか?」

「そうだね、すずかちゃん」

「鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって……海ノ藻屑ニシテヤロウカ?」

「一夏さん?わたくしを無視するとはいい度胸ですわね……フフフフフ」

「僕達……一発ぶん殴っても許されるよね?」

「ぐぬぬぬぬぬ……!」

「……特製ブラックコーヒーおかわり――」

 

落差のある光景を楽しむカズキに、脱力するなのは達は自分達も自分達で楽しもうと

海へ行こうとする。後ろで、夏の夜の風物詩になりつつある箒達を視界に入れずに。

 

「全く、どうしてお前がいるとこうも騒がしくなるんだ?」

 

そこへ呆れ果てた声で、水着に着替えた千冬が真耶を伴ってやってきた。

一夏と共に購入した黒のビキニをモデルのように着こなしていた。

更に後ろにいる真耶は黄色のビキニを着ており、二人の姿にみんな圧倒された。

色々な意味で。

片や芸術のような美しさに。片やあるものの破壊力に……。

そして、セクハラタヌキがある怪盗の三世のように真耶へとダイブしようとして炎の姫に

捕獲され、夜の女帝によって気絶させられ、白い魔王と金色の死神によって人目のつかない

岩場の陰へと連行された。

 

「へぇ~今回はちゃんとした水着なんだね~。

 いつかみたいに、学校の水着かもってちょっと心配しちゃったよ~」

「馬鹿を言うな。流石にあんなもの着れるか」

「でも、ISスーツも似たようなものじゃない?」

 

何気ない会話をするカズキと千冬だったが、それでも海の家に駆けこむ者達を

増加させた。

 

「すいません!特製ブラックコーヒーをください!」

「私、辛口バージョン!」

「私は両方で!大至急!」

「わかった。すぐに用意しよう。弾、手伝ってくれ」

「ひぃぃぃ~~~!」

 

雪崩のように駆け込む女子達にスサノオは存分にスキルを発揮し、弾はゾンビのように

手を伸ばしてくる光景に悲鳴を上げながら、動き回る。

 

その後、ビーチバレーをすることになって、貯めさせられた鬱憤をバカップルどもに

ぶつけようと白熱し逆に、コンビネーションというイチャイチャを見せつけられて

続行不可能となるものが後を絶たなかった。

また、カズキが前に千冬が夏のある夜に驚いて自分に抱き着いてきたことを暴露して

超人ビーチバレーが開始され巻き起こる砂嵐や切り裂かれる風によって、何人も海へとダイブ

していった。

そして、ビーチバレーが行われている時、女子達が動くたびに揺れるものを見て

ボロボロになったセクハラタヌキが全快し、ある少女が黒い龍へと変貌しようとしていた。

 

「ふふふ……さあ!今日の日のために用意したこの勝負水着で、

 一夏を大人の魅力でメロメロにしてあげます!」

 

白銀の競泳水着で意気込むエレンだったが、既に一夏達は旅館へと戻った後だった。

 

「……何か食べるか?」

「……焼きそば一つください――」

 

やってきたスサノオの申し出に、エレンは普通より塩味のきいた焼きそばを

一人食べるのであった。

 

 

 

「うまい!しかもこれ、本わさじゃないか!」

「まあまあね」

「うっわぁっ!これカワハギやんか!」

 

時間は流れ、現在一夏達は大広間で夕食を堪能していた。

メニューは刺身と小鍋、山菜の和え物が二種類に赤だし味噌汁とお新香。

聞くだけなら、普通だがその材料は一級品のものであるため味は普通ではなく、

普通ではない超一流の腕前を持つスサノオの料理で舌が肥えていた一夏や明、

お嬢様で味にうるさいアリサも満足できるものであった。

 

「本わさって?」

「ああ、本物のわさびをおろしたやつのことだよ」

 

一夏の右に座るシャルロットが、本わさについて質問する。

わさびは知っていても、外国育ちの彼女はその種類までわからないようだ。

ちなみに、全員が浴衣姿である。この旅館の決まりとして、「お食事中は浴衣着用」

とのことらしい。

 

「本物ってことは、学食のは……」

「あれは練りわさだな。ワサビダイコンとかセイヨウワサビを着色した奴なんだ」

「へぇ~……はむ」

「えっ?」

 

一夏がわさびについて説明していると、何を思ったかシャルロットはわさびの山を口へと

運ぶ。

 

「――っ~~~~~!!!」

 

瞬く間にシャルロットは涙目となり、鼻を押さえる。

 

「お、おい。大丈夫か?」

「ら、らいひょうぶ……ふ、風味があって……お、おいしいよ?」

「いや、わさびは香辛料で、他の食べ物と一緒に味わうものだから」

 

シャルロットに注意する一夏だっだが、同じようにラウラもわさびを丸ごと口にし

明に介抱されていた。

 

「っ……ぅ……」

「で、セシリアも大丈夫か?

 さっきから、箸が進んでいないけど……」

「だ……ぃ……ょう、ぶ……ですわ……」

 

一夏の左に座っているセシリアは、正座で足がしびれていた。

本来、多国籍や多民族・多宗教を考慮して正座ができない生徒のための

テーブル席があるのだが……

 

「この席を獲得するのにかかった労力を考えれば……」

 

そう。夕食時の座席もバスの座席同様、熾烈な争いがあったのだ。

バスの席を獲得したのだからと、明は強引に参加できずシャルロットとセシリアの

二人が一夏の隣という特等席を得るに至った。

 

「仕方ないな。ほら、箸を貸してくれ……はい、あーん……」

「あーん…………はっ!?」

「ああっ!!!」

「何っ!!!」

「セシリアずるい!何してるのよ!」

「織斑君にあーんしてもらってる!卑怯者!」

「ズルイズルイズルーーーイ!!!」

 

見かねた一夏がセシリアに食べさせてあげたら、しびれに気を取られて我に返って

何をしてもらったのか気づく前にその光景を見ていた者達が騒ぎ始めた。

 

 

「何で、あいつはあういうのを自然にできるのかしら?」

「う~ん……織斑君だから?」

「それで説明できるのが、またすごいわ~」

「…………(バキッ)」

「ほ、箒お、落ち着いて」

「にゃははは……」

 

一部始終を見ていたなのは達は一夏の行動に呆れ、箒は手に持った箸を無言で

へし折った。

 

「お前たちは静かに食事もできんのか!」

 

そこへ、IS学園の秩序の番人千冬が鎮圧しにやってきた。

 

「織斑、あまり騒動を起こすな。鎮めるこちらの身にもなれ」

「す、すいません」

『(まあ、それも無茶なことなのだろうな)』

 

千冬の愚痴に聞こえる忠告を、ゲキリュウケンは無理だろうなと思い苦笑した。

 

「じ、じゃあセシリア。後は自分で、なんとか……」

「むぅ~~~……」

 

千冬が帰るとセシリアに箸を返そうとした一夏はすっごいふくれっ面で、にらまれた。

 

「ええと……あっ!じゃあ代わりと言っちゃなんだけど、後で部屋に来てくれ」

「…………へっ?」

 

一夏の言葉が脳に染みわたったのか、セシリアは間の抜けた声を漏らす。

少年と少女達の夏の夜はまだまだ続いていく――

 





人数が多くて今回は思うように喋らせることができませんでした(汗)
ボルスは原作でも好きなキャラでしたので、スサノオ共々頼れる
大人ポジに。

肉食動物達に囲まれたタツミは、明日の太陽を見ることができるのか(笑)

キャスト○フは前々から、本音に恋させるなら
やってみたかったことですwww


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