インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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少しずつ書いて、できあがりましたが物語としては
あまり進まず(汗)
更新と共に話のスピードもなんとかせねば。


日差しが強くなると影も濃くなる――

ピピピピピ――

人知れぬある部屋で、キーボードを叩く音が鳴り響いていた。

 

~~~♪

 

そこに突如として、部屋の雰囲気にそぐわない軽快な音が流れ、この部屋の主である女性が

頭につけているメカニカルなウサミミカチューシャがピンと反応すると

その女性、篠ノ之束が音の発生源である携帯電話へとダイブする。

 

「もすもす?終日(ひねもす)?」

「…………」

「わー!待って待って!」

 

電話をかけてきた相手は束の態度が頭に来たのか、電話越しでも伝わる怒りのオーラが

発せられ、周りのことなど普段は気にもかけない束も命の危機を感じ取り平謝りする。

 

 

 

「――ほいほい、そういうことならまっかせといて―♪」

 

束は、電話の相手から何かを頼まれると腕や背筋を伸ばしてストレッチをして体をほぐした。

その際、彼女が着ている童話の世界に出てくるような服に包まれたある膨らみが悩まし気に

揺れた。もしも、IS学園のとある代表候補が見ていたら、阿修羅となっていただろう。

 

「さ~て、久しぶりに本気を出しちゃおうかな~♪」

 

いくつもの機械の腕や何やらがついた怪しげなイスに座ると、束は挑戦的な笑みを

浮かべてキーボードを操作し始めた。

彼女の目の前にある画面には、あるISの姿が描かれていた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「さて、どうしたものですかね?

 間もなく、時が来ますが……この辺りでもう一回程彼ら魔弾戦士の目を

 逸らしたいところですが――」

 

昼か夜かもわからない暗い世界で、創生種の一人クリエス・レグドは頭を捻っていた。

 

「単純に魔物を送り込んでも、何かしらの時間稼ぎのための陽動だとすぐに

 バレるでしょうし、それで警戒を強められたら計画に支障が出てしまう……。

 かと言って、何もしなければこちらの動きに勘づかれる恐れもありますし……

 何とか、彼らをそれなりに追い込んでかつこちらがあまり消耗しない手を

 上手いこと考えなければ……」

「お悩みのようだね、レグド様?」

 

レグドが次の手を考えていると背後から、人を食ったような印象を抱かせる軽い声が

聞こえてきた。

 

「あなたですか……何の用です?

 後、敬語はやめなさい。

 敬意を持っていな敬語をされるより、普通にしゃべりかけられる方がマシです」

「そ~んなに邪険にしないでよ~。

 魔弾戦士達の目を逸らす手を考えているんでしょ?

 だったら、僕に任せてよ♪

 彼らとは一回、遊んでみたかったし~。

 それに、僕みたいなのがいけば、独断で動いたかもって思われるかもしれないでしょ?」

「ふむ……そうですね」

 

声の主にそう言われて、レグドは思考を巡らせる。確かに彼なら、自身が言うように

思惑等関係なく愉悦のために動いたと思わせられるかもしれない。

加えて、彼の力なら上手くいけば魔弾戦士達を倒すことも不可能ではない。

しかし、同時にリスクもあった。

彼は所謂愉快犯な思考をしており、わざと余計なことを口にしてこちらが不利になるような情報を漏らすかもしれない可能性があった。

更に言えば、おもしろくなるからと魔弾戦士達に寝返る危険性もあった。

 

「……では、こうしましょう?

 私と一勝負してあなたが勝てば全てあなたの意志で行い、

 逆に私が勝てば“一つだけ”あなたに指示を出させてもらいます――」

「わ~お♪レグド様と勝負?

 すっごい、ワクワクするんだけど♪」

「その話、僕も混ぜてもらっていいかい?」

 

一触即発な空気が醸し出される中、そこへ割って入る者がいた。

暗闇の中から、姿を見せたのは端整な顔立ちをした少年だった。

厳かな音楽でも流れれば、彼の事を天使と錯覚する者もいるかもしれない。

しかし、それも一瞬の事。少年の顔はたちまち憎悪に満ちた笑みを浮かべ、その顔立ちと

合間見って、歪みが際立っていた。

 

「……ちっ。何だよ~いいところなんだから、邪魔しないでよ~」

「奴らの目を逸らすとは言っても、殺してしまってもいいんだよね?」

 

彼の文句には耳を貸さず、少年はレグドに問いかけるが答えなど聞かなくても

実行するつもりなのは火を見るより明らかだった。

 

「もう、僕には我慢できないんだ。あの男……碓氷カズキと名乗っているあの男が

 のうのうと生きているのが!」

「意気込みは結構ですが、何か策はあるのですか?

 彼にはいくら警戒をしても足りないのですよ?」

「もちろんさ。あいつは、昔と違って弱点がたくさんできたからね……。

 あなたの策を参考にして、この世界のおもちゃを使うとするよ」

 

必ず勝てるという確信に満ちた顔で、少年はレグドに挑戦的な視線を送る。

 

「――いいでしょう。好きにしなさい。ただし、同時に彼にも動いてもらいます」

「監視って、わけだね。別にいいさ、僕の邪魔をしなければ……」

 

そう言うと少年は、暗闇の中に消えた。

 

「ちょっとちょっと!いいの?あいつ、僕達を利用してやるっていう魂胆が

 見え見えだよ?」

「ええ。あれは、典型的なかませ犬ですし、魔弾戦士に返り討ちに合うだけでしょう。

 ですが、あなたも加われば話はまた別になります。

 それに……ちょっとした余興も思いつきましたしね――」

 

口に手を当てて笑うレグドの姿を見て、彼の背筋にはゾクゾクした快感が走る。

 

「うっわ~。噂に聞くカズキって奴もこんな悪~い顔をしているのかな……

 ――彼らと遊ぶ時もこんな風にワクワクできるなら、自由にやりたいから

 この勝負は絶対に負けられないね♪」

 

彼は関節をポキポキと鳴らして、気合いを入れるとレグドへと向き合った。

 

「な~んか、おもしろそうなことになりそうね……。

 私も参加しようかな?あの子にも会ってみたいし♪」

 

それを眺める妖艶な女王は、嗜虐的な笑みを浮かべるのだった

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「海っ!見えたぁっ!」

 

トンネルを抜けて見えてきた、太陽の光を反射して輝く海にバスの中にいる

女子達のテンションは、グングンと上昇していく。

席から立ちあがり、窓に映るその光景に目を奪われていく。

 

「海かー。久しぶりだよな、明」

「えっ?ああ、そうだな/////」

「本当なら、二人で行きたいところだったんじゃないのか?」

「まあ、そうですけど、それは次のお楽しみと言うことで♪」

『(カズキのからかいにも普通に返してやがる、コイツ……)』

 

海を見る彼女達とは違う意味で、テンションを上げている一夏に気付いたカズキは

茶化そうとするが一夏は慌てることなく普通に返し、ゲキリュウケンはおののいた。

その返しに、カズキはヤレヤレと肩をすくめるがそんな達観した境地にいられない

乙女達は、それどころではなかった。

 

「ふふふ……一夏さん?このセシリア・オルコットの華麗な水着姿で

 あなたの心を打ちぬいて差し上げますわ!」

「覚悟しておいてね、一夏?」

「ええい!あんなだらしない顔をしおって!……別に羨ましくなんか……羨ましい!」

「お~お~、燃えとるな~みんな♪」

「多分、他のバスでも同じように燃えている奴がいるわね。間違いなく」

「おもしろいことに、なりそうだね♪」

 

一夏の隣の席と言う聖域を手に入れるために、壮絶なジャンケン大会が行われたのだが

本命の意地か、その聖域に座る権利を勝ち取ったのは明であった。

そんな明を妬ましい目で見る箒達だったが、一夏と明の空気を感じ取ったのか

二組と四組のバスでも同じ視線を一組のバスの方向に向けている者達もいた。

彼女達はこの海のために備えた水着という切り札で勝負を仕掛けるつもりだったが、

アリサは疲れたように溜息をつく一方で、はやてとすずかは楽しげだった。

 

「海よ!バカップルのイチャイチャ空間で、疲弊した私の心を優しく受け止めて!」

「いや~日差しが眩しい♪

 ……これなら、バカップルのイチャイチャも目に入らないかな?」

「ちっ!私達なんか、眼中にないってか……!」

 

海を見ていた者達は、そこから顔を動かそうとしなかった。

動かしたら、一夏と明の二人だけの空気に当てられてしまうからだ。

カズキと千冬とはまた違った空気に、みんな相当まいっているので、臨海学校でまで

そんなのはゴメンとばかりにみんな海へと意識を集中していた。

 

「海で遊ぶというのは初めてだな」

 

混沌とした空気の中で、ラウラは未知への期待に胸を躍らせていた。

 

「お前達、そろそろ目的地だ。早く席に戻れ」

「ぷっ……くくく」

 

バスの旅も終わりが見えて、千冬が注意を促すがその声にはどこか苛立ちが

混ざっていた。

その理由を見抜いたカズキは、おもしろそうに笑っていた。

 

「ここが、今日から三日間お世話になる花月(かげつ)荘だ。

 全員、従業員のみなさんの仕事を増やすことのないように」

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 

目的地である旅館に四台のバスが到着すると、千冬に続いてIS学園一年生一同が

挨拶をする。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

この旅館には毎年お世話になっているようで、着物姿の女将さんが自然な仕草で

お辞儀をした。

年は千冬達、教師陣より少し上のようだが纏う空気は穏やかながらも千冬達とは

また違った大人のものであった。

 

「それで、こちらが噂の……」

「はい。今年は、生徒と教師にそれぞれ男がいるせいで浴場分けに

 お手数をかけてしまい、申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらずに。それにしっかりしてそうないい男の子

 じゃありませんか。それに、もう一人の方は……」

 

女将の視線が一夏とカズキに向かうと、千冬は難しい顔をするが女将はカズキを

見ると含んだような笑みを浮かべ、カズキも軽く会釈する。

 

「感じがするだけですよ。お前もぼーっとしてないで、挨拶しろ」

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

「碓氷カズキです。お世話になります」

「ご丁寧にどうも。清州景子です」

 

女将の笑みに千冬は嫌な予感がしたのか、話題を逸らすために一夏に挨拶を

させるが、その意図に気が付いたのか一夏は苦笑しながら挨拶をし、カズキもまた

笑顔で挨拶をした。

 

「さーて、みんな?今日は一日自由時間だけど、海に行く時は持ち物に書いてあった

 ブラックコーヒーを忘れないようにね~。

 ここでも手に入るように手配はしているけど、持っていくのを忘れて

 今日一日寝て過ごすことになってもそれは自己責任だからね~」

 

割り当てられたそれぞれの部屋に荷物を置きに行こうとする女子達にカズキは、

意味の分からない連絡を伝える。

臨海学校の持ち物欄に、各自でブラックコーヒー持参(忘れたら自己責任)と

あって、全員頭を傾げていたのだが、彼女達はこの後否応なしにその意味を

その身を持って知ることになる。

 

「ねぇ~ねぇ~。おりむ~。

 おりむ~やカズキン先生の部屋ってどこ?

 後で、遊びに行くから教えて~」

 

部屋への移動中、のほほんさんこと本音は眠たそうに見える顔で、ゆったりとした

遅い動きで一夏の部屋はどこかと尋ねてきた。

瞬間、全員の耳がゾウのようになり、聞き耳を立てる。

 

「いや、俺も知らないんだ。カズ……碓氷先生が旅館に着いたらわかるって

 言ってたけど……。

 まさか、廊下で寝るとかじゃないよな……?」

「お~、それは涼しそうでいいね~。私もそうしようかなー」

「織斑、お前の部屋に案内するからついてこい」

 

一夏と本音がどこかズレた会話をしていると、千冬が一夏にこっちに来るように

呼びかける。

 

「あのー。俺の部屋って、どうなる……」

「黙ってついてこい」

 

余計なことは聞くなと言いたげに千冬がそう言うと、二人は無言でしばらく

旅館の廊下をあるいていくと、一つの部屋にたどり着いた。

 

「ここだ」

「教員室?」

 

部屋のドアには“教員室”と書かれた張り紙が張られていた。

 

「最初は、お前と碓氷を同室にという話だったんだが、それだと確実に

 就寝時間を無視した女子が押し掛けるだろうということになってな。

 それにあいつなら、おもしろいからという理由で、尚更押し掛けを

 促しそうだしな……。

 結果、私と同室になったということだ。これなら、誰もおいそれとは

 近づかないだろう。

 後、碓氷の奴は自分で何とかするそうだ」

 

ため息を吐きながら、千冬は疲れたように肩を落とす。

 

「ご迷惑をお掛けします……」

『(ある意味、明以上のボディーガードだな。

 しかし、自分で何とかするって、カズキはどうするつもりだ?)』

「それと、臨海学校はあくまで授業の一環だ。私が、教員だということを忘れるなよ」

「わかりました、織斑先生」

「それでいい」

 

そうして、二人は部屋の中に入るとそこには、二人部屋だというのに広々とした間取りの

空間が広がっていた。外側の窓からは、海がばっちり見渡せ日の出も絶景になることだろう。

更に、トイレやバスはセパレートになっており洗面所は専用の個室となっていた。

備え付けられた浴槽は、一夏だけでなく大人のカズキが足を伸ばせるほど広い。

 

「すげーな」

「一応、お前とカズキも大浴場は使えるが時間交代制だ。

 普通なら男女別だが、何せ一学年全員だ。お前達二人のために、残りの全員が

 窮屈な思いをするのもあれだからな。使えるのは一部の時間だけだ。

 深夜や早朝に入りたければ、部屋の方を使え」

「わかりました」

「さて、今日一日は自由時間となっているから、荷物を置いたら好きにしろ」

「織斑先生は?」

「私は他の先生達と今後の打ち合わせとか、色々あるが――」

 

誰も見ていない姉弟の二人きり(+ゲキリュウケンだが)にも関わらず、教師の姿勢を

崩さなかった千冬は何かをごまかすように、咳ばらいをする。

 

「久々の海だしな……軽く泳ぐぐらいはするとしよう。

 どこかの弟と共に買ったのもあるしな」

「カズキさんにも見てもらわないとだもんね♪」

『(おい!)』

 

さらりと口にした一夏の言葉に千冬は、一瞬固まると一夏の振り返り

鋭く睨みつけるが……

 

「織斑先生、ちょっといいですかー?」

 

ドアを叩く音がすると真耶の声が聞こえてきて、千冬の視線はドアに向かう。

 

「……どうぞ」

「えっ!?織斑君!」

 

部屋に入るなり、一夏と目が合った真耶は驚きの声を上げる。

 

「山田先生……確か私と織斑を同室にというのはあなたが提案したことだった

 はずだが……?」

「はいぃぃぃっ!そうでした、ごめんなさい!」

「じゃあ、俺は海に行きますね。

 ――ああ、そうだ……夜は碓氷先生と二人きりになれるよう

 どこかに行ってましょうか?織斑先生」

 

蛇に睨まれた何とやらになったような真耶を見て、一夏は頭に電球が光ったような

顔をすると、水着や替えの下着等を持ってそそくさと部屋を出ようとするとその際に、

置き土産とばかりの爆弾を親指を立てながら投下していった。

そして全力でその場を後にするが、直後に哀れな教師の悲鳴にならない悲鳴が

旅館中に響き渡ったとか……

 

 

 

「…………」

「…………」

 

一夏は、更衣室に向かう途中で箒と出くわし、共に目の前の光景にどうしようかと

悩んでいた。

道ばたに、ウサミミのような何かが生えているのだ。

しかもご丁寧に“引っ張ってください♡”という看板まで立っていた。

 

「なあ、これってもしかしなくても――」

「聴くな。私は何も見ていないから、何も知らない……」

 

二人の脳裏には、こんなことをする人物の姿がよぎったが、箒はどこか疲れたように

つぶやくと初めから、それを見つけなかったことにしてその場を後にした。

 

『で?どうするんだ、これ』

「そうだな……とりあえず、早く着替えて海にいこう!」

 

一夏も箒と同じく、何も見なかったことにしてその場を後にして更衣室に向かうと

今度はカズキがやってきてウサミミと看板に目をやる。

 

「…………」

 

しばらく、無言でその光景を見ていると看板を引っこ抜き、どこから出したのか園芸用のスコップを取り出すと、ウサミミに土をかけて看板と共に何もなかったことにした。

 

「――よし!後は……」

 

カズキは風術を使って遥か遠くの頭上に目を見ると、ミサイルのようにこちらへ

とんでくる機械仕掛けの巨大ニンジンを発見した。

 

「――か~○~は~○……」

 

その巨大ニンジンに対処するために某戦闘民族の必殺技の構えを取るとその掌に、膨大な風が収束していく。

 

「―――波っ!!!」

 

カズキの掌から放たれた風の塊は、竜巻のようにまっすぐ巨大ニンジンへと進んでいき

それをもみくちゃにして、海の彼方へと吹き飛ばした。

 

「さて、俺も海に行きますか♪」

 

巨大ニンジンが吹き飛ばされる途中、“ほぎゃぁぁぁ!!!”という叫び声を

カズキは耳にしたが、彼はそれを気に留めることはなく更衣室へと向かった。

 

 

 

「う~ん……」

 

更衣室へと向かった一夏は気まずい思いをしていた。

一夏とカズキのために用意された男子用更衣室に行くには、女子更衣室の前を

通らなければならなかった。

すると当然のように行われる女子同士のスキンシップを交えた、会話が聞こえてくるので

青少年にはかなりきつかった。

さっさと通り過ぎようとするが、突如としてその足を止める。

 

「いや~明ちゃん、やっぱりええ仕事してますなぁ~♪」

「ひゃっ//////!は、はやて!」

「大きいだけやなく、触り心地も抜群!

 これが将来、一夏君のモノになると思うと……今のうちに堪能させてもらお♪」

「ちょっ///!いい加減に……ひゃん////!」

「……………」

『お、おい……一夏?』

 

偶然耳に入った会話に一夏は、燦々と輝く太陽のような笑みを浮かべ

ゲキリュウケンは、流れるはずのない冷や汗をダラダラと流しながら、一夏に今の状態を

問う。

 

「今夜の夕飯は……タヌキ鍋になりそうだな~♪」

『……セクハラタヌキことはやてよ。私にはどうすることもできない。

 ――安らかに成仏してくれ……』

 

避けられない未来に、ゲキリュウケンは人知れず黙とうを捧げるのであった。

 

 

 

「ふぅ~あっついなぁ~。……さてと」

 

水着へと着替えた一夏は、働き真っ盛りである夏の太陽の日差しを浴びながら

熱せられた砂浜の熱さを堪能すると、いそいそと何かを準備し始めた。

 

「あ、織斑君だ!」

「えっ、うそ!私の水着変じゃないよね!大丈夫だよね!?」

「うわ~細身だけど、すっごくかっこいい~」

「あの筋肉、相当鍛えているわね……じゅるり……」

「早速、乙女達の目が輝いとるね~。

 そして、なんちゅう素晴らしい光景なんや!!!」

「相変わらず、ブレないわねあんた」

「ほら、明ちゃん。もう大丈夫だから」

「あ、ありがとうございます、すずか……。

 それにしても……何をしているんだ一夏?」

 

一夏の登場に、いち早く海に来ていた子達は黄色い声を上げ、はやてはその光景を

拳を握りしめながら満足そうに眺めていた。

そんなはやてに呆れるアリサとすずかの後ろに隠れるように、パーカーを羽織った

明が姿を見せ、先ほどから女子達の姿に目もくれず何かをしている一夏に声をかける。

 

「ああ、明。な~に、今夜の夕食の準備をちょっと……な♪」

 

一夏はどこから持ってきたのか砥石を使って、雪片を包丁のように研いでいたのだ。

満面の笑みを浮かべて――。

 

「いや~全員に行き渡る様に、肉を細かく刻まないといけないからさ……タヌキ鍋。

 でも、まあ人数は一人減るからなんとかなるかな。

 ……なあ、セクハラタヌキのはやて?」

 

細く開いたまぶたから覗く目は光が消えており、見つめられたはやては自分がとんでもない地雷を踏んでしまったと悟るが、時は既に遅かった。

アリサをはじめ、他の子達も今の一夏がとてつもなくヤバイ状態と悟り、夏真っ盛りのこの日に

氷河期のような寒さを体感した。

 

「い、いや~どどど、どうやろな~。夏に鍋っていうのは……」

「夏だからこそ、熱いものを食べるのがいいんじゃないか♪」

「そ、それはそうやけど……」

 

雪片を無造作に下げてジリジリと近づいてくる一夏に、なんとか逃げようとするはやて

だったが、逃れられないのは本能で理解してしまった。

何とか、助けを求めるが誰も目を合わせようとはせず、八方ふさがりであった。

 

『(お、おい。落ち着け。冷静になれ、一夏!)』

「(な~に、言っているんだよゲキリュウケン?俺はこれ以上ないぐらい、冷静だよ?

 さっきから、はやてがどんな逃げ方をしてもさばける自信があるよ~)」

『(聞く耳、持たないとはこのことだな……)』

「明ちゃん!助けてっ!」

「……はぁ~。一夏、私はもういいからその辺にしたらどうだ?」

 

はやての懇願に明は、ため息をつきながら助け船を出す。

 

「ははは♪何を言ってるんだよ、明?俺はおいしい料理をみんなに食べてほしい

 だけだよ?」

「それなら、はやてがみんなに何かをおごるというのはどうだ?」

「仕方ないな……それで手を打つとしよう――ちっ。

 でも、はやて?今度明に変なことしたら……」

 

明の説得でようやく、矛を収めた一夏だったがその目は雄弁に語っていた。

 

――明日の太陽を見られると……オモウナヨ?

 

「……(コクコクコクコク)」

『(やれやれ……)』

 

明の案に一瞬驚くはやてだったが、命の前にはそんなものは安いものとばかりに

残像が見えるほどの速さでうなずき続けた。

その光景を見ていたものは、キレた一夏を止められる明が真の最強じゃね?と

思ったそうだ。

 

「じゃ、じゃあまず一夏君と明ちゃんにお詫びを……。

 一夏君はちょっとこっちに来てもらって、明ちゃんはちょっとバンザイ

 してくれへん?」

「ん?」

「バンザイ?こうですか?」

 

はやてに言われるまま一夏が明のそばにやってきて、明は両手を高く上げた。

 

「ほな……ほい♪」

「なぁっっっ///////!!!!!」

「ひゃあああああっっっ/////////////!!!!!!!!!!?」

 

はやては一夏の手を持つと明の胸へとその手を持って行き、突然のことに

二人は顔を赤くして大声を叫ぶ。

 

「なにしとんのじゃ!このセクハラタヌキ!!!」

「ほべぇっ!!!」

 

タヌキの耳と尻尾を生やしたような彼女に、朱色の水着を着たアリサの

炎のツッコミという蹴りが入る。

 

「あんたの辞書に、反省の文字はないんかい!!!」

「い、いや~一夏君も男の子やし喜ぶかな~って」

「はやてちゃん。それ、完全に逆効果みたいだよ?」

「えっ?」

「「「「「ごふっ……!」」」」」

 

砂浜に転がるはやては自分の前に仁王立ちするアリサに言い訳をするが、

その言い訳はすずかによって、止められた。

見ると、周りの子達は砂浜に手をつけ口から砂糖を吐いていた。

 

「すすすすまん明!」

「うぅぅぅ~/////。このスケベ……」

「ぐはっ!い、いやこれはうれしい事k……じゃなくて、回避できない事象であって!」

「……触った時、顔が緩んで数秒……手を離さなかった……」

「それはびっくりしたからで……!

 第一この間の風呂ではお前から……//////」

「自分からするのとされるのでは全然違う!

 そもそも、こういうことはもっと雰囲気というか二人っきりでというか……」

 

人目を一ミリも気にすることなく、潤んだ涙目の明と慌てふためく一夏は

普段とは違った痴話喧嘩で夏の海辺を甘ったるい空間へと変えていた。

 

「なるほど……碓氷先生が言ってたのはこういうことだったのね」

「確かにこれは必要やわ……」

「私も流石に、ちょっと……」

 

アリサ達をはじめ、カズキが言ったようにブラックコーヒーを持ってきた面々は

腰に手を当て水筒やペットボトルを直接口に当てて、自棄酒の如く飲み始めた。

そして、忘れてしまった者達は一夏と明が作り出した甘い空間に太陽がブレンドされたものを

味わう(強制的に)羽目となった。

 

「お待たせ~♪……って、どうしたのみんな?」

「コーヒーなんかガバガバ飲んで」

 

そこに着替えを終えて、それぞれピンクと藍色のビキニをしたなのはとフェイトが

やってきた。

 

「いやな?み~んな青春の苦い、一ページを刻んどるんよ」

「青春?」

「はいはい。なのはにはまだ早いから、あっちで泳ぎましょ」

「ところで、どうしたの鈴ちゃん?」

「う~ん……さっきから、あの調子なんだ――」

 

この甘ったるいことこの上ない空間から、逃げられる口実を見て離脱しようとする

面々だったが、鈴のようなものがすずかの目にとまる。

何故そんな表現なのか。

それは、現在鈴は人の形をした黒い“なにか”になっているからだ。

 

頭のツインテールは今の鈴の感情に呼応するかのように、逆立ちゆらゆらと揺れ

彼女の目と口はまるで妖怪のように赤く光っていた。

なのは達についてきている所を見ると、最低限の理性は残っていると考えられる。

 

「着替えている時から、呆然としてたんだけど海についてから急に

 あんな風になっちゃって……」

「あ~」

「なるほどな~」

 

フェイトの説明に、アリサとはやては得心した。

ただでさえ、鈴の地雷原が多めのIS学園である。その地雷が人目に触れる機会が多くなる

海に加え、トップレベルの破壊力を秘めたフェイトや普段は服の下に隠されたそれが

太陽の元にさらされているダークホース達に、鈴の何かは限界にきていたのだろう。

具体的には空色のワンピースタイプの水着を着ているすずかとか。

そして、止めとばかりに一夏と明がいつも以上の二人だけの空間を作っているのを見て

限界を超えてしまったようだ。

その場にいた者達は鈴の口から出る不気味な笑い声が、何故か文字の形となって

いるように見えた。

 

「え~ブラックコーヒー、ブラックコーヒー。

 バカップルのイチャイチャ空間対策のブラックコーヒーは、

 いかがですか~?ゴーヤを配合した特別仕様だよ~」

「今なら、ワサビや唐辛子を入れた辛口バージョンもあるよ~」

 

そこに、麦わら帽子を被り半袖半ズボンのラフな格好で背中にのぼりを背負った

ウェイブと弾が現れた。

 

 





今回は一夏達の日常の裏側から始まりました。
これがのちにどうなるのか。
まあ、その日常でも鈴が人ならざる者にメタモルフォーゼしてwww

カズキがか○は○波の構えをしましたが、あくまで構えで放ったのは
圧縮した風の塊です。某甘党侍がうらやましがるかも。

最後にウェイブと弾が登場しましたが、彼らは海の家のバイトです。
詳しくは次回!


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