インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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何とか、GW中に完成できました(汗)
臨海学校前の一幕です。


夏のある日と龍でもどうにもならないこと

「さぁ、一夏さん!あちらのお店で、素敵な服を見立ててあげますわ!」

「一夏!久々に、ゲーセンで勝負よ!」

「もうみんなったら~……あっ一夏。あそこの喫茶店で休憩しようか?」

「おお~!なんだここは!」

「一夏く~ん?あっちで、お姉さんに着て欲しい下着を選んでもいいのよ?」

「一夏……あの店でヒーローの衣装を……」

「はわわわ/////そ、そんなまぶしい目で見るなぁ~/////」

「い、一夏?この服が似合うか、見てほしいのだが……」

「お前ら、ちょっと落ち着けぇぇぇ!!!!!」

 

自分をあっちこっち、それぞれの店に連れて行こうとしたり、あまりの広さに目を

輝かせたり、ペットショップの子犬に見つめられてハワワワなことになっている者達に

向けて一夏はあらんかぎりの声を上げた。

 

彼らがいるのは、駅前のショッピングモールレゾナンスである。

電車やバス、タクシーと交通網の中心でもあり、市のどこからでもアクセスできるのだ。

品ぞろえも豊富で、飲食店はジャンルを問わず完備され、衣服も量販店から一流ブランドまで、

さらには各種レジャーもあり子供からお年寄りまで多くの客層に利用されている。

 

先日の学年別トーナメントで、優勝したら一夏とデートする事になっていた約束は

明も含めて全員で出かけるという形に収まり、どうせなら今度一年生で行われる臨海学校に

必要なものも買おうということになったのだ。

そして、到着するや否や我先にと一夏の腕を掴み、それぞれが目につけた店に

向かおうとして、人の注目を集める事態となってしまったのだ。

モデルやアイドルと間違われても仕方のない美少女に取り合いをされている

一夏を見て、その場にいた多くの独り身の男性陣は血の涙を流さんばかりに嫉妬の念を送り、

同じように女友達と来ていた女性達も“リア充がっ……!”と舌打ちしていた。

一部の勝ち組みに分類される新婚やカップルの面々だけが、“青春だね~”と

温かい目を一夏達に送った。

 

 

 

「――っはぁ~。疲れたぁ~」

 

一夏は両手に抱えていた荷物を下してイスに座ると、一息をついた。

 

「なんか、修行するよりも大変だったぞ……」

『(すっかり、彼女達の荷物持ちだったな)』

 

愚痴をこぼす一夏に、ゲキリュウケンは苦笑いしながら返す。

一夏が叫んだ後、じゃんけんをしてそれぞれが行きたい店に順番に回ろうということに

なったのだが、こういう時の男の悲しい立場というか一夏は女性陣の荷物持ちとなったのだ。

もちろん、一夏自身も力仕事に入る荷物持ちを断るつもりなどなかったが、ゲームセンターや

ペットショップで遊んだり見たりするものはともかく、モノを買う者はとにかく買ったのだ。

特に、ラウラの無いに等しい私服を買うのが半分目的だったシャルロットやショッピングが趣味の一つであるセシリア等は一夏一人では持ちきれないほどに。

 

「何で、女っていうのはこう買い物が好きなんだ?」

『(さあな。だが、それに付き合うのも男の甲斐性というやつだ。

 諦めて、受け入れろ)』

「さぁさぁ~一夏くん?今日のメインの買い物をするわよ!」

 

疲労困憊の一夏やシャルロットや楯無の着せ替え人形となったラウラとは逆に、

元気が有り余っている一同が楯無に連れられてやってきたのは、水着売り場だった。

 

「というわけで、一夏君にはみんなの水着を選んでもらいま~す♪」

「はい?」

 

楯無の提案に、一夏は首をかしげる。同じようにラウラや明も首をかしげるが、箒達は

若干頬を染めた。

 

「いや~たまには、自分で選ぶんじゃなくて誰かに選んでもらうのもいいかな~って。

 別に、臨海学校に行けないから別の機会に見せることになってなんやかんやで全員で

 行くことになっても、他の子よりも初見な分インパクトがあるだろうな~なんて

 思ってないから~」

「お姉ちゃん、地味にセコい……」

 

楯無の策に簪がつぶやくも気にすることはなく、とりあえず簡単にすむ一夏が先に水着

を買うことになった。

 

「――これで、いいだろう。それにしても……」

 

水着を選び始めて、5分と経たないうちに一夏は白の生地に青のラインが入った

サーフパンツタイプの水着に決めるが、後ろを振り返って苦笑いをこぼした。

 

「あっちの水着は、すごい数だな」

『(女は男よりもおしゃれに気をつかうらしいいから、そういうことだろ)』

 

一夏の目には男性用の水着とは、比較にならない様々な種類の女性用水着が映った。

申し訳程度のそのスペースにいると、女性がターゲットの店にいるような

錯覚を覚えて気恥ずかしさを感じる。

 

「さてと。買うものは買ったし、次はあいつらの……」

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

 

会計を済ませて、明達の元に行こうとした一夏の袖をいつの間にやってきたのか

ラウラが引っ張った。

 

「あれ、ラウラお前……」

「こっちに来てくれ」

 

何故ここにいるのかと聞こうとするが、ラウラはマイペースに一夏を女性用水着売り場へと

連れて行った。

 

「おいおい、なんだよ一体……」

「あれ、一夏?」

 

一夏は、ラウラに連れていかれるとそこにたくさんの水着の前でオロオロしている

明がいた。

 

「うむ!兄様からお姉ちゃんはどんな水着を選んでいいのかわからないだろうから、

 お姉ちゃんの友達から聞いたというお姉ちゃんに似合いそうな水着をお兄ちゃんに

 見てもらって決めてもらうといいと言っていたから、好きなのを選んでくれ!

 ちゃんとどんな水着か、メモもしてあるぞ!」

 

おつかいがちゃんとできてどーだ!と言わんばかりに胸を張るラウラに、一夏と明は

苦笑するが、兄様という単語に嫌な予感が走る。

 

「メモには二人きりで選ばせるようにとあったからみんなに隠れてここにきたが、

 私はいてもいいのか?

 それにこのセクシー系とか、きわどい系というのはどんなものなのだ?」

「「何言ってんだ、あの人は/////!!!」」

『ははは……』

 

ラウラが口走った言葉に二人はずっこけて、大声を上げた。

そういうことをカズキが自分で吹き込まないのを知っている二人は、そんなものを提案した

ある仲間の顔を思い浮かべて顔を赤くする。

 

「うん?お~い、そこの店員。お姉ちゃんに似合う、このセクシー系とかきわどい系という

 水着を探してくれ」

「かしこまりました♪」

 

頭を抱える二人に構わず、ラウラは店員を呼び止め水着を頼む。

店員の女性は明と一夏を見ると、イイ笑顔を浮かべて注文の水着を探し始める。

 

「おい、ラウラ////!」

「こちらなどいかがでしょう?あちらで、試着もできますよ」

 

明が止めに入ろうとするが、一足遅く店員は注文にあう水着を何着か持ってきて

手渡してきた。

 

「ふふふ……。久しぶりの逸材だわ!燃えてきた――!!!」

 

何かのスイッチが入った店員は、目に炎を燃え上がらせて再び水着を探し始めた。

 

『これは、早く決めないととんでもない水着になるのではないか?』

「ええ~!?し、しかし……これは/////」

 

ゲキリュウケンの言葉に、焦る明だったが渡された水着も明からしたら相当恥ずかしいもので

どうすればいいのかわからず、混乱し始める。

 

「う~ん……この中だとこれが一番マシかな?」

 

明の腕の中にある水着から一夏はあるものを選ぶが、手渡されたモノの中では確かに

普通の部類だろうが、それでも明からしたらかなり冒険するようなもので顔を赤くする。

 

「ちょっと、ラウラはどこに行ったのよ!」

「明さんと一夏さんも戻ってきませんし……」

「怪しいにおいがプンプンだね」

 

そうやっていると、一夏達の近くに鈴達がやってきた。

いつまで経っても戻ってこない一夏だけでなく、姿を消したラウラと明にも不審を感じ

探しにきたのだろう。

 

「むっ!まずい!このままだと見つかってしまう……お兄ちゃん!お姉ちゃん!

 とりあえず、そこに!」

「うえっ!?」

「お、おい!?」

 

いち早く状況を確認したラウラは、一夏と明を試着室へと押し込む。

 

「私が時間を稼ぐから、その間に兄様が言っていたイチャイチャというのをしてくれ!」

 

ラウラは静かにサムズアップすると、呆然とする二人を置いてその場を後にする。

 

「「………//////」」

『…………』

 

試着室というのは、一人の人間が着替えるスペースしかなく、そんな場所に二人の人間が

押し込まれれば、当然密着に近い形となり互いの胸の鼓動が聞こえそうになる。

何とも言えない空間に、二人と一匹は無言となる。

 

『(何を今さら照れているのだ、この二人は……。こんな状況は、昔ロッカーに

 入った時よりマシではないか……。

 ――ブラックコーヒーを飲めるようになりたい!)』

 

ゲキリュウケンの魂の叫びは、一夏と明に聞こえることはなく二人は互いに

見つめ合った。

 

「……ちょっとあっち向いて、目をつぶっていろ――」

「へっ?」

「いいから、さっさとしろ////!!!」

「はいぃぃぃ!!!」

 

明ににらまれて、一夏はすぐさま回れ右で背を向けた。

 

「おい、一体何を……」

 

する気だと聞きかけるも、背後から何かが布がこすれるような音が聞こえてきて

一夏は言葉を失う。

 

「(おいおい、まさか――//////)」

「(だぁぁぁぁぁ////////。何をしているんだ私は/////////!!!!!)」

 

明は、自分で自分がやっていることにパニックになっていた。

試着室の空気にのまれたのか、後ろを向いているとはいえ一夏がいるにも関わらず

水着への着替えを始めた。

ハプニングで下着姿やそれに近い姿を見られることは数あれど、そばで着替えなど

初体験である。

 

「(ええい!こうなったら、やけだ//////!)」

「(おいぃぃぃ!なんなんだ、この天国と地獄の空間は!?)」

『(こいつら、いい加減私もいるということを忘れないでくれるかな……)』

 

互いに理性と本能の戦いが行われる中、ゲキリュウケンはその空気に体の機能が

おかしくなりそうになっていた。

 

「……もう、こっちを見てもいいぞ///――」

「お、おう……」

 

一夏が振り向くと顔を赤くして落ち着かないのかソワソワしている明が、赤のビキニを

着ている姿が目に入ってきた。

測ったわけでもないのに体にピッタリなサイズであるものが選ばれたのは、

店員の手腕の技だろう。

もっとも、若干水着が小さいのか見たら鈴が鬼神になりそうなものが窮屈そうに

形を変えているが、それすらも計算した店員のチョイスかもしれない。

そのせいで、大きさだけでなく弾力まで触らずとも伝わってきそうだ。

 

「な、何とか言ったらどうだ//////……」

「えっ!あっ、ゴメン。似合いすぎてて、言葉が出てこなくてさ/////」

「そ、そうか……/////」

『(……かゆい!体中がかゆい!誰か!私に体をかく腕をくれぇぇぇ!!!)』

 

二人だけの空間と呼ばれるモノを形成した一夏と明に、

限界を超えたゲキリュウケンの悲痛な叫びが届く時は残念ながら来ることはないだろう。

しかし、この空間は視認できるものでもあるため――

 

「何…………してルノカナ?」

「よし――殺ソウ」

「おおおおおお前達、ははははは破廉恥だぞ//////!!!!!」

 

試着室のカーテンが開かれるとそこには、目から光を消したシャルロットと鈴、

顔を真っ赤にした箒がこちらを指さしていた。

他の者も後ろで、うつむいて変な笑いやきれいな笑顔を浮かべていた。

一番後ろでは、ラウラはオレンジジュースをゴクゴクと飲んでいた。

 

彼女達は、乙女の勘が鳴らす警鐘に従い店の中を探していたら、試着室から漏れ出る

明らかに他とは違う空気、二人だけの空間を察知してやってきたのだ。

もちろん、ラウラはここから遠ざけようとしたが簪に渡されたオレンジジュースを

堪能するのに夢中で箒達から目を離してしまったのだ。

店員達も店内にいた客達も彼女達から発せられるオーラに、本能がヤバイと訴えかけ

気付かれないようにコソコソとその場を後にした。

とても人に見せられない現場を見られて慌てる一夏と明に、一般人でも視認できるオーラ

を出す箒達はまるで、並々と注がれたガソリンに特大の火種が引火するまであと数秒

といった感じだったが、その火種が引火することはなかった。

 

「何をしているんだ――お前達?」

 

地獄の住人すら聞いただけで、固まってしまうような声に一夏達は全員石像のように

動きを止めた。

そして、できるならその場からすぐに逃げたい衝動が起きるが逃げられないという

ことも理解しており、全員壊れたブリキのおもちゃのようにギギギと音を

たてながら、声の主の方を向く。

そこには、不機嫌そうに腕を組んで指をトントンと叩く千冬と

顔を赤くしてパニックになっている真耶がいた。

 

 

 

「はぁ~水着を買いに来てこうなったと。

 ダメですよ、原田さん、織斑君。いくら恋人同士とはいえ、試着室に一緒に入るのは

 関心しません。他の皆さんも、お店の人や他のお客さんに迷惑をかけてはいけません」

「「「「「「「「「はい、すいません」」」」」」」」」

 

水着から着替えた明も含めて一夏達は全員正座させられて、真耶のお叱りを受けていた。

 

「と、ところで、お二方はどうしてここに?」

「私達も水着を買いに来たんですよ。去年の水着が、入らなくなってしまって……」

 

話題を逸らそうと楯無が話を振ると、真耶はがっくりと首を落とした。

その理由をなんとなく察した箒と明は、同情のまなざしを送るが約一名は舌打ちをして

殺気を放った。

 

「あっ!いたいた!」

「おや、何か賑やかと思ったら……」

「む?お前達は!?」

 

正座している同僚と生徒達を見ていた千冬は、突然聞こえてきた声に顔を向けると

驚きの声を上げた。

 

「あら、どうされたんでしょう織斑先生?」

「知り合い……かな?」

「あれ?さくらさんとしず子さん?」

「えっ一夏君!?」

「お久しぶりですね」

 

セシリアと簪が疑問を口にすると、一夏はその二人のものと思われる名前を口にする。

 

 

 

「つまり、お二人は織斑先生の高校生時代のご友人なんですね?」

「はい、加賀しず子と言います」

「桜井さくらだよ♪」

 

明の問いに眼鏡をかけ千冬とはまた違った形でスーツが似合う、仕事ができる女性という印象を与える加賀しず子とナンパされそうなかわいらし顔だちで真耶のように実年齢よりも幼く見られそうな桜井さくらは混乱気味な一夏達に自己紹介をする。

 

「いや~千冬は相変わらずカッコイイね♪」

「そうですね、元気そうで何よりです」

「それは二人もだろ?そっちは最近、どんな感じなんだ?」

 

学園での教師としてや一夏に向ける顔とは違った穏やかな顔で、千冬は再会したしず子と桜と会話を始める。

 

「それより、碓氷さんとはどうなんですか千冬さん?」

「私達、碓氷君に頼まれてここに来たんだけど?」

「何……?」

 

二人が語った言葉に千冬は一転して怪訝な表情を浮かべ、一夏達はマズイと感じ始める。

 

「何でも、弟の一夏君に彼女ができてささやかな姉弟デートも

 できなくなってへこんでいるから、私達に励ましてほしいのだと……」

「今日は外せない用事があるからって、言ってたけどあの千冬にベタ惚れな碓氷君

 がそんなことで私達に任せたりするかな?」

「…………」

 

純粋に二人なりに千冬を知っての言葉だが、それを聞いても無言な千冬が

一夏達に言いようのない不安を与えていた。

 

「ちょっと、一夏。マズイんじゃないの、コレ?」

「マズイなんてもんじゃねえよ、鈴……」

「顔を見なくてもわかる。あれは相当マズイ……」

 

このメンバーの中でも千冬のことをよく知る一夏、鈴、箒はヒソヒソと現在の状況の

危険性を話し合う。

 

「い、いかん……。今の教官は、兄様と最も激しくケンカ(痴話げんか)した時と

 似た空気を出している――」

 

冷や汗を流して後ずさるラウラと同じく、楯無達も千冬から逃げたかったのだが

体が動かなかった。

 

「あいつめ……一度、本気で頭の中身を引きずり出す必要があるな――」

 

風もないのに髪をゆらめかせ、千冬は口元を怪しく歪ませる。

 

「そうはいっても、前から一夏と一緒にいる時間が減って落ち込んでたのは

 事実だよね、千冬ちゃん?」

 

何の前触れもなく最初からそこにいたかのような自然な感じをさせる声に、

みんなが目を向けると――――とある天才漫画家のように黒のスウェットに背中に

羽ぼうきを何本も刺したカズキがそこにいた。

 

「シュピーン!ってね♪」

「…………何をしている?」

「いや~近くでコスプレ大会があってね~。

 それに参加してたんだよ~。残念ながら、優勝は逃しちゃったけどね」

 

怒りを通り越して呆れた視線を送る千冬に気にせず、カズキはいつものように

飄々と楽し気に今の恰好の理由を話す。完全に余談だが、そのコスプレ大会の優勝者は

マッハ20で動けるタコのような教師のコスプレだったとか――。

 

「さ~て、二人とも久しぶりだね~。でも、あんまり仲良さそうにしてると

 千冬ちゃんの機嫌が悪くなっちゃうからこの辺で♪」

「……ふっ。ふふふふふ……」

「相変わらずのようですね」

「だね」

 

俯きながら笑う千冬に一夏達が逃げ腰なのに対し、しず子と桜は見慣れた光景なのか懐かしいものを見る温かい目をしていた。

 

「さ~て、みんな?一夏とデートしているところ悪いけど、少しの間

 千冬ちゃんと交代してもらってもいいかい?

 一夏と一緒にいる君達をうらやましそうに見る千冬ちゃんを見るのも

 楽しいけど、そろそろ発散しないと爆発しちゃう……」

 

カズキは途中で体を右に動かして、言葉を“止められた”。

彼の顔の横には、煙を発している千冬の拳があり、数秒後その拳の延長線上にある壁に

拳を押し付けたようなへこみが発生した。

 

「……ちっ!」

「ははは♪じゃあ、行こうか♪」

 

忌々し気に舌打ちする千冬にカズキは余裕を崩さず、放心気味の明達を

連れてその場を後にした。一夏を残して。

 

「……はぁ~。まっ、せっかくだしな。癪だがあいつの気遣いに乗らせてもらおう」

「はいはい」

 

素直じゃない千冬に一夏は、苦笑して返事をする。

 

「で、一夏。どっちの水着がいいと思う?」

 

久しぶりの姉弟の水入らず(一匹一緒だが)に、千冬はどこか楽し気に

両手に取った水着の良しあしを一夏へと聞いてくる。

 

「う~ん、難しいな。

 どっちかって言うと黒の方だけど、こっちの白の方も捨てがたいし……」

 

千冬が手に取ってみせたのは、スポーティーながらもセクシーさも合わせた黒の水着と

機能性重視の白の水着。

どちらもビキニタイプで、男が見たら彼女や奥さんがいても振り返って思わず

見とれてしまうだろう。

 

「ほう?珍しいな。お前なら、黒の方がいいのに余計な気を使って

 白だと言うと思ったが?」

「何だよ、それは。

 確かに、黒の方が千冬姉らしいけど、白は白で似合うんだよ。

 カズキさん曰く、千冬姉は何物にも染まらない白色が似合うけどだからこそ

 自分の色に染めたくなるって言ってたし」

「――んなっ/////!?」

「あっ!いっそのこと、両方買ってどっちかは二人きりの時に見せるとか?」

 

一夏からの思わぬ言葉に顔を赤くする千冬は、続く一夏の言葉を聞くや否や

彼の体をくの字に抑え込むと、みぞおちに膝蹴りを何度も叩き込んだ。

知る人が見れば、全員完全な照れ隠しだということがわかるだろう。

そして、それを口にすれば同じような目に合うのも察するだろう。

 

その後、千冬は床に倒れ伏す一夏を置いて会計に向かったのでどちらの

水着を買ったのかは臨海学校まで誰もわからない――

 

 

 

 

 

「それで?これからどうするんですか?碓氷先生」

「このまま、一夏を待つにしても……」

「それは、大丈夫。さっき、おもしろいものを見つけてね~?

 みんなで見に行こうと思ってね♪」

 

水着売り場を後にして、しず子と桜と別れた一同は暇を持て余しどうするのかと

楯無と明が尋ねると、爽やかな笑みでカズキは返事をした。

彼が手招きして指を指すと、そこにはおめかしして照れながら談笑する

弾と虚の姿があった。

 

 

 

「いや~そ、それにしてもだんだん熱くなってきましたね///」

「そ、そうですね//////」

 

互いに照れているのが丸わかりな顔で、ぎこちなく会話する二人に

自然に周りの目も温かいものとなる。

 

「ああ~もう!お兄(にい)ったら、何やってんのよ!」

 

その様子を物陰から帽子をかぶり、サングラスで変装した蘭がじれったそうに

見ていた。普段、なんだかんだと邪険にしていても兄の恋路は妹としても気になり

応援したいようだ。

もちろん、カズキ達が自分のことを見ているとは彼女は夢にも思わないだろう。

 

「弾のくせにデートなんて、生意気な……」

「あんなに落ち着いていない虚ちゃんなんて、初めて見るわね簪ちゃん」

「うん。虚さん……かわいい」

「ダメですわよ、みなさん!人のデートをののの覗くなんて/////」

「そう言っているけど、バッチリ見てるじゃんセシリア」

「なるほど。あれが、初々しいというやつか」

「うらやましいな……」

「そうですね……」

「なんで、こっちを見るんですか?箒?山田先生?」

 

弾と虚のデートを壁に隠れてこっそり見ていた面々は歯ぎしりしたり、滅多に見れない

シーンを見てあららとなる者もいれば、恋人がいる明に妬ましそうな視線を送ったりした。

 

「さ~て、せっかくの初デートだし見守るのはこれぐらいにして、

 そろそろ退散しますか。“たまたま”見つけたから、カマをかけたことを言えば

 おもしろくなりそうだし♪

 覗き、もとい二人の恋路を応援するためのセッティングは次の機会に……うん?」

 

二人に見つかる前にその場を後にしようとしたカズキは、その視界に

女性に詰め寄られている一夏達と同年代の少年の姿が映った。

 

「だから!この服を片づけておいてって言っているの!」

「いや、その服を出したのは僕じゃないし……そもそもどうして初対面の

 あなたにそんな事を言われなくちゃいけないんですか?」

 

どうやら、女性が見ず知らずの少年に命令しているようだ。

世界最強の力として認識されているISを動かせるのは、女性だけということから

こんな風に男が小間使いとして扱われるのは、少なくなってきたとはいえまだまだ

起こっているのだ。

ちなみに一夏達はIS学園の制服を着ていたのだが、それはいらぬトラブルを回避するために

カズキが忠告したためである。

 

「どうやら、自分の立場が分かっていないよう……ひっ!?」

 

女性は、少年に濡れ衣を着せるために警備員を呼ぼうとしたら、突如として

感じる殺気に悲鳴を上げる。

 

「お姉さん?私達の友達に何のご用ですか?」

「あんたねぇ!いい大人が、セコイことして恥ずかしくないの!」

「もう一度、小学生から常識を学び直したらどうですか?」

「みんな!」

 

女性の背後にいたのは、笑顔なのに冷や汗が止まらない空気を発している

すずかと怒り心頭のアリサ、そして鋭い目で女性をにらむフェイトだった。

彼女達の登場に、詰め寄られていた少年――ユーノは安堵の声を上げる。

 

「くっ……。子供が大人に盾突くんじゃ……」

「お姉さん?悪いこと言わんから、その辺にしておいた方がええですよ?

 でないと、怖~い魔王様からOHANASIをされることになりますよ?」

「…………」

 

反論しようとする女性に、すずか達に続いて現れたはやてが忠告すると

背後にいる無言の笑顔をするなのはが赤い宝石を握りしめていた。

 

「うっ……ぐ。大人をなm……」

 

勝ち目などゼロを通り越してマイナスとなっているのに、ちっぽけなプライドから

敗北を認めようとしない女性はなおも反論しようとしたら、突然糸の切れた人形のように

倒れてしまった。

 

「なんや?」

「何かの演技……じゃないよね?」

「すいませーん」

 

倒れた女性に怪訝に思うはやて達だったが、そこに警備員がやってきた。

 

「先ほど、迷惑行為をしている女性がいると通報を受けたのですが……」

「あっ、はい。そこで、倒れてます。貧血か熱中症じゃないでしょうか?」

 

駆け付けた警備員に笑顔でスラスラと説明するすずかに、はやて達はカズキの

影がちらついたとか……。

 

「仕方ありませんね。通報した人はその時の動画も送ってくれたので、

 この人を警備室に運んで話を聞くとします。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

 どうぞ、レゾナンスを引き続きお楽しみください」

 

そう言って、倒れた女性を運んでいく警備員を見送るとはやて達はユーノを連れて

その場を後にした。壁に隠れて、吹矢をクルクル回すカズキには気づかず。

 

 

 

「全く!なんなのよ、あの女!」

「まあまあ、アリサちゃん気持ちはわかるけど落ち着いて……」

「大丈夫だった、ユーノ?」

「うん。目をつけられたのはあの人だけだから、大丈夫だよ」

 

未だに怒りが収まらないアリサをなだめながら、ユーノ達はレゾナンスを散策していた。

彼女達も一夏達同様、臨海学校に必要なものを買いに来たのだが何故関係のないユーノが

いるのかと言うと、なのは達がユーノとデートするために休みをクロノと掛け合ったからである。なのははデートというより、一緒に買い物の意味合いの方が強いが。

元々ユーノは、半年以上の有給が積もりに積もって貯まっており、いつでも休みは取れるのが普通なのだが、勤務している無限書庫の性質上、今の今まで碌に利用することができなかったのだ。

もちろん、最近は特に忙しい管理局でユーノに休まれるのは非常に痛いのだが

無限書庫の職員となのは、フェイト、はやてによる最強レベルの魔導士トリオによる

“お願い”により、本日休暇を取ることができたのである。

 

「はいはい、さっきのことはその辺にしとこ」

「そうだね、せっかくのお出かけなんだから楽しまないと♪

 あっちにおいしそうな喫茶店が、あったからそこに……」

「あれ~?ユーノじゃない♪」

 

なのはが、気分転換もかねて喫茶店に行こうと提案しようとしたら、

おしゃれな服でおめかししたドゥーエが彼らに声をかけてきた。

 

「ねぇ、ユーノ?」

「誰?この人……」

「は~い♪はじめまして。

 ユーノと同じ無限書庫で司書をしている、二乃(にの)よ♪

 こんな名前だけど、生まれはミッドよ。

 今日は前から興味があった地球に、遊びに来たのよ~」

「え~っと、彼女はまだ司書一年目だけどすごく優秀でね。

 いろいろと助けてもらっているんだ……ってどうしたの、みんな?」

「べ~つに~?な~~~んもあらへんよ?」

「そうそう♪」

「きれいな人だね……」

 

声のトーンを落とした声で、アリサとすずかはユーノと腕を組みながら問いかけ

はやて、フェイト、なのはの三人はニコニコと笑う笑顔をユーノに向ける。

 

「あの~みんな?どうしたの?どうして、そんな笑顔を僕に向けるの?」

「ふふふ♪私とユーノの関係が気になるようね、ガールズ?

 ええっと、簡単に言うと配属されてから数週間ぐらい勤務後に

 二人っきりで一緒の部屋にいて(探索魔法の使い方をマンツーマンで教えてもらって)、

 もうダメって言っているのに、ガンガン攻めてきて~(ビシビシと鍛えてくれて)

 何度も朝日を見たりしたわね~(徹夜でみんなと一緒に)」

「「「「「…………」」」」」

 

二乃の言葉に、初夏とはいえ日差しがまぶしく真夏日と呼ばれるのも後数日となる本日、

彼女達を中心として、体感温度は瞬く間に氷点下となった。

周りにいた人達は、突如として襲い掛かった冷気に発生源へと視線を移すがその瞬間に

体が凍ったように固まってしまう。

発生源には輝く笑顔のはずなのに、見たら泣く子も気絶するような笑みを

浮かべる5人の恋する乙女がいた。

体が動かなくなった人達は、動かなくなった理由を考えるより先に何とか体を

動かそうとして、その場から逃げていった。

 

「じゃあ、デートの邪魔をするのも悪いし、私はこの辺で♪じゃ~ね~~~♪」

「ちょっ!?こんな状況にしておいて、何を……!」

「「「「「ユーノく~~~~ん?」」」」」

「ひっ!?」

 

ユーノは立ち去る二乃を呼び止めようとするが、自分の横と背後からの

呼ぶ声に金縛りにあってしまう。

 

「どういうことか、詳し~~~く聞こか?

 ……模擬戦っていう、物理的に――」

「うん♪一から百まで全部ね♪」

「それが終わったら、次は私達とお茶会をしましょ?」

「じっ~~~くり、太陽が昇るまで……ね?」

「…………少し――頭冷やそうか?」

 

誰もが見惚れるまぶしい笑顔を向けられているというのに、ユーノは

冷や汗が止まらず仕舞には、覚えているはずのない赤ん坊の頃の記憶が脳裏をよぎった。

 

「(――って!これじゃまるで、走馬燈じゃないか!?)」

「それじゃ……ユーノくん?」

「逝こうか……?」

「待って!その“いこう”は絶対普通の“いこう”じゃないよね!

 お願いだから話を聞いて――」

 

哀れな少年(贄)の声は、魔王と化した恋する乙女達の耳に届くことはなく、

助けを出したら自分も哀れな贄の仲間になると通行人達も目を合わせることはなかった。

 

「悪いね、ユーノ。流石にあの魔王達から助けるのは無理だ。

 どうか、安らかに成仏してくれ」

 

物陰から一部始終を見ていたカズキは、ハンカチで涙を脱ぎながら手に持った

白黒のフェレットの写真を入れた写真入れを抱きしめた。

 

この後、管理局のある訓練場が修理不可能なほど粉砕されたらしい――

 

 

 




前回登場した拷問方法ですが、他には悪魔手帳によるいつもの黒歴史暴露や
作文の読み上げを考えていました。
穢れを知らない幼稚園児時代の作文とかを、感情たっぷりに読まれて
聞かされたら、いろいろとくると思います。精神的に(黒笑)

ゲキリュウケンはそろそろ、糖尿病の危険があるかもしれませんwww

登場した千冬の友達は、その場の思いつきで今後登場するかは未定です。
高校時代に一緒にいることが多かったのですが、カズキと千冬の
やりとりは学外がメインだったので、半分ぐらいしか見てません。
モデルは「会長はメイド様!」に登場したキャラです。

カズキのコスプレは、「バクマン」の新妻エイジです。

千冬の一夏への照れ隠しによる攻撃は、コスプレ大会で優勝した教師が
主役の作品で、二学期期末テスト前に中二半が鷹岡もどきをしばいた奴です。

粉砕された訓練場には、黒い何かが煙を上げていたとか……

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