インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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長い間共に歩んできたパソコンという相方がいなくなったのと
4月から新生活になるのでいろいろと準備していたら、遅くなりました(苦笑)

この作品を書き始めて、本日で丁度一年。なんとか最新話が間に合いました(汗)

前回から引き続き戦闘回です。


駆け引き

IS学園に攻め込むかのように接近していた爆撃機は、現在空中で停止しており、

その上では奇妙な光景が展開されていた。

何もないその場所で、金属がぶつかり合う甲高く重い音が響き渡り火花が散っているのだ。

それは二つの黒い影が交錯する度に起きているのだが、あまりのスピードに

ISのハイパーセンサーをもっても、残像を捉えるのがやっとなそれらは、

やがてその動きを止めて姿を現す。

 

「ははは!やるな貴様!

 戦いとはこうでなくては、おもしろくない!」

「そりゃ、どうも」

 

心底楽しそうなクリエス・ベルブに対し、宇宙ファイターXは苦笑しながら返した。

両者ともそれぞれの鎧と服が多少汚れているだけで、目立った傷は無いが

油断なくザンリュウジンを構える宇宙ファイターXとは逆に、クリエス・ベルブは両手を

広げて喜びを表しているのを見ると、精神的な余裕がどちらにあるのかは明らかだろう。

 

「(さて……リュウケンドーがどうなったかはわからんが、ISと魔導士の小娘達への

 目的はほぼ果たしたも同然。後は、俺の好きにさせてもらうとしよう……)

 そろそろ準備運動は、これぐらいでいいだろう?お互いにな……。

 始めるぞ、“戦い”を!」

「そうだな。

 こっちもいろいろと助けに行った方が、良さそうだし……決着(ケリ)を

 つけさせてもらう!」

『あげていこうぜ!』

 

両者はそう言うと、大気が震えるほどの気合いを放ち、先ほどよりも数段速い

高速戦闘が開始された――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「グランフォール!」

「キュゥゥゥ……アッ!」

「どわぁぁぁっ!?」

「リイン、補助頼むで!」

「はいです!」

「ブリューナク!」

「ショットキー!発動!」

『ドラゴンショット!』

「いっけぇぇぇ!!!」

 

周囲の色がどこかちぐはぐな場所……結界の中でリュウガンオー達と魔物の戦闘は、

リュウガンオー達の苦戦という形で続いていた。

グランシャリオが決め技のグランフォールを放つも、鳥顔の魔物ベムードのゴムのような

体には通じず、跳ね返されてしまう。

その瞬間を狙って、リインとユニゾンしたはやてとリュウガンオーが同時に攻撃を仕掛ける。

弾力を生かして、攻撃を跳ね返すのなら一撃目でそれが伸びきって意味を成さなくしたところを、

二撃目で仕留めようと連携攻撃するが……

 

「キュアッ!」

「あっ!」

「ちっ!またか!」

 

ベムードの腹部に当たる五角形の模様が、口のように開き二人の攻撃を吸収してしまい、

リュウガンオーは舌打ちする。

 

「キュウ?」

 

攻撃を吸収し終えて腹部の口を閉じたベムードは、顔をこてんと横に傾けて“何かした?”と

言いたげな鳴き声を上げる。

 

「あの野郎っ……!」

「何気にちょっとかわいいのが腹立つなぁ~」

 

思いついた攻略法が通じず、リュウガンオー達は手詰まりとなる。

打撃や魔力刃による物理的攻撃は、ベムードの柔らかい体には効果がなく、

リュウガンオーの光弾やなのは達の射撃魔法も腹部の五角形に吸収される上に、

一定量を吸収するとそれを跳ね返しもするので、これ以上の迂闊な攻撃ができなくなる。

 

「くっそ~。どうすりゃいいんだ!」

「射撃は意味ないし、打撃も斬撃も……待てよ?ひょっとしたら……よし!」

 

打つ手なしと思われる状況にグランシャリオは嘆くが、リュウガンオーは何か思いつき

ベムードへ走り出す。

 

「はあああ――はぁっ!

 ゴウリュウガン、ブレードモード!」

 

リュウガンオーは跳躍してベムードの上をとると、ゴウリュウガンの近接ブレードを

腹部の五角形へと向けて降り下ろす。

 

「(こいつは、吸収も反射も腹のここでやっている。

 ――ということは、ここを使えないようにすれば!)」

「キュッ!」

「はぁぁぁっ!?」

「なんやて!」

「うそ……!」

「えええっ!!!?」

 

リュウガンオーの攻撃に対するベムードの対応に、皆驚きの声を上げた。

ベムードは、ブレードモードとなったゴウリュウガンを両手の爪で挟むように受け止めたのだ。

 

「し、白刃取り!!!?」

「キュ!」

「ごあっ!」

 

ゴウリュウガンを受け止められたリュウガンオーは、ベムードの蹴りを受けて

吹き飛ばされる。

 

「リュウジンオー!」

「なんて器用な鳥なんや!」

「キュキュッ♪キュッキュッ~♪キュキュ~キュッ♪」

 

蹴り飛ばされて、地面を転がるリュウガンオーを見てベムードは楽しげにリズムにのって、

体を揺らしリュウガンオーに体の横を向けると手でペシペシと体を叩いた。

 

『声色と仕草からして、いわゆる“おしりペンペン”をしていると推測』

「よ~し、それは俺達をバカにしているってことだな!」

「ぜっっってぇ~~~、から揚げにしてやる!」

 

ダメージでボロボロになりながらも、ベムードの行動の意味を知りリュウガンオーと

グランシャリオは逆に闘志を燃え上がらせて立ち上がり、再度ベムードへと挑みかかった。

 

「男の子二人は、燃えとるけどこっちはどないしよか?

 下手に高火力の魔法を使ったら吸収された後が怖いし、効きそうなミストルティンも

 吸収以前に射程に入れるかどうかが問題や……。

 こんなことなら、もっと個人技なんとかするんやった!」

「マイスター。さっきみたいに、あの鳥さんの柔らかさを何とかするなら

 凍らせればいいのでは?」

「私も考えたけど、多分魔法やからそれは吸収されてまうと思う。

 それよりも……」

 

桃色と金色の光が飛び交う中で、諦めずにベムードに拳を放つグランシャリオと

光弾を撃ち込むリュウガンオーを見ながら必死に打開策を模索するはやてだったが、

いい案は思い浮かばず、視線を上の方に移す。

 

「この!この!このっ!」

「っっっ!」

 

なのはとフェイトもベムードに射撃魔法で攻撃しているが、

ベムードはそれを意に介していなかった。

更に二人の攻撃は精細さを欠いており、時折グランシャリオとリュウガンオーの攻撃を

阻害していた。

 

「どうしたんや、二人とも……」

「なのはさんもフェイトさんも……焦ってる?」

 

リインの考えは、当たっていた。

先日のオルガードとの戦いで沸き上がった時空管理局への不信感、自分達が持つ魔法という力への疑念が幾重にもなのはとフェイトの心に鎖をかけているのだ。

頭をよぎらなかった力というものの裏側……。

力を合わせればと信じて疑わなかった、自分達の強さがどれほどもろいものだったのか……。

そして、それらを体現するかのようなベムードとの戦いに二人の心は、焦りで曇ってしまう。

 

「なんで……なんで当たらないの!」

『落ち着てください、マスター!』

「倒さなきゃ……倒さなきゃ!」

『冷静になってください、Sir!』

 

愛機の声も届かず、なのはとフェイトの攻撃はどんどん単調となっていきいたずらに魔力だけが

消費されていった。

 

「「うわぁぁぁっ!」」

「あかん!二人とも逃げて!!!」

「えっ?」

「はやて?」

 

グランシャリオとリュウガンオーの叫び声とはやての呼びかけに、なのはとフェイトはハッと顔を上げると、こちらに向かって飛んでくるベムードの姿が映った。

 

「キュァッ!」

 

二人は時が止まったかのように、体が硬直しベムードはそれに構うことなく襲い掛かろうとする。

 

「なのはちゃん!フェイトちゃん!」

 

ベムードの攻撃を体を張って防ごうとして弾き飛ばされたはやての声が、結界の中に

響き渡る――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ぐあっ!」

「ふぅ。流石にタフですね」

 

“全力”ではないとはいえ、自分の攻撃を何度も受けたのに立ち上がろうとする

リュウケンドーにシュヴァルツ・バイザーは関心の声を上げる。

 

「(ふぅ~む。どうしましょうか?

 実験やその他諸々のデータはとれましたが、肝心のリュウケンドーは想像以上に

 しぶといですね。

 あまり時間をかけると外からの救援や逆転の手を思いつかれてしまうかもしれませんし、

 何より後ろの二人にも何か仕掛ける時間を与えてしまう……ここは――)

 ですが、そのタフさがどこまでもちますか――ね!」

 

状況と不安要素を検討し、シュヴァルツ・バイザーは繰り返していた攻撃のスピードを

上げて、再びリュウケンドーに攻撃する選択を選んだ。

焦って威力のある攻撃をして隙ができる危険性より、確実にダメージを増やす方法だったが、

シュヴァルツ・バイザーは懸念していたことが既に起きているのに気付かなかった。

 

「行きますよ!覚悟はいいですか、箒!」

「こいぃぃぃ!」

 

明は箒の打鉄の手を持ちながら一回転し、遠心力による勢いをつけて箒を

シュヴァルツ・バイザーへと“ブン投げた”。

 

「やはり来ましたか!……む?」

 

リュウケンドーに迫るシュヴァルツ・バイザーは、自分に仕掛けてきた明と箒に

対処しようとするが、こちらに向かってくる箒に違和感を感じ取った。

 

「(おかしい。投げられただけにしては、速すぎる……ん?

 スラスターが動いている?あの者のおもちゃのエネルギーは、尽きていたはず……。

 まさか、もう一人の者がエネルギーを分けたのか?)」

 

明がまず行ったのは、自身のラファールから箒の打鉄へエネルギーを分け与えることだった。

普通のISではエネルギーの譲渡などまずできないのだが、一夏の白式は燃費が

よくないので、エネルギーを試合中でも渡すことができれば戦略の幅が広がるのではと

学年別トーナメントのために、明はその手段を準備していたのだ。

これにより、箒は無防備な状態ではなくなったが、ラファールのエネルギーも試合後で

消耗しているため、譲渡できたのは数分程動かせられる程度であり、絶対防御も完全に

機能するかどうかわからなかった。

それでも、箒は明の提案を承諾しシュヴァルツ・バイザーに挑むため、

右手に近接ブレード、左手にアサルトライフルを展開する。

 

「(狙いは、戦えないと思っていた者による奇襲……それも剣士なのに遠距離武器を

 取り出しただと……!?)」

「(そう。私や一夏がかかったように、普段使わない武器を取り出したら

 驚き意表を突かれる。実力差がわかっているのに、そんなことをすれば何かしらの

 意味があると勘ぐり、箒の動きに一瞬だが注意するはず!

 その隙をリュウケンドーが、つければ!)」

 

このような状況で仕掛けるのならば何か策があるはず――

だからこそ、何も策を仕込まないという策で明は奇襲を仕掛けた。

 

シュヴァルツ・バイザーは自分に向かってくる箒を見やると、それに背を向けて

リュウケンドーに“向き直った”。

 

「(甘いですね。この策の狙いは、何かあると勘ぐらせて

 私の目を奇襲を仕掛けるために向かってくる者に注目させて隙を作ること!

 となれば、向かってくる者に策はない……。

 ならば!リュウケンドーに止めを刺す!)」

「ちっ!」

「くそっ!」

 

自分達の策が空振り、箒と明は焦りを見せる……

 

「(こちらの動きを読まれた!?

 くっ!これでは……となると思ったか!)」

 

明はシュヴァルツ・バイザーが自分と箒に背を向けた瞬間、

瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使って飛翔する。

 

「(貴様が策を弄するタイプなら、私程度の策など見破ると思ったよ!

 本命は、そうやって背を向けて隙ができたこの瞬間!!!)」

 

イグニッション・ブーストによる加速の中、先に先行した箒を追い抜くと明は

ナイフのようなショートタイプの近接ブレードを呼び出して逆手に持ち、

シュヴァルツ・バイザーへと迫る。

 

「(読みも何も関係なく、向かってくる者は問答無用で攻撃されていたら

 箒は危なかったが、こちらの動きを読んでくれて助かったよ。

 オマケに今ここで初めて使う、このイグニッション・ブーストなら気付く前に……)」

「(“奇襲を仕掛けられるはず!”と思っているのでしょうね……)」

 

シュヴァルツ・バイザーは、リュウケンドーに向かって拳を振り上げるのと同時に

肩の宝玉に力を溜めていた。

 

「(ふふふ、あなたほどの者なら戦力差を考えて二段構えの策ぐらいは、

 仕掛けてくると思いましたよ。

 ですが、私があちらの策を読むと踏んでの奇襲ならば、二段構えどころか

 幾重もの策を仕込む可能性が高い……。

 だからこそ、ここは敢えて相手の策を読むのではなく真正面からの

 力技を使うとしましょう――)」

 

シュヴァルツ・バイザーは拳を振り下ろすと見せかけて、再び反転し自分に奇襲をしようとする

明と箒の方を向くと即座に、肩から光弾を放とうとした瞬間、視界が煙に覆われた。

 

 

 

「(ここが勝負!)」

 

何も策を持たないことで囮となると思われた箒は、明が自分を追い抜くと同時に、

近接ブレードを槍のように投擲する構えに入っていた。

 

「(明の読みだと、こちらがいくら策を用意してもおそらく相手には全て見透かされてしまう。

 ――だが、相手が手練れであるほど必ず隙を作れるという明の“必殺技”のために

 これは外さん!)」

 

箒は明が追い抜く際に、空中に置くように手放した煙幕弾に向けて近接ブレードを投げた。

一夏と同じく、銃などの遠距離攻撃を苦手とる箒だったが明は、試合で見せた射撃から

カズキが完全に克服できるほどの時間がないとはいえ、何かしらの訓練をしていたと判断し、

シュヴァルツ・バイザーに接近するための要を箒に託した。

 

「(ここで、古典的な目くらましですか。

 あちらにとって、肩で光るこれのおかげでこちらの居場所がわかるという予想外の

 展開でしょうから、とっさに隙を作るためのとっておきのものを出すはず……。

 そして、もう一つ予想外なのはこちらもまた相手の位置がわかっているということ)」

 

煙幕という敵の視覚を奪う戦闘の常識であるがゆえ、当然相手も警戒しているから

打ってくるはずがないと考えていた警戒外の策に直面しても、

相手の居場所がわからないからとシュヴァルツ・バイザーは慌てることはなかった。

そもそもシュヴァルツ・バイザーは、ラウラのISシュヴァルツ・レーゲンを取り込んでいるため

ハイパーセンサーの機能が魔物としての五感と融合し、微かな空気の流れと音だけでも明の位置を捉えていた。加えて――

 

「(見えていますよ。あなたの気配が!

 戦士というのは、攻撃する時に武器へ敵意や殺気というものを乗せる。

 先ほどまでは、私はあなた達への警戒を最小限にしてリュウケンドーへ

 意識の大部分を向けていますが、今は逆!

 あなた以上に、意識を込められた武器が丸見えです。

 繰り出されるであろうとっておきの切り札を切られる前にこちらが攻撃し、

 倒させてもらいます。

 そして、激昂したリュウケンドーをカウンターで止めを刺す!!!)」

 

シュヴァルツ・バイザーは、気配が見えるその場所に光弾を放ち煙幕ごと明を

吹き飛ばす。

 

「(なかなか楽しかったですよ……む?

 おかしい。手応えがない……?)」

 

攻撃による手応えがないことを怪訝に感じたシュヴァルツ・バイザーは、瞬時に警戒

を強めて頭上に明を見つけると、顔を上へと上げた。

明は上下逆さまとなって、こちらを向くシュヴァルツ・バイザーの目の前で

何も持たない両の手を強く叩いた。

 

「っ!!!?あっ……がっ……!」

「(クラップスタナー。いわゆる、猫だましと言う奴ですが、

 警戒し意識が最も敏感になる瞬間に放てば、相手の神経を麻痺させ動きを

 奪うことができる!)」

 

予想もしない明の必殺技により、よろめくシュヴァルツ・バイザーを

箒は驚きの表情で眺める。

 

「(ラウラやISを取り込んだのだから、感覚も人間に近いし生身の人間よりも

 鋭くなるだろうから、効くとは思ったよ。

 今回は、貴様がこちらを警戒し侮らなかったおかげで、意識を集中させて手放した

 武器に攻撃を向けさすことができた!

 警戒を強めたおかげで、クラップスタナーをきれいに決めることができた!

 感謝するよ――私達を最後まで油断できない敵と見てくれて!)」

 

もしも、シュヴァルツ・バイザーが明と箒を見下していたら、

最初の突撃で返り討ちにあったかもしれない。

攻撃を仕掛けても取るに足らないと相手にされず、リュウケンドーに止めを刺すかも

しれない。

だが、明はシュヴァルツ・バイザーが本質的にこの場にいる全員を警戒していると見抜き、

この綱渡りな策を見事に決めてみせた。

そして、明が動くのを見て反撃のチャンスが来ることを信じ動いていた者がいた――

 

「サンダーキー!発動!」

『チェンジ!サンダーリュウケンドー!』

「雷電武装!」

 

隙ができる前から隙ができると確信しシュヴァルツ・バイザーへと駆けながら、リュウケンドーはゲキリュウケンから雷の龍を呼び出し、シュヴァルツ・バイザーに飛び乗り首元にゲキリュウケンを突き立てる。

 

「――っの!!!」

 

明の攻撃から回復したのか、シュヴァルツ・バイザーは振り返りながら拳を放つ。

 

「っ!」

 

リュウケンドーはバク転でそれをかわして着地すると同時に、雷の龍と一つになり

雷を象った黄色の鎧を纏った姿となる。

 

「サンダーリュウケンドー!ライジン!」

「やってくれましたね。

 油断していたつもりは、ないのですが……ぐっ!」

 

突如として、シュヴァルツ・バイザーの身体に電気が走りその動きが止まる。

 

「ラウラには、悪いがさっきお前の体に電気を流し込ませてもらった。

 エネルギー源として、ラウラを取り込んだんならあいつやISの動きを俺の雷で

 麻痺できればお前の動きも止められると思ったよ。

 さあ、ここからは一気に行くぜ!ダガーキー!召喚!」

『魔弾ダガー!』

「いでよ魔弾ダガー!」

 

Tリュウケンドーは、魔弾ダガーを呼び出し逆手に持ち二刀流の構えをとった――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「しっかし、先輩?なんなんすかね、ザコ臭ただようこの一つ目オバケ」

「俺が知るかよ……」

 

IS学園のある一角で、数えきれない数の遣い魔達が倒れ伏し、それを見下ろす

二人組がいた。

特徴的な口調で質問を投げかけたのは、二年生のフォルテ・サファイア。

長い髪を三つ編みにした小柄な生徒であるが、専用機を持つギリシャの代表候補生である。

そんな彼女に返答したのは、三年生のダリル・ケイシー。

身長が高く、男勝りな性格と口調から“兄貴分のお姉様”と下級生に慕われている。

彼女もフォルテと同じく、アメリカの代表候補生である。

 

トーナメントの自分の試合に向けて待機をしていた彼女達は、避難誘導を終えて

学園に現れた遣い魔の迎撃を行ったのだ。

元々の地力の高さと一夏と明顔負けのコンビネーションで、迎撃に問題はなかったのだが……

 

「さっきあっちに走ってたのって、一人はこの間現れたリュウケンドー?

 とそっくりだったから、お仲間さんだと思うすけど……もう一人のあの格好って」

「どっから見ても、不審者だろ。あれ……」

 

 

 

「な、何……これ?」

「え?え?え???」

 

なのはとフェイトは、混乱していた。

ベムードが自分達に攻撃してきたはずなのに、そのベムードはくちばしを押さえて

苦しがっており、自分たちは立方体の“何か”の中にいるのだ。

どうやら、この“何か”がベムードの攻撃から守ってくれて、逆にベムードへと

ダメージを与えたようだ。

 

「遅くなってすまない、リュウガンオー、グランシャリオ」

 

何者かの声を聞いた二人は、聞こえてきた後ろを振り向いた。

そこには――

 

「だ、誰やアンタ!!!」

「あんな恰好して、暑くないんでしょうか?」

 

はやてとリインが大声と疑問の声を上げるが無理もなかった。

なのはとフェイトを助けてくれたと思える者は、片手で印を組み

全身を覆う銀色のコートを着用しテンガロンハットのような帽子を深くかぶって

顔を隠していた。

 

「おお!」

「待ちくたびれたぜ、レイジング・ガードナー!」

「思ったより、遣い魔が多くてね。状況は?」

 

リュウガンオーがレイジング・ガードナーと呼んだ者は、驚くはやて達を他所に

彼らに合流する。

 

「レイジング……ガードナー?」

「あの人たちの仲間?」

 

友人に話しかけるようなのりを見せる彼を見て、なのは達は敵ではないと判断する。

 

「見てのとおりだよ。あいつをなんとか料理しようとしてるんだが、

 体が柔らかくて打撃技の衝撃が効かねぇんだ」

「おまけに、腹にある口みたいなので俺の攻撃もあいつらの魔法も吸収して

 跳ね返しやがる。それに、切り裂こうとしても白刃取りまでやりやがる」

「キュゥゥゥアアアッッッ!!!」

『先ほどのカウンターで、怒っている模様』

「大丈夫。手なら、100ぐらい思いついたよ」

 

あっけからんと言ったレイジング・ガードナーの言葉に、その場にいた者たちは驚く。

 

「マジかよ!」

「さっすが~♪頼りになる!」

「任せて。後は……僕がやる――!」

 

レイジング・ガードナーがそう言って印を解くと、

なのはとフェイトを囲っていた“何か”も消えた。

 

「消えた!?」

「今のって、結界?」

「あんたら、あの人一人で戦わせる気なんか!?」

 

なのはとフェイトは、はやての方を見るとリュウガンオーとグランシャリオに

詰め寄っており、いつの間に接近したのかレイジング・ガードナーは一人でベムードと

相対する形になっていた。

 

「ん?ああ、心配いらねえよ」

「あいつは否定するだろうけど、あいつは強い。

 それに手があるって言ってるんだから、問題ないさ」

 

リュウガンオーとグランシャリオは、自分達が束になっても敵わなかった相手と一人で

戦おうとするレイジング・ガードナーを見ても少しも慌てなかった。

 

「キュアッ!!」

「君は生まれてから、苦戦をしたことがないようだね。

 その余裕は強さからくる自信じゃない……

 危機に直面したことのない“無知”からのもの……だ!」

 

ボギュッ!

目の前の存在は、さっきまで自分が狩っていたのと同じ“獲物”だと思っていたベムードの体に、

突如として初めて走るものが流れた。

視線を下にやると、腹にめり込むレイジング・ガードナーの拳が目に入った。

 

「はぁぁぁっ……はいぃぃぃ!!!」

「キュッ!?キュッ!キュゥゥゥ!!!」

 

それを合図にベムードの体が浮き上がり、次々とレイジング・ガードナーが放つ拳が

叩き込まれる。なまじ、体が柔らかいためその様子はよくわかるが、拳によってのびる数は

とんでもないものだった。

そして、それを見ているリュウガンオー達からはレイジング・ガードナーの拳は、

放たれる残像しか捉えることができなかった。

 

「はいはいはいぃぃぃ……やぁぁぁっ!!!」

「キュアアアッ!!!」

 

止めと思われる拳がベムードの顔に命中し、悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。

ベムードは気付く。自分の体に流れるものが、“痛み”だということを。

 

「君は確かに、こちらの攻撃を無効にできるようだけど、穴がないわけじゃない。

 衝撃を吸収することで、打撃を無効にするのなら衝撃が吸収される前に次の

 拳を叩き込めばいい……!」

 

吹き飛ばしたベムードに向かいながら、レイジング・ガードナーは拳を握りしめる。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「明!」

「!」

 

Tリュウケンドーは、明の名を呼んで動きを止めたシュヴァルツ・バイザーへと駆けだすと、

箒を連れて離脱した明は、その意図を読み取り再びラファールを駆って動き出す。

 

「まだまだっ!」

 

流し込まれた雷によって、動きを鈍らせながらもシュヴァルツ・バイザーは

拳を振り下ろそうとする。

 

「はっ!」

 

Tリュウケンドーは、防御するでも回避するのでもなく駆けるスピードを上げることで、

攻撃をいつものように下方に受け流しつつ、前方へと加速した。

 

「おりゃぁぁぁ!」

「がっ!」

 

加速の勢いを殺さぬままゲキリュウケンを左切り上げで胸部を振り抜き、Tリュウケンドーは

シュヴァルツ・バイザーの強固な装甲を切り裂く。

サンダーキーを使った時の攻防で、ラウラの居場所も探り当てていたので、

傷つけてしまうかもという心配もなくTリュウケンドーは、シュヴァルツ・バイザーの装甲を

切り裂くほどの力をゲキリュウケンに込めることができた。

 

「見えた!

 ダガースパイラルチェーン!」

「うおっ!?」

 

間髪入れず、切り裂いた傷に向けてTリュウケンドーはスパイラルチェーンを放つ。

 

「うおりゃぁぁぁっっっ!!!」

 

スパイラルチェーンを放っている魔弾ダガーを一本背負いの要領で、勢いをつけて回すとダガーごとチェーンに繋がれたラウラが引き抜かれる。

 

「――っと」

 

空中へと放り出されたラウラと魔弾ダガーは、明に受け止められる。

 

「ぐっ!……がぁっ!」

「これで止めだ!ファイナルキー!発動!」

『ファイナルブレイク!』

「ゲキリュウケン雷鳴斬り!」

 

エネルギー源として利用していたラウラを失ったことで、シュヴァルツ・バイザーは

その体がドロドロに溶けていき、その隙を見逃さずTリュウケンドーは雷を放つ

ゲキリュウケンを電光石火のスピードで振り抜く。

 

「ぬおっっっ!!!!!」

「電光に……斬れぬものはない――!」

 

シュヴァルツ・バイザーの叫びを背にしながら、ゲキリュウケンに残る雷を

振るい落とすと同時に、その場はまばゆい光に包まれる――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「方位(ほうい)!定礎(じょうそ)!結(けつ)!」

 

ダメージを負いよろけてこちらに背を見せたベムードに向けて、レイジング・ガードナーが

印を結んで叫ぶと、ベムードの両手両足に正方形の“何か”が形成され、ベムードの動きを止める。

 

「おお!」

「あれが“結界術”ってやつか!」

「結界……術?」

 

リュウガンオーが言葉に出した聞きなれない単語に、首をかしげるはやて達だったが

それを彼らに質問する前に、レイジング・ガードナーが指示を飛ばす。

 

「今からあいつの弾力をグランシャリオと一緒に無力化するから、

 みんなで止めを刺してくれ!」

「それはいいけどよ、あんな小さいので捕まえるんじゃなくて、すっぽり閉じ込めて

 倒せばいいんじゃないのか?」

「残念だけど、捕まえるのはともかくあのクラスの魔物を倒すのは、まだ無理なんだ。

 それに、外で大分力を使ったから、今はあの大きさの結界が精一杯だよ」

 

レイジング・ガードナーは、グランシャリオに自分の消耗を伝えると

なのはとフェイトへと顔を向ける。

 

「君達が何を迷っているのか宇宙ファイターXから聞いたけど、

 起きてしまった過去と事実はどんなことがあっても変えられないし、逃げられない。

 だけど、過去を知ってそれ変えて過去とは違う明日は掴めるんだ……

 現代と言う今を戦えば!」

「「!?」」

 

初対面のはずなのに、二人の心にレイジング・ガードナーの言葉は、温かく染みわたり

心の曇りを晴らしていった。

 

「それじゃ――行くよ!」

「おう!」

 

レイジング・ガードナーとグランシャリオは同時に駆け、四肢を封じられて何とか抜け出そうとするベムードの頭部を殴り飛ばす。

 

「方位(ほうい)!定礎(じょうそ)!結(けつ)!」

 

四肢を動けなくしたことで、殴った頭部は衝撃でゴムのように伸ばされ、レイジング・ガードナーは、結界術を使って伸ばされた頭部を固定する。

 

「キュッ!?キュッッッ!!!」

「今だ!伸びきったこの状態なら、弾力は意味を成さないし、

 背中から攻撃すれば吸収もされない!」

「俺達が狙ったことを簡単にやりやがって……

 ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

「私らも負けてらへんで!二人とも!」

「うん!」

「行こう!」

 

リュウガンオーはファイナルキーを発動し、なのは達もそれぞれのデバイスや手に

魔力をチャージさせていき、その様子は小さな太陽のようだった。

 

「ドラゴンキャノン……発射!!!」

「エクセリオンバスター!!!」

「プラズマスマッシャー!!!」

「クラウ・ソラス!!!」

 

レイジング・ガードナーとグランシャリオが離脱するのを確認すると、

それぞれがトリガーを引いて砲撃を放つ。

紅い龍に続くように三色の砲撃は混じり合い螺旋状にまとまり、ベムードを飲み込んだ――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「よし、到着だ。

 まずは状況確認を頼むぜ、相棒」

『了解した。――状況確認完了。

 リュウケンドーとリュウガンオーの反応は確認できないが、

 先ほどファイナルキーと思われる魔力反応を観測。

 戦闘は終了したと思われる。

 宇宙ファイターXは戦闘を継続中だが、敵の爆撃機から発進される

 無人機に迎撃部隊が苦戦しているようだ。

 私達の能力を考慮すると彼女達の援護を推奨する――』

「わかった。それじゃあ、やりますか――

 “狙い撃ち”ことティーダ・ランスター、デュナメス!

 目標を狙い撃つ!」

 

IS学園近海で行われる戦場より遠く離れた位置に現れた謎の人物は、

モスグリーンと白を基調としたパワードスーツのような装甲を纏っていた。

パワードスーツに搭載されていると思われるAIと会話した青年、

ティーダ・ランスターは、V字形センサーを目元におろすと額のカメラアイからの

情報を元に、スナイパーライフルによる戦場への射撃を開始する。

 

 

 

「戦場では、終わりが見えてきた時が一番気を抜きやすく危ないって言うけど、

 ビンゴとはね……」

 

IS学園の人気のない場所で、橙色の髪を鈴と同じくツインテールに

まとめた12~3歳と思われる少女は、十数体の遣い魔を目にして気だるげにつぶやく。

 

『ぼやかないで、誰かに気付かれる前に早く片付けてしまいましょう。

 “ツンデレガンナー”』

「やかましい!

 さっさと片付けるわよ、クロスミラージュ!」

 

バリアジャケットと顔を隠すマスクを展開した少女、ティアナ・ランスターは

両手に拳銃型デバイスを握りしめ、遣い魔に突撃する――

 

 




前回の続きとなりますが、なのは達と戦っていた魔物ベムードはウルトラシリーズに登場する怪獣ベムスターがモデルです。
エネルギー吸収だけでなく、体がゴムのように柔らかくもあるのでパンチや蹴りは衝撃が吸収されて効きません。前回なのはの記憶の混乱シーンは、漫画版ミクロマンの一コマを参考にしました。オシリペンペンで相手をバカにする様は、ティガのレイロンスな感じですww

苦戦するなのは達の元に現れたのは、レイジング・ガードナーという謎の人物。
その姿は「武装錬金」のキャプテン・ブラボーで、使う術は「結界師」から結界術を。ベムードを倒す拳の連打は、「五星戦隊ダイレンジャー」でリュウレンジャーが見せた天火星秘技・流星閃光(てんかせいひぎ・りゅうせいせんこう)と同じ超高速打撃です。

シュヴァルツ・バイザーとの戦いでは「アイシールド21」の関東大会準決勝のように
してみました。明が見せたのは、「暗殺教室」のアレですwww

最後に新キャラ二人。リリカル側からランスター兄妹に登場してもらいました♪

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