インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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最新話です。
今回も前からやりたかったことができましたが、上手く書けたかどうか(汗)


コンビネーション

日差しが強くなり、夏が本格的に始まろうとする6月の終わりに、IS学園の生徒

が待望していた学年別トーナメントがついに開幕となった。

観客には外からも各国の政府関係者、研究所員、企業エージェント等の顔ぶれが揃っている。

例年なら、3年生は今までの集大成、2年生は一年間の成果を確認され将来を見越しての

スカウトの基準となる。

無論、1年生にもチェックが入るのだが、参加する者達はそんな大人の都合など頭にはなかった。

彼女達の頭にあるのは、どうやってトーナメントという戦(いくさ)を勝ち抜き、噂の商品を

ゲットして青春を謳歌するかという、夏の太陽よりも熱く燃える想いだった。

 

「すごい人だな……」

「今回は、ISを使える男が出るからな。注目されるのは、仕方がないさ」

 

一夏と明は二人だけで、男子用の更衣室にいた。

男女別という、至極当然のことなのだが何十人も入ることができる更衣室に、

ポツーンという音が聞こえてきそうな感じでいるのは、何とも言えないモノがある。

 

「俺達は、見せものかよ……。まっ、どうでもいいけど」

「言うと思ったよ」

 

二人は緊張しすぎず、緩みすぎず、普段通りにコンディションを整え対戦表の

発表を待っていた。

一方、女子の更衣室では――

 

「全項目チェック完了。システムオールグリーン。

 いつでも行けるな。そっちは、どうだ箒?」

「問題ない、ラウラ」

 

ラウラと箒は、専用機の確認と準備運動を行っていた。

箒は、少々緊張しているようだがいい感じで過ごしていた。

 

「いよいよですわね、アリサさん……」

「ええ。地獄の特訓の成果……見せてあげるわ!」

「「ふふふふふ……」」

 

セシリアとアリサは、カズキの特訓で何かあったのか体から黒いオーラを放出して

周りの者達を怯えさせていた。

 

「さあ、首を洗って待っていなさいよ!一夏!!!」

「その意気やで、鈴ちゃん!恋する乙女の意地を見せたりぃ!」

「強敵ばかりだけど、待っててね一夏♪」

「腕が鳴るね~。シャルロットちゃん♪」

 

鈴とはやては他の子達のように、熱く燃えているのだがすぐそばにいるシャルロットと

すずかは笑顔のはずなのに、どこか近寄りがたい異色の空気をその空間に放っていた。

 

「勝つよ……本音」

「任され~た~♪」

 

簪は静かに、しかし瞳に確固とした炎を灯して言葉を放ち、本音はいつもと変わらぬ

調子だったが、簪は気合いが入っているのがわかった。

 

各々がそれぞれに気合いを入れている中、彼女達とは違った緊張がある部屋で漂っていた。

 

「試合の組み合わせは、無事に完了したようだな。

 そっちはどうなっている、山田先生?」

「はい。各アリーナのピットに、それぞれ教員が待機しています。

 メイザース先生の部隊も上空に配備完了です。

 これなら、前回みたいなことにはなりませんね!」

「だといいがな……」

 

管制室で、千冬は真耶と共にトーナメントの進み具合だけでなく万一の時の

防衛面のチェックを行っていた。

クラス代表戦では、アリーナに入ることもできなかったが今回はピット内に教員を

待機させているので、入れないということなない。

更に、空中ではエレンが率いる部隊が上空で待機しているため、空中での迎撃を

行うこともできるだけでなく、地上でも順次見回りが行われている。

 

「最初は、そんなに必要ないって意見もありましたけど……」

「あいつが何を言ったのか、渋っていた連中も即座に了承して、非常時のための

 訓練も見直しされたからな。

 ……で?それを提案した張本人のカズキは、ドコにいった……?」

「はははははいぃぃぃ!ななな何でも、この間侵入してきた人達を

 動かしていた人と話をしてくるそうですぅぅぅ!!!」

 

自分が怒っているということを隠そうとしていない千冬の言葉に、真耶は自分に

矛先が向けられているわけではないが戦々恐々として答えた。

今日、この日にカズキはIS学園にいない。

先日襲撃してきた二グループを千冬や楯無にも黙って、撃退したカズキはあの手この手で

指示を出していた者達の居場所や何やらを突き止め、“話し合い”に行ったのだ。

……話し合いと言ったら、話し合いである。

 

千冬は、一人でいろいろと片付けようとするカズキにイラだっているのだ。

無論これはカズキが楽しむのが半分だが、もう半分は自分達に人の醜い部分を見せたくないという配慮なのは千冬も理解しているが、それでも自分をもう少し頼って欲しいのだ。

まあ、そんなことを言葉にしたら周りがどんな反応をするかは火を見るより明らかなので

口にはしない。

 

「……ふぅ~。とにかく、始めるぞ」

 

胸にあるモヤモヤを吐き出すかのように、千冬はため息を吐き、皆が待っている

トーナメント表を発表した。

 

「おいおい……」

「これは……!」

「何……だと!?」

「こんなにも早く、借りを変えせれるとはなっ!」

 

男女それぞれの更衣室で、発表されたトーナメント表を見た4名が驚きの声を上げていた。

 

――第一回戦 織斑一夏&原田明 VSラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒

 

 

 

「まさか、いきなり当たるなんてな!」

「今回は前のように、いくと思うなよ!」

「落ち着いていこう、一夏」

「行くぞ、ラウラ!」

 

4人ともアリーナ中央で、それぞれの武器を構えながら試合開始のゴングを静かに

待った。

 

残り5秒。4、3、2、1――開始のブザーが鳴り響く。

 

「行くぜっ!!!」

 

開始と同時に一夏は雪片を突きに構え、前と同じようにラウラに真っ直ぐ突っ込んだ。

ただ一つ違うのは、スピード……瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使っての

突撃である。

 

「そう来ると思った!」

 

だが、ラウラはそれを読んでいたのか、こちらは一夏とは違い開始と同時に後退して

右手を上げてAICを構えていた。

 

カズキは訓練の際、ラウラのというよりAICの弱点の一つである奇襲を克服するように

メニューを組んでいたのだ。

前回、ラウラが負けたのは一夏の奇襲によってAICをいいように発動“させられた”ため、

十分にその威力を発揮できなかったのが大きい。

AICは強力だが、その分集中力が要求され想像もしない奇襲等にはとっさに発動できなかったり、100%の力で発動できなかったりする。

そこでカズキは、もしもラウラが同じAICを持つ相手が敵で自分の武器が一夏と同じ

ブレード一本だったら等、自分が不利な状況で自分と相対する場合どう戦うかを考えさせたのだ。

今まで、自分の高い力を使って正面から相手を叩きつぶす戦い方だったラウラは

戦いの幅が増えただけでなく、視野も広くなり仲間との連携も取れるように成長していた。

 

「(やはり、イグニッション・ブーストを使って開始直後に奇襲を仕掛けてきた。

 前回と同じ戦法で来るわけがないと私が考えると思っての攻撃だが……

 このままAICで動きを封じてもよし。

 できなくても、おそらくこの奇襲の本当の狙いは……)」

「いっけぇぇぇっ!」

 

イグニッション・ブーストを使ってラウラに接近していた一夏は、接近しきる前に

突きの構えのまま雪片を押し出す形で、ラウラに攻撃した。

そのまま雪片はAICによって、捕まるが同時にラウラも動きを止めた。

 

「(雪片を投げての中距離攻撃!)

 今だ、箒!」

「一夏、覚悟!」

「っ!」

 

雪片を突き出して、一瞬スピードが緩んだところに打鉄を纏った箒が一夏に接近していた。

一夏の奇襲を読んでいたラウラは、箒に試合が始まったら、明と戦うかのように移動

すると見せかけてそこから自分と一夏の直線間に突撃するように指示していたのだ。

一対一で戦うと見せて、片方を囮とした奇襲に対する奇襲攻撃である。

奇襲を仕掛けた自分がまさか奇襲を仕掛けられるわけがないという隙をついて、

見事に一夏と明は、ラウラの策に嵌った……かと思われたが……

 

「甘いですよ、二人とも!」

 

ラファールを纏った明は、身を翻しながら飛翔して攻撃を仕掛ける。

ラウラと箒への二人同時に――

 

「なっ!」

「ちぃっ!」

 

明は空中で体をひねりながら右手のアサルトカノンでラウラを狙い撃ち、箒は左手に

展開した近接ブレードを投げつけた。

箒とラウラは明の攻撃を剣ではらったり、回避するが一夏から目を離してしまう。

 

「隙ありだぜ、箒!」

「しまっ!」

 

投げつけられた近接ブレードを払い終わった瞬間を狙って、一夏は箒の懐に

潜り込みその腕を掴んで、箒を背負い投げた。

 

「おおおりゃっ!」

「うあっ!」

「箒っ!」

 

投げ飛ばれる箒だったが、ラウラはAICを使って箒の動きを止めダメージが入るのを

回避した。

 

「す、すまんラウラ……」

「気を抜くな!来るぞ!」

 

助けられて一瞬、気が緩む箒だったがそこへすかさず明が空いた左手にショットガンを

展開し攻撃を仕掛ける。

 

「っ!なんて正確な射撃だ……!」

「このままでは……箒、悪く思うなよ!」

「どういう……うわっ!?」

 

明の銃撃にラウラはAICで防御し、箒はかわしたり肩アーマーで防御するものの

圧倒的に、回避できるモノよりも被弾する弾の方が多かった。

このままでは、マズイと判断したラウラは一端AICを解除し、少し離れた位置にいる箒に

ワイヤーブレードを巻きつけ、明の攻撃範囲から投げ飛ばして逃した。

そして、レールカノンを明へと発射する。

狙いをつけている暇などなかったが、おおよその位置へ攻撃したので

当たらなくても、目くらましや箒と反撃の打ち合わせをするぐらいの時間は稼げるとの

判断である。

 

「ところがどっこい!」

「織斑一夏っ!」

 

地面に着地したところで、いつの間に雪片を回収したのか一夏が斬りかかってきた。

雪片の攻撃をプラズマ手刀で捌くラウラは、箒の方に目をやると自分と同じように

両手に近接ブレードを呼び出し、逆手に持って攻撃してくる明に押されている姿が映った。

 

「(まさか、もう一人の男がこれ程の戦闘力……いや連携に優れていたとは!?)」

 

ラウラは明の戦闘能力というより、戦いの運び方に舌を巻いていた。

体をひねりながら、射撃と投擲を行い戦況をみて時間稼ぎの攻撃を行うなど、

自身の戦闘力もさるもののその判断力もかなりのものである。

もちろんラウラは、一夏だけでなくセシリア達代表候補の戦力を分析するだけでなく

明のような隠れた実力者も警戒していたのだが、そこに落とし穴があった。

分析した映像やデータは、授業での個人技が中心で連携した時のものを想定していなかったのだ。

ましてや、明は一夏と共に背中を預けていくつもの戦いを経験し、相手の目を見ただけで

何をしようとしているのか察することができるため今回のトーナメントで一、二の連携を

発揮できると言っても決して過言ではない。

実際、一夏と明が最初に打ち合わせていたのは最初のイグニッション・ブーストを使ってラウラに奇襲を仕掛けて明が箒と戦うだけで、ラウラと箒の奇襲からは全てアドリブである。

 

「(まずい、このままでは……!)」

 

一夏の攻撃にラウラが焦り始めると、突然一夏は何かを感づいたのかラウラから距離を

取った。その瞬間、一夏がいた場所を弾丸が通り過ぎた。

ラウラが見やると、そこには驚いた表情の明に、ところどころにダメージを受けながらも

打鉄の標準装備であるアサルトライフル“焔備(ほむらび)”を構えて、こちらに近づいてくる

箒が目に入った。

 

「大丈夫か、ラウラ!」

「なんとかな……。そっちは?」

「すまない。明の意表をついて、さっきの攻撃を仕掛けるので精一杯だった」

 

涼しげな顔で一夏と合流する明に対し、箒は肩を上下させ激しく息を乱していた。

それだけ、明と箒には差があることを示しておりラウラは厳しい顔になる。

 

「やられたよ。箒は、私と斬り合っている時に剣を手放し、それに驚いた隙を

 ついて焔備で牽制してきたんだ」

「俺達は、勝手に箒は剣しか使ってこないって決め付けがあったから、余計に効果は

 あったな……。

 ――ったく~、カズキさんも面倒なことを教えてくれるぜ」

「その筆頭が何を言っている……」

 

自分達が教えられた、“こんなことをするわけがない”という意表を突く攻撃を

仕掛けられた明と一夏は気を引き締めなおした。

どうやら、カズキは本当にいろんなことを彼女達に教えたようだ。

箒が行った攻撃はいつも一夏がやっている、相手の裏をかく攻撃だが、

その相手の裏をかく攻撃はそれ自体が囮なのだ。

囮となる裏の攻撃があるから、表の攻撃をする時に“もしかしたら”裏をかいてくるかも

と相手に疑念を持たせられ、表が生きてくるのだ。

 

 

 

「すごいですねぇ~、織斑君と原田君。こんな短期間の訓練で、あそこまで連携が

 できるなんて」

「あいつらの付き合いは、その訓練以上にあるらしいからな。

 それにあれは原田が織斑の動きを見て、合わせているだけだ。

 織斑自身は、何も考えていない(まあ、敢えて原田の動きを考えていないようにも

 見えるがな。原田なら言わなくても自分の動きが分かると信頼していると

 言うことか……?)」

 

管制室で試合を見ていた真耶は感嘆の声をもらすが、千冬は辛口気味の評価を下した。

最も内心では、明のことを信頼しているからこその動きであると見抜いているが、

何とも言えない感情が胸に占めていた。

具体的には姉の勘、またの名をブラコンレーダーなるものが警鐘を鳴らしているのだ。

 

「それにしても……つくづく私は教師というのが向いていないな」

「えっ?」

 

試合を見ていた千冬は、自嘲気味に自身を貶す発言をして真耶を驚かせた。

 

「私がボーデヴィッヒを教えていた頃、あいつは強さを力があることと勘違いしていてな。

 違うと教えようとしても、昔から口下手だから上手く伝えられなかったのだが

 あいつが……カズキが、私の言いたかったことを代わりに代弁してくれたんだ。

 そして、一夏や他の奴らのおかげでボーデヴィッヒは変わっていった……」

 

試合を見ながら、千冬はもしもカズキがドイツにこなかったら

ラウラは今みたいに、箒を助けたようなチームプレイはしなかっただろうと考えた。

 

「世間からいろいろ騒がれても、私はいろいろと未熟だということだな……」

「……未熟なら一緒に学んでいけばいいんじゃないんでしょうか……生徒達と一緒に」

「ん?」

 

ポツリとつぶやくような真耶の言葉に、千冬は顔を向けた。

 

「教師だから……大人だから、教えてばかりじゃないと思います。

 生徒から学んで、教師だって成長できるはずです!」

「……ははははは!そうだな、教師だって成長はできるよな!」

 

目から鱗のように、真耶の言葉に千冬は大笑いした。

 

「だがな、山田先生……少し生意気だ!」

「えっ!あっ!ちょっ!ギブです!ギブぅぅぅ!!!」

 

真耶の言葉に、納得したものの後輩に諭されたのが悔しかったのか、千冬は照れ隠しで

ヘッドロックを真耶にかけた。

二人がそうやって、じゃれ合っている間に試合は動こうとしていた。

 

 

 

「それで、どうする?

 今はこっちが若干押しているが、時間がかかるとこっちが危ないぞ。

 箒はおそらく、お前と同種だ」

「同種って、何だよ?」

「成長速度が異常ということだ、お前も箒も。

 剣を交えてわかったが、最初は私に翻弄されていたのにだんだんと

 ついてこれるようになっていった……。

 追いこんだら、何が飛び出すか分からないぞ」

「なら、アレをやりますか♪」

 

互いに向かい合う形となり、明は先程の戦闘で箒の危険性を感じ取っていた。

このまま時間をかけたら思わぬ成長を見せて、足元をすくわれるのではないかと。

それを聞いた一夏は、ある提案をする。

 

「あれって……アレかっ/////!?

 い、いやしかし/////!」

「大丈夫だって。確かにISでもできるか試した程度だけど、俺とお前ならできるさ!」

「わ、私が言いたいのはそう言うことじゃなくて……/////」

 

一夏の提案に何かわかり、明は何故か顔が赤くなった。

しかし、肝心な伝わって欲しいことが伝わらず、だんだんと声が小さくなる。

 

「~♪」

「はぁ~~~、わかったよ/////」

 

そんな明のことなどおかまいなしに一夏は、準備を終えてにこっと笑いかけ、

明は観念した。

 

「箒、まだ行けるか?」

「大丈夫だ……と言いたいが、正直厳しいな。明の腕は、相当なものだ。

 さっきのは意表をついただけだから、次はないだろう」

「……なら一か八か、二人で原田を攻めて倒して……どうした?」

「い、いやあれは……」

「……はっ?」

 

一夏と明にどう攻めるか考えていたラウラと箒はここで賭けに出ようかとしたら、

目の前で二人は意外な行動に出た。

 

「入りは2カウントからダブルホールド……ベーシックステップで行くぞ」

「なら、テンポは?」

「一夏に任せる」

「よし……それじゃ……」

「「レッツ……!!」」

 

一夏と明は互いに武器をしまって、まるでダンスをするかのように手を握り合い

箒とラウラに構えたのだ。

これには、見ている者全員が騒ぎ始めた。具体的には、何だと怪訝に思う者達と黄色い声を上げる者達に大別できた。比率は2対8ぐらいである。

どちらが、どの数字かは……皆さんわかると思います。

 

「な、何だあれは……?」

「わからん。カズキさんから、教えてもらった何かだと思うが……」

「どうした、箒?」

「何故だがわからないが……今の二人を見てたら、すごく腹が立ってきた……!」

 

普通ならふざけたことのように見えるが、一夏と明の二人もまた箒達と同じく

人をおちょくるのが大好きなカズキに師事しているのだ。

これもまた、何かの策と考えるのが自然だが、女の勘とも言うべきものが

箒に苛立ちをもたらせていた。

無論、これを見ていて箒のように同じ苛立ちと焦燥を感じていた者達もいたりする。

 

「ラウラ!8で行くぞ!!!」

「8だと!?だ、だがあれはまだ……」

「や る ぞ!」

「わ、わかった……」

 

体からオーラのようなものを発した箒は、何か取り決めでもしていたのか謎の言葉を

ラウラに投げかける。

それを聞いて躊躇するラウラだが、箒の迫力に押され承諾すると箒の背後に回った。

 

「何故だがわからないが、成敗しなければいけない気がするから……一夏!

 覚悟!!!」

 

箒は両手に近接ブレードを呼び出し、どちらも突きをするかのように構えて

一夏と明へと突撃する。

それに一拍程、遅れてラウラが6本のワイヤーブレードを箒の後ろから追撃する。

二人が8と呼んだこの攻撃は、箒が二本のブレードを持って敵に突撃し、ラウラが

後方からワイヤーブレードを使って全方向から攻撃するコンビネーションである。

 

正面から破ろうとすれば箒が、それを回避しようとすればラウラのワイヤーブレードか

レールカノンの攻撃が襲いかかる……のだが――

 

「よっ……と!」

「……っ!」

「「何っ!?」」

「「はっ!」」

 

箒とラウラ、試合を見ていた者達は目を見開いた。一夏と明は、手をつないだままその場から動かず、箒の二刀の攻撃が決まるかと思った瞬間二人は、背中合わせで箒の背後に現れたのだ。

驚く者達を余所に、一夏と明は無防備となった箒の背に同時に蹴りを叩きこむ。

 

「がはっ……!」

「箒っ!……ならばっ!」

 

この攻撃が決定打にはならなくとも、流れを変えることはできるかもと考えていた

ラウラだったが、予想外の動きでやぶってみせた二人に驚くもののすぐに気持ちを切り替え、

二人の死角をワイヤーブレードで攻撃する。

 

「一夏!」

「ああ!」

 

一夏と明は、合図すると回りながら……本当にダンスを踊るようにワイヤーブレードの

攻撃をかわしていく。

 

「くっ!(何だこの動きは!?ワイヤーブレードの軌道を読まれないよう、僅かに制御を

 外してランダムな動きとなっている攻撃を、どうして手を繋いだままでかわせる!)

 ならば!」

 

未知の動きを見せる二人に、ラウラはレールカノンを放つが、

それも次々とかわされていく。

 

「今だ!」

「うおおお!!!」

 

だが、ラウラの狙いは別にあった。自分の攻撃に二人を集中させて、背後から箒が

仕掛ける時間を稼いだのだ。

今、一夏と明の意識は自分に向いているから、この攻撃は通ると箒とラウラは確信するが……

 

「あらよ……っと!」

「おわっ!」

 

そんな二人の考えはお見通しと言わんばかりに、一夏と明は片手を離し数歩下がって箒の攻撃を

空振りさせてつんのめさせる。

 

「ふん!」

「ぐあっ!」

 

間髪いれず、一夏が軸となる形で半回転して明が勢いをつけて威力を増した蹴りを

入れることで箒の機体は、シールドエネルギーが0となり機能を停止する。

 

「まだだぁっ!!!」

 

そこに、ラウラが右手を前に突き出し左手にプラズマ手刀を展開して突撃する。

 

「(奴らの今の動きを捉えるのは困難……ならば!

 ギリギリまでAICを発動させる構えで接近して、発動するかどうか迷わせる!

 AICで動きを止められたらゼロ距離で、レールカノン!

 できなかったら、一瞬分断した隙をついて!)」

 

ラウラは、逆転するために最後の賭けの攻撃を仕掛ける。

 

「「ダブルスピン」」

 

一夏と明は、互いの次の行動がわかるのかタイムラグなしに、回避行動をする。

 

「「そして(アンド)……フィニッシュ!!」」

 

テレパシーで会話しているのかと疑うほど、全く同じフォームで一夏と明は、

ラウラへと蹴りを放った。

その瞬間、ラウラや箒そして、この戦いを見ていた者達は、一瞬燕尾服を纏った一夏とドレスを纏った明の姿が見えた――

 

「試合終了。勝者、織斑 一夏&原田明ペア」

「(はは。負けたか……だが不思議と悪くないな)」

 

試合終了のアナウンスと湧きあがる歓声を少し遠くに感じながら、ラウラは

どこかすっきりした笑顔を浮かべた。

 

 

 

「うん?どうやら、どこかの試合が終わったようだね~」

「はぁ~そっすね……」

 

ここは、IS学園の監視が手薄な場所で外部からの侵入するにはもってこいな

ポイントの一つ。

そこで今日は学園にいないはずのカズキが手に付いた汚れを払っており、

清掃員の恰好で気の抜けた声で返事をするウェイブがいた。

 

――足元に転がっている、何人もの人間のうめき声を背景にして……

 

「な、なん……で」

「情……報では、このお……とこは今日は……いないはず……」

 

転がっている者達は、手足が変な方向に曲っていたり顔が女性なのにすごく腫れていたりしたが、何とか口を動かして疑問を投げかける。

 

「ははは♪びっくりした?

 俺が今日いないって、情報を流せば忍びこんで来るやつらがいるだろうと思ってね♪

 ついでに言っておくと、ここの監視が手薄なのもワ・ザ・と♪なんだよね~。

 で、俺がいないと思って油断している連中を釣ってしまおうって思って……さ♪」

 

イタズラが成功した子供のように、嬉々として笑いかけるカズキに侵入者たちは

背筋に冷たいモノが流れるのを感じた。

侵入者たちも日の当らない裏の世界で生きてきた者達だが、その世界で培われる勘が

言っているのだ。

 

――自分達の目の前にいる男は、ヤバすぎる!

 

嘲るわけでも見下すわけでもなく、自分達を嵌めたことを楽しんでいるカズキに

対して言い知れぬ恐怖が、侵入者達の心を支配していく。

 

「さぁ~て、ここからは質問タイムだ。いろいろと答えてもらうよ?

 ――亡国機業(ファントム・タスク)」

 

カズキがそう言い放つと同時に、凄まじい爆音が鳴り響いた――

 

 

 

 

 

「あれ何ですか……織斑先生?」

「わからん。

 私もいろいろな武術を見てきたが、あんな風に手を握って戦うものは初めてだ……」

 

歓声が鳴り響いているアリーナとは逆に、管制室は呆然としていた。

 

「確かに、世界には踊りの要素を取り入れた武術があるが、あれはそういったものとは

 別物だ。

 織斑と原田のあれは、二人で共に戦うことを前提にしているようだな……」

「そ、そんな戦い方があるんですか!?」

「私の知る限りでは、そんなものは存在しない……ということは一から作り上げたのか?

 (何故だ?あれを見てたら、ますます何か嫌な予感が……)」

 

一夏と明の戦い方に思考を巡らせる千冬だったが、それ以上に自分の勘が告げる警鐘に

難しい顔をした。

 

 

 

「大丈夫か?ラウラ」

「ああ、大丈夫だ」

 

アリーナでは、試合を終え最後に蹴り飛ばされたラウラを箒が心配していた。

 

「お前の方はどうだ、箒?」

「エネルギーがゼロになっただけだから、大したことはない。

 ……だが負けた以上に、何か悔しい……!」

 

そう言う箒の視線の先では、一夏と明が何やら言い合っており、明が顔を赤くしていた。

手をつないだままで――

 

「そ、そうか……。とにかく、次の試合があるから早く退場して……」

 

ラウラがそう口にした瞬間、空間が波紋のように揺れそこからミサイルが飛び出した。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

突然のことに一夏は反射的に明を庇うようにし、ラウラも箒の前に立つがミサイルは

地面に激突しても爆発することなく、落ちた時の音と煙がアリーナに舞うだけだった。

 

「い、一体何が……?」

『(気をつけろ!何か来るぞ!)』

 

疑問に思う一夏にゲキリュウケンが、警告を放つと同時にミサイルの一部が開き

何かが飛び出す。

次の瞬間一夏達の足元に魔法陣が現れ、アリーナ内部に目がくらむ程の光を放った。

 

「何がどうなって……!?」

 

光が収まり、観客席にいた生徒がつぶやくとそこには、

アリーナが“えぐれた”光景が広がっており、一夏達4人の姿はなかった……

 

 

 

「こ、これは……」

「わ、私は夢でも見ているのか?箒……」

 

信じられないという口調で、箒とラウラは言葉を発する。

まばゆい光に目が眩んだと思ったら、まだら模様の紫に見える空が彼女達の視界に

映っているのだ。

 

「おい、一夏!」

「間違いないな……これは!」

 

一夏と明は、この事態を理解し原因であるミサイルに目をやるとそこから、

黒い煙のようなものが現れた。

 

“ふふふっ……”

 

聞いたことのない音……声のようなものが黒い煙から発せられ、4人は最大まで

警戒を強める。

 

“っ!”

「がっ……あああああっっっ!!!」

「ラウラ!?ぬっ……うわぁぁぁっ!」

「箒!」

「何もんだ、お前!ラウラから離れろ!」

 

黒い煙は一夏達に攻撃せず、ラウラに向かって纏わりつくと彼女の体を包み込み、

近づこうとした箒を弾き飛ばした。

一夏が、煙に向かって今までにない緊張をはらんだ声で問い掛ける。

 

「“わかりきったことを聞いてくるとは、少々がっかりですよ?織斑一夏。

 いや――リュウケンドー?”」

 

警戒する一夏とは逆に、ラウラの声に重なって語りかける”何か”は落ち着いた様子で

一夏に返してきた――

 

 

 




トーナメントは、他のメンバーのも書こうかと思いましたが
とんでもない量になると思い断念しましたが、それに伴う案を
思いついたので次回をお楽しみに♪

原作とは違い、ラウラはチームプレイをさせ、箒には成長のフラグを
建てました。実際、専用機を手に入れてからの箒の成長は
驚くモノがあるようで。

戦いの方は、タッグとしての年季の差で一夏と明が勝利。
この二人が使った武術は、かつてある病気が蔓延した世界で
手を離したら死んでしまう男女が編み出したものを
一夏と明ならできるんじゃね?なノリで、カズキが教えてみましたwww
というか、いつか一夏にコレをやらせてみたかったのだ!
ちなみにそれを見ていた千冬と箒達は、訳の分からない苛立ちを覚えて(爆)

カズキは、学園にいないと見せかけて侵入者たちを待ち伏せしていました♪

しかし、敵は思わぬ形でやってきて!?


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