インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

29 / 75

今回も前回に続いて笑いのテイストに仕上がりましたwww


悩める龍と恋する乙女達

「ええ。そちらの映像が、あのおねだりがバレた時の一夏とそれを見た千冬ちゃんの

 反応になります。

 ――そうですか。楽しんでもらえたなら、こちらとしても幸いです……はい」

 

薄暗くなった自室で、誰かと電話しているカズキだが内容からして普段のからかいに近い

ものの、変に真面目にやっているせいで妙な空気が漂っている。

 

「もちろん、これからも二人のおもしろい映像は随時送ります……そのように――。

 それではこれで失礼します、全放課後CLUB統括名誉会長――雅さん」

 

カズキは怪しげな笑みを浮かべながら、電話を切った。

 

「お~っといけないいけない。彼女達に、ラウラちゃんの写真を送るのを忘れるところだった♪

 え~っと、暗躍忍者からオタク軍人へ……っと!」

 

カズキのパソコンからある人物に、ラウラが百番勝負に負けてプルプル震える等の

画像データが送られると数分後、ドイツ軍である部隊の副隊長が悶えるのを合図に

隊員全員が一日中奇声を上げて悶えたらしい。

 

『やれやれ。お前もホントよくやるよな、イロイロと』

「ふふふ。だってさ、ザンリュウ?こんなおもしろいことが、他にあるのか?」

『それは……そうだな♪』

 

ザンリュウジンと他愛無い会話をしながら、カズキはIS学園に来てから撮りためた様々な

画像のデータを整理していた。無論、それは映っている者が見たら声にならない叫びを

上げるものだと言うのは言うまでもない。

 

「とりあえず、これでラウラちゃんの問題はほぼ解決っと。

 それにしてもこんなかわいい子に、こんなことをしようとするなんて

 何考えているんだか……」

 

先ほどまでの楽しそうな笑みから一転して、攻撃的な笑みを浮かべたカズキは

机の上へ無造作に、Valkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)と書かれたファイルを放り出した。

通称、VTシステムと呼ばれるそれは、優秀なIS操縦者の動きをIS自身で再現させるシステムで

あり、パイロットに自身の限界以上の動きを強要させるため、命の危機もありうる

危険なシステムである。

現在、あらゆる企業や国家で開発が禁止されている。

しかし、歴史が修正されて一夏が誘拐されたことになった際、その情報がドイツから千冬に知らされたことに引っかかるものを感じたカズキが調べたところ、秘密裏にVTシステムの研究が行われていることを知り、それに千冬のデータを利用しようとしていることも分かったのだ。

 

「全く、純粋に弟を守るために鍛えた千冬ちゃんの力だけでなく、自分達が生み出した

 命も“モノ”として扱うなんて――ほ~~~んとおもしろいことをしてくれたよね~。

 まあその分、久しぶりに“いい声”が聞けたからいいんだけどさ~ククク」

 

口角をこれでもかと鋭く吊りあげながら、カズキは地の底から響き聞いただけで震え上がりそうな笑い声を静かに部屋に響き渡らせた。

 

そう、VTシステムの研究者達は適性があるからと密かにラウラのシュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムを仕込んでいたのだ。システムの発動には、一定以上の機体の破損具合と搭乗者の願望で起動するよう設定されており、起動したらデータを取るだけ取って、後は知らぬ存ぜぬでラウラを切り捨てる算段であったようだ。

 

『けどよ、カズキ?何で、あいつら全員を地獄に送らなかったんだ?』

「おいおい、ザンリュウ。俺は、争いごとを好まない平和主義者だよ?

 無暗に、三途の川を泳がせるなんてことするわけないじゃないか~」

『よくもまあ、そんなことをペラペラと言えるよな。

 あれを見る限り、いっそ楽にしてやった方がいいような気もするんだが……』

 

ザンリュウジンの言葉に心外だと言わんばかりに、平和主義者と主張するカズキだったが、

実際に研究者達に行ったことはその言葉からは程遠かった。

カズキはVTシステムの研究所を襲撃した際に、そこにいた者達を半殺しにしたり、研究されていたシステムの実験にそいつら自身を使って代わりに行ったりしたのだ。

 

“自分達の研究を自分達で体感した方が、いいデータが取れるじゃないか~♪

それで、何か起こってもそんな半端なモノを作ったお前らにも責任はあるよね☆”

 

と言い放ち嬉々として、システムを起動させた。

おかげでそいつらはベッドを一生の友として過ごしたり、精神がおかしくなってしまったりした。

また、女よりも男の方が好みなたくましい者達の元に送られた男性研究者達もいるのだが、

送られた後にどうなったかは誰も知らない……。

 

「まあ何はともかく、こいつを研究していたところは全て叩きつぶせたから

 これはもういらないな。

 一夏や彼女達の明日にこんなものは――――必要ない――!」

 

カズキは、ライターを取り出すとVTシステムのファイルを燃やし、パソコンに記録した

データも全て消去した。

 

「さぁ~て、コレのことを考えるのは後にして、この間録画した

 “世界の動物の赤ちゃん、寝顔特集♪”でも見て癒されますか~♪」

 

そう言ってテレビの前に移動した後、机にあるパソコンには

“学年別トーナメントにおけるタッグについて――”という文字が浮かんでいた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「そ、それ本当なの!?」

「う、ウソじゃないよね!?」

 

一夏とラウラの対決から数日程すぎたある日の朝、一組の教室では廊下に響き渡る程の

興奮した声が飛び交っていた。

 

「本当なんだって!今、学園中で持ちきりなのよこの噂!

 今度の学年別トーナメントで優勝すれば、織斑君と付き合え――」

「俺となんだって?」

「「「きゃああっ!?」」」

「うおっ!な、なんだ……?」

 

話こんでいた者達は、夢中になるあまり教室に入ってきた一夏と明に気付かず驚いた

声を上げる。

 

「それで、何を話していたんです?一夏の名前が聞こえてきましたが……?」

「あ、あれ?そ、そうだったかな~?」

「さぁ~て、はやく席につかないと~」

 

明の問いかけにもよそよそしく答えた女子たちは、それぞれの席に戻りその場を離れた。

 

「どうしたんだ?」

「さあ……?」

 

一夏と明は首をかしげて、肩をすくませるしかなかった。

 

「(どうしてこうなった!)」

「(どうなっていますの!)」

「(なんで~!)」

 

一夏と明が頭に?を浮かべている時、箒、セシリア、シャルロットは周囲にバレないよう心の中で頭を抱え涙を流していた。

月末にある学年別トーナメントにおいて“優勝した者は、織斑一夏と交際できる”という噂が、

流れているのだ。

 

箒達が、一夏の部屋で優勝したらデートという約束をした時部屋のドアが開いていたためそれを

聞いていた子達が何人かいて、そこから約束が漏れてしまったようである。

しかも噂というのは尾ひれがついてしまうものであり、優勝したらデートのはずが交際に飛躍しているのには、関係者一同驚いており、2組や4組そして2年生のあるクラスでも箒達のように

どうしてこうなったと頭を抱えている者がいることを記載しておく。

 

「(こうなったら手は一つ!)」

「(何が何でも……)」

「(ライバル達を倒して……)」

「((私)(わたくし)(僕)が優勝するしかない!)」

 

噂の発端である箒達は、優勝の決意を固めて激しく火花を散らした。

 

「おうおう~箒ちゃん達燃えとるなぁ~」

「呑気にしている場合じゃないでしょ!はやて!

 こうなったら、この噂を利用して一夏と箒の距離を一気に縮めるのよ!」

「アリサちゃんが激しく燃えてるっ!」

「あ、あははは……」

「ほ~~~んと、アリサちゃんって友達思いだよね~」

 

そうやって、なのは達が話していると千冬達がやってきてSHRを始めた。

 

 

 

「では、次に月末の学年別トーナメントについて連絡事項がある。

 山田先生」

「はい。え~今回の学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うために

 二人組のタッグで行います」

「え?」

「「「「「えええええっっっ!!!?」」」」」

 

教師からの思わぬ言葉に、教室は騒然となる。

 

「静かにしろ!連絡事項は、まだある!」

「そのタッグなんだけど、専用機持ちの子は専用機同士では組めないことに

 なったからね~。

 もし、組んだら一般の子達には厳しいからね。

 後、当日までにタッグを組めなかったら、当日に抽選で決まるよ~」

「なっ!」

「そ、それじゃ……!」

 

カズキの言葉にセシリアとシャルロットは、一夏とは組めないと愕然となり、他の者達は獲物を

狙う獣の如く目を光らせた。

 

「だったら、私と組もうよ織斑君!」

「あっ、ズルイ!なら、原田君は私と組んで!」

 

我先にとばかりに、彼女達は一夏と明にタッグを組もうとした。

何人もの手がこちらに向かって、伸びてくるのはリアルなホラー映画のようでかなり怖い……。

そして、その者達もまた恐怖を体感することになる。

 

「ほう~私の言ったことをすぐさま忘れるとはなぁ~?」

 

まるで肉食獣のような鋭い笑みを浮かべた千冬の言葉を聞き、皆一斉に石のように

固まってしまった。

 

「悪いけど、皆。タッグは明と組むから」

「「「「「へっ?」」」」

「はっ?」

 

千冬の笑みで皆が固まっているのを気にすることなく、一夏はあっけからんと自然に明と組むと

言い放ち、その明も突然のことで間の抜けた声を出し教室は静まり返った。

 

「……まあ、そういうことなら」

「他の女子に組まれるよりは……ね?」

「男同士のタッグ……新しいネタが……グフフフ♪」

 

各々様々なことを口にしながら、一夏と明のタッグに納得し各自の席へと戻っていった。

 

「全く、お前らは――はぁ~。

 まあいい。タッグが決まった者は、申請書類を期日までに提出するように。

 タッグ相手を探すのは、休憩時間や放課後に行え。

 では、授業を始めるぞ」

 

生徒達の一瞬の変わりように千冬は呆れながら、細かい注意事項を述べ本日の

授業を開始した。

 

 

 

「おい、朝のあれは何だ?」

「うん?」

 

一夏と明は昼休みの現在、二人で屋上に来ていた。

ここで昼食をとる者もチラホラといるが、二人が来た途端ソワソワと野次馬の如く遠巻きに

一夏と明を観察している。

 

「学年別トーナメントのタッグだ。何故、私を選んだんだ?

 まあ、私としてはうれしいのだが……/////」

「何でって、単に俺が組みたかったのと他の子と組んだら何かの拍子に、お前の男装が

 バレるかもしれないだろ?

 お前って、意外に抜けているところがあるからな~」

「なっ/////!」

『(それよりも、明が他の者と仲良くなんかしているところを見たら、こいつが

 何をしでかすかわからんからな……)』

 

周りにあまり聞こえないようヒソヒソと話す二人だったが、一夏の指摘に明は驚きの声を上げ、

ゲキリュウケンは心の中でヒッソリとツッコむのであった。

 

「お、お前は/////!」

「ははは♪そう、怒るなよ。頼りにしているのは、本当なんだから頼むぜ?」

「ふん!言われるまでもない/////」

『(私がいようといまいとおかまいなしか……)』

 

カズキと千冬のようなやりとりを自然とやる二人のそばにいるゲキリュウケンは、誰にも

聞こえないことはわかってはいるが、つぶやかずにはいられなかった。

 

そんな一夏と明の様子を見ていた者達は黄色い声を上げ、興奮のあまり倒れて本日、

保健室のベッドは満員になったそうだ。

 

一方、場所は変わり食堂。

ここでは来る決戦に向けて、恋する乙女達が頭を悩ましていた。

 

「はぁ~。その様子だと、どのクラスも同じようね……」

 

ため息を吐きながら、楯無は目の前で沈んでいる箒達を見まわした。

朝のSHRで、各学年の全クラスで学年別トーナメントの連絡事項がされてから優勝する確率を少しでも高くするために、専用機を持つ代表候補であるセシリア達に、タッグの申し込みが次々とやってきたため、皆疲労困憊なのだ。

これは何も一年生だけでなく、学年全体で同様の動きが見られた。

花の十代乙女は恋に憧れる生き物であり、オマケに一夏は年下だが頼りになるのは先日のクラス対抗戦や襲撃事件でも知られており、家事も万能という、まさに優良物件であるため、皆青春の勝ち組になろうと必死なのだ。更に――

 

「もし、優勝できてもタッグを組んだ子と確実にもめる……」

 

そう。簪が言ったように、彼女達の頭を悩ませているのはどうやって優勝するかだけでなく

タッグの相手もなのだ。

一夏を狙う者は彼女達が考える以上に多く、例の約束を滞りなく果たすには一夏を狙わない子と

組み、強敵たちを倒さなければならないのだ。

 

「だから、本音。私と組んで」

「かんちゃんと~?いいよ~。でもでも~優勝できたら、私もウェブウェブと

 デートできるように手伝って~/////」

「お安い御用」

 

それらのことを素早く分析した簪は、自分の専属メイドでありよく知る仲でもある本音を

タッグ相手とした。交流のない者よりも、コンビネーションは取れるだろうし本音はやる時は

やる子でもあるからの判断であり、何より彼女の本命は一夏ではない。

本音も本音で、断る理由はなかったがちゃっかり自分とウェイブのデートの取り付けの手伝いを

お願いし、簪は眼鏡をクイッと上げながら親指を立ててそれを了承した。

 

「おっ!早くも一組、決まりやね~」

「決まるのが早ければそれだけ、練習できる時間が取れるもんね」

「うぐっ!た、確かにすずかの言うとおりよね……。

 ただでさえ、一夏と明って昔からよく二人三脚とかでも息ピッタリだから、

 かなりの強敵だけど……」

「簪さんのように、そうそう決まりませんものね……」

 

すずかに言われて、強力タッグへの対策や何やらを焦る鈴だったが条件に合うような者は

そううまく思い浮かばず、頭を悩ませた。

 

「そうだよね~。専用機の相手は専用機持ちの僕達がするとしても、もう一人を

 うまく足止めしたりこっちを援護できるぐらい操縦が上手くて、それでいて噂に

 興味が無い子……」

「私の場合は、それに専用機持ちと戦えるがプラスされるんだぞ……」

「そんな子は……って、あああっ!!!」

「いたぁぁぁっ!」

「えっ?」

「な、何よ!」

「私?」

 

突然気付いたのか鈴とシャルロットは、大声を上げてなのは達5人を指さした。

 

「そうですわ!高町さん達が、いましたわ!」

「うん♪みんな、なんだかんだで楯無さんの特訓にもついてきているし、

 何より一夏にも興味がない♪」

「え?え?え?」

「つまり?あたし達に、あんた達と一夏がうまくいくように手伝えってこと?」

「そういうこと♪協力してくれるわよね、ア~リ~サ♪」

「はぁ~まあ、原因の一端は私らにもあるわけやしな~。

 しゃ~ない!みんなのため、友情のため!私らが一肌脱いだろ!」

 

混乱するフェイトを余所に、はやてが箒達に協力することを承諾した。

 

「全く、あんたはいつもいつも……わかったわ。

 でも、あたし達が協力するからには狙うは優勝のみよ!」

「ふふふ。アリサちゃんは、負けず嫌いだね~」

「いや~友情って、いいわね~」

「楯無さん?そんなに余裕で、大丈夫なんですか?」

「ノープロブレムよ、フェイトちゃん♪

 この私、更識楯無はIS学園生徒会長にして学園最強(生徒限定)なんだから♪

 恋愛感情のない薫子ちゃんでも誘って、勝ちに行くわよ~!」

 

呑気に言う楯無だが、2年3年の上級生の間では、自分達が勝っても噂の付き合いというのは

有効なのかともめまくっていたり、楯無を倒すために死に物狂いで勝負を仕掛けてくるのを

彼女はまだ知らない。

 

「でも、皆?組むのはいいけど、誰が誰と組むの?」

「すずかちゃんの言う通りやな。息が合えば、力は2倍にも3倍にもなる。

 これは、結構重大やで~」

「う~ん、セシリアちゃんはアリサちゃん、鈴ちゃんははやてちゃん、

 シャルロットちゃんはすずかちゃんかな?」

「その理由は何、なのは?」

 

条件に合うタッグ相手が見つかり、残りは誰が誰と組むかになりなのはが、これはどうかと

それぞれの相手を提案した。

 

「うん。まず、セシリアちゃんは遠中距離の射撃攻撃が中心でアリサちゃんは接近戦

 タイプだから、全距離に対して攻撃手段ができる。

 次に、鈴ちゃんは一人で距離に関係なく攻撃できるけど前に出がちだだから、

 後ろで視野の広いはやてちゃんが指示を出せば、相手の奇襲とかも対応できるし

 こっちからの奇襲もできるようになる。

 シャルロットちゃんとすずかちゃんは、なんでもできるオールラウンダーだから

 隙の少ない戦いができると思う……って、偉そうに言っちゃったけどどうかな?」

 

簪の質問にそれぞれの理由を述べていくなのはだったが、話していく内に皆ポカ~ンと唖然としたので、最後は自信なさげとなった。

 

「……いい。すごくいいよ、なのは!」

「シャルロットさんの言うとおりですわ!」

「なのはちゃんって、よく皆のことを見てるんだね~」

「せやな。ほんじゃ、鈴ちゃん。早速コンビネーションを磨くためにも、一緒に

 お風呂に入って、小ぶりなそれのマッサージでも……」

「やかましいし、大きなお世話じゃ!このセクハラ狸!!!」

 

それぞれのコンビが賞賛する中、はやては鈴にドロップキックを喰らう羽目になった。

 

「では、なのは。私はどうなるんだ?」

「えっ?ああ、箒ちゃんは完全に接近戦タイプだから射撃中心の私か、射撃もできて

 接近戦も箒ちゃんと同等くらいにこなせるフェイトちゃんがいいと思うんだけど、

 箒ちゃんはどっちt「助けてくれぇぇぇ~~~!」ん?」

 

残る箒が、自分の相手をなのはに尋ねると少し戸惑いがちに自分達と組むかとなのはが聞こうと

したらどこからか涙声で助けを求める声がしてきた。

 

「あっ、ラウラ……」

「あああ!ちょうどいいところに!頼む、かくまってくれ!」

 

食堂に駆け込んできた涙目のラウラは、箒達を見るや否や彼女達のいるテーブルの下に

滑り込んだ。

 

「えっ?」

「ちょっ!なんなのよ!」

「「「「「ラウラちゃ~ん!!!」」」」」

 

驚いている鈴達を余所に、多くの者が食堂に流れ込んできた。

リボンの色からして、全員一年生のようだ。

 

「どこにいったの!」

「ラウラちゃ~ん♪私とタッグを組みましょう~♪」

「ちんまいラウラちゃんと……グヘヘ」

 

どうやら、ラウラにタッグの申し込みをしているようだがはっきりいって目や手の動きが

少し――いや、かなり怖い……。

 

「あっ!篠ノ之さん達、ボーデヴィッヒさん見なかった?」

「い、いや~ラウラは……」

 

尋ねられた箒は、やってきた者達の迫力に押されたが足元のラウラは子犬のように潤んだ目で

言わないでと訴えてきた。当然、それは席についていた他の者の目にも入った。

 

「ラウラなら、あっちの方に行ったよ」

「ありがとう、デュノアさん!」

「いや~織斑君と戦ってから、ボーデヴィッヒさんますますかわいくなっちゃったでしょ?」

「そうそう!まだ“おはし”のことを“おはち”って、言うんだよ~!」

「そんなかわいい子と放課後に、一緒に訓練とか……たまらん!!!」

「私とがんばりましょう、ラウラちゃ~~~ん!」

「ああ、ずるい!」

「ロリはわ・た・さ・ん!!!」

 

地響きを立てながら、ラウラを追いかけてきた者達は嵐のように去った。

 

「……何だったんだ?」

「さ、さあ……?」

「人気者は大変ですわね……」

「ううう~~~ごわがっだよ~/////」

 

怒涛の勢いで駆けていく彼女達を見て、箒達は唖然となり後にはラウラの涙声が食堂に

響いた。

 

「ほ~ら、ラウ~ラ?もう大丈夫だからね~」

「ジャルロッド~~~/////」

 

余程怖かったのか、泣きながらシャルロットに抱きつくラウラ。

一夏との戦い以降、生意気だけどかわいいという印象のラウラは、棘がとれたのかのように

感情をよりストレートに表現するようになり、いろいろお世話したいぐらいかわいい子として

認識されるようになったのだ。

戦闘技術は頭一つ分抜き出でていても、こういう事態への対処の仕方は人よりも苦手なようだ。

 

「な~んか、泣き虫な妹と世話焼きな姉みたいね」

「でも、鈴ちゃん?どっちかっていうと、娘と母親にも見えない?」

「は、母親!?」

「あ~確かに見えるな~」

「ジャルロットが、母親?……ママ?」

「っ!?らっ……ラウラに言われると悪い気がしない……!!」

「あんた達?漫才はその辺にしときなさい~」

 

鈴や楯無の言葉によって、その気になりかけるシャルロットだったがアリサが

冷静にツッコミを挟んだ。

 

「でも、このままじゃまたあんな目に合うんじゃ……」

 

簪の言葉にラウラはビクッと体を震わせ、潤んだ瞳で箒達に何とかしてという眼差しを

送った。

 

「あ~なのは、フェイト。タッグを提案してもらっておいて、悪いんだが……ラウラ。

 よかったら、私と組むか?」

「え゛?」

 

箒の突然の申し入れに、ラウラは目が点となってキョトンとなる。

そのかわいらしさに、皆がキュンとなったのは必然であろう。

 

「私はまだタッグが決まっていないし、お前なら実力も申し分ないしな」

「い、いいのか……?」

「そうだね。箒ちゃんの剣術をラウラちゃんのAICでサポートできるし、逆に

 AICの隙を箒ちゃんが埋められるかも……」

「では、決まりだな。よろしく頼む、ラウラ」

「っ!ああ!こっちこそ頼む!そして、ありがとう!!!」

「ラウラが、友達とあんなに喜んでっ!」

「完全に、我が子を見る目になってるわよーシャルロットー」

 

泣きながら箒の手を握りブンブンさせるラウラを見て、シャルロットは感激するが

アリサのような冷静なツッコミを鈴に入れられた。

 

「あははは……本当にすまない、なのは、フェイト」

「ううん。気にしないで、箒ちゃん」

「そうだよ」

「それにしても、改めてみるとなかなかなタッグになったんじゃない?」

「ええ、楯無さん。ですが、私……いえ私達は誰が相手でも負けません!」

「それは、こちらのセリフでしてよ箒さん?」

「あたしも狙うのは、優勝だけなんだからね!」

「僕だって!」

「私も忘れちゃ困る……」

 

タッグが無事にできた箒達は、皆同じようにやる気に満ちた顔で向かい合い

火花を散らした。

 

「いや~一人の男を巡って、火花を散らす乙女!

 う~ん!青春やね~。

 そういえば、箒ちゃんがラウラちゃんと組んだからなのはちゃんとフェイトちゃんで

 組むん?」

「えっ?あっ……どうしようかなのは?」

「せっかくだけど、今回は見学しようかな……」

「?珍しいね?」

「てっきり、あんた達も参加すると思ってたのに」

 

はやて達の問いかけに、歯切れが悪そうになのはとフェイトは答えた。

 

「そっか……まあ、このトーナメントは参加自由やしな~

 (どうやら、二人ともまだオルガードに言われたことを気にしとるようやな……。

 私もそうやけど……考えなあかんな、魔法のことも管理局のことも……)」

「やあ~やあ~皆♪

 それぞれ、特色のあるコンビができたようだね~」

 

皆がそれぞれの想いを胸に抱いていると、そこにカズキがやってきた。

 

「あ~カズキン先生だ~」

「どうしたんですか?」

「いやな~に。

 突然のタッグ戦への変更だからさ、トーナメントまでの間、志望者へ

 タッグ戦特別講座が開かれることになったから、そのお知らせをね~」

「特別講座……ですか?」

「そうそう。個人戦とタッグが全然違うのは、セシリアと鈴でわかっていることだから

 急遽ね♪」

「うっ!」

「ぐっ!」

 

カズキの言葉に傷をえぐられたセシリアと鈴は、胸を押さえてうめき声を上げた。

 

「この講座では、もう少ししてから学ぶタッグで戦う時の注意点や戦術を

 俺が教えるんだけど、君達もどうだい?」

「「「やります!!!」」」

「「「ちょっ!」」」

 

挑戦的にニヤッと笑いながら問いかけるカズキに、二つ返事で了承する者達とそれに待ったを

かける者達の二組に分かれた。

カズキが実技で教えることは、ほとんどが歩行などの基礎的なことなのだが土台となる基本が

しっかりと身につく内容なので、生徒達の操作技術は回を重ねるごとに上がっていて

評判なのだ。

そんな人物が、先頭に立って教えるとなれば相当のレベルアップが期待できると

考えたのだが、カズキのことを知っている箒や鈴、ラウラはそんなセシリア達を見て

冷や汗を大量に流し始めた。

 

「はいは~い♪それじゃ、ここにいるタッグを組んだメンバーは参加決定だね~。

 最近は女の子相手のゆる~~~い内容だったから、久々に燃えるね~♪」

「へっ?」

「ゆ、ゆる~~~い……内容?」

 

セシリアとシャルロットは、耳に入ってきた内容が信じられないのかブリキのおもちゃのような

動きで聞き返した。

カズキの教えは、技術は向上するが当然内容も厳しいモノになるのだ。

故郷の国で一般の者より厳しい訓練をしてきた代表候補の二人でも、授業が終わる頃はヘトヘトになってしまう。それがカズキからしたら緩いモノ……?

それが事実だと知っている箒達は、ここからすぐに逃げたかったがそんな隙を

カズキは見せなかった。

 

「フフフ♪女の子相手に教えるっていうのは、俺も初めてだからさ~。

 結構抑え気味な訓練内容にしてたんだ~♪

 でも、ここにいる皆は他の子よりも鍛えているし、レベル高めでも問題ないよね。

 それに新作ドリンクもできたし……」

 

非常に楽しそうに笑うカズキは最後にボソッと、聞き捨てならないようなことを

つぶやいた。

 

「場所とかは放課後のSHRで連絡されるけど、特別講座は今日からだから

 そのつもりでね~」

 

顔が引きつっていたり、信じられないと体を震わせている箒達を残してカズキは

食堂を後にした。

 

「……い、いやだぁぁぁ!!!ああああああれみたいなことをするなんて

 いやだぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ちょっ!ラウラちゃん、落ち着きぃっ!?」

「あれは、私があの人に会ったばかりの頃だった……。

 好奇心から、カズキさんが千冬さんと一緒にやっていた訓練を私も

 やったんだが……少ししただけ……きれいなお花畑が垣間見えたよ……」

「ほ、箒ちゃん?」

「一夏があいつの特訓を受け始めたら、一夏の奴……しばらく口から魂が

 出てたのよね……」

「鈴!なんか遠いところを見る目になっているわよ!」

「さ、参加しなくてよかったかもね、フェイトちゃん……」

「そ、そうだね、なのは……」

 

ドイツでカズキと会った時に何かあったのか、ラウラは頭を抱えて悲鳴を上げ

箒と鈴もいつかの一夏のように遠い目をし、その様子を見ていた

なのはとフェイトは密かに安堵するのであった。

それからしばらくの間、特別講義に参加した者達は授業以外は口から何かが飛び出したり、

見えない蝶でも追いかけるような動きを見せるようになったという――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「全くカズキさんは、いつもいつもこっちの都合をお構いなしに!!!」

 

時空管理局本局にある無限書庫の一室。そこで、司書長のユーノが頭をかきむしりながら

何かの作業をしていた。

 

「とりあえず、頼まれていたモノはこれでよしと。

 後は……」

「は~い♪元気にやっているかな、少年~♪」

「うわっ!ド、ドゥーエさん!?」

 

ユーノは、どこかイタズラ好きそうな金髪の女性に背後から抱きつかれ驚いてしまう。

 

「ふふふ♪私程度に後を取られるようじゃ、まだまだね~。

 あっ!それって、今度の作戦に使うアレ?」

「ちょっ!ドゥーエさん!

 こんなところを誰かに、見られたら!」

「大丈夫大丈夫♪

 鍵はかけてあるし、人避けの術は使っているんだから見られる心配はないわよ~♪

 それともな~に?

 人に見られたら困る様な事をして欲しかったのかな~?」

「……んなっ//////!?」

「あははは♪ほ~んと、君はかわいいわね~」

 

純情を絵にかいたようなユーノは、近所のお姉さんと男の子のようにいいようにからかわれ顔を真っ赤にしてしまう。

 

「それにしても、あの真っ黒提督みたいにカズキにも無茶ぶりを吹っかけられるのに

 毎回よくやるわよね~。こういう報酬で♪」

「あっ!いつの間に/////!」

 

ドゥーエが手に持って見せた写真を見て、慌ててユーノはふところを見ると

一瞬で掏られたようだ。

 

「好きな女の子の写真が、報酬とは~。

 君も男の子だね~」

「ほっといて下さい/////」

「そんなに拗ねないの!お・詫・び・に……うりゃ♪」

「うぉわっ/////!」

 

突然、自分の頭を握ったのかとユーノが思うとドゥーエはユーノの顔を自分の胸にと

押し付けた。

 

「そんでもって、隙あり♪」

「ドドドドドドゥーエさん//////!!!?」

 

動きが固まったユーノの隙を突いて、ドゥーエはその光景を写真に収める。

 

「ははは♪まだまだよの~ユーノ~♪」

「くっ//////」

 

完全に男ではなく男の子という子供としてからかわれたことを悔しがるユーノだが、

未熟なのは事実なため何も言い返すことができなかった。

 

余談だが、同時刻にIS学園で何かを察知した5人の生徒が一瞬ものすごく爽やかな笑顔で黒いオーラを放出し、それを目撃した者達は口を揃えて“ま、魔王……”とつぶやいた後、数日間部屋に閉じこもりガタガタと震え上がった。

 

 

 





はい。というわけで、VTシステムの件はもう片付いちゃいました。この片付けには、
天災兎も一枚噛んでいますが彼女もカズキも命を奪うことはしていません。
”奪う”ことは……(黒笑)

ゲキリュウケンは、毎日胸焼けに悩まれているらしいですwww

タッグを考えていたら、ラウラがこんなポジになってしまいました(苦笑)

最後に近所のお姉さんポジで、ドゥーエが登場しました。
かなり悩みましたが、彼女達はイノセント世界を参考にしたキャラでいきます。
黒オーラを発する5人には、魔王の素質があるということで(大汗)
もし、この時撮られた写真を見られたらユーノはお星様になってしまうかも。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。