インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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お気に入りが100件を突破しましたO(≧▽≦)O

私のような未熟者の初心者が作る作品を読んでいただき
ありがとうございまーーーす♪

これからもがんばっていくので、楽しんでいただければ幸いです♪


激突!一夏VS鈴

「はい、これ!

 タオルとスポーツドリンク!

 ドリンクは、ぬるめでよかったわよね!」

「お、おう。サンキュー……」

 

ピットに走りこんできた鈴はまくしたてるようにしゃべりかけ、

一夏はその勢いに思わず押されてしまう。

 

「はン!」

「むっ!」

 

そして、立ちすくんだ箒に鈴は勝ち誇った目を投げかけ

カチンと頭にきた箒にはそれが“やーいやーい!!残念だったわね!”

と言っているように見えたという。

 

「そ、それにしても運動の後はぬるめの方がいいなんて

 若いくせに体のことを気にするのは変わってないのね、アンタ」

「いつ、何が起こるか分からないんだ。

 体は大事にしとくに、こしたことはないさ」

「ゴホンゴホン!

 一夏、私は先に部屋にもどるから、“また後で”な」

 

仲よさげに話す鈴と一夏に聞こえるようなわざとらしいせきばらいをして箒は、

“また後で”の部分を強調してピットを後にした。

 

「……ねぇ、一夏。

 今の“また後で”ってどういうこと?」

「ん?ああ、俺と箒は同じ部屋だから、戻ったらって意味だろ?」

「お、同じ部屋!?」

「俺の入学って、特殊だから一人部屋の準備が間に合わなかった

 らしいんだよ。

 だから、部屋の都合がつくまでな。

 まっ、相手が箒で助かったよ。

 昔からの付き合いだし、変に気を使わなくていいしさ~

 って、鈴?」

「気を使わない、知り合いならいいのね……」

「うん?」

「いい、一夏!

 気を使わない幼馴染みは、一人じゃないんだからね!」

 

そう言い残し、鈴はピットから走り去った。

一人残された一夏は、呆然とするしかなかった。

 

「何だったんだ、一体?」

『さぁな。

 だが一つ言えるのは、お前の唐変朴でまた嵐が起きるということだ』

「なんだよ、それは……」

 

一夏だけでなく、世の男性が解読に頭をすこぶる悩ます乙女心に

頭をかしげるばかりである。

 

 

 

「――というわけだから、部屋代わって♪」

 

時刻は八時過ぎ、夕食を食べ終わり学生の貴重なくつろぎタイムに

鈴は一夏と箒の部屋、1025室にボストンバッグを引っ提げて突撃してきた。

 

「ふざけるなっ!なぜ、私が代わらなければならないっ!」

「いやぁ~、篠ノ之さんも男と同室だと気が休まらないでしょう?

 その点、あたしは幼馴染みだから大丈夫だし代わってあげようかなって♪」

「誰が、そんなことを言った!

 そもそも、これは私と一夏の問題だ。

 部外者のお前には、関係ないだろ!」

「大丈夫大丈夫♪私も幼馴染みだから」

「だから、何だと言うのだ!」

『(おい、どうするんだコレ?)』

「(俺にどうしろと?)」

 

ゲキリュウケンと一夏は、互いに意見を曲げようとしない二人の少女の

言い争いに途方にくれていた。

箒と鈴。

互いに、悪い人間ではないのだが決定的に相性が悪かった。

鈴は我が道を行く性格で、箒は人一倍頑固なところがあるため

話はずっと平行線のままである。

 

「くっ!一夏からもなんとか言ってくれ!」

 

強敵ぞろいのライバルに対して同室というアドバンテージを

失うわけにはいかないと、箒は一夏に助けを求めた。

 

「なんとかって、言われてもなぁ~。

 カズキさん、なんとかなりません?」

「う~ん、そうだね……」

「ひゃっ!?」

「なっ!?」

「うわっ!?本当にいた!?」

『(まあ、カズキだからな)』

 

一夏が何気なしに、箒と同じようにカズキに助けを求めたら

ドアをガチャリと開けてカズキが部屋に入ってきたので

三人とも飛び上がるぐらい驚いた。

 

「ははは♪

 おもしろいことが起きるにおいをかぎつけてね~♪」

「何ですか、おもしろいことが起きるにおいって……」

「ひ、ひぃぃぃ!!!!!」

「ま、それよりも鈴?

 部屋を代わるって、話だけど今変わっても無駄だよ?」

「へっ?」

「後一カ月ぐらいしたら、部屋の調整がついて一夏は

 一人部屋になるから、もし今変わってもその時強制に

 鈴も移動だよ?」

「なっ!?」

「そ、それは本当ですか碓氷先生!」

 

カズキからの思わぬ事実発覚に鈴だけでなく、箒も驚く。

 

「まあ、年頃の男女が一緒の部屋で生活するってのも

 何かとおもしろいんだけど一夏には彼女もいるしね~」

「あんたって人は……

 あっ!そうだ、鈴。

 お前そもそも、寮長の千冬姉に許可とったのか?」

「ち、千冬さんが寮長なの!?

 そんなの絶対許してくれないじゃない!」

「いろんな書類と格闘している千冬ちゃんに、何も知らない

 鈴ちゃんを突撃させるのもおもしろそうなんだけどねぇ~」

「こ、こいつは~

 ぐっ!き、今日のところは帰るけど

 これで終わったと思わないでよね、一夏!」

 

これ以上いたら、どんな風に遊ばれるかわからないと鈴は逃げるように

立ち去っていった。

 

「あ、あの碓氷先生。

 一夏が一人部屋になるというのは……」

「そうだね、大体6月ごろを目安に調整しているところだよ。

 (このまま、何事も起きなければ……ね?)」

「そ、そうですか……?」

 

箒は、自分のアドバンテージのタイムリミットに焦りを覚えるのであった。

 

翌日、生徒玄関前廊下にクラス対抗戦の日程表が

張り出された。

一組の最初の相手は二組。

何の因果か、鈴との対戦であった――

 

後日、何かと話題である一夏とその幼馴染みということで

例年以上に観客席の争奪は激しく、それを“指定席”として

売りさばいて一儲けしようとした二年生が、千冬に魔王様式の

O・HA・NA・SIを受けて部屋に引きこもったのは完全な余談である。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

鈴の部屋代わり騒動から数週間たった5月の中頃。

一夏は、対抗戦に向けての仕上げを行っていた。

もっとも、特にこれといった変わったことはしていない。

というよりできないのだ。

 

ISには機体ごとに専用装備、“初期装備(プリセット)”を持っている。

セシリアのブルー・ティアーズで言うと、ビットのブルー・ティアーズ

が該当する。

そして、戦術の幅を増やすために“後付装備(イコライザ)”というもの

が存在する。

この後付装備を使用するには、“拡張領域(パススロット)”がなければ

ならないのだが、通常のISには最低でも二つは装備できる拡張領域が

白式にはないのだ。

付け加えて、初期装備の変更はできないので、一夏は近接ブレード一本で

戦っていかなければならないのだ。

 

「(クラス対抗戦はいいけど、あのヒョウみたいな怪人から

 奴らの動きがないけど、どうなっているんだ?)」

『(他のところでも、動きは確認されていないようだが

 もしも動くとしたら……)』

「『(クラス対抗戦!)』」

 

セシリアを襲ったヒョウに似た怪人以降、動きが見られない

創生種に対して、まもなく行われるクラス対抗戦に何か仕掛けてくるかも

しれないと、一夏とゲキリュウケンは読んでいた。

もしも、試合中に現れて選手を痛めつけるだけでも、観客には

不安や恐怖を与えることができて、大量のマイナスエネルギーが手に入るからだ。

 

『(更に、俺たちが無用な混乱を避けるために人前には極力姿は現さない

 ようにしていると踏んでいれば尚のこと……だが!)』

「(そうなったら、俺はカズキさんやお前が止めようが

 千冬姉にばれようが、変身するぜ相棒?)」

『(止めても、無駄なのは分かりきっているからな、

 そうなったらお前の好きにしろ)』

「(サンキュー♪

 でも、カズキさんも何か対策を立てているみたいだし

 変に気を張りすぎず、油断しすぎずいこう!)」

「待ってたわよ、一夏!」

 

クラス対抗戦で創生種が何か仕掛けてくるかもしれないと

ゲキリュウケンと共に気合いを入れなおす一夏の前に鈴が現れた。

 

「どうしたんだ、鈴?

 何か用か?」

「ええ、そうよ。

 今度の対抗戦が終わったら、体育館の裏に来なさい!」

「はっ?」

「いい、わかった!」

 

そう言い終わると、鈴はその場を後にした。

 

「(なあ、ゲキリュウケン。

 体育館の裏って……決闘でもする気なのか、あいつ?)」

『(お前と言う奴は……)』

 

一夏のあまりにも的外れな予想に呆れるゲキリュウケンだったが、

どういう運命の悪戯か、今回は一夏の予想が当たっていたりしたのだ――

 

 

 

「(見てなさいよ、一夏!

 今のあたしなら、リュウケンドーのアンタに力を

 かせれるってところを見せてあげるわ!)」

 

一夏のように、鈴もまた気合いを入れなおして廊下をズンズン歩いていたが、

それを見つめる人物がいたことには気付かなかった。

 

「話には聞いてたけど、変わってないなあいつは」

「お~い、次のとこいくぞ~」

「ああ、今行く!」

 

帽子を深くかぶり、上下青のジャージを着ている赤い髪の清掃員は

相方に呼ばれてそこから移動した。

その右腰には、龍の顔がついた何かがついていた――

 

「そう、もしもの時はそういう風にお願いします。

 はい……、はい。

 それでは……、ふう~。

 さてと!これからた~~~っぷりと働いてもらうから

 へまをするなよ?ハチ」

「わかりやした、カズキの旦那……」

 

どこかに電話をかけていたカズキは、それをきると“いい”笑顔を

そばにいたハチに向けた。

 

 

 

「さてと、これで終わりか?リイン」

「はい、これで設置作業終了です!」

「はやてちゃ~ん」

「サーチャーの設置、こっちは終わったよ。

 そっちは?」

「こっちも今終わったとこや」

「でも、思った以上に時間かかっちゃったね……」

「そうだね、フェイトちゃん。

 見回りをする碓氷先生や織斑先生の目をかいくぐってだからね、

 仕方ないよ」

 

なのは達三人は、学園で何か起こった時、映像を記録できるよう

魔力を検知したら起動する探査機、サーチャを学園のあちこちに

設置し、学園全部をカバーできる数を今設置し終わったのだ。

入学から一カ月以上も時間がかかったのは、設置しようとした

位置にちょくちょく見回りの先生、特に彼女たちが警戒している、

カズキや千冬が狙ったようにやってきたため、

なかなか進めることができなかったのだ。

 

「これで、やっと調査ができるような環境に

 なったわけやけど、あくまで私ら魔導士にとっての

 調査環境や。

 目の前で、消えた魔力残滓のこともあるから

 これでうまくいくかは、正直わからん……」

「でも、今できることをやっていくしかないよ」

「そうだね。

 気を取り直して、一夏くんが優勝した時のために

 デザート何食べるか、考えよ♪」

「それは、ちょっと気が早いんじゃないかな、なのは?」

 

気の早いなのはに苦笑しながら、三人はその場を後にした。

 

そして、様々な思惑が混じり合うクラス対抗戦(リーグマッチ)が

始まる――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

クラス対抗戦、第一試合。

アリーナは全席満員となっており、立って見ようとするものまで

いるほどこの試合の注目度は高かった。アリーナに入ることが

できなかったものは、リアルタイムモニターで鑑賞を行っている。

 

そんなことは関係ないのか一夏と鈴はそれぞれの専用機、『白式』と

『甲龍(シェンロン)』を展開し、静かに試合開始の時を待っていた。

 

「(シェンロン……龍か、ゲキリュウケン。

 お前の親戚?)」

『(なわけあるか。

 それにしても、あの肩の横に浮いたものは……)』

「(なんか、中国に丸っこいものに取っ手を付けたような

 武器があったけ?そんな風に、変形するのか?

 でも、シェンロン……集めたら願いを叶えてくれる

 龍が頭に浮かぶなぁ~

 よし、俺はあれを“こうりゅう”と呼ぶことにしよう)」

『(で、こんな無駄話をしていていいのか?)』

「一夏、頼めば手加減ぐらいしてあげるけど?」

 

一夏とゲキリュウケンが、のほほんと試合とは関係のないことを

しゃべっていると鈴が話しかけてきた。

 

「手加減って、雀の涙レベルだろ?いらねぇよ」

「一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。

 シールドエネルギーを突破できれば、本体にダメージを

 与えられるんだから!」

 

そう、世の中に完璧な存在などないように、ISには男は乗れないことの他にも

欠点がある。操縦者にダメージを与えて、“殺さないようにいたぶる”ことは

できるのだ。

 

しかし、そんなことで怯む一夏ではない。

相棒のゲキリュウケンや背中を預けられる仲間と共に、そんな痛みや危機を

何度も乗り越えてきたのだ。

こんなことで立ち止まる理由などなかった。

 

『両者、規定の位置についてください』

 

アナウンスに促されて、一夏は雪片弐型を鈴は青竜刀のような巨大な刃を

つけた双天牙月(そうてんがげつ)を構える。

 

『試合……開始!』

 

試合開始のブザーが鳴り響くと同時に、両者共に真っ直ぐに

相手へと飛翔し得物をぶつける。

そして……、一夏がはじき返された。

 

「くっ!」

「初撃を防ぐなんてやるじゃない!

 なら――これはどう!!!」

 

鈴は双天牙月をもう一本取り出し新体操のバトンを回すかの如く操り、

縦横斜めと一夏に斬りかかり、押していく。

 

「ほらほら、どうしたの!?

 手も足も出せずに終わりなの!!!」

「……」

 

攻められる一夏は、鈴の猛攻や挑発に何も返すことなく、

ただ静かにそれを目を鋭くしながら、さばくだけだった――

 

 

 

「一夏くん、押されてるね」

「ああもう!何やってるのよ、あいつ!」

 

観客席にいたすずかとアリサは、一夏の苦戦をハラハラしながら

見ていた。

 

「違うよ、二人とも」

「違うって、何がよフェイト」

「よく見てみぃ、一夏くん押されてるように見えて

 まだ一発も鈴ちゃんの攻撃を受けていないで?」

「そういえば……」

 

そう、一夏は押されてはいるが鈴の攻撃を全てさばいているのだ。

 

「多分だけど、一夏くんは鈴ちゃんの攻撃のくせとかを

 見抜こうとしてるんじゃないかな?

 特訓は続けてきたけど、やっぱりISの操縦技術は

 鈴ちゃんの方が上みたいだし……」

 

なのはの観察眼に舌を巻くすずかとアリサであった。

 

 

 

「少しは反撃してみたら!

 (こっちの攻撃が全然当たんない!

 まるで、雲を攻撃しているみたいだわ!)」

 

傍目には鈴が押しているように見えるが、なのはたちの言ったことを

最も肌で感じているのは、対戦している鈴自身であった。

いくら、攻撃してもまるでダメージを与えている手ごたえを感じない

ことに焦りを募らせていく。

 

「(パワーやISの操作技術は、明らかに鈴が上だ……!

 でも、太刀筋は見切ったし、焦り始めているな。

 反撃するなら……ここだ!)

 うおりぃぃぃゃあああ!!!」

 

鈴の焦りを見抜き、一夏に攻勢に出た。

迫る双天牙月を雪片で受け止めるのではなく、その勢いを

受け流すようにすることで、鈴の態勢を一瞬崩しその隙を逃さず

一夏は鈴を蹴り飛ばした。

 

「くっ!」

「うおぉぉぉ!!!」

 

一夏の思わぬ動きと予想外の体術による攻撃を受けた鈴だが、

素早く態勢を立て直して、追撃に備えようとするが一歩遅かった。

パワーでは負けていても、機動性やスピードは白式の方に分があり

鈴が立て直すより一歩早く、一夏は攻撃を仕掛けられる距離まで

迫っていた。

 

「このぉ!これでも、喰らえ!」

「っ!」

 

甲龍の肩アーマーがスライドした瞬間、一夏の脳裏に嫌な予感が

駆け巡り、何かを避けるように動いた。

直後、一夏が避けた先で何かが地面をえぐった。

 

「なんだ、今のは!?」

「なっ!

 龍哮(りゅうほう)を避けた!?

 なら、連射はどう!!!」

「くっ!」

 

鈴の“見えない”攻撃に、一夏は受け流すのではなく回避に全力を注いだ。

 

 

 

「なにが起きているんだ……?」

 

管制室にいた箒は鈴が何をしているのか分からず、呆けた声を

出してしまう。

 

「あれは『衝撃砲』……」

「空間自体に圧力をかけて砲身を生成して、

 余剰で生まれる衝撃をそのまま砲弾として打ち出す……」

「わたくしのブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器

 ですわね」

「しかも砲身斜角に、ほぼ制限がないみたいだから死角と

 呼べるものが存在しない。

 その上、鈴ちゃん自身基礎をしっかりと身につけているわ」

 

箒の問いに代表候補である簪、シャルロット、セシリアが鈴の使う

武器を解説しそれに付け加えるように楯無が、鈴への評価を述べた。

 

「相手が射撃攻撃をするなら、一夏もあの飛ぶ斬撃を使えば!」

「無理よ」

 

一夏の厳しい戦況に、箒がならばと打開策を提案するが楯無に却下された。

 

「な、なぜですか!?」

「前に一夏くんも言っていたけど、あの技は溜めが必要なのよ。

 でも、鈴ちゃんの衝撃砲の発射速度はその溜めより短いから

 構えて動きを止めたら一夏くんは、恰好の的になるわ。

 セシリアちゃんの時は、虚をついた形で放ったけど

 鈴ちゃんは、一夏くんをなめていないみたいだから

 普通にやったら、当てるのはまず無理ね」

「そんな……」

 

楯無の厳しい分析に、箒は何も言えなくなり視線をモニターに移す。

そこには、龍哮をかろうじてかわしている一夏の姿があった。

 

「織斑くん、押されてますね……」

「思ったより、やりますね凰鈴音……!」

「鈴ちゃんは、一夏との付き合いもそれなりにあるから、

 ある程度は一夏の動きも分かるんだろうね~

 (それにしても、動きがしっかりしているな。

 余程いい教官がいたようだね~)」

「お前ら、するなとは言わんがあまり贔屓するような発言はつつしめ。

 それと、メイザース。凰はお前のクラスだろが」

 

箒たちと同じように、試合を見ていたエレンに真耶、カズキが

一夏よりの発現をしたため千冬はそれをたしなめた。

特に、エレンは自分のクラスの代表が優勢なのに厳しい顔をしているのは

いいのだろうか。

 

「千冬こそ、自分の弟が劣勢なのにかまわないんですか?」

「教師は、贔屓せず対等に生徒に接さなければならん。

 弟が負けそうだからと言って、いちいち騒いだりするものか。

 とりあえず、コーヒーでも飲んで落ち着け」

 

そう言うと、千冬はコーヒーを入れ始めた。

 

「その割には、千冬ちゃんも一夏が負けそうで心配なんじゃな~い?

 今コーヒーに入れてるのは、なん~~~だ?」

「何って、砂糖を……」

 

そこで、千冬は動きを止めた。

自分が持っているスプーンは、砂糖と書かれた容器ではなく

塩と書かれた容器に入っている粉末を掬っていたのだ。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

「ぷっ!くくく……」

 

箒たちは千冬の姿を何とも言えない目で見て、カズキは腹を抱えて笑いを堪えていた。

 

「……、何故こんなところに塩が?」

「さ、さあ……?

 でもあの、なんか砂糖の文字より大きく塩って書いてありますけど……

 あっ!やっぱり、何だかんだ言って弟さんのことが心配なんですね♪

 だからそんなミスを――」

 

一度出した言葉は、消すことができない。

真耶は千冬がやけに静かなのを見て、まずいと察するが

千冬はにっこりと真耶に笑いかけてきた。

 

「山田先生は、コーヒーは甘いのが好きでしたよね?

 どうぞ……」

 

塩が入った容器を傾けてドバドバと塩をコーヒーに注ぎ、それを

真耶に勧めてきた。

 

「へ?い、いやそれ塩!塩がたくさん入って、えええ!?」

「どうぞ……

 熱いので一気に飲むといい」

「だ、だから塩があああ!」

「どうぞ……」

 

何か言ったら、自分も巻き込まれると他のものは目を逸らしているので

真耶に逃げ場などなかった。

 

「ゲホァ!」

「くくくくく……」

 

塩入りコーヒーを飲まされた真耶を見て、更に笑いを堪えているカズキから

“ああ、コイツが仕掛けたな……”

と箒たちは悟った。

 

 

 

管制室でそんなやりとりがされているとは知らず、一夏は必死に

見えざる攻撃の攻略を模索していた。

 

「(セシリアと同じように、鈴の視線から大体の狙いたい箇所

 はわかるけど、このままじゃジリ貧だ。

 何とかして、先手をとらないとこのままじゃ押し切られる!)」

「見えないのに、何でちょこまかちょこまか避けられるのよ!」

「(見えない?そうだ!一か八か……!)」

 

この状況を打開する策を思いついたのか、一夏はワザと隙を作り

鈴の攻撃を誘った。

 

「隙ありっ!

 ……って、えええ!?」

 

必中を確信した鈴だったが、一夏がとった行動を見て驚き固まってしまう。

それは、観客も同じだった。

一夏は龍哮の砲弾をまるで、見えているかのように斬り裂いたのだ。

目をつぶりながら――。

 

「はぁぁぁ!!!?

 り、龍哮の砲弾を斬った!?マ、マグレよマグレ!」

 

信じられない光景に、目を見ていた者全員が目を疑うが一夏は尚も

自分に迫る龍哮の砲弾を目をつぶりながら、斬り裂いていく――

 

「そろそろ、決めるぜ?鈴!」

 

 

 

「なるほど~

 お前はそう来るわけね~♪」

「あの、碓氷先生?

 一夏くんは、何をしたんですか?」

 

管制室でも、一夏の行動にみなが口をあんぐりして驚く中

カズキだけはおもしろそうに笑っていた。

いち早く驚きから回復した楯無が、一夏がやった龍哮の攻略法に

ついて聞いてきた。

 

「あいつは、見えない攻撃を目じゃなくて別のもので見ることに

 したんだよ」

「目じゃない別のもので見るって……」

「よく意味が分からないのですが……?」

「人間は外部からの情報の7割ほどを、視覚から得ている。

 じゃあ、もしもその視覚を封じたら他の感覚はどうなると思う?」

「どうなるって……」

「封じられた視覚を補おうとして、鋭くなりますね」

「そう。

 視覚に回していた分の力と補おうとする分を合わせて

 聴覚はより小さく遠い音も聞こえ、

 嗅覚はかすかなにおい、空気が焦げるようなにおいも嗅ぎわけ、

 肌は空気の流れを感じるようになる」

 

カズキの説明に、彼女たちは言葉を失っていった。

確かに理屈でいけば、そうかもしれないがそんな簡単に実行に

移すことができるものなのか。

 

「一夏は今、龍哮が撃たれる際の発射音、空気の流れや砲弾が

 通ることによる空気がこげるにおいとか、目を開いていちゃ

 見ることも感じることも難しいものを、“目”以外で見ることで

 戦っているんだよ。

 

 ISのハイパーセンサーなら、

 それを見ることは朝飯前なんだろうけど一夏はまだ完全に

 使いこなすことはできない。

 だから――」

「まだ信頼できる自分の感覚で戦うために、目を閉じたのだろ?」

「さっすが、千冬ちゃん♪

 一夏のことよ~くわかっていらっしゃるぅ♪」

「うるさい……」

「それに一夏は空間認識能力も鍛えているから、

 目をつぶっていても、いやつぶっているからこそ

 相手の位置がわかるからね」

「空間認識能力って、ものを立体的にとらえるあの……?」

「そう、それ。

 空中だと、自分や相手の位置を把握する上で重要な力さ。

 お手玉とか絵柄の書いていないパズルなんかが、鍛えるのに

 いいんだよね~」

「だから、一夏はセシリアと戦う前に……」

「おっ!どうやら、決めるみたいだね~」

 

 

 

一夏が見せた思わぬ龍哮破りに、未だに鈴が混乱から抜けきれないことを

感じた一夏は一つの切り札<カード>をきった。

 

『瞬間加速(イグニッション・ブースト)』、外部からエネルギーを

取り込み一瞬でトップスピードまで加速する技法である。

間合いが重要な近接タイプには、役立つ技法だと千冬に叩きこまれたのだ。

その傍らで、カズキがおもしろそうに見ていたのは

今はどうでもいいことである。

 

「うおおお!!!」

「っ!?」

 

瞬時に自分との間合いを詰める一夏に対し、回避は不可能と判断した

鈴はとっさに腕を交差して防御の姿勢をとった。

 

ドガアアアァァァァァンンンンンッッッ!!!!!!!!!!

 

一夏の攻撃が鈴に当たろうとした瞬間、アリーナ全体に衝撃が走り

ステージ中央から土煙が上がった。

同時に、緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。

 

「なんだ!?」

 

一夏は土煙が上がっている中心を油断なく見据えて、何が起きても

対応できるよう雪片を中段に構える。

アリーナにはISの攻撃が観客席に、届かないよう遮断シールドという

ものが張られている。

ISの武器でも破ることが困難なシールドを破って“何か”が、

侵入してきたことから一夏は警戒度を最大限に上げていた。

 

『一夏、試合は中止よ!すぐにピットに……』

 

鈴からの個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)が飛ぶやいなや

白式のハイパーセンサーが緊急通告を行う。

 

――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。

 

「あぶねぇっ!?」

 

同時に一夏はその場から鈴の元へと飛び彼女を抱き抱えて

上昇すると、先程まで一夏と鈴がいたそれぞれの場所を

熱線が通り過ぎた。

 

「喰らったら、火傷で済みそうにないな……」

「ちょっ、ちょっと、馬鹿!何してるのよ、離しなさいよ!

「馬鹿はお前だ!こんな時にって

 お、おい、コラ!暴れるなって!」

「もう、バカバカバカバカバカァ!」

 

一夏は鈴を横抱き、つまり女の子の永遠の憧れの一つお姫様だっこを

している。思わぬ形で想いを寄せている男に、そんなことをされたら

恥ずかしがるのも無理はない。

 

その光景を見ていた管制室で、氷河期が訪れていることを

一夏は知らない――

 

「落ち着けって!

 お客さんが姿を見せるぞ!」

 

一夏がそう言うと、先程の熱線で土煙が晴れていき

乱入してきたものの姿が現れてきた。

 

ISに関して素人である一夏からしてもその侵入者の姿は、

『異様』だった。

手は異常に長く、地面にまでついており、肩には甲龍の龍哮に

似た砲門が付いてた。

そして全身の至るところには、姿勢制御のためと思われるスラスター

がついており何よりも目につくのは

『全身装甲(フル・スキン)』であることだ。

ISの防御はほとんどが、シールドエネルギーによって行われるため

装甲と言うのは部分的にしか存在しないのだが、この侵入者は

全身が装甲で覆われているのだ。

 

「お前は何者だ……」

「…………」

 

一夏はいつもより声を低くして侵入者に問いかけるが、

反応はなかった。

 

『織斑くん!凰さん!

 今すぐアリーナから脱出を……』

「っ!」

 

真耶からの通信が入るが、一夏はそれを無視して鈴を抱えていた腕を

離すと侵入者へと斬りかかった。

 

『織斑くんっ!』

「一夏っ!」

 

ガギィーーーン!!!

 

一夏が振り下ろした雪片は、容易く侵入者に腕でガードされてしまう。

 

「おりゃあ!」

 

だが、一夏は防がれることをわかっていたのか、侵入者に両足で蹴りを

入れその反動を利用して距離をとり、侵入者の上空周りを旋回し始める。

 

侵入者は頭部についていたセンサーレンズを不気味に動かして

一夏に狙いをつけて、ビームによる攻撃を仕掛ける。

 

「ちっ!やっぱりか!」

「何してんのよ、一夏!」

 

龍哮で牽制しながら、鈴は一夏の元にかけつけた。

 

「あんなのあたしたちが、やらなくても学園の先生たちが

 対処してくれるのに、何で倒そうとしてんのよ!」

 『凰さんの言うとおりです!

 すぐに、教員部隊を向かわせますから無茶しないでください!』

「いや、そういうわけにはいかないみたいです。

 アイツ最初に、俺や鈴に向かって攻撃してきました。

 今も観客席には攻撃せず、俺に向かって攻撃してきている。

 となると奴の狙いは俺か鈴の可能性が高い。

 もしもここから避難したら、最悪……」

「観客に向かって攻撃する……」

「しかも、観客席を守るためのシャッターも下りていない上に

 避難もできていないようですし、ここは俺と鈴で

 何とかしますから先生たちはみんなの避難をお願いします!」

『ダ、ダメです!生徒にそんな危ないことをさせられません!』

「鈴はどうする?

 俺がやるから、お前は別に山田先生の言うように、避難してもいいんだぜ?」

「バカ、言ってんじゃないわよ!

 あんた一人置いて尻尾巻いて逃げろって言うの!

 あたしだってやってやるわよ!」

「決まりだな。

 じゃあ、先生。そういうわけなので、よろしく!

 通信、終わり!」

『ちょっ!織斑くん!』

「それじゃ、行くぜ鈴!」

「ええ。足引っ張るんじゃないわよ!」

 

一夏は通信を切ると、鈴と共に謎の侵入者へと向かっていった――

 

 

 

「くくく、さぁ~て?どうなりますかね~?」

 

 

 

 

 




今回は、前からやりたかった目をつぶって見えない龍哮を斬る
というのを一夏にやってもらいました~

活動報告でちょっとしたお知らせがあるので、よかったらそちらも見てください。

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