インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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最新話、思ったより早く仕上げられました。


騒動の終結と新たな嵐の前触れ

IS学園の屋上。

もうすぐ、日が沈む時間帯であるためかそこに人影は見当たらなかったが、

屋上のとある一角に突如リュウケンドーがブレイブレオンを呼び出した魔法陣

によく似たものが出現し、その中からレオントライクに乗ったリュウケンドーと

セシリア・オルコットが姿を現した。

 

「ふぅ~」

『何とか、終わったな』

「な、なにがどうなっていますの……?」

 

息を吐き、気を抜くリュウケンドーとゲキリュウケンとは対照に、

セシリアは混乱していた。

 

リュウケンドーが呼び出した白いライオンがバイクに変形して、自分を

襲っていた“怪人”を追いかけたと思ったら数分で戻ってきて、

更に新たに取り出した鍵をゲキリュウケンに差し込んだと思ったら、

足元に魔法陣が現れそれが上にあがり、自分たちの体を通過したかと

思ったら屋上にいたのだ。

混乱しない方がおかしいだろう。

 

「しっかし、驚いたぜ。

 いきなり、奴らの結界の気配を感じた時は……」

『全くだ。

 だが、展開されたのが私たちの近くだったのは幸運だったな……』

 

 

 

セシリアとの試合後、ISの規則本を渡された一夏は部屋への帰り道を

同居人である箒だけでなく、シャルロットや楯無、簪とともについていた。

 

当然、箒は何故かと噛みつくが楯無は“鉄は熱いうちに叩け”と試合の反省会を

一夏の部屋で行うと言うのだ。

初心者である一夏では、気付かない問題点等を指摘して今後の訓練課題を

試合の感覚を忘れない内に一夏にも自覚してもらおうと。

 

もちろん、これを建前にして一夏にアタックするのは目に見えているので

シャルロットと簪も自分たちも参加すると言ってついてきたのだ。

 

正論ゆえ、箒は悔しそうにするしかないのだが一夏は

何故、箒がそんなに悔しがるのかわからず頭を傾げるだけであった。

 

そんな中、何の前触れもなく一夏とゲキリュウケンは結界の気配を

感知し、持っていた本を箒に預けて現場に駆け付けたのであった。

 

 

 

「お前の言うように、結界が展開される時に近くにいれたのは

 ラッキーだったな」

『ああ、奴らが標的を逃がさないようにする結界は近距離まで

 近づかなければ、存在自体を認識することさえ難しいからな……』

 

一夏たちが先程までいた結界は、以前ゲキリュウケンが展開したものとは

異なり、見つけたり感じたりすることが困難なのである。

 

ゲキリュウケンが使用したものは、彼ら魔弾龍の力を扱える才を

持っている者やなのは達のように魔法を扱えるものなら見ることも

何かあると感じることもできる。

そして、“怪人”が使ったのは獲物を逃がさずまた余計なものに

邪魔をされないようにするために隠密性に優れており、目と鼻の

先ぐらいまで近づかなければ何かあると違和感さえ覚えることが

できないのだ。

 

「まあ、とにかく無事に終わったからめでたしめでたし♪

 ……とは言えないよな~」

『一週間で二体……、私たちの知らないところで

 かなりの数が潜伏している可能性があるな……』

「あなた!その傷は!?」

 

一夏とゲキリュウケンが、当たって欲しくない予想を考えながら変身を解くと

セシリアが、驚きの声を上げた。

一夏は制服を着ているのだが、いたるところがボロボロで

血が滲んでいる箇所もあるのだ。

 

「ん?

 ああ、さっきの戦いのだな、こりゃ。

 部屋に戻る前に、カズキさんとこにでも行かないと」

「な、なにを呑気なことを言って……!

 早く手当てしないと!」

 

まるで、すりむいた程度でしかないという一夏の態度に、セシリアは

若干、呆れを含んだ怒鳴り声を上げる。

 

「そんなに、怒鳴るなよ。

 こんなのいつものことだし」

「いつものことって……」

 

何でもないように言う一夏に、セシリアは言葉が詰まってしまう。

目の前の彼は何と言った?

いつものこと?

こんな傷を負うような戦いを、何度も経験していると言うのか?

 

「あ、あなたは一体……」

「俺か?俺は、この相棒のゲキリュウケンと力を合わせて戦う

 魔弾戦士リュウケンドーの織斑一夏だ♪」

「魔弾戦士リュウケンドー……。

 あなたは……あなたは何故、わたくしを助けたんですの?」

「はい?」

 

呆然とするセシリアの問いに、一夏は間抜けな声を出した。

 

「だって、そうじゃないですか!

 散々、あなたのことを侮辱したわたくしを何故、そんな傷を

 負ってまで助けたんですの!!!」

「お前……馬鹿なのか?」

「なっ!?」

『典型的な頭でっかちだな』

「あ、あなたたち!」

 

真剣に問い掛けるセシリアに対し、一夏とゲキリュウケンは呆れ声で答えた。

 

「あのな、人を助けるのにいちいち理由なんかいらないだろ?」

『セシリア・オルコット。

 こいつに大層な理由を求めるのは、無駄だぞ。

 困っているやつを見かけたら、考えるよりも先に体が動く

 正真正銘の“バカ”だからな』

「おい、バカって何だよ!」

『そのままの意味だが?』

 

開いた口がふさがらないとはこういうことを言うのだろうか?と

セシリアは、自分を無視して口喧嘩を始める二人?を見て

何故自分を助けたのかと真剣に考えていたことが馬鹿らしく

思えてきた。

 

「と・に・か・く!

 お前の言う通りなら、お前も何で俺を助けたんだ?」

「そ、それは……」

「そういうことさ。

 人間、追い詰められた時はうだうだ考えるんじゃなくて、

 魂に刻まれた本能で動くのさ」

「本能……」

 

あっけからんと言う一夏の言葉を反芻しながら、セシリアは自身の胸に

今まで感じたことがない暖かなものが湧きあがるのを感じた。

 

「さてと!

 今日はもう遅いから、詳しい説明は今度でいいか?

 他にも同じように、説明しなきゃいけないメンツは結構いるからさ。

 後、今日のことは内緒にしてくれるか?」

「えっ?ええ、構いませんわよ……!」

『これは……落ちたな』

 

一夏の頼みに、先ほどまでとは違う赤い顔であたふたと答えるセシリアに

ゲキリュウケンは、またかな感じでため息をついた。

 

「それじゃ、一緒にカズキさんとこに行くか。

 俺だけじゃなく、お前の手当てもしないといけないからな」

「……!!!?」

『(ああ……。カズキが笑い転げる姿が目に浮かぶ……)』

 

セシリアの手を握り、屋上を後にしようとする一夏と

更に顔を赤くするセシリアの姿を見て、ゲキリュウケンはこれからのことを

考えて遠い目をしながらつぶやいた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それ、本当なん。リイン?」

 

一夏たちが屋上を後にしたのと同じころ、

はやては、自室でなのはとフェイトの二人と一緒に今日の試合についての

話をしていた。

ちなみに、同室であるシャルロットは箒たちと一緒に一夏の部屋で

彼の帰りを待っていたりする。

 

飛び方こそ、ぎこちなかったが一夏の戦い方や動きは素人ではなく、

明らかに“戦い”を経験したものであったからだ。

 

普通の一般人だと思っていた一夏が、只者ではないことから今後の

動きを相談していたところリインが一瞬だけだが魔力反応を感知したのだ。

 

「はい。一瞬だけでしたが、Sランク相当の魔力を感知しました」

「何かの間違いで済ますのは簡単だけど、Sランクって……」

「一週間前に見た結界もあるし、

 もし本当なら私たちと同ランクもしくは

 それ以上の人がいるということ……まさか一夏が?」

 

魔導士には、持っている魔力量及び技量を考慮した上でのランクが存在する。

あくまで、目安ではあるがおおよその強さを測ることができる指標でもある。

今回リインが感知したのは、Sランクと時空管理局でも数えるぐらいしかいない

ものであり、なのはの言うように何かの間違いと断ずるにはあまりに大きすぎた。

 

「う~ん、一夏くんか……。

 もし、そうやと仮定すると碓氷先生あたりが魔力を察知されないように

 細工を講じているとしてもおかしくないけど、何の確証もない……」

「そうだね」

「何より、そうやったとして二人とも何か悪いことをしとるわけやないしなぁ~

 でも、一夏くんが私らのように普通ではないことを経験しとるのは明らかや。

 今必要なのは、とにかく情報。

 気が引けるけど、一夏くんをはじめ碓氷先生のデータも見直してみよ!」

 

 

 

「――てなことになっているだろうね、今頃~」

『だろうね~って、おいおい大丈夫なのかよ。そんなんで』

 

場所は変わりここは教職員の部屋の一つ、カズキの部屋である。

そこでは、カズキがパソコンをいじりながら、ザンリュウジンと

雑談をしていた。

 

「大丈夫も何も、一夏のことは調べられてもよく俺に鍛えられた

 ぐらいしかわからないさ。

 リュウケンドーの戦いは主に現実から切り離される結界の

 中でやっていたから痕跡は、ほとんど残らないしね~」

『一夏はそうだが、お前のことはどうなんだよ?

 お前、元々“この世界”の住人じゃないだろ?』

 

そう、カズキは別の世界からやってきた人間なのだ。

そうなると、戸籍等から足がつく可能性があるのだが……

 

「そこら辺のでっち上げにぬかりはないさ。

 まあ、それでもなのは達はともかくクロノとか言う奴やはやて当たりは

 何かおかしいって思うだろうけどな~♪」

『その割には、楽しそうだな』

 

自分のごまかしがばれるかもしれないというのに、カズキに焦りはなかった。

 

「俺の故郷やこの世界は、管理局が管理していない管轄外の世界。

 あいつらに罰することなんて、できやしないさ。

 それに、あちらも別世界の住人をこの世界の人間としてごまかしているしね。

 そんなことより、こっちの方が重要だ……!」

 

カズキはおもむろに度の入っていない眼鏡をかけ、指でクイッとあげた。

 

「ふふふ、こうも早く新しい奴を落とすとは、一夏め」

『ああ~あの金髪の子か~』

「相手は、お嬢様だから感覚や常識は多少独特のはず……

 ということは、これまでとは違ったおもしろいものが

 見られるということだ!!!」

 

自分たちの元に手当てと服のごまかしを頼みにきた一夏たちの

姿を思い出しながら口角を上げて、

心底楽しそうにカズキはガッツポーズをした。

 

『俺たちの本来の仕事よりも優先するのがそれかよ、……はぁ~。

 ……まっ、俺も同感だけどな♪』

「当分は、いろいろと退屈しなくて済みそうだね~ザンリュウ♪

 フフフ……、ハハハハハ!!!!!」

 

マッドサイエンティストのように笑い声をあげて、

部屋の光に映し出されるカズキの影にこうもりのような羽や尻尾が

生えているように見えるのは気のせいだと思いたい――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

サァァァァァ……。

 

セシリア・オルコットは、いつもより熱いシャワーをその身に浴びて物思いに

耽っていた。

 

「今日はいろんなことがありすぎですわ……」

 

圧勝で終わると思っていた試合は、いいように踊らされて敗北。

その後に、見たこともない怪物に襲われ、自分を負かした男に助けられ――

 

「……/////」

 

そこまで考えてセシリアは、体中が熱くなるのを感じた。

シャワーを浴びるのとは違うそれは、どこか心地よかった。

 

そこまで考えると、セシリアは自分の父のことを思い浮かべた。

名家であるオルコット家に、婿入りした彼はどこか人の目を気にしてばかりの

人であった。

 

反対に彼女の母は強かった。

世の中が今のような女尊男卑になる前から、いくつもの会社を経営し成功を

収めていた。

厳しかったが、セシリアは母の自分を撫でる手が好きだった。

自分もこんな強い女性になりたいと憧れた。

 

しかし、ISが発表されると父の態度は卑屈になっていき、母はそんな父を

鬱陶しいと思ったのか、家族三人で過ごす時間は減っていった。

 

そんな二人を見て、セシリアは父のような情けない男とは結婚しないと

思うようになっていった。

 

そんな中、一つの事件が起きる。

セシリアの両親が鉄道事故に巻き込まれ、帰らぬ人になったのだ。

 

いつも、別々であった二人が何故その日は一緒にいたのかは

セシリアにも誰にもわからなかった。

 

残された彼女は、悲しみに浸る間もなくオルコット家当主として

動き始めた。

 

母が築き上げた財産を金の亡者から、守るために彼女はあらゆることを学び、

たまたま受けたIS適正テストでA+という結果を出した。

政府は、彼女の国籍保持のために様々な好条件を提示し、

セシリアは両親の遺産を守るためにその条件を呑んだ。

 

そして、イギリス代表候補生として、第三世代ブルー・ティアーズを

与えられIS学園にやってきて、織斑一夏という“龍”に出会った――

 

最初はどこにでもいる女に媚びるしかない男だと思っていた。

だが、違った。

 

彼は、自分よりも広く世界を見ていた。

彼は、我が身を楯にしても馬鹿にしてきた自分さえ助ける騎士だった。

彼は……自分よりも気高い魂を持っていた――

 

そこまで考え、ふと思った。

空が青く、赤くなるという面があるように

両親にも自分が知らない面があったのではないだろうか?

自分が、彼のことを何も知ろうとしなかったように……。

 

「織斑一夏……」

 

何気なしにその名を呟くと、彼のことで頭がいっぱいになった。

彼に自分の名を呼んでほしい――

その目で見つめてほしい――

彼と――

 

 

 

余談だがその晩、唐変朴Iに恋する乙女たちは自分たちと同じであり敵となるものが

現れるという予感を感じていた。

 

 

 

 

 

「それでは、一年一組の代表は織斑一夏くんに決定しました♪

 がんばってくださいね、織斑くん!」

「はい?」

 

翌日、一組のSHRで告げられたことに一夏は呆けた声を上げた。

 

「あの~、山田先生?

 確か、クラス代表は勝敗にかかわらずもう一回採決を

 取るんじゃありませんでしたっけ?」

「それは、わたくしが辞退したからですわ」

 

一夏の疑問に、山田先生の代わりにセシリアが立ちあがって説明した。

その佇まいは、凛としていた。

 

「昨日、わたくしに勝利した一夏さんをみなさんが代表に選ぶのは

 至極当然の流れ……

 だからこそ、自分でその身を引いたのですわ。

 

 そして、この場を借りて皆さんに謝罪します。

 先日の代表候補生にあるまじき発言の数々、申し訳ありませんでした――」

 

深く頭を下げて謝るセシリアの姿に、クラスメート達は唖然とした。

 

「ちょっ、あれどうしたのよ。急に?」

「う~ん、なのはちゃんがO・HA・NA・SIしたわけやないし」

「はやてちゃん、放課後遊びに行くからね?」

 

昨日までの姿と打って変わった姿に、アリサがヒソヒソ声でつぶやき、はやては

余計なことを言って、また“ゆっくり”するはめになりそうである。

 

「そ、それでですね?

 数々の無礼のお詫びに、一夏さんにはISのことをご教授しようかと/////」

 

先程までのいいとこの令嬢な雰囲気はどこにいったのやら、頬を染め

誰が見ても恋する乙女だと答える姿で、一夏にISのことを教えようかと

提案してきたが、そうはいくかと行動するものたちがいた。

 

「そんなものは必要ない。

 一夏に教官は事足りている。

 何せ、国家代表や私が教官をしているのだからな!」

「うん、それに僕もケガが治って、今日からISも使えるしね!」

 

セシリアに反論するのは、恋する乙女の箒とシャルロットであった。

二人とも、もっともな理由で退けようとするが本心ではこれ以上

ライバルが増えてたまるかと思っているのがバレバレである。

 

ちなみに、シャルロットのけがはねんざで

それ程重いものではなかったのだが、

父親から治らないうちにISに乗ったりしたら、IS学園の入学は

代表候補生だろうが、テストパイロットだろうが

遅らせるとまでも言われていたため、クラス代表には立候補せず

今までの一夏の特訓も座学を見るのがメインだったりしたのだ。

 

「くっ!で、ですが一夏さんは明らかに近接戦闘型。

 一人ぐらいは、遠距離のスペシャリストがいてもよろしいのでは?」

「じゅ、銃なら僕が教えられるもん!」

「そうだ!一夏は剣がメインなのだから

 ……そのわ、私なら訓練相手にちょうどいいのだ/////」

「いや~ワクワクするね、こういうの♪」

「くっ!こんなにあっさり、女の子を落とすなんて聞いていないわよ!」

 

箒、シャルロット、セシリアの間で一触即発の空気が流れ、一方で

はやてはその空気を楽しみ、アリサは一夏のジゴロ能力のスペックに

驚愕していた。

 

「騒ぐな、ガキども」

 

そんな立ち入るのに躊躇するような空気をものともせず、

三人の頭を出席簿で叩き鎮圧したのは、一夏の実姉にして彼女たち

の最大の壁である千冬であった。

 

「十代の乙女が力を有り余しているのはわかるが、あいにく

 今は、私が担当する時間だ。

 騒ぎたければ、放課後にしろ」

「ははは……」

「さ~~~てと、うまい具合に話がまとまったところで、

 賭けの清算をしようか~♪」

 

千冬が力ずくでその場を制圧したのを見て、

一夏は苦笑いを浮かべこれでこの騒動は終わりかと思ったら、

カズキが邪悪な笑みを浮かべて、話に入ってきた。

 

「賭け?」

「負けた方が恥ずかしい写真をバラされるってやつ♪」

「はっ!」

「ああ~」

 

今の今まで忘れていたのか、セシリアは驚きの声を上げ一夏は呑気な声を上げた。

 

「それじゃ、公~~~開」

「ちょ、まっ……!」

 

セシリアが止める間もなく、黒板に一枚の写真が映し出された。

 

「どんな秘密なのかな~って……、オイィィィィィ!!!!!」

 

写真が映し出されるや否や一夏は大声を上げた。

そこに映っていたのはセシリアの写真ではなく、千冬や山田先生が見た

ズボンの裾を握りしめながらプルプルと震えて涙を流している

ちんまい一夏だった。

 

 

「あっ!ごめんごめ~ん、間違えちゃった☆」

「間違えちゃった☆、……じゃねぇぇぇぇぇ!!!

 わざとだろ絶対!!!!!」

 

完全な不意打ちに、一夏はパニックである。

 

「「「「「きゃぁぁぁぁぁ/////!!!!!」」」」」

「何!なんなのよコレ!?」

「こんなかわいい生き物がこの世にいていいの!!!?」

「ちんまい子が、羞恥に染まる姿……ハァハァハァ」

 

パニックになる一夏以上に、クラスメートたちはヒートアップして狂喜乱舞である。

 

「「「…………//////////」」」

 

そんな中、恋する乙女たちは静かだった。

どうやら、ちんまい一夏のあまりにかわいい姿にフリーズしてしまったようだ。

 

「ええ~い!静かにしろ、馬鹿者ども!

 子供の写真一枚でいちいち騒ぐな!!!」

「……(それを織斑先生が言うんですか?)」

 

止まることのない花の乙女の暴走を

同じく(恋する)乙女である世界最強のお姉さんが止めようと動くが

その言葉を聞いて、山田先生は何とも言えない表情となった。

 

「山田先生、放課後に格闘戦闘の訓練をしようか?

 相手が気絶するまでのサドンデスだ」

「ひぇ~~~!」

「いや~、平和だね~」

 

カオスとしか言えない教室の中、カズキはどこから出したのか湯呑に注がれた

お茶を飲みながら呑気に空を眺めていた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「では本日より、本格的にIS操縦の実戦を行っていく。

 まずは、基本的な飛行からだ。

 織斑、オルコット、デュノア。

 試しに飛んでみろ」

 

クラス代表が一夏に決定してから、二週間後。

ISに関する基本的な座学もほぼ終わり、今日から実際にISを

動かしての授業がスタートしようとしていた。

 

千冬に呼ばれた三名が前に出ると、その体は光に包まれ

それぞれの専用機、

一夏は白式、セシリアはブルー・ティアーズ、

そしてシャルロットは、白式とは違ったスマートな翼と左腕と一体化した

シールドが目につく橙色のラファール・リヴァイヴ・カスタムII

を展開した。

 

「流石にオルコット、デュノアは展開に問題はないな。

 織斑もまずまずの展開速度だが、熟練した者は1秒とかからず

 展開できる。驕らず焦らず、励めよ」

「本当は、よくできたと言いたいけど、教師っていうのは

 大変だよね~」

 

カズキが千冬の本心?を代弁し、それにふり変えず千冬が裏拳を繰り出し

かわされる光景にも彼女たちはすっかり慣れていた。

 

「この馬鹿は無視して……だ!

 三人とも飛べ」

 

そう言われてセシリア、シャルロットはあっという間に飛び立った。

一夏もそれに続くが、二人に比べて上昇速度は少し遅かった。

動きは悪くないのだが、どこか一歩劣る部分があるのだ。

 

「やっぱり、一夏は飛ぶことにはまだ慣れていないみたいだね~」

「えっ?でも、オルコットさんとの試合の時は……」

「あの試合では、飛ぶっていうより浮いて相手の攻撃を受けるんじゃなくて

 受け流すように動いていたからね~」

「最後の攻撃でも、飛んだというよりISのアシスト機能を利用した

 ジャンプという意味合いが強い。

 飛行能力は代表候補の二人と比べたら、あんなものだろ」

「(それに、一夏は獣王の力を借りて飛ぶことに慣れている分、

 とまどいもあるだろうしね~)」

 

教師陣が一夏の飛行技術を評価しているうちに、

三人は上空約二百メートルの地点まで到着した。

 

「う~ん。やっぱり、なんか違うな~」

『(獣王と心を通わせる感じでやってみてはどうだ?)』

「(やってはいるんだけど、うまくいかないんだよ)」

「一夏、飛ぶときはどんなことをイメージしているの?」

「授業で習った“自分の前方に角錐を展開するイメージ”かな。

 結果は見ての通りだけど」

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分に合っているやり方を

 模索するのが建設的でしてよ」

 

自分の飛び方にしっくりこない一夏に、

ゲキリュウケンやシャルロット、セシリアがアドバイスをするが

その時、乙女の間に火花が散ったのを一夏は気付かない。

そんな乙女がもう一人。

 

「(一夏の奴め。なにをやっているのだ!)」

 

他のクラスメートたちと列に並んでいた箒は、上空から降りてこない

三人を睨んでいた。

会話や、表情など地上から見えるはずもないのだが

なんとなくイチャついているように見えるのは、恋する乙女故か。

ここからでは、どうすることもできない彼女は悔しそうに

拳を握りしめるしかなく、なのは達はそんな箒を

苦笑いして見つめていた。

 

「三人とも、次は急降下と完全停止をやってみろ。

 目標は地表から十センチだ」

「了解です。それではお二人とも、お先に」

 

そう言うとセシリアは、急降下を開始しもう少しで地面にぶつかるという

ところで、体を返し急停止してみせた。

 

「次は僕だね」

 

負けてられないとシャルロットも同じように、急降下と完全停止を

やってのけた。

 

「やるな、二人とも」

 

二人の見事な飛行技術に一夏やクラスメート達だけでなく、なのは達

魔導士も感心していた。

飛行技術の基礎をしっかりしてなければ、今のようなことはできないからだ。

 

「さてと。次は俺の番か」

 

自分も負けてられないと、二人のように一夏は急降下を始めた。

そして、二人が速度を若干緩めて反転した地点より少し手前で

体を反転させようとしたら――

 

 

 

 

 

「誰が激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

「す、すいません……」

 

速度を緩めることなく反転しようとした一夏はそのまま、バランスを

崩して縦回転しながら隕石のごとく、墜落してしまったのだ。

 

『(あちゃ~、やっちゃったね~)』

「(リュウケンドーで飛ぶ感覚でやったみたいだね。

 変身すればセシリアやシャルロットがやったのとは

 違って速度を落とすことなく急停止とかできるから。

 練習あるのみだね)」

 

カズキとザンリュウジンが一夏の墜落の原因を分析し

対策を講じている横で、箒とセシリアは一夏を説教したり心配したりして

口喧嘩をはじめ、その隙にシャルロットが一夏の横について

今の飛行についてレクチャーしていたりした。

 

その後も授業は続き、武器の展開でセシリアが展開時のポーズに

ダメだしをされたり、一夏の展開速度がいまいちだけど

さっきのように本当は褒めたいのにねぇ~とカズキが

千冬の心境を指摘して、いつもの痴話喧嘩を始めるなど

概ね、平和?に授業は終わった。

 

ちなみに、墜落してできた穴は一夏が埋めてなおしました。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「一年ぶりになるのかしらね……日本」

 

ある空港に髪をツインテールにまとめた一人の少女が、到着していた。

 

「さぁ~て、待っていなさいよ一夏!」

 

小柄な体には比べて、大きなボストンバッグを肩にかけ、

IS学園に向かう少女、凰鈴音がどのような嵐を巻き起こすのか。

彼女の目的である一夏は、まだ知らない。

 

 

 

 

 

「……というわけで、お前の力を借りたいんだ」

「ふん!冗談じゃないですよ……。

 旦那の頼みに碌な事があった例なんてなかったじゃないですか」

 

草木も眠る丑三つ時に、人里離れた山奥で一人の男が

腰かけて横に座るものに、頼みごとをしていた。

 

もしも、この光景を見た者は我が目を疑うだろう。

何故なら、男がしゃべりかけて頼んでいる者は……

着物を着た“タヌキ”なのだから。

 

「俺の頼みが……聞けない……ということかな?」

「へっ!ふ、腑抜た旦那なんかこ、怖くなんかないやい!」

 

男の頼みを聞きたくないタヌキだが、

その言葉は強がっているだけであるのは見て取れた。

それを聞くと男は、笑みを浮かべて立ちあがった。

 

「少し……、散歩しながら昔話でもしようか?」

「……」

「どうしたんだい?さぁ……」

 

男は笑顔なのだが、どこか有無を言わせない空気を纏っており

タヌキはゴクリと息を呑み男と共に森の奥へと消えていった……。

 

『コイツと出会ったのが運のツキだね~

 タヌキよ~』

 

 

 

「てめぇ!

 散々、世話してやったこの俺の頼みが聞けないとはイイご身分だな!

 あ゛あ゛あ゛~~~!」

「ぎゃあああああ!!!!!」

 

哀れなタヌキの叫び声が、森に響き渡るが誰の耳に入ることはなかった。

 

「そうか!引き受けてくれるか、ハチ!」

「ええ。わかりやした、何でも協力いたしやす。

 カズキの旦那……」

『ははは……』

 

うれしそうにタヌキことハチの肩を叩くカズキとは対照的に

ハチの頭はタンコブだらけであった。

 

「さてと、後は……」

 

 

 

 

 

「ふふ。そろそろ、次の実験を開始しますか……」

 

新たな嵐の前触れがすでに起きていることを誰も知らない――

 




今回最後に登場したのは、犬夜叉に登場する弥勒の舎弟妖怪、
阿波の八衛門狸(あわのはちえもんだぬき)ことハチという妖怪狸です。
原作同様、カズキにはいいようにパシリにされてますwww
個人的に弥勒が、不良法師として口調が悪くなるシーンが結構好きです♪

今更ですが、一夏が最初に倒したカマキリもどきは
「元気爆発ガンバルガー」の最初の敵、ジョキラー。
ヒョウ怪人は「仮面ライダーアギト」に登場するジャガーロード、
パンテラス・ルテウスをモデルにしました。

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