インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの   作:すし好き

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最新話、出来上がりました。
そして、PVが一万を突破しましたヾ(*´∀`*)ノ
ありがとうございます♪

今回は、タイトルで何が登場するか分かる人にはわかるというwww


勇気の獅子

「な、何が……!」

 

突如、一夏が目も眩むほどの閃光に包まれて困惑するセシリアであったが、その中から見えてきた人影が、閃光を振り払うかのように左手を横に振り抜き表した姿に言葉を失ってしまう。

 

一夏の白式は、工業的なゴツゴツしたフォルムから、

どこか騎士を彷彿させるスマートな形へと姿を変えていた――。

 

「ま、まさか……一次移行(ファースト・シフト)!?

 あ、あなた、今まで初期設定の機体であれだけの動きをしていましたの!?」

 

驚くセシリアをよそに、一夏は本当の意味で

自分の専用機になった白式の感触を確かめていた。

 

「これで、やっと俺専用になったわけだけど……」

 

一夏の目は、機体と同じく姿を変えた武器の名称とその機能にとまっていた。

 

『近接特化ブレード・雪片弐型』

・単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、零落白夜(れいらくびゃくや)使用可能

 

「雪片……、千冬姉が使っていた刀か……。

 でも、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)って、最初から使えるんだっけ?」

「あなた、何をブツブツ言っていますの!」

 

自分を無視するかのような一夏に、セシリアが怒鳴り声をあげた。

 

「ん?いや、なに。

 どんな思惑があるのか知らないけど、俺は俺のやり方で

 歩いていくってことさ」

「はぁ?一体何を……」

 

困惑から抜け切れていないセシリアにかまうことなく、一夏は高度を下げ

アリーナの地面に降り立った。

 

「眼・耳・鼻・舌・身・意・・・人の六根に好・悪・平!!

 またおのおのに浄と染・・・・・・・・・!!

 一世三十六煩悩」

 

一夏は雪片を左手に持ち替えて右肩に担ぐような、

独特な構えをしてセシリアを見据える。

 

「今、俺はお前に大砲を向けている。

 間合いも威力もお前のライフルより上だ。

 お前もがんばったが、これでチェックメイトだ!」

「っ!そんなみえみえのハッタリに、だまされるとでも!!!」

 

どこまで、自分をコケにするのかとセシリアは頭に血が上り、

先ほど一夏に看破されたミサイルをフェイント等をかけることなく撃った。

 

「言っただろ?お前たちの常識をぶっ壊すって!

 くらえ!

 “三十六”……煩悩鳳(ポンドほう)!!!」

 

一夏は雪片をふり抜き、斬撃を……“飛ばした”。

 

「「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁ!!!!!?」」」」」」」」」」

 

カズキ以外のアリーナにいた全員が、ありえない光景に大声で驚いた。

 

その中でも、一番驚いたのは対峙していたセシリアである。

一夏が飛ばした斬撃が、自分が放ったミサイルを斬り裂く光景をまるで

スロー再生させたビデオを見るみたいな感じで、半ば放心状態で見つめるが

飛ばされた斬撃が後、コンマ数秒で自身を襲うというところで我に返り

急いで回避しようとするものの間に合わなかった。

 

「きゃぁぁぁ!!!」

 

主力武器であるスターライトmkⅢが斬り裂かれ爆発し、

セシリアはその爆風で吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ!」

 

代表候補生は伊達ではないのか、数秒で態勢を整え状況を確認しようとするが

一夏にとっては、数秒もあれば十分だった。

 

「おおおおおっ!」

「っ!?

 イ、インター……!」

 

一夏が雪片を左脇に構えて、先ほどとは比較にならないスピードで

こちらに真っ直ぐ向かっているのを見て、セシリアは急いでブルー・ティアーズの

近接武器を展開しようとするが、既に遅かった。

 

「おおおりゃぁぁぁ!!!!!」

 

下段から上段への逆袈裟払いが放たれ、勝負はついた。

 

 

「試合終了。勝者、織斑 一夏」

 

決着を告げるブザーと共に、勝者を告げるアナウンスが青空に

鳴り響いた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ISを使って初めての戦いにしては、よくやったな。

 だが、相手が油断していから勝てたとも言える。

 決して、自分の強さにあぐらをかくなよ」

「そう言ってる割には、うれしそうだよ、顔?」

「そうですよ!こんな短期間に代表候補生に、勝てるぐらいに

 なるなんてすごいですよ!!!」

「それは、やはり一夏ですからね♪」

 

試合終了後、ピット内で一夏は観戦していた教師陣の各々の感想を受けていた。

勝てたのは、あくまでも相手が油断していたからと千冬は釘をさすが、

その顔はうれしそうだとカズキはニヤニヤと指摘し、

山田先生は一夏の戦いっぷりに興奮しっぱなしでエレンは、何故かムフッ!

とした顔で自慢気だった。

 

「あははは……」

「そ、それよりも一夏!

 なんだ、あの技は!」

「あの技って、煩悩鳳(ポンドほう)のことか?」

 

教師陣の感想を一夏が困ったような笑いで、受けていると箒が一夏が最後に放った技に

ついて聞いてきた。

それには他のメンバーも同じで、一夏に視線が集まる。

 

「あれは、遠くにいる相手を斬るための技だよ」

「と、遠くの敵を斬るための技って……。

 い、いや私が聞きたいのはそういうことではなくて……」

「必要性はわかるけど……」

「お姉ちゃん……できる?」

「いや~、流石に斬撃を飛ばすのは……」

 

簡単だろ?と言いたげな一夏に、箒をはじめ国家代表である楯無も

あまりの常識外れっぷりに乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 

「斬撃を飛ばすか……」

「私たちは、如何に相手の攻撃を回避するなりして近づくという

 タイプでしたからね……、今度試しにやってみましょうか?」

「うむ。おもしろそうだしな」

 

一方で、世界最強とそのライバルは一夏の技に興味を持ちやってみようと言うが、

何故できると思うのだろう?

 

「あっ、そうだ!

 ち、じゃなくて織斑先生。

 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)について聞きたいんですけど……」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)。

それは、操縦者とISの相性が最高まで高まった時に発現する固有の特殊能力のことである。

通常は、ISが操縦者に合わせてその能力を最適化する

一次移行(ファースト・シフト)の次に行われる稼働時間や経験の蓄積によって起こる

二次移行(セカンド・シフト)することで発現するのだが、一夏の白式は

一次移行(ファースト・シフト)を終えた時点でそれを発現したのだ。

しかも――

 

「私が使っていた零落白夜(れいらくびゃくや)か……」

「零落白夜(れいらくびゃくや)。

 自身のシールドエネルギーを代償に、

 バリアー無効化攻撃を行い、相手のシールドエネルギーを大きく削る

 千冬の代名詞である、諸刃の剣……」

「千冬ちゃんは、その技を使いこなすことで世界の頂点に

 たったわけだけど、今まで家族……例えば姉妹の操縦者が同じ

 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を発現した

 事例は確認されていない……」

「つまり、どういうことになるんですか?」

「白式は、束さんが作ったかもしれないってことですよ。山田先生」

 

一夏の推測に、皆が息を呑み千冬は目を鋭くした。

 

「その可能性は大だね。

 「せっかく、いっくんがISを使うんだからとびっきりのを

 用意しないとね♪

 そうだ!せっかくだから、ちいちゃんが使ってたのと

 同じのを載せちゃおう♪

 いっくん、ちいちゃんと同じでお姉ちゃん大好きっ子

 だから喜ぶぞ~~~!」

 ってところだろうね~」

 

カズキが呆れ気味に、束の心情を推測して言うと関係者たちは苦笑したり、頭を

押さえたりした。

 

 

「あれ?でも、何で織斑くんは零落白夜(れいらくびゃくや)を

 使わなかったんですか?

 もし使っていたら、シールドエネルギーが尽きて自滅してたかもしれませんが……」

「ああ。

 だって、零落白夜(れいらくびゃくや)は千冬姉のだから、俺なんかが

 いきなり使いこなせるわけないですし、前にそうやって新しい力を調子に

 のって使って、とんでもなく痛い目に合ったことがありますから」

「ようするに、これからはお姉ちゃんにおんぶされるだけでなく、

 自分の足で歩いて強くなっていくってことだね♪」

「言い方が、微妙に気になりますがそんなとこです」

 

一夏の考え方に山田先生は感心し、他のものは恋する乙女特有のフィルターで

数割程かっこよく見える一夏に顔を赤くした。

ちなみに、千冬はそこまで考えて大きくなった一夏の成長にうれしさを感じる反面、

自分から離れて寂しくもあるという、複雑な顔をしていた。

 

「さてと、これからもがんばっていかないとな。

 次にあいつと戦ったら、多分俺が負けるし」

「何を言っているのだ!」

「そうだよ。あの技があれば……」

 

一夏の思いがけない言葉に、箒とシャルロットが慌てて言葉をかける。

 

「だって、今回俺は相手の動きや手の内をある程度調べたりして知ってたけど、

 あっちは知らなかったんだぜ?

 それに、俺が男でドがつく素人って、油断もしてくれていた上に

 煩悩鳳(ポンドほう)っていう切り札がこっちにはあった。

 

 でも今度戦ったら、それの警戒もするし素人だからって

 油断もしてくれないに加えて、煩悩鳳(ポンドほう)は多分、もう通じない」

「通じないって、どういうこと?」

「あの技は、ためが必要で隙がでかいし

 構えでどこからくるっていうのがバレバレなんだよ。

 しかも、斬撃を飛ばすなんて無茶をするから腕への負担も

 洒落にならないんだ。

 実際、今撃った左腕はちょっと痺れて力が入らないし……

 って、何だよみんな。その目は?」

 

一夏が冷静に、自分のことを分析したことを述べたら周りの面々はポカ~ンとした

顔になっており、カズキは面白そうにクククと笑っていた。

 

「お前……、本当に一夏か?」

「ああ、前はすぐに調子にのっていたのに……」

「うん。そうやって、調子にのって痛い目を見たりするやんちゃ坊主だって

 僕、思ってた」

「私も……」

「実際あの時、後先考えず突っ込んでいたしね~」

「昔のバカみたいに一直線も悪くないですが、冷静な一夏もまた/////」

「ち、ちょっと、みなさん!」

「ははは……、あんたら俺をなんだと思っているの?」

『(後先考えずに行動して、すぐに調子にのるバカだろ)』

 

冷静に自分や相手のことを分析する一夏が余程信じられないのか、各々好き勝手なことを

述べるが当の本人は心外と言わんばかりに、頬がひきつっていた。

 

「はぁ~。

 今回は、時間もあったしたまには頭を使ってみようと思って、戦ってみたんだよ。

 でも、やっぱりダメだな。

 疲れるし、俺には合ってないな~」

「だけど、いい経験にはなっただろ?

 お前は、頭を使って戦うタイプじゃないけどおかげで

 戦いの幅が広がったんだから、決して無駄なことじゃないさ」

「確かにそうですけど……」

 

カズキと一夏の師弟とも兄弟とも見えるやりとりに、山田先生以外の

羨望のまなざしはすさまじかった。

特に、千冬は会話がはずむにつれて眉間にしわを寄せていった。

 

途中、そのことを指摘していつもの痴話喧嘩が始ったり、山田先生に渡された

「IS起動におけるルールブック」という規則本のぶ厚さに驚いたりして、

一夏のIS初試合は幕を閉じた――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「負けた、このわたくしが……」

 

一夏たちとは反対のピットで、セシリアは呆然としていた。

相手は所詮、礼儀も何も知らない男。

自分が負けることなど万に一つもないと思っていた……。

 

だが、結果は敗北。

それも一夏が立てたほぼ筋書き通りに――。

 

「…………」

 

いつまでも、ここにいるわけにはいかないとセシリアはピットを後にしたが、

その足どりは重かった。

 

思えば、一夏は今日の試合に勝つために自分の戦闘映像を見たりして

少しでも勝率を上げるための努力をしてきたのに、自分はどうだ?

 

イギリスでやっていた通常のトレーニングはしていたが、今日の試合に

備えて何かやっただろうか?

 

本当なら、もっと戦えたのに――。

もっとうまく、ブルー・ティアーズを駆れたはずなのに――。

 

「っ!」

 

そう思うと、セシリアの胸に悔しさが今になって湧いてきた。

それは敵愾心などではなく、強者に勝ちたいという勝利の渇望でもあった。

 

「次は必ずっ……!」

 

セシリアが次に戦う時は、自分が勝つと決意すると同時に、世界から

色が消えた――。

 

「い、一体何が!?」

 

突然の事態に慌てて、周りを見ると周囲の風景は色が失われた以外は、

何も変わっていないように見えるが、人間が生活しているという生気が

全く感じられないことに、セシリアは冷や汗が背中に流れるのを感じた。

 

人間のいや、生物としての本能がここにいたらマズイと警鐘を鳴らし、

すぐにこの場から離れようとした時、背後からガサリと何かが草を踏む

音が聞こえセシリアは何かに操られたかのようにゆっくりと、振り向いた――。

 

「クフフフ――」

 

そこにいたのは、人であって人でないものだった。

姿かたちは人間のようだが、その顔はヒョウそのものであり、体もヒョウが二足歩行

になったかのように、しなやかな足と爪を持ち合わせていた。

 

「あ、あああ……」

 

いつものセシリアなら、例え目の前に常識を疑うような“怪人”が現れたとしても

ISを起動して迎撃に移っただろうが、彼女はそれをできなかった。

体の内からあふれる恐怖が、彼女の体を強張らせ動けなくしていたのだ。

 

現れた“怪人”は、そんなセシリアを心底おもしろそうに嘲笑い、

その気になれば1秒とかからずつめられる距離を

わざと一歩一歩ゆっくりと彼女の恐怖心を煽るように近づいていった――

 

「ブ、ブルー・ティアーズ!!!」

 

セシリアは強張った体を何とか動かし、

自身の愛機であるブルー・ティアーズを起動するが

一夏との試合で武装はほぼ全て破壊されている上に装甲にも亀裂が走っていた。

だが、ブルー・ティアーズが展開されたのと同時に、“怪人”は一気に距離を詰め、

セシリアに襲いかかって殴り飛ばした。

 

「きゃあぁぁぁ――!!!!!」

 

とっさに、両腕をクロスしてガードするもののその衝撃を受け止めきれず、

10数メートル程後ろに吹き飛ばされ、地面に横たわってしまう。

 

「うっ……」

 

セシリアは、消えそうになる意識と鳴り響くアラームの中で驚愕していた。

いくら、試合後でダメージが残っている状態とはいえ、ただの拳でISに

ここまでのダメージを与えたこととそれから導き出される事実に。

 

「(あ、相手はふ、普通ではありませんわ!

 に、逃げないと……はっ!?)」

「フフフ――」

「イ、インターセプター!!!」

 

セシリアの頭に反撃するという行動はよぎらず、

とにかくこの場から、あの怪人から逃げようとする。

それは、頭で考えたことではなく根源的な生物としての本能からだった。

 

しかし、逃げようと立ちあがった彼女のすぐ目の前まで“怪人”は接近しており

その爪で引き裂こうと右腕を振り上げるのを見て、セシリアは反射的に近接武器を

呼び出した。

 

「フンッ!」

「くっ……!」

 

振り下ろされた爪をショートブレードのインターセプターで受け止めるものの、

想像以上の“怪人”の腕力に顔を歪めてしまう。

 

“怪人”は、今度はこっちだ!と言わんばかりに左の爪を下から振り上げるが

セシリアは何とか、体を捻ることでインターセプターを滑り込ませることで

防御するが、すると必然的に“怪人”は右の爪で攻撃を仕掛けてきた。

 

「っ!このっ!」

 

そんな攻防が続く中、セシリアはふとあることに気付いた。

今日、戦った一夏と違い自分の近接戦闘の能力はそれ程高くないのに、

どうして“怪人”の攻撃をさばけているのか――。

どうして“怪人”は攻撃を防がれているのに愉悦そうに顔を歪ませているのか――。

 

「(まさか、遊ばれている?

 この、セシリア・オルコットが!!!?)」

 

辿り着いた答えにプライドの高い彼女は一瞬で、頭が沸騰しそうになるが、

攻撃を受け続けて罅割れたインターセプターが砕かれてしまい、一瞬だけ

そのことに意識が向いてしまう。

 

戦闘において、一瞬でも意識が逸れてしまうのは致命的であり、その一瞬が

セシリアと“怪人”の戦いにもならない戦いの勝敗を決定づけてしまった。

 

「―――ッッッ!!!」

「……っ!?」

 

形容しがたい咆哮と共に、“怪人”は今までとは比べ物にならない速度で拳を

ふり抜き、セシリアは声を出す間もなく吹き飛ばされてしまった。

 

「……っ、げほっ!げほっ!」

 

再び横たわってしまったセシリアは、必死に空気を取り込もうとせき込むが

目を開けたすぐ横におかれた爪を見て、おそるおそる視線を上げた先にあるものに

声を失ってしまった。

 

「クフフフ――」

 

「これで、ゲームセッッット♪」、そう言わんばかりに歪んだ“怪人”の顔が

そこにはあり、自分に向かって振り下ろさんとされる爪を見て、

セシリアはもうダメだと目を瞑った……。

 

だが、振り下ろされた爪がセシリアを斬り裂くことはなかった――。

 

ガキ―――ン!!!

 

金属と金属がぶつかるような音が響き渡り、

セシリアが目を開けるとそこには――

 

「……ったく、カマキリもどきの次はヒョウ人間かよ。

 虫、動物ときたら、この次に出てくるのは魚か?」

『そんなのが出てきたら、さばいてやれ』

 

巨大な剣で“怪人”の爪を受け止めた織斑一夏であった――。

 

 

 

「うおりぃぁぁぁ!!!」

 

一夏は、受け止めた爪を押し返すのではなく、円を描いて力を受け流すように

ゲキリュウケンを動かして弾き、“怪人”を蹴り飛ばした。

 

「あ、あなた何で……。

 それに、さっきの聞こえたもう一人の声は……」

「質問は、あいつを倒した後でいくらでも答えてやる。

 いくぞ、ゲキリュウケン!」

『いいのか、無関係の人間の前だぞ?』

「そんなことを言っている場合じゃないだろ」

『そう言うと、思ったよ』

 

呆れ気味に応えるゲキリュウケンであったが、その声はどこか誇らしげでもあった。

 

「リュウケンキー!発動!」

『チェンジ!リュウケンドー!』

「ゲキリュウ変身!」

 

ゲキリュウケンから飛び出た龍が、一夏に向かい瞬時に変身が完了する。

 

「光と共に生まれし龍が 闇に蠢く魔を叩く!リュウケンドー!ライジン!」

 

 

 

セシリアは、目の前で起こっている事態に思考がついていかなかった。

突如、世界から色が消えたと思ったら、“怪人”としか言いようのない

怪物に襲われ、極め付きは自分を倒した男が日本の特撮ヒーローのような

姿に“変身”したことだ。

 

「行くぜぇぇぇ!!!!!」

 

リュウケンドーと名乗った彼は、蹴り飛ばした“怪人”に向かって走り出し、

手に持つ巨大な剣を振り下ろして戦闘を開始した。

 

果敢に攻めていくその姿に、彼女は気付かぬうちに拳を握りしめていた――。

 

 

 

「はっ!」

 

リュウケンドーは、先手必勝とばかりにゲキリュウケンを上段に構えて

振り下ろすが“怪人”は、両手の爪でそれを受け止めた。

 

「っ!……、なら!」

 

だが、リュウケンドーは慌てることなく数歩ほど下がり

大きく振りかぶるのではなく、連撃で攻め始めた。

威力よりも、速さを重視した連続攻撃に“怪人”は防戦一方になるが、

こちらもまた、隙をついて後ろに大きく飛んで後退して距離をとった。

 

そのまま追撃を仕掛けようとするリュウケンドーだったが、戦士としての勘が

危険を知らせ、その場に踏みとどまった。

 

「何かあるな……」

『あのカマキリは、本能で動いていたがコイツは明らかに知性がある……。

 油断するな!』

 

互いの武器である、ゲキリュウケンと爪を構え睨みあう二人だったが、

先に“怪人”が動いた。

 

地面を確かめるように足を動かした次の瞬間、リュウケンドーの目の前に移動した。

 

「『なっ!?』」

「は、速……!」

 

その速さに驚くリュウケンドーたちを余所に、“怪人”はその爪を振り上げた。

 

「うわぁぁぁ――!」

 

攻撃を受けて火花を散らしながら、吹き飛ばされたリュウケンドーを逃さんと

今度は、“怪人”が連続攻撃を仕掛けてきた。

 

「なめるなぁッ!」

 

先程の“怪人”のように防戦となるリュウケンドーだが、ゲキリュウケンで

爪をなんとかはじき返すものの、“怪人”は瞬時に距離を開けてその攻撃を回避すると

先ほどと同じ速さで距離をつめ攻撃を仕掛けてきた。

 

「おわっ!」

『一撃一撃の攻撃の重さはともかく、この速さはっ……!』

 

“怪人”の攻撃は、さほど重いものでもなく、“攻撃”の速さも対処できる

ものであったが、離脱と接近の際のスピードのせいで攻めあぐねていた。

 

こちらとの距離を瞬時に詰め、攻撃を仕掛けそれをさばいて、反撃の攻撃を

しようとしたら離脱してそれをかわし、再び攻撃を仕掛けてくる。

そうやって持久戦に持ち込まれたら、リュウケンドーの敗北は必至であった。

 

リュウケンドーこと一夏の体力は、鍛えているため普通の人間よりもあるが、

それは人間の領域内の話である。

前回、倒したカマキリや現在戦っている“怪人”という

常識の枠から外れている存在と持久戦による体力比べをしたら、

先に体力が尽きるのは、人間である一夏の方である。

 

『このままでは、まずい!

 獣王を呼べ!』

「わかった!

 レオ……、やばい!」

 

ゲキリュウケンから、状況を打開するための魔弾キーの使用を促されるが、

“怪人”が取った行動にリュウケンドーは驚愕した。

 

「えっ……?」

 

“怪人”は、突如矛先をリュウケンドーから戦いを見ていた

セシリアへと変えたのだ。

思考が追いつかないセシリアは、呆けた声を出し無防備な状態であった。

 

そんなセシリアの視界に映ったのは、“怪人”の爪ではなく鎧に包まれた

背中であった――。

 

 

 

「くそぉぉぉ!!!」

 

“怪人”の狙いに気がついたリュウケンドーは、

セシリアを助けようと駆けだした。

幸いにも、リュウケンドーの方が“怪人”よりもセシリアに近かったが、

それでも移動スピードを考えると、間に合わうかどうかはギリギリであった。

 

リュウケンドーは、セシリアと“怪人”の間に何とか体をねじ込ませるが、

防御態勢をとる間もなく、“怪人”の攻撃が直撃してしまう。

 

「ぐわぁぁぁっ!」

『一夏!』

 

スピードにのって繰り出された攻撃は、今までのものよりも重く、

リュウケンドーは衝撃でゲキリュウケンと、握っていた魔弾キーを落としてしまう。

 

吹き飛ばされ、地面を転がされたリュウケンドーは攻撃を受けた箇所を押さえながら

ふらふらと立ちあがろうとすると、彼の体を衝撃が襲った。

 

「がはっ!」

「クフフフ――」

 

“怪人”は、武器を失ったリュウケンドーにここぞとばかりに攻撃を仕掛け始めた。

 

『くっ!あいつめ、彼女を狙えば一夏が庇うと分かっていたな!

 このままでは……』

 

ゲキリュウケンは“怪人”のやり方に歯噛みし、同時にそこまで

頭が回ることに驚愕していた。

今まで倒してきた敵ならここまで“成長”するのに、もっと

時間がかかったはずなのだ――。

 

「わ、わたくしのせいで……!」

『おい、セシリア・オルコット』

「誰ですの!?」

 

自分を庇ったことで、窮地に陥った一夏を見て顔を青くするセシリアに、

ゲキリュウケンは話しかけるが、姿が見えない声に驚かれてしまう。

 

『ここだ、ここ。

 一夏が持っていた剣だ!』

「け、剣がしゃべった!?」

『いろいろと聞きたいことがあるのはわかるが、

 今はこの事態を打開するのが先だ。

 とにかく、私とそこに落ちている鍵を一夏の元に届けてくれ!』

「届けろって……」

 

セシリアは、戦闘を続けている一夏と“怪人”の方を見ると

さっきと同じヒット&ウェイの攻撃を手の装甲で防いでさばいている

リュウケンドーの姿が映った。

 

『このままでは、いずれ敵に押し切られてしまう。

 投げるだけでいい!早く私を一夏の元に!!!』

「で、ですが……」

 

助けを求めるゲキリュウケンに、セシリアは答えられなかった。

もちろん、一夏が男だから助けないとかそんな理由ではない。

一夏と“怪人”の戦いを見て、分かったのだ。

自分と戦っていた時の“怪人”は完全に、獲物をいたぶる感覚で

いたことを。

 

もしも、今繰り出しているような攻撃を最初から仕掛けていたと思うと

体が恐怖で震えるのを止めることができなかった。

その恐怖から、戦いに割って入るのを躊躇わせたのだ。

 

『教室での威勢は、どうした!

 自分よりも強い奴には敵わないと尻尾を巻いて逃げるのか!』

「ば、馬鹿にしないでください!

 このセシリア・オルコット!

 命を救ってくれた恩人を見捨てるような、恩知らずではありませんわ!」

 

ゲキリュウケンは、後込むセシリアに発破をかけるようなことを言い

見事にのせることができた。

その時、ゲキリュウケンが内心でニヤリと笑ったのに、彼女は気付かなかった。

 

「こ、これは……!」

 

セシリアはゲキリュウケンを握ると、自身の恐怖心が薄れていくのを

感じた。

 

『気がついたか?

 今、この辺りは人間の恐怖心を増大させる結果に覆われているんだ。

 君が必要以上に、恐怖を感じていたのはそのためだ。

 そして、私は人間が持つその恐怖を打ち払う力を増大させることができる。

 もっとも、その力を持っていなければ増大させることなどできないがな』

「恐怖に打ち勝つ力?」

『説明は、後回しだ!

 とにかくタイミングを見て私を一夏に向かって投げ、

 その後に鍵も投げるんだ!』

「分かりましたわ!」

 

セシリアは、力強く答えるとゲキリュウケンを握る力を強め、

一夏に渡すチャンスを窺った。

 

そして、“怪人”が離れた時を見計らって……

 

『今だ!』

「はい!織斑さん!」

「っ!」

 

セシリアはゲキリュウケンを投げ、リュウケンドーはそれを受け取ると

そのまま体を勢いに任せて回転させ、向かってきた“怪人”を斬りつけた。

“怪人”は、反撃されるとは思わず、

その攻撃をまともに喰らってしまい、のたうち回った。

 

『セシリア・オルコット!

 今のうちに鍵を!』

「はい!」

 

セシリアは拾い上げた鍵をリュウケンドーに投げ渡した。

 

「よっしゃぁ!

 今度こそ。レオンキー!召喚!」

『ブレイブレオン』

「いでよブレイブレオン!」

 

ゲキリュウケンから光が放たれそれが、魔法陣を描くとそこから

リュウケンドーと同じく白い装甲に包まれ、しかしどこか生命の息吹を

感じさせる獅子が召喚された。

これこそ、魔弾戦士と共に戦う地球の精霊の一体、ブレイブレオンである。

 

「グオォォォ!!!!!」

 

ブレイブレオンは、吠えるとすぐに“怪人”へと向かっていき攻撃を仕掛けた。

爪で引き裂かれ、牙で噛みつかれて振り回された地面に叩きつけられた“怪人”は

分が悪いと判断したのか、持ち前のスピードを最大にして逃亡を図った。

 

「逃がすか!

 ブレイブレオン、ビークルモード!」

 

リュウケンドーがそう叫ぶと、ブレイブレオンの足は全て折りたたまれ収納され

変わりに車輪が押し出されブレイブレオンは三輪のバイク、レオントライクへと

変形した。

 

「はっ!」

 

リュウケンドーは、レオントライクに乗り込むと“怪人”を追跡するために

走り出した――。

 

 

 

走り続ける“怪人”は、やられた傷を押さえながら逃亡していたが

目的は果たしたのかほくそ笑んでいた。

だが、次の瞬間に聞こえてきた音にその笑みは崩れてしまう。

 

「ッ!?」

「待てぇ!!」

 

自分と戦っていたリュウケンドーが追いかけてきたのだ。

慌てて“怪人”は、走るスピードを上げるものの、またたく間に追いつかれてしまう。

 

「ヒッ!」

「はぁぁぁ……はっ!」

 

“怪人”は悲鳴を上げるものの時既に遅く、

リュウケンドーはすれ違いざまに、ゲキリュウケンで足を斬りつけた。

 

「ッッッ!!!!!」

 

“怪人”は声にならない悲鳴を上げ、地面を転がった。

 

「止めだ!ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

 

リュウケンドーは、レオントライクを反転させ止めの一撃を放とうとする――。

 

「三位一体!ゲキリュウケン魔弾斬り!!!」

 

レオントライクを走らせ、その勢いを上乗せしてゲキリュウケンを

ふり抜きリュウケンドーは“怪人”の体を真っ二つに斬り裂いた。

 

「闇に抱かれて眠れ――」

 

リュウケンドーが、静かに言い終わるのと同時に“怪人”はこの世界から

消失した――

 

 




今回のサブタイはずっと前から、決めていたんですがこれだと某勇者王の獅子にもとれると気がつきましたwww

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