弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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やべ、艦これの方が進んでいない。


午前10:53

「よっと、やれやれ」

 

喫茶アーネンエルベの路地裏。

全身刺繡男ことアヴェンジャーが溜まったゴミを出していた。

現在アーネンエルベはアヴェンジャー、マジカルアンバー、カレンの3人で運営しており力仕事はアヴェンジャー担当であった。

 

カレンはこうした力仕事をもっとも不得意としていたし、アンバーは調理に忙しい。

ゆえに、配膳担当のアヴェンジャーがこうした力仕事全般を担当していたが流石に疲労を覚えつつあった。

 

おまけに今はモーニングを終え、ランチタイムに入りつつある時間帯。

配膳だけでも大変にも関わらず、こうした雑務に追われているのだから仕方がない。

会計でカレン、調理はアンバーとある程度役割分担をしているためどこぞの牛丼チェーンのごとく。

一人で何でもしなければならないことはないが、それでもオーバーワークであることには変わりがない。

 

「というか、あの自称魔法少女が言っていた援軍はいつ来るんだ?」

 

だから、周囲に人がいないためアヴェンジャーがボヤく。

というか、今日の働きに給料でるのか?と疑問を覚えた所で人の気配。

それなら特にアヴェンジャーは気にしなかった。問題はその人物が発する気配が堅気のものではなかった。

 

そう、とても濃厚な魔の空気を纏っていた。

 

「っ……おいおい、こんな昼間っから…………はい?」

 

反射的に振り返り、右歯噛咬(ザリチェ)と左歯噛咬(タルウィ)を具現化する。

最弱を自認する英霊であるが、それでも意地というものがあり戦闘準備を整える。

もしも、相手が自分に敵意をむき出しにした瞬間、立ち向かうつもりであったが、アヴェンジャーは絶句した。

 

確かに堅気の雰囲気ではない。

だがその人物は何故かしま○ろうの着ぐるみを着込んでいた。

 

「……もしかして、アヴェンジャー?」

 

しま○じろうから声が漏れる。

年齢性別が不詳であったが、少女であるらしい。

この姿をあまり人前で出さず、かつ知っている人物は限られている。

にも関わらず、開口始めに自分の名前を言い当てたこの少女は何者か?

アヴェンジャーは警戒心と疑問が内心で浮かんだが、その思考は一度中断された。

 

「あ、弓塚さん来てくれたんですね!」

 

アンバーこと琥珀が裏のドアから顔を出し、少女の名前を呼んだ。

どうやら、目の前の着ぐるみの少女がアンバーが言っていた助っ人らしい。

にしてもここまで強力な魔が喫茶店の助っ人とは……と、自分の事を棚に上げてアヴェンジャーは呆れる。

 

「ああ、琥珀さん。いくらこれで日中歩けるとはいえ、この姿は狙っているでしょ!!」

「当然じゃありませんか!似合ってますよ」

 

ああ、そういえば声がしま○ろうに似ているどころかまんまだな。

とアヴェンジャーが悟り、いい感じに割烹着の悪魔に玩具にされてるのを見て。

思わず自分とカレンの関係を連想させ、親近感が沸いた。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

はい、久しぶりに出番をいただいた弓塚さつきです。

志貴が幼女に手を出して思わずドン引きした、歌月十夜。

エジプトニーソと出会い、ボクが余計なことを知っていたせいで面倒になったメルブラ。

 

等などと色々あったけど、現在遠野家に居候状態。

扱いとしては遠野家専属の何でも屋で琥珀さんの実験台から始まり夜の見回り。

裏世界の揉め事の解消、屋敷の清掃など本当に色々やっている忙しい日々を過ごしている。

 

いや、本当に色々あった……。

志貴がレンに手を出したことを知ったアルクェイドさんは別に気にしてなかったけど、

シエル先輩はマジ切れで黒鍵片手に志貴を追いかけ回していたし、巻き込まれたボクは志貴のラッキースケベの被害にあった…。

 

おまけに、メルブラではボクが余計な知識を持っていたせいで、

不安要素と捉えたシオンが本気で殺しに掛かって来たし、ワラキアはボクの知識を元に強化するわで散々だった。

 

ワラキアの能力でFateのサーヴァントが再現され、真正面から戦ったせいで両腕をぶった斬られた。

あの時、首が胴から分かれなかったのは本当に運がよかった、というか二度と思い出したくない出来事だ。

まあ、流石に古の英雄達を再現し続けることはワラキアのキャパシティを超える行為だったから、最終的には自滅したけど。

 

けど自滅したとはいえ、その状況に持ち込むまでに粘ったボク達の勝利であることに違いなく。

その夜は遠野の屋敷で勝利を祝い、始めはボクを殺しに来たシオンと友情を結んだ。

 

彼女はボクが転生者であることを知る唯一の原作キャラだ。

そして、その秘密を共有する仲間であり、共に見果てぬ未来を目指すことを約束し合った。

 

でも、翌日シオンが志貴のベットにいたけど!

裸だったし、シーツに赤い染みとかあったし、どう見てもベットウェー開戦の後でした本当にありがとうございました。

それを発見した翡翠さん悲鳴で集まってきた女性陣がホイホイと食った絶倫眼鏡を吊るし上げ、大騒ぎする中シオンが、

 

「魔術師として子孫を残すのは義務であり責務です。

 彼の異才をエルトナムに取り組みたいと考えています。

 それに、その…彼には女性として私は惚れています、というわけで、志貴を婿に下さい、秋葉」

 

顔を赤らめつつも、これ以上ないドヤ顔で言って、

途方にくれる秋葉さんを始めとする面々が妙に印象に残っている。

といか、シオンさん、貴女原作では淡い恋心を抱きつつも三咲町を去るはずだったけど何故にここまで積極的なんですか?

 

その後、当然ながら大反対な女性陣により大乱闘(ガチ)が勃発。

黒鍵が壁を貫き、吸血鬼の爪が柱を打ち壊し、怒り狂う鬼が床を破壊。

そこにタタリの残骸が加わり、わけの分からない状態になり魔女の大鍋とはこのことか、と納得する以外なかった。

 

本当、色々あったなあ……。

 

おっと、ここだな。

ええっと、何度か来たけど喫茶アーネンエルベの裏口は……なんだあの男?

アーネンエルベのウェイターの姿をしているけど、顔全体に刺繡を入れ込んでいるし。

 

いや、待て。

バンダナ、いや赤い布を頭に巻いた黒髪。

それに、背丈は一度アーネンエルベで見たことがある人物にそっくりだ、とすれば。

 

「っ……おいおい、こんな昼間っから…………はい?」

 

と、答えを口にする前に向こうが振り返った。

両手に物騒な代物をこっちに向けて、直後に絶句した。

 

あ、うん。

その気持ちは痛いほど分かるよ。

何せ今のボクの姿は某教育番組に登場する虎のきぐるみ姿だから。

 

そんなのが街中にいるのは正直ない。

けど、こうでもしなければ太陽を浴びればたちまち灰になってしまう吸血鬼である自分には必要なものだから。

仕方がない、といえば仕方がないのだけどしま○じろうとか、琥珀さん分かっていたでしょ?

 

さて、それは置き。

眼の前で絶句している青年の名は、多分もしかして。

 

「……もしかして、アヴェンジャー?」

 

あ、正解のようだ。

アヴェンジャーの言葉に向こうは反応した。

けど、どうやら向こうは自分を知らないようで警戒している。

……しまった、アヴェンジャーとは会ったことがないから警戒して当然か。

 

というより、本来ならボクと彼とは会うはずがない仲だ。

方や夜にしか動けない吸血鬼、方や幻のような存在と接点がない。

しかも、お互い住んでいる場所は三咲町と冬木とまったく違う所である。

 

けど、こうして出会ってしまったのは、

これも全てあらゆるご都合が許される喫茶店アーネンエルベの奇跡と言うべきか。

 

「あ、弓塚さん来てくれたんですね!」

 

なんて、思いに浸っていたらボクをここに呼んだ琥珀さんが出てきた。

肩には黒いマントを羽織り、頭には猫耳、そして服は妙に短い裾をした改造和服姿だった。

ニーソックスと裾の間にある絶対領域がとても眩しい……じゃなくて、今の琥珀さんはマジカルアンバーのようだ。

 

「ああ、琥珀さん。いくらこれで日中歩けるとはいえ、この姿は狙っているでしょ!!」

「当然じゃありませんか!似合ってますよ」

 

やっぱり、狙っていたか畜生め!

まあ、それでも支払いがいいからここに来たけど、いい加減真意を聞くとしよう。

 

「で、琥珀さんがわざわざボクをここに呼んだのは、

 ただ喫茶店の援軍だけではないと思うのだけど、どうかな?」

 

「おっ、御明察です。

 喫茶店のお手伝いなら翡翠ちゃんにもできますからね~」

 

楽しそうに向日葵のような眩しい笑顔を浮かべる琥珀さん。

けど、内心はさながら魔女の大鍋で煮込みまくって黒焦げになるほど腹黒であるのをボクは知っている。

そして、琥珀さんは騒動を起こし、楽しむ人間であり、何かを企んでいるのは確かであった。

 

「実はですね……」

 

直後、破壊音が喫茶店から轟いた。

 

「わっ!?」

「おいおい、何だこれは?」

「しまった!まさかこんなに早く来るなんて……っ!!」

 

ボク、アヴェンジャー、琥珀さんの順に反応する。

いや待て、「こんなに早く来るなんて」とはどういう意味だ?

 

「説明は後です!ヒロインの座を狙う憎っくきあの化け猫たちがまたやって来たのです!」

 

化けネコ?化けねこ?化けぬこ、化け猫……って!

 

「ネコアルクのことかーーー!!」

 

見たことないけどいるのか!

二次だと落書きみたいな姿をしていたけど、三次元だとどう見えるんだ!!?

気持ち悪い、あるいはキモ可愛い(リーズバイフェのみ)とコメントしていたけど。

 

というか、アレはヒロインというよりマスコット。

あるいはクリーチゃー枠の存在なのに何故にヒロインの座を狙うのだろう…。

 

「さあ、弓塚さん!ヒロインの座を死守するために行きましょう!」

 

そう言うと琥珀さんはどこからか箒を持ち出し、

両手に派手な原色入りの注射器を指に挟み、よく知るマジカル・アンバーのポーズで構えた。

 

「カカ、オレは主人公枠だが助太刀するぜ。

 丁度給仕作業で疲れてきたからな、殺し合いで気分展開だ」

 

ニタニタ笑みを浮かべるアヴェンジャー。

両手には歪に曲がり、禍々しい装飾をなされた武器を握っている、殺る気満々である。

 

はあ、まったく。

来て早々騒動に巻き込まれるとか、実に面倒だ。

しかし、これも琥珀さんから頼まれたバイトの内と思えば気が楽である。

 

ゆえに、拒否する理由もない。

 

「じゃあ、思いっきり暴れていいのだよね琥珀さん?」

 

「もちろんです!そのために呼んだのですから!

 あ、安心してください、店の被害請求は全て化け猫と秋葉様に押し付けますから!」

 

「ケケ、いいぜ、いいぜ、最高だなぁ!」

 

よし、決まりだ。

 

「了解、行こうか」

「はい!」

「おう」

 

そして、しま○じろうの着ぐるみ、全身刺繡男、コスプレ少女。

という我ながら奇妙で個性的な3人はカオスの世界である喫茶「アーネンエルベ」に突撃した。

 

 

 

 


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