漆黒の剣閃   作:ファルクラム

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第20話「スタイリッシュ強襲」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜であるにもかかわらず、ナイトレイドのアジトではどんちゃん騒ぎが興じられていた。

 

 もっとも、今日くらいは無理のない話とも言える。

 

 何しろ、エスデスに拉致されて、半ば軟禁に近い形にあったタツミが、自力で脱出してきたのだから。

 

 その際、敵の追撃を受けて負傷する事態になったが、どうにかインクルシオの透明化機能を使い、切り抜ける事に成功したのだとか。

 

 以前のタツミなら、交戦して切り抜ける道を選択したはずである。それを考えれば、少年の着実な成長をうかがわせる話だった。

 

 こうして敵を振り切る事に成功したタツミは、ダメージで動けなくなっていたところを、キリトたち同様、捜索に来ていたアカメとラバックに助けられ、帰還する事に成功したのだった。

 

「それにしても信じられねえ・・・・・・・・・・・・」

 

 ラバックは酒の入ったジョッキを片手に、どんよりした目でタツミを見やる。

 

「あのエスデスが、タツミに惚れるなんて」

「確かにな。何か、悪い夢でも見たんじゃないのか?」

 

 ラバックのボヤキに対し、キリトも大いに同感だとばかりに頷く。

 

 伝え聞くエスデスの凶暴振りを考えれば、とてもではないがイメージに合わなかった。

 

 まことに、天変地異を疑いたいレベルである。

 

 もっとも、当の本人たるタツミはと言えば、それどころではなかったのだが。

 

「ほんと、夢だったら、どんなに良かったか・・・・・・・・・・・・」

 

 そう言って、ガックリと肩を落とす。

 

 他人から見れば羨ましいシチュエーションでも、当の本人からすれば、恥ずかしさと緊張の連続で精神が擦り切れる思いだった。

 

 正直、二度と会いたくない、と言うのが偽らざる本音である。

 

 まあ、その気持ちは痛い程に判るが。

 

「フンッ タツミに最初に目を付けたのは、この私だ。エスデスなんかに渡さないよ」

 

 酒の入った勢いで言い放ったレオーネは、そのままタツミの首に腕を回す。

 

 レオーネの豊かな胸を顔に押し付けられ、赤面するタツミ。

 

 その様子を見て、シノンが呆れたようにため息を吐く。

 

「レオーネと言い、エスデスと言い、タツミ君って、意外と年上にモテるタイプよね」

「好きでそうなってるわけじゃねえ・・・・・・」

 

 贅沢なぼやきを放つタツミ。

 

 そんなタツミに対し、

 

 シノンは口調を改めて尋ねた。

 

「あのさ、タツミ君。イェーガーズの事なんだけど・・・・・・」

「どうかしたのか?」

 

 レオーネの腕から逃れつつ、タツミはシノンに向き直る。

 

 タツミは、ただ無抵抗に連れ去られていた訳ではない。

 

 イェーガーズと行動を共にしている間、彼等の戦力や装備している帝具の特徴をできる限り観察し、それを情報として持ち帰ったのだ。

 

 タツミが持ち帰って来たイェーガーズの情報は、ナイトレイドにとって宝石よりも貴重な物である。これらの情報があれば、今後の戦いを有利に進める事も不可能ではない。

 

 だが、その中で一つ、シノンにはどうしても無視できない情報があったのだ。

 

「メンバーの1人は『アスナ』って言うのよね?」

「ああ、そうだけど・・・・・・どうかしたのか?」

 

 怪訝な顔つきで尋ねてくるタツミに答えず、シノンは考え込む。

 

 まさか、そんな筈はない。

 

 自分の中で浮かんだ考えを、即座に否定する。

 

 同じ名前を持つ人間なんて珍しくない。それは、彼女とて例外では無い筈。

 

「シノン、どうかしたのか?」

「あ、ううん。何でもない」

 

 心配そうに覗きこんでくるキリトに対し、シノンは慌てて首を振る。

 

 そうだ。単なる思い過ごしに過ぎない。きっと別人だろう。こんな事は、よくある話なのだから。

 

 自分の中で無理やり、そのように考えるシノン。

 

 だが、胸の内に浮かぶ疑念は、どうしても消える事は無かった。

 

 

 

 

 

 その頃、

 

 アジトから少し離れた小高い丘の上で、様子を伺う一団がある事に、ナイトレイドの一同はまだ気付いていなかった。

 

 その集団の中央に立つドクター・スタイリッシュは、口元に笑みを浮かべ、彼方にある崖の中腹に建つ人工物を眺めていた。

 

「どうやら、あれがナイトレイドのアジトって事で間違いないみたいね」

 

 自身の勘が当たった事を悟り、スタイリッシュは内心で喝采を上げていた。

 

 きっかけは、タツミだった。

 

 エスデスに見出される形でイェーガーズの補欠となったタツミだが、スタイリッシュは当初から、彼に疑惑の目を向けていた。

 

 一般人の鍛冶屋と名乗ったタツミだが、どうにもスタイリッシュの目には、状況に順応し過ぎているように見えたのだ。

 

 メンバーとも打ち解け、多少の戸惑いは見られたものの、概ねトラブルも無く、イェーガーズに解けこんでいた。

 

 普通の一般人なら、あれほどの異常事態に慣れるのに相応の時間がかかる筈。にも拘らず、入ってすぐに重農を見せたタツミの様子は、スタイリッシュには却って奇異に見えたのだ。

 

 タツミには何か裏がある。

 

 スタイリッシュは、長年、研究の過程で多種多様な人間を見続けてきた観察眼から、そのように結論付けた。

 

 そこで、タツミがエスデスの元から逃げたと聞いたスタイリッシュは、イェーガーズとは離れ、独自の行動に出たのだ。

 

 自身が改造した強化兵を引き連れ、エスデス達とは別行動を取ってタツミ捜索を開始した。

 

 強化兵の中には、感覚器を改造して索敵に特化した者がいる。

 

 スタイリッシュの周囲に取り巻いている3人が、それだった。

 

 巨大な尖ったな鼻を持つ痩身の男は嗅覚を強化した《鼻》。この《鼻》が、逃げたタツミの匂いを追って、アジトの場所を突き止めた。

 

 筋骨隆々とした体躯をしており、革製の衣服に身を包んでいる《目》は、視力を強化しており、どんな細かい物も見逃さない。アジト周辺に張られた糸の結界も、この《目》が見破って無力化している。

 

 3人目の細身で中性的な外見をした男は《耳》。聴覚を強化しており、たとえ数キロ離れた先の囁き声も聞き分ける事ができる。今はスタイリッシュの傍らにあって、情報収集に努めている。

 

「さて、そろそろかしらね」

 

 呟くように、時間を確認するスタイリッシュ。

 

 既に1人、強化兵を先行してアジトへと潜入させている。

 

 そいつの攻撃が、戦闘開始の合図となる予定だった。

 

 勿論、それだけではない。

 

 本格戦闘に備え、自慢の戦闘職も連れてきている。

 

 スタイリッシュは振り返り、彼等に目をやった。

 

「カクサン。あんたの帝具は、メンテナンスするって言う名目で持ち出したんだから、傷付けちゃダメよ」

「ワハハハハハ。俺の頭脳と体力で、使いこなして見せます」

 

 カクサンと呼ばれた巨漢の男は、そう言って豪快に笑いながら、手にした帝具を掲げて見せる。

 

 次いでスタイリッシュは、岩に座って体の調子を確かめている痩身の男に目を向けた。

 

「トビー、アンタは大物狙いよ。いける?」

「最高のコンディションです。誰にも負ける気がしません」

 

 力強い返事が返ってくる。

 

 ほくそ笑むスタイリッシュ。

 

「じゃあ、あなた達もビンビンに暴れて来なさいな。手筈通りにね」

 

 最高の手駒たちを従えたスタイリッシュ。

 

 彼には、勝利以外の結末はあり得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未明。

 

 遅くまでタツミ達とどんちゃん騒ぎをしていたレオーネは、会議室の床で目を覚ますと、未だに眠気の冷めない頭を振りつつ、風呂場へと向かった。

 

 会議室の床には、レオーネに付き合って深酒をしていたタツミとラバックが転がっているのが見える。どうやら、二人とも完全に酔いつぶれてしまった様子だ。

 

 3人の少女達とキリトの姿が無い所を見ると、そちらは早々に自分達の部屋へと戻って休んだらしい。

 

 大きく欠伸をするレオーネ。

 

「まだ、ねむ・・・・・・・・・・・・」

 

 呟きながら、しょぼしょぼする目を擦る。

 

 取りあえず、顔でも洗ってすっきりしたかった。

 

 レオーネは湯船の淵に屈みこむと、湯を手ですくい、顔に持っていく。

 

 程よく湯気の立った湯を顔に付けると、さわやかな気分が広がるのが判る。

 

 それを何度か繰り返すと、ようやく眠気も冷めて来た。

 

「・・・・・・・・・・・・ん?」

 

 その時、

 

 水面の揺らぎの中に、何かが映った気がした。

 

 目を凝らして、水面に顔を近づけるレオーネ。

 

 次の瞬間、

 

 ドスッ

 

 突如、水面下から飛んできたナイフが、レオーネの顔面に突き刺さった。

 

 その間、僅か一瞬。

 

 レオーネには、対応する時間すら無かった。

 

 そのまま、水しぶきを上げて湯の中へと倒れ込むレオーネ。

 

 入れ替わるように、湯の中からナイフを手に男が現れる。

 

 革製のスラックスに、上半身には素肌の上からジャケットを被った、軽薄な印象の男だ。

 

 この男こそが、スタイリッシュが先行して潜り込ませた特殊工作担当の強化兵である。

 

 男は倒れたレオーネを見て、ニヤリと笑う。

 

「けひっ やりましたぜスタイリッシュ様。このトローマが、1人仕留めましたぜ。引き続き、任務を続行します」

 

 そう言うと、トローマと名乗った男は、次なる標的を求めてアジトの中へと足を踏みこんで行った。

 

 彼の役目は遊撃。気配を消して物陰に隠れ、敵が隙を見せた瞬間を逃さず仕留めるのだ。

 

 その実力は、たった今、レオーネを一撃で葬った事から証明されていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・との事です。スタイリッシュ様」

「上出来よ。流石は桂馬の役割。敵地へ飛び込んだわね」

 

 トローマの囁きを察知した《耳》の報告に、スタイリッシュは満足げに頷きを返す。

 

 スタイリッシュは自身の手駒である強化兵達を、将棋の駒に例えている。

 

 斥候役で、常に自分の傍らに置いておく《目》《鼻》《耳》は金と銀、機動力が高く、武術に優れるトビーは飛車、堅い防御で敵陣を蹂躙するカクサンは角行、身軽な動きでトリッキーな戦術を得意とするトローマは桂馬。

 

 そして、この場にいないセリューは、真っ直ぐにどこまでも突撃していく攻撃を得意としている事から、香車に分類している。

 

 当然、王将はスタイリッシュ自身と言う訳だ。

 

 そして、もう一人。

 

 スタイリッシュは、背後に立つ青年にチラッと目をやる。

 

 その男は、本来なら将棋には存在しない駒だが、その戦闘能力の高さは戦闘員の中でもずば抜けている。故にスタイリッシュにとっての切り札のような存在だッら。

 

「あんたも、期待しているわよ。存分に戦いなさい」

「判っています、スタイリッシュ様。どうぞ、ご期待ください」

 

 頷きを返すと、スタイリッシュは再びナイトレイドのアジトに目をやる。

 

 これで狼煙は上がった。あとは一気にたたみかけるのみ。

 

「さあ、チーム・スタイリッシュ。熱く激しく攻撃開始よ!!」

 

 颯爽と腕を振るスタイリッシュ。

 

 同時に、森のあちこちから湧き出すように、強化兵の戦闘員たちが次々と飛び出していく。彼等が将棋で言うところの《歩》と言う訳だ。

 

「いい、なるべく死体は損壊しないように持って帰るのよ!! 生け捕りなんかできた人は、一晩愛してあげるわ!!」

 

 スタイリッシュの激励に答えるように、戦闘員たちが怒涛の如くナイトレイドのアジトへと向かっていく。

 

 その数は100以上。これだけの大兵力を投入すれば、たとえ悪名高いナイトレイドと言えども叩き潰せるはずだった。

 

「しかし、良いのですか? エスデス様に賊の事を、お知らせしなくても?」

「ナイトレイドに、その帝具、こんな最高の実験素材がいーっぱいなのよ。独り占めしないでどうするのよ」

 

 《目》の質問に対し、スタイリッシュは笑みを浮かべながら言う。

 

 ナイトレイド全員の死体が手に入れば、今後の研究も進み、スタイリッシュの夢である、帝具を越えた最高の武器開発も大きく前進する事になる。

 

 セリューを連れて来なかったのも、そう言った事情故である。

 

 イェーガーズに入隊して以来、セリューはエスデスに対して崇拝に近い念を抱いている事は、付き合いの長いスタイリッシュには手に取るようにわかった。彼女に話したら、エスデスに知らされるのは火を見るよりも明らかだった。

 

 たとえ香車(セリュー)がいなくても、飛車と角行、更に切り札があれば、有利な盤面を形成できる自信がスタイリッシュにはある。

 

 更に、

 

 それだけではない。他ならぬエスデス自身の事もある。

 

 帝国最強の武力と、ゆるぎないドSな性格。そして、それを貫き通せる信念。

 

 スタイリッシュにとって、エスデスは正に理想の具現である。

 

 だが、そんなエスデスが、恋をして腑抜けてしまった。

 

 タツミの事ばかりを見て、タツミの事しか頭に無いエスデス。

 

 そんなエスデスなど、スタイリッシュは見たくなかった。

 

 だからタツミは、必ず捕まえて、散々お仕置きして殺してやるつもりだった。全てはエスデスの目をさまし、元のドSでスタイリッシュなエスデスに戻す為に。

 

 ある意味、スタイリッシュもまた、エスデスに惹かれている人間の一人であった。

 

「戦闘員がアジトに突入しました」

「さあ、ショーの始まりね。ゾクゾクするわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異変に、最初に気付いたのは警備担当のラバックだった。

 

 クローステールの糸による結界は、アジト周囲の広範囲に張り巡らせてある。たとえ、どんな存在であっても結界に触れればラバックの知る所となる。

 

 だが、今回の事態は、あまりにも異常だった。

 

 大量の敵が、いきなりアジトの至近に出現したのだ。

 

 こんな事、今まで一度も無かった。アジトに近付こうとした存在は、全て事前に察知できた筈なのに。

 

 ラバック自身は知りえない事だが、張り巡らされた糸は全て、《目》によって事前に察知され、回避されていたのだ。

 

 いかに無限に近い長さを誇るクローステールでも、アジト全体を覆い尽くす事は不可能だった。

 

 既に敵はアジトの内部にまで侵入している。急いで仲間達にも知らせないと。

 

 そう考えた時だった。

 

 突如、天井を突き破り、戦闘員の1人が飛び込んできた。

 

「もう、中まで入られたのかよ!?」

 

 とっさに身構えるラバック。

 

 無表情の仮面の奥で、不気味な眼光が光り、ラバックを睨んでいるのが判る。

 

 次の瞬間、

 

「敵・・・・・・コロス!!」

 

 戦闘員が飛び掛かってくる。

 

 とっさに、身を翻して攻撃を回避するラバック。

 

 同時に戦闘員の首に糸を掛け、そのまま捩じる。

 

 強烈な音と共に、戦闘員の首がへし折れる。

 

 並みの人間なら、これで即死だ。

 

 だが、

 

 驚いた事に戦闘員は、首が折れた状態のまま、更にラバックに襲い掛かって来た。

 

 スタイリッシュの戦闘員達は生命力や生存力に優れる改造が施されている。痛覚も取り除かれている為、多少身体を損壊した程度では動きを止める事は無い。

 

「クソッ!?」

 

 舌打ちしながら回避しようとするラバック。

 

 だが、それよりも早く戦闘員は襲い掛かって来た。

 

 振るわれる腕が、ラバックを襲う。

 

 攻撃は、確かにラバックを捉え、その体を抉る。

 

 こちらも、致命傷級の傷である。

 

 だが、

 

 戦闘におけるしぶとさと言う意味では、ラバックも負けていなかった。

 

「糸には、こんな使い方もあるんだぜ」

 

 ニヤリと笑うと、ラバックは服の下からクローステールの糸を引っ張り出す。

 

 その腹には、幾重にもクローステールの糸が巻かれているのが見えた。ラバックは服の下に糸を仕込む事で、自身の防御力を高めていたのだ。

 

 更なる追撃を仕掛けてくる戦闘員。

 

 だが、今度はラバックも落ち着いて対応する。

 

 複雑に腕を動かし、糸を束ね合わせて槍を形成すると、向かってくる戦闘員目がけて、正面から投擲する。

 

 放たれた槍は、戦闘員の心臓を貫通。そのまま弾き飛ばす。

 

 床に転がる戦闘員。

 

 どうやら今度こそ、完全に仕留めたらしい。

 

「俺は貸本屋だ。糸の使い方なんて、店にある漫画にいくらでも書いてあるのさ」

 

 不敵に笑うラバック。

 

 普段は支援役に徹する事が多いため、目立つ事が少ないラバックだが、その実力は決して低くは無い。雑兵如きで対抗できるはずも無かった。

 

 その時、背後から足音が聞こえ、ラバックは振り返る。

 

「また来やがった・・・・・・の・・・・・・か・・・・・・」

 

 そこで、ラバックは固まった。

 

 視界の中、廊下一杯に溢れる程、戦闘員達が迫ってきている。

 

 床を這いずるようにして向かってくる姿は、まるで大量の虫が湧いてきているようで、かなり不気味である。

 

 ちょっと、予想外の光景だった。

 

 冷や汗を流すラバック。

 

「だ・・・・・・団体さんは、ご遠慮願いたいわけ・・・・・・で!!」

 

 次の瞬間、ラバックは勢いよく踵を返し、脱兎の如く駆け出した。

 

 だが、戦闘員達も一斉にラバックを追って這い寄ってくる。

 

「ウォォォ、けっこう速ェ!!」

 

 後ろを振り返れば、もうすぐそこまで迫っている。

 

 このままでは早晩、追いつかれてしまう。

 

 その時、

 

 低空を跳躍するようにして、戦闘員達の波を飛び越え、鋭く飛び込んできた影がある。

 

 アカメだ。

 

 どうやら、寝ている間に異変に気付いたらしい。チェック柄の可愛らしい寝巻のまま、手には村雨を持っている。

 

 着地と同時に、アカメはラバックを庇うように振り返る。

 

「私の後ろへ!!」

 

 言い放つと同時に村雨を抜刀、襲い掛かってきた敵を次々と斬り捌いて行く。

 

 廊下を埋め尽くす程だった戦闘員達が、次々と数を減らしていく様に、ラバックは口笛交じりに賞賛する。

 

「さすがだぜ、アカメちゃん!!」

 

 ナイトレイドのエースは伊達ではない。雑兵如き、万軍で襲い掛かったとしてもアカメには敵わなかった。

 

 その時、

 

「敵ながら見事な腕前、感服しました」

 

 静かな声と共に、戦闘員達の屍を踏み越え、2人の側近を背後に従えたトビーが、アカメとラバックの前に姿を現す。

 

 戦闘員達が暴れている隙に、彼等主力メンバーもアジトへの侵入を果たしたのだ。

 

 対して、アカメは油断なく村雨を構え直す。

 

 一目で、トビーが尋常な実力ではないと感じていた。

 

 これまでのような雑兵とはわけが違う。油断すれば、アカメと言えども危ないかもしれない。

 

 そう考えた次の瞬間、

 

 腕に仕込んだ刃を展開すると同時に、トビーは床を蹴って疾走する。

 

「我が名はトビー。アカメ殿に一騎打ちを所望する」

 

 言い放ちながら、トビーは壁や天井を蹴ってトリッキーな動きを見せる。

 

 視覚を攪乱しながらアカメへと接近。鋭く斬り掛かるトビー。

 

 しかし、アカメも負けてはいない。

 

 素早く村雨の刃を返すと、襲い掛かってくるトビー目がけて横なぎに一閃する。

 

 交錯する両者。

 

 アカメの刃は、確実にトビーを捉える。

 

 しかし、

 

「この感触は・・・・・・・・・・・・」

 

 刃に伝わる感触が、常の物とは違うと感じ、アカメは警戒を強める。

 

 その証拠に、アカメの剣は確かに命中したにもかかわらず、トビーは平然とした顔で立っている。何より、村雨に斬られたのに平然としていられるのは、明らかにおかしかった。

 

 スタイリッシュによって改造されたトビーは、全身を機械に変えている。その為、村雨の呪毒も効果が無いのだ。

 

 更なる攻撃を繰り出すトビーに対し、アカメも村雨を振り翳して迎え撃つ。

 

 掩護に入ろうとするラバックだが、トビーの取り巻きが邪魔をして来るため、それも果たせないでいた。

 

 

 

 

 

 壁を破壊する形で前庭に飛び出したタツミは、既にインクルシオを着装していた。

 

 着地した先、タツミ達が日々の鍛練で使用している前庭は、既に戦闘員達で埋め尽くされていた。

 

 まさか、ここまでの事態になるとは、思っても見なかった。

 

 だが、感傷に浸っている暇はない。

 

「こいつら、ドクター・スタイリッシュの強化兵か!?」

 

 言いながら、タツミは地を蹴って前へと出る。

 

 群がる敵兵に対し、次々と拳を振るう。

 

 たとえ強化兵であっても、帝具使いの敵ではない。

 

 たちまち、なぎ倒されていく戦闘員達。

 

 タツミは圧倒的な戦闘力を発揮して、彼等を圧倒していた。

 

 その時だった。

 

「おう、出てきた出てきた。鎧の兄ちゃんの相手は、俺がするぜ」

 

 背後からの声にタツミが振り返ると、そこには巨漢の男、カクサンが口元に笑みを浮かべて立っていた。

 

 トビーにやや遅れる形で侵入を果たしたカクサンは、ちょうど飛び出してきたタツミと鉢合わせした形である。

 

 振り返り、身構えるタツミ。

 

 だが、カクサンが背中に背負っている物を見て、思わずタツミは目を剥いた。

 

「ッ その帝具は・・・・・・」

 

 あまりにも見覚えのある帝具。忘れようとしても、忘れられる物ではない。

 

「フフ、良いだろ。《万物両断エクスタス》。ご機嫌な、俺の帝具さ」

 

 巨大なハサミ型の帝具は、間違いな、く亡きシェーレの帝具エクスタスである。

 

 かつて、シェーレが使っていた帝具が敵の手にある。

 

 その光景を見るだけで、タツミの脳は沸騰しそうなほどに煮えたぎった。

 

「それは、手前(テメェ)のじゃねえ!!」

 

 言い放つと同時に、タツミはカクサンに向かって飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 群がってくる戦闘員の群れ。

 

 その頭上から、光の矢が次々と降り注ぎ撃ち抜いて行く。

 

 今日は帝都の部屋には帰らず、アジトの寝室で眠っていたシノンは、襲撃によって目を覚ますと、すぐさまシェキナーを取り出して応戦を始めたのだ。

 

 着替える余裕が無かったため、下着の上から学生服のYシャツを羽織っただけというラフな格好をしているが、この際、そこに気を使っている余裕は無かった。

 

 窓から見える階下には、今にもアジトの建物に入ろうとしている戦闘員達がいる。

 

 そこに狙いを定めると、シノンは光の矢を放つ。

 

 直撃を受けた戦闘員が吹き飛ぶさまを確認すると、すぐさま、次の攻撃に移るシノン。

 

 しかし、敵は後から後から湧き出して来ていた。

 

「何で、いきなりこんな事に!?」

 

 苛立たしげに言いながら、弦を引き絞り矢を放つシノン。

 

 シェキナーの能力アシストによって得られた正確な照準は、戦闘員の急所を正確に撃ち抜く。

 

 既にシノンの狙撃によって、幾人もの戦闘員が倒れているが、群がる波は一向に収まる気配が無い。

 

「クッ」

 

 舌打ちすると、シノンは部屋を飛び出す。

 

 室内の狭い窓からでは、狙撃にも限界があると感じたのだ。

 

 そのまま廊下を走ると、窓を開けて新たなる射点を確保する。

 

 再び弦を引き、矢を放つシノン。

 

 再び始まる狙撃。

 

 光の矢は、正確な照準で戦闘員を射抜く。

 

 しかし、既に戦闘員達はアジトの内部にも入り込んでいるらしい。このままでは、陥落も時間の問題だろう。

 

「とにかく今は、できる事をやるしか・・・・・・・・・・・・」

 

 シノンがそう言いかけた時だった。

 

「おやおや、こんな所に一匹いましたね」

 

 突然の声に振り返ると、そこには長身の青年が歩いて来るのが見えた。

 

 警戒心を顕にするシノン。

 

 それに対し、男は口元に笑みを浮かべて対峙する。

 

「お初にお目に掛かります、ナイトレイドのお嬢さん。私はチーム・スタイリッシュに属するクイントと申します。短い間でしょうが、お見知りおきを」

 

 その落ち着き払った態度に、シノンはゴクリと喉を鳴らす。

 

 かなりの強さである事が伺える。

 

 弓を構えるシノン。

 

 しかし、

 

「遅いですよ」

 

 低い呟きと共に、距離を詰めてくるクイント。

 

 その速度を前に、シノンの照準は間に合わない。

 

 顔を引きつらせるシノン。

 

 やられる!?

 

 そう思った。

 

 揃えられたクイントの指。その先端に光る爪が、怪しい輝きを秘めて、シノンを斬り裂こうと迫ってくる。

 

 スローモーションのように迫る爪。

 

 クイントの攻撃が、シノンを斬り裂こうとした。

 

 次の瞬間、

 

 ガキンッ

 

 金属音が鳴り響き、クイントの体は大きく弾かれる。

 

「むっ!?」

 

 衝撃と共に、後退を余儀なくされるクイント。

 

 対してシノンは、シェキナーを胸に抱くようにして立ち尽くしている。

 

 そんな中、

 

 シノンを守るように、漆黒の背中が立ち出でる。

 

「うちのお姫様に、勝手に手ェ出してんじゃねえよ」

 

 鋭い声で言い放つと、キリトはエリュシデータの切っ先をクイントに向けた。

 

 

 

 

 

第20話「スタイリッシュ強襲」      終わり

 


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