億万+一々 (おくまん たす いちいち)   作:うぇろっく

5 / 42
第三話 彼女の思い出

私の名前はエイブリー。14歳。種族はエルフです。

家族はお父さんとお母さんとお兄ちゃんと、私を含めた四人家族です。たまに喧嘩する事もあるけれど、すぐに仲直りします。とっても良い家族だと自慢出来ます。そのおかげで、毎日の生活はすごく充実しています。

 

少し前に私は、「私達エルフはとても賢いので、その知識や技術を人間が狙っているから気を付けなさい」とお父さんから教わりました。実際に、二軒離れた同い年の女の子の友達も、薬草を取りに行った時に人間に捕まりそうになりました。その時は大人のエルフ達が、その女の子が連れ去られる前に人間から助け出したので無事でした。

 

そういう訳で私達エルフは、人間が踏み込めない森の奥深くで暮らしています。地図はないし、霧が深いので普通はたどり着けません。そのおかげで、人間に見つかることは絶対にありませんでした。

 

だけどその日は霧が薄くて、里はある人間に見つけられてしまいました。そう、それが悪夢の始まりでした・・・

 

 

 

 

 

 

私の里へ人間達が侵攻して防壁が破られたとき、戦う準備をしていたお父さんとお兄ちゃんは人間達との戦場へ行き、私とお母さんは里のみんなと一緒に避難所に隠れていた。すると、遠くからドーンという音と共に、地響きが伝わってきた。おそらく戦場はここから近いのだろう。

 

そんなことを考えていた瞬間、崩れて空いた壁の穴から何かが入ってきた。その「何か」は地面に落ちてコロコロと転がると、白い煙を勢いよく吹き出し始めた。

 

避難所の中のみんなは突然のことにパニックになりながら、ゲホゲホと咳こんでいる。煙を吸い込んだみんなは倒れこんだり、喉を抑えて言葉にならない声をあげたりしていたけれど、すでに煙は避難所の大部分に広がっていて5m先も見えないような状態だった。

 

私は煙の無い所にいこうとするも、視界の悪さとパニック状態の影響もあり、安全な場所を見つけられずにいた。とにかくこの場所から移動して離れようとしても、周りはみんなが動き回っていて身動きがとれない。

 

すると、どうしたらいいか分からずアタフタしていた私は左腕を急にグイッと引っ張られた。突然の事で驚いたけど、よろけた先にいたのは私の腕をしっかり掴んだお母さんだった。

 

「エリー。この避難所には緊急時の地下通路があるの。あなたはそれを使ってここから逃げなさい。通路にそって真っ直ぐ進めば、里の裏山に出られるから」

 

「で、でも!それじゃあお母さんは!?」

 

「私はここで大人達と一緒に人間達を食い止めるわ」

 

「駄目だよ!お母さんも一緒に逃げようよ!!」

 

「・・・ごめんね、エリー。私だけあなたと一緒に逃げることは出来ないわ。エリーと一緒に生きたいけれど、私達は誇り高きエルフよ。ここから先は言わなくても分かるわね?」

 

「・・・じゃあ、また後で会えるって約束してくれる・・・?」

 

私は涙でいっぱいの目で、輪郭が歪んで見えるお母さんにそう聞いた。

 

「えぇ、もちろん。さぁ、早く行きなさい」

 

「約束だからね! 私、良い子にして待ってるから!!」

 

そういって私は、お母さんに手を振って走りながらその姿を背に、通路の中に入っていった。

 

「・・・ごめんね。こんな、娘との約束も守れないお母さんで。せめて、あなただけでも生き残って。」

 

「ーーー愛してるわ、エイブリー」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ブリー? エイブリー? どうしたの、何か考え事?」

 

「へっ!? あ、ご、ごめんなさい、 ちょっとボーッとしてました・・・」

 

「そう? なら良いんだけど」

 

神社にて日が暮れるまでエイブリーと会話した俺は、彼女を自宅へ招き入れた。暗くなって風も冷たくなってきたので、彼女に野宿をさせる訳にはいかなかった。ていうか、そもそもそんなつもりは毛頭なかったけどね。彼女は野宿でも大丈夫だと言ったが、そこは俺が一歩踏みとどまってなんとか野宿を回避できた。

今は彼女に夕飯の準備を手伝ってもらっていたのだが、包丁を握ったまま上の空だったので危ないと思い声をかけたところだ。

 

そんなこんなで時間が経ち、俺とエイブリーは夕飯を作り終った。いつもは一人で作っているが、二人で作るとすごく速かった。久しぶりに誰かと一緒に料理をしたから、楽しかったなぁ。

料理中エイブリーはIHのクッキングヒーターを見て、「なんで火を使わないで魚が焼けてるんですか?」なーんて驚いた顔をして目をキラキラさせていた。何このカワイイ生き物、眼福です。

別に俺がIHを発明した訳じゃないけど、なんだか鼻が高かった。いやぁ、文明の利器っていうのは素晴らしいね。今度、IHを発明した人に感謝しておこう。ーーー誰だか知らんけど。

 

その後、慣れない箸を使っているエイブリーの向かい側で一緒に夕飯を食べ、食器の後片付けも終えた。時計を見ると夜の9時過ぎだったので、俺はエイブリーにお風呂に入るよう促す。

 

「エイブリー、もう夜も遅いから先にお風呂に入りなよ。さっき沸かしておいたから」

 

「じゃあーーー先に入りますね。お湯は台所にあった水が出るやつと同じように、取っ手を上げればいいんでしたっけ?」

 

「そうだよ、俺のことは気にしなくていいから、ゆっくり入って疲れをとってね」

 

そう言ってエイブリーに着替え(俺の中学時代のジャージ)を持たせた。ちなみに、女の子用の下着なんて持っていなかったので、仕方なく・・・『仕 方 な く』、タンスの奥から未使用の男性用のブリーフパンツを引っ張り出した。

本当はコンビニに行って女性用のものを買ってくれば良いのだが、この家の半径2キロ強にはコンビニなどの生活必需品を取り扱う店が無い。

ぶっちゃけると、エルフの女の子が来ると言われた衝撃が強すぎて、下着のことなんて考えもしなかった。ーーーこれは反省点だな。

 

そうして、俺はエイブリーを無事に風呂に入らせた・・・筈であった。この時俺は自分が犯したミスに気付いておらず、エイブリーもこれから自分に降りかかる災難を知らなかった。

 

 

 

 

 

 

((キャ〜〜〜〜!!))

 

「なんだ!? エイブリー! 何かあったのか!?」

 

俺はリビングで週末課題をやりながらエイブリーが風呂から上がるのを待っていたのだが、突然風呂場からエイブリーのエコーがかかった悲鳴が聞こえてきた。

シャーペンを置いて慌てて風呂場へと急行し、扉の前に立つ。この向こう側にエイブリーがいるのだろう。

 

「エイブリー! どうしたんだ!?」

 

((生明さーーーん! 石鹸みたいな液体で髪を洗おうとしたら、目に入っちゃったんですーーー!!))

 

そこで俺はハッとなって気付いた。

 

(エイブリーにシャンプーのこと教えるの忘れてたー!)

 

やばい、これはやばい、さっき言った、親にバレるやつよりやばい。ポルノ的にヤバいやつだ!

冷静に考えてみれば、エイブリーのいた時代に石鹸はあったかもしれないけど、シャンプーなんてないじゃないか! ・・・いや、あるかもしんないけどさ。

 

((うー、目が開かないよ〜 生明さーん! 助けて下さ〜い!!))

 

「えっ!? 助けてって言われてもどうにもできないんだけど・・・」

 

おそらく彼女は今、自身の眼球に、経験した事のない痛みを感じているのだろう。そのせいもあって、少しパニック状態になっているのかもしれない。

 

俺は悩んだ。確かに、このままエイブリーの言う通りに風呂場に入れば彼女を助けられるだろうし彼女の華奢(きゃしゃ)・・・ゴホン、可憐な姿を拝められるだろう。

 

((生明さん? 今何か失礼なこと考えてませんでした・・・?))

 

「いや、そんなことないよ!?」

 

だが冷静に考えれば、如何なる理由があったとしても破廉恥は破廉恥であり、俺が社会的にも人間的にもまずいことになるのは明らかだ。誰かが見てなくても俺が気にする。

かといってここでエイブリーを助けなければ、彼女は悶え続けるだろう。こんな挿絵をぶち込む絶好の機会に俺は一体何をしてるんだろうか。

 

((もう! いい加減はやく助けてください!! 私気にしませんから!!))

 

「お、おう! それじゃあ入るよ!?」

 

 

 

 

 

 

ど、どうしよ・・・気にしないなんて言っちゃったけど本当は凄く恥ずかしい・・・

でも、こうでもしないと生明さんが困って助けに来てくれないし・・・

 

すると、風呂場の扉が開く音がして私はそれに反応して体をビクッと震わせた。

 

「じ、じゃあエイブリー、髪流すからね? なるべく見ないようにするから。」

 

「はい、お願いします・・・」

 

うー、覚悟してたことだけど、やっぱり恥ずかしいよ〜

 

そんなこんなで私は手で身体を隠しながら縮こまって、無事に髪を流してもらい目も開くようになった。鏡を見ると、目が真っ赤になっていた。その奥に、生明さんの背中も見えた。ちらっと見えた横顔から覗く耳は私の目と同じくらい真っ赤になっていて、生明さんもあんな風に恥ずかしがるんだなぁと思った。

 

「も、もう大丈夫? 」

 

「あっ、はい。おかげさまで」

 

「それじゃあ俺は出るから」

 

生明さんはそう言って足早に風呂場から出ようとしたけれど、足元には流し損ねた泡が・・・

私はそれに気付き生明さんが危ないと判断し、私は反射的に立ち上がった。

 

「そこに泡がーーーへっ!?」

 

しかし、私は目先の危険にとらわれて、自分の足元にも泡が残っていることに気が付かなかった。・・・って、このままじゃ・・・

 

私は足を滑らせ、振り向いていた生明さんの方へダイブ・・・

 

「させねぇよ!」ピキュリイイイィィィン(←ニュータ◯プ的なアレ)

 

しそうになったけど、間一髪生明さんが私と床の間に滑り込み、バスタオルで私を包んで抱きかかえた。

 

「ねぇ、どんな気持ち? お約束の、風呂場での事故によるラッキースケベを予想した画面の向こうのあなた、今どんな気持ち?」

 

「お約束ってなんですか!? 画面ってなんなんですか!?」

 

「それは、エイブリーがもうちょっと大人になってから教えてあげるよ」

 

「いや、そんなにこやかに言われても・・・っていうか、この状況はちょっと・・・」

 

「フフフ・・・ここにダッシュで向かう際にさりげなくバスタオルを持ってきていた俺の勘の良さに自分でも驚きだよ」

 

「あのー、生明さん・・・聞いてます・・・?」

 

その後、生明さんは自身への酔いから醒めた。

そして冷静になって今の状況を理解した生明さんがどうなったかは、察しがつくと思います。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。