億万+一々 (おくまん たす いちいち)   作:うぇろっく

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第三十六話 色々あるんです

うちの逆転生者達が猫をモフり終えた後、何か食べさせようという話になった。一応キャットフードを買ってはいたのでそれを食べさせよう、となったのだが・・・

なんかこの猫、キャットフードを食べなさそうなんだよなぁ・・・

「オイラはそんなもの食べませんぜ」とか言いそう。めっちゃ言いそう。生魚とか納豆とかもっと変なものを食べそうな予感がする。

 

「ほーら、キャットフードよー」

 

エラが猫の前にキャットフードを出した。ネットで調べて高評価だった割と高めのやつをペットショップで買ったので、食べてくれなかったら結構凹む。そして出費が無駄になってしまう。

頼む! 食って! お願いだから食べて!!

 

「・・・」スンスン

 

猫はキャットフードの匂いを嗅いでいる。

みんなに緊張が走る。

 

「た、食べてくれますかねぇ・・・?」

 

「この猫が偏食でなければ良いのだが・・・」

 

やべぇ、全然食べようとしねぇ。あーこれはやっちゃったわ。完全に無駄金つかっ・・・

 

ガッガッガッ

 

「あ! 食べてくれましたよ! 良かったですね圭太郎さん!」

 

・・・って、予想に反して結構ガツガツ食ってるじゃねぇか! つーか食い付きハンパねぇ!!

ダレンも喜んでいるようだ。

 

「良かったー。食べてくれないかと思ったわ」

 

エラが安心して溜息をつく。

 

「よし、これで食べ物はOKだな」

 

1つの問題はクリアしたが、やらなければならないことはまだまだある。

 

 

 

 

 

 

時は流れ、みんなは夕飯を食べ終わり、俺以外の4人が手分けして食器洗いをしている。リビングにいるのは俺と猫だけになった。

 

「・・・おい、ちょっと来てくれ」

 

小さな声で猫にそう言って立ち上がると、ついてきてくれた。

 

 

 

 

 

 

所変わって圭太郎の部屋

 

「一体、どういうつもりなんだ」

 

「どういうつもり、とはどういう意味ですかい?」

 

「何でみんなの前で人語を喋らないのか、って聞いてるんだよ」

 

そう。それ。聞きたくていても立ってもいられなかったこと。この猫が人語を喋らないせいで、俺はみんなに馬鹿にされて笑われてしまった・・・事は割とどうでも良くて、そうする理由が知りたかった。

 

「複数人の周りの人間にオイラが人語を喋れると知られると、厄介ごとが多くなるんでさぁ」

 

「厄介ごとねぇ・・・」

 

「だから、最初に会ったお前さんにしか人語を使わないと決めたんでやんす」

 

面倒な事が多くなるから、か。そういう理由ならしょうがないな。

 

「よし。それについての理由は分かった。じゃあ、みんなにモフられた時に抵抗しなかったのは何故だ?」

 

「それも、黙って大人しくしてりゃ面倒な事にはならないと判断した結果ですぜ」

 

「・・・成程、教えてくれてありがとう」

 

この猫は俺としか喋らないらしいので、今のうちに話したい事を話しておこう。

えぇとまずは・・・

 

「この際だから、話しておく事を消化する」

 

まずはこの猫の怪我について。さすがにこのままだとバイキンが入ったりして病気になるかもしれない。だが、俺は動物の身体なんて分からん。餅は餅屋、と言うくらいだから、動物病院に診てもらいに行こうと思う。

 

「お前の体のその傷を放っておけないから、明日動物病院で診てもらおうと思ってる」

 

「オイラはそんな所、行きたくないですぜ」

 

案の定断られた。だが、ここで引いてはならない。

 

「そこをなんとか頼む」

 

「動物病院ってのに良い思い出はないんでね」

 

「お前が行った動物病院がどんなんだったかは知らんが、信用できる所を一ヶ所知ってる」

 

「今日初めて会って警戒を解いていない相手が信用している所を信じろとは、なかなか強情なことを言うでやんすね」

 

「・・・」

 

「・・・頼む。お前のその傷を、放っておけない」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「カリカリで手を打ちますぜ」

 

「あぁ。とびっきりのを用意しよう」

 

何とか了承してもらった。・・・ここで、もう1つの疑問を思い出す。

 

「これも聞こうと思っていた事なんだが、さっきは随分と良く食べていたな。俺はてっきり、キャットフードとかの人が作ったものは食べないものだと思ってたよ」

 

普通の猫が食べなさそうなものを食べそうな雰囲気だったからな。

 

「実際オイラは色々な食べ物を口に入れた事がありやすが、どうやら猫の舌は人間のとは違うようで『味覚』というのに疎いんでやんすよ。・・・人間の味覚がどういうものかは知りやせんがね。なら、人間が栄養価をしっかりと考えたキャットフードを食べるのが1番だ、と判断した結果でやんす」

 

猫の割に結構考えてるのか。

 

「成る程」

 

そろそろリビングに戻らないといけないかな。みんなが嫉妬・・・ゴホン、心配してしまうといけない。

 

「話を聞かせてくれてありがとう。・・・そろそろ下に降りようか。みんなが心配するといけない」

 

「・・・へぇ」

 

猫の返事に違和感を覚える。

 

「・・・あの4人が苦手なのか?」

 

「いえ、ね。あの子らは良い子達だと思いやすぜ。ただ・・・」

 

「ただ・・・?」

 

「人間に体を触られるのに慣れていないというか・・・」

 

ここで疑問が浮かぶ。

 

「向こうの世界では飼い猫だったんじゃないのか?」

 

「身体中傷だらけの黒猫を好き好んで触ろうとする人間はあの家にはいなかった、ってだけでやんす」

 

「・・・そうか」

 

猫にも色々あるんだな。

・・・一瞬、この猫は向こうの世界の飼い主もしくは家の住人に虐待を受けていたからこのような傷を負ったのでは? と考えた。だが、この猫は賢いし何より人語を理解しているからそんな事にはならないだろうな、とすぐに考えを改めた。

 

「慣れないものは仕方がない。だけど、お前がされるがままにされていた方が都合がいいと判断するなら、おとなしくモフられていてくれ。もし嫌だったら、爪で引っ掻かない程度に抵抗してくれて構わない」

 

「そうですかい」

 

その返答だとどっちの行動をとるのかははっきりしないが、まぁ問題ないだろう。

 

「あ、それと・・・」

 

「うん?」

 

「苦手という部分では、お前さんの方があの子らよりよっぽど苦手ですぜ」

 

手厳しー・・・

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・」

 

「何でかしらねー・・・?」

 

先程から、風呂から上がったエリーとエラが唸っている。それは何故かというと・・・

 

「猫じゃらしに全然反応してくれない・・・」

 

そう。この猫はまたたびとか猫じゃらしとかの猫アイテムに全く興味を示さないのだ。・・・理由は大体想像がつくが。

 

「そっぽを向いたままだし、かえって逆効果になっているんじゃないかしら?」

 

エラのその考察はおそらく正しい。

 

「あ! それじゃあ、この猫ちゃんが何に興味を示すのか色々と試してみようよ!」

 

「面白そうね、乗ったわ!」

 

「・・・」

 

猫は面倒な事になると察したようで、そそくさとこの場を離れようとする。・・・が。

 

「こら、逃げるんじゃないわよ」ガシッ

 

「・・・ウニャァ・・・」

 

猫は人にあたる脇の間にエラの両手を入れられ、宙ぶらりんになる。

 

「あ、エラ、猫を抱っこする時はそうするんじゃないんだよ」

 

「え?そうなの?」

 

猫がエリーの腕の中に移される。

 

「ほら。こうやって、お尻を支えてあげるの」

 

「へぇー・・・」

 

「・・・」

 

猫は何とも言えない、味わい深い顔をしている。・・・いや、猫の表情なんて分かんないけどさ。

 

 

 

 

 

 

「圭太郎さん、上がりましたよ」

 

逆転生者組で最後に風呂に入ったダレンが俺に声をかける。

 

「ほーい」

 

あの後エリーとエラは猫に対して色々試してみたのだが、どれにも反応を示さず全滅。今は2人で小春の髪を乾かしている。

余談だが、小春は最近になって自分の髪を自分で洗えるようになったそうだ。だけど、乾かすのはまだ苦手らしい。ドライヤーが使い慣れないんだと。そういう訳で、エリーとエラに手伝ってもらっているっつーわけだ。

 

「んじゃ、俺も風呂に入ってくるから」

 

只今の時刻は22:00。今日はわりかしゆっくりと湯船に浸かれそうだ。

 

・・・少し前は誰かが入った後の風呂に浸かるのに僅かばかりの抵抗があったが、家の住人が5人にもなるともはやどうでもよくなった。

 

 

 

 

 

 

「毎度毎度悪いのぉ」

 

「いいのいいの。折角小春が1人で髪を洗えるようになったんだから、全部1人でできるようになるまで手伝ってあげるよ」

 

「にしても、本当に長い髪よねぇ・・・」

 

「・・・」キョロキョロ

 

「? ダレン、どうしたの? 何か探し物?」

 

「探し物ってわけじゃないんだけど・・・」

 

「?」

 

「猫がどこに行ったのかなぁと思って・・・」

 

「え? そこら辺にいるんじゃないの・・・って、ほんとにいない・・・」

 

「どこに行ったんだろう・・・?」

 

 

 

 

 

 

「ふー・・・極楽極楽。癒されるわー・・・」

 

「って思ってたのに、なんでここにいるんだよ」

 

「風呂に入るからですぜ?」

 

「なんで俺が変な事を聞いたみたいになってんだよ。・・・第一、猫って水を嫌うんじゃないのか? そうじゃないとしても、猫が風呂に入るのは多くても月に1〜2回だろ」

 

「オイラは外に出るんでね、他の飼い猫よりも汚れるんでその分身体を頻繁に綺麗にするんでさぁ」

 

「猫って身体を舐めて綺麗にするんじゃないのか?」

 

「オイラは土埃を舌で舐めとるなんて御免ですぜ」

 

ほんっと、変わってるよなぁー・・・

 

「というわけで、頼みますぜ」

 

「え、俺は猫の体の洗い方なんて知らないぞ」

 

「耳に水が入らないようにさえすれば、後は適当で構いませんぜ」

 

そこは適当でいいのかよ。

 

「んじゃあ、タオルを頭に被せるぞ」

 

正直に言って、タオルを被って耳が垂れた姿が割と可愛かった。

 

 

 

 

 

 

「こんな感じでいいか?」

 

「へぇ」

 

うーん、思っていたよりは簡単だけど、やっぱり難しいのには変わりない。

 

「・・・」

 

ここでふと、思ったことがあったので聞いてみる事にした。

 

「・・・なぁ」

 

「はい?」

 

「お前を一方的に信じて、確認したい事がある」

 

「一方・・・まぁ、聞きやすぜ」

 

「お前って、キンタマあるか?」

 

「・・・はい?」

 

「お前って、キンタマあるか?」

 

「いや、2回目を言って欲しかったんじゃないですぜ」

 

「ーーー俺は前に、こんな事があった」

 

「キンタマがあると思ってた奴にキンタマが無くて、キンタマが無いと思ってた奴にキンタマがあったんだ」

 

「キンタマキンタマとしつこいのは隅に置くとして、つまりそれはどういう・・・」

 

「お前にキンタマが無かったら、俺はもう・・・何も信じられない」

 

「・・・そうですかい。オイラはれっきとしたオスでやんす」

 

「それを聞いて安心した。さっきのキンタマについての話は追々話すよ」

 

「・・・つっこみませんぜ、オイラは」

 


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