億万+一々 (おくまん たす いちいち)   作:うぇろっく

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オマケ話その3 なにがあったのかと思ったらなにがあった

 

諸々の事情でこれからも一緒に生活することになったアルビノの双子、『エラ・ハンナ』と『ダレン・ハンナ』。

本来は、心の闇を取り除いた逆転生者は元の世界に送り返してあげなければならない。なのに、俺が今までに出会った4人は結局俺の家で引き取ることになった。

ーーーこのままの調子でいくと、いつか家が逆転生者達で溢れかえるのではないだろうか・・・

 

エリー、小春、エラ、ダレン。

逆転生者の心の闇の解決を始めてから1ヶ月半ほどになったが、最初は無理ゲーに思えたこれも、慢心しない程度には安定軌道に乗ってきたように思える。

逆転生者1号のエリーこそ『エルフの少女』という、4人の中でも俺と(種族的にも)一番かけ離れた子を最初にどうにかこうにか出来たのは、今となっては俺の僅かばかりの自信と励みになっている。逆転生者の心の闇の解決にビギナーズラックが通用するかどうかは分からないが、とにかくラッキーだった。

もし今後、さらにとんでもなくブッとんだ逆転生者がやってくるとするならば・・・少し言い方は悪いが、相対的に見ればエリーの一件はチュートリアル的なものだったのだと、そう思う日が来るのかもしれない。

ーーーできれば来ないでください。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで心の闇を取り払うことに成功したハンナ姉弟達と親睦を深める為とみんなの疲れを癒す為に、ちょっとしたお出かけのプランを考えた。

バスで数時間のところにある温泉にみんなで行こう。と提案したのだが、当人達は思ったより喜んでくれた。無論鉄道などを使えばもっと早いのだが、なにぶんこちらはエルフと平安貴族とアルビノ2名だ。他の人との接触はなるべく避けたい。

エラとダレンは身体のこともあって少し心配していたが、滅多に人が来ない所だから大丈夫、と説明したら了承してくれた。

 

そんなこんなで現在に至る。

 

「圭太郎さん! エラとダレン君がかぶる帽子はこれで良いですかね?」

 

「うん。良いセンスだ」

 

そう言って両手の薬指と小指を折りたたみ、他の指をエリーに向けてピッと出す。

 

「さて、みんな用意は良いかー?」

 

「うむ。持ち物は全て持ったぞ。3度確認済みのおまけ付きだ」

 

「頼もしいことで何よりだ。エラとダレンはどうだ?」

 

「うん、大丈夫よ。エリーが用意してくれたこの帽子なら髪もしっかり隠れるわね」

 

「エリーさん、ありがとうございます」

 

「いいのいいの。やっぱり、小春の服を買う時に沢山買っておいて正解だったね。でしょ?小春」

 

「・・・妾にあの時の事を思い出させないでくれ」

 

少し前に小春の服を調達しに行ったのだが、小春はその時の事を思い出したようだ。

詳しく知りたい人は、オマケ話その2をみてね。

 

「心中お察しするよ。そんじゃ、あと10分くらいでバスが来るから家を出発しよう」

 

生明一行はこうして家を後にした。ちゃんと鍵を閉めて。

 

 

 

 

 

 

「ほぉ、これは・・・馬よりも速いな」

 

「小春って馬に乗ったことがあるの?」

 

初めてバスに・・・自動車に乗った小春がその速さに感心していると、隣に座ったエラが小春にそう聞いた。

 

「馬鹿を言え、貴族の娘が馬などに乗るか。ただ、見たことがあるからそう言っただけだ」

 

そういえば、さっきバスに乗る時に小春が靴を脱いで座席の上に正座しようとしてたなぁ。まさか平安貴族が本当にそんな事をするなんて思わなかった。

 

「エリーさんは馬に乗ったことってありますか?」

 

「うん。あるよ。お兄ちゃんが私の後ろに乗って一緒に辺りを散歩したんだ〜」

 

ここで補足説明を入れておく。俺達は一番後ろの長い座席に座っていて、席の順番は向かって正面左から、小春、エラ、エリー、ダレン、俺だ。バスに乗っているのは俺達だけではないが、まだかなりの席が空いているので、4人には小さい声で喋らせている。

 

「それにしても、こんなに速いとひっくり返らないか心配になっちゃいます・・・」

 

「あれ〜? もしかして、エリーってこういうの苦手だったりするの?」

 

エラが少し意地悪にエリーに聞く。当人は顔を赤くしながら焦って反論する。

 

「ち、ちち、違うよ! ぜ、全然平気だよ!? そうだよね小春!!」

 

「分かった分かった。分かったからそんなにも顔を寄せてくるでない。間に座っているエラの迷惑だろう」

 

小春に呆れられたようだ。

 

「やっぱり、こういうのってなんだかワクワクしますよね」

 

ふと、隣に座っているダレンが俺にそう言ってきた。

 

「うん、俺もそうだよ。エラとダレンと・・・みんなでこうしてお出かけ出来るのがすごく楽しい」

 

俺は家族と出かけた事があまり無い。地区の親子旅行などはあるものの、そこに自分の両親の姿は無かった。

 

・・・だからなのか、実は4人に提案した俺が1番楽しみだったりする。みんなが見た事も、聞いた事も無い体験をさせてやりたいのだ。

今まで辛い思いをしてきたからこそ、ここではとびっきりの笑顔になって欲しい。それで過去の事が・・・死んでしまった家族と一族、失ってしまった普通の生活、小さい頃から送っていた悲惨な生活が無かったことになるわけじゃないけど、せめてこの時ぐらいは楽しい思い出で一瞬だけでも忘れさせてやりたい。

 

ぶっちゃけると、逆転性者組を日中家に閉じ込めてストレスやらなんやらが溜まっているようだったので、機嫌をとるためでもあったりする。

 

 

 

 

 

 

その後生明一行は、バスの窓に映る街並みや田園風景、自然や空を眺めながら着実に進んでいく。

そして午前10時前、目的の場所に到着した。5人分、合計500円の運賃を払い、下車した。

 

 

 

 

 

 

「よーし、予定通り誰もいないみたいだ。おーい! 来ても大丈夫だぞー!」

 

建物の裏に隠れている4人を呼び出す。俺の声を聞いた4人は、ソロリソロリと出てきた。なんともシュールな光景だ。

 

「別に、そんなに風にしなくても・・・」

 

「ほら、圭太郎さん。早く中に行きましょうよ」

 

ダレンに背中を押される。

 

「お、おう」

 

目論見通り温泉には誰1人いないようで、好都合なことこの上ない。・・・温泉と言っても公衆浴場みたいなものだが。

朝に来たのも、人気の少ない時間を狙ってのこと。本当は夜とかに来たかったけど、夜は意外と人が来たりする。

ちなみに、混浴はありません。期待していた方々は残念でした。

 

「こっちが男湯でそっちが女湯な。間違っても自分の性別と違う所に入るなよ」

 

「それは妾に対しての『フリ』ということか?」

 

小春がニヤニヤ笑いながら言ってくる。というか、『フリ』なんて言葉どこで覚えたんだ。

 

「ちょっ、小春!?」

 

「断じて違う。もしそんな事をしたら、恥ずかしい思いをするのはどっちだろうな?」

 

「よせよせ。冗談だ」

 

小春の挑発に俺が引かなかったのが当人にとって予想外だったのか、向こうが引いてくれた。

 

「服を脱いだら籠に入れておくんだ。タオルは持ち込んでいいけど、湯につけるのは駄目だ。あと、飛び込んだり走るのも禁止。もしそっちで何かあっても俺とダレンは助けに行けないからな。というわけで、各自マナーをしっかり守るように」

 

 

 

 

 

 

俺とダレンは右側の男湯へ、エリーと小春とエラは左側の女湯へと入っていった。ちなみにこの温泉は、藁で編まれた壁で男湯と女湯が分かれている。故に、室内にある壁で分かれた温泉とは違って反対側の声がよく通ってくる。

 

「圭太郎さん、僕ちょっと遅れるかもしれません」

 

「分かった。んじゃ俺は先に身体を洗って湯船につかってるよ」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、私と小春は先に入ってるね?」

 

「分かったわ」

 

 

 

 

 

 

「ふぅーーー」

 

温泉に入ったのなんて久しぶりだなぁ・・・

やっぱり温泉って良いよね。しかも今は実質貸切状態。

超イイね、サイコー。

 

((わー! 思ってたより広いね!))

 

((うむ。人が来ないと言うからどのようなものかと思っていたが、想像以上だ))

 

向こう側から、エリーと小春の声が聞こえてきた。2人は意識して大きな声を出しているわけでもないのにこれくらいこっちに聞こえてくるんだから、どれ程声が筒抜けなのかはご理解いただけただろう。

 

((圭太郎さーん! 聞こえますかー?))

 

む、声を掛けられた。ここは普通に返しておこう。

 

「聞こえてるよ。そっちに人はいないよね?」

 

((おらん。独占状態だ))

 

良かった良かった。・・・あれ? 声が1人分足りないような・・・

 

「そういえば、エラはどうしたの?」

 

((少し遅れるって言ってました))

 

「そうか、分かった」

 

少し心配したけど、なんてことないようだ。

 

((そなたの方こそ、ダレンはどうしたのだ?))

 

あ、そういえばダレンもまだ来てないな。着慣れない服を着て脱ぐのが大変なんだろうか。

 

「エラと同じように、少し遅れるってさ。着慣れない服を着てきたから、脱ぐのに手間取ってるんじゃないかな」

 

((それは一理あるな。妾も、十二単と比べ脱ぎ着が簡単とはいえこの時代の服に慣れるのは少々手間取った))

 

俺達が初めてエラとダレンに会った時も、2人はボロボロの雑布みたいな服を着ていた。まともな服を着れなかっただろうことは明白だ。

そういう理由で、こっちの世界の服に慣れないのだろう。

 

 

 

 

 

 

数分もしない内にダレンがやってきた。

 

「圭太郎さーん。遅くなってすみませんでした」

 

「あぁ、大丈夫だよ。そこの桶でお湯をすくって身体にかけてから入ってくれ」

 

「分かりました」

 

俺は後ろにいるダレンに対して、見ることなくそう言う。

どこを見てるかっていうと、目の前に広がる山岳風景だ。ここは露天風呂なのである。

 

「いやー、それにしても凄い風景ですね」

 

「そうだな」

 

ダレンが歩いてくるペタペタという音が聞こえてくる。

 

「もっとあっちの方に行ってみても良いですか?」

 

「あぁ。落ちないように気をつけろよ」

 

俺は目を瞑ってリラックスモードに入る。

今度は、ダレンが温泉の中を歩くじゃぶじゃぶという音が聞こえてくる。

 

「うわー・・・あんな下に川が流れてますよ!」

 

「お、下に川が流れてるのか。どれ、ちょっと俺も見て・・・」

 

そう言って目を開ける。目線の先には、少しだけ身を乗り出して眼下を見下ろすダレンの背中が。

そして今気付いたのだが、ダレンの身体つきが前よりも健康的になったようだ。熊野神社に転生された時にチラッと見えた、浮き出ていた肋骨が今ではもう見えなくなっている。

良かった良かった。ちゃんと食べさせた甲斐があったぜ。

じゃあ、あの小鹿のような足腰も少しは肉が付いたかな・・・

 

そう思って、目線をダレンの背中から腰に下げた時に事件は起こった。

 

身を乗り出している=尻を突き出している

という状況なのだが、ダレンの尻の間に見慣れないものがある。

何かの見間違いかと思って目をゴシゴシ擦るも、それは消えない。今は午前中なので湯けむりもあまり立っていないせいもあってか、むしろハッキリ見える。

 

「ーーーは?」

 

「・・・? 圭太郎さん、どうかしたんですか?」

 

「いや、まさか・・・ダレン、ちょっとこっち向いてくれるか・・・?」

 

恐る恐るダレンにそう言う。

 

「? 良いですけど・・・」

 

ダレンはそう返事をしてこちらを向く。

勿論、謎の光線や湯けむりなどで規制されているはずもなく、規制解除バージョンだった。

この瞬間、自分は今までとんでもない間違いをしていたということが発覚した。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、女湯にて

 

「エラー。熱いから気を付けてねー・・・って、え・・・?」

 

「ん? どうしたのだエリー」

 

「こ、小春・・・アレ・・・」

 

「なんだそんな物騒な顔をして。何があったのだ」

 

「え・・・エラが・・・」

 

「エラが?」

 

エリーにそう言われたのでエラの方をふいと見た。

その時、妾達はとんでもない間違いをしていた事に気付いたのだ。

 

 

 

 

 

 

ダレンの股にあるはずのものが無く、無いはずのものがあった。

簡単に言えば、男性のナニが無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

妾はエラに何かあったのかと思ったら、ナニがあった。断じて、洒落だとかそういうものではない。

至極簡潔に現状を説明するのであれば、エラの股の間に男性器があったのだ。

 

 

 

 

 

 

「「「えええええぇぇぇぇぇ!!??」」」

 

壁を挟んで、3人の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「だ、ダレン・・・! お前、女だったのか!?」

 

「え? 何言ってるんですか圭太郎さん。僕は男ですよ?」

 

「いや、でも、お前アレが無いじゃん!」

 

「え? アレが無くてこうなってるのが男じゃないですか」

 

「・・・・・・は?」

 

 

 

 

 

 

「え、エラって男の子だったの!?」

 

「は? 何言ってんのよ。ワタシはれっきとした女よ」

 

「ふ、ふざけるのも大概にしろ! そんなモノをぶら下げておいて自分は女などとホラを吹きおって!!」

 

「え? これがあるのが女じゃない。エリーと小春にもあるんでしょ?」

 

「「・・・・・・は?」」

 

 

 

 

 

 

というわけで入浴Take2。

今男湯には俺とエラが、女湯にはエリーと小春とダレンがいる。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

((非常に気まずい・・・))

 

本当は男なのだと分かっていても、ついさっきまでエラを女の子として見ていたのだからいきなり慣れろと言われても無理がある。

 

あの後、ダレンに聞いて全ての原因が判明した。

根本的な原因としては、『ハンナ姉弟が男性と女性の体を逆に覚えていた』というものだ。

ぶっ飛んだ話に聞こえるかもしれないが、事実なのだから受け止めなければならない。

 

ハンナ夫婦が産んだ双子のうち、男の子は『ダレン・ハンナ』、女の子は『エラ・ハンナ』。

異世界でハンナ夫婦に会った時に聞いたことだからそれは間違いない。

問題はその後だ。

エラとダレンは物心ついた時から2人暮らしだ。両親の顔も知らない。ただ、自分達の名前が書かれた紙があるだけ。そう、その時だ。ハンナ姉弟が盗んだ本の中には俗に言う『保健体育』は無かったらしく、性知識が全く無かった。故に、男性を女性と、女性を男性と間違って覚えてしまったのだ。

 

「じゃあ本当は、エラがダレンでダレンがエラだったってことなのか・・・? ややこし過ぎる・・・」

 

「ま、まぁ、そうなるわね」

 

エラの本当の名前は『ダレン・ハンナ』、ダレンの本当の名前は『エラ・ハンナ』だったのだ。

2人はそれを今の今まで、知らずに生きてきた。

 

「・・・その口調、どうにかならないのか・・・? 気まずくて仕方ないんだが・・・」

 

「し、仕方ないでしょ! 今までこうやって生きてきたんだから・・・あ、アナタが変えなさいよ!」

 

「俺は変える必要ないんだよ!!」

 

みんなの疲れを癒すための温泉だった筈が、これからの生活への不安も含め、かえって精神的に疲れてしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

その後、2人の口調を変えるのはこれからだんだんと馴らしていくことになった。それまではせめてもの対策として、以下の事を決定した。

 

・今まで通り、2人は2人のキャラでいく

 

・今まで通りの呼び方でいく。呼び方を本当の名前にしてもややこしくてしょうがない。

 

・上記2つは認めるが、エラは『自分は男だ』、ダレンは『自分は女だ』という自覚を持つこと。

 

そうして、生明家は5人で新しい生活をスタートさせた。

 

ーーーほんと、どうなってんだよこれ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅーーーっ・・・」

 

「いやぁー疲れたね。聞いてた方もお疲れさん」

 

「一度区切っても良かったんだけど、ここは話の流れを途切れさせたくなかったんだ」

 

「・・・? ・・・うん。・・・そうだね。かなりキツかった」

 

「初めて本格的に異世界に飛んだのはこの時が初めて、ってのもあったし」

 

「そういえば、最初に異世界の地に立った時はかなり興奮したんだけど、時間が経つにつれて『あれ? あんまり元の世界と変わりなくね?』って感じたんだ。まぁ、実際そうだしね」

 

「あの時・・・というか、あの世界が元の世界と似たところで良かったよ。もし色々なものが全く異なる異世界だったら、あんな風にはなっていなかったと思う。運も絡んでいたし」

 

「・・・あなたの言う通り、あれは単なる兄妹間の喧嘩かもしれない。けれど、それが世界に悪い影響を与える原因なんだから、不思議なもんだよな」

 

「それにしても、あの2人にはだいぶ苦労したよ。性別的な問題で」

 

「2人自身に性別の自覚が中々定着しないものだから、こっちも間違えちゃうんだよ。今はもう全員がしっかり把握してるけどね」

 

「2人とも元気にやってるよ」

 

「ーーーさて、次は何を話したものか・・・」

 

「あぁ、あいつか。そうかそうか、そういえばこの頃だったね」

 

「あなたは動物が好きかな?・・・それは良かった」

 

「俺が今も動物関係の活動に携わることがあるのは、間違いなくあいつの影響だね」

 

「確か、最初はいつもみたいに・・・」


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