億万+一々 (おくまん たす いちいち)   作:うぇろっく

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第三十二話 親の心、子『分からず』

なんだかややこしい事に首を突っ込んでしまって、自分がどういう状況にいるのか分からなくなってきている。

なので、あらすじも兼ねて一度自分の中で振り返ってみることにした。

 

エラとダレンの問題を解決! めでたしめでたし?

けど、このまま元の世界に帰してもまた酷い目にあうかもしれないよなー・・・

なら、こっちから向こうの世界に行って胡散臭い言い伝えの真相を確かめてやんよ!

作業着を着て眼鏡をかけることでその辺にいるおっさんに変装。その他諸々の準備もする。

クロノスに力を借りて、エラとダレンの世界に到着!

図書館に行っても目ぼしい情報は無かったので、バーらしき店に入店。そこの女性店主から、この街・・・この国のアルビノに対する迫害の現状を教えてもらう。

アルビノ達は街の中心部の役所の地下に閉じ込められていると聞き、調子に乗った俺はそこへ侵入。なんと、ハンナ姉弟の両親もそこにいた。

アルビノの皆さんを地下牢から安全な場所まで脱出させる手段が思い浮かばず、心が折れかける。が、アルビノの男性からこの国のさらに深い闇を教えられた事でふっきれ、再度心に火を灯す。

建物中に火をつけてパニックになっている隙を狙いアルビノの皆さんを脱出させようと企てるが、突如爆発音が鳴り響く。正面の扉が爆破され、大穴が開いていた。

そこでは謎の集団と役所の人間が交戦中。・・・というか、謎の集団の一方的な蹂躙だったが。

侵入する関係で自分も役所の制服を着ていた為その集団に襲われるが、なんとかそれらを回避。謎の老人の手助けもあって、無事に着替え終わる。

そこに現れたのは昼間に入ったバーの女性店主。その女性含めこの集団は、反政府組織『ギムレット』というらしい。

今ここ

 

改めて振り返ってみると、なんとまぁこんな所まで来てしまったのだと思う。・・・だが、引き返すつもりはない。

 

 

 

 

 

 

「昼間の様子からして、まさかとは思ったけど・・・本当にここへ来ているのだから、少し驚いたわ」

 

「・・・あぁ、居ても立っても居られなくなったんだ」

 

「それで、こんな所まで?」

 

「・・・」

 

「まぁ良いわ。あなたがそうしたくてしたんだもの。ただ・・・」

 

女性は・・・アルベルティーナさんは、ギムレットのメンバーの方を見る。

 

「状況から察するに、うちのメンバーが失礼をしてしまったようね。そうでしょう? バルトロ」

 

「仰る通りです」

 

「で、でも、仕方ないじゃん! ここの奴らの服を着てたんだし! ウチにとっても絶好のチャンスだったし!!」

 

「そうやって手柄を立てようとしているから、この様なよく分からない陳腐な一般人に躱されるのです」

 

長身の男性は自分の獲物を拭きながら皮肉を垂れる。

それはつまり俺の事を言ってるのか? まぁ、その辺にいるおっさんに変装しているんだからそう言われても無理はない。というか、この場合はそう言われた方が嬉しい。

 

「・・・お? それは御自慢の三段突きを回避された事の自虐か?」

 

俗に言う『ブーメラン』というやつである。それも旋回して戻ってくるのではなく、至近距離にある壁に投げつけて跳ね返り自分に当たるような。

 

「・・・なんですって? そういう貴方も、御自慢の右と左がどちらも当たっていませんでしたよ」

 

「・・・おうちょっとお前表に出ろや」

 

「今日こそ貴方のその丸々と出っ張った肉塊を串付きの豚肉にしてさしあげますよ」

 

細身の男性と太った男性が一触即発の雰囲気になる・・・が。

 

「みっともない行動は止しなさい。今は姐(あね)さんが話をされているのです」

 

老人・・・バルトロさんの一言で、全員が口を紡ぐ。

若い男は未だに白目を剥いて気を失ったままだ。

 

「見苦しい所を見せて悪かったわね」

 

「いや、構わんよ。・・・けど、ちょっといいか?」

 

「えぇ、何かしら?」

 

「確か、小さな女の子がいただろう? その娘に謝っておきたいんだ」

 

「・・・まぁ、襲いかかったのはこちらだけど、あなたがそうしたいのならすれば良いわ」

 

そう言われたので、女の子の方に向き直って近づき膝をついて目線を合わせる。

 

「お嬢ちゃん、さっきはごめんよ」

 

「・・・うん、いいよ。わたしもわるいし」

 

「咄嗟の事だったからあぁするしかなかったとはいえ、転ばせたのは事実だ。怪我は無かったか?」

 

「うん。だいじょうぶ。・・・けどねおじさん、1ついい?」

 

「・・・?」

 

「おじさん、たおれたときにわたしのパンツみたでしょ」

 

瞬間、空気が凍る。空間にピシッとヒビが入ったような感覚がする。

見なくても分かる程、周りからの視線が冷たい。

 

「い、いや、それは不可抗力っていうか・・・」

 

「・・・サイッテー」ボソッ

 

鈍器で殴りかかってきた若い女が呟いた一言が、弱った俺の胸に突き刺さる。

 

「こら、困らせるんじゃない。大体、お前が間違って斬りかかるからでしょうが」

 

アルベルティーナさんは幼女の頭にチョップをいれる。

 

「いったーい! もう! これだかららんぼうなおんなは!!」

 

ついさっきまで物騒な包丁を持っていたどの口が言う・・・

 

「ま、ゆるしてあげるわ。これからは、レディーのしたぎをみるなんてしちゃだめよ?」

 

「・・・肝に銘じておくよ」

 

なんとなく気に食わないが、こちらが一歩引けば済む話だ。幼女の下着を見てしまった奴が言うのもなんだが、ここは取り敢えず紳士的に対応する。

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、今日のこの襲撃は予定されていたものだったのか?」

 

「えぇそうよ。でも本当の予定はあと数日先だった」

 

「あー・・・もしかしなくてもそれ、俺のせいか?」

 

「あんな風に聞かれたら、その人が何かしらのアクションを起こすかもしれないと勘繰るわ。そうではなかったとしても予定通りに作戦を展開するし、どうであれ大した差は無かったわ」

 

昼間はさっぱり気づかなかったけど、やっぱりこういう政府があればこういう組織もあるのか。表の顔はバーの店員と客、裏の顔は反政府組織・・・か。

あ、そういえば・・・

 

「んーっと確か、バルトロさんだっけか? さっきは助かった、ありがとう」

 

「いえ、姐さんに言われての事です。あのお方はそこまで想定していらっしゃいました」

 

「んじゃそれは別件で感謝するとしよう。が、やっぱりあなたにも礼を言いたい」

 

「・・・律儀な方ですね」

 

「俺の数少ない取り柄さ」

 

アルベルティーナさんは刈り取られた意識を取り戻した若い男に説教をしているようだ。他のメンバーは所員達の身体を拘束している。

すると、俺が地下から階段を登って出てきた扉が空き、あの短髪のアルビノの男性を先頭にしてゾロゾロとアルビノの皆さんがエントランスまで出てきた。石階段が崩れないか心配だったけど、全員無事に出てこれたようだ。

短髪の彼はみんなを取りまとめて、しっかり指揮していたらしい。

 

「お、上は片付いたみたいだな。・・・もう出ても大丈夫なようです。さっき言った通り、馬車担当の5人はあそこの背の高い男と太った男に着いて行って下さい」

 

・・・ん? なんでここにいる人達が味方だって分かったんだ?

 

「おい、なんでお前、見ず知らずの人間にアルビノの皆さんを任せてんだよ」

 

俺はそれを不思議に思って短髪の男性に問う。

 

「あぁ、それはね、彼もギムレットのメンバーなのよ」

 

「ーーーあちゃー・・・」

 

アルベルティーナさんが放った衝撃の一言に驚きを隠せず、思わず手で顔を覆った。人間が本当に驚いたときは、驚きを通り越して呆れるのだと、今この身をもって知った。

 

「彼には数ヶ月前から潜入調査をさせていて、私達がこの施設を襲撃したら地下牢のアルビノ達を解放して脱出させる作戦をあらかじめ立てていたの」

 

成る程、通りで地上の事とか政府に詳しい訳だ。普通に考えれば、生まれも育ちも地下牢の人間がそんな事を知ってる訳ないもんな。

それに、指示や行動も的確だった。あらかじめ予定されていた作戦だというのも頷ける。

・・・あれ? ってことは・・・

 

「まぁそういうこった。別にお前が来なくても、こういう結果になってたのさ」

 

「え、えぇー・・・」( ̄O ̄;)

 

え? 俺がやった事の意味・・・無し?

 

「シルビオ、そういう言い方は止めなさい。・・・全く、あなたはいつも一言余計なんだから」

 

「ーーーだが、お前が来なければハンナ夫婦にエラちゃんとダレン君の存命を知らせる事は出来なかった。お前が見張りを眠らせなかったり檻の鍵を開けなければ、檻を無理やりこじ開けて見張りを殴り倒すつもりだったしな」

 

慰めのつもりなのだろうが、俺に付けられた傷は深かった。でも、これは俺が好き勝手でやった事だから自業自得だな。結果、ハンナ夫婦に会えたんだし。

 

 

 

 

 

 

アルベルティーナさんはギムレットのメンバー達が所員達を縛り終えたのを確認すると、招集をかけた。

 

「取り逃がしはいないね?」

 

「えぇ、全ての部屋を確認済みです」

 

「所長の身柄は?」

 

「確保済みです」

 

「アルビノ達は?」

 

「全員乗せました」

 

アルビノの皆さんは全員馬車に乗り込んだらしい。

 

「よし、ならずらかるわよ。あんた達2人は引き続きアルビノ達の警護。予定の建物に入るまで付いていなさい」

 

「建物? あの人数を人目から隠す施設を用意しているのか?」

 

「勿論。街の外れに、知り合いに用意してもらった古い建物があってね。そこを使うわ」

 

「・・・やっぱり、夜が明けるまでに国境を越える事は無理か?」

 

「残念だけどそうね。私達がここを襲撃した事はすぐに伝わるでしょうし、夜が明ければさっきの3倍の兵士と大量の武器がこの街に入るわ。アルビノ達を国外に逃すのはもっと先の話になりそうね」

 

今夜のこの襲撃は、本当の意味で国を倒した訳じゃない。きっとこれは初めの数歩なのだろう。が、アルビノの皆さんを助け出せたのはとても嬉しい。

・・・あ、そうだ。ハンナ夫婦に顔を見せなければ。

 

 

 

 

 

 

ハンナ夫婦が乗っている馬車を聞き出して駆けつけた。

ハンナ夫婦は俺に会うと、先に俺の身の無事を喜んでくれた。

 

「・・・! ご無事でしたか!」

 

「おかげさまで。そちらはどうでしたか?」

 

「シルビオさんに誘導された通りに動いて、全員が無事に脱出出来ました」

 

この辺もあのシルビオっていう男のおかげだ。後でゆっくり話せる時間あるかなぁ・・・?

 

「すみません、時間が押しているのですぐ良いですか?」

 

「分かっています。・・・子供達の事ですよね?」

 

母親の方が答えた。まさしくその通りだ。俺はこの世界に来た本来の目的を果たそうとする。

 

「単刀直入に言います。エラとダレンと・・・4人で暮らしてやって下さい」

 

2人は俯いた。口を開いたのは父親の方だった。

 

「・・・出来ません」

 

「ッ、ハンナさん! どうしてですか!?」

 

「・・・確かに、今回のこの件をきっかけに、今のこの国の政治が崩れて私達アルビノの人間が平和に暮らせる日がやってくるのかもしれません」

 

「なら・・・!」

 

「でもそれは何年後ですか? 10年? 30年? 50年? そうなるまでは、これまでより良い生活を送れるかもしれませんが決して安心して暮らせるという訳ではありません。そうであれば、今のままあなたに育てられた方が良いに決まっています」

 

「そういう問題じゃない! あの2人には『本当の親』が必要なんだ!!」

 

今度は母親が答えた。

 

「・・・私達は、あの子達を守れなかった。一緒に暮らしてあげる事ができなかった。・・・けど、今の私達にもできる事があります。・・・あの2人が戻ってこれる場所を作る事です」

 

すると、父親は俺の腕を勢い良くガッと掴んできた。さっき檻の中でエラとダレンの名前を出した時よりももっと強く、より強い意志がこもったように。

 

「ですから、私達アルビノの人間が平和な生活を取り戻すその時まで! あなたにエラとダレンを守っていただきたい!! ・・・私達がみっともないお願いをしているのは分かっています! 親として失格です! けど、私達はこうやってあなたを信じてあの子達を託す以外に無いんです!! どうか! どうか・・・!!」

 

 

 

 

 

 

子供を大切に思う気持ちなんて分からない。自分に子供はいないし、俺はガキだから。

 

でも、こんなガキにも伝わってくるものはある。それは、子を大切にしてくれている親の気持ち。

 

きっとそれは、俺達が小さい頃に買ってもらったおもちゃとかぬいぐるみとかゲームとかペットを大切に思う気持ちと、広い意味では・・・『大切に思う』っていう部分では似ているのかもしれないけど、根本的な所では違うのだろう。

 

その違いが俺には分からない。俺には子供がいないから。俺はガキだから。

その気持ちが俺に伝わってくるとはいえ、分かる事ができない。

 

気持ちが伝わってくるって事と、その気持ちを分かるって事は違う。

例えばの話、相手は自分の事が好きっていうのが伝わってきても、実際に自分の事がどういう風に好きなのかなんて相手が口に出さなきゃ分かんないじゃん? 逆もまた然り。

 

・・・けど、そんな俺に対して、今目の前にいるこの夫婦の泣き崩れた顔が、握りしめてくる手の力が、絞り出す声が、俺にその気持ちを『分からせて』くる。

 

故に、エラとダレンをこの世界に帰すことが正しいのかどうか、分からなくなった・・・

 


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