億万+一々 (おくまん たす いちいち)   作:うぇろっく

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第十四話 負けず嫌いと負けたがり

朝、気づくと何故か部屋の隅に居た。布団にグルグル巻きになっていたので、俺が寝返りを打ち続けた結果こうなったのだと察する。

ベッドを見てみるとエリーと小春はまだスヤスヤと寝ている。

・・・あー背中痛い。

取り敢えず包まっている布団から出ようと一回転、二回転して脱出。2人を起こさないようにそ〜っと部屋から出ていった。

さーて、朝ご飯は何にしようかな。

 

 

 

 

 

 

ある程度の朝食が完成したのでテーブルを布巾で拭き箸を並べていたところ、階段から2人分の足音が聞こえてくる。やっとお目覚めか。

 

「おはようございます」

 

「ふあ・・・良い寝心地だったぞ・・・」

 

いつもの様にシャキッとした顔で挨拶をするエリーとは対照的に、小春はまだ眠気が抜けていないようだ。

 

「おはよう、2人共。もう少しで出来上がるから、その間に顔でも洗ってきなよ」

 

 

 

 

 

 

「で、朝食を食べ終わった訳だけど・・・」

 

「何・・・します・・・? 圭太郎さん・・・」

 

ご飯を食べ終わってさぁどうする? となったのだが、何も思いつかない。いつかの様に外に出掛けるのも選択肢の内にあったのだが、エリーの事があった後だし中々行きづらい。

 

「どうしたそなた等。この時代の趣味趣向を教えてくれるのではないのか?」

 

「えっと、そうなんだけどね・・・」

 

ちょっとこの手は使いたくなかったけど、こうなったら仕方ない。悠長な事を言っていられる場合でもないだろう。

 

「よし、それじゃあゲームしよっか」

 

「「ゲーム・・・?」」

 

この選択が後に自身の身を滅ぼす事になろうとは、誰も知らな・・・いや、神様は知ってたのかな?

 

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん」

 

「おぉ。これは何だ? まるで平安京を空から見たようだ」

 

「このマス目が沢山ある板で何をするんですか?」

 

「『オセロ』って言ってね、この黒と白のコマをマスに置いて、相手のコマを自分の色のコマで挟んでひっくり返して、最終的にコマを多く持っていた方の勝ち、っていうゲーム」

 

「ふむふむ、簡単そうに見えるがその分奥が深そうだな」

 

「私の里にも同じような物がありましたよ」

 

「日本人が考えたゲームなんだ。ルールは簡単だから、取り敢えず2人でやってみなよ」

 

「よし、望むところだ恵里! お互い手加減は無しだからな!」

 

「もちろん。『待った』は無しだからね!」

 

おし、取り敢えず後は2人で何とかなるだろう。さーて、作ってた梅ジュースでも飲もうかな。

 

 

 

 

 

 

しばらく時間が経ったけど、さてさて、どうなったかな・・・?

おー、拮抗してるねぇ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

うわ、ガチで無言になってるし。テレビつけても迷惑だろうし・・・たくあんでも食うか。

 

ボリッボリッ!

 

「・・・」ピクッ

 

「・・・」ピクッ

 

ボリッボリッボリッ!

 

「・・・」

 

「・・・」

 

バリッボリッバリッボリッ!

 

「えぇいやかましい! わざとか? そなたはわざとやっているのか!?」

 

「もう! 気が散って集中出来ませんよ! 少し静かにしていてください!!」

 

「だって、構ってくれないから寂しかったんだもん・・・」

 

「「そなた(圭太郎さん)は子供(です)か!!」」

 

 

 

 

 

 

「グスン・・・」

 

「ふははは! 恵里もそれなりに手強かったが、妾には敵わなかったな!!」

 

「結果は40対24で小春の勝ちか・・・」

 

「うぅ、悔しいです・・・」

 

「まぁ、そう落ち込むでない。何せこの妾と戦って負けたのだ、光栄に思え!」

 

小春は貴族ということもあってか、勉学などの教養は小さい頃からさせられていたのだろうか。それに伴って頭の回転が速いのも頷ける。

 

「よし、それでは次はそなたと勝負だ! 戦わないという選択肢は無いと思え!」

 

あ、やっぱりそうなっちゃう? ここはいい感じで手を抜いて小春に勝たせてやるk「圭太郎さん! 私の敵を取って下さい!」あのーエリーさん、アナタ本来の目的忘れてません? 完全にムキになってるし・・・

 

「恵里の言う通りだ。妾は手加減などされてもかえって不機嫌になるだけだ」

 

あ、左様で御座いますか。つまり・・・本気と書いてマジになっちゃっても良いわけね?

 

「乗った。その勝負、全力で戦わせてもらおう」

 

 

 

 

 

 

「俺は何色でも構わないから、好きな色を選んで良いよ」

 

「そうか、なら妾は白を選ぼう」

 

一つ、相手に色を選ばせる

 

「それじゃ俺後攻ね」

 

「ん? あぁ、そうか。なら先手を取らせてもらうぞ」

 

二つ、相手に先手を取らせる

 

下準備はここまでだ。

 

「・・・」パチッ

 

「・・・」パチッ

 

(む? 何故こやつは二つも取れる状況で一つだけ取ったのだ? まぁ良い、妾の優勢は変わらぬ)

 

「どうした? 妾が押している様だぞ? 圧倒的に白の方が多いではないか」

 

「・・・」パチッ

 

(無言を貫き通す、か・・・ふふふ、内心は焦っておるのだろうな)

 

(と、小春は考えているに違いない。だって、彼女の口角が上がっているから)

 

三つ、序盤は相手にワザと多く取らせて自分の策に溺れさせ、この時自分の色をなるべく中心に維持する

 

そしてそこから戦況は変わり始める。

 

(おっと、先程までは一度に2個以上取れていたのに、一つだけ取れるマスしか残っていないの・・・仕方あるまい、ここは大人しく置いておこう)

 

「・・・」パチッ

 

「・・・」パチッ

 

(気のせいか、妾の方が取っている数は多いのに向こうの方が取れる範囲と数が多いような・・・)

 

小春はそろそろ勘づきそうだが、もう遅い。君は自分の策に長い時間溺れ過ぎた。一度置いたオセロの色が変わることはあっても、オセロそのものを無くすことは出来ないんだよ。

 

「あ、置ける場所が無い・・・」

 

「んじゃもう一回俺の番ね」パチッ

 

「ま、また無いではないか!」

 

「んじゃさらに俺の番ね」パチッ

 

(凄い・・・初めはあんなに負けていたのに、どんどんひっくり返してる・・・)

 

圭太郎さんと小春の勝負を脇で見守っていると、気のせいか、誰かに肩を叩かれたような気がした。振り返ってみると、人差し指を口の前で立てている神様がいた。

 

「あ、ナミちゃ・・・じゃなかった、神様じゃないですか。一体どうしたんです?」ヒショヒショ

 

ちなみに神様の呼び方なんですけど、神の威厳を保つために、流石にその呼び方は・・・と本当に困った顔で言われてしまったので、私と圭太郎さんはしぶしぶ、もとの呼び方に戻しました。

 

〈いえ、ちょっと気になったものですから・・・もう勝負はついてるではありませんか〉

 

「え?」

 

〈この勝負、もう圭太郎さんの勝ちですよ。仇を取ってもらえて良かったですね〉

 

「何で分かるんですか?」

 

〈見て下さい、ほら。もう小春さんが置けるマスがほとんど無いでしょう?〉

 

「あ、本当だ・・・」

 

〈案の定、前半で取りすぎてしまったんですねぇ〉

 

凄い、神様は本当に何でも知っているんだ。

 

〈と、そんな事よりもほら、圭太郎さんの顔〉

 

「圭太郎さんの顔・・・? ん? 下唇を噛んでいる・・・?」

 

〈そうそう。あれは、彼が集中している時の『癖』なんです〉

 

「へぇ~、知らなかったです・・・って、なんで神様がそんな事をしっ〈そろそろ勝負が終わりそうなので、私はここらで帰りますね〉あ、ちょっと! 行っちゃった・・・」

 

神様が透明になって見えなくなったちょうどその時、テーブルから声が聞こえてきた。

 

「ぬお~~~! 何故だ~~~!!」

 

「す、凄い・・・52対12なんて・・・」

 

「ねぇ、今どんな気持ち? 前半勝ってていけると思ったら後半にどんでん返しされるってどんな気持ち?」

 

俺の戦い方はあくまでそういう戦い方があるっていうだけなので、毎回勝てる訳ではありません。「おい! 同じようにやったけど勝てないじゃん!」等と言われても、これらはあくまで個人の感想であり、実際の戦法の有用性を示すものではありません。加えて、一切責任は負いません。というか負えません。

 

「こ、此奴、調子に乗りおって・・・」プルプル

 

「ま、まぁまぁ、小春も頑張ってたよ?」

 

「うるさい! 慰めなど受けとうないわ! もう一回だ!!」

 

「はいはい」

 

「返事は一回!」

 

 

 

 

 

 

「何故だ、何故勝てんのだ・・・そうか! よし、恵里! ここは共同戦線を張るぞ! 一緒に戦え!」

 

「えー・・・」

 

「露骨に嫌な顔をするな!!」

 

「OK、じゃあ二人で考えていいよ」

 

「次は負けんからな! な、恵里!」

 

「そうだね・・・私も圭太郎さんに勝ってみたいかな」

 

 

 

 

 

 

「分かったぞ! 妾達が白を使うから駄目なのだ! 今度は黒を使うぞ!」

 

「ち、ちょっと待って、疲れたから休憩しない? 何か甘い物でも・・・」

 

「何を言うか! そなたに勝たなければ夜も眠れんわ!!」

 

(え? 夜までやるってことなの? 流石にもう手加減して・・・)

 

「まさか、手加減をして終わらせよう、等と考えてはおらんよな・・・?」

 

(コイツ、心の中を直接・・・!?)※違います

 

「ほら立て恵里! 妾達の戦いはまだ始まったばかりだ!!」

 

「も、もう勘弁して・・・」

 

その日、一人の人間と一人のエルフの頭痛が治まらなかったそうな・・・

 

 

 

 

 

 

「結局、お昼抜きで6時半までぶっ通しとか、洒落にならねぇ・・・」

 

「すいません、もう無理です・・・」

 

「二人揃って軟弱者だな。この程度など正に日常茶飯事というやつだ」

 

「ーーー俺はとりあえず夕飯作っておくから、二人はリビングでくつろいでて」

 

「あ、圭太郎さん、私も手伝いますよ」

 

私が圭太郎さんに駆け寄ると、何故か私の耳元でコソコソと静かな声で話し始めた。

 

「エリー、今夜は2日目の夜だ。そろそろ小春の『心の闇』の正体を暴きたい。・・・任せても良いか?」

 

「! はい、任せてください!」

 

 

 

 

 

 

私は場所をベランダに移して、小春も一緒に来るように誘った。

 

「ねぇ小春」

 

「ん? 何だ?」

 

「小春って、どうしてこのせか・・・時代に来てみたいと思ったの?」

 

「それは昨日言ったであろう。あの生活に飽きたからだ」

 

「まぁ・・・今となっては、乳母子とは良い関係を築けていたと思うが」

 

確かにそう言っていた。小春な豪快な人だ。けど、本当に『飽きた』なんて理由だけで小春のような人がそのような時代から逃げ出す筈はない。

 

「小春って貴族の人だったんだよね、私が良く分かっていないからなんだけど、小春が不自由な生活をしているのが想像できないんだ・・・」

 

私の里には長老さんや集落の長はいたけど、特別扱いされる、小春の時代でいう『貴族』という人はいなかった。だから私には小春の生活の不便さが良く分からない。

 

「・・・そうか、まぁ、無理もないだろうな」

 

そう言った小春の横顔は少し悲しそうだった。まるで、本当にお互いを分かりあっていた友人に裏切られたような顔で・・・

 

「なら恵里よ。妾の昔話を聞いてはくれないか・・・?」

 

「小春の昔話?」

 

「そうだ。ずっと昔のこの国にいた、ある少女の話だ」

 

 

今夜の月は雲に隠れ、夜風はいつもよりも冷たい気がした。

 

 


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