エイブリーの一件の数日後・・・
「こんにちはー」
「お、圭太郎じゃないか! 待ってたんだぜ」
「本当は借りた次の日に返せば良かったんですけど、何分学校が忙しいもので・・・」
「分かってるよ、気にすんな。忙しいもんな、学校生活。で、現物はどうした?」
はい、そうなんです、その事なんです。
エリーを助けるために廃工場へ突入したのは良いけど、その時にちょっと調子に乗ってシャッターを自転車をウィリー乗りして打ち破ったので、自転車の前輪が凹んだりしていないかが唯一の不安である。
「はい、ここに」
「おぉ、よかったよかった・・・無事で何よりだ」
無事で良かった・・・
「・・・ちなみに、その自転車はおいくらするんですか・・・?」
「ん? 確か・・・36000円ぐらいだったかな」
「」
「どうした圭太郎・・・?」
「本当にすみませんでした許して下さい」
「お、おい! 土下座しようとすんな! 他のお客からの目が痛いから!!」
「おっ、デーブ。公衆トイレ以来かな」
「そうだね。・・・そういえば、あの女の子はどうだった?」
「ーーーあぁ、何ともなかったよ」
「一体何があったの?」
「その、あの子が迷子になっていたから、探すのに必死だったんだよ!」
「ーーー? ・・・ん、そっか。その様子だと無事に見つかったみたいだね。」
「あぁ、おかげさまでな。そういうデーブは食べ歩きツアー楽しめた?」
「そりゃあ勿論。結局あの後たこ焼きを2パック買ったよ」
「ハハ、デーブらしい・・・」
「けーちゃん、一緒にお昼、良い?」
口の中に食べ物が入っていたので、俺の机の向かい側辺りをポンポンと手で叩いた。やしもは俺の意図を汲み取ったようで、適当なところから椅子を拝借し、机を挟んで俺の向かい側に座った。
「この前の開校記念日、また何かやらかしたみたいだけど」
まぁ、デーブから聞くよねー・・・
「何ともなかったよ。これまで俺たちがやらかしたことに比べれば些細なモンだって」
「ーーー本当、けーちゃんは偶に無茶苦茶な事するからなぁ。まぁ、その件に関しては詮索はしないよ」
「助かる」
「そうそう、新しい僕のムーヴメントなんだけど」
何だよまたそれか、ヤンデレの次はなんだってんだ?
「ズバリ、『エルフ』」
「」ブフッ
「どうしたの? 卵焼きを吹き出すなんてけーちゃんらしくもない・・・」
「すまんやしも、お願だからその話は勘弁してくれ・・・」
「?」
「ただいま」
「お帰りなさい、圭太郎さん」
学校から帰ってきて家の玄関を開けると、これまでの生活ではなかなか聞くことが出来なかった言葉が聞こえてきた。
正直に言って『ただいま』という言葉も、その言葉の返事が返ってくることも、まだ慣れていない。けれど、『ただいま』の返事が返ってくるのなら、これからも言おうと思う。
「うん。わざわざ玄関までありがとう、エリー」
「いえいえ。どういたしまして」
エリーはそういってキッチンの方へ歩いていく。何か作っていたのかと思って覗いてみると、そこには香ばしい香りが漂うクッキーがあった。
「これは・・・エリーが作ったの?」
「前に圭太郎さんが買ってくれた料理の本に載っていたので、作ってみたくなったんです。出来立てですから一緒に食べましょう」
ここの会話だけ切り取ると夫婦の会話に聞こえるのは、きっと俺だけではない筈。アレ? 俺って・・・リア充・・・?(※違います)
「これ、初めて作ってみたんですけど、どうですか・・・?」
エリーに勧められて一口頬張る。
「・・・うん。美味しくできたね」
素直にそう思った。おったまげる程美味しかった訳ではないが、ごく自然に『美味しいクッキー』だと思った。
「ほ、ホントですか! (よし、これでまずは胃袋を掴んだ!)」グッ
「それにしても、あれから数日でかなりここの生活に慣れたよね、エリー」
「そう言われるとそうですね、自分でも驚くくらいです」
「なんというか、適応能力? みたいなのが強いんだろうね。それがエルフだからなのかは分からないけど」
「あぁ、それは少なからずあると思います。元々エルフは適応能力が高い生き物ですから」
「へぇ~、それは初耳だ」
「話は変わりますけど、この世界って熱中出来るものが多くて良いですよね。料理もそうですし、裁縫とか、絵とか、音楽とか。向こうの文化には無かった面白いものが沢山あって、毎日の生活にワクワクしてます」
そう言って笑う彼女の顔はとてもキレイだった。神社で初めて会ったときの、こちらを見る恐怖と絶望に溢れた瞳とはまるで違う。生きる活力を見つけ、残され託された人生を全うする覚悟が出来た顔だと思った。
「圭太郎さん? そんなにじっと見られると恥ずかしいんですけど・・・」
「・・・あ、ごめん」
「そういえば、神様が言っていた次の逆転生者って、どんな人なんですかね?」
「ん〜・・・予想もつかないな。せめて人間、それに近い種族であってほしいかな。まぁ、どんな人物であっても、今度はエリーにも活躍してもらわないとね」
「はい! 出来ることを精一杯頑張ります」
「と、まぁ最初はこんな感じだったかな」
「いやぁー・・・なんだか色々小っ恥ずかしいね。上手く話せていればよかったけど」
「・・・ん? あぁ、そうだね。彼女は良い子だよ。気が利いたし、自然と場の空気を取り持っていたと思うよ」
「・・・・・・うん。やっぱり、俺が最初に出会った逆転生者だったからね。信頼とか安心は、他の人へのそれよりも強かったかもしれない。あ、この言い方は少し誤解がーーーおっと。これ以上は話し過ぎかな」
「じゃあ、少し休憩してから、話を進めよう」
「あなたのグラスも空いているし、ちょうど良い頃合いじゃないかなな。話も一区切りついたし」
「飲み物は何が良い? ・・・あ、そうだ。聞いてから言うのもなんだけど、彼女から教わったお茶を入れられるんだ。まだ茶葉はあったはずだ」
「彼女ほど上手には入れられないかもしれないけど、どう?・・・よしきた。少し時間がかかるから、それまでの間、ゆっくりしててよ」
「まだまだ話し始めたばかりだからね。聞く方にも休息は必要だ」