億万+一々 (おくまん たす いちいち)   作:うぇろっく

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第八話 仕返し

えー、皆さんこんにちは。エイブリーです。

まず初めに、今の私の心情を聞いて下さい。

 

「どうしてこうなったの・・・」

 

「ん?」

 

「何でもありません・・・」

 

この状況を説明しようと思うのですが、普通に説明してもつまらないので、あいうえお作文というものでやってみます。

 

あ:生明圭太郎さんの背中を流そうと

 

い:勢いでお風呂場に突入したら

 

う:後ろを向いたまま圭太郎さんが

 

え:エイブリー、一緒に入ろうよ。と言ったので

 

お:お風呂に圭太郎さんと一緒に入る事になってしまった

 

どうです? 上手く出来ましたか?

ーーーいや、こう見えても結構余裕が無いんです。

私はてっきり、圭太郎さんは恥ずかしがって背を向けたり、すぐに浴槽から出ようとすると思ってたんですけど、予想外も予想外。圭太郎さんの様子もおかしいですし、よもや、こんなことになろうとは・・・

 

 

 

 

 

 

私と圭太郎さんの体勢なんですけど、圭太郎さんの家の浴槽はあまり大きくなくて、人が2人入ろうとするとギュウギュウになってしまいます。

そんなところに、どうやって1人のエルフと1人の人間が入っているのかというと・・・

 

「あ、エイブリーじゃん。もう髪と身体は洗ったから、一緒に入ろうよ」

 

「・・・はい?」

 

「だから、一緒に入ろうよって」

 

「いや、あの・・・自分が何を言っているか分かってますか?」

 

「なんかその台詞、聞いたばかりのような気がするなぁ」

 

「ほ、本気で言ってます? からかおうとしてるんじゃないんですか?」

 

「いや、単にエイブリーと一緒にお風呂に入りたいと思ったから言ったんだよ?」

 

(なんでそんな、当たり前の事みたいに言えるんですか!)

 

圭太郎さんはそう言って、足を広げた。私は思わず顔を両手で覆い隠したのだが、それってつまり・・・

 

「あの・・・そこに、ってことですか?」

 

「うん」

 

別に、男の人の身体を見たことが無い訳じゃないんです。お父さんやお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ったこともありました。けど、今一緒にお風呂に入ろうとしているのは昨日初めて会った、それも種族の違う人間の男性。「恥ずかしい」という気持ちもありますが、それとは別の、種族間の複雑な感情もある訳で・・・

そもそもの話、私が圭太郎さんに不意打ちのような事をしようとしていたのですから、断る訳にもいきません。私もそれなりの覚悟を決めていたので、負けたくありません。

そんなくだらないプライドを捨てたくなくて、先程よりも大きな決断をしました。

 

「じ、じゃあ、失礼します・・・って熱っ! なんでこんなに熱くしてるんですか!?」

 

そう言って、目を閉じたままゆっくりと圭太郎さんの両足の間に距離をとり、背を向けて腰を下ろす。さすがに、背中を預けることはできなかった。

 

「いやーごめんね? そういえば、なんでこんなに熱くしてたんだっけかなぁ・・・? 思い出せないやぁー」

 

「・・・」

 

「あれー? もしかして、恥ずかしがってるのー? ハハハハハ」

 

圭太郎さんは、たまらなく恥ずかしくて背中を丸めている私に、笑いながらそう言った。

 

「恥ずかしいですよぅ・・・け、圭太郎さんは恥ずかしくないんですか・・・?」

 

私は小馬鹿にされたようで悔しくて、半身で振り返りながら反論するように聞き返します。そうして返ってきた返答はというと、

 

「んー・・・あまり、恥ずかしいとかそういう風には思わないかなぁー」

 

少し、ほんの少しだけ、圭太郎さんの意思だとか感情といった部分を疑った。

 

「・・・何でですか?」

 

「んー、何でだろうね?」

 

「姉妹がいて、一緒に入ったりしてたんですか?」

 

「そういうことは無かったかな」

 

「じゃあ尚更おかしいですよ・・・」

 

うーん、圭太郎さんって、女の人に興味がないのかなぁ・・・?

 

「何ていうか・・・当然ながら俺は親になって子供が出来たことなんて無いけど、父親と娘が一緒にお風呂に入る感じじゃないかな?」

 

「じゃあ、圭太郎さんにとって、私は娘みたいな存在なんですか?」

 

「ーーーそうやって当人に直接言われると、なんか違うなぁ・・・あ、それよりも兄と妹の方がしっくりくるなぁ」

 

兄と妹、ですか。

 

「じゃあ、私はそろそろ髪と身体を洗うので、その・・・向こうを向いていて下さい・・・」

 

熱いお湯に耐えられなくて、急いで浴槽から出ます。

 

「えー、またあんな事になったりしない?」

 

「こ、今度は大丈夫です!」

 

「はいはーい。んじゃ俺は先に上がってるねー」

 

圭太郎さんはそう言っておぼつかない足取りで風呂場を後にしました。

 

 

 

 

 

 

あー、頭がクラクラする・・・久しぶりにのぼせたな。お風呂の温度を高くしすぎたのかなぁ? げ、設定温度が42℃になってるし。

冷蔵庫の脇の壁にある、風呂の状態を教えてくれるやつを見て初めて知った。

 

あ、そういやエイブリーがまだだったな。設定温度を40℃に下げておかなきゃ。

ーーーん? エイブリー?

 

熱く火照った全身を冷やすうちに、次第に頭も冷えてきた。のぼせていたせいでまともな判断が出来なくなっていた思考が、だんだんと冷静になっていく・・・

 

すると、風呂場の方から扉を開ける音が聞こえてきた。どうやら、エイブリーが風呂から上がったらしい。リビングに戻ってくるまでは推定9秒半。そこからの俺の行動は迅速だった。

転がっていたクッションを掴みとり、仰向けで床に寝転がる。

世間一般に言う『狸寝入り』というやつである。あとは意識が朦朧としている(していた)ような挙動を取れば完璧・・・な筈。

 

まずいまずいまずい、昨日の今日でこれはまずい。非常にまずい。どれくらいまずいかって言うと・・・ってそんな場合じゃない!

 

「圭太郎さん、上がりましたよ・・・ってあれ?」

 

「グ、グゥ・・・」

 

「寝てる・・・?」

 

頼む、神様仏様エイブリー様。どうかお願いですから気付かないで! いやもうホント!! 300円あげるからお慈悲を!!

 

「・・・」

 

ん・・・? どうしたんだろう、エイブリーが急に静かになった?

 

「さぁ~て、圭太郎さんは今寝ているんですかねぇ? それとも・・・」

 

「スンマセンシタァ!!」

 

仰向けの状態から一気に飛び上がり、頭を垂れる。生明圭太郎108の奥義の内の一つ、『ジャンピングDO☆GE☆ZA』である。※今考えました。

先にこちらから謝れば少しは罪が軽くなるかもしれないという考えから、この行動に至った。我ながら姑息で卑怯な考えである。

 

言うまでもなく、この後エイブリーさんになが~いお話をされました。内容は各自の脳内補完でお願いします・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・あのー、エイブリーさん?」

 

「はい。」

 

「確かに、『言う事を一つ聞く』って言いましたけど・・・」

 

「はい」

 

「さすがにこの体勢はちょっとどうなんですかねぇ・・・」

 

「浴槽で圭太郎さんが私にしたこと、忘れたんですか?」

 

「スンマセンシタ」

 

エイブリーからの説教を受け終わった後、昨晩の様に同じ部屋で寝る事になった。さすがに今日は俺が床で寝ようとしたのだが、彼女はそれを許してはくれなかった。

俺がエイブリーの言う事を可能な範囲で聞くという条件を飲み、一体どんな事を言ってくるのかと思考をめぐらせていたのだが、その要望とは『今日も一緒に寝る事』だった。

昨日のような体勢でさえドキがムネムネだったのに、今日のこれは・・・

 

「いや、ちょ、くすぐったいって」

 

「・・・」グリグリ

 

「無言で顔を擦り付けるのやめてくれます?」

 

マーキングじゃあるまいし・・・

 

客観的に、なおかつ簡潔に説明すると、『エイブリーが俺の胸に顔をうずめて』います。

 

「あ、あの・・・」

 

「あれ? お風呂場での余裕はどこにいったんですかね? さっきはこんな事よりも比べ物にならない位の『恥ずかしい事』してたんですけどねぇ」

 

「ぐぅの音もでない・・・」

 

くそ、くやしいけど今は完全にエイブリーが上の立場だ。ここぞとばかりに、あからさまな態度を取っている。

今はこのまま時が過ぎるのを待とう。うん、そうしよう。

こんな風に自己暗示をかけないといけない程、我慢するのが辛かった。

 

「圭太郎さん」

 

「な、何でしょうか?」

 

「あ、いや、もう何かをさせようって事じゃないですよ?」

 

「そ、そっか」

 

そう言われて、声の主がたった今顔をうずめている胸を撫で下ろす。

 

「その・・・今日は色々とワガママを言ってすみませんでした」

 

「そんな、別に俺は我儘だなんて思ってないよ」

 

「そもそも、私が圭太郎さんのいるお風呂場に無断で入った事が原因でしたし・・・」

 

「でも、入ってきたエイブリーをあんな風にさせたのは俺だし・・・」

 

「・・・じゃあこの件は『おあいこ』ということで」

 

「そうだね、エイブリーがそう言うなら、そうしよっか。・・・じゃあこの体勢をどけt「ダメです」アッ、ハイ」

 

チクショウ、いい流れだからいけると思ったんだけどなぁ・・・

 

「・・・圭太郎さんがさっき言ってましたよね、私の事を妹みたいだって」

 

「え? そんな事言ってた? のぼせてたからよく覚えてないや」

 

「そうやって、のぼせていた事を理由にうやむやにしようとしないで下さいよ・・・とにかく、そう言っていたんです」

 

「はぁ、それで?」

 

「私もあの後少し考えたんですけどね、圭太郎さんの言う通り、私にとって圭太郎さんはお父さんっていうよりはお兄さんの方が近いと思ったんですよ」

 

「あぁー、何となくそんな事言ってた気がしてきたよ」

 

「・・・それで、何が言いたいの?」

 

「・・・」

 

「あふっ、ちょっ、やめて。擦りつけないで」

 

(ーーー仕返しになったかどうか分からないけど・・・まぁ、いっか)

 

(俺、眠れるかなぁ・・・?)

 

ちなみに、俺はこの後そう遅くない内に爆睡した。

 


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