幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

57 / 60
冥界デート?

「まあ、冥界だから普通のにはならないと思ってたけどさ……」

 

まさかいきなり通行手段がドラゴンになるとは。

 

そう思いながら、俺は眼下に広がる森を眺めていた。

 

レーティングゲームが終わった翌々日。

 

アーシアの神器で怪我のほとんどが治っていた俺は智代と一緒にデートに行く事になった。

 

待ちに待ったデートと、部長が教えてくれた冥界のスポットということでかなり期待していたのだが……

 

「というわけでイッセー。冥界の秘境に行くにはドラゴンが必要らしい。よってタンニーン殿に頼む事になった」

 

タクシー感覚でタンニーンのおっさんに乗って、冥界の秘境へ向かう事に。楽しみ云々の前に驚きが勝った瞬間だった。

 

まあ、それはさておき。

 

一番目についたのは智代の服装だ。

 

基本的に学園の制服以外ではスカートを穿きたがらない智代がスカートを、それもミニを穿いている。

 

というか、全体的な服装が可愛らしく整っていて、いつものクールさを前面に押し出した智代という感じじゃ無い。普通に年頃の女の子っぽい感じだ。

 

本人曰く「リアス部長が選んでくれたので一応な。べ、別にそれ以外の理由は無いからな」らしい。

 

「イッセー。そろそろ目的地だそうだ」

 

「目的地?何も無いけど……」

 

眼下には以前森しかない。別に特別なスポットという感じはしないけど……。

 

そう思っていると、徐々にタンニーンのおっさんは降下していき、降り立った。

 

「ここだ」

 

おっさんの背中から降りると、そこには無数のドラゴンがいた!しかも何か林檎っぽい形をしたものを食べてる!

 

「兵藤一誠。俺が以前話した事を覚えているか?」

 

「前?それって悪魔になった理由?」

 

「ああ。あの時話したドラゴンアップルというのが今あのドラゴン達が食している果実だ」

 

そうなのか⁉︎ドラゴンが食べるものだから普通じゃないとは思ってたけど、ものすごくデカイ!普通に俺の数倍はあるぞ⁉︎

 

「良い機会だ。お前達も食べてみると良い」

 

そう言っておっさんは果実を一つ取り、器用に皮を剥いてくれた。

 

こんなところで使う事になるとは思わなかったけど、俺はアスカロンを出して、ドラゴンアップルを手頃なサイズに斬る。今のままじゃ、到底食べられない。

 

「はい、智代」

 

「ありがとう、イッセー」

 

智代に渡し、一緒にドラゴンアップルを食べる……うん?

 

「なんか林檎っていうか……」

 

「梨だな。これは」

 

みずみずしさといい、食感といい、味といい、林檎ではなく梨だった。いや、美味しい事には美味しいけど、一瞬あれ?ってなった。

 

「元々はそういう味ではなかったらしいがな。長い年月を経て、少しずつ味が変わったのさ」

 

あー、元々は林檎味だったのか。

 

「ていうか、俺達食べても良かったの?」

 

「この実はそう実るものではないが、それでも喰いつくせるほど数もいない。だから、ここには他のドラゴンが訪れることも多々ある」

 

そうなのか?俺には前に言ってたドラゴンアップルしか食べられないドラゴンがどんなのかわからないけど、言われてみれば確かに見た目はどのドラゴンにも共通点が見られない。

 

「美味かったか?」

 

「うん。サンキュー、おっさん」

 

「ははは、なに。お前達とはこれから長い付き合いになるだろうからな。忘れられんようにしておくだけさ」

 

笑いながら、おっさんは言う。

 

こんな事しなくてもおっさんの事なんて忘れられないよ………何回か殺されそうになったし。恐怖によって刷り込まれた記憶というのは絶対に忘れられないらしい。そしてそれは既に経験済みである。

 

「?どうした、イッセー。私の顔に何か付いているのか?」

 

「いや、何も」

 

冗談はさておいて。

 

「この次はどこに行くんだ?」

 

「実はこの先に龍を癒すと言われている泉があるらしい。今からそこに歩いていく」

 

「おっさんに乗っけてもらうのはダメなのか?」

 

「すぐそこな上、そもそも地下にある。基本的に小型のドラゴンしか入れないそうだ」

 

あー、確かにおっさんじゃ無理だよな。だって、特撮物の怪獣ばりにデカイし。

 

「まだ傷は完治していないだろう?ちょうど良いから、デートついでに傷も完全癒せ」

 

「まあ、確かに治ってはいないけど……大したことないぞ?」

 

「ああ、言い方が悪かったな。お前の中に残っているヴリトラの呪いを完全に抜く」

 

ヴリトラの呪いって……匙が使ってたあの黒い炎だよな?確かにゲームでリタイアした直後は俺の肉体に「ヴリトラの呪いが〜」と後でお医者さんには聞いたけど、その後に抜けたとも聞いた。

 

「最近どうにも力の流れには敏感になったらしくてな。なんとなくだが、そういうことがわかるようになってきた」

 

「それって仙術ってやつか?あの気の流れを操作できるみたいな」

 

「そんな器用なものじゃない。出来るならその呪いを無力化出来る。あくまで良し悪しがわかる程度だ」

 

首を横に振って、智代は言う。

 

「では行くか。昼を過ぎると大量の小型のドラゴンで溢れるらしいからな」

 

「お、おう」

 

そこはかとなく、智代がノリノリに見えるのは気のせいだろうか。

 

でも、まあ。智代が楽しいならそれでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、徒歩で二十分……癒されに来たはずなのに……」

 

「……何故イッセーはそこまでボロボロなんだ?」

 

「俺も聞きたいよ……」

 

地下にあるらしい龍を癒す泉とやらに来たんだが、そこに来るまでが壮絶だった。

 

何故か会うドラゴン全てに攻撃された。炎撃、氷撃、雷撃、風撃etc……。

 

最初は機嫌を損ねたのかと思って、近づくのをやめたのだが、途中からあっちが俺を視界に入れた瞬間に攻撃してきた。

 

悪魔がダメなのか?智代は……まあ特殊だから襲われないとして。何故。

 

今も子どもドラゴンからかなり離れた位置の泉のほとりで智代と一緒に癒されている。

 

危うくブーステッド・ギアを使いそうになったぜ……。

 

『たかだか子ドラゴン相手に本気になってくれるなよ、相棒』

 

「わかってるよ。ただ、帰る時は追い払うのに使うぞ」

 

『それなら大神智代に頼めばいいさ。ドラゴンの雄は基本的に同性を嫌うが、異性には種族問わず懐きやすい。特に大神智代の事を考えればな』

 

「じゃあ、ドライグはどうなんだ?一応雄……だよな?ドライグ」

 

『一応ではない。何千年も前から雄だ』

 

やや呆れたような声でドライグが言った。いや、だって神器だから性別があるかどうかわからないし。

 

「で、どうなんだ?」

 

『どうだと言われてもな。ドラゴンは他の種族と違って、自由きままに過ごす。先程異性には懐きやすいといったが、それはあくまでも子の時だけの話だ。基本的には成熟したドラゴンはそういう事に興味は持たない』

 

「それって……性欲がないってことか?」

 

『そもそういう概念がない。それらは種を残すという本能から来ているが、ドラゴンの寿命はそれこそ永遠に近い。悪魔よりもな。だからそういった本能が必要ないのだ』

 

………じゃあ、ドラゴンって一体どこから生まれてくるんだ?子どもがいるってことは親もいるはずだし……うーん。難しいなぁ。

 

『だが、まあ。何事も例外はある。俺達のように一個体として完成したドラゴンでさえ、ごく稀にそう思うことはあったんだからな』

 

「ふーん、それってドライグにも昔好きだったやつがいたって事か?』

 

「ドライグの思い人?いや、思いドラゴンか?興味があるな」

 

智代も乗っかってきた。てっきりそういうのにはあまり興味がないと思ってたけど……話してるのがドライグだと興味も湧くのか?

 

『いや、その者はヒトだった』

 

「ヒト?ドライグは人間の女性に恋をしていたのか?」

 

『……さあな。今となってはそれを確認する術はない』

 

そう言ったきり、ドライグはまた引っ込んでいった。惜しかったな、ドライグが昔の自分のことを話してくれるなんて珍しいのに。

 

それにドライグにも好きだった人がいたと思うと急に親近感が湧いてきたな。ヴァーリがあんなだから、てっきりドラゴンは皆闘うのが大好きな奴ばかりで俺だけおかしいのかと思ってた。おっさんだってなんやかんやで闘うのは好きだって言ってたし。

 

「智代?どうした?」

 

「……いや、なんでもない。多分思い違いだ」

 

何やら考え事をしていたのか、真剣な表情で考え込むような様子だった。

 

「それよりも身体はどうだ?」

 

「ああ、それなんだけど、なんか身体が軽くなった気がする」

 

例えるならライザーと闘った時にフェニックスの涙を飲んだ時と一緒だ。ていうことはもう呪いは抜けたのか?

 

「うむ。それは良かった。では、ここからが本当のデートだな」

 

「?どういうことだ?」

 

「万全な状態でないと楽しくないだろう?ここに来たのはデートの一環だが、本番はこれからだ」

 

そう言って、智代はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界の秘境から飛んでやってきたのはなんと冥界の遊園地だった!しかも、サーゼクス様が建てたものらしい。

 

遊園地といえばデートスポットの定番!悪魔のカップルも結構いるし、さっきと違って、めちゃくちゃデートしてる感が出てきた。

 

「さて、何をしたい。イッセー」

 

「そうだな……とりあえず、アレかな」

 

俺が指差したのはどデカイジェットコースター。

 

「と、とりあえず……だと?」

 

「うん?」

 

横にいた智代が苦虫を噛み潰したような……ものすごく気まずい様子で問いかけてきた。

 

「ほ、本当にアレがいいのか?」

 

「まあ。乗ったこととかないし」

 

「……わかった。行くぞ、イッセー」

 

そう言うととてもぎこちない足取りでジェットコースターの方へと向かい始めた。

 

だ、大丈夫なのか?

 

そう思いながら、俺もジェットコースターの方へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

「無理なら無理って先に言ってくれれば良かったのに……」

 

巨大ジェットコースターを乗り終えた俺はベンチに座って、項垂れている智代に言った。

 

新事実だったのだが、智代はジェットコースターが無理らしく、ジェットコースターに振り回されている間、今までに聞いたこともないような悲鳴をあげていた。

 

「……………よ、よし、次だ。どこに行く?」

 

顔色が悪い智代はふらふらと立ち上がる。

 

「じゃあ、もう一回」

 

「………」

 

「嘘、ごめん。ちょっと意地悪なこと言った」

 

ふざけてもう一回と言ったら、智代が猛烈に泣きそうな顔をしていた。それ程までにジェットコースターは嫌らしい。やっぱり女の子は苦手なのか?

 

「アレにしよう」

 

「アレは………新感覚のシューティングゲーム……という触れ込みだな」

 

俺が違うのを指差したら、凄まじい早さで智代は蘇生してパンフレットを開く。過去これ程までに智代が変わり身をしたことはなかったから、ジェットコースターは智代にはNGということで覚えておこう。

 

列に並んで待つこと三十分。俺達の番が来た。

 

「お客様。こちらをお持ちください」

 

渡されたのは玩具の銃みたいなやつと……防弾チョッキ?

 

「あ、あの、これって……」

 

「念の為、でございます。中におりますのは低級の魔物ばかりですが、空腹になると暴走しますのでご注意ください」

 

念の為に防弾チョッキ着せられるの!?ていうか、魔物って何!?遊園地のシューティングゲームだろ!もっとこう……CGとかを上手く使ったりしたやつじゃないのか!?

 

「ルールは中にいる敵を出来るだけ多く倒し、早くゴールする事です。得物は今渡しましたその銃に魔力を込めて撃ちます。必要になりますのはごく僅かな魔力ですのでくれぐれも全力で込めないようお願いします。新記録を出した方々には記念撮影と豪華景品がございます」

 

そう言って悪魔の店員さんが見るように促したのは、今までの記念撮影した人の写真。

 

………おい。全員傷だらけなんですけど!?おまけに低級って言ってる割にはクリアしてるのはゴツい人ばっかだし、六人くらいしかいないんですけど!?これは突っ込めっていう振りか?振りなのか?

 

新感覚っていうか、ただの危ないサバゲーじゃねえか!待っておいてあれだけど、ものすごくやめたくなってきた。

 

「えーと、ところで豪華景品っていうのは……」

 

「こちらでございます」

 

そう言って見せてきたのは年間パス、最新の家電製品やゲーム機器、レーティングゲーム上位者の試合観戦権、冥界の秘境ツアーetc……。

 

なんか景品が豪華すぎて余計に怖くなってきた……まあ、参加者が『中級悪魔の方まで』ってなってるからだと思うんだけど、それにしたってなぁ……。

 

「やっぱ他のに……智代?」

 

なにやら智代が景品一覧を見て、真剣な表情で何かを考えていた。

 

「……よし。イッセー、新記録を目指して頑張るぞ」

 

「え?やるのか?」

 

「冥界にいる以上、ここでしか出来ない事をしておくに越した事はない。多少リスキーだが、アトラクションにはつきものだろう」

 

何故かやる気満々だ。別に智代はこういうのが好きってわけじゃないし……あ。

 

景品一覧の中に俺はとあるものを見つけた。

 

それは『デザート食べ放題権』。内容はこの遊園地内にあるものなら、なんでも無料で食べ放題らしい。

 

多分これだ。智代は甘いもの好きだし考えられるのはそれくらいだ。

 

「では、お客様。こちらの魔法陣からゲーム内に転移します。ゴールの際は魔法陣の上に乗ればお客様の持つ機器によって自動的に作動しますので、くれぐれも落とさないようにお願いします」

 

この玩具の銃にはそんな効果もあるのか。無くさないようにしないと魔物の巣窟で放置されるって事だな。

 

店員さんに言われた通り、魔法陣に乗ると魔法陣が光り、俺達はフィールド内に飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法陣の光が収まり、次に見えたのは仄暗い洞窟の中だった。

 

雰囲気は完全にそれっぽい。何時もなら迷う事なく、ブーステッド・ギアを出してるところだけど、今回はそれはご法度。ルールに則ってクリアしないと怒られる。

 

早速、道なりに進んでいってみると、頭に不思議な紋様の書かれた的をつけたスライムが出てきた。

 

「えーと、魔力を込めて……引き金を引くっと」

 

店員さんに言われた通りにすると小さい魔力の球が的に当たり、スライムは消えた。

 

おおっ、倒したら消えるんだな。そこはゲームっぽい。

 

最初も難易度低めのスライムだし、後から徐々に強くなるって感じかな。

 

なんて暢気なことを考えていたその時ーー。

 

キシャァァァァァ……!

 

「な、なあ、智代。今、聞こえちゃいけない声が聞こえたんだけど……」

 

どう考えてもスライムなんて生易しい生き物じゃなかった。なんかこう、中ボスみたいな雄叫びだったんだけど。

 

「そうだな。だが、逃げる必要はない。というか……」

 

逃げられないしな。

 

そう言って智代が上を見上げ、俺もそれにつられて上を見ると、そこには体長十数メートルはある大蛇が目を光らせ、こちらを覗き込んでいた。

 

ちょっと待ったぁぁぁぁ!

 

おかしいだろ!?なんでスライムの次がアナコンダみたいな蛇なんだよ!?さっきの初心者への気遣いはどこ行った!?

 

取り敢えずじっとしてる間に倒しとかないと……ってか、的が小せえぇぇぇぇー!

 

なんでスライムの時と同じサイズなんだよ!もっとデカくしろよ!当たらねえよ!

 

「ふむ。あれを狙うのはなかなか骨が折れ「逃げるぞ、智代!」む、何故だ。倒せばいいだろう」

 

「逃げてもいいって言ってたし、新記録狙うなら戦わない方がいいだろ!」

 

ていうか、戦いたくねえよ、あんなの!神器使えるならともかく、生身で、しかもこんな玩具で闘えるか!

 

智代の手を引いてそのままダッシュ。後ろは振り向かない、だって地を這うような、何かを引きずる音が凄く聞こえてくるから!怖すぎて振り向けない!

 

ギャォォォォォォンッ!

 

今度は何かライオンっぽいのが来たぁぁぁぁ!?

 

尻尾が蛇で、鳥の羽が生えてる!?ああいうのって確か……キメラって言うんだっけ?いや、そんな事よりも!

 

「だから的が小さいって!」

 

「成る程、景品が豪華な理由はこれか」

 

いや、もっとスケールダウンしていいから、難易度落としてくれよ!なんでデートスポットの定番の遊園地でこんな命懸けの戦いをしなくちゃならないんだ!?ていうか、なんでそんなに冷静なんですかね、智代さん!

 

「イッセー。少し手を離してくれ」

 

「駄目だ。手を離したら戦いに行くだろ」

 

こんな化け物と戦わせるのは駄目だ。デートなんだから尚更な。

 

しかし、智代は一つ息を吐いてかぶりを振る。

 

「イッセー……あの蛇とあのキメラは冥界の生物だ。ということはだ。あの二匹はなんだ?」

 

「へ?それは………魔物、だよな」

 

「その魔物が、私を攻撃すると思うか?」

 

「攻撃しないとゲームの意味が………あ!」

 

一瞬何を言っているのかわからなかったが、ようやく理解した。

 

大神の力があれば、そもそも魔物は襲ってこない。全ての人ならざるものは惹かれ、特に魔を有する存在はそれはもう惹かれる。理性よりも本能がずっと強いこの二匹なんて、おそらく智代と戯れたかっただけなのだろう。よくよく見てみれば、全く敵意を感じない。

 

「ほら。来い」

 

智代が両腕を広げ、受け入れる姿勢を見せると大蛇とキメラはゆっくりと智代に寄っていき……。

 

「これなら外さないな」

 

ゼロ距離になったところで智代に仕留められた。

 

「こんなものか」

 

「あのさ、智代。もしかして……」

 

「イッセー、お前の思っていることは正しい。わかっていてこれに参加したのだ………というか、お前はなんでそれをすっぽり忘れていたんだ?」

 

どうやら智代ははじめからこうするつもりだったらしい。つまり、忘れてた俺だけが、慌てふためいたり、文句を垂れてたわけ……なんかすみません。

 

「私とて、それなりに、それなりにだぞ。デートは楽しみにしていた。だというのに、何が悲しくて怪我を負うようなことをしなければならない。服も汚れるのは嫌だ」

 

「だ、だよな」

 

まあ、何はともあれ、智代がいれば魔物なんか怖くないということで、つまるところ、この難易度高いじゃ済まないゲームは難易度低すぎてヤバいゲームにクラスチェンジを果たした。

 

もうそこからは余裕余裕。

 

智代に惹かれて寄ってきた奴らを倒しまくる。

 

反撃もしなければ避けもしない、むしろ自分から向かってくる的を撃つゲームは確かに新感覚ではあったけど、これはこれで問題な気がする。俺なんて最初以外殆ど歩いてるだけだもん。

 

そうして急ぎ足で歩いていくこと十分程度。

 

少し先にゴールが見えた。

 

淡い光を発する魔法陣。その周囲には当然魔物がうじゃうじゃ……いなかった。

 

あ、あれ?こういうのってゴールするのを止めようと嫌がらせレベルでいるものなんじゃないのか?それとも大抵の悪魔はここに来るまでにやられてるから、ここは手薄とかか?

 

「おや、こんなところで会うとは奇遇だね」

 

ふと、魔法陣の方から誰かが歩いてきた。

 

深く帽子を被り、ジャージ服を着ている。声からして男と思うけど、なんか聞いたことのある声だな。

 

「ひょっとして隣にいる美しい女性はガールフレンドかな?まあ、君ほどの存在なら一人くらいいても当然か」

 

「あー、えーと、俺の事知ってるのか?つーか、誰?」

 

素直に問いかけてみると、男性と思しき悪魔は笑う。

 

「ははは、これは失礼。礼儀がなっていなかったね」

 

そう言って、帽子を取るとそいつの顔が見えた。

 

金髪の優しげな雰囲気の美少年。虫を殺すのすらも躊躇しそうな程の優男という印象を持たせるこいつには見覚えがある。そうだ、確か––。

 

「ディオドラ・アスタロトか」

 

「名前を知っていてもらえて嬉しいよ」

 

智代が名を言うとディオドラはにこりと微笑んだ。そうだ、匙が悪魔の偉いさん方に喧嘩を売った時に匙を援護してくれた上級悪魔。どことなく、部長のような物腰の柔らかさを感じさせる上級悪魔という感想だ。

 

「こうして会うのは二度目だね、赤龍帝。今日はお忍びのデートかい?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……お前は?」

 

「僕はここの常連でね。力を下級悪魔にまで抑えて、息抜きに参加してるんだ」

 

ディオドラは手首につけているブレスレットを見せてくる。アレが悪魔の力を抑えるものなのか?ていうか、そんなものがあるんだな。

 

「此処であったのも何かの縁。話したい事もあるけど……タイミングが悪かったね。君達は新記録を狙っているんだろう?此処で話し込むと達成出来なくなるから、早く出た方が良い」

 

「そうだった。行こうぜ、智代」

 

「……ああ」

 

ディオドラをおき、俺と智代は魔法陣の元へと向かい、そのまま無事ゴールを果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言うと、智代のお蔭もあってかぶっちぎりの新記録だった。

 

倒した敵の数もかなり多く、時間は前の記録に圧倒的な差をつけてのクリアーだから、余裕も余裕だった。

 

一緒に写真を撮り、景品は一組一つという事で智代に選ばせてあげたのだが……。

 

「本当にこれで良かったのか?」

 

「ああ」

 

智代が選んだのはデザート食べ放題……ではなく、ここでしか手に入らないペアルックの限定品ストラップだった。

 

迷う事なく選んだあたり、初めからこれを狙っていたのだと思うけど、選ぶ人もあまりいないらしく、店員さんも少し驚いていた。

 

「まさかとは思うが、イッセー。私がデザートの食べ放題に目が眩んだと思っていたのではないだろうな?」

 

「ま、まさか……。そ、そんな事ないぜ」

 

「はぁ……隠す気があるのならもう少しその努力をしろ」

 

溜め息を吐いて智代は呆れていた。ごめんね!嘘つくのとか苦手でさ!

 

「最近は色々あって、こうして遊ぶ事すらままならないだろう?だからかな。こういう形に残るものがないと、少し不安になるんだ。お前はいつも無茶ばかりするからな」

 

ストラップを見て、智代は弱々しく呟いた。

 

そういえば、二年生になってからたった数ヶ月でどれだけの戦いをこなし、死ぬ思いをしただろうか。俺はただ守りたいものがあって、その為に戦ってきたから考えもしなかった。智代の目に、その時の俺がどう映っているかなんて。

 

いつだったか。智代には戦わせたくない、危険な目にあわせたくないと言ったことがあった。だから、俺は命懸けで戦ったけど、智代からしてみれば、俺にも戦ってほしくはないのかもしれない。だから戦って、無茶をして、今の状態になった。

 

もしかしたら、智代を不安にさせているのは俺が弱いからだけじゃないのかもしれない。元々、智代は争い事は好きじゃない。襲われたから撃退してを繰り返し、望まずに不良から恐れられるようになっただけだ。それは小学校で、智代をイジメから助けた時にわかっていた事だ。なら、レーティングゲームでさえも智代の事を不安にさせる要因になるのかもしれない。

 

そう思うと、俺は無意識のうちに智代を抱き寄せていた。

 

「イッセー?」

 

「ごめん。今まで気づかなくて。俺、頭悪いし、鈍いからさ。何時も全然気づかないんだ。それで智代に言われて、後から気づいたりする事ばっかでさ。何時も智代に迷惑かけてる………でも、一応俺も男だから、守りたいものの為には身体張りたいんだ。匙がそうだったみたいに、無茶でも、無謀でも、それだけは譲れないから。俺はこれから数えられないくらい智代を不安にするかもしれない。それでも智代が俺を待っててくれるなら、絶対そこに帰るから。まあ、上手くは言えないけど……とにかく心配する必要はないって言いたい」

 

きっと木場ならここですかした言葉の一つでも吐けるのだろう。匙なら漢らしく言い切るんだろう。

 

俺は木場みたいなイケメンさも、匙みたいな漢らしさもない。

 

でも、それでも俺には守りたいものがあるから。退いてはいけない一線だ。

 

それに一つだけ言いたい事もある。

 

「それにな。智代も結構無茶するぞ。俺より命懸けの事ばっかするし」

 

「……返す言葉がないな。強いて言うなら、私もお前と一緒だ。私にも守りたいものがある。それに私はお前にーー」

 

と、そこで智代が黙った。

 

「智代?」

 

「……しまった。何故今の今まで気づかなかったんだ」

 

「え?何が?」

 

俺の問いかけをスルーして、智代は誰かに電話をする。

 

すると……俺のすぐ後ろ。電話の鳴る音が聞こえた。

 

「もしもし、リアス部長。探偵ごっこにしてはタチが悪いと思うが、如何か?」

 

智代の視線の先、つられて振り向くとそこには苦々しい表情を浮かべ、携帯電話を片手に立っている部長がいた。

 

「ご、ごめんなさいね。あなた達の事となると、どうしても気になって……」

 

「その様子だと他の眷属も来ているか……やれやれ、プライバシーも何もあったものではないな」

 

額に手を当て、溜め息を吐く智代。えーと、もしかして今までの全部見られてたって事か!?

 

「…………智代。俺、恥ずかしくて死にそうなんだけど」

 

「安心しろ、イッセー。…………私もだいたい同じだ」

 

「ま、まあ、二人とも落ち着いて。こうなった以上、仕方ないわ。眷属全員で遊びましょう。今、朱乃達を呼ぶわね」

 

そうして部長が呼び出してから、およそ五分程度で全員が集まり、皆がやたら微笑ましそうな表情を浮かべている事に余計に死にたくなった。

 

まさか初デートで黒歴史を創る事になるなんて…………。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。