幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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はぐれ悪魔黒歌

「最上階にある大フロアがパーティ会場みたいね。イッセー、智代。わかっているとは思うけれど、各御家の方に声をかけられたら、ちゃんと挨拶はするのよ?」

 

「もちろんだ」

 

「は、はい」

 

おっさんとその眷属のドラゴンさん達、そしてリムジンと乗り継いでやってきたホテルはなんというか、やっぱりドデカかった。

 

一応魔王主催のパーティらしいんだけど、部長曰く「次期当主はおまけでお父様方のお楽しみパーティ」だそうで、社交界とはまた違った気軽なものなんだとか。部長はそれにうんざりしていたようだったけど、俺としては堅苦しくないのならありがたい限りだ。

 

乗っていたエレベーターが目的の階に到着し、一歩出ると会場入り口も開かれる。

 

煌びやかな広間が俺達を迎え入れてくれた。フロア一杯に大勢の悪魔と美味そうな食事の数々、天井にはやっぱり巨大なシャンデリア。お金持ちの人ってシャンデリア好きだよな。

 

『おおっ』

 

部長の登場に誰もが注目し、感嘆の息を漏らす。

 

「リアス姫。ますますお美しくなられて……」

 

「サーゼクス様もご自慢でしょうな」

 

と、部長に皆が見惚れてる。

 

部長は盛り上がらないって言ってたけど、十分盛り上がってるよ!

 

「うぅぅ、人がいっぱい……」

 

「頑張れ、ギャスパー。お前も修業をしただろう」

 

「は、はいぃ……が、頑張りますぅ……」

 

智代にぴったりひっつくようにして歩くギャスパー。

 

相変わらずドレス着たのに見せたいわけじゃないんだよな。引きこもり精神で女装趣味は本当に理解し難いぜ。

 

「イッセー、智代、挨拶回りをするわよ」

 

「イッセーはともかく、何故私も?」

 

「イッセーは伝説のドラゴンだけれど、貴方も神滅具使いよ。それにコカビエルを退けたという噂も広まっているわ。是非、貴女にも会いたいという方もいるのよ」

 

「……そういうものなのか?」

 

どうやら、自分も有名になっているという現状がイマイチ納得出来ないらしい。

 

そうはいっても、ライザーの時もコカビエルの時も智代がいなかったらかなりマズかったしな。それにこんなに綺麗なんだから、注目されない方がおかしい。

 

そういうわけで、俺と智代は部長に連れられてフロアをぐるりと一周する羽目に。

 

俺はなんとか紳士的な振る舞いをしていたが、智代の方はどこで身につけたのか、部長と同じように淑女の振る舞いを見せていた。なんだかんだ言っても、こういうところではきっちりやりきるのが智代らしいところだ。俺も部長の眷属になった以上、必須スキルだからなんとかしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

 

挨拶も終え、俺達は解放されたわけだが、予想以上に疲れたのでフロアの隅っこに用意された椅子に俺と智代、アーシアとギャスパーが座っていた。

 

部長と朱乃さんは遠くで女性悪魔さん方と木場も女性悪魔の皆さんに囲まれていた。

 

部長と朱乃さんはともかく、木場は相変わらずだ。

 

特に智代やアーシアはその美しさや可愛さに惹かれて声をかけてくる男性悪魔がいる。俺はその男性悪魔達の気持ちには酷く共感してしまう。

 

「イッセー、智代、アーシア、ギャスパー、料理をゲットしてきたぞ、食え」

 

先程席を立ったゼノヴィアが大量の皿を器用に持ってやってきた。皿の上には料理の数々。

 

「悪いな。ゼノヴィア」

 

「いや、何。このぐらい安いものだ。ほら、アーシアも飲み物ぐらい口をつけたほうがいいぞ」

 

「ありがとうございます、ゼノヴィアさん……。私、こういう初めてなんで、緊張で喉がカラカラでした…」

 

アーシアはゼノヴィアからグラスに入ったジュースをもらうと、口をつけ始めていた。

 

「私も正直疲れた。この堅苦しい服装にも堅苦しい対応にもな」

 

智代もゼノヴィアからジュースを受け取り軽く息を吐いた。

 

アーシアはちょくちょくだったけど、智代はかなりの頻度で声をかけられてたからなぁ……その度に何時もとは全く違ったお嬢様のような丁寧口調だったから、余計に疲れたんだろう。

 

と、そこへ人影が。ドレスを着た女の子だった。あれ?どこかで見た気が……あ。

 

「お久しぶりですわね、赤龍帝と……智代おね……んん!大神智代様」

 

「えーと、確か焼き鳥野郎の妹……だったよな」

 

そう、部長の元婚約相手で確か智代のほぼ全魔法力を注いでの攻撃で撃破されたんだっけ。

 

「レイヴェル・フェニックスです!全く、これだから下級悪魔は頭が悪くて嫌になりますわ」

 

ぷんすか怒っている。あー、確かに焼き鳥野郎の妹は酷かったな。

 

「悪かったな。で、兄貴は元気か?」

 

「……貴方や大神様のお蔭で良い感じに天狗の鼻がへし折られて、今では眷属共々、切磋琢磨しておりますわ。その点でいえば、本当に感謝しています」

 

「ふむ。あの手の輩は一度負けると心が折れるものだが、存外メンタルは強いようだな」

 

「はわっ⁉︎と、とととと智代お姉様⁉︎」

 

「「お姉様?」」

 

智代を見た途端にレイヴェルはあからさまに挙動不審になった。

 

しかも「お姉様」って……うちの学校の女子みたいだ。

 

「はっ!コホン。すみません、取り乱してしまいました。突然声をかけられたものですから……」

 

「そうか。それは済まないことをしたな。あー、レイヴェル」

 

「お、覚えてらっしゃったのですね!」

 

「まあな。お前の場合は……なんというか、覚えやすいしな」

 

あ、あの微妙な顔は多分良い覚え方をしていない顔だ。おそらく俺と同じような覚え方に違いない。

 

そうとは露知らず、レイヴェルは覚えてもらっていたということで目を輝かせていた。

 

この様子……完全に智代の格好良さに当てられたらしい。まぁ、わかるけど。

 

「き、今日は大変お美しいですわね。あ!い、以前も美しくありましたけど、今日は一段と……」

 

「ありがとう。褒めてくれるのは嬉しいのだが、慣れていない。あまり持ち上げないでくれ」

 

バツの悪そうな表情で智代は言う。智代は「かっこいい」とは言われ慣れているけど、基本的に褒め殺されるのは苦手としてるらしい。あんまりそういう状況になった事がないからだろうか。俺も気付かなかったし。

 

と、そこへさらに見知ったお姉さんが登場した。

 

「レイヴェル。旦那様のご友人がお呼びだ」

 

確か、この人もライザーの眷属の一人で、智代にやられた人だった、名前は知らないけど。

 

「わかりましたわ。智代お姉様。今度お会い出来ましたら、お茶でもどうでしょうか?わ、わわ、私で良ければ、手製のケーキをご用意しますので!」

 

レイヴェルはまるで捨て台詞を吐くかのようにそう言って、一礼して去って行った。

 

「やあ、大神智代。それにキミは……赤龍帝だったかな」

 

「あ、はい。兵藤一誠って言います」

 

「いや、そうかしこまらなくていい。君達には感謝しているよ。あのゲームのお蔭でライザー様は更に上を目指すようになられた。いい顔をされるようになったよ」

 

「今日はレイヴェルの付き添いか?」

 

「まあ、そんなところさ。あの子もあの子でライザー様同様に君の強さと美しさに惚れ込んだようだ。あのゲーム以来、君の話ばかりしているよ。まぁ、ライザー様は兵藤一誠。君にもご執心のようだったけど」

 

え゛っ。

 

「お、俺にですか?」

 

「是非ともリベンジしたいそうだ。後「次こそお前に勝って、大神智代を俺の眷属にしてみせる!」だそうだ。レイヴェルが奥方様のフリーの駒と交換という形でライザー様の眷属ではなくなったから、これで晴れて一人分空いたわけだし、私としても歓迎するよ」

 

あの焼き鳥野郎……まだ諦めてなかったのか!ていうか、あれはあの時だけの約束だぞ!今はもう無効だ無効!

 

「リベンジなら何時でも受けるって言っておいてください。後、いい加減智代の事は諦めろとも」

 

「ははっ、承ったよ。さて、私はこれにて失礼する。大神智代、また君とも闘いたいものだよ」

 

そのままお姉さんは手を振って行ってしまった。智代は本当にモテモテだな……女子に。

 

「あだっ⁉︎」

 

「今、ものすごく失礼なことを考えたな。次は本気で叩くぞ」

 

ああ……確定系なんですね、智代さん。最早、脳内でもふざけたことは考えられないようだ。

 

「……お二人って、意外に悪魔の交友が広いんですね……」

 

ギャスパーは尊敬の眼差しで言ってくれるけど……広く見えるのかな?よくわからん。けど、こっちに来てからいろんな悪魔と会っているからなぁ……。

 

そんなため息混じりの俺の視界に小さな影が映る。

 

ーー小猫ちゃん?

 

なにやら急いでパーティ会場を出ようとしている。その表情は何かに夢中なものだ。何があったんだろう?嫌な予感がする。

 

「イッセー」

 

「ああ、わかってる。アーシア、ゼノヴィア、ギャスパー。ちょっと待ってくれ」

 

「どうしたんですか?もうすぐ魔王様の挨拶が始まりますよ?」

 

「いや、ちょっと知り合いがいたから智代と会ってくる。挨拶までに帰ってくるよ」

 

「わかった。私達はここにいるぞ。ギャスパーの事は任せろ」

 

「ああ!」

 

大事にしたくないから、三人には嘘をついた。とりあえず、智代と一緒に小猫ちゃんの向かった方向へーー。

 

小猫ちゃんはエレベーターで降りていく……下?もしかして外に出るのか?

 

隣のエレベーターの扉が開いたのを確認して俺達は乗り込む。すると、ギリギリで誰かがエレベーターに……って部長⁉︎

 

「血相を変えて、どうしたの?」

 

「小猫ちゃんが何か追いかけて飛び出して行ったんです」

 

「様子も少しおかしかったので、イッセーと後を追う事にした」

 

「成る程、気になるわね。わかったわ、私も行くわ」

 

「はい。……けど、よく俺達が乗り込むのがわかりましたね?」

 

結構悪魔がいたから、さっきみたいに偶然視界にでも入らない限り、わからないと思うんだけど。

 

怪訝に思う俺に部長はニコリと微笑みながら答える。

 

「私は常にあなた達の事を見ているわよ。少しでも目を離すと心配だもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターは一階まで降りた後、近くにいた悪魔に小猫ちゃんの特徴を教えると、予想通り外に出た事を教えてもらった。

 

部長の使い魔のコウモリで小猫ちゃんを捜索してもらい、その間、ホテルの外の噴水前で待機した。

 

「やはり、小猫の様子はおかしいわね」

 

「はい。でも、小猫ちゃんがあそこまで追う者って何でしょうか?」

 

俺の問いに部長は深く考え込む。険しい表情から察するに何か深刻な事に出くわしたのかもしれない。

 

「智代は何か心当たりあるのか?」

 

「何故そう思う?」

 

「いや、なんかあんまり悩んでないみたいだし。それに考え込む時って智代は顎に手を当てる癖があるから」

 

俺がそう言うと智代は目を瞬かせた。あれ?もしかして智代も気づいてなかったのか?

 

「……確かにイッセーの言う通り、心当たりはある。そしておそらく、リアス部長と考えていることは同じだ」

 

「そう……あの子は智代にも話したのね」

 

そう言う部長はなんだか嬉しそうだった。俺は何が何だかわからないんだけど……あ、コウモリが帰ってきた。

 

「見つけたようね。ーー森?ホテル周辺の森にあの子は行ったのね?」

 

「わかったなら行きましょう!小猫ちゃんが心配ですし!」

 

「そうね。後を追いましょう」

 

俺達はコウモリの後を追って走り出した。

 

明るい場所を抜け出て、闇夜の森を走り抜く。

 

なんとか、人の手がそこそこ入っているようで、走れないほどではないし、俺としてはサバイバル生活の事を鑑みても、余裕で移動できる。

 

森を進むこと数分。智代が俺の腕を引いて、木の陰に隠れさせる。少しだけ顔を覗かせるとそこには小猫ちゃんの姿が。

 

何かを探し求めるように森の真ん中でキョロキョロと首を動かしていた。

 

そして何かに気づいて視線をそこへ。俺達も小猫ちゃんの視線の先に目を向けた。

 

「久しぶりじゃない?」

 

聞き覚えのない声。

 

音も立てずに現れたのは、黒い着物に身を包んだ女性。何処となく、小猫ちゃんに似ている。しかも頭部には猫耳だ!

 

「ーーっ……あなたは……」

 

「ハロー、白音。お姉ちゃんよ」

 

白音?初めて聞く名前だけど、それが小猫ちゃんの本名?

 

「黒歌姉様……」

 

絞り出すような声の小猫ちゃん。

 

その頭部には女性同様に猫耳が生えていた。

 

「へぇ〜、力を使えるようになったのね。てっきり、トラウマになってこの力を使うのを拒んでいると思ったんだけど……妹が成長していて、お姉ちゃん嬉しいにゃん♪」

 

「……そんな事はどうでもいいんです。姉様、これはどういうことですか?」

 

「怖い顔しないで。ちょっと野暮用なの。悪魔さん達がここで大きな催ししてるっていうじゃない?だから、ちょっと気になっちゃって」

 

「おいおい、黒歌。こいつ、もしかしてグレモリー眷属じゃないかい?」

 

手を猫みたいにして、可愛くウインクするお姉さんの隣に古代中国の鎧を着たイケメンの男が現れた。今度はなんなんだ⁉︎

 

不意にその男の視線が俺達の方に。まさか気づかれたのか?気配の消し方はかなり上手いと思ってるのに。

 

「気配を消しても無駄無駄。俺っちや黒歌みたいに仙術知ってると、気の流れの少しの変化だけで大体わかるんだよねぃ」

 

そう言うことかよ!

 

俺達は仕方なく、木陰から姿を現すと、小猫ちゃんは驚いていた。

 

「……イッセー先輩、智代先輩、部長まで……」

 

「久しいな、美猴。手の傷は治ったか?」

 

「お蔭さんでねぃ。そっちはケルベロスはどうなったよ?」

 

「当分グレモリー本邸で育てる事になった。将来的には私の使い魔になる」

「お、おう……そいつは良かったな」

 

あんまり嬉しそうに智代が語るもんだから、美猴と呼ばれたイケメンは軽く引いていた。

 

いや、まあ。俺も最初は驚いた。まさかケルベロスを使い魔ーーというかペットしたいだなんて。しかも智代にしては珍しくごねるものだから、人間界でも生活できるレベルに適応性が上がれば智代の使い魔になるそうだ。

 

「ところでそっちは……へぇ、多少は強くなったのかねぃ」

 

「なんでそんな事わかるんだよ?」

 

「言ったろ?俺っちは仙術も嗜んでるんでねぃ。気の流れとかである程度わかるのさ。ヴァーリの横で寝てた時に比べたらオーラの量が以前よりも上がっていたんでねぃ。それに氷姫の方は……なかなか面白い事になってるみたいだしよ」

 

……そうか。他者から言われると成果があったようで嬉しい……が、智代の事も気になるな。仙術ってのは、智代の今の状態もわかるんだろうか?

 

まあ、それは置いといて、問題はこいつらがここにいる理由だ。今の発言からして、多分ヴァーリを連れ帰ったのはこいつだし、そうなるとこいつは禍の団の人間だ。

 

「なんでここにいるんだ?テロでもする気か?」

 

「いんや、そういうのは俺っちらに降りてきてないねぃ。ただ、冥界で待機命令が出ていてねぃ。したら、黒歌が悪魔のパーティ会場を見学してくるって言い出してねぃ。なかなか帰ってこないから、こうして迎えに来たわけ」

 

「美猴、この子達、誰?」

 

「赤龍帝と氷姫だぜぃ」

 

「本当にゃん?へぇ〜、あれがヴァーリを殺す一歩手前まで追い詰めた現赤龍帝とヴァーリがご執心のお姫様?」

 

「そ。特にあのお姫様は俺っち妖怪達の天敵だぜぃ。黒歌、お前さんもわかるだろう?」

 

「そうね。あの子には本能的に惹かれてるにゃん。末恐ろしいにゃん」

 

人外を惹きつけて、それを打ち払うとか言ってたな、大神の一族は。

 

そういうのは本能的に察知しているのだろうか?俺にはよくわからないが。

 

「黒歌〜、帰ろうや。どうせ俺っちらはあのパーティに参加できないんだし、無駄さね」

 

「そうね。帰ろうかしら。ただ、白音はいただくにゃん。あの時連れてっていってあげられなかったからね♪」

 

「あらら、勝手に連れ帰ったらヴァーリ怒るかもだぜ?氷姫なら大歓迎かもしれないけど」

 

「この子にも私と同じ力が流れていると知れば、オーフィスもヴァーリも納得するでしょ?」

 

「そりゃそうかもしれんけどさ……そっちは納得しないだろうねぃ」

 

こっちを見て、美猴がニヤリと笑った。

 

当たり前だ。いきなり現れて、連れて行くなんて納得できるか!

 

「この子は私の眷属よ。指一本でも触れさせないわ」

 

「あらあらあらあら。何を言っているのかにゃ?それは私の妹。私には可愛がる権利があるわ。上級悪魔様にはあげないわよ」

 

部長とお姉さんがにらみ合って、一触即発の様相を帯びてきた……が。何かが起こる前に智代が一歩前に出た。

 

「第三者の私が言うのもなんだがな。お前にもリアス部長にも、好きにしていい権利なんてない。それは小猫が決めるべきことだ。血の繋がった姉だろうが、主だろうが関係ない」

 

「ヴァーリのお気に入りか何か知らないけど、何様のつもりにゃん?これは私と白音の問題。あんたには関係ないにゃん。邪魔するなら……」

 

「殺すか?正直事情をある程度知っている以上、力ずくは嫌だが……致し方ない」

 

その瞬間、言い知れない感覚が俺を襲う。なんだか、別の場所に飛ばされたような感じだ。

 

「……黒歌、あなた、仙術、妖術、魔力だけじゃなく、空間を操る術まで覚えたのね?」

 

「時間を操る術までは覚えられないけどねん。空間はそこそこ覚えたわ。結界術の要領があれば割りかし楽だったり。この森一帯の空間を結界で覆って外界から遮断したにゃん。だから、ここでド派手なことをしても外には漏れないし、外から悪魔が入ってくることもないにゃん。さてと……威勢の良いお嬢さんはそんな服装でどうやって私とやりあう気にゃん?」

 

「智代。ここは俺がーー」

 

「いや、こっちの都合もある。私がやろう」

 

「でも、それじゃ……」

 

「ああ。だからこうする」

 

智代がそう言うと周囲の魔力が目に見えて収束していく。いや、視えるっていうよりも感じるって言った方が正しいかもしれない。一瞬眩い閃光が辺りを包み込むと次の瞬間、智代は以前の氷の鎧を纏っていた⁉︎

 

「智代⁉︎何やってるんだよ!」

 

あの禁手は以前コカビエルと闘っている時に智代が最終手段として使用したものだ。

 

あの時は圧倒的な強さでコカビエルと渡り合っていた。

 

だがその代償として、智代は生命力のほぼ全てを失い、実質的には動く死人状態だったと先生も言っていた。なんで生きているのかわからないって。

 

それをまた使用したって事はあの時みたいにーー。

 

そう思っていると智代はそれを否定する。

 

「安心しろ、イッセー。これは私の貯蔵魔力じゃない。周囲の魔力で形成しているから、私の命に影響はない。その所為か、具現化時間は前の半分も無いが……リスクも無い上にこんなことも出来る」

 

智代が地面を殴りつけるとパキンッという音とともに違和感が消えた。

 

「嘘っ⁉︎術式を壊したの⁉︎」

 

「私の禁手の本領は無差別の凍結だ。ヒトやモノ、時間や空間、そして魔術なども例外ではない。力量差は多少影響するが……これぐらいなら本気を出さなくても軽く壊せる」

 

す、すげぇぇぇ‼︎守らないとなんて思ってたけど、俺の与り知らないところでどんどん俺の幼馴染は強くなっていく。やっぱり智代は凄い!

 

「小猫。後はお前の意志次第だ。最終決定権はお前にある」

 

「私は……私は塔城小猫。黒歌姉様、あなたのところには行かない!私はリアス部長と、皆と一緒に生きる!」

 

「……だそうだ。妹が心配なのはわかるが、そろそろ独り立ちだ。それとも、私達を倒して無理矢理連れて行くか?そろそろイッセーも準備は終わっただろうから。何時でも禁手にはなれるぞ?」

 

あ、バレてた。

 

実は小猫ちゃんのお姉さんが結界を張ったところで既に禁手のカウントダウンに入っていたんだ。お蔭さんで何時でも鎧を纏える。

 

「くっ……!」

 

「あらら、こりゃ部が悪すぎる。どっちが片方でもキツイのに二人相手じゃ楽しむ云々よりも命が危ないぜぃ。それにどっちか殺ったとしても、後でヴァーリに殺されるしな。ここはこっちの負けって事で帰ろうぜぃ、黒歌」

 

お姉さんはこちらを鋭い眼差しで睨んでくるが、攻撃の意思はないみたいで、臨戦態勢を解いた。

 

どうやらどんぱちすることにはならなかったみたいだけど……智代が鎧を解かない。

 

「待て、黒歌。お前に言っておくことがある」

 

そう言って、智代はお姉さんの元へと近づいていく。

 

「何よ?」

 

お姉さんは一層強く睨むが、智代に闘う意志が感じられない事と敵わない事を悟ってか、何もせずに睨むだけだった。

 

「ーーーーー」

 

「ッ⁉︎あ、あんた何でそれを……ッ⁉︎」

 

「ではな。用があれば私の家に来ると良い。闘う意志がなければ歓迎しよう」

 

智代の言葉にお姉さんは何も言わず、ただ美猴と共にその場から消えた。

 

二人がいなくなったのを見届けて、智代は鎧を解くと先程までのドレスに戻る……おっと。

 

「大丈夫か⁉︎智代、やっぱり無理してたんじゃ…」

 

「いや、少し疲労感があるだけだ。魔力はカバーしても、体力はカバーしていないからな」

 

「イッセー。智代を会場まで運んでおあげなさい」

 

「おんぶでですか?痛っ⁉︎」

 

俺が部長にそう問うと小猫ちゃんに脛を軽く蹴られた。でも、小猫ちゃんのパワー的に軽くでもかなり痛い。

 

「何すんの、小猫ちゃん⁉︎」

 

「……智代先輩はドレスなんですから、おんぶはおかしいです。ここはーー」

 

「当然。お姫様抱っこよ、ね?小猫」

 

「……はい」

 

部長の言葉に小猫ちゃんが頷く!え⁉︎なんでさ!確かにおんぶはスカートの丈の長さの問題で無理かもしれないけど、他に方法が……すみません。ないです。だから、そんな怒った顔をしないでください。部長、小猫ちゃん。

 

「智代。嫌だったら言ってくれよ」

 

「わかった」

 

こうして俺は会場まで智代をお姫様抱っこで連れて行くことになった。会場に到達するまでに会った悪魔に嫉妬されたり、羨望の眼差しで見られたのは言うまでもない。

 

 

 


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