幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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恐怖を超えた先

小中高校生問わず、誰もが求める念願の夏休み!

 

今年もぐだぐだ過ごしていくのかと思っていたのに、気づいたら山に篭ってドラゴンに追われる日々を送っていた。

 

ドゴオオオオオオオオンッ!

 

近くで木々が吹き飛び、岩が崩れて、地面にクレーターができる。

 

その中を俺は必死になって、怪獣のようなドラゴンのおっさんから放たれる火の息や薙ぎ払われる腕から逃げおおせていた。

 

ちくしょう!強くなるため、ヴァーリの野郎を今度こそはぶっ倒すために致し方ないとはいえ、このスパルタはあんまりだ。強くなるために死んじゃうとか本末転倒なんですけど!

 

「ほーら、赤龍帝の小僧。もっと素早く避けんと炭になるぞ」

 

なんていって楽しそうに追っかけてくるドラゴンのおっさん。

 

くそ、反撃したいのは山々だけど、禁手使わないとダメだし、禁手の使用はこの特訓が終わるまで禁止されてるし、前はおっさんが寝てる間にトラップを仕掛けて、それに力を譲渡する事で一矢報いたけど、次の日から苛烈さを増しちまったから、迂闊に反撃なんて出来ない。

 

しかし、我ながら逃げ足だけは速いと自分でも感心する。だって、今のところ、あのブレスはかすりもしていないし、ジャージはボロボロだけどダメージはない。

 

一日のしごきが終わったら、そこから基礎トレーニングになるわけだけど、ドラゴンのおっさんに追い回されるよりかは遥かにマシだから、身体は辛くても心は回復できる。

 

因みにご飯は冥界の動植物をおっさんに聞きながら捕ったりして食べている。

 

火を起こすのは智代の影響でアニメを見まくっていた俺からしてみればかなりイメージしやすく、すぐに起こせたし、後はブーステッド・ギアでなんとかなる。なんなら、おっさんの真似事だってできるぜ!

 

……それにしても、日に日に野生児化している気がする。一ヶ月サバイバル生活とか普通に出られそうだもん。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

再び放たれる火の球!もう見つかったのか⁉︎

 

「いたいた。全く、逃げ足だけは目を見晴るな。ほら、最初の頃は罠を張っていたろう?反撃してこい」

 

「上等だ!喰らえ、おっさん!」

 

俺は拳に魔力をためる。今日ばっかりは何も逃げ回っていたわけじゃない!限界まで力が高まるのを待ってたんだ!

 

『Explosion!!』

 

来た来た来た来た来た来たー!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ほう、なかなか良い一撃だな。だが、これではな」

 

俺の拳から高められた魔力の一撃が放出される。それを迎撃しようとおっさんは口を開け、火の球を放とうとする。わかってるよ、だから……

 

「弾けろっ!」

 

「なにっ⁉︎」

 

俺がそう叫ぶと巨大な魔力弾は分裂して、おっさんへと降り注ぐ。

 

この技を会得するのに二週間はかかった。そして実戦活用したのは今が初めてだけど、微妙なところだ。魔力の溜めと消費が大きいのに、大したダメージが見込めない。謂わば雑魚処理用の範囲攻撃だ。後はーー

 

「考えたな、赤龍帝の小僧。今のは少し不意を……ん?また逃げたか?」

 

こういう目くらましとかにしか使えない。おまけに分裂させても全部当たるわけでもないし、いちいち言わなければ分裂しないのも課題だ。今回はおっさんが胸を貸してくれたからなんとかなったけど、まだ汎用性は高くないな。

 

「やれやれ、勇気があるのか、それとも臆病なのか、わかりにくい奴だ」

 

そういうとおっさんはズシンズシンと重たい足音を立てて、離れていった。

 

ふふふ、おっさん。まんまと騙されたな!

 

今のうちに逆方向へ「やはりか」あ゛っ。

 

「お、おっさん⁉︎なんで俺の居場所が!」

 

「ここ数日のお前の動きを見てわかった事がある。一つは驚異的な逃げ足。それもただ逃げるだけじゃない。相手の視界から完全に消え去って意識からも消える上、相手の裏をかく。二つ目はその根性だ。マトモな神経ならいくら目くらましをしたからといってドラゴンの足元に隠れようなどとは思わん」

 

そう。俺が隠れたのはおっさんの踵の辺り。灯台下暗し作戦で行こうかと思ったのに、あっさりと看破されていた。

 

「しかしまあ、反撃もその方法も目を見張るものがある。存外強いではないか、ドライグ」

 

『なあに、まだまだひよっこだ。だが、今回の宿主は面白い奴でな。見ていてわかると思うが真性の馬鹿だ』

 

「真性の馬鹿か……くくっ、確かに言い得て妙だ」

 

んん?馬鹿にされてる?馬鹿って言ってるもんな。

 

「だがな、ドライグ。この小僧を見ているとな、遠い昔喧嘩ばかりしていた頃の二人の馬鹿を思い出す。理由もなく、くだらん理由をつけては殺し合い紛いのことをしていた馬鹿どもをな」

 

『……違いない。奴等は馬鹿だった。結局、最後に滅んだ理由も実にくだらない理由だった』

 

珍しくドライグの声音はまるで過去を思い出し、懺悔しているような、そんなものに感じた。

 

「さて、修行再開と行かせてもらうぞ」

 

もうか!もう少し時間稼ごうと思ってたのに!魔力はさっきの目くらましで殆どなくなった。なら、できることといえば……

 

「逃げる!」

 

「全く……あと一つわかったことは、異様に思い切りが良い事だな」

 

そりゃそうだ。迷ってたら、やられる場面はいくらでもあった……智代に。

 

「おー、やってんな」

 

そんな時、目の前に堕天使の総督様、アザゼル先生が降り立った。

 

先生が来た事でおっさんからの攻撃が止まり、それにつられて俺の足も自然に止まった。

 

「先生?なんでここに?」

 

「いやな。お前だけ場所が場所だから、実際に足を運ばねえとわからねえんだ。ったく、面倒くせぇ」

 

「あんたが送り込んだんでしょうが!」

 

この先生ぶん殴っても良いかな?良いよね?良いに決まってる!

 

拳を強く握りしめた瞬間、目の前に何かを突き出された。

 

「ほらよ。オカルト研究部の女子メンバーからの差し入れだ。もちろん、智代のもあるぞ」

 

智代のお手製料理⁉︎なかなかレアだ!本人はそこまで作りたがらないし、最近では俺が作る機会すらも減っていたから、半年前くらいじゃ無いのか?

 

差し出された重箱を開けて、俺は休憩がてらに弁当を食べ始めた。

 

「美味い!美味すぎるぅぅぅ!」

 

どれを食っても美味しい!皆の労りと同情と愛情が伝わってくる凄い弁当だ!具体的には前者二つが心に染みる!俺だけこんな死に物狂いでドラゴンとバトってるなんてどんな理不尽なんだ!

 

「どうだ、イッセー?修行のほうは?」

 

「死にそうですよ!手加減されてるのはわかってますけど、こちとら風圧だけで身体が木っ端微塵になるんじゃ無いかって気が気じゃないし!」

 

「って、言ってる割には大した怪我はしてないな。リアス達も言っていたが、お前の逃げ足には目を見張る者があるな。もっとズタボロにされているかと思ってたが……」

 

「何ちょっと残念そうな顔してるんですか!こっちは命がけで反撃して逃げるのヒットアンドアウェイで凌いでるだけですよ!こんなドラゴンのおっさん相手にマトモに挑む馬鹿なんているわけないし!」

 

「冗談だ。手加減してるとはいえ、元龍王相手にそこまでやれてるなら、それなりには出来てるって事だ……っつーわけだ、タンニーン。ちょいと加減するのをやめても良いぞ」

 

………は?

 

「そうか。だが、一歩間違えれば死ぬかもしれんぞ?」

 

「大体の生物は死にかけた時、それを乗り越えりゃ成長するもんだ」

 

「それもそうか」

 

「いやいやいやいやいや!ちょっと待った!当事者そっちのけで何話進めてんですか!いい加減キレるぞ!」

 

さっき、サラッと一歩間違えれば死ぬかも、って不吉な単語も聞こえたし!ふざけてるのか、この野郎!

 

「何言ってんだ、イッセー。これもお前の為だぞ?なまじ基礎がしっかりしてる以上、通常の鍛錬じゃ、お前は然程変わらない。なら、普通じゃない鍛錬しかないだろ」

 

「いや、それもそうですけど……」

 

言ってる事は正しいけど、させられてる方からしてみれば、たまったものじゃない。

 

「それにな。お前、智代をこれ以上戦場に出したくないんだろ?」

 

「ッ⁉︎」

 

「アーシアに聞いた。コカビエルとの闘いの後から、お前が無茶な修行ばっかしてたってな。意志の力かどうかは知らんが、ぶっ倒れなかったのは幸運だな。ヴァーリと相打ちになったのもそれが大きいだろう。だがな、何も数をこなせばいいわけじゃない。決められたものを決められた数こなしていく事の方が効率もいい。過剰過ぎると逆にマイナスになる。鍛錬ってのは、それらも含めて鍛える事だからな。これだけは覚えとけ。……ああ、それと」

 

「?」

 

「智代からの伝言だ。「頑張れ。お前が最高の赤龍帝になれるように応援している」だとさ」

 

……そっか。最高の赤龍帝……な。

 

こういう応援のメッセージをくれるのは本当に智代らしい。

 

だから、俺もこう返しておこう。

 

「智代への伝言。お願いします。任せとけ、って」

 

「あいよ。本当にお前ら仲良いのな。………ったく、これで付き合ってねえとかどうなってんだ?」

 

飛んでいく直前に先生が何か言っていたが聞こえなかった。

 

まぁ、今はいい。それよりも今は。

 

「おっさん。俺も回復したし、早速修行再開しようぜ」

 

「ほう。随分やる気だな。逃げるのももう止めるか?」

 

「ああ。今まではちょっと逃げ腰になり過ぎてた。でも、もう逃げない。あんな事言ったのに、逃げてちゃカッコつかないしな!」

 

そうだ。確かに逃げる事は悪い事じゃない。

 

でも、俺の後ろに護りたい人がいるのなら、例え、相手が神や魔王でも、逃げるわけにはいかない。

 

あの時から、俺はそう決めていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

ブオンッ!

 

放たれた掌打が顔の真横を通り、鋭い風切り音が聞こえてくる。

 

相変わらず、当たったら無事では済みそうにない音だ。だが……

 

躱すと同時に脇腹に蹴りを放ち、そのまま組手の相手である小猫を吹き飛ばす。

 

最近になって、攻撃しても身体が壊れないように魔力でブーストしたり、コーティングする術を覚えたから、鉄のような硬さを誇る『戦車』の防御力に逆にダメージを与えられるなんて事はない。

 

吹き飛んだ小猫はむくりと立ち上がると、何事もなかったかのように拳を構える。

 

「……やっぱり強いです。智代先輩は」

 

「人間の中では比較的、とつくがな。せいぜい真ん中辺りだと思うぞ」

 

「力の問題じゃないです………心が、精神が強い、と思います」

 

そうかな?そうでもないと思うが………

 

「智代先輩は言いましたよね。「力を持つ者はすべからく、何かに対して恐怖を抱いている。自分の力を恐れない者に、力を振るう資格はない」って」

 

「ああ」

 

温泉に入っている時の事だ。

 

俺は悩んでいる小猫にそう言った。

 

俺は自分の持つ神器が怖い。もし使い方を誤れば、大切なものを傷つけてしまうかもしれないから、と。

 

それでも俺が、怖れを抱いても、使用するのは、怖れと同じくらいに頼りにしているから。

 

どんなに強大な力も結局は使い手次第だ。ヴァーリのような奴なら問題かもしれないが、イッセーは問題ないだろう、とも言った。

 

小猫の苦悩が一体どれほどのものかはわからなかったし、俺が口を挟まなくても、イッセーが救う心である事はわかっていた……だが、それでも思い詰めている後輩をそのまま見て見ぬ振りをするわけにもいかず、お節介で言ってしまった。

 

「私は自分の中に眠っている力が凄く怖いです。暴走したら、姉様のようになってしまうんじゃないかって。だから、ずっと不安でした。強くなりたいのに、部長のお役に立ちたいのに、この力だけは使いたくないって。もう、あんな思いはしたくないって……」

 

でも、と小猫は続ける。

 

その瞳にあるのは決意や覚悟の炎。小猫が何かの答えを見つけた、という証の光。

 

「……私はああはなりません。この力を、皆の為に使いたいです。どれだけ怖くても、私はもう逃げません。ちゃんと向き合います。この……猫又の力を」

 

その時、小猫の頭に猫耳が、お尻の辺りから猫の尻尾が生える。

 

「……そうか。それが小猫。お前の力か」

 

「はい。私はこの力を、部長や、眷属の皆の為に使いたいです。ですから……」

 

「ああ、リアス部長たちに比べれば少し頼りないかもしれないが、私もお前の先輩だ。幾らでも胸を貸すぞ」

 

やっと、小猫が自分の壁を超えられそうなんだ。例え、イッセーでなくとも、手伝えるのなら手伝う。

 

「ここからはお互いに全力でするぞ。その方が、感覚やコツも掴みやすいだろう」

 

「……ありがとうございます。じゃあ……行きますっ!」

 

今までと同じ踏み込み……でも、今までよりも速いっ⁉︎

 

屈んで回避すると、そのまま足払いが放たれたので、後方に跳ぶ。

 

追撃されないように氷柱を降らせるが、それらを回避して、小猫は詰め寄ってくる。だが、それは想定済みだ。

 

「これでっ!」

 

「まだまだっ!」

 

小猫の打撃に合わせて、カウンターの蹴りを放つが、完全に合っていたと思われたカウンターが綺麗に回避された。

 

っ!そういえば、今は猫又の力で体内の気を読んでいるんだったな!

 

懐に飛び込んできた小猫は胸のあたりめがけて、掌底を放ってくる。

 

それを後方に退く事で躱したのだが、僅かに掠めた。

 

ダメージはないので、反撃に出ようとした時、急に目眩に襲われ、膝をついた。

 

「……先程の一撃で、智代先輩の気を乱しました。掠っただけですけど、それでも人間の智代先輩なら、少しの間は気分が悪くなって動けないと思います」

 

確かに小猫の言う通り、膝をついた辺りから、気分が悪い。例えるなら、激しい乗り物酔いにあったような感じ。

 

「今、乱れた気を治しますから、横になってください」

 

言われるがまま、横になると、小猫は俺の胸に手を当てる。

 

すると、徐々に気分の悪さが緩和していくのがわかった。これが仙術か。

 

「……今日は私の負けだな。小猫」

 

「……今日はノーカウントです。例え全力でも、智代先輩のお蔭で、私はこの力を使う事が出来たんです。まだ、不安定ですけど、それでも、この力を使う決心がついたというのは大きいと、自分でも思っています」

 

「……となると、後は慣れていくだけだな。小猫との修行の時間は基礎トレーニング以外は全部組手に回すとしよう」

 

慣れというのは怖いものだが、ある程度慣れが必要なのも事実。小猫が自分の意思で、仙術を自由に操れるようになるまで、俺に出来ることはやってあげよう。

 

それに小猫との組手は俺が強くなるという点でも一役買ってくれているしな。Win-Winであるし。

 

………それはそうと。

 

イッセーのやつ、元気にしているだろうか。

 

 

 


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