幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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到着・温泉・修行開始!

「そうか、シトリー家と対決とはな」

 

グレモリー家の本邸に帰ってきた俺達はそこで迎えてくれたアザゼル先生とリビングに集まり、先ほどの会合の顛末を話していた。

 

「人間界の時間で現在七月二十八日。ゲームは八月二十日だから、対戦日まで約二十日か……」

 

「やっぱり修行ですか?」

 

「まあな。明日から開始予定だ。すでに各自のトレーニングメニューは考えてある」

 

「でも、俺達だけ堕天使総督からのアドバイスつきっていうのは……」

 

「その辺を気にする必要はねえよ。俺は色々と悪魔側にデータを渡したし、天使側もバックアップ体制をしてるって話だ。あとは若手連中のプライド次第。強くなりたいってんなら、脇目も振らずだろうよ」

 

そう言われればそうか。

 

さっきは疑問に思ったが、俺としては強くなれるなら是非ともアザゼル先生に教えてもらいたい。まだ教えてもらった事はないけど、普通に先生をしているときは教え方が上手いって評判だからな。

 

「ま、うちの副総督も各家にアドバイス与えてるぐらいだ。ははは!俺よりシェムハザのアドバイスの方が役に立つかもな……痛っ⁉︎」

 

スパーンとアザゼル先生の頭にハリセンが振り下ろされていた。

 

「不安を煽るような言い方をするな、馬鹿」

 

額に手を当てて、智代が言う。相変わらず容赦のないツッコミだ。

 

「まあいい。明日の朝、庭に集合。そこで各自の修行方法を教える。覚悟しろよ」

 

『はい!』

 

先生の言葉に全員が重ねて返事をした。よし、何はともあれゲームは決まったんだ。それに備えて修行しないとな!

 

ーーっと、そこへグレイフィアさんが現れる。

 

「皆様、温泉のご用意が出来ました」

 

ーーッ!それは最高の報せだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレモリーの庭の一角(ものすごく広い)にぽつりと存在している和風の温泉。

 

俺は早速木場、アザゼル先生と共に浸かっていた。あー、やっぱり温泉は癒されるなぁ〜。

 

「はははは、やっぱり冥界ーー地獄といえば温泉だよな。しかも冥界でも屈指の名家グレモリーの私有温泉とくれば名泉も名泉だろう」

 

へぇ〜、って事は温泉の中でも別格中の別格って事なのか。流石は上級悪魔。

 

「……あ、そういや、ギャー助は?」

 

「ギャスパーくんかい?……あ。入り口のところにいるよ」

 

隣で湯に浸かっていた木場が入り口のところを指差した。

 

全く、智代がいなくなると途端にこれだ。早いところ対人恐怖症を克服しないと大変な事になりそうだ。

 

俺は湯から一旦上がり、ギャスパーの元へ。

 

「おいおい、折角の温泉だから入らなきゃ損だぜ?」

 

「キャッ!」

 

入り口のギャスパーを捕まえると女の子みたいな悲鳴をあげた。あのなぁ……いくら女装野郎だからってそれはないだろうに。ていうか、胸の位置までタオルで隠すな。

 

「不安なのはわかるが、とりあえず入っておいた方がいいと思うぞ」

 

「は、はいぃ……が、頑張りますぅぅ……」

 

風呂入るのに頑張る要素ってあるのか?

 

ギャスパーは温泉の方へと近づいていき、そーっと足で温度を確認するように軽くつけると、熱かったのか足を引っ込め………その反動で軸足を滑らせてそのまま温泉に落ちた。

 

「いやぁぁぁぁぁん!あっついよぉぉぉ!溶けちゃうよぉぉぉ!イッセー先輩助けてぇぇぇぇ!」

 

「何やってんだよ、お前……」

 

もう溜息しか出なかった。普通に温泉にも浸かれないのかお前は。

 

ギャスパーを温泉から引き上げた後、俺は温泉に入った。ギャスパーはあれだけど、俺は俺なりに温泉を楽しもう。

 

っと、その時、アザゼル先生が俺の隣に移動してきた。先生の顔はどことなく松田や元浜のようないやらしい顔つきだった。

 

「ところでイッセー」

 

「はい?」

 

「お前は智代の胸を揉んだ事はあるか?」

 

「………は、はぁぁぁぁ⁉︎」

 

両手の五指を宙でわしゃわしゃとさせながら訊いてくる先生に俺は驚きの声をあげた。

 

「どうなんだよ」

 

「あ、あるわけないでしょうが!そんな事したら殺されますよ!」

 

「なんだ。てっきり、それくらいは済ませてんのかと思ってたぜ」

 

つまらなさそうに言うアザゼル先生だが、こちとらそんな命懸けの事が出来るわけもなかった。

 

「まあいい。それはそれとしてだ。お前自身はどうなんだ?」

 

「ど、どうって何がですか?」

 

「決まってんだろ?智代の胸を揉みたいか否か、だよ」

 

いい加減それから離れてくれぇぇぇぇ!

 

「どうなんだよ?」

 

「そんなの答えられるわけありませんよ⁉︎」

 

「まあ、あいつは俺から見てもいい女だと思うぜ。百年前に出会うか、十歳くらい智代が歳とってたら何が何でも俺のモンにしてただろうな。容姿は整ってるし、スタイルもいい、性格はあれはあれでいいモンがあるしな」

 

「いや、そんな真面目に考察しないで下さい」

 

言ってる事は間違ってないけど、そうなると隣の女湯にいる智代の姿を想像してしまいそうになるからやめてほしい。

 

それに智代は大切な幼馴染みだからといって、別に智代の裸を見てもなんとも思わないわけじゃない。寧ろ、アザゼル先生が言ったようにとても良い女の子だと思うし、とても言えたものじゃないが……智代の無防備な姿には過去幾度となく反応したこともある。

 

智代は本当に無防備過ぎて心配だ。「見られても減るものでもない」って普通は俺達見た側が苦し紛れに言う台詞なのにあまりにも堂々とし過ぎていて逆にこっちが突っ込んでしまう。

 

「なんだ、人並みには性欲はあるみたいだな」

 

「へ?」

 

「今のお前、凄えスケベな顔してたぞ」

 

ニヤニヤしながらそう言う先生。すみませんね!俺だって男なんですよ!

 

「お前は純粋だがそれじゃダメだ。何時までも受け身でいたって状況は変わらない」

 

「は、はぁ……。じゃあ、どうしろと?」

 

なんだかよくわからないけど、とりあえず頷く。

 

「男なら攻めることも大切だ。押して押して押しまくって、押し倒して、そのまま自分の物にしちまうんだよ。俺もそうしたことがある」

 

「そんな強引な⁉︎ていうか、その話やめませんが⁉︎」

 

「案外強引なのが一番手っ取り早いぜ?嫌われてんなら即殺だが、相手がこっちのことを好きだってんなら、口先だけしか抵抗の意思を示さない。案外、智代みたいなタイプに限って、いざ迫られると流されるタイプだ。やってみる価値はあると思うぜ?」

 

「やってみる価値はあるって……」

 

俺に智代を押し倒せと⁉︎無茶苦茶いってるよ、この人⁉︎

 

そんな事したら、その場でアイスマンができちゃう!

 

「俺は死にたくないんでそんな事ーー」

 

「そう言うわけだ。何事も経験だぞ、イッセー!」

 

「へ?」

 

いきなり腕を掴まれたかと思ったら、視界が反転した……って、俺宙を舞ってるぅぅぅぅ⁉︎

 

視界が男湯から、隣の湯ーーつまり女湯に映る。

 

そこにはオカルト研究部メンバーが。もちろん裸。

 

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいぃぃぃぃ!このまま女湯に行ったら智代以外の方々にも折檻されるぅぅぅぅ!

 

空中でもがくも、悪魔の羽で飛べない俺に出来ることはなく、そのまま温泉の中にーー。

 

ゴンッ。

 

「「痛っ⁉︎」」

 

何か固いものに頭が当たり、そのまま湯の中に落ちた。

 

頭に走った痛みにもがいていると……

 

むにゅん。

 

左手の手のひらに柔らかい感触が伝わってきた。なんだこれ?

 

よくわからないのでとりあえず動かしてみると、くぐもった声が聞こえる。湯の中にいるせいだろうか。

 

ザバッとお湯から出て、辺りを確認……っ⁉︎

 

視線を周囲に向けた俺の目に飛び込んできた光景に俺は言葉を失った。

 

それは部長達の裸が見えたとか、それなのに全然恥ずかしがってないとか、そう言うのじゃない。

 

俺の視線の先には何故か温泉で浮いている智代と、その胸をがっちりと鷲掴みしている俺の手だった。

 

こ、殺されるぅぅぅぅ!言い訳のしようがない!痛かったとはいえ、思いっきり鷲掴みするなんて、弁明の余地がない!

 

次に俺を襲うであろう衝撃に身構えたものの、一向に何も来ない。

 

あ、あれ?怒ってない?

 

おそるおそる目を開けると………

 

「…………」

 

智代はぐるぐると目を回していた!

 

頭を打った時に気絶したんだ。良かったのか、悪かったのか、いまいちよくわからないけど、処刑はされずに済んだみたいだ。

 

「あら、イッセー?どうしたの?」

 

「うふふ、覗き……というには少し大胆ですわ」

 

異常に気づいてこちらに来る部長と朱乃さん。いやいや、なんでお二人も隠さないんですか⁉︎温泉に浸かってるアーシアやゼノヴィア、小猫ちゃんはともかくとして!

 

「じ、実はアザゼル先生に……」

 

「アザゼルに?……全く、以前の事を反省していないのかしら?」

 

「これはキツーイお仕置きが必要ですわね」

 

ふ、二人とも笑ってるけど目が笑ってない………こ、怖い。きっとアザゼル先生はこの後二人の手で地獄を味わうんだろう……まぁ、ここが地獄なんだけど。

 

それにしても………智代の胸、凄く柔らかかったな。

 

……なんて、考えてる場合じゃなかった。智代が起きないうちに男湯に帰ろう。部長達は寛大かもしれないけど、こういう事をして、智代が許すわけーー

 

「イッセー。何故お前がここにいる?」

 

そそくさとその場を離れようとした直後、俺の背後から低い声が聞こえる。

 

ああ、これが俗に言う死刑宣告というやつなのだろうか。

 

「一応言い訳を聞こうか」

 

「アザゼル先生に投げ飛ばされてきたんだ。だから決して覗きたかったわけじゃないし、智代の胸を揉みたかったわけじゃない」

 

あ゛っ。余計な事を言ってしまった。

 

「ほう……ここにいる理由はともかくとして、最後の言葉はどういう意味だ?そんなに極刑を言い渡されたいのか、イッセー?」

 

「ごごごごごごめん!いや、その、なんというか……あんまり智代の体が魅力的だから……うっかり」

 

素早く土下座!今更したって遅いし、最早言い訳にすらなってないけど、謝っておかないと。

 

グッバイ、俺の人生。長いようで短い人生だったな。土下座しながら殺されるっていうのはなかなかレアだと思うけど。

 

なんて人生を諦めていたら、溜め息が聞こえてきた。

 

「はぁ……そこまでテンパっている上に変態発言とは……なんだかバカらしくなってきた。さっさと男湯に戻れ、イッセー。後でアザゼルは粛清しておく」

 

「ゆ、許してくれるのか?」

 

「別に見られたところで減るものでもない。そもそも、私はただ不意打ちで頭突きをされた方に怒っていただけだしな」

 

じゃ、じゃあ何故極刑がどうとか言ってたんだろう……気になるけど掘り返さないでおこう。死にたくない。

 

「さっさと行け。それとももう一度飛んで帰るか?」

 

「結構です!帰ります!」

 

俺は急いで男湯に帰って、もう一度湯船に浸かった。

 

アザゼル先生は一部始終を見ていたらしく、ゲラゲラ笑っていたものの、温泉から出た直後に部長達に連行されていった。この時俺は思った。

 

「ああ、これが因果応報って事なんだな」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

俺達はグレモリー家の広い庭の一角に集まっていた。

 

服装は皆ジャージ。アザゼル先生も、ゲームに参加しない智代もだ、庭に置かれているテーブルと椅子に座って、早速修行開始前のミーティングとなった。

 

因みにアザゼル先生は粛清によるものか、顔に絆創膏やら湿布を貼っている。本来ならアーシアの治癒の力で治せるとは思うんだけど、部長がしなくていいと言っていた。

 

「先に言っておく。今から俺が言うものは将来的なものを見据えてのトレーニングメニューだ。すぐに効果が出る者もいるが、長期的に見なければならない者もいる。ただ、お前らは成長途中の若手だ。方向性を見誤らなければ良い成長をするだろう。さて、まずはリアス。お前だ」

 

先生が最初に呼んだのは部長だった。

 

「お前は最初から才能、身体能力、魔力全てが高スペックの悪魔だ。このまま普通に暮らしていてもそれらは高まり、大人になる頃には最上級悪魔の候補となっているだろう。だが、将来よりも今強くなりたい、それがお前の望みだな?」

 

「ええ。これからの事も考えて、現状に満足しているわけにはいかないもの」

 

「なら、この紙に記してあるトレーニング通り、決戦日直前までこなせ」

 

先生から手渡された紙を見て、部長は首をかしげる。

 

「……これって、特別すごいトレーニングとは思えないのだけれど?」

 

「そりゃそうだ。基本的なトレーニング方法だからな。お前はそれでいいんだ。全てが総合的にまとまってる。だからこそ、基本的な練習だけで力が高められる。問題は『(キング)』としての素質だ。『(キング)』は時によって、力よりも頭を求められる。魔力が得意じゃなくても、頭の良さ、機転の良さで上まで上り詰めた悪魔だっているのは知ってるだろう?ーー期限までお前はレーティングゲームを知れ。ゲームの記録映像、記録データ、それら全てを頭に叩き込め。『(キング)』に必要なのは、どんな状況でも打破できる思考と機転、そして判断力だ。眷属の下僕悪魔が最大限に力を発揮できるようにするのがお前の仕事なんだよ。ただ、これも覚えておけ、実際のゲームでは何が起こるかわからない。戦場と同じだ」

 

こういうところを見てると、先生もやっぱり堕天使という組織の長なんだと感じる。

 

「次に朱乃。お前はーー」

 

「自分の中に流れる血を受け入れろ……とおっしゃるつもりでしょう?」

 

その言葉に先生は目を見開いた。流れる血?なんのことなんだ?

 

「先日の一件でよくわかりました。この子達を護るには『雷の巫女』ではなく『雷光の巫女』にならなければならないと。あのような力に頼るのは不本意ですが、それでこの子達が危険な目にあうのを私も見過ごせません。今の私の弱点は私自身……そう言いたいのでしょう?」

 

「……そこまでわかってるなら、俺から言うことは何もない。まだ否定的なのは仕方のないことだが、それをどうこう言う権利は俺にはないからな」

 

そう言う先生の顔は複雑そうな表情だった。

 

そういえば以前朱乃さんは堕天使は好きじゃないと言っていたけど、それが関係してるのかな?

 

先生は頭を振ると木場へと視線を向けた。

 

「次は木場だ」

 

「はい」

 

「まずは禁手を解放している状態で一日保たせてみせろ。それに慣れたら、実戦形式の中で一日、それを続けていき、状態維持を一日でも長くできるようにしていくのがお前の目的だ。後はリアスのように基本トレーニングをしていけば十分に強くなれるだろうさ。創造系神器の扱い方は後でマンツーマンで教えてやる。剣術の方は……」

 

「はい。師匠に一から指導してもらう予定です」

 

へぇ、木場には剣術の師匠がいたんだ。

 

木場は真面目だから一から指導してもらうんだな……また強くなるのは仲間として心強いな。

 

「次、ゼノヴィア。お前はデュランダルを今以上に使いこなせるようにすることとーーもう一本の聖剣に慣れてもらうことにある」

 

「もう一本の聖剣?」

 

「ああ、ちょいと特別な剣だ」

 

そう言ってにやける先生だが、すぐに笑みを止めて智代に抱きついているギャスパーに視線を向ける。

 

「次にギャスパー」

 

「は、はいぃ」

 

先生に名前を呼ばれただけなのに既にビビってる。

 

とはいえ、智代が近くにいる分、ビビリ度はかなり抑えられてる。智代いなかったら今頃悲鳴上げまくりだっただろうしな。

 

「お前の場合は取り敢えずその恐怖心をどうにかしなきゃならん。何に対しても恐怖するその心身をまず鍛える。元々、血筋も神器もスペックは高い。『僧侶』の特性、魔力に関する技術向上もお前を大きく支えてくれている。専用の『引きこもり脱出計画』なるプログラムも組んでおいたから、そこでまずは真っ当な心構えを身につけろ。最低でも人前で動きが鈍らない程度にな」

 

「はいぃぃぃぃっ!男は根性!当たって砕けろの覚悟でやってみますぅぅぅぅ!」

 

涙目だが一応はやる気十分だ。……本当に当たって砕けそうな気がするけど。

 

「同じく『僧侶』のアーシア」

 

「は、はい!」

 

アーシアも気合い入ってるな。常日頃から、自分があまり皆の役に立っていないと感じていると相談された事もあった。

 

でもそんな事はない。確かに非戦闘員とも言えるアーシアは表立って活躍は出来ないけど、アーシアがいないと今頃俺や智代は五体満足でいられなかった。

 

「お前も基本的なトレーニングで、身体と魔力の向上。そしてメインは神器の強化にある。触れるだけで病やスタミナ以外を回復出来るし、その回復力は大したモンだが、問題は『触れる』という点だ。味方が怪我してるのに至近距離にまでいかないと回復作業ができないのは致命的だ」

 

「もしかして、アーシアの神器は範囲を広げられるの?」

 

「ご名答だ、リアス。裏技に近いが、『聖母の微笑』の真骨頂は効果範囲の拡大にある」

 

「それって、アーシアの神器、遠距離も可能って事ですか⁉︎」

 

俺の言葉に先生は頷いた。

 

「俺達の組織が出したデータの理論では可能だ。神器のオーラを全身から発して、自分の周囲にいる味方をまとめて回復なんて事も可能なはずだ。問題は敵味方の判別が出来ずに回復させてしまいそうな事だが……その辺はアーシアの生来のものが関係してくる」

 

アーシアは優しいもんな。多分敵が戦場で怪我をしていても、そいつの事を治してあげたいって思うんだろう。先生が心配してるのはそこだと思うけど……それはアーシアの良さだ。直す必要は特にない。

 

「デメリットはともかく、範囲拡大は覚えるべきものだ。他にも回復のオーラを飛ばす事も覚えていったほうがいい。戦闘中に仲間にでも触りに行くのは自殺行為だからな。それに仲間の邪魔にもなる。触れるときよりもパワーは落ちるだろうが、それでも遠距離の味方を回復させられるのは戦略性が広くなる。前線に一人か二人飛び込ませて、後方で回復のアーシアとアーシアを護衛する誰かを配置すれば、理想的なフォーメーションが組めるだろうさ」

 

「王道だけれど、だからこそシンプルに強い戦術が組めるわけね。通常は回復する術なんて限られているから、アーシアの神器はそれらよりも汎用性、信頼性共に遥かに上だわ」

 

「そうだ。アーシアの悪魔をも治す神器の力はこのチームの特徴的な持ち味、武器と言える。後はアーシアの体力勝負だ。基本トレーニングと………後は簡単な護身術でもいい。智代に教わっておけ。闘う力はなくとも、逃げる力や守る力は必要だからな」

 

「は、はいっ!頑張ります!智代さんも、よろしくお願いします!」

 

「ああ、任せておけ」

 

智代直々に護身術を教えてもらうなら、安心出来るな。いざとなったら俺が盾役になるけど、それでも自分にも何かできるというのはアーシアにとっては安心できる要素になるはずだ。

 

「次は小猫」

 

「……はい」

 

小猫ちゃんは静かだが、いつも以上に気合の入った様子だった。そういえばここ最近調子が悪そうだったけど、今日は妙に張り切ってる。小猫ちゃん、何を思ってるんだろう?

 

「お前は攻守共に申し分ない。『戦車』としての素質を持っているし、身体能力も高い。ーーだが、リアスの眷属には『戦車』のお前よりもオフェンスが上の奴が多い。木場にゼノヴィア、そしてイッセー。三人とも凶悪な兵器を有している」

 

「……わかっています。今の私に求められている事も、しなければいけない事も」

 

強く拳を握って、小猫ちゃんは決意を孕んだ声音でそう言った。

 

「私も……自分の力と、向き合います。怖いですけど……そうしないとこれから先、私は足手まといになってしまうから」

 

小猫ちゃんはそう言って智代の方を見た。小猫ちゃんと智代、何かあったのか?様子から見て喧嘩じゃないと思うけど……。

 

「さて、最後はイッセーだな。お前は……そろそろ来る頃だな」

 

先生がそう言って空を見上げると、俺達も空を見上げる。

 

何もない……かと思いきや、何かどデカイ影が空に!こちらへ猛スピードで向かってきた。

 

怪物⁉︎魔物⁉︎……いや、違う‼︎

 

ドオオオオオオオオオオオオンッ!

 

地響きと共にそれは目の前に飛来してくる。椅子に座っていても大きく地面が揺らいで、思わず転びそうになった。

 

土煙が舞い、それが収まった後、眼前に現れたのはーー超巨大なドラゴンだった!

 

十五メートルはある!殆ど特撮の怪獣だよ、これ!大きく裂けた口!生え揃う凶暴そうな牙!ぶっとい腕と脚!横に広がる両翼!本物のドラゴンだ!マジかっこいい!

 

「アザゼル、よくもまあ悪魔の領土に堂々と入れたものだな」

 

「ちゃんと魔王様直々の許可をもらっての入国だ、文句でもあるのか、タンニーン」

 

「ふん、まあいい。サーゼクスの頼みだというから特別に来てやったんだ。その辺を忘れるなよ、堕天使の総督殿」

 

「ヘイヘイ。ーーてなわけで、イッセー。こいつがお前の先生だ」

 

…………はいぃぃぃぃ⁉︎

 

いやいやいや、この弩級ドラゴンさんがですか⁉︎

 

頼もしくはあるけど、先生はあなたじゃないのか、アザゼル先生!

 

「久しいな、ドライグ。聞こえるのだろう?」

 

タンニーンと呼ばれたドラゴンさんは俺のうちに語りかけるように話しかけてくる。

 

すると、俺の左腕が勝手に赤く輝き、ブーステッド・ギアが出現した。

 

『ああ、懐かしいな。最後に会ったのは三大勢力の戦争だったか?』

 

「そうだな。アルビオンとあったのもそれが最後だ」

 

どこか懐かしむ様子で話す二人。三大勢力の戦争はかなり前だから懐かしいって感じじゃなさそうだけど。

 

「『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーン。その火の息は隕石の衝撃にも匹敵するとさえ言われている。未だ現役で活動している数少ない伝説のドラゴンだ。悪いがタンニーン、この赤龍帝を宿すガキの修行に付き合ってくれ。ドラゴンの力の使い方を一から教えてやってほしい」

 

先生はタンニーンにそう頼み込む。って、この隕石級の攻撃力を持つドラゴンさんに力の使い方を教われと?ゆくゆくは俺も隕石級の攻撃力を持てとおっしゃるおつもりで⁉︎

 

「俺がしなくてもドライグが直接教えればいいのではないか?」

 

「それでも限界がある。ドライグはあくまで神器に宿っているから実体がないからな。やはり、ドラゴンの修行といえばーー」

 

「元来から実戦方式。成る程、俺にこの少年をいじめ抜けというのだな」

 

『手加減してくれよ、タンニーン。俺の宿主はいざという時以外は弱いんでな』

 

「死ななければいいのだろう?任せろ」

 

ダメだ、その返事は!死ななくてもいい=瀕死はOKって捉えてる人の典型的な返しだ!嫌だ!いっそ殺してくれってなるくらいの臨死体験なんて嫌だ!

 

「期間は人間界の時間で二十日ほど。それまでに禁手を一日は維持させたい。イッセー、死なない程度に気張れ」

 

そう言い残すと先生は手を振って去っていく。あんたはそれで終わりですか……と思ったら、智代に声をかけて何処かへ行ってしまった。

 

「さて、各自各々に修行メニューをこなすこと。いいわね」

 

『はい』

 

思わず返事をしてしまったが全然良くないぞ。地獄に来て、さらに地獄に落とされちゃいそうなんですけど⁉︎

 

「リアス嬢。あそこに見える山を貸してもらえるか?こいつをそこへ連れて行く」

 

「ええ、鍛えてあげてちょうだい。他でもないこの子自身のために」

 

「心得た。死なない程度に鍛えてやる」

 

俺そっちのけで商談成立しちゃったよ!マジか!

 

がっしりとドラゴンさんの手に掴まれ、俺はそのまま彼方にある山へと旅立つことになった。

 

感想、やっぱりここは冥界だった。

 

 


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