幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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久々の投稿になりました。遅れてすみません。

なんというか、他作品の事もさる事ながら、何処で区切りをつけるか悩んだ結果さらなる遅れに……

話は原作の五巻に突入!そろそろ原作の見る影もなくなってくる頃です。

それではどうぞ!


冥界合宿のヘルキャット
冥界へ行こう!


「冥界に帰る……ですか」

 

放課後、オカルト研究部で何時ものように活動をしていたときのことだった。

 

朱乃さんから出された紅茶を飲んでいた俺は、部長が告げた言葉を反復していた。

 

「夏休みだし、故郷へと帰るの。所謂、里帰りというものね。毎年の事よ」

 

「そうなんですか……てっきり、完全に帰るのかと思いましたよ……」

 

「そんな事があるはずがないでしょう?貴方と私はこれから数百年、数千年単位で付き合っていくのだから。………それに貴方達は目を離しておくと元通りになってしまいそうだもの」

 

「はい?何か仰いました?」

 

「なんでもないわ」

 

?最近こういうことが多いな、部長。

 

なんというか、部長は眷属愛もさる事ながら、世話好きの一面もあるらしく、結構俺や智代のことを気にかけてくれている。時々、行き過ぎかなって、思うこともあるけど、悪い気はしないので、全然問題はない。

 

それにしても数千年単位……か。

 

俺達は悪魔で、人間よりも数十倍、数百倍、長生きする。

 

俺と部長、部員とはずっと一緒だ。

 

けれど、松田や元浜、親父やお袋、そして智代とはいずれ別れが来てしまう。

 

そう考えると少し寂しいけど………それで良いんだ。俺は堕天使にやられたから悪魔になったけど、人間のまま生活が出来る人達はそのままの方がいい。

 

とはいえ、流石に歳の取り方が違うから、その時はどう誤魔化すべきか、考えないとな。

 

「そういうわけだから、もう直ぐ冥界に行くわ。長期旅行の準備しておいてちょうだいね。もちろん、智代もよ」

 

「私も行くのか?」

 

「当たり前じゃない。正式ではないけれど、貴方も将来的に眷属になる可能性があるのだから、着ておくに越したことはないわ」

 

「………そう言われればそうか」

 

そういうと智代は木場としているチェスの方に意識を戻す。詳しい事はわからないけど、多分割と接戦だと思う。木場も智代も一手一手にそこそこ時間をかけてるし。

 

「それにイッセーと智代はまだデート出来ていないのでしょう?」

 

「ぶっ⁉︎」

 

「なっ⁉︎」

 

部長の一言に俺は紅茶を噴き出し、智代は置こうとしていたチェスの駒を盤に叩きつけるように置いてしまい、盤面がぐちゃぐちゃになった。

 

「由々しき事態よね。あれからドタバタしていたせいで休暇らしい休暇も得られなかったから」

 

「ぶ、ぶぶぶ部長!なんで今その話題を……」

 

「私から提案があるのよ。良かったら、そのデート、冥界でしてみる気はない?」

 

部長はそう言うと優雅に紅茶を飲まれていた。

 

「冥界で……ですか?」

 

「ええ。特に人間界と変わりはないわ。せいぜい通貨くらいのものだけれど、そこは気にしなくていいわ。貴方達二人にはライザーの時やコカビエルの時に活躍してもらったし、眷属なのだから、私の方から支給させてもらうわ」

 

「いいんですか?」

 

「気にする必要はないわよ。アーシアやゼノヴィアにも渡す予定だったのだから、恩義を感じたりする必要はないの。ーーそういえば、アーシアとゼノヴィアは冥界に行った経験は?」

 

部長の問いに二人は首を横に振る。まぁ、普通はないか。特に二人は元教会の、つまりは天界側の人間だし。

 

「生きているのに冥府に行くなんて緊張します!し、死んだつもりで行きたいと思います!」

 

アーシアちゃん!ちょっと言ってる意味がわかんないよ!

 

「うん。冥界ーー地獄には前々から興味があったんだ。でも、私は天国に行くため、主に仕えていたわけなのだけれど……悪魔になった以上は天国に行けるはずもなく……天罰として地獄に送った者達と同じ世界に足を踏み入れるとはな。皮肉を感じるよ。ふふふふ、地獄か。悪魔になった元信者にはお似合いだね」

 

自嘲めいた笑みを浮かべてゼノヴィアは言う。後悔先に立たずとはよく言うけど、ゼノヴィアの場合はその典型的な例過ぎて、逆に稀有な気がする。

 

とはいえ、この二人。実は既にお祈りをしてもダメージを受けなくなっている。

 

俺は気を失っていたから、詳しい事情はわからないけど、ミカエル様に智代がお願いしたのだとか。

 

そしてミカエル様も二人くらいなら問題ないとそれを快く受け入れてくれたそうだ。

 

悪魔になった今でも頻繁にお祈りをしてはダメージを受けている二人にとって、神に祈ってもダメージを受けないのはそれなりに大きな収穫であると思う。 流石は智代だ。

 

それはそうと冥界ってどんなところなのだろうか?

 

人間界と変わりはない、というくらいだから、あんまり差はないんだろうとは思うけど、全く変わらないなんて事はないだろう。魔獣とか住んでるくらいだし。

 

「木場。お前は冥界の事、知ってんだろ?」

 

「まあね。何度か行った事もあるし」

 

「どんなところなんだ?」

 

「部長の言った通り、人間界と大差はないよ。一見してみれば、空が紫な事と大気中の魔力量、後はせいぜい冥界特有の虫や動物がいることくらいかな。それらも大して人間界の生物と姿形に差異はないし」

 

そうして聞いてみると確かにあまり差異はないな。

 

「虫か………祐斗。冥界には蜘蛛の魔物はいるのか?」

 

「当然いるよ。それらも人間界の物と差はないけど、当然僕たちよりも何倍も大きい蜘蛛もいるからーー」

 

「わかった。わかったからやめてくれ………私は蜘蛛が苦手なんだ」

 

眉を顰めて、智代は沈んだ声音で言う。

 

昔から智代は蜘蛛だけは無理らしい。指先くらいのなら、涼しい顔をしているのだが、神器を手にした今でも手のひら蜘蛛を見つければ所構わず連発して殺しにかかろうとする。無かった頃なんかはよく退治を頼まれてたっけ。その時の智代ときたら本当に可愛かった。

 

「俺も冥界に行くぜ」

 

『ッ⁉︎』

 

いつの間にか、席の一角に黒髪の男性ーーアザゼル先生(・・)が座っていた。相変わらず、神出鬼没だなぁ、この人は。

 

実はこの人、最近駒王学園に教員として赴任してきた堕天使の総督様なのだ。ついでにオカルト研究部の顧問だったりするわけだが………どういう経緯でこの学園に残ったのかはわからない。

 

「ど、どこから、入ってきたの?」

 

部長が目をパチクリさせながら先生に訊く。

 

「うん?普通に玄関からだぜ?なぁ、智代。お前は見てたろ?」

 

「……ああ。わざわざ気配を消してな」

 

「道理で気配すら感じなかったわけですね」

 

「そりゃ修行不足だ。俺は普通に来ただけだぜ?まぁ、無意識にっつー可能性もあるがな。それよりも冥界に帰るんだろう?なら、俺も行くぜ。俺はお前らの『先生』だからな」

 

アザゼルの『先生』というのは俺達にとってもう一つの意味がある。

 

それは神器の豊富な知識から、今後の戦闘スタイルを教えてくれること。

 

まだ少ししか教えてもらえてないとはいえ、俺も含め、眷属内の神器所有者は何かを掴んでいる様子だった。確かにこの人、力の使い方や導き方、何より教え方が上手いんだ。説明するのがものすごく上手いから、教師という役職は向いていると思う。

 

強いて言うなら、イレギュラー中のイレギュラーである智代だけはこの人も首をかしげていた。今までの事を話してみたら「なんだそりゃ?予想の斜め上行き過ぎじゃねえか」と言って、顔を引き攣らせていたらしい。因みにその後はイレギュラーな神器を調べられるということで喜んでいたらしいが。

 

「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。後、例の新鋭若手悪魔達の会合、それとあっちでお前らの修業だ。俺は主に修業に付き合うわけだがな。お前らがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクスと会合か。ったく、面倒くさいもんだ」

 

嘆息する先生。それでいいんですか、組織のトップが。

 

「では、アザゼル先生はあちらまでは同行されるのですね?」

 

「ああ。だから行きの予約は頼むぜ、リアス。悪魔のルートで冥界入りはしたこと無いからな」

 

「ええ。わかったわ」

 

冥界かぁ……どうやって行くんだろうか?やっぱり魔法陣?それともトンネルみたいなのがあるとか?よく心霊スポットなんかで『霊界に通じるトンネル!』とかいう見出しでやってたりするやつとかあるし。

 

あ、そういえば、松田と元浜の奴と海に行く約束してたんだっけ。

 

「今年こそ彼女作って、童貞卒業!」とかなんとか。

 

俺はそういうのはあんまり気にしてなくて、単純に遊びに行くのが目的だったから割と楽しみにしていたんだけど、こうなったら仕方ない。とりあえず、メール送るか。

 

『悪い、この夏、海に行くのパスな。オカルト研究部で遠征があるから』

 

と、すぐに返信が返ってきた。

 

『せいぜい頑張れ。お前がそういうことしてる間に俺は大人の階段を登ってやるぜ!つーか、またかよ!羨ましすぎる!死ね!』

 

『リアスお姉様達と遠征だと⁉︎地獄に堕ちろ!』

 

なんでそういう羨ましい解釈になるんだ…………いやまあ、実情を知らなかったらそんなものなのだろうか。実際、俺はその地獄に行くわけだし。でも、案外いいところらしいぞ、友人達よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅立ちの日。俺達がまず向かったのはーー最寄りの駅だった。

 

皆、服装は駒王学園の夏の制服姿。冥界入りするなら、これが一番の正装だと部長に言われたんだ。

 

それにしてもここはいつも電車に乗る時の駅だ………なんで冥界に行くのにここ?

 

疑問の尽きない俺だが、部長と朱乃さんはツカツカと駅に設置されているエレベーターの方へと向かう。

 

頑張っても五、六人しか乗れない狭いエレベーターなのは覚えてるんだが……

 

部長と朱乃が先に入ると言う。

 

「じゃあ、先ずはイッセーと智代、アーシアが来てちょうだい。先に降りるわ」

 

「お、降りる?」

 

はて、この駅は上の階にしか行けないようになっていたはずなのだが………最近作られたとか?

 

「ほら、早く入りなさい」

 

部長は苦笑しながら手招きをしてくる。

 

「慣れてる祐斗はゼノヴィアと後から来るアザゼルをお願いね」

 

「はい、部長」

 

と、木場が部長に言うとエレベーターの扉は閉まる。

 

大きな荷物持ちだから結構狭い。

 

階層表示はやっぱり「1」と「2」しかないわけだが……。

 

部長がスカートのポケットからカードらしきものを取り出して、電子パネルにかざす。

 

ピッ。

 

電子音がして、カードに反応した。するとーー

 

ガクン。

 

下へ降りる感覚が俺を襲う。え⁉︎下があるんですか⁉︎

 

「この駅の地下にね、秘密の階層があるの」

 

「部長、俺、この町で育ちましたけど、そんなの初めて知りましたよ」

 

「それが普通だ、イッセー。普通に利用できたら、誤って人間が冥界入りしてしまうだろう」

 

「そう言うことよ。まず普通の人間だと一生辿り着けないわ」

 

「それにここ以外にもこの町には悪魔専用の領域がかなり隠れていますのよ?」

 

そうなのか………となると霊界につながっているトンネルというのは、悪魔が管理している冥界へのルートなのかもしれない。ある条件下だけ冥界へいけるとか。

 

下がること一分。エレベーターは停止する。

 

扉が開いて、エレベーターを降りると俺の視界に最初に飛び込んできたのは、凄まじい広さを誇る人工的な空間。地下の大空洞といったところだろうか。

 

造りや模様に差異はあるものの、大体は人間界と同じような作りの駅のホームだ。って、線路もある。やっぱり駅なのか?

 

少し待っていると、エレベーターから木場や先生達も合流する。

 

「全員揃ったところで、三番ホームまで歩くわよ」

 

部長と朱乃さん先導の元、俺達は歩き出す。

 

いやー、しかし、広い空間だ。俺達が普段使ってる上の駅と比べても何倍もの規模があると感じる。

 

俺達の他に気配は感じられない。空間を照らす壁の灯りは魔力的な妖しい輝きを放っている。

 

通路を右に行ったり、左に行ったりした後、再び開けた空間出た。

 

すると俺達の目の前には眼前に列車らしきもの。『らしき』と感じたのは俺の知っている列車よりもフォルムが独特だからだ。

 

鋭角で、悪魔を表す紋様がたくさん刻まれているし、グレモリーの紋様もある。ってことは………

 

「グレモリー家所有の列車よ」

 

部長が堂々と答えてくれた。やっぱりか。だって名家ですもんね……

 

プシューと言う音と共に列車のドアが自動で開く。

 

部長先導の元、俺達は列車の中へ足を踏み入れたのだった。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発車の汽笛が鳴り、列車は動き出す。

 

俺は列車の中央に座る事になった。リアス部長は列車の一番前の車両で、眷属は中央から後ろの車両となるそうだ。意外に細かいしきたりがあるんだなって思った。

 

対面する席で俺とイッセーが一緒に座り、対面席にアーシアとゼノヴィア。隣の四人席には小猫とギャスパー、祐斗と朱乃先輩が座っていた。さらに端っこにはアザゼルがーーもう寝てるのかよ……。

 

走り出して数分。列車は暗がりの道を進む。

 

俺とて割と寝るタイプだが、冥界がどういう所か気になっておちおち眠れないし、何より先日の一件で充実しているせいか、そこまで眠くないのだ。冥界に行くと、更に睡眠が必要になくなるかもしれないな。

 

「どのくらいで着くんですか?」

 

イッセーが朱乃先輩に問う。

 

「一時間ほどで着きますわ。この列車は次元の壁を正式な方法で通過して冥界にたどり着けるようになってますから」

 

「そうなんですか?てっきり魔法陣でジャンプしてるものだと思ってました」

 

「通常はそれでもいいのですけれど、イッセーくん達新眷属の悪魔は正式なルートで一度入国しないと違法入国として罰せられるのです。だから、イッセーくん達はちゃんと正式な入国手続きを済ませないといけませんわ。それに、今回は智代ちゃんも同行しますから、正式なルートからでないと冥界に行けませんし。特例になりますが、智代ちゃんが魔法陣で冥界に入れるようにしないといけませんし」

 

なんだか何から何までしてもらって居た堪れないな。

 

「……何か懐かしいな……」

 

不意にイッセーが視線を外に向けながら、そんな事を呟いた。

 

外には未だ何も映ってはいない。ともすれば、この状況の事を言っているのだろう。

 

「覚えてるか?小学校の時の遠足」

 

「………ああ。覚えているさ」

 

小学校の時の遠足でも、俺とイッセーはこうして二人で座っていた。

 

というのも、俺自身が勉強も運動も出来ていたわけだから、他の女子にはあまり好かれてはいなかったし、男子は………よっては来たが、特別仲が良いわけじゃなかった。

 

唯一の例外はイッセーで、遠足で交通機関を利用する時は決まってイッセーとペアだった。とはいえ、こうして対面席に座るというのは久しい事だが。

 

「……あの頃とは何もかも変わってしまったな」

 

本当に。何もかも変わってしまった。

 

平和に過ごしていく事など出来ないとわかっていたのに。

 

それでも、僅かな平穏に縋ってしまった結果がこれだ。

 

イッセーは決して、それを咎めはしないだろう。

 

だが、それでも私は許せない。

 

縋るべきではなかった。イッセーを人のまま生かしたいのであれば、例えその後の全てを無視してでも、私がイッセーの代わりになってでも、運命を変えるべきだった。

 

だから私は……

 

「………よ。智代」

 

「む。なんだ、イッセー?」

 

「車掌さんが来てるって」

 

イッセーに言われて、そちらを向くと確かにそこには白いあご髭を生やした男性がいた。

 

「これは失礼しました。少し考え事をしていたもので」

 

「ホッホッホッ。気にしなくても構いませんぞ」

 

男性は楽しそうな笑い声を上げて言う。

 

「初めまして。私はこのグレモリー専用列車の車掌をしているレイナルドと申します。お見知り置きを」

 

「こちらこそ、初めまして。私は大神智代という者です。よろしくお願いします」

 

挨拶を済ませるとレイナルドさんは何やら特殊な機器を取り出し、モニターらしきもので俺達を捉える。

 

「あ、あの……?」

 

困ったような反応を見せるイッセーとアーシアとゼノヴィア。

 

レイナルドさんはそれを察して、解説をする。

 

「これはあなた方を確認、照合する悪魔世界の機械です。この列車は正式に冥界へ入国する重要かつ厳重を要する移動手段です。もし、偽りがあった場合、大変な事になりますもので。今のご時世、列車を占拠されたら大変なのです」

 

「あなた達の登録は駒を与え、転生した時冥界にデータとして記載されたわ。だからそれをその機械で照合させているのよ。智代は例外だから手続きをしなくてはいけないわね」

 

まぁ、そうだよな。

 

俺は特例の例外とはいえ、手続きをしないと正式なルートを通っても不法入国になってしまうからな。特別な手続きが必要だというのは大いにわかる。

 

取り敢えず、俺はリアス部長に促されるまま、手続きをしに列車の一番前の車両に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発車から四十分が経過した頃、トランプなどで時間を潰していたら、アナウンスが流れた。

 

『もうすぐ次元の壁を突破します。もうすぐ次元の壁を突破します』

 

「外を見ていてごらんなさい」

 

と、リアス部長は俺達に促した。

 

本来、上級悪魔で主であるリアス部長は前方の車両にいないとダメらしいが、独りではつまらないらしく、こちらの車両で過ごしていた。

 

言われるがまま、外の景色を眺めているとーー。

 

景色が暗がりから風景へと変化する。

 

紫色の空、山や木、湖もある。

 

「これは……凄いな」

 

知らず識らずのうちにそんな言葉が出ていた。

 

「もう窓を開けていいわよ」

 

リアス部長の許しを得て、窓を開けると風が入り込んでくるのだが、やはり人間界とは違う。

 

どちらかというとライザーと闘った時のあの空間に近いものを感じる。でも、気温的にはちょうどいい。

 

それから少し経つと森や山、海以外にも独特の形をした家があり、町もある。確かにこうして見ると自然が多く、空の色や建物の奇抜さ以外におかしな点は特にない。

 

「ここは既にグレモリー領よ」

 

「そうなんですか?じゃあ、グレモリー領って例えるとどのくらいですか?」

 

「確か、日本で言うところの本州丸々くらいだったと思うよ」

 

イッセーの疑問に席の上からひょっこりと顔を出した裕斗が答えた。

 

「ほ、本州⁉︎でかっ⁉︎」

 

「本州と言っても殆どが手付かずで、ほぼ森林と山ばかりよ?大体、これ程の領地を手に入れられるのは、地球と同程度の面積に悪魔、堕天使、それ以外の多種族しかいないし、海も少ないから土地が広いのよ。昔はそうでもなかったらしいのだけれど」

 

確かに元は一触即発だったとはいえ、多くの悪魔や堕天使がいたから、領土もここまでは広くなかったんだろう。大戦で多くの悪魔や堕天使、魔物が死に絶えたから一人当たりの領土も広いんだろう。

 

「そうだわ。イッセー、アーシア、ゼノヴィア。後であなた達にも領土の一部を与えるから、欲しいところを言ってちょうだいね」

 

「りょ、領土、貰えるんですか⁉︎」

 

「あなた達は次期当主の眷属悪魔ですもの。グレモリー眷属として領土に住むことが許されているわ。とは言っても、イッセーの場合はあまり使わなさそうね」

 

「はい?なんでですか?」

 

「あら、あなたの場合は人間界でーー」

 

リアス部長が何かを言おうとしていた時、再びアナウンスが流れた。

 

『間も無くグレモリー本邸前。間も無くグレモリー本邸前。皆様、ご乗車ありがとうございました』

 

ん、早くも終点か。

 

「もうすぐ着くわ。智代、窓を閉めてちょうだい」

 

「はい」

 

リアス部長に言われて、降りる準備をする。

 

次第に列車の速度は緩やかになっていき、徐々に停止させる。

 

ガクン。

 

静かな停止の後、リアス部長先導の元、俺達は開いているドアから降車していく。

 

「あれ?先生は降りないんですか?」

 

「ああ、俺はこのままグレモリー領を抜けて、魔王領の方へ行く予定だ。サーゼクス達と会談があるからな。所謂『お呼ばれ』だ。終わったらグレモリーの本邸に向かうから先に行って挨拶済ませてこい」

 

イッセーの問いに、アザゼルはひらひらと手を振って答えた。だらけきってはいるが、あれでも一応総督だからな。

 

改めてアザゼルを抜かしたメンバーで駅のホームに降りた瞬間ーー。

 

『リアスお嬢様、おかえりなさいませっ!』

 

怒号のような声と共に花火が上がり、兵隊達が銃を空に向けて放ち、楽隊らしき人物達が一斉に音を奏で始める。空では謎の生物に跨った兵士達が飛び、旗を振っていた。

 

「うわっ⁉︎」

 

びっくりしてこけそうになった。

 

「っと。大丈夫か、智代?」

 

後ろにいたイッセーのお蔭で転ばずには済んだ。良かった、ダサい奴にならなくて。

 

「済まないな、イッセー」

 

「気にすんな。俺もびっくりしたし………ギャスパーはあんなだしな」

 

「ひぃぃぃぃ……人がいっぱい……」

 

ギャスパーに至ってはあまりの人の多さに恐れ戦いていた。お前は閉じ込められていても、一緒に帰ってきているだろうに。その反応はどうなんだ。

 

「ありがとう、皆。帰ってきたわ」

 

リアス部長が満面の笑みで返すと、迎えに来ていた執事やメイドの一団も笑みを浮かべている。

 

そこへ見知った顔の人物が一歩出てきたーーグレイフィアさんだ。

 

「お嬢様、おかえりなさいませ。お早いお着きでしたね。道中、ご無事で何よりです。さあ、眷属の皆様も馬車へお乗りください。本邸までこれで移動しますので」

 

グレイフィアさんに誘導されて、豪華絢爛な馬車へ。こういうところに貴族としての風習を感じるな。

 

因みに俺達の荷物に関しては執事やメイドさん達が持って行ってくれるらしい。行き届いているな。

 

「私は下僕達と行くわ。イッセーやアーシアは初めてで不安そうだし、智代もいるから」

 

「わかりました。何台かご用意しましたので、ご自由にお乗りください」

 

グレイフィアさんはリアス部長の意見を快諾した。

 

俺達が馬車へと乗り込むとパカラパカラと蹄の音を鳴らしながら進みだした。

 

馬車に乗るのは前世も含めて初めてだが、なかなか良いものだ。今度は乗馬もしてみたいな。

 

風景を見てみると、舗装された道と綺麗に剪定された木々。真っ直ぐと道が伸びて、その先に巨大な城が建っていた。

 

「ぶ、ぶ、ぶ、部長……あ、あの巨大なお城は……?」

 

「私のお家の一つで本邸なの」

 

「お、お家の一つって……」

 

「やめておけ、イッセー。私達には到底理解しきれない世界だ」

 

理解しにいく方が間違っている。こちらは平民。あちらは悪魔の貴族。そもそも常識が違うんだ。時間をかけて、おいおいりかいしていくしかない。

 

「着いたようね」

 

部長がそう呟くと、馬車のドアが開かれ、執事達が会釈をしてくる。

 

部長が先に降りて、後から俺達も続く。二台目の馬車も到着し、木場達も降りてきていた。

 

両脇にメイドと執事が整列して、作った道を歩いていく。

 

レッドカーペットの上を歩くとなるとなんだかセレブっぽいな………いや、セレブか。

 

「お嬢様、そして眷属の皆様。どうぞ、お進みください」

 

グレイフィアさんが会釈をして、俺達を促してくれる。

 

「さあ、行くわよ」

 

ちょうどリアス部長がレッドカーペットの上を歩こうとした時、メイドの列から小さな人影が飛び出してきた。

 

「リアス姉さま!おかえりなさい!」

 

「ミリキャス!ただいま。大きくなったわね」

 

紅髪の少年がリアス部長に抱きつくと、リアス部長も愛おしそうに抱きしめる。

 

えーと……確かこの子は……

 

「部長。この子は?」

 

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄さまーーサーゼクス・ルシファーさまの子どもなの。私の甥ということになるわね」

 

そうだ。この子は魔王の子どもだった。しかもハイパー天才だった気もする。

 

「ミリキャス・グレモリーです。初めまして」

 

「こ、これはご丁寧な挨拶をいただきまして!お、俺は……いや、僕は兵藤一誠です!」

 

「何を年下相手にテンパっているのだ、お前は……」

 

「い、いや、だってさ……年下でも俺達より偉いし……」

 

確かにそうだが、かといってテンパってどうする。相手はまだ小学生くらいなのだから、もっと年上らしい対応をしてやらないと。

 

テンパっているイッセーにリアス部長はおかしそうにクスクスと笑った。

 

「さあ、屋敷へ入りましょう」

 

リアス部長はミリキャスと手を繋いで門の方へ進み出す。

 

その後を一緒に歩いているのだが、ギャスパーが背中にひっついて離れない。いくら見た目が美少女とはいえ、この状況でそれはどうなんだ、ギャスパー。

 

巨大な門を潜り、中を進む。

 

次々と開かれていく門を潜って行くと、ついに玄関ホールらしいところへと着いた。前方に二階へ通じる階段。天井には巨大なシャンデリア。

 

「お嬢様、早速皆様をお部屋へ後押ししたいとと思うのですが」

 

「そうね、私もお父様とお母様に帰国の挨拶をしないといけないし」

 

「旦那様は現在外出中です。夕刻までにお帰りになる予定です。夕餉の席で皆様と会食をしながら、お顔合わせされたいとおっしゃっておりました」

 

「そう。わかったわ、グレイフィア。それじゃあ、一度皆はそれぞれの部屋で休んでもらおうかしら。荷物は既に運んでいるわね」

 

「はい。お部屋の方は今すぐお使いになられても問題ありません」

 

「あら、リアス。帰ってきたのね」

 

その時、上から女性の声が聞こえてきた。

 

階段から降りてきたのはドレスを着た綺麗な人。見た目は俺達とそう変わらず、見た目は亜麻色の髪と目つきが少しキツいだけで部長にそっくりだ。えーと、この人は思い出せるぞ。確か、リアス部長のお母様だったはずだ。

 

「お母様。只今帰りましたわ」

 

「お、お母様ですか⁉︎どこからどう見ても部長と殆ど歳が変わりませんよね⁉︎お姉さんじゃないんですか⁉︎」

 

「悪魔は歳を経れば魔力で見た目を自由に出来るのよ。お母様はいつも今の私ぐらいの年格好で過ごされているの」

 

説明されて思うが、そうなると悪魔のアイドルって、本当に永遠の歌姫になれるよな。ぶっちゃけ一万年生きられるわけだし、トップアイドルになるのは至難の技なわけだが。別に歳はあまり気にしないが、見た目を全盛期のまま維持できるのは良いな。中身も伴わないと意味ないかもしれないけど。

 

「智代にも何れ教えるわ」

 

「悪魔でないと出来ないのでは?」

 

「そんな事ないわよ。天使や堕天使にも出来るし、何より今のあなたの中には悪魔(私達)の力が流れている。使い方次第では同じような事が出来るわよ」

 

言われてみればそうだな。

 

別段、若いままでいたいというわけではないが、教えてくれるというのなら教えてもらおう。

 

「リアス。そちらの二人が兵藤一誠くんと大神智代さん?」

 

「はい」

 

「お、俺ーーじゃなくて、僕の事をご存知なんですか?」

 

「聞いただけですけれど、あなた達の活躍もあって、破談になったと聞きました」

 

クスリと笑ってリアス部長のお母さんは答えた。

 

盛大な皮肉に聞こえなくもないが、本人にそのつもりはないだろう。あの微笑みも、おそらくはそういった嫌味を含んだものではないみたいだし。

 

「初めまして、私はリアスの母、ヴェネラナ・グレモリーですわ。よろしくね」

 

 


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