幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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気まぐれの白龍皇

 

ここ最近。俺の体調は人生史上で最も悪い。

 

というのも、コカビエルとの戦闘で俺は擬似的な禁手に至った。

 

擬似的な禁手には其れ相応の対価が必要なのだが、全身くまなく調べてみても、イッセーのように何処かが人のものではなくなっているということはなかった。

 

だが、その代わりに常に凄まじいまでの疲労感と倦怠感が俺を襲っていた。

 

最近では学校の授業内容も全く頭に入ってこない。目を開いて、起きている事が苦痛で仕方がない。

 

どれだけ眠っても全くと言っていいほど改善が見られないが、例外として、部室にいる時とイッセーのドラゴン化した半身を戻してから一時間程度はかなりマシになる。

 

それがどういう理屈なのか、定かではない。

 

とりあえず同盟を結んだ後にアザゼルにでも調べてもらおう。奴は神器マニアだ。何か知っているかもしれない。

 

やれやれ、自動販売機に飲み物一つを買いに行くことすら億劫になるとは。これではそこらにいる不良にすらボコられそうだ。幸い、大体の奴らは俺の姿を見た瞬間に逃げ出すから問題ないけど。

 

自動販売機でブラックコーヒーを買った時、不意に視界の端に銀が映り込む。

 

そちらを見てみると、そこには俺より約一頭身程身長の高い銀髪の美少年が立っていた。

 

俺が横によけると少年もまた俺と同じようにブラックコーヒーを買い、プルタブを開けながら言葉を発した。

 

「先日振りかな?とはいっても、直接話してはいないが」

 

「……私に何か用か。白い龍」

 

俺がそう言うと銀髪の美少年は透き通った蒼い瞳を見開く。

 

「これは驚いた。気づいていたのか」

 

「イッセーが近くにいるからか、ドラゴンの気にはかなり敏感なんだ。それに神滅具所有者同士ならある程度はわかる」

 

もちろん出まかせだ。

 

俺はコカビエルをマカハドマで止めた直後に気を失ったし、ドラゴンの気なんてわからない。いや、若干ピリピリするから全くわからないわけじゃない。神滅具所有者同士だからわかるっていうのは完全に嘘だ。俺は初めからこいつの事を知っている。

 

「では話が早いな。俺はヴァーリ。こうして話すのは初めてだな、大神智代。君の幼馴染みの兵藤一誠ーーー赤龍帝と対をなす存在、白龍皇だ」

 

「その白龍皇が何の用だ」

 

睨みつけながら白龍皇ーーーヴァーリに問う。

 

だが、ヴァーリはそんな事など意にも介さず、予想外の一言を放った。

 

「単刀直入に言おうーーーー俺は君が気に入った」

 

「………は?」

 

一瞬理解が追いつかなかった。

 

しかし、よくよく考えてみるとヴァーリの気に入ったはイコール強敵認定の対戦相手扱いなので言い方に勘違い要素はあれど何もおかしなことは言っていなかった。いや、おかしいか。いきなりお前が気に入ったはキザなナンパ野郎みたいだしな。

 

「………生憎戦闘狂はお断りだ。他を当たってくれ」

 

「ああ。俺もそう言う意味で言ったんじゃないんだ。まぁ、君とも是非拳を交えたくはあるが、今の君なら……」

 

ヴァーリは缶コーヒーを一気に飲み干すとそれを宙に投げる。

 

何をしてるのかと視線をそちらにやると急に肩を掴まれて、自動販売機に押し付けられた。

 

全く反応出来なかった。肩を掴まれかと思ったら、次の瞬間には自動販売機に押し付けられて、壁ドン状態になっていた。

 

「こんな風に簡単に追い詰める事が出来る。腕一本……いや、指一本動けばいい。俺はそれだけで君を殺す事も出来る」

 

そう言ってヴァーリはニヤリと笑う。

 

だが、その表情とは裏腹に言葉通り、俺を見つめる視線には明確な殺意が宿っていた。

 

背中に冷たい汗が流れる。目の前に迫る明確な死のビジョンに俺は表面上には出さなくとも、心の中では恐怖が上回っていた。

 

ヴァーリの言う通り、俺は現状一般人にすら倒される程に弱くなっている。

 

そんな状態で圧倒的強者から殺意を少しでも叩きつけられれば、いくら精神が強くとも、その場から逃げ出したくなるのが普通だ。

 

だが、俺は今、逃げ場がない状態だ。その殺意から逃げる術はない。

 

例え、それが俺の反応を見るために遊び半分で向けられていたとしても、俺は今にも腰が抜けそうだった。

 

「………好きにしろ」

 

だからこその目一杯の強がりで答えたが、ヴァーリは全てを見透かしたようにさらに顔を近づけてきた。

 

「ふっ………強がるのはやめた方がいい。怯えているのが目を見ればわかる」

 

くっ………こんな状態じゃなけりゃ、この舐めた奴の顔面に迷うことなく蹴りを放っていたというのに。今の俺じゃ、何をしようとしてもその前に制される。そうでなくとも、普通の俺ですらなんなく躱されるだろう。こいつはコカビエルよりも強いからな。総出でないと倒せなかった俺達じゃ絶対に倒せない。

 

「だが、それもいい。君のその在り方は神器と同様に強く、それでいて儚く、美しいものがある。闘う相手としても申し分ないが、それよりも俺は君の事が気に入った」

 

「………ふざけた口説き文句だな」

 

「口説いているつもりはない。俺は力づくで自分のものにするタイプでね。相手の意志など関係ない………ところで一つ聞きたいことがある」

 

ヴァーリは瞳に宿していた殺意を消して、問いかけてくる。

 

「君は何故生きている?」

 

………はい?何言ってるんだ、この戦闘狂。

 

「何故生きていてはいけないのだ」

 

「いや、そういう意味で言ったわけじゃない。本来なら……………待て。大神智代。口を開けてみろ」

 

「嫌だ。お前の言う事を聞く気はんぐっ⁉︎」

 

拒絶の言葉を発している途中で口の中に指を突っ込まれた。

 

何がしたいんだよ、こいつ⁉︎っていうか、こんな真っ昼間から訳の分からん事をするのはやめろ!なんか、新手のそういうプレイに見られるだろうがっ⁉︎

 

「吸ってみろ」

 

「はっひはら、ひはまはなにはまほ「二度言わせるな。いいから吸え。息をするようにだ」……」

 

人の話聞かねぇ………。本当にこいつ何様のつもりだ。

 

出会い頭に訳の分からん口説き文句を言ってきたかと思えば、やたら深刻そうな顔で人の口の中に問答無用で指を突っ込んだ挙句に吸えだと。お前は強姦魔か何か。

 

しかし、言われた通りにしなければ解放してもらえないのが現実だ。早いところ解放してもらわないとこのままここでぶっ倒れる可能性すらある以上、ヴァーリの意味不明の行為に付き合うほかない。

 

ヴァーリに言われた通り、息をするようにゆっくりと吸う。まさかイッセー以外の相手にこんなことをしなければならないとは。もうやだ。

 

「……やはりか」

 

ヴァーリは俺の口から指を引き抜くと俺の唾液で濡れた指を見ながらそんなことをつぶやいた。やはりって何?教えろよ、マジで。

 

「君は本当に面白い。俺の宿敵君もそうだが、それ以上に大神智代。君はイレギュラー過ぎる。是非君を俺のものにしたいな」

 

「貴様は私と会話をする気があるのか?私を手篭めにしに来たのか、それとも一方的に蹂躙しに来たのか、どちらだ?」

 

どちらも御免こうむりたい。

 

さっきもヴァーリが言ったが、現状の俺はヴァーリに指一本で殺される。

 

身体能力が低下して、普通の女子レベルにまで落ちていることもそうだが、肝心の神滅具があの日以降全く発動しない。氷系の神器だし、夏は余裕で越せるなんて楽観視してたというのに。

 

「両方だ…………と言いたいがね。まだその時ではない。互いに全力で殺し合い、奪い合い、その後で君を俺のものにしよう。勝者が全てを手に入れるのは自然の摂理だ」

 

あ、頭痛くなってきた………

 

こいつどんだけ弱肉強食思考なの?

 

俺の同意なしに俺とバトって倒して、自分のものにする宣言とか無茶苦茶にも程がある。こいつってこんな性格だったか?確か戦闘狂だけど、実は仲間想いな一面があったりする良いライバル役みたいな奴で結構好きだったのに………まぁ、全く女に興味のないはずなのに言い寄ってきたことを鑑みても匙とかフリード達みたいに原作とは違うんだろうな。

 

「もっとも、その前に赤龍帝を倒す。その後で君と最高の殺し合いを演じたいものだ」

 

おいおい、宿命の対決だろうに。おまけになってるぞ。それでいいのか、白龍皇。

 

本当に厄介な奴に目をつけられた。俺はあくまで人間だというのに。

 

確かに曹操とかあの辺りなら勝てるだろうが、俺はまだ神器が目覚めてあまり経っていない上に相性が良いわけじゃない。普通に考えて勝てる要素が見当たらない。

 

とはいえ、一言だけ、ヴァーリに言っておきたいこともある。

 

「お前がイッセーと私を相手にするというのなら覚えておけ………イッセーを殺したその日がお前の死ぬ日だ」

 

ありったけの殺意を籠めて、俺はヴァーリに言い放った。

 

イッセーと闘うのはいい。イッセーに今足りていないのは強敵との闘いによる実戦経験と指導者の存在。そして大いなる目標だ。あいつは未だ明確な強さの基準が出来ていない。だから、ヴァーリを倒すという目標を作ればよりイッセーは高みを目指せるだろう。

 

だが、イッセーを殺すというのであれば別だ。

 

俺のすべてをかけてヴァーリを殺す。この身をすべて捧げれば、覇の理を発動させなければ、ヴァーリを屠る事も叶う可能性は多分にある。

 

「ふっ…………その弱り切った身体で心地良い殺意を放ってくれる。その気高さもますます気に入った。早く万全の状態に戻ってくれよ」

 

そう言うとヴァーリは踵を返して、去っていった。

 

しまったな。言う必要のないことまで言ってしまったか。

 

折角のコーヒーも温くなってしまったし、家に帰ってから飲むか。神器さえ使えればそっこうで冷やせるんだがな。

 

俺の心情とは裏腹に帰る時の足取りは来た時よりも軽かった。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?あの時の俺の宿敵に出会った?」

 

自室に帰ってきた俺は毎日恒例のドラゴンの気を散らしていた。

 

もちろん、それには智代の助けがいるわけで、今智代は俺の左腕に抱きついているという状態だ。上腕二頭筋の辺りに柔らかい感触を感じるが、ここ最近である程度は慣れてきた。初めはかなり慌てふためいていたが、数をこなすと慣れるものだ。相手が智代だからって事もあると思うけど。

 

「何かされなかったか?いきなり襲われたりしなかったか?とにかく大丈夫か?」

 

あの時感じた『白い龍』の危険な視線。

 

あれは確実に強い者との闘いを求めている……争いを求めているもののオーラだった。

 

コカビエルとはまるで正反対。半人前も半人前のあいつがいくら赤龍帝とはいえ、俺に目をつけたともなれば、神滅具持ちで俺よりも強い智代に目をつけないはずもない。なんなら開口一番に殴りかかりそうな勢いだ。

 

「…………………………いや、何もなかった」

 

「ちょっと待った。今の間は何だ?」

 

流石に露骨過ぎる。絶対に何かされたな⁉︎智代に何かしようだなんて、万死に値するぞ、白い龍!

 

「ただ、私に喧嘩の予約を入れに来ただけだ。今の私はそこらの一般人程度でしかないからな」

 

確かに今の智代はものすごく弱い。

 

神器は使えないし、動きのキレも全くと言っていいほどない。

 

本人曰く、「禁手による弊害」だそうだ。

 

色々と心配な面もあるけど、圧倒的なまでの強さの無くなった智代は今や普通の美少女と化している。なんていうか、それが知れ渡ったらそれはそれで需要が上がりそうではある。ま、俺はどんな形でもいい。智代を護るって決めてるから。強いとか弱いとかは関係ないけどな。

 

「安心しろ、智代。あの白い龍は俺がぶっ飛ばすからな。絶対に智代には指一本触れさせねえよ」

 

空いている右手でサムズアップしながらそう宣言する。

 

何時もの智代ならここで「まぁ、それなりに期待はしておく」とか「その前に私を倒せるようにならないとな」くらいを返してくるのだが、今日に限っては違った。

 

「………ありがとう」

 

抱きついた腕に力を込めて、智代はそうぽそりと呟いた。

 

智代らしくない……と思ったが、もしかしたらこれが本当の智代なのかもしれない。

 

何時も気高く、美しく、強く振舞っている智代もいざ蓋を開けてみると、やっぱり一人の女の子なんだ。

 

あんな化け物に喧嘩をふっかけられれば智代だって怖いんだ。

 

そう思うと勝手に右手が智代の頭の上に動いた。

 

「?なんだ、この手は?」

 

「あ、いや、なんとなく」

 

ポンと無意識のうちに智代の頭に手を置いて撫でていた。なんでこんな事をしたのかはよくわからない。

 

けど………

 

「もう少しこうしてていいか?」

 

「……好きにしろ。どうせもう少しの間はこのままなのだ」

 

「だな」

 

恒例行事のそれが終わるまでの間、俺は智代の頭をずっと撫でていた。

 

こんな事をしたのはいつぶりだろう。ひどく懐かしいような気がするなんて思いながら、撫でているうちに智代が器用にも座ったまま寝てしまったので、結局、三時間程度そのままになった。

 

余談だが、解放された後は当分腕が痺れて晩飯作るのに苦労した。


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