幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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月光校庭のエクスカリバー
異変の前兆


 

球技大会も終わり、その直後に待っていたと言わんばかりに降り出した雨。

 

ザーッと雨が旧校舎の壁や窓を叩く音に混じってパシンと乾いた音が響いた。

 

部長に叩かれたからだ。俺ではないーーー木場が。

 

「どう?少しは目が覚めたかしら?」

 

かなり怒っている部長が木場に問う。

 

競技は結局俺達オカルト研究部の優勝に終わった。当然といえば当然だ。悪魔の力を使わなかったとしても鍛え上げられた身体能力は常人のそれと大きくかけ離れている。

 

一応はチーム一丸となって勝利を勝ち取ったんだが、唯一木場だけが非協力的だった。

 

何度か貢献はしたものの、終始ぼけっとしていた。

 

試合中も部長に怒られていたというのに、それでもどうでも良さそうにしていた。

 

もし今部長が叩いてなかったら、俺がキレてた。

 

だが、当の木場は叩かれたというのに無言で無表情のままだった。

 

あまりの変貌っぷりは一瞬何時もニコニコと爽やかな笑みを浮かべて、王子様と称されている奴とは同一人物とは思えない程だ。

 

と、木場は唐突に普段の表情に戻るが、寧ろそれが一層異様さを感じさせる。

 

「もういいですか?球技大会も終わりました。少し疲れましたので普段の部活動は休ませてください。昼間は申し訳ございませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」

 

「木場。お前マジで最近変だぞ?何かあったのか?」

 

「君には関係ないよ」

 

俺の問いを木場は作り笑顔で冷たく返してくる。

 

「関係なくはないだろ。俺達は同じ部長の眷属だ。仲間だ。仲間が何時も通りじゃなかったら普通心配するだろ?」

 

「仲間………か」

 

「そう、仲間だ。これから数千年単位で付き合ってく事になる大切な仲間だ」

 

「君は熱いね………イッセーくん、僕はね、ここのところ、基本的な事を思い出していたんだよ。一体何のために僕が戦っているのか、ね」

 

突然木場が話し始めた。

 

「部長の為じゃないのか?」

 

「違うよ」

 

即座に否定した。俺は生き返らせてくれた部長に恩返しをしたいから、戦っている。他の皆も何かしら理由はあれど部長の為に戦っているのだと、そう思っていた。だが、木場はそれを否定した。

 

「僕は復讐のために生きている。聖剣エクスカリバー。それを破壊するのが僕の戦う意味だ」

 

木場の決意を秘めた表情。

 

その時、俺は初めてこいつの本当の顔を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖剣計画?」

 

「そう、祐斗はその計画の生き残りなのよ」

 

一通りの部活動を終えて家に戻った俺、アーシア、部長。そして智代。

 

俺の部屋にアーシアと智代が入ってきた後、話があると部長が部屋に来て木場の話を切り出した。

 

「数年前まで、キリスト教内で聖剣エクスカリバーが扱えるものを育てる計画が存在していたの」

 

「……初めて知りました」

 

元教会のシスターで聖女だったアーシアも知らなかったとなると、余程極秘の計画だったらしい。

 

「聖剣は対悪魔にとって最大の武器。私達悪魔が聖剣に触れたらたちまち身を焦がす。斬られれば有無を言わせず消滅させられる。神を信仰し、悪魔を敵視する使徒にとっては究極ともいえる兵器よ。出自によって様々だけれど、一番有名なのはエクスカリバー。日本でも色々な書物やゲームなんかで取り上げられているから、一般人にも知名度が高いわ。神の領域にまで達したものが魔術、錬金術などを用いて創り上げた聖なる武器。けれど、聖剣は使う者を選ぶ。使いこなせる人間は数十年に一人だと言われているわ」

 

「木場は魔剣を創り出す神器能力者ですよね?それと同じように聖剣を創り出す神器はないんですか?」

 

「ないわけじゃないわ。けれど、現存する聖剣と比べると、今のところオリジナルには遠く及ばないとされているわ。もちろん、弱いという事ではないのよ?中には貴方の神器同様に『神滅具』の聖具もある。イエス・キリストを殺した者が持っていた神器ーーー『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』が有名かしら。『神滅具』の代名詞にもなったと言われているわ」

 

へぇ、キリストさんを殺したのも『神滅具』なのか。歴史の謎が唐突にネタバレされるから上級悪魔様とのお話は奥が深い。

 

「ただ、エクスカリバー、デュランダル、日本の天叢雲剣、それらの聖剣が強力過ぎて、匹敵する聖なる神器は現時点で存在しないわ。魔剣の方もやはりオリジナルには及ばないわね」

 

まぁ、さっき言ってた『黄昏の聖槍』というのはともかく、魔剣や聖剣を創り出す神器で本物と同等か或いはそれ以上のものをポンポン創り出せたらオリジナルの存在意義がほぼ無いもんな。

 

「祐斗は聖剣ーーー特にエクスカリバーと適応するため、人為的に養成を受けた者の一人なのよ」

 

「じゃあ、木場は聖剣を扱えるんですか?」

 

「イッセー。普通に考えてみろ。聖剣を扱える者が悪魔になるはずがない。それこそ同族を数十人単位で殺したとしても実力によっては揉み消される可能性もあるが、それならば聖剣を破壊するのが目的であるはずもない」

 

俺の疑問に隣で座っていた智代がそう答えた。確かにエクスカリバーを破壊したり、復讐したりっていうのが目的になるのはおかしい。

 

「智代の言う通りよ。祐斗は聖剣に適応出来なかった。それどころか、祐斗と同時期に養成された者たちも全員適応出来なかったようだけれど……」

 

そうなのか………あれだけ剣に精通していて、剣の才能に恵まれている木場ですら聖剣は扱えなかったのか。

 

「適応出来なかったと知った教会関係者は、祐斗達被験者を『不良品』と決めつけ処分に至った。祐斗を含む被験者の多くは殺されたそうよ。ただ『聖剣に適応出来なかった』という理由だけでーーー」

 

「……そ、そんな、主に仕える者がそのようなことをしていいはずがありません」

 

アーシアにとってその情報はよほどショックだったようで、目元を潤ませていた。

 

実際聞いていて気持ちの良いもんじゃない。たったそれだけの理由で命を奪うなんて。例え聖剣なんて使えなくても他にも生きる道はあるだろうに。

 

「結局、この世で一番醜く邪悪なのは人間の悪意だという事だ」

 

ぎゅっと拳を握りしめ、智代はそう呟いた。

 

「私が祐斗を悪魔に転生させた時、あの子は瀕死の中でも強烈な復讐を誓っていたわ。生まれた時から聖剣に狂わされた才能だったからこそ、悪魔としての生で有意義に使ってもらいたかった」

 

「だが、それは無理だ。私ですらあの堕天使ーーーレイナーレを命を懸けてでも殺すと決めていた。ならば祐斗のそれは私よりも深く、強く、根付いている。そう簡単に忘れられるようなことではない」

 

智代の言葉に部長も静かに頷いた。

 

そうか。智代もレイナーレと対峙した時、そんな事を考えていたのか。嬉しいような寂しいような、なんとも言えない感じがする。

 

「とにかく、しばらくは見守るわ。今はぶり返した聖剣への想いで頭がいっぱいでしょうから。普段のあの子に戻ってくれると良いのだけれど」

 

「あ、それのことなんですけど、切っ掛けがどうもこの写真っぽいんです」

 

俺は例の写真を部長へ手渡す。木場がこの写真に映っている刀剣を見て「聖剣」と言っていたから、何か関係があると思うんだけど………

 

「イッセー、貴方の知り合いに教会と関わり合いを持つ人がいるの?」

 

「いえ、身内にはいません。ただ、幼い頃に近所に住んでいた子がクリスチャンだったみたいです」

 

「そう、貴方の近くにーーーいえ、十年以上も前にこの町には聖剣があったなんてね。恐ろしいわ。智代も心当たりはあるかしら?」

 

「生憎、この頃イッセーとはあまり仲が良くなかったのでよくわからない」

 

「あら?意外ね、昔から仲が良さそうなイメージだけれど」

 

本当に意外そうに部長はそういった。

 

確かに今の俺達を見て、昔は仲が悪かったなんて誰も思わないだろう。

 

「少し貴方達の話を聞かせてもらっても良いかしら?興味が湧いてきたわ」

 

「これといって面白い話でもないのだが……」

 

「わ、私もお二人のお話を聞いてみたいです……」

 

「………どうする?イッセー?」

 

困った様子で智代は問いかけてくる。俺としてもあの話は特別面白い訳でもないけど、部長やアーシアはもう興味がこっちに向いてるわけだから、話してもいいか。

 

「良いんじゃないか?恥ずかしい事なんてないし」

 

「……………私にとっては恥ずかしい事ばかりだ」

 

「俺が始めて智代とあったのは十二年前に近所の幼稚園に行き始めた時の事なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はお前が嫌いだ。だから話しかけるな」

 

開口一番に告げられた言葉に俺は戸惑った。

 

幼稚園の頃の俺にはわからなかった。出会ってまだ一言も話したことのない人間に話しかけた途端、一言目の返答が全力の拒絶だったから。

 

その子は近所では見ない子だった。

 

同い年の子の中で一人、浮いていた。その独特の雰囲気と話し方もさる事ながら、幼少にして抜きん出た容姿は色んな意味で目立っていた。

 

透き通るような白い肌。煌めくような綺麗な銀色に輝く髪。吸い込まれるような黒い瞳。

 

その容姿にまだ恋だとか愛だとか、そういう事がわからない年代である幼稚園児達ですら露骨で明確な好意を示しめていた。

 

その年頃の人間にはあまり恥ずかしいとかそういう感情はなく、好きであれば好き、嫌いであれば嫌いと面と向かって言える。

 

だからあの頃の彼女ーーー智代から告げられた拒絶の意はきっと心の底から放たれた言葉だったんだと思う。

 

他の同い年の子にはある程度会話をしたり、遊んだりする中、唯一拒絶された俺は悲しんだ…………と言うことはなく、逆に智代の事が気になり始めた。

 

あれだけ露骨に拒絶されたのに俺は智代に事あるごとに話しかけた。

 

なんであんな行動を取っていたのかはわからない。底抜けにバカだったのか、それとも他に彼女に話しかけたい、仲良くしたい理由があったのかは思い出せないけど、毎日毎日積極的に話しかけた。

 

拒絶され、無視されたりした日もあった。幼稚園の頃は結局マトモに話を出来ることはなく、話せるようになったのは小学二年生の頃だ。

 

その歳にしてはモテる男子がいた。

 

女子に人気で、男子も仲良くしている奴が多くて人気者だった。

 

その子の親父さんはイタリア人でお母さんが日本人のハーフでものすごく容姿が整っていた。

 

ある日、そいつは智代に告白した。周囲の男子も、親御さんも二人を見るたび、お似合いだと囃し立てていた。それに感化されたのか、前から気はあったのか、告白した。

 

小学校の時なんかは告白するという事になると周りに誰がいるとか、そういうのを全く気にせず、あろうことか、そいつは昼休みに教室で本を読む智代に告白した。

 

その告白に対しての智代の返事といえば

 

『悪いな。私はお前の事が好きじゃない』

 

それだけ告げて本を読む事を再開した。

 

どういう根拠があるのかわからなかったけど、俺を含めて皆、二人は付き合うのだと総じて思っていた。今考えるといくら見た目の釣り合いが取れていても好きでもなんでもない相手と付き合うなんてあり得ないとわかるが、その頃は全く理解が出来なかった。

 

その翌日からだ。智代がイジメを受け始めたのは。

 

靴を隠されたり、机や教科書に落書きをされたりしていた。

 

それでも智代は全く気にしなかった。まるで何事もないかのように振舞っていた。

 

靴を隠されれば予備の靴を用意し、机を落書きされればものの二分で新品同然に拭きなおし、教科書に関しては頭が良かったからか、机の上にはあったが、全く開くこともせずに授業に余裕でついて行っていた。

 

それを快く思わなかった女子達は今度は集団で実力行使に出た。

 

今までその光景を見たことのなかった俺はすぐに止めようと思った。けれど、必要なかった。

 

端的に言えばその頃から智代は尋常ではないくらい強かった。

 

なんでもないかのようにさらりとあしらい、全く意に介さなかった。

 

間接的なイジメも意味がない。直接的なイジメも本人が強すぎて無意味。

 

それを理解してもなお、イジメは止まらなかった。

 

不毛ないたちごっこと言えるそれを俺は止めることが出来なかった。あの頃の俺にはイジメを止めて、その代わりを受ける勇気が無かったから。男として本当に情けなかったと思う。

 

転機が訪れたのはそれが一ヶ月続いた頃だ。

 

智代は歩きながら本を読む癖があった。偶に先生にも注意される事はあったし、前の人とぶつかりそうになる事も割とあった。

 

そのタイミングなら智代に何か出来ると踏んだ女子達は階段の上からバケツの水をかけようと画策していた。

 

それを女子達が行動に移そうとしている場面に俺は偶然にも立ち会った。今思えばあの瞬間が俺と智代にとっての劇的な何かだったのかもしれない。

 

智代が水をかけられる直前、俺は体当たりする勢いで彼女を抱き締めるように前に避けた。

 

まぁ、小学二年生だったし、受身もまともに取れなかったけど、なんとか智代だけは守れた。

 

今でもあの時の光景は覚えている。

 

今まで鉄面皮とも言えるほど表情を変えなかった智代が困惑していたのは。

 

『お、お前……』

 

『痛ててて………大丈夫、智代ちゃん』

 

『私はともかく、お前はどうなんだ。思いっきり背中を打ったろう?』

 

『大丈夫だ。良かった、智代ちゃんが無事で』

 

本当に嬉しかった。今まで何も出来ずに傍観していた俺が彼女を救えた事が。そして心配されているだけとはいえ、彼女の表情の変化を見られたことが。

 

『……ちゃんはいらない。智代でいい……』

 

ぷいっと視線をそらし、恥ずかしそうにそう言ってくれた。

 

だから俺も笑顔でこう返した。

 

『俺は兵藤一誠!皆、イッセーって呼んでる!よろしくな、智代!』

 

『………わ、私は大神智代……だ。よろしく、い、イッセー……』

 

はにかむように見せたその笑顔はとても眩しい太陽のような微笑みだった。

 

それが俺、兵藤一誠と幼馴染み、大神智代の初めての会話だった。

 


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