幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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渡る世間は変態ばかり

 

「私が監督役としてイッセーに付き添うわ」

 

放課後の定例オカ研会議の議題が俺の事になった時、部長が開口一番にそう言った。

 

オカルト研究部の活動方針。表向きは学内でのオカルト研究について。お化けやら魔術やら、そっち方面に関する事柄を調査するのが主な活動だ。

 

だが、それはあくまで表向き、本当の活動内容は違う。

 

本来の仕事は悪魔として魔法陣から召喚され、呼び出した者と契約を結ぶこと。願いを叶えるために代価を頂くのだが、その悪魔の仕事に関して、どうにも俺の結果が芳しくない。

 

最初の契約以降、全く契約を結べていないのだ。しかも最初の契約も智代がいてくれたお蔭だし。

 

仕事は入るんだが、いざ契約者の元にいけば、揃いも揃って訳のわからない出来事にぶつかり、毎回破断。召喚してくれた人とは仲良くなれるが、悪魔は契約を結んでナンボだから、いくら仲良くなっても依頼を叶えられないんじゃ意味がない。

 

因みに依頼内容はミルたんの「魔法少女にして下さい」に始まり、お次は「世界を壊してくれ」、その次は「二次元の嫁を画面の向こうから出してきてくれ」、そして最後に「神様にしてくれ」と来たもんだ。お前ら悪魔がなんでも出来ると思ったら大間違いだぞ。しかも最後の奴なんか、悪魔に頼むことじゃねえだろ。悪魔のお蔭で神様になれましたとか、アウトだアウト。トリプルプレーもいいとこだ。

 

「………元気を出してください、イッセー先輩」

 

そう言って、スッと小猫ちゃんが桃まんを一つ俺にくれた。小猫ちゃんは優しいなぁ、後輩の優しさに涙が出そうですよ。

 

「そう落ち込まずに、諦めるにはまだ早いですよ?イッセーくん」

 

そして朱乃さんは紅茶を淹れてくれた!こうした気遣いも流石はお姉様だ。

 

「フフフ、イッセーくんはそういう人に呼ばれる才能があるんだね」

 

と木場が爽やかにほざいた。

 

何時もならそれを軽く返すのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。

 

「うるせぇぇぇ!お前もちっとは慰めてくれたって良いだろうがぁぁぁぁ、俺はお前と違って美女に呼び出された事なんてないんだぞ!イケメンだからって美女なお姉さん方に呼ばれまくりやがって!ちくしょう!イケメンじゃないだけでここまで待遇が違うなら俺だってイケメンに生まれたかった!せめて美女じゃなくても良いからマトモな人間に呼ばれてえよ!木場!お前はあるのか⁉︎いい歳したおっさんが訳のわからない仮面を被って「俺は世界に反逆する」とか言ってる状況を!上司にすら反逆出来ないくせに世界とか無理に決まってんだろ!しかも漸く落ち着かせられたと思ったら、其処から延々と上司に対する愚痴だぞ⁉︎俺はお悩み相談室の人間じゃねえんだよぉぉぉぉ!」

 

血涙が出そうな勢いで俺は怨恨を叫ぶ。だって理不尽じゃないか!なんでフツメンとイケメンというだけの差で、こうも違うのか。因みに三人が苗字ではなく「イッセー」と呼んでくれるのは俺がそういったから。苗字だと他人行儀で嫌だからな。

 

「うぅぅ……世界が俺を虐める……」

 

「落ち着け、イッセー。お前は何も悪くないんだ。私はイッセーの味方たぞ」

 

「そうですよ、イッセーさん!わ、私もイッセーさんの味方ですから!」

 

絶叫後の智代とアーシアの優しさが心に染みる。俺の傷口を抉ってくる何処ぞのイケメンとは訳が違う。

 

カッ!

 

その時、部室の床に描かれている巨大な魔法陣が光り出す。青白い光を発しながら、室内を淡く照らす。

 

この魔法陣が光り出すという事は、誰かが悪魔を召喚しようとしているということだ。

 

朱乃さんがポニーテールを揺らしながら、魔法陣の元へ歩み寄り、何かを調べだす。

 

ものの数秒ほど確認をとると、俺と部長へ笑みを向ける。

 

「部長。これならイッセーくんでも解決できそうな願いのようです。喜んで下さい、イッセーくん。普通のお願いのようですわ」

 

おおっ!やっとか!やっとなのか!

 

「わかったわ。イッセー行くわよ」

 

部長が俺の手を取り、魔法陣へ連れて行こうとする。

 

「部長。マジで俺と行くんですか?」

 

「貴方は私の可愛い下僕なのだから、ちゃんと面倒を見てあげるわ。だからついてきなさい」

 

うっ………それは卑怯だ、部長。そんな風に言われると断るなんて出来ない。

 

「よろしくお願いします」

 

「イッセー、頑張れ」

 

「イッセーさん!頑張ってください!」

 

智代とアーシアの応援を受けて俺は部長と共に魔法陣の光の中に消えていった。何気にこれが依頼主の所に魔法陣で飛ぶ最初の依頼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眩い光が消え去ると、其処は何処かの一室だった。部屋の間取りからしてジャンプ先はアパートのようだ。

 

部屋をぐるりと見渡すと、溢れかえる戦国グッズ。

 

模造刀が鞘に収まったまま、壁にずらりと飾ってあり、城のポスターがあちらこちらに貼ってある。「風林火山」と筆書きされた書とかもある。

 

戦国武将が被る兜も棚の上に置かれているし、部屋は薄暗いが、行灯や提灯には火がついている。

 

それにしても依頼主は何処なのだろうか。まさかとは思うが、この目の前にある武将の鎧とかじゃないよな?一応確認してみるか………

 

「もしもーし、もしかして依頼主の方ですか?」

 

うん。返事がない、ただのよろ「は、はい……」うおっ⁉︎

 

武将の鎧の中から女の人の声が聞こえてきた。

 

「あ、悪魔の方ですか……?」

 

「は、はい。悪魔です」

 

顔面を覆うマスクから鋭い視線を感じる。プレッシャーが半端ないが、迫力とは反対に可愛い声だ。どうやら本当に女性のようだ。

 

「ほ、本当に悪魔を呼び出してしまったんですね……私……あ!わ、私、スーザンって言います。見ての通り、趣味は戦国グッズを集めることでして……」

 

スーザン⁉︎外国の方ですか⁉︎俺はてっきりミルたんみたいな漢らしい女性と思ったよ‼︎今までそうだったわけだし!逆に度肝抜かれた!

 

「こんな姿でごめんなさい……深夜だと何かと物騒ですから、こうやってついつい鎧で身を固めてしまうんです……」

 

これはあれか?ツッコミ待ちか?いや、お前の方が物騒だろ!っていうツッコミ待ちなのか?

 

「異文化交流の基本はその国の特色と触れ合うこと。素敵だわ」

 

うんうんと感心するように頷く部長。あれ?おかしいのは俺なのか?これが普通なのか?

 

「でも良かったです。出てきたのが優しそうな悪魔さんで。怖い悪魔さんだったら、この『鬼神丸国重』を抜かざるをえないと思ってましたので……」

 

怖え!スーザン殺る時は殺る子なのね!良かった、見た目が怖そうだったら刀の錆になってるよ、俺!

 

「そ、それで俺たち悪魔を召喚した理由は何でしょうか?願いがあったから呼んだんですよね?」

 

どうしよう。試し斬りさせてくださいとかだったら、斬られるしかないのだろうか、その時の対価が何かもの凄い気になるんですけど。でも死にたくない。

 

「……私が留学している大学まで、一緒にノートを取りに行ってください……深夜の大学は怖いんですよぅ……」

 

いや、あんたが一番怖いよ。見つかったら都市伝説級だよ。題名は『恐怖‼︎深夜の大学を闊歩する鎧武者の呪い‼︎』とかいう感じだ。とはいえ、今まで一番物騒な相手が一番マトモだったのは少しありがたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャンガシャン。

 

深夜、住宅街を徘徊する鎧武者。これ見つかったら通報じゃすまねえよ。俺の街が心霊スポットになっちまった。

 

俺と部長はスーザンの願いを受け入れ、市内にある彼女が通う大学まで護衛することになったのだが、はっきり言ってスーザンが一番危なっかしい。つーか、出会った瞬間皆逃げ出すと思う。

 

結論、俺を呼び出す人は願いはともかく、変人ばかりだった。

 

大学までノートを取りに行くのは俺と部長だけでいいと言ったのだが、「いえいえ、悪魔さん達だけ行かせられません。私も行きます!」と勇ましく言ってきた。泣きながら。

 

「おおおおおん……」

 

夜の道が相当怖いのか、泣きながら歩くスーザン。そんな唸るような低い声で泣かないでくれ。マジもんの怨霊に見えるから。

 

部長が『人間しておくのが勿体無いくらいの逸材ね』と、スーザンの放つ独特の雰囲気に興味津々のご様子。スーザン凄いよ!うちの部長様からお墨付きだよ!

 

彼女は極端な怖がりで、少しでも恐怖を感じると日本刀を振り回して身を守るらしい。迂闊に近寄れないよ。刀の錆になっちゃうよ。

 

因みに彼女が俺たちを読んだ理由だが、明日使う大事なノートを大学に残してしまい、彼女は大層困ったそうな。其処に悪魔を呼び出すチラシが目に映り、召喚してしまったらしい。

 

其処までの願いではなかったので、ボランティアでも良かったのだが、スーザンがどうしても払いたいというので申し出を受けた。代価はお城の模型。既に魔法陣から転送済みだ。

 

「ビクビクしないの。私達が付いているのだから、もっと胸を張って歩きなさい」

 

「そうだぜ。闇討ちとかには慣れてるから、襲われてもすぐに返り討ちに出来るからな」

 

「そういう意味で言ったのではないのだけれど……」

 

悪魔って便利だよな。暗闇でも目がきくから待ち伏せをされていてもすぐに気が付けるし。今となっては俺を闇討ちしようとする奴はいないが、中学の時は酷かった。陽が落ちたときに帰っていると確実に闇討ちされていた。おそらく智代に勝てないから俺を捕まえて人質にし、抵抗のできない智代に集団で襲うつもりだったのだろうが、そうはいかない。そんな在り来たりな事はもう小学二年生の時に経験済みだ。故に襲ってくる奴らは全員ぶちのめした。結果、俺もこの辺りの不良からは襲われなくなった。一度、その辺りにも詳しい元浜に聞いてみたら俺と智代と後一人は絶対に怒らせてはいけない人物に認定されているらしい。俺はともかく智代をキレさせるのはダメだ。ミンチになる。

 

「しかし、鎧なんて着込んで重くないの?」

 

「問題ないです。これでも暇さえあれば、鎧を着込んで運動をしているので。もちろん、室内での運動ですけど。昔の武将は鎧を着て戦場を走り回ったんです。私にもそれぐらいのことが出来ないと」

 

スーザン。貴方は一体何と張り合っているのかな?日本男児だって、鎧着たまま運動出来る奴なんてそうそういないよ。

 

と、そろそろ鎧武者との散歩も終わりのようだ。目的地の大学が見えてきた。

 

「あ、ここが私の通う大学です……雰囲気が出てて、怖いでしょう?」

 

いえ、目の前の貴方ほどじゃありませんよ、スーザン。これから大学内を徘徊する鎧武者。もしかしたら周りの浮遊霊の方が逃げ出すんじゃないかな。

 

こうして、仕事は問題なく進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノートを無事手に入れ、俺たちはスーザンは自室へと戻ってきていた。

 

部長も契約完了とばかりに部屋の床に帰還用と思われる魔法陣を展開し始める。

 

「じゃあ、俺たちはこれで帰るから」

 

「あ、あの……」

 

え?何?鎧武者がもじもじしてても不気味過ぎるんだけど………萌え要素なんてない。

 

「不躾な事かもしれませんが………失礼でないのでしたら、もう一つ、叶えて欲しいお願いがあるんですけど……」

 

もう一つか。俺としては問題ないけど、部長次第だな。

 

「ええ、構わないわよ」

 

部長からもOKが出た以上、問題はない。

 

「じ、実は……こ、今度、同じ大学の人に思い切ってアタックしようと思ってるんです……」

 

「アタック⁉︎駄目だ、スーザン!辻斬りは立派な犯罪だぞ!」

 

「ち、違います!」

 

違うんだ。良かった、てっきり日頃から気に入らなかったあいつをついに斬り捨てる覚悟ができたとかそういうオチではないみたいだ。

 

「そ、その、好きな男性がいるんです………お、奥手な私ですけど、この想いを彼にぶつけたくて…」

 

好きな人か…………そういや、智代はよく告白されるけど、好きな人でもいるのかな?

 

やっぱり強い奴?それとも知的そうな奴?或いは定番にイケメンとか?俺は何一つ当てはまってないのが悲しい。第一、俺と智代とじゃ何一つ釣り合いが取れてないもんな。それに智代と俺は幼馴染みっていう意識が強いから何ていうかそういう関係になってる姿が想像出来ない。まあそうなったら確実に尻に敷かれてるよな。亭主関白?死ぬわ、そんな事したら。

 

そうこう考えている内に部長とスーザンの間で話は進み、結果、直接の告白ではなく、手紙となった訳だが………

 

「スーザン。何でラブレターを書くのに書道セット?」

 

「え?書状ですよ?恋文です。えーと『然したる儀にてこれ無きの条、御心安かるべく候ーーー』と」

 

んん?これラブレターだよな?何このわけのわからない言葉の羅列。いや、日本語なのはわかるよ?でも、わざわざ文面まで戦国時代にする必要あるか?つーか、これじゃあただの怪文書も良いところだ。

 

「な、なあ、スーザン。他の書き方は出来ないのか?」

 

「いえ………これ以外の手紙は書けません……」

 

「はいぃ⁉︎日本に留学してるんだからさ!普通の日本語も書けないといかんでしょ!いや、いっそ英語でもいいじゃん!留学生なんだからさ!きっと相手も気になって翻訳してくれるよ!」

 

「それじゃ、日本に来た意味がありません!日本男児は『侍』の子孫!侍さんとは正しい礼儀を持って付き合いたいんです!」

 

ダメだ、この人、早くなんとかしないと!完全に日本を勘違いしちゃってる典型的な「なんちゃって日本かぶれ外国人」の悪い方向に上位互換の方だ!異文化交流どころじゃない!

 

「私もこの国に来てからサムライに一度もあってないわね。町に一人くらいはいそうだと思っていたのだけれど」

 

部長まで盛大に勘違いしてらっしゃる⁉︎いないよ!時代の最先端を行く現代日本にサムライなんて道端歩いてないって!見つかったら銃刀法違反ですぐ逮捕だから!道端で辻斬りしてそうな方はこの部屋にいるけどさ!

 

「これでは、これも意味がないかもしれませんね」

 

そういってスーザンが出したのは弓と矢。弓の弦を引きながらスーザンは嘆息した。

 

「矢文⁉︎スーザン!その格好で弓矢持ってたら即逮捕だよ!ただでさて、補導待った無しの格好してるんだから!」

 

「そうですか…………矢文は日本ではトレンドな事だと思っていたのですが」

 

「うん。数百年前ならトレンドだったんじゃないかな。時代が違うよ、今は平成、戦国じゃないの。タイムマシンがあるなら、いの一番にスーザンを正しい時代に送り届けたいくらいだよ」

 

この子は何も悪くない。ただ生まれてくる時代と国を間違えてしまっただけだ。

 

頭を抱える俺の横で部長が溜息を吐く。

 

「仕方ないわね。徹夜でラブレターの書き方を教えてあげましょうか」

 

こうして俺達は書状しかかけない日本かぶれ外国人サムライガールにラブレターの書き方を教える羽目になった。事あるごとに文面が戦国時代にタイムスリップするので泣きたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、俺と部長と智代はとある公園の一角にいた。

 

何故智代がいるのかというと興味本位らしい。そりゃこんなぶっ飛んだ趣向の持ち主が誰かに告白するともなれば興味は湧くよな。第三者目線からしてみれば。

 

俺たちの目の前には何かの家紋が刺繍されている幕とのぼりが設置された本陣。その中央にはスーザンがいた。もちろん鎧武者の格好で。

 

今の格好はともかく、ラブレターは無事に書き終わり、それを意中の相手に渡せたらしい。一体どうやって渡したのか気になるが、取り敢えずはどうにかなったようだ。

 

それでその意中の相手は今日返事をしに此処に来るらしいので、俺と部長に行く末を見届けて欲しいとの事。

 

とはいえ、告白場所に本陣置くってどうよ。これ、告白相手本当に来るのか?俺だったら遠巻きに様子見しか出来ないよ。

 

公園を訪れる子どもなんかが指差して親に聞いては「見ちゃいけません!」って言われてる。そんな光景初めて見たよ。通りすがりの老夫婦は時代劇のロケと勘違いしてるし。そりゃそうだな。初見なら俺もそう思う。

 

しかし、スーザンの意中の相手はどんな人間なのだろうか?やはり戦国武将のような豪快な容姿をした男なのか?

 

「来たみたいだわ」

 

部長の視線を追うと、離れたところから人影が近づいてくる。

 

ガシャンガシャン。

 

あれ?おっかしーな。何で鉄の擦れる音がするんだ。

 

「なあ、智代。あれ………」

 

俺の視界の先、現れた男は右手にランス、左手に盾。西洋甲冑を身に纏ったフルフェイスの鉄兜をつけた誰かだった。

 

「こちらが戦国時代の武将なら、彼方は中世の騎士か。なんというか、想像通りだな」

 

はぁぁぁぁぁああああああ⁉︎

 

時代錯誤ヤローがもう一人いやがった!いや、確かにスーザンの事を考えると割と妥当だけどな!でも、そりゃないだろ!お前らあれか!侍vs騎士がしたいのか!やっぱりただの死合いじゃねえか!

 

「ぶ、部長、智代…………俺、頭痛くなってきた………」

 

「関係者としては頭が痛いが、見ている此方としては楽しいぞ。色んな意味で凄まじい光景だからな」

 

「我慢なさい。ああ、凄いわ、武者と騎士のコラボレーションね」

 

「こんな公園の一角で見る光景じゃないっスけどね」

 

こういうのはテレビの中だけで間に合ってる。誰もリアルで見たかねえよ………って、よく見たら鉄兜に矢が刺さってる⁉︎脳天直撃の即死コースだよ!必殺必中されてるよ!

 

「スーザン!もしかして……」

 

「はい。色々考えた結果、やはり矢文以外の渡し方が出来ませんでした」

 

「手渡せぇぇぇぇ!もっと知恵を振り絞れ!郵便とかあんだろ!あれじゃ本当にアタックじゃねえか!即死攻撃!好意じゃなくて殺意しか感じねえよ!立派な傷害事件だよ!あの手に持ってるランスって、反撃の為に持ってきたんじゃないのか⁉︎」

 

「イッセー、落ち着け。高血圧で死ぬぞ」

 

「わかってる!わかってるけどツッコまずにはいられないんだ!」

 

こんなボケが鎧着てるような人には俺の鍛えられしツッコミ精神が黙っていない。つーか、何故部長も智代も平然としてるの?俺か?俺がおかしいのか?

 

そんなこんなしている内に騎士はスーザンの本陣へと乗り込み、目の前に立ち尽くす。それに合わせてスーザンも立ち上がった。

 

異様な空気が辺りを包み込む。二人の放つ覇気によって空間が歪んで見えそうになった。この場面だけ見たら全世界の人間誰が見ても告白のシーンだなんて思うまい。正答率ゼロパーセントの超難関問題だ。

 

騎士がランスを地面に突き刺し、懐から手紙を取り出した。

 

「……この手紙、読ませてもらったよ……」

 

「は、はい………」

 

「素敵な矢文だった。僕ともあろう者が、隙を取られて射抜かれるなんて………大した弓矢だね……」

 

「そ、そんな、私はただ夢中で射抜く事しか考えていませんでした……堀井くん」

 

夢中で射抜くって、殺す気満々の台詞じゃねえか!しかも騎士さんの方も頭おかしいんじゃねえの⁉︎殺されかけてるのに素敵とか!しかも西洋甲冑着けてるのに堀井くんかよ!ジャパニーズかよ!

 

「ぼ、僕でよかったら、キミとお付き合いしたいな……」

 

「ほ、堀井くん……良かった……うぅ……」

 

「スーザン……」

 

おそらく泣いているであろうスーザンを優しく抱き締める堀井くん。これが甲冑や鎧抜きなら感動的なシーンだというのに……何故だろう。俺には取っ組み合いをしているようにしか見えない。

 

「手紙に書いてあった『五輪の書』について語り合おうよ」

 

「はい。堀井くんと宮本武蔵の二天一流をお話ししたかったんです……」

 

武者と騎士は手を取り合い、何処かへ歩き出した。

 

「お二人とも、ありがとうございました!」

 

スーザンは俺達へ手を振る。それに部長は笑顔で対応し、智代も何処と無く納得したような表情だった。こんな光景でも笑顔でいられる部長には本当尊敬します。俺には多分一生無理です。

 

こうして俺の目の前で変態カップルが誕生してしまった。

 

「なあ、智代」

 

「なんだ?」

 

「俺、恋人は凄くマトモな人間にするって誓うよ。出来れば智代もそうしてほしい」

 

「?よくわからないがマトモである事に越した事はないと思うぞ。それに私とてそんな特殊な人間じゃない」

 

わかっているが、聞かずにはいられない。もし智代が特殊な趣味を持つ人間を彼氏にしてたら俺ぶっ倒れるかもしれない。いやぶっ倒れるな。下手すりゃショック死するかも。

 

その後、俺の元へ仲睦まじい鎧武者と甲冑騎士の様子を収めた写真が送られてきた。持ってたら呪いとかありそうで思わずお寺に供養しに行ってもらおうかとした俺は悪くない。

 

余談だが、先日テレビで鎧武者と甲冑騎士の怨霊についての特番をしていた。どうやら二人は夜にあれを着込んだまま、デートをしているらしい。

 

そしてあの願いの代価は堀井くんの持っていたランスで、スーザンのお城の模型同様、部屋の片隅に飾られている。


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