銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(新版)   作:甘蜜柑

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第六章:解放軍司令官エリヤ・フィリップス
第55話:史上最大の作戦 797年11月中旬~12月中旬 第三六機動部隊司令部~車の中~モードランズ演習場


 平たく言うと、「槌と金床作戦」と「ラグナロック作戦」のどちらを支持するかは、戦果を取るかコストを抑えるかの問題である。

 

 一一月中旬の世論調査によると、同盟市民の七二パーセントが出兵を支持している。出兵支持派のうち、三八パーセントが「槌と金床作戦を支持する」、三四パーセントが「ラグナロック作戦を支持する」、二五パーセントが「どちらでもいい」、三パーセントが「わからない」と答えた。戦果とコストの間で揺れ動いていたのだ。

 

 一一月二〇日、大手人権団体「銀河人権救済協会」のホームページにおいて、ブラウンシュヴァイク公爵の肉声入り動画が公開された。

 

「最近は賤民も生意気になった。誰のおかげで生きていられると思っているのだ。我々貴族が生かしてやってるのだぞ」

「病人や老人は家畜より無益だ。貴族に奉仕できぬ者に生きる価値などない」

 

 ブラウンシュヴァイク公爵にとって、このような発言は気楽なおしゃべりの一部でしかない。取り巻きも笑いながら同調する。

 

 この時、同盟市民はブラウンシュヴァイク公爵の本性を初めて知った。初代皇帝ルドルフを神聖視する「保守派」の領袖なのは知られていても、治安・情報部門で出世してきたことから、対外的な発言はほとんどない。せいぜい「傲慢なんだろう」ぐらいにしか思っていなかったのだ。

 

 一一月二二日、亡命者による反帝国組織「全銀河亡命者会議」は、ブラウンシュヴァイク公爵領における人権侵害の実態を暴露した。ブラウンシュヴァイク公爵領内では、史上最悪の悪法「劣悪遺伝子排除法」が厳しく適用されており、障害者・遺伝病患者・同性愛者・社会不適合者が迫害されているという。

 

 内部文書に書き連ねられた差別発言、画像に写った虐待・拷問・処刑の様子は、同盟市民の常識からは考えられないものだった。ある者は怒り狂い、ある者は恐怖に凍り付き、ある者は悲しみの涙を流し、ブラウンシュヴァイク公爵の蛮行を許さない空気が生まれた。

 

 人権団体、障害者団体、同性愛者団体は、進歩党に槌と金床作戦を支持しないよう求めた。受け入れられない場合は選挙支援をやめるという。

 

 進歩党は窮地に追い込まれた。リベラル層の間では現実路線への不満が高まっており、尖鋭的な反戦市民連合に票が流れている。そんな時にマイノリティ票を失うのはまずい。

 

 結局、槌と金床作戦は破棄された。シトレ派の一部には「一番犠牲の少ない方法だ」と擁護する者もいた。だが、レベロ財政委員長が進歩党幹部の中でいち早く支持を撤回し、発案者のヤン中将が取り下げる意向を示したことにより、槌と金床作戦を推す動きはなくなった。

 

 統合作戦本部はすぐに代替案を提示した。今度はリヒテンラーデ=リッテンハイム連合と同盟するというのだ。ところが、リベラル系市民団体「司法民主化センター」が『銀河帝国の司法について』と題されたレポートを公表し、大審院長時代のリッテンハイム公爵を非民主的な裁判官の事例にあげた。

 

「優等人種と劣等人種の性交は獣姦罪とみなす」

「電車内における身分別座席の設置は義務である」

 

 帝国の最高裁長官にあたる人物がこんな裁定を下したことに、同盟市民は驚いた。統合作戦本部の案は論外だと思われた。

 

 一方、冬バラ会のフォーク准将やホーランド少将らは、メディアに登場したり、政府や軍部の要人と面談するなどして、ラグナロック作戦の意義をアピールする。

 

 マスコミはラグナロック作戦の支持に回った。リベラル系は「人権抑圧を許すな!」、保守系は「戦いを終わらせる時が来た!」、強硬派は「悪の帝国を打倒せよ!」と訴える。フェザーン系や反戦派系は出兵反対の論陣を張ったが、賛成派マスコミの声にかき消されてしまう。

 

 政界はほぼラグナロック作戦支持で固まりつつある。国民平和会議(NPC)の六派閥のうち、オッタヴィアーニ派、ドゥネーヴ派、ムカルジ派は積極的支持、ヘーグリンド派とバイ派は消極的支持で、トリューニヒト派だけが反対している。進歩党はグレシャム最高評議会副議長ら右派が支持、レベロ財政委員長ら左派が反対に回り、完全に二分された。最大野党の統一正義党は支持、野党第二党の反戦市民連合は反対した。

 

 これだけの工作をアンドリューやホーランド少将にできるはずもない。ロボス元帥やアルバネーゼ退役大将の人脈によるところが大きかった。

 

 一二月二日、最高評議会はラグナロック作戦の議会提出を決定した。反対したのは進歩党左派のジョアン・レベロ財政委員長とホワン・ルイ人的資源委員長の二人のみだった。

 

 一二月三日、上院と下院は賛成多数でラグナロック作戦を可決した。トリューニヒト派、進歩党左派、反戦市民連合の他、リベラル系群小野党が反対票を投じた。

 

 司令官室のテレビが俺にこのニュースを教えてくれた。こうなるのがわかっていても、がっくりきてしまう。

 

 ジョルジュ・ボナール最高評議会議長がスピーチを始めた。いつも通り、スピーチライターの書いた原稿をただ読み上げるだけの退屈な内容。記者の質問に対しても、官僚に吹き込まれたと型通りの答えを返す。

 

 ボナール議長の会見が終わり、グレシャム副議長、ネドベド国防委員長の会見が行われた。どちらもそれほど面白みのある内容ではない。

 

 ジョアン・レベロ財政委員長は疲れきった表情でカメラの前に現れた。

 

「理解が得られませんでした。残念です」

 

 簡潔ではあるが、表情と声色に無念さがにじんでいる。かなり激しくやり合ったのだろう。この一言には、一〇〇の美辞麗句でも語り尽くせぬものがあった。

 

 次にコーネリア・ウィンザー法秩序委員長がマイクの前に立つ。穏健派の若手政治家で、ラグナロック作戦を最も熱烈に支持した人物だ。

 

「アーレ・ハイネセンがアルタイルの流刑地から脱出してから三二四年が過ぎました。ついに民主主義が圧制者を倒す時がきたのです」

 

 ウィンザー委員長は儀式の始まりを宣言した。

 

「ゴールデンバウムの帝国を打倒し、人類を圧制から解放する。その崇高な目的のために私たちは三二四年間戦い続けてきました。これから最終決戦が始まろうとしています。正義と悪の最終決戦です。正義の軍が赴くところ、人々は先を争うように起伏し、悪は粉砕されるでしょう。私、コーネリア・ウィンザーはこの戦いを支持した。皆さんにその事実を伝える機会を与えられたことを誇りに思います」

 

 彼女の言葉は単なる美辞麗句であるが、透き通った声と計算された抑揚が荘厳さを醸し出す。トリューニヒト議長のスピーチを軽快なポップスとすると、ウィンザー委員長のスピーチは美しい聖歌だろう。

 

 最高評議会メンバーの会見が終わった後、ヨブ・トリューニヒト下院議長が画面に現れた。去就が最も注目される人物だ。

 

「私は愛国者です。しかし、愛国心の有無と軍事行動への支持は別の問題であると考えます」

 

 トリューニヒト議長は主戦派の立場と出兵反対が矛盾しないと強調する。強硬論を唱えつつ全面戦争を回避することの難しさが、この一言に凝縮されていた。

 

 次は全銀河亡命者会議本部へと画面が切り替わった。記者会見の席に現れたのは、高級スーツを着こなした初老の紳士だ。

 

「これより、全銀河亡命者会議副代表クリストフ・フォン・バーゼル氏の記者会見が……」

 

 バーゼルの顔など見たくもない。俺は即座にテレビを消した。

 

「どうして消すんですか」

 

 最先任下士官カヤラル准尉とバダヴィ曹長がむすっとする。

 

「嫌いだから」

「バーゼルさんは素敵な紳士ですよ」

「嫌いなものは嫌いだ」

 

 それだけ言うと、俺は「司令官専用」と書かれたクッキー缶に手を突っ込み、菓子を鷲掴みにした。糖分を補給しないとやってられない。

 

 バーゼルは大物亡命者だ。かつては男爵家当主で、帝国宇宙軍中将や大手星間運輸企業「オスターヴィーク・ラインズ」の社長を歴任した。レーヴェからもらった資料によると、帝国側サイオキシンマフィアのナンバースリー「シュネー・トライベン(吹雪)」と同一人物である。七九四年の時点では流通部門のトップを務めていた。三億帝国マルクの隠し資産を持ち、一〇〇件以上の殺人に関与したとみられる。ボスのカストロプ公爵が死ぬと同盟に亡命した。

 

 麻薬まみれのバーゼルが同盟で人気者になった。ハンバーガーやコーラが大好きで、なまりのない同盟語を話し、同盟の歌謡曲を何十曲も歌えるところが「同盟人より同盟人らしい」と喜ばれたのだ。それに加えて、悲運の名将カイザーリング元帥の親友である。ボスの盟友アルバネーゼ退役大将からは後押しを受けた。こうしたことから、亡命してから一年で全銀河亡命者会議副代表に抜擢された。

 

 全銀河亡命者会議はラグナロック作戦の隠れた主役である。冬バラ会とともに世論誘導の実行部隊を務め、本戦では反体制派との交渉や解放区統治を担当する。バーゼルは解放者として祖国に凱旋するわけだ。

 

 これほど気が進まない戦いも珍しい。選挙対策の出兵なんていつものことだ。国内を安定させるためと思えば我慢もできる。だが、麻薬の売人のために血を流すのはごめんだ。

 

「フィリップス提督、D分艦隊司令部より連絡が入りました。これより会議を開くとのことです」

 

 副官コレット大尉が不毛な思索を終わらせた。

 

「わかった。すぐに出る」

 

 俺は急いで菓子を食べると、コレット大尉と副官付のカイエ伍長を連れて司令官室を出た。うんざりしている暇はない。俺は軍人なのだ。

 

 

 

 公用車に乗り込むと、いつものように新聞五紙に目を通した。司令部にいる間は書類以外の物を読む暇がない。そのため、移動時間に新聞を読む。

 

「申し訳ありません、時間までに到着しないかもしれません」

 

 司令官専属ドライバーのジャン・ユー曹長が頭を下げる。

 

「どうした?」

「渋滞に巻き込まれました。信号が止まってるんです」

「またか。先週も止まってただろう」

 

 俺は真っ暗な信号を見た。最近は何でも良く止まる。停電や断水も多い。

 

「オペレーターが一〇代のパートと七〇歳以上の嘱託ばかりですからねえ」

「その中間がいないんだよなあ」

 

 二年前、俺は辺境で少年と高齢者しか働いていない店をいくつも見た。働き盛りの人々がみんなハイネセンに出稼ぎしていたからだ。しかし、昨年からハイネセンでも似たような状況が見られるようになった。

 

「進歩党の先生が『軍隊が人材を抱え込んでるせいだ』と言ってましたね」

「ああ、ホワン先生の持論だよ」

 

 俺は『ハイネセン・ジャーナル』紙を開いた。ホワン・ルイ人的資源委員長が「同盟経済は崩壊しつつある。熟練労働者が不足しているからだ」「後方部門に徴用されている技術者五〇〇万人を民間に回せ」と主張したとの記事が載っていた。

 

「実際のところ、どうなんですか?」

「二つの説があるね。まずは――」

 

 俺は先にホワン委員長が依拠する説を紹介した。その説は熟練労働者不足の原因を対帝国戦争に求める。肥大化した軍隊が熟練労働者を抱え込むようになった。また、国防予算が教育予算を圧迫しているために十分な教育ができなくなった。軍隊の規模を縮小し、熟練労働者を労働市場に供給しなければ、同盟経済は崩壊するというのだ。

 

「つまり、彼らは熟練労働者の供給量を問題にしてるんだ。公共部門を縮小し、民間に多くの資源を供給することで生産性の向上を図る。これはハイネセン学派経済学に共通する考え方だね」

「ハイネセン学派経済学って何です?」

「ハイネセン記念大学出身の経済学者が作った学派。三〇年前から同盟の経済財政政策をリードしてきた。政治家になる前のレベロ先生はハイネセン学派の経済学者だった」

「進歩党お得意の予算削減なんかとも繋がってるんですかい?」

「根っこは同じだよ。政府が使うお金を減らして、民間が使えるお金を増やし、生産性の向上を図る」

「へえ、そういう道理なんですなあ」

「違う説もある。こちらは――」

 

 今度はトリューニヒト派が支持するワトソン経済学派の説を紹介した。その説によると、対帝国戦争はむしろ熟練労働者不足を防いでいる。長引く不況の中、民間企業は短期雇用のパートを使い捨てるようになり、熟練労働者が育たなくなった。公共部門も高給取りのベテランを解雇した。今の同盟で熟練労働者にしかるべき待遇を与えられるのは軍隊だけだ。仮に熟練労働者を民間に戻したら、能力に見合わない低待遇で働かされるか、「高給取りはいらない」と避けられる結果に終わるという。

 

「こちらは需要を問題にしてる。民間が求めているのは安く使い捨てられる人材であって、熟練労働者を雇うつもりがないってことだ」

「ここ数年は軍隊もそうなってますな。ベテラン下士官を首にして、中卒の志願兵に難しい仕事をさせてます」

「レベロ軍縮で三五歳以上の下士官がごそっといなくなったからね」

「感覚としてはワトソン説も分かるんですが。どっちが正しいんですかね?」

「そうだなあ。あくまで俺の個人的な意見として聞いて欲しいんだが」

 

 まずは労働者の数から考える。同盟軍の正規兵力は五五〇〇万。これは総人口一三〇億八〇〇〇万の〇・四二パーセントにあたる。働き盛りの二〇代から六〇代は、総人口の六二パーセント。この年代の平均失業率は一三パーセントで、一〇億人以上が失業状態だ。この中には民間企業や公共部門からリストラされたベテランも多数含まれる。熟練労働者の絶対数が足りないなんてことはない。

 

 今度は労働者の質から考える。四年制大学及び二年制専修学校卒業者の数は、この一〇年で緩やかに減少している。非正規労働者はこの一〇年で総労働人口の三割から四割に増加した。年代別で見ると、一〇代と七〇代で非正規労働者が増加している。教育水準の低下、正規雇用の減少が熟練労働者の再生産を妨げているのが分かる。

 

 最後に賃金水準から考える。一〇年前と比べ、賃金水準は九パーセント低下した。年齢別に見ると、三〇代と四〇代の低下が最も大きい。つまり、勤続一五年以上の中堅に対する待遇が悪化しているのだ。

 

 これらの数字から判断すれば、この国の雇用者は熟練労働者を雇う気がないように思える。そして、新しく育てる気もない。

 

「不足しているのは熟練労働者の供給量でなくて需要だと思う。未成年は経験が少ない。老人には年金がある。どっちも賃金が安くても文句を言わないから、雇われやすいんだ」

「じゃあ、ホワン先生は間違ってるんですか?」

「ハイネセン学派経済学の立場では間違ってない。彼らは長期雇用に否定的でね。労働者は一つの職場に縛り付けられるのでなく、自由に転職するべきだと考えている。そうすれば、労働者には適切な働き場所が見つかり、企業は余剰人員を抱えることがなくなり、生産性が向上するってね。ホワン先生から見たら、熟練労働者が軍隊に縛り付けられているのは非効率で、民間で短期雇用される方が効率的になる。短期雇用だったら雇用者も喜んで熟練労働者を雇う」

「短期雇用を増やしたいってことですか。すっきりしない話ですなあ」

 

 ジャン曹長の声に少し苦味が混じる。

 

「熟練労働者を労働市場に供給するという目的は達成できる」

「待遇を良くすりゃあいいでしょう」

「この景気じゃ難しいな。財政委員会は締め付け一本槍だし」

「結局、戦争が続いてる間はどうにもならんのですか」

「そうだね。今はとにかく金がない。ワトソン派は分析としては正しいけど、解決策にはならないね。熟練労働者を非正規にしてしまえというホワン先生の策は非情だ。けれども、人材不足は解消できる」

「いやあ、実にわかりやすい説明でした。士官学校ではそういうことも勉強するんですなあ。兵隊あがりには経済なんてさっぱりです」

 

 ジャン曹長は俺のことを士官学校卒と勘違いしていた。何度訂正しても間違える。

 

「俺も兵隊あがりだよ。参謀になってから勉強した」

「なるほど。提督になる人はものが違います」

「ありがとう」

 

 ドライバーとの会話を終えた俺は右を向いた。すると、コレット大尉が何やらメモしているのが見えた。

 

「何をメモしてるんだ?」

「閣下のおっしゃったことを書き留めようと思いまして」

 

 想像もしない答えが返ってきた。

 

「どうして?」

「勉強になりますから」

「士官学校で勉強しただろうに」

「ほとんど勉強しなかったんです。単位は実技で取りました」

「意外だな」

 

 俺はコレット大尉の顔をまじまじと見た。かつての愚鈍そうな感じはかけらも無い。仕事のできる大人の女性そのものだ。

 

「不真面目でしたから」

「君は自分に厳しすぎるな。君が不真面目なら同盟市民一三〇億人全員が不真面目だ」

 

 俺はそう言うと、メモ用紙を取り出して一〇冊ほどの本の名前を書き込んだ。

 

「さっき話したことはすべてこの本に書いてある。俺の話を聞くより、本を読んだ方がずっと勉強になるぞ」

「わざわざありがとうございます」

「わからないことがあったら、参謀長か後方部長に聞くといい。あの二人は俺よりずっと経済に詳しいから」

「かしこまりました。携帯端末を使わせていただいてよろしいでしょうか?」

「構わないよ」

「恐れいります」

 

 コレット大尉は携帯端末を開いて文字を打ち込む。本をネットで予約しているのだろう。俺が本の題名をあげて「これを読め」と言うたびに、彼女はそうする。

 

「しかし、このままでは埒があきませんな。ピタリとも動かんですよ」

 

 声をかけてきたのはジャン曹長だった。

 

「まいったな。これじゃ九時三〇分の便に間に合わない」

「金をケチって時間を無駄にするなんて、本末転倒ですわ」

「まったくだ。最近は何をするにも時間がかかる」

 

 時間は金で買うものだ。最近の社会基盤の劣化はそのことを教えてくれる。旅客機やリニアの遅れが酷い。三年前までは一週間ほどで届いた恒星間宅配便が、最近は二週間近くかかる。消防車や救急車の現場到着時間が三年前の二倍以上に伸びた。

 

「よその国を攻めてる場合ですか? ますます人手が取られちまいます」

「さっきも言った通り、人手は余ってる。人を雇う金が足りない」

 

 俺はハイネセン・ジャーナルを折りたたみ、『シチズンズ・フレンズ』を開く。昨日の閣議で交わされた議論の一部が掲載されていた。

 

 グレシャム副議長が紙幣の大量増刷を提案すると、レベロ財政委員長は「インフレが起きる」と反対した。どの新聞もレベロ財政委員長を支持し、グレシャム副議長を経済音痴と批判するが、シチズンズ・フレンズだけは違った。グレシャム案を「レベロよりよほど現実的」と評価する。

 

 ワトソン派の観点では、今の同盟経済に足りないのは供給ではなくて需要だ。そして、需要不足には通貨供給量を増やすのが有効なのである。どんな方法でもいいから金を作って、人を雇ったり物を買ったりすればいいということだ。しかし、歴史的に見ると、この種の政策はハイネセン学派が言うように、インフレ率を制御しきれずに失敗することが多い。

 

「金を作って人を雇うのもありだけど、解決するとも限らないんだよなあ」

「私にゃあさっぱりわかりません」

「とにかく、今後は人手不足が酷くなるってことだよ。人を雇うのに使われるべき金が、遠征に使われるから」

「アイランズ先生がそんなことを言っとりましたな」

「トリューニヒト派の政治家はみんなそう言うよ」

 

 俺はシチズンズ・フレンズをペラペラとめくる。政治面には「遠征する金があったら兵員を増やせ」、経済面には「軍拡と公共事業で景気回復せよ」といったことが書かれていた。

 

 他の新聞はどうかというと、政治面には「遠征にかかる金は一年分の軍事費と同じ。それで戦争が終わるなら安い投資だ」、経済面には「戦争終結と大軍縮こそが景気回復の近道だ」と書いてある。

 

「ややこしいことはわかりませんけどね。こいつをどうにかしてほしいもんです」

 

 ジャン曹長が窓の外を見ながら嘆く。そこには長蛇のような車の列がある。同盟社会の停滞を象徴するように見えた。

 

 

 

 ラグナロック作戦が可決されてから一週間が過ぎた。銀河情勢はめまぐるしく動いている。

 

 ニブルヘイム総軍司令官ローエングラム元帥は、作戦方針を巡って中立派諸将と対立したことから帝都へ召喚された。後任には文官のワイツ男爵が就任する。ワイツ男爵は寒門出身ながらリヒテンラーデ公爵に重用された人物で、エルウィン=ヨーゼフ帝が即位すると同時に男爵に叙された。この人事によってニブルヘイムの防衛体制は盤石になったとみられる。

 

 リヒテンラーデ=リッテンハイム連合は、ブラウンシュヴァイク派に和解を申し入れた。だが、エルウィン=ヨーゼフ帝とエリザベート帝のどちらが退位するか、官職をどのように配分するかで折り合いがつかず、物別れに終わった。

 

 フェザーンのルビンスキー自治領主は静観の姿勢を崩さない。しかし、自治領財務総局が「同盟経済の先行き不透明」を口実に、同盟政府との債務繰り延べ交渉の一時中止、軍事国債の購入停止を決めた。その一方でリヒテンラーデ=リッテンハイム連合に二〇兆帝国マルク、ブラウンシュヴァイク派に一五兆帝国マルクの「人道援助」を行った。

 

 同盟政府はラグナロック作戦の経費として臨時予算を組んだ。総額は一二兆ディナール。国家予算の一割、年間国防費の二割にあたる。フェザーンの経済進出を嫌う同盟の旧財閥、フェザーン財界の新興勢力、一〇大財閥内部の反ルビンスキー派などが、軍事国債の引き受け先となった。

 

 一二月一〇日、国防委員会はラグナロック作戦の陣容を公表した。

 

 総司令官は宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス宇宙軍元帥。四年前までは同盟軍最高の名将だったが、最近は衰えが目立つ。万事に無気力で、大胆さは粗雑さに、迅速さは優柔不断に取って代わられたと評判だ。市民の間には不安視する声がある。

 

 総参謀長は宇宙艦隊総参謀長と統合作戦本部作戦担当次長を兼ねるドワイト・グリーンヒル宇宙軍大将。堅実かつ緻密な手腕が持ち味である。シトレ派であるがロボス元帥とも親しく、その他の派閥との関係も悪くない。調整役として欠かせない存在だ。

 

 作戦主任参謀はステファン・コーネフ宇宙軍中将。士官学校を首席で卒業して以来、ロボス元帥以外の上官を持ったことがない生粋のロボス派で、ロボス・サークルの中心人物だ。戦略戦術の理論にかけては右に出る者がいない。大雑把な上官を理論面から補佐する。

 

 情報主任参謀はカーポ・ビロライネン宇宙軍少将。ロボス・サークルではコーネフ中将に次ぐポジションにいる。エル・ファシル義勇旅団の実務面を取り仕切り、宇宙艦隊情報部でも抜群の手腕を示した。実務能力と調整能力を兼ね備えた実務型の参謀である。

 

 後方主任参謀はアレックス・キャゼルヌ宇宙軍少将。シトレ元帥の次席副官と統合作戦本部事務局次長を兼ねており、出向者として司令部に身を置く。自他ともに求める同盟軍後方部門の第一人者である。前の世界ではヤン・ウェンリーやユリアン・ミンツの後方支援を取り仕切った。彼をおいてこの大軍の兵站を取り仕切れる人物はいない。

 

 コーネフ作戦主任の下には五人の作戦参謀、ビロライネン情報主任の下には三人の情報参謀、キャゼルヌ後方主任の下には三人の後方参謀がそれぞれ配属される。各参謀は少将から代将の階級を持ち、佐官級や尉官級の士官が配属される。各参謀が副主任参謀、補佐士官が平参謀と考えると分かりやすい。作戦参謀は全員冬バラ会のメンバーだ。ラグナロック作戦を立案したアンドリュー・フォーク准将も作戦参謀の一人となる。

 

 専門幕僚部門としては、通信部、総務部、広報部、経理部、法務部、衛生部、監察官室、政策調整部が設置される。政策調整部は宣撫を担当する部署で、民間から士官待遇軍属として登用された人々で構成される。

 

 遠征軍の宇宙部隊主力としては、宇宙艦隊所属の一一個艦隊のうち、国内防衛に従事する第一艦隊、レグニツァの傷が癒えていない第二艦隊と第一二艦隊を除く八個艦隊が動員される。

 

 第三艦隊は七九三年のタンムーズ戦役以降、一度も会戦に参加していない。そのため、損耗を被らずに練度を積み上げてきた。司令官のシャルル・ルフェーブル宇宙軍中将は、士官学校出身ながら一度も幕僚勤務を経験していない生粋の軍艦乗りである。定年直前に史上最大の作戦に参加することとなった。

 

 第五艦隊は昨年までビュコック大将のもとで活躍した。司令官の「黒鷲(ブラック・イーグル)」ウランフ宇宙軍中将は、勇気・知略・人格を兼ね備えた名将だ。その性格は軍人というより武人であり、大きな戦いになるほど力を発揮する。

 

 第七艦隊は第六次イゼルローン遠征で要塞に肉薄した。司令官のイアン・ホーウッド宇宙軍中将は、ロボス元帥のもとで長らく作戦参謀を務めた。理詰めで合理的な用兵に定評がある。次期宇宙艦隊総参謀長の有力候補だ。

 

 第八艦隊は正規艦隊で随一の練度を誇る。司令官のジェニファー・キャボット宇宙軍中将は、ロボス流用兵を最も忠実に受け継いだ。その戦いぶりは大胆にして華麗。全盛期のロボス元帥をほうふつとさせるとの評もある。

 

 第九艦隊は昨年まで名将ウランフ中将で武勲を重ねた精鋭だ。司令官のジャミール・アル=サレム宇宙軍中将は兵站の専門家である。豪勇や奇計の持ち主ではないが、手堅くて隙がない。

 

 第一〇艦隊は第六次イゼルローン遠征でラインハルトを追い詰めた。司令官のハリッサ・オスマン宇宙軍中将は、昨年末に第五艦隊副司令官から昇格した。頭脳の中には古今の戦略戦術が詰まっており、臨機応変に引き出すことができる。彼女もまた次期宇宙艦隊総参謀長の有力候補である。

 

 第一一艦隊は第三次ティアマト会戦で主力艦隊司令官を打ち取る殊勲をあげた。司令官のフィリップ・ルグランジュ宇宙軍中将は、柔軟性を欠くが屈指の勇猛さと統率力を有する。前の世界では非業の死を遂げたが、この世界では遠征軍の先鋒という栄誉を与えられた。

 

 第一三艦隊はイゼルローン攻略部隊を中核として新たに編成された。司令官のヤン・ウェンリー宇宙軍中将は、同盟軍の生きる伝説である。エル・ファシルとイゼルローンでの功績は不朽といっていい。彼の頭脳からどんな奇計が飛び出すのか? 一三〇億市民は期待の目で見詰める。

 

 これにハイネセン駐留の独立部隊、地方警備部隊から選抜された部隊、即応予備役部隊などが加わり、遠征軍宇宙部隊を構成する。

 

 今回の出兵においては、有人惑星での戦闘が想定される。そのため、地上総軍所属の八個地上軍のうち、国内防衛に従事する第一地上軍、対テロ作戦を遂行中の第五地上軍を除く六個地上軍が動員される。地上軍は三個陸上軍、一個水上軍、一個航空軍からなる地上戦闘部隊だが、最低限の宇宙戦力も持つ。

 

 六個地上軍にハイネセン駐留の独立部隊、地方警備部隊から選抜された部隊、即応予備役部隊が加わり、遠征軍地上部隊を構成する。

 

 これらの部隊は第一統合軍集団、第二統合軍集団、第三統合軍集団に三分された。「統合」の名の通り、宇宙軍と地上軍の合同部隊だ。部隊単位としては、方面軍相当の艦隊・地上軍より上で、総軍よりは下という位置づけになる。

 

 第一統合軍集団には、第五艦隊・第一一艦隊・第一三艦隊の三個艦隊、第四地上軍・第七地上軍の二個地上軍、その他の軍級・軍団級・師団級の部隊が配属される。軍集団司令官は第五艦隊司令官ウランフ宇宙軍中将、副司令官は第四地上軍司令官ベネット地上軍中将が務める。

 

 第二統合軍集団には、第三艦隊・第八艦隊・第九艦隊の三個艦隊、第二地上軍・第六地上軍の二個地上軍、その他の軍級・軍団級・師団級の部隊が配属される。軍集団司令官は第二地上軍司令官ロヴェール地上軍中将、副司令官は第三艦隊司令官ルフェーブル宇宙軍中将が務める。

 

 第三統合軍集団には、第七艦隊・第一〇艦隊の二個艦隊、第三地上軍・第八地上軍の二個地上軍、その他の軍級・軍団級・師団級の部隊が配属される。軍集団司令官は第七艦隊司令官ホーウッド宇宙軍中将、副司令官は第三地上軍司令官ソウザ地上軍中将が務める。

 

 総司令部はイゼルローン要塞から全体を統括する。配属された軍級・軍団級・師団級の部隊は、必要に応じて戦略予備として投入される。

 

 中央兵站総軍が補給・輸送・整備・通信・医療などの後方支援を担う。職業軍人だけでは必要な数を満たせないため、予備役軍人や傭兵も加わる。司令官はハンス・ランナーベック地上軍中将が務める。

 

 遠征軍の総人員は約三一六五万人、戦闘艦艇は約一三万隻、支援艦艇は約八万隻。それとは別に即応予備役二五〇〇万人に動員準備命令が下った。彼らは解放区が広がり次第、警備兵力として前線に送られる。

 

 人類史上でこれほど多くの軍隊が一つの作戦に動員された例はない。史上最大の作戦が本格的に動き出した。

 

 

 

 第三六機動部隊は今日も訓練に励む。励んでいない日など一日たりともないのだが、最近はよりいっそう励んでいる。

 

「これより、第三六一任務群と第三六二任務群の対抗訓練を実施する」

 

 俺の宣言とともに、マリノ大佐が指揮する第三六一任務群、ビューフォート大佐が指揮する第三六二任務群が展開した。この二つの任務群は司令官直轄部隊を二分した臨時編成部隊で、戦力的にはほぼ互角。用兵の差が勝敗を決するであろう。

 

 マリノ大佐は一点集中砲撃を加え、そこから一気に突破しようとした。だが、ビューフォート大佐は素早く部隊を動かして防御陣を組み直す。

 

「予想通りの展開ですね」

「そうだね」

 

 チュン・ウー・チェン参謀長の言葉に頷いた。攻撃型のマリノ大佐が攻め、迎撃戦に強いビューフォート大佐が守る。最初からこうなることを期待していた。

 

 戦場では一進一退の攻防が続く。あの手この手で突破しようとするマリノ大佐に、そうはさせじと食らいつくビューフォート大佐。二人とも勘と度胸を頼りに戦うタイプ。策を弄することはないが、反応の早さにかけては比類ない。見ているだけで小気味良くなってくる。

 

 結局、勝負は付かなかった。稼いだポイントはビューフォート大佐の方がやや多かったが、ほぼ互角と言っていいだろう。

 

 訓練が終わったら、事後検討会で今回の訓練の成功点、失敗点について話し合い、得られた教訓を全員が共有し、克服すべき課題を明確にした。帰るまでが遠足、事後検討会が終わるまでが訓練なのである。

 

「若さと勢いのマリノ大佐、経験と粘りのビューフォート大佐といったところでしょうか」

 

 チュン・ウー・チェン参謀長は、二人の用兵について論評した。イレーシュ副参謀長、ラオ作戦部長も同意する。

 

 第三六独立戦艦群司令ヘラルド・マリノ大佐は今年で三一歳。偏屈だが勇猛さと機敏さにかけては飛び抜けている。前の世界でヤン・ウェンリー配下の勇将として活躍した実績もある。期待の若手指揮官であった。

 

 第三六独立駆逐群司令アーロン・ビューフォート大佐は、三〇年の戦歴を誇るベテランで、俺とはエル・ファシル以来の付き合いだ。叩き上げ特有の粘り強さが持ち味である。

 

 部下を育てるのは指揮官の重要な仕事。シトレ元帥やロボス元帥も大勢の人材を育てた。現状戦力に満足することなく、新戦力の育成に務める。それが八〇の部隊を九〇まで高める秘訣だ。

 

「ホーランド少将から通信が入っております」

「繋いでくれ」

 

 副官コレット大尉に通信を繋ぐよう指示すると、上官ホーランド少将の顔が通信画面に映った。

 

「今日の訓練はどうだった?」

「多くの示唆が得られました。最初に失敗点から申しますと――」

 

 俺は事後検討会の結果、それについての所見をホーランド少将に報告する。

 

「ふむ。私が思うにだな。それについては――」

 

 ホーランド少将は俺の報告について思うところを述べる。

 

「ご指導ありがとうございます」

「貴官は良くやっている。次回はより良い成果が出ると期待しているぞ」

 

 敬礼を交わし合って通信を終える。このようにホーランド少将は事後検討会が終わったら、すぐに通信を入れ、部隊の状況を知ろうとする。常に最新の情報を把握していなければ気が済まないのだ。

 

 第三六機動部隊は面倒くさい人間が多かったが、部隊としての実力は本物だった。わずかな期間でホーランド流の高度な艦隊機動を習得した。

 

 もっとも、俺の指揮能力が部隊の練度に追い付いていない。機動部隊対抗演習では見事なまでの惨敗を喫した。

 

 一方、ホーランド少将の指揮能力は素晴らしいの一言に尽きる。分艦隊対抗演習において、ほんの三〇分で相手を敗走させてしまった。

 

「これでは演習にならん。もう少し手加減せんか」

 

 統裁官の第一一艦隊司令官ルグランジュ中将が渋い顔をした。

 

「軍人は二四時間三六五日、いつでも戦える心構えが必要。このウィレム・ホーランドが戦う時は常に実戦です」

 

 ホーランド少将は分厚い胸を反らして言い放つ。ルグランジュ中将とその幕僚は呆然とした。艦隊参謀長エーリン少将のみが平然としている。D分艦隊の半分は「その通り!」と視線で語り、残り半分は珍獣を見る目で上官を見る。

 

 俺は珍獣を見る目をしていた。ホーランド少将の言葉だけを切り取ると、いいことを言ってるように見えるが、状況を考えると明らかにおかしい。好き嫌いが分かれるのも納得だ。

 

「しかし、突撃専門のフィリップス准将をここまで柔軟に動かせるとはね。大したものだ」

 

 エーリン少将が出来の良い生徒を褒めるような言い方をする。

 

「古代フランスの英雄ナポレオンは言った。一頭の狼に率いられた百頭の羊は、一頭の羊に率いられた百頭の狼に勝ると。ナンセンスな比較だ。私が率いれば百頭の羊は百頭の狼になる」

 

 英雄譚の一節のようなセリフも、ホーランド少将が言うとさまになる。美男子というのは本当に得だ。

 

「どんな人材でも使いこなしてみせるということかな」

「私は無能な人材に会ったことがない。この世にいるのは、私に出会った人材とまだ出会っていない人材だけだ」

「ほう、大した自信だ」

「自信ではない。確信だ」

 

 どこまでも自信に満ち溢れたホーランド少将。言ってることは無茶苦茶なのだが、こうも堂々と言い切られると信じたくなる。

 

 かつて、ビューフォート大佐に「自信が付けば、あれこれ悩まずとも感覚で判断できるようになる」と言われたのを思い出した。自分で指揮した時とホーランド少将の指揮を受けた時の違いは、まさしく自信の有無だろう。

 

 ホーランド少将は冬バラ会に参加した見返りとして、全軍の先鋒にしてもらった。一方的に宿敵と思っているニブルヘイム総軍司令官ローエングラム元帥が更迭されたため、一方的に望んだ英雄対決は流れた。それでも、未だかつて無い気迫で臨んでいる。頭の中ではワルキューレの騎行が鳴り響いているのだろう。

 

「そんなことないよ」

 

 ダーシャが否定した。

 

「そうだよな。いくらあの人でもそこまでは……」

「ドヴォルザークの『新世界より』だよ。執務室でいつもかけてるもん」

 

 斜め上の答えだった。ホーランド少将はどこまでも予想を裏切ってくれる。

 

「あいつは一人だけ英雄譚の中で生きてんだよ。他人に嫉妬しても、悪口言ったり足を引っ張ったりしない。でかい武勲を立てて見返したいと思うだけ。健全っちゃあ健全だよ。馬鹿だけど」

 

 イレーシュ副参謀長は相変わらずホーランド少将に冷ややかだ。しかし、卑怯じゃないことは認めている。

 

 D分艦隊は全軍の先鋒で、D分艦隊の先鋒は第三六機動部隊が務める。とんでもないことに俺が全軍の先鋒を仰せつかった。ホーランド少将に理由を聞いたところ、「英雄が先鋒を務めるのは当然だ」と言われた。要するに知名度で選ばれたらしい。

 

 大義のない戦いでも手を抜けないのが俺だ。釈然としない気持ちを抱えながらも、訓練に精を出した。




多少構成を変えました
変更点
1.46話を第四章に編入しました
2.第五章は47話から始まります
3.53話を削除し、「神々の黄昏」が53話、「同胞と戦うよりは外敵と戦う方がずっとましだ」が54話になりました。
4.53話のヤン批判は52話の後段、53話の妹とのエピソードは54話の前段に移動しました
5.52話の訓練のエピソードは今回更新分に移動しました
6.神々の黄昏後半の経済談義は削除し、最新話の別のシチュエーションで経済談義をしています

変更点ではないですが
1.以前削除した結婚のエピソードは次回使います

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