銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(新版)   作:甘蜜柑

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第12話:賑やかな春、静かな夏、じゃがいもの秋 宇宙暦792年4月~11月 ハイネセンポリス~宇宙母艦フィン・マックール

 宇宙暦七九二年四月一三日、パランティア航路攻略を終えて惑星ハイネセンに帰還したエル・ファシル方面軍は、熱狂的な歓呼と喝采で迎えられた。

 

 市民は苦戦ぶりに怒っていたことも忘れ、司令官ラザール・ロボス宇宙軍大将と副司令官ケネス・ペイン地上軍中将にあらん限りの賞賛を浴びせた。とにもかくにも、敵の大軍を壊滅させた功績は、大きかったのである。深追いを避けたドラゴニア方面軍に対する不満も、エル・ファシル方面軍の評価を高めた。

 

「私は名将ではない。カイザーリング提督こそ真の名将だ。彼に私と同数、いや七割の兵力があれば、勝敗は逆転していたに違いない」

 

 ロボス大将は記者会見の席で敵将カイザーリング中将の健闘を称え、ペイン中将、ムーア少将、マクライアム准将らも同調した。これによって、二〇万人を越える戦死者を出した惑星エル・ファシル攻防戦は、偉大な敵を打ち破った誇るべき戦いへと昇華された。

 

 自由の夜明け作戦総司令官のアンブリス大将は、元帥に昇進すると同時に引退した。また、第三艦隊副司令官パエッタ少将、第三艦隊C分艦隊司令官ルフェーブル少将、第三艦隊参謀長ホーウッド少将、第一二陸戦隊司令官ムーア宇宙軍少将ら、古参の少将は中将に昇進した。その他にも多くの軍人が昇進や叙勲の対象となった。

 

 隊員五一四八人のうち八五五人が戦死、二〇七四人が重傷を負うという大損害を被ったエル・ファシル義勇旅団は、手厚い恩賞を受けた。義勇兵はみんな義勇軍階級より二階級低い正規軍階級を授与され、正規軍から義勇軍に出向した軍人は全員一階級昇進した。功績の大きい者に勲章や一時金が与えられたのは、言うまでもない。

 

 俺は宇宙軍少尉から宇宙軍中尉に昇進し、ハイネセン記念特別勲功大章など三つの勲章と一時金一万ディナールを与えられ、聖戦の英雄として脚光を浴びた。

 

 国防委員会は俺のために広報チームを組んだ。カメラマンのトニオ・ルシナンデス地上軍曹長、スタイリストのラーニー・ガウリ地上軍軍曹は、四年前からの付き合いだ。広報担当には、セルジオ・ヴィオラ宇宙軍少佐という人物が就任した。

 

 ヴィオラ少佐は、ユリアン・ミンツの回顧録に悪役として登場してくる。無能なヨブ・トリューニヒトの手先で、自分より二〇歳以上も年下のミンツに初対面で嫌味をぶつけるという狭量な人物だ。そのくせ能力は低く、帝国軍がフェザーンに攻めてくると、真っ先に逃げ出して真っ先に捕まった。どうしようもないの一言に尽きる。

 

 ロボス大将やフォーク大尉のケースから、前の世界と今の世界の違いは十分に弁えてるつもりだったが、悪役だった人物に先入観抜きで接するのは難しい。

 

 実際に接してみると、それほど悪い印象は受けなかった。広報の仕事に慣れていて、スケジュール管理やマスコミ対応をそつなくこなしてくれる。性格は目上に対して腰が低く、目下に対して頭が高いといった感じで、六〇年以上も人に頭を下げて生きてきた俺には苦にならない。それでも、悪印象を拭い去ることはできなかった。

 

 ヴィオラ少佐は病的なまでに肌が青白く、身長が高くて肥満しているが、贅肉で太っているというよりは、空気を入れて膨らませてるという感じがする。風船人間といった感じの体格が大嫌いな人物を思い出させるのだ。

 

 認めたくないが、アルマ・フィリップスは、俺の五歳年下の妹である。前の世界で逃亡者になる前は懐いていたくせに、捕虜交換で帰国すると掌を返したように冷たくなった。俺のことを生ごみと呼び、消毒スプレーをかけ、俺が触った物は「汚れた」と言ってその場でごみ箱に捨てた。俺が食事当番の日には、わざと外で食べた。

 

 この邪悪な妹が、ヴィオラ少佐のように長身で肥満した風船人間だった。四年前に会った時は、赤ちゃんのようにつやつやぷくぷくしていたが、いずれは前の世界と同じ風船人間になるだろう。

 

 数日前に妹から来たメールも、不快な気分を増幅させた。もちろん内容は読まずに、受信拒否リストにぶち込んだ。四年前にパラディオンを離れた後、携帯端末を番号ごと替えて家族と連絡を絶ち、軍の人事にも家族からの問い合わせには一切応じないように頼んだ。それなのに、いったいどうやって俺のメールアドレスを突き止めたのだろうか? 何とも迷惑な話だ。

 

 外見を理由に嫌悪感を抱くなんて、ちゃんと仕事してくれてるヴィオラ少佐には申し訳ないと思う。しかし、これは理性ではなくて本能の問題だった。

 

 この件を除けば、広報活動は概ね順調である。英雄と呼ばれるたびに、亡くなった義勇兵の屍の上でスポットライトを浴びているような気がして、いくらかの後ろめたさを感じる。広報活動の成功がいいことなのかどうかは分からないが、任された以上は手を抜けないのが俺だ。

 

 マリエット・ブーブリル副旅団長は、戦いのたびにまっしぐらに敵陣に突っ込んでいったことから、陸戦隊員に「アサルト・ママ」と呼ばれるようになり、俺と離れて単独でメディアに出るようになった。年内に行われる上院エル・ファシル補選に出馬するそうだ。しかし、そんなのはどうでもいい。もう二度とあの毒々しい声で「チビ」「子供」と呼ばれないし、甘い物を食べても馬鹿にされない。それだけで十分に嬉しい。

 

 惑星エル・ファシルで生まれた多数の英雄のうち、でかくて優しい「フョードル兄貴」フョードル・パトリチェフ宇宙軍中佐は子供達の人気者となり、女優顔負けの美貌を持つ「死の天使」アマラ・ムルティ地上軍軍曹は若い男性から熱烈な支持を受け、甘いマスクと鋼のような肉体を持つ「超人」ルイジ・ヴェリッシモ宇宙軍少尉は女性をうっとりとさせた。

 

 俺の一番のお気に入りは、もちろんムルティ軍曹だ。私用端末の壁紙には、国防委員会広報課が作った「アマラ・ムルティ公式サイト」からダウンロードした画像を使っている。

 

 エル・ファシル方面軍の提督の中で最も人気があったのは、もちろんロボス大将だ。サービス精神旺盛で脇の甘い彼は、とかく話題に事欠かない提督と言われ、謹厳でマスコミ嫌いなシトレ大将とは好対照だった。

 

 若手軍人の中で最優秀と目されるウィレム・ホーランド宇宙軍准将も、テレビではお馴染みの顔だ。武勲もさることながら、凛々しい顔つきと奔放な言動が人気を博していた。ラインハルト・フォン・ローエングラムやアレクサンドル・ビュコックの伝記では、ホーランド准将は身の程知らずのやられ役だったが、テレビを見ていると彼こそが主役のように見える。

 

 勝った者は浮かれていたが、負けた者はそうもいかない。フェザーンマスコミの報道によると、ロボス大将に敗れた辺境鎮撫軍司令官クラーゼン上級大将、シトレ大将に敗れた副司令官バウエルバッハ大将の両名は、「別荘地にて病気休養」することになった。また、辺境鎮撫軍参謀長マイスナー中将は「急病死」したそうだ。

 

 手元にある『帝国報道用語辞典』を開くと、「別荘地にて病気休養」は収監されたという意味、「急病死」は自殺もしくは処刑という意味らしい。軍務省の公式発表では、辺境鎮撫軍は勝利した後に戦略的撤退をしたことになっているので、処罰したとは言えないのだ。なお、司令官・副司令官より参謀長の受けた罰の方が重いのは、前者が高位の貴族、後者が平民だからだろう。何ともやりきれない話である。

 

 一方、カイザーリング中将は自決の翌日に二階級特進して上級大将となり、その一〇時間後に元帥へと昇進し、葬儀は国葬とされた。また、爵位が男爵から子爵に引き上げられ、カストロプ公爵の次男が相続して、子孫のいなかったカイザーリング家は断絶を免れた。専制国家らしい無茶な人事ではあるが、そこまでして英雄を仕立てあげなければならないほどに、衝撃が大きかったのだ。

 

 惑星エル・ファシルでは、まだ戦いが続いている。陸上部隊三五個師団、航空部隊一五個師団、水上部隊六個隊群、宇宙部隊一〇個戦隊が駐留し、山岳地帯に逃げ込んだ帝国軍の敗残兵二〇万の掃討にあたっていた。避難民が帰還する見通しも立っていない。しかし、ほとんどの人々にとっては、エル・ファシルの戦いは終わったも同然であった。

 

 

 

 五月下旬に広報チームが解散した後、ロボス大将から呼び出しを受け、国防委員会事務総局、統合作戦本部管理部、後方勤務本部総務部、第四艦隊司令部総務部のいずれかに、事務の仕事を用意すると言われた。

 

「どれも高級参謀のアシスタントだ。軍中枢で働いた経験は、より上を目指す際にきっと役立つだろう」

「申し訳ありません」

 

 俺は頭を下げて断った。

 

「そうか。ご苦労だった」

 

 ロボス大将は一瞬だけ意外そうに首を傾げたものの、執務室からの退室を許可してくれた。こうして、六月一日付で第一艦隊所属の宇宙母艦フィン・マックールの補給科に戻った。ポストは前と同じ補給長補佐で、上官も前と同じタデシュ・コズヴォフスキ宇宙軍大尉である。

 

 武勲とも抜擢とも無縁のルーチンワーク。戦記に決して登場しない裏方。ロボスが提示してくれたポストよりはるかに地味だが、俺は満足していた。

 

「もったいないことをするね」

 

 スクリーンの向こう側の駆逐艦「ガーディニア九号」艦長イレーシュ・マーリア宇宙軍少佐は、そう言って笑った。リューカス星域へ訓練航行に出ている彼女とは、超高速通信で話している。

 

「大佐や提督を目指すんだったら、ロボス提督の申し出は願ってもないですよ。幹部候補生出身者が偉くなるには、軍中枢のエリートと親しくなって、武勲を立てられるようなポストに就けてもらわなきゃいけませんからね。しかし、そんなのは俺の望みじゃないんです」

「なるほどね。でも、望まなくても偉くなっちゃうかもよ?」

「そんなことはないでしょう」

「だって、君は若い女の子の扱いがうまいじゃん」

「そんなことありませんよ。相変わらずモテませんし」

 

 苦笑いした後、部下のエイミー・パークス宇宙軍上等兵からもらったマフィンを口に入れた。

 

「同盟軍では、異性に好かれる人が名将になるってジンクスがあってね。リン・パオ提督、ブルース・アッシュビー提督もめちゃくちゃモテたでしょ? 君も名将の素質あるよ」

「あの人達は背が高くて美男子だったでしょう? 俺はチビで不細工ですよ?」

「ロボス提督もチビで不細工だけど、めちゃくちゃモテるじゃん。まあ、君は不細工じゃなくてかわ……」

「確かにロボス提督はモテますよね!」

 

 ロボス大将はチビでデブで不細工で髪の毛が薄いにも関わらず、同盟軍屈指のプレイボーイとして有名だった。

 

 これまで三度の結婚歴があり、最初の妻は「士官学校史上でも五本の指に入る美人」と言われた士官学校の同級生で、二度目の妻は演技力に欠けるが美貌で有名な映画女優、現在の妻は二五歳下の元テレビアナウンサーだ。その他にも常に数名の愛人を抱え、一夜限りの関係も含めると、関係を持った女性の数は一〇〇〇人を超えるとも言われる。

 

 ここまで凄まじいと、羨ましいを通り越して厳粛な気持ちにすらなる。ロボス大将は用兵だけでなく色の道でも、リン・パオやブルース・アッシュビーの後継者を目指しているかのようだ。

 

「真面目な話をするとね、異性を統率するのって結構難しいのよ。まったく異性とコミュニケーションできない指揮官、お気に入りの異性をえこひいきして他の異性の反感を買う指揮官、異性と親しくなりすぎて同性の反感を買う指揮官が多いの。君は良くやってるよ」

「イレーシュ少佐はどうなんです? 駆逐艦の乗員はほとんど男性でしょう?」

「苦労してるよ。駆逐艦乗りは艦艇乗りの中で飛び抜けて荒っぽいでしょ? か弱い女にはやりにくいったらありゃしない」

 

 イレーシュ少佐は大きな胸を抱えこむように腕を組み、軽く息を吐く。一八〇センチを越える身長、視線だけで人を殺せそうな鋭い目、リンゴを握り潰せる握力、陸戦隊員並みの戦技の持ち主に言われても、説得力が無さすぎる。

 

「まあ、俺は部下に恵まれました。あのメンバーだったら、赤ん坊が上官でもちゃんと仕事するでしょう」

「爽やかにのろけないでよ。モテる人はこれだから」

「あまりに頼りなさすぎて放っとけないだけでしょう。見限られないよう、気を遣ってますよ」

 

 手をひらひらと振って否定した。アンドリュー・フォークのように爽やかで頼りになる男こそ、女性に好かれるのだ。ロボス大将は爽やかと言い難い容姿の持ち主だが、貫禄があるし、面倒見も良さそうだし、頼りがいがありそうだ。それに引き換え、俺は小心で頼りない。

 

 口に出したら悲しくなりそうな現実から逃れるため、部下のオーヤン・メイシゥ宇宙軍一等兵からもらった板チョコをかじり、甘味で心を慰める。

 

 ふと、オーヤン一等兵の母親の誕生日が一か月後に迫っていることを思い出した。母子家庭育ちで、家計を助けるために志願兵となった彼女は、人一倍親孝行だ。誕生日に非番になるよう、シフトを組まねばなるまい。

 

 第一艦隊は出兵に参加しない代わりに、他艦隊に戦力を提供する役割を担う。しかし、宇宙暦七六〇年代後半に建造された旧式艦のフィン・マックールが補充戦力として他艦隊に編入される可能性は限りなくゼロに近く、この先は安全地帯で訓練と巡視を繰り返すことが確定している。軍服を着ている以外は、役所とほとんど変わらないような職場だ。

 

 いや、役所よりもずっと恵まれてる。科学的社会主義政党「汎銀河左派ブロック」を除くすべての国政政党が公務員の人件費削減を主張し、地方首長が解雇した公務員の人数を誇るような時代では、マスコミが公務員を批判する時の決まり文句である「役人天国」は軍隊にしか存在しない。

 

 三年前の上院・下院同時選挙の後に、「共和制防衛と財政再建のための超党派十字軍」として成立した保守政党「国民平和会議」とリベラル政党「進歩党」の連立政権も、国防予算には手を付けられなかった。

 

 進歩党のジョアン・レベロ財政委員長が国防予算削減案を提出しているものの、国民平和会議の反対が強く、通過する見込みは薄いと言われる。この世界が前の世界と同じ展開を歩まなければ、定年まで安泰に暮らせるはずだ。

 

 八月二日の昼下がり、フィン・マックールの士官食堂で、補給長コズヴォフスキ大尉、空戦隊長シュトラウス少佐、整備長サンドゥレスク技術大尉、整備長補佐トダ技術中尉らと一緒に食事を取っていると、テレビのスクリーンからニュース速報を知らせるチャイム音が流れた。

 

「ニュース速報です。本日正午、銀河帝国軍務省は、『ラインハルト・フォン・ミューゼル宇宙軍中尉をリーダーとする将兵一七名が、反乱軍に占拠されたエル・ファシルから脱出し、先ほどイゼルローン要塞に到着した』と発表しました。エル・ファシル駐留軍司令部もこの事実を認め……」

 

 ラインハルト・フォン・ミューゼル。前の世界で同盟を滅亡させた人物の名前をこの世界で初めて耳にした瞬間、俺の手から落ちたスプーンの音が静まり返った食堂に響いた。それは俺の人生設計が狂い出す音でもあった。

 

 

 

 同盟領のあるサジタリウス腕と帝国領のあるオリオン腕の境界には、通行困難な危険宙域が広がり、イゼルローン回廊とフェザーン回廊のみが対立する同盟と帝国を結ぶ。宇宙暦六八二年に事実上の中立国「フェザーン自治領」がフェザーン回廊の統治権を獲得して以来、イゼルローン回廊が二大国の抗争の舞台となった。

 

 宇宙暦七六七年、銀河帝国三五代皇帝オトフリート五世は、イゼルローン回廊中央部に巨大宇宙要塞を築いた。これによって、イゼルローン回廊における帝国の覇権が確立し、一方的に同盟領に侵入できるようになった。同盟は四度にわたってイゼルローン要塞に遠征軍を送ったが、ことごとく返り討ちにあった。

 

 屍の山をどれほど積み上げようとも、同盟軍はイゼルローン要塞攻略を諦めようとしない。そして、現在は五度目の遠征軍がイゼルローン要塞へと向かっている。

 

 難攻不落の要塞を力攻めするなど、愚行としか思えない。回廊の出口を確保して、専守防衛すれば、それで十分ではないのか?

 

「エリヤ、それは違うぞ」

 

 最近ファーストネームで呼び合う仲になった二歳下のアンドリュー・フォーク宇宙軍大尉は、やんわりと否定する。俺はパンケーキを切る手を止めた。

 

「何が違う?」

「一個地上軍、正規艦隊から分派された二個分艦隊が四か月交代で国境に駐屯している。一方、帝国は要塞に一万五〇〇〇隻の艦隊を常駐させて、しきりに進入させてくる。数の上でも、兵站の上でも敵が有利だ。七八六年から去年までの五年間で、同盟軍は二回しか会戦で負けなかった。しかし、会戦が終わってこちらの宇宙艦隊主力が帰った後に、要塞駐留艦隊が回廊から出てきて、国境駐屯部隊をじりじりと削っていった。その結果、エルゴンまで押し込まれてしまったんだ。要塞という出撃拠点がある限り、エル・ファシルの悲劇は何度でも起きる」

「辺境に正規艦隊を常駐させればいい」

「基地はどうする? 一個艦隊を恒久的に駐留させられるような基地を作って維持するのに、いくら予算がかかると思う? 二〇個戦艦戦隊、二〇個巡航艦戦隊、二〇個母艦戦隊及び空戦団、二〇個駆逐艦戦隊、八個陸戦師団、作戦支援部隊、後方支援部隊の基地が必要だ」

「既存の基地を使うわけにはいかないのか?」

「あの方面で一番大きいのはシャンプール宇宙軍基地だ。それでも二個分艦隊が精一杯。しかも国境から遠すぎる」

「複数の基地に分散して駐留するなんてどうだ?」

「星系警備隊の基地には、別の部隊を受け入れるような余裕はないぞ」

 

 アンドリューは丁寧に反論を加えていく。声の調子がいつもより柔らかいせいか、完璧に論破されたにも関わらず、心地良さすら覚える。きつい印象を与えないように配慮してくれているのだろう。

 

「じゃあ、やはりイゼルローン要塞を攻略するしかないのか」

「そういうことになるな」

「でも、正攻法はまずいんじゃないか? 策略で落とす方法だってあるはずだ。陸戦隊を要塞内に送り込んで奇襲するとか」

「送り込む方法は?」

「同盟軍に追われてるふりをして、帝国軍に助けを請うなんてどうだ? 帝国軍人に偽装した陸戦隊を帝国軍から鹵獲した艦に乗せて、実際に同盟軍に追撃させる。追撃部隊は駐留艦隊を要塞から誘き出す囮も兼ねるんだ。そして、陸戦隊は逃げこむふりをして要塞に入り込み、要塞司令官を人質に取って、駐留艦隊がいない要塞を乗っ取る。侵入する陸戦隊は、薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)がいいんじゃないかな。特殊訓練を受けた亡命者だから、帝国軍人らしい演技もお手のものだ」

 

 前の世界でヤン・ウェンリーが実行したイゼルローン要塞無血占領作戦を、そっくりそのまま述べた。人類史上でも五本の指に入る用兵家が立てた作戦だ。百に一つも間違いは無い。

 

「過去にそういった作戦は数えきれないほど立てられて、何度かは実施されて、ことごとく失敗した。エリヤの言う通りに薔薇の騎士連隊を起用した時は、連隊長が要塞に入った瞬間に裏切った。一五年前のドルフライン連隊長の逆亡命だよ。真相は公開されなかったけどな」

 

 ヤン・ウェンリーの作戦と同じ作戦が過去に何度も失敗したと、アンドリューは言った。

 

「なんで失敗したんだ?」

「五重のセキュリティチェックに引っかかった。それに情報機関の優秀さでは、同盟より帝国の方が上だ。あちらは世論を気にせずにむちゃくちゃできるからな」

「でも……」

 

 前の世界のヤン・ウェンリーは成功したと頭の中で叫び、すぐに打ち消した。

 

 俺が読んだ『レジェンド・オブ・ザ・ギャラクティック・ヒーローズ』や『ヤン・ウェンリー提督の生涯』には、薔薇の騎士連隊があっさり要塞に入り込んで占拠したように書かれている。しかし、同じような作戦が過去に何度も失敗したことを考えると、ヤンは過去の作戦と違う決め手を持っていたようだ。

 

 それが何かは本には描かれていなかった。特殊作戦の記録は公開されないものだし、旧同盟軍の機密文書のほとんどは混乱の中で失われた。旧同盟軍の機密に与かる立場でもない『レジェンド・オブ・ザ・ギャラクティック・ヒーローズ』の著者には、書きようが無いのである。

 

「血を流さずにイゼルローンを攻略できれば、それに越したことはない。今後もこういった案は出てくると思う」

「正攻法にこだわりがあるわけじゃないのか」

「そりゃそうさ。でも、未だかつて誰も思いついたことのない奇策なんて、小説や漫画にしか出てこない代物だよ。想定しうる限りの可能性を検討するのが用兵家だからな。同盟軍史上最高の用兵家と言われるアッシュビー提督の奇策だって、同じ策を思いついた人はいくらでもいた。でも、見通しが立たずに実施されなかった。あるいは見通しが立たないままに実施して失敗した。アッシュビー提督だけが見通しを立てられたってわけさ」

「発想だけじゃ駄目ってことか。それを実現する見通しも必要だと」

「そう、見通しを立てるのが用兵家の仕事だ。対宇宙要塞戦術は、過去の『要塞の時代』に確立された。亡命者が持ち込んでくる情報もある。統合作戦本部や宇宙艦隊総司令部では、イゼルローン要塞攻略の作戦研究も日夜行われている。イゼルローン要塞を攻略するには、今のところは正攻法の方が成功する見通しは高い」

「なるほどなあ」

 

 アンドリューは、幹部候補生養成所で学ばなかった戦略レベルの用兵を知っている。戦記で言われるほど、同盟軍は無為無策では無いこと、帝国軍の警備が厳しいことが理解できた。

 

 こんな話を聞かされると、正攻法を批判したヤン・ウェンリーの意見も聞いてみたくなる。しかし、エル・ファシル脱出以降、俺と彼はまったく顔を合わせていない。どこの部署にいるかすら知らない有様だ。今後も聞ける機会は無いだろう。

 

「絶対に落ちない要塞はない。イゼルローン要塞もいつか落ちる。落とすのはもちろんロボス閣下だ」

 

 アンドリューの声に憧憬の色がこもり、ロボス大将がいかに素晴らしい提督かを語り出す。普段は節度のある奴なのに、尊敬するロボス大将の話になると止まらなくなる。微笑ましいと思うが、辟易させられるのも事実だ。

 

 延々とロボスの素晴らしさを語り続けるアンドリューに相槌を打ちながら、ひたすらパンケーキを食べ続ける。

 

「エリヤもエル・ファシル星域会戦を見ただろう? ロボス閣下こそが同盟軍で一番優れた用兵家じゃないか。それなのにどうしてシトレ提督がイゼルローン攻略を任されるんだ? おかしいと思わないか?」

 

 彼はシトレ大将がイゼルローン攻略を任されたことに、大きな不満を持っていた。

 

 去年秋から今年の春にかけて行われた自由の夜明け作戦には、ドラゴニア航路とパランティア航路の奪還の他に、次期宇宙艦隊司令長官及び第五次イゼルローン遠征軍総司令官を選ぶ目的もあった。

 

 前宇宙艦隊司令長官アンブリス元帥は、軍政家としては一流でも、作戦家としては二流で、イゼルローン攻略を任せるには心許ない。そこで副司令長官のシトレ大将とロボス大将にそれぞれ一方面を任せて、結果を出した側に宇宙艦隊とイゼルローン遠征軍を任せることになった。

 

 ロボス大将はひたすら戦果を追い求め、前哨戦では急襲に次ぐ急襲で、たくさんの敵兵を殺したり捕らえたりした。エル・ファシル星域会戦では、帝国軍の三個艦隊を撃破し、徹底的に追撃して壊滅させた。惑星エル・ファシル攻防戦では、苛烈な地上戦の末に地上軍七〇万を壊滅させた。マスコミを使って演出たっぷりに自軍の戦いぶりを報道させたこと、配下から多くの英雄を輩出したこともあって、市民はロボス大将を高く評価した。

 

 シトレ大将の戦い方はロボス大将と対照的だった。前哨戦では重厚な布陣で敵を圧迫し、逃げなかった敵とのみ戦った。第二次ドラゴニア星域会戦において帝国軍二個艦隊を打ち破った際には、すぐに追撃を切り上げた。大した損害も出さずに年内で作戦を完了したが、敵に与えた損害も少なく、派手な英雄譚も見られなかったため、市民からの評価は低かった。

 

 ロボス大将が宇宙艦隊司令長官とイゼルローン遠征軍総司令官を任されるものと、多くの人は考えた。

 

 俺もロボス大将が任されると思った。前の世界ではシトレ大将が司令長官になって第五次イゼルローン攻略を指揮したが、それはエル・ファシルの戦いがこんなに大規模にならなかったせいだ。展開が違うならば、結果も違って当然と考えたのである。

 

 しかし、大方の予想に反して、シトレ大将がアンブリス元帥の後任となり、ロボス大将は現職に留まった。敵に与えた損害よりも、損害の少なさや作戦期間の短さが重視されたのである。

 

 イレーシュ少佐から聞いたところによると、ロボス大将に対する反感も決め手の一つだったらしい。戦い方も私生活も派手なロボスは、支持者も多いが敵も多い。政界や軍部には、エル・ファシル方面軍の派手なやり方を不快に思った人も多かったのだ。

 

 宇宙艦隊司令長官の座を逃した後も、ロボス大将への逆風は続いた。八月二日のラインハルト・フォン・ミューゼルのエル・ファシル脱出、そして八月一〇日のアルレスハイム星域における敗戦がそれである。

 

 フェザーンのマスコミが報じるところによると、エル・ファシル西大陸の山中に潜伏していたラインハルトは、部下とともに同盟軍の駆逐艦リンデン二二号を奪って宇宙空間へと脱出した。同盟軍が警戒網を敷いたことを知ると、ベジャイア宙域で遭遇した駆逐艦アマランス五号に降伏すると見せかけて乗っ取り、まんまと同盟軍の警戒網を潜り抜けたのであった。

 

 大敗北を喫したばかりの帝国軍は、ここぞとばかりにラインハルトの快挙を宣伝し、フェザーンマスコミを通して、脱出作戦の情報を同盟に流しまくった。映画さながらの大胆な手口、首謀者ラインハルトの美貌と若さは、市民の興味を引くと同時に、エル・ファシル駐留軍に対する批判を呼び起こした。駐留軍幹部は全員更迭されて、リンデン二二号とアマランス五号の乗員とともに、査問委員会で事情聴取を受けることとなった。

 

 ラインハルトの事件に政府が神経を尖らせていたところに、第二の事件が起きた。国境宙域の哨戒にあたっていた第三艦隊B分艦隊が、八月一〇日にアルレスハイム星域で帝国軍のメルカッツ大将の待ち伏せにあい、死傷率五割を越える惨敗を喫したのだ。

 

 国防委員会はこの敗北についても、査問委員会を設置して調査を始めた。第三艦隊B分艦隊幹部は全員身柄を拘束されて、ハイネセンに護送されているという。

 

 エル・ファシル駐留軍司令官ガブリエル・ポプラン宇宙軍少将、第三艦隊B分艦隊サミュエル・アップルトン少将は、いずれもロボス大将の腹心の指揮官だ。相次ぐ腹心の失態は、ロボス大将の威信を大きく傷つけた。シトレ大将がイゼルローン攻略を成功させたら、二人の差は決定的なものになると言われる。

 

 それにしても、大将同士で差が付く付かないだの、一体何を問題にしているのだろうか? 少佐より偉くなる見込みが無い俺から見れば、フィン・マックール艦長クレッチマー中佐だって権力者だ。クレッチマー中佐の上官の第一母艦群司令ヴィルジンスキー大佐、その上官の第一一三母艦戦隊司令プラール代将、その上官の第一一三機動部隊司令官オウミ准将なんて、顔を合わせたこともない。それよりもずっと偉い大将がもっと偉くなろうと争っている。友人を通して見るエリートの世界は、不可解なことばかりだった。

 

 

 

 結局、四個艦隊五万二〇〇〇隻を動員した第五次イゼルローン遠征は、同盟軍の敗北で幕を閉じた。

 

 意図的に混戦状態を作り出したシトレ大将は、帝国軍ともつれ合いながら前進していった。味方を巻き込むことを恐れたイゼルローン要塞防衛部隊が要塞主砲「トゥールハンマー」発射をためらっている間に、同盟軍の艦隊は主砲射程範囲内に入り込んだ。

 

 同盟軍の無人艦が次々と突入して要塞外壁をぶち抜き、イゼルローンの不落神話が終焉を迎えるかに思われた。だが、錯乱した要塞防衛部隊はトゥールハンマーを発射し、味方ごと同盟軍を吹き飛ばしたのである。四〇〇〇隻の艦艇と四五万人の将兵を失ったシトレ大将は、イゼルローン攻略を断念した。

 

 前の世界とほぼ同じ結果になったことに驚いた。前の世界では起きなかった惑星エル・ファシル攻防戦が起きているし、イゼルローン遠征の時期もかなりずれたはずだ。それなのにどうして同じ結果になったのだろうか?

 

「並行追撃は一〇年前からずっと温めていた秘策でした。それでも、一歩及びませんでした。残念です」

 

 シトレ大将は帰還後の記者会見でこのように語った。要するにいつイゼルローン攻略を任されても、並行追撃戦術を使うつもりでいたのだ。

 

 何らかの必然性があれば、この世界も前の世界の展開をなぞることがあるということを、第五次イゼルローン遠征の顛末から学んだ。必然と偶然の見分けがつけば、前の世界の知識もある程度役に立つらしい。

 

 第五次イゼルローン遠征軍は撤退に追い込まれたものの、初めて主砲射程範囲内に入り込んだこと、要塞外壁に傷をつけたこと、戦死者が五〇万人より少なかったことは、これまでの四度の遠征と比較すると大きな成果だった。市民はシトレ大将の健闘を讃え、次の攻略作戦に大きな期待を寄せたのであった。

 

 そんな世間の喧騒とは関係ないところで、俺は過ごしている。最近の心配事はあのクレメンス・ドーソン宇宙軍准将だ。ごみ箱を漁り回ってみんなを困らせたあの男が、またも俺の前に立ちはだかった。

 

 一年前にごみ箱を抜き打ち検査したドーソン准将は、「八二・六キロものじゃがいもが無駄に捨てられていた。食材は市民の血税であり、一グラムたりとも無駄にしてはならない。そのことを確認すべきである」というレポートを提出した。

 

 前の世界では、ドーソンの無能ぶりの証拠とされたこのレポートも、国防委員会には高く評価された。業務改善提案審査で個人部門第二位に選ばれ、国防委員長より表彰を受けたのだ。

 

「最近の市民は無駄遣いにうるさい。国防予算を削減しろという声は前からあった。軍部でも、自主的に経費削減に取り組んで、市民感情を和らげようという声が出てきてるのさ。それでじゃがいもレポートが評価されたんじゃないかねえ」

 

 コズヴォフスキ大尉はぬるい緑茶をすすりながら、ドーソン准将が評価された理由を推測してみせた。予算を削減した役人が有能な役人と言われ、国会に国防予算削減案が提出されるような時世では、じゃがいもレポートは経費削減に取り組む姿勢の証明になるのだ。

 

 評価を高めたドーソン准将は、艦隊後方部長から副参謀長に転じて、人事・情報・作戦・後方のすべてに権限が及ぶようになった。国防予算削減を巡る与党内の攻防が激しくなり、先行きが不透明になってきたことから、業務改善力のあるドーソン准将が責任者となって、経費の無駄を洗い出すこととなったのである。

 

 第一艦隊は震え上がった。だが、俺はドーソン准将を撃退した経験がある。部下と協力すれば、今回も乗り切れるはずだった。

 

「乗りきれるはずだったのに……」

 

 晩秋の深夜、俺は自室で頭を抱えていた。机の上にはレポートと資料が山のように積み重なっている。

 

 ドーソン准将はすべての士官にレポートを課した。隙を見せてはならないと考えた俺は、手持ちのデータを整理し、他の補給士官の話を聞き、アンドリューから補給関連の統計や論文を送ってもらい、準備を整えてから意見を固めていった。

 

 二週間かけて書き終えたレポートをドーソンに提出し、やるべきことはやったと思っていたら、赤ペンでびっしり修正やコメントが書き込まれて送り返されてきた。一〇日掛けて書き直して再提出したら、また赤ペンの書き込み付きで送り返されてきた。一週間掛けて書き直して再々提出したら、また書き込み付きで送り返されてきた。

 

 学校秀才を批判する際に、「解答のある問題は解けるが、解答のない問題は解けない」と言われることがある。俺はまさにそのタイプだ。テストで点を取れるようなレポートは書けても、業務改善の役に立つようなレポートは書けないのである。

 

 ドーソン准将だって、これだけチェックしてるのなら、それはわかってるはずだ。わかっててしつこく書き直しを命じる。どういうつもりなのだろうか?

 

 大分薄れつつある前の世界の記憶を頭の中から引っ張り出す。アッテンボローの回顧録『革命戦争の回想―伊達と酔狂』によると、士官学校で軍隊組織論を教えていた当時のドーソン教官は、生徒をいびるのが大好きだったそうだ。

 

 しつこく書き直しを命じるという行動、異常なまでに細かい指摘、アッテンボロー回顧録に記された狭量さ。ここまで材料が揃えば、疑う余地はない。ドーソン准将は、俺をいびって楽しんでいる。

 

「君はまだまだ若いな。偉い人がレポートを集めるのは、『現場の話を聞いた』という体裁を整えるためだ。まともに読んだりはせんよ。耳触りのいいことを適当に書いておけばいいんだ。副参謀長のような人は、綺麗事に弱いんだからな」

 

 上官のコズヴォフスキ大尉は、適当にやればいいと言った。今年いっぱいで定年を迎えるベテラン補給士官の言葉は、とても含蓄に富んでいた。

 

「軍人たる者、日々の軍務にも命を賭けねばならぬ。理不尽を受け入れるのは、忠誠では無く迎合と言う。誤りがあるならば、身を捨てて正すのが真の忠誠心なのだ。小官も貴官と同じくらいの年頃には、上官とガンガンやり合った。逃げずに理不尽と戦った経験こそ将来の糧となろう。とことんやり合え! 小官が許す!」

 

 この発言は主語を省略しても、誰が言ったのか一目瞭然であろう。エーベルト・クリスチアン地上軍中佐の言葉は、少々暑苦しく感じることもあるが、こんな時には何よりの励みになる。

 

「君は本当に融通きかないなあ。じゃがいも閣下は人の間違い探しが大好きな人だよ? あんなに細かく書いたら、大喜びで食いついてくるに決まってんじゃん。まあ、ああいうタイプは、突っ込んできた点を一つ一つ丁寧に潰していけば、じきに静かになるよ。君は理屈が苦手でしょ? 学ぶ機会だと思って頑張るしか無いね」

 

 イレーシュ少佐の端麗な顔に、苦笑気味の表情が浮かぶ。前向きな努力を促そうとする彼女は、どこまでも教師だった。

 

 ちなみに「じゃがいも閣下」とは、ドーソン准将のことだ。前の世界で彼が「じゃがいも」と呼ばれていたことを思い出し、腹いせに使ったら、いつの間にかこの世界でも広まってしまった。

 

「現場の士官は文章書き慣れてるだろう? レポートを集めても、体裁だけは完璧に整って、中身は空っぽな作文ばかりが集まってくる。書き直しても面白くなる見込みが無い。だから、一発合格さ。再提出を何度も求められるってことは、見込みがあるってことじゃないか。士官学校で教官やってた時のドーソン提督は、嫌味だけど教え好きだった。エリヤを本気で指導してくれてるんだと思うぞ」

 

 アンドリューは白い歯を見せて笑った。そこまで見込まれたのなら嬉しいが、さすがにそれは無いと思う。それでも、真っ直ぐに陽の光を浴びて育ってきた彼らしい善意的な解釈に、少し心が和む。

 

 みんなの顔を思い出した後、腹の虫が鳴った。じゃがいもがぎっしり詰まった冷蔵庫から、一番大きそうなのを取り出し、軽く水洗いしてから電子レンジを使ってふかす。

 

 ほくほくのじゃがいもにバターを乗せ、ある人物の顔を思い浮かべながら、がぶりとかじると、体の隅々から優越感が湧き上がった。活力を取り戻した俺は、再び端末の前に座り、キーボードを叩き始めた。




人物一覧
エリヤ・フィリップス (768~ ) オリジナル主人公
作られた英雄。同盟宇宙軍中尉。

ヤン・ウェンリー (767~ ) 原作主人公
真のエル・ファシルの英雄。同盟宇宙軍中佐。前世界では銀河最強の用兵家。

ラインハルト・フォン・ミューゼル (776~ ) 原作主人公
帝国のエル・ファシルの英雄。帝国宇宙軍中佐。前世界では銀河を統一した覇王。

エーベルト・クリスチアン (?~ ) 原作キャラクター
エリヤの恩師。同盟地上軍中佐。前世界ではスタジアムの虐殺を起こした。

イレーシュ・マーリア (762~ ) オリジナルキャラクター
エリヤの恩師。同盟宇宙軍少佐。

アンドリュー・フォーク (770~ ) 原作キャラクター
エリヤの親友。同盟宇宙軍大尉。第三艦隊参謀。前世界では帝国領遠征軍敗北の戦犯。

カスパー・リンツ (770~ ) 原作キャラクター
幹部候補生養成所の同期生。同盟宇宙軍少尉。前世界では薔薇の騎士連隊の第一四代連隊長。

ラザール・ロボス (?~ )原作キャラクター
同盟軍の名将。同盟宇宙軍大将。同盟宇宙艦隊副司令長官。前世界では帝国領遠征軍敗北の戦犯。

クレメンス・ドーソン (740~ )原作キャラクター
ややこしい人。同盟宇宙軍少将。第一艦隊副参謀長。前世界ではトリューニヒト派の軍高官。

カーポ・ビロライネン (761~ ) 原作キャラクター
ロボスの腹心。同盟宇宙軍准将。第三艦隊参謀。前世界では帝国両遠征軍情報主任参謀。

マリエット・ブーブリル (759~ ) オリジナルキャラクター
エル・ファシル義勇旅団副旅団長。

フランチェシク・ロムスキー (759~ )原作キャラクター
エル・ファシル惑星議会議員。前世界ではエル・ファシル独立政府主席。

ミヒャエル・ジギスムント・フォン・カイザーリング (?~792) 原作キャラクター
男爵。帝国宇宙軍元帥。エル・ファシル防衛軍司令官。惑星エル・ファシル攻防戦で自決。前世界ではアルレスハイムの敗将。

※査問会は原作三巻では、同盟憲章にも同盟軍基本法にも規定がないと書いています。しかし、原作六巻では、動くシャーウッドの森に軍艦を奪われたマスカーニ少将が統合作戦本部の査問会で証言をしています。本作は事件の原因を調べるための査問会は合法、そうでない目的の査問会(忠誠審査など)は違法だと解釈します。

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