銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(新版)   作:甘蜜柑

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第92話:上に立つ者の義務 802年1月16日~1月17日 パラディオン市

 実家のリビングにエアロバイクが二つ置いてあった。帰省している間だけレンタル業者から借りた。おかげでテレビを見ながら運動できる。

 

「そろそろ始まるね」

 

 妹が声をかけてきた。エアロバイクを漕いでいるというのに、息がまったく乱れていない。

 

「わくわくするな」

 

 俺もエアロバイクを漕ぎながら返事をする。ほんの少しだけ息が荒かった。一時間近く重めの負荷で漕いでいるのだ。

 

 一月一六日、自由惑星同盟軍は銀河帝国軍に、捕虜一六〇〇万人と難民五〇〇万人を引き渡す。イゼルローン要塞で引き渡し式典が行われることになった。これから式典中継が始まるのだ。

 

 帝国軍の代表団が会場に到着した。警備兵が捧げ銃の敬礼を行い、軍楽隊が帝国軍歌を演奏する中、銀と黒の軍服を身にまとった男たちが悠然と歩く。

 

 先頭に立つのは絶世の美貌を持つ金髪の青年だ。画面に「帝国軍代表団長 大本営幕僚総監 侯爵 帝国軍大元帥 ラインハルト・フォン・ローエングラム」のテロップが流れる。銀河帝国最高の天才が自ら乗り込んできた。前の世界では八〇一年に病死したのに、この世界では若々しい生命の輝きに満ち溢れている。

 

 ラインハルトの横に、燃えるような赤毛を持つ長身の青年が寄り添っている。画面に「帝国軍副代表団長 近衛第一艦隊司令官 帝国宇宙軍上級大将 ジークフリード・キルヒアイス」という文字か浮かんだ。ラインハルトの親友であり、大元帥府三傑の一人に数えられるキルヒアイス上級大将である。前の世界では七九七年に亡くなった彼も、この世界では健在だった。

 

 その後に三人の壮年男性が続いた。見るからに優男といった感じの人物は、大元帥府参謀長のエルネスト・メックリンガー帝国宇宙軍大将。貴公子風の美男子は、第三竜騎兵艦隊司令官を務めるシュテファン・フォン・プレスブルク帝国宇宙軍大将。オレンジ色の髪を持つ屈強な男性は、“鉄壁ビッテン”こと黒色槍騎兵艦隊司令官フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト帝国宇宙軍大将。プレスブルク大将以外は、前の世界でも知られた人物だった。

 

 童顔で黒い髪の青年がラインハルトらを出迎えた。彼の名前はヤン・ウェンリーという。現在は同盟宇宙軍元帥であり、イゼルローン総軍総司令官と同盟軍代表団長を務める。同盟軍最高の用兵家が、意外な場面で帝国軍最高の用兵家と相対することとなった。

 

 髪が薄くて気難しそうな中年男性が、ヤン元帥の隣に立っている。送還船団一〇万隻を指揮するスティーブン・サックス宇宙軍上級大将である。恒星間輸送の専門家で、正確な仕事ぶりから「歩く時刻表」の異名を持つ。

 

 後からイゼルローン総軍最高幹部が歩いてきた。神経質そうな中年男性は、第六艦隊司令官エリック・ムライ宇宙軍大将。人が良さそうな巨漢は、イゼルローン総軍総参謀長フョードル・パトリチェフ宇宙軍大将、浅黒い肌に精悍な風貌の女性は、第四艦隊司令官スカーレット・ジャスパー宇宙軍大将。不敵そうな面構えの美男子は、イゼルローン要塞司令官ワルター・フォン・シェーンコップ宇宙軍大将。ヤン元帥の常勝神話を支えた人々だ。

 

 両国の代表団は肩を並べて会場内に入り、共に中央のテーブルに歩み寄る。そして、ヤン元帥が捕虜名簿を差し出す。ラインハルトは合意書にサインをした。合意書が帝国語と同盟語で読み上げられた瞬間、会場に拍手が鳴り響いた。

 

 帝国人捕虜一六〇〇万人と難民五〇〇万人の引き渡しが完了すると、スピーチが行われた。最初に演壇に登ったのはラインハルトである。

 

「私の力が足りなかったせいで、卿らに苦労をかけた。捕虜になったことは卿らの罪ではない。我ら軍首脳の罪である」

 

 ラインハルトは捕虜に向かって頭を下げた。会場は驚きで静まり返る。誇り高き金髪の獅子が頭を下げた事実が人々を驚愕させた。

 

「卿らは力尽きるまで戦った。囚われの身となっても節を曲げなかった。比類なき忠勇というべきだ。称賛される理由はあっても、責められる理由はない。胸を張って祖国へ帰ろうではないか。勇者として帰るのだ」

 

 スピーチが終わると同時に、画面の中が拍手で満たされた。帝国軍人も同盟軍人も捕虜も一人残らず拍手しているように思われた。俺と妹もエアロバイクを止めて手を叩く。これを聞いて感動しない者は軍人ではない。

 

 次にスピーチをしたのはキルヒアイス上級大将ではなく、プレスブルク大将だった。伯爵家の三男でありながら、早くからラインハルトに仕え、キルヒアイスに次ぐ古参幹部として活躍した。際立った才幹はないが、誰に対しても礼儀正しく接し、部下の福利厚生に気を配ったので、兵士から絶大な支持を受けた。前の世界では名前が残らなかった人物である。

 

「私は元捕虜であります。一五年前に捕虜となり一二年前に帰還するまで、エコニア収容所で三年間過ごしました。皆さんもご存じのとおり、我が国は捕虜になることを恥とする国であります。帰国すると、『恥さらしめ。死んで先祖に詫びろ』と言われ、前線に放り込まれました」

 

 プレスブルク大将は知られていない過去を明かした。帝国は生還した捕虜に自殺を強要したり、前線に送り込んで戦死させたりする国だ。彼がどれほど苦労したかは想像するまでもなかった。

 

「その日から私はずっと戦ってきました。元捕虜でも立派に戦える。そのことを証明するために戦ってきました。私個人の名誉などはどうでも良いことです。名誉を取り戻せずに死んでいった捕虜仲間がいます。一緒に帰った者のうち、三人に二人はこの世におりません。生き残った者として、彼らの名誉のために戦う義務があります」

 

 彼は静かに語り続けた。どれほど大きな叫びも、どれほど多くの涙も、彼の静かさほど雄弁ではない。

 

「私は元捕虜であります。大勢の捕虜と友人でした。彼らの中には、私より勇敢な者や忠義に厚い者がたくさんおりました。ですから、皆さんの中にも、大勢の勇者や忠臣がいると確信しております。皆さんは立派に戦えます。そのことを証明しましょう」

 

 プレスブルク大将のスピーチは、ラインハルトに勝るとも劣らない拍手を浴びた。捕虜の席からは、「よく言ってくれた!」「俺たちも戦えるんだ!」といった声が飛んでくる。

 

「いいこと言うなあ」

 

 全身が感動で震えた。これこそが前の人生で聞きたかった言葉だった。エル・ファシルの逃亡者に対し、「君たちは卑怯者じゃない」「君たちはやり直せる」と言ってくれる人がいたら、あんなことにはならなかった。

 

 この世界の逃亡者が同盟領に入るのは二日後のことだ。マスコミは叩いてやろうと待ち構えているに違いない。俺はプレスブルク大将のように彼らを擁護しよう。それが上に立つ者の義務だ。

 

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

 妹が不思議そうな表情をする。彼女は俺が逃亡者として生きた六〇年も、前の世界で自分が兄を見捨てたことも知らない。

 

「今の言葉はちゃんと覚えておけよ。敵を殺すことよりも、味方を切り捨てないことの方がずっと大事なんだ。わかったな?」

 

 俺は妹の顔をまっすぐに見つめた。本当の気持ちは決して伝わらないだろう。それでも、プレスブルク大将を見習わせるだけで、いくらかは寛容になるはずだ。

 

「わかった」

「期待してるぞ」

 

 妹を納得させたところで、俺はテレビに視線を戻した。同盟軍代表の番になり、ヤン元帥が演壇に上がる。

 

「本日は――」

 

 ヤン元帥のスピーチはあっという間に終わった。短い上にメッセージも伝わってこない。失礼にならない程度に、儀礼的な言葉を並べただけだ。

 

「捕虜交換はきわめて神聖な行事であります。どれほど神聖かと申しますと、古代の人は捕虜を生贄として神に捧げておりました。捕虜は神聖だったんですな。神に捧げても失礼ではないということですからな。要するに捕虜を返すのは神聖な行事でありまして、それは宇宙歴九世紀の現在でも変わりないと。まあ、そういうことなんですな。捕虜交換は神聖な行事なのです。そこを踏まえた上で言いたいのです。今日、この式典に参加できたことは幸運だったと。これほど神聖な行事はめったにありません。二一〇〇万の人間を返す。これはどれほど神聖なことか。そもそも――」

 

 サックス上級大将の話はうんざりするほどに長かった。しかも、何を言いたいのかがまったく伝わってこない。あまりにつまらないので、俺も妹も再びエアロバイクを漕ぎ始めた。

 

 メーターに表示された消費カロリーがだいぶ増えたところで、宇宙軍捕虜代表のケンプ中将が演壇に登った。二メートル近い長身が観衆を見下ろす。軍服は筋肉で盛り上がっていた。七年間も収容所で過ごしていたとは思えない体だ。獄中で筋トレに励んでいたのだろう。

 

「まずは感謝を申し上げたい。帝国軍の皆さん、迎えに来ていただいたことに感謝します。同盟軍の皆さん、イゼルローンまで送り届けていただいたことに感謝します。次は戦場で会いたいものです。帝国軍の皆さんとは戦友として。同盟軍の皆さんとは好敵手として」

 

 ケンプ中将の武人らしいスピーチは、会場を大いに沸かせた。帝国軍人は「期待してるぞ!」「今度は勝とうぜ!」と励ましの声をかける。同盟軍人は「いつでも来やがれ!」「また捕虜にしてやるからな!」と言い返す。

 

 同盟軍の捕虜収容所における生活水準は、一般社会より劣り、刑務所を上回る。国防予算が削減された時も、良識派が「待遇を切り下げたら捕虜虐待になる」と主張したため、捕虜の給養費は維持された。警備兵より捕虜の方がいい暮らしをしているほどだ。それでも、収容所では精神を病む者や自殺する者が後を絶たない。祖国にいた時より生活水準が向上したはずの兵卒ですら、精神を病んでしまう。

 

 堂々としているケンプ中将は例外中の例外だった。彼が大物であることは疑いようもない。前の世界で晩節を汚したとはいえ、英雄と呼ばれるだけの器量はあった。

 

 地上軍捕虜代表のヴァイトリング大将は、気の毒なほどに萎縮していた。猛将として知られた人なのに弱々しい。捕虜としては普通の態度といえる。

 

 特別番組が終わると、俺はエアロバイクを降りた。運動を続けている妹の後ろを通り、キッチンに足を踏み入れる。

 

 冷蔵庫の中には、ホールケーキの箱が三つも置いてあった。中を見てみると、一つはイチゴのショートケーキ、一つはブラウンチョコケーキ、一つはフルーツタルトだ。冷蔵室の大半をケーキの箱が占拠している。なんとも壮観な眺めである。

 

「おやつにしよう」

 

 俺はショートケーキとフルーツタルトケーキを四分の一ずつ切り取り、口の中に放り込んだ。疲れた体に糖分が行き渡る。トレーニング後のおやつは格別である。

 

 式典の翌日、俺と妹はパラディオンの中心街にいた。雨が降っているというのに、「カフェ・アトランタ」の前には長蛇の列ができている。パラディオン、いや惑星パラスで最もおいしいと評判のピーチパイ目当ての人々だ。

 

「出直さないか」

 

 俺はおそるおそる妹の顔を見た。

 

「やだ」

「雨の中で並ぶなんてきついだろ」

「特殊部隊の訓練はもっときついけど」

「こんな日はホットチョコレートの方がうまいぞ」

「ピーチパイじゃないと嫌だ」

「じゃあ、雨が止むまでどこかで時間を潰そう。風邪はひきたくない」

「お兄ちゃんは風邪なんかひかないでしょ。馬鹿だから」

 

 今日の妹はやけに厳しい。ケーキを食べられたことを根に持っているのだ。

 

「悪気はなかった。アルマのおやつだと知らなかったんだ」

 

 俺は必死で弁解した。親が家族で食べるために買ってきたと思っていたのだ。三個ものホールケーキを一人で食べるために買った人間がいるなど、ヤン提督でも予測不可能であろう。

 

「だったら誠意を見せて」

「わかった。好きなだけピーチパイを食わせてやる」

 

 仕方なく列の最後尾に並んだ。英雄の名前を使えば、並ばずに店に入れるかもしれない。だが、それはやってはいけないことだ。注目を浴びないように変装してきた意味もなくなる。

 

「変な人がいるよ」

 

 妹が小声でささやき、三メートルほど前方に視線を向けた。馬鹿でかい胸パッドを詰め込んだ彼女より変な人がいるとは思えないが、とりあえず同じ方向を見る。

 

 行列の中に妹よりずっと変な人がいた。八〇歳前後に見える長身の老人だ。背筋はまっすぐに伸びている。雰囲気は抜き放たれた剣のように鋭い。見るからに高級そうな帝国風のコートに、ジャボと呼ばれる胸飾りが良く似合う。美しく刻まれたしわ、綺麗に整えられた銀髪と口髭が、端整な顔に年輪の深みを加える。生まれたばかりの赤ん坊でも、この老人が高貴な存在だと理解できるだろう。

 

 どう見ても場違いな人物であった。だが、好奇の視線を向ける者はいない。傲然とした老人の雰囲気が、ここにいるのは当然だと思わせるのだ。

 

「あのお爺さん、貴族だよね。なんで並んでるの?」

 

 妹がまっとうな疑問を口にする。老人のように高貴な存在には、ピーチパイを食べるために並ぶなどという庶民的な行為は似合わない。

 

「さあ、わからないな」

 

 俺は知らんふりを決め込んだ。老人のことは嫌いではない。だが、こんな時には会いたくなかった。

 

 老人がこちらを向き、ゆったりした足取りで近づいてきた。彼の目は真実を的確に捉える。外見を変えたぐらいではごまかせない。

 

「久しいな。息災であったか」

 

 老人が帝国語で尋ねる。彼ほどの高貴な人物になると、単なる挨拶ですら重々しく響く。

 

「どうにか永らえておりました」

 

 俺は直立不動の姿勢をとり、帝国語で答えた。人間としての格は老人の方がはるかに上だ。二等兵と上級大将の差よりもずっと大きい。

 

「ふむ、それは重畳であるな」

「かたじけないお言葉です」

 

 平凡なチビがへりくだり、高貴な老人が尊大な態度で応じる。地方都市のカフェの前とは思えない光景だ。俺と門閥貴族マティアス・フォン・ファルストロング伯爵は、予想もしなかった場所で再会を果たした。

 

 

 

 一時間並んだ後、俺たちはようやく店内に入ることができた。俺、妹、ファルストロング伯爵は同じ席でピーチパイを食べる。

 

「ほう、妹君にせがまれて来たのか」

 

 ファルストロング伯爵はナイフとフォークを使い、ピーチパイを綺麗に切り分ける。

 

「はい」

 

 返事をした俺の右隣では、妹が幸せそうにピーチパイをほおばる。

 

「女は甘い物が好きであるからな。わしも若い頃は良く付き合わされたものだ。おかげでオーディンの甘味に詳しくなってしもうた」

「苦労なさったんですね」

「今となっては良い思い出じゃよ」

 

 ファルストロング伯爵の老いた顔に、枯れた笑いが浮かぶ。若い頃は女性に弱かったらしい。

 

「兄も甘い物が大好きなんですよ。私のケーキを勝手に食べちゃったんです」

 

 妹はケーキのことをまだ根に持っていた。

 

「その埋め合わせということか。納得がいった」

「ええ、兄は本当に大食いなんです」

「救国の英雄も、妹君から見ればただの食いしん坊かね」

「兄が兵役に行ってから、実家の食費が三分の二になったんです。五人家族なのに」

「一人で食費の三分の一を使っていたとは。呆れたものだ」

 

 妹は自分の大食いを棚に上げ、ファルストロング伯爵は愉快そうに笑う。俺は肩身の狭い思いをしながら四個目のピーチパイを平らげる。

 

「ところで、なぜパラディオンにいらしたんですか?」

「英雄兄妹の面を拝みに来たんじゃよ」

 

 ファルストロング伯爵がとぼけた顔で答える。

 

「恐縮です」

 

 五個目のピーチパイを食べようとした俺は、顔を引きつらせた。

 

「冗談じゃよ。七三〇年マフィアゆかりの地を巡っておるのだ。この店のピーチパイは、かのウォリス・ウォーリックが贔屓にしておったと聞いた」

「パラディオンは、ウォーリック元帥が一一歳から一五歳までお過ごしになった街ですからね。ゴルディアスの人は、『我が街こそがウォーリック元帥の故郷だ。お生まれになった病院はこちらにある。お過ごしになった期間もこちらの方が長い』などと言っていますが、信じてはいけません。ウォーリック元帥が最も多感な時期をお過ごしになったのは、パラディオンです。精神的影響を考えると、パラディオンこそが本当の故郷というべきでしょう。ゴルディアスはパラディオンのベッドタウンですので、実質的には生誕の地もパラディオン……」

「卿の言いたいことはわかった。ウォーリックはパラディオンが生んだ英雄なのだな」

 

 ファルストロング伯爵はうるさげに手を振る。

 

「もちろんです。栄光ある七三〇年マフィアの一翼を担ったお方ですから」

 

 俺は精一杯胸を反らした。ウォリス・ウォーリック宇宙軍元帥といえば、ブルース・アッシュビー元帥の指揮下で無敵を誇った「七三〇年マフィア」の一人だ。パラディオンが誇る英雄である。

 

「当時は内務省でデスクワークをしておってな。悔しくて悔しくてたまらんかった。戦うたびに帝国軍が負けるのだからな。軍に入ってアッシュビーをやっつけてやろうと思ったこともあった」

 

 ファルストロング伯爵は懐かしそうに目を細める。かつては純粋な若者だったようだ。

 

「俺たちにとっては英雄でも、帝国人にとっては憎むべき敵だったんですね」

「そうじゃな。本当に憎たらしい敵じゃった。わしも友人と一緒に、アッシュビーを倒す方法を話し合ったものだ。『帝国軍を改革しないといかん』とか、『戦場で勝てぬなら謀略を仕掛けよう』とかな。『いっそ同盟に亡命して、アッシュビーを暗殺しよう』とほざく馬鹿もおった」

「伯爵閣下にそんな頃があったなんて、想像できません」

 

 俺は口元を綻ばせた。ファルストロング伯爵には、勝敗を超越したような風格がある。そんな人が何かに一生懸命なところを想像するだけで、微笑ましくなってくる。

 

「昔を振り返ろうと思った時、七三〇年マフィアが頭の中に浮かんできた。かつての敵をしのびながら旅をする。それもまた一興であろう」

「なるほど、良くわかりました」

「卿と会えたのは僥倖であった。この街を案内せよ。食費はわしが払ってやる」

 

 ファルストロング伯爵は、俺を食べ物で釣れると思ったらしい。案内するのはやぶさかではないが、食べ物目当てと思われては困る。どう答えるべきだろうか。

 

「喜んでお引き受けします!」

 

 食べ物に釣られたのは妹であった。

 

「決まりじゃな」

 

 ファルストロング伯爵が満足そうに俺の顔を見た。フィリップス家では女性の方が強い。妹が承諾したものを拒否できるはずがなかった。

 

 その日から、俺たちはウォーリック元帥ゆかりの場所を巡った。ウォーリック元帥が住んでいた地区、ウォーリック元帥が卒業した学校、ウォーリック元帥が通った手裏剣道場、ウォーリック元帥がフットサルを楽しんだ公園、ウォーリック元帥が仲間と一緒に演奏したライブハウス、ウォーリック元帥が部活帰りに寄ったラーメン屋、ウォーリック元帥が彼女と一緒にパンケーキを食べたカフェ、ウォーリック元帥の士官学校合格祝賀会が開かれた焼肉屋などを訪ねる。

 

「ウォーリックは充実した青春を送ったのじゃな」

 

 ファルストロング伯爵は感慨深そうだ。

 

「多芸多才なお方ですからね。中学時代だって凄かったんですよ。学力はトップクラス。フライングボールと手裏剣競技のスーパースター。同級生とバンドを組み、タッシリ星系中学生バンドフェスで受賞。パラス中学生奇術コンクールで大活躍。女の子には大人気でした」

「全部二位だったんじゃろ?」

「まあ、そうなんですが」

 

 俺は曖昧に笑った。ウォーリック元帥は「何をやっても一流の寸前だった」と言われる。付き合った女性は、彼を本命だと思っていなかった。天才アッシュビーと出会う前から、永遠の二番手になる宿命だったのである。

 

 あっという間に三日間が過ぎ、別れの時が来た。俺、妹、ファルストロング伯爵の三人は、ホテルで最後の夕食を共にした。

 

「これで卿らとも最後か。時が過ぎるのは早いものだ」

 

 ファルストロング伯爵は少し寂しそうに見えた。

 

「本当に楽しかったです」

 

 満面の笑顔でそう言った後、妹はナジェールエビの香草焼きを食いちぎる。この三日間、彼女がやったことといえば、ファルストロング伯爵を食べ物屋に引っ張っていくことと、飲み食いすることだけだった。

 

「わしも楽しかった。若い者に飯を食わせるだけで嬉しくなるとはな。冷酷非情のマティアス・フォン・ファルストロングが、好々爺になって人生を終える。それはそれで悪くない」

 

 自嘲半分、照れ半分といった感じで、ファルストロング伯爵は微笑む。こんな人が冷酷非情と恐れられたとは想像できない。

 

「伯爵閣下はお優しい方だと思います」

 

 妹は口の周りの食べかすをナプキンで拭くと、生真面目な顔で言った。

 

「卿の辞書では、『優しい』とは『飯を食わせてくれる』と同義じゃろうが」

「冷酷非情とは、ブラウンシュヴァイク公爵のためにある言葉です。見るからに悪人面じゃないですか」

「何も変わらんよ。わしもオットーも同類だ」

 

 ファルストロング伯爵は、帝国最大の貴族をファーストネームで呼ぶ。彼の家とブラウンシュヴァイク公爵家は親戚なので、三〇歳年下のオットーを身内の若者扱いする。

 

「ブラウンシュヴァイク公爵は人間じゃないです」

 

 妹は嫌悪感を込めて言い放つ。彼女はブラウンシュヴァイク公爵領に潜入し、圧政の実態を目の当たりにした経験がある。

 

「あの人に好意を持つ理由はないですね」

 

 俺は控え目に妹を支持した。敵国の政治家とはいえ、ブラウンシュヴァイク公爵の振る舞いは酷すぎる。

 

 権力争いで不利となった門閥派は、「火のないところに煙を立てる」戦略に出た。先帝側近グループ要人に関する疑惑をでっちあげ、支配下のマスコミに報道させる。貴族のサロン、職能組合、ルドルフ青年団、民衆の口コミ情報網、ネット、フェザーンのゴシップ紙を通し、マスコミの報道を補完する情報を流す。複数の非公式な情報ルートに同じ情報を流すことで、疑惑が真実だと思い込ませる。宮廷が「疑惑は真実」という空気に傾いた時、門閥派の警察や情報機関が「捜査」を始めるのだ。

 

 国内予備軍司令官パウル・フォン・オーベルシュタイン大将に、劣悪遺伝子排除法違反の疑いがかけられた。オーベルシュタイン大将が義眼を使っているのは、全銀河に知られている話だ。生後二か月の時に事故で失明したため、義眼を使うようになったとされる。だが、最近になって、失明が事故によるものではなく、先天的な視覚障害である可能性が出てきたという。

 

 帝国は先天的な障害者を重罪人扱いする国である。マクシミリアン=ヨーゼフ晴眼帝による劣悪遺伝子根絶宣言以降は、「存在しない者を殺すことはできない」という理屈で、組織的な障害者迫害はなくなった。それでも、障害者に対する差別規定は残っている。先天的な障害が見つかった場合は、劣悪遺伝子排除法が適用されるのだ。

 

 前の世界の戦記によると、オーベルシュタイン大将は先天的な視覚障害者だった。この事実が明るみになったら、懲戒免職は確実である。上官のラインハルトは任命責任を問われるだろう。

 

 また、軍事監察官フレーゲル男爵は、オーベルシュタイン大将を職務怠慢で告発した。オーディンの反乱を鎮圧した時に、反乱者を数百万人しか処刑せず、反乱者の家族を一人も処刑しなかったことが問題になった。帝国の支配階級の常識では、反逆者は家族に至るまで根絶やしにするべきであって、見逃すなどあってはならないことだ。先帝側近グループの間でも、オーベルシュタイン有罪論が広がっている。

 

 オーベルシュタイン大将は休職を命じられたそうだ。失職は免れないだろう。ラインハルトがオーディンを離れているため、彼を擁護できる者はいない。前の世界で銀河最高の陰謀家だった人物が、陰謀によって追い落とされた。

 

 フェザーンのゴシップ誌が、全裸で抱き合う健康的な黒髪美人と清楚な金髪美人の画像を表紙に掲載した。写真としか思えないほどに精巧なCGである。黒髪美人がマグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ男爵夫人なのは、幼児園児が見てもわかる。金髪美人はさほど有名な人物でもないが、帝国の宮廷に詳しい人が見れば、アンゼローゼ・フォン・ミューゼル男爵夫人なのは明白だ。

 

 ヴェストパーレ男爵夫人とミューゼル男爵夫人の同性愛疑惑が、メイン記事であった。この二人は深い親交を結んでいる。また、ヴェストパーレ男爵夫人は青年芸術家を愛人にする一方で、男装した金髪の美女を私設秘書として連れ歩いており、バイセクシャルだと言われる。ミューゼル男爵夫人の弟は、同性愛疑惑が根強いラインハルトだ。それだけに現実味がありそうに思われた。

 

 ヴェストパーレ男爵夫人は誰もが知る銀河最高の女傑だ。七人の若手芸術家を愛人とする「歩く博物館」、ラグナロック戦役中に反同盟ゲリラを指揮した「ジーク将軍」、開明派が集まるサロンを主宰する「開明派の女王」など、様々な顔を持つ。前の世界ではヒルデガルド皇太后が執政した時代に活躍した。この世界では、キルヒアイス上級大将やオーベルシュタイン大将とともに、大元帥府三傑の一人に数えられる。

 

 ミューゼル男爵夫人とは、ラインハルトの姉アンネローゼである。先帝が死んだ後、グリューネワルト伯爵位を返上し、実家のミューゼル家を継いだ。帝国騎士から男爵に昇格した後は、公式の場から姿を消した。昨年一二月に宮廷のクリスマス会に出席するまでは、死亡説も流れていた。

 

 ゴシップ誌は帝国、フェザーン、同盟の三か国で大々的に広告を出した。同盟領の僻地を走る電車の電子看板にも、ヴェストパーレ男爵夫人とミューゼル男爵夫人の全裸画像が映し出される。二人から名誉棄損で訴えられると、出版社は超一流の弁護士を集めた弁護団を結成し、「最高裁まで戦う」と宣言した。莫大な広告費や弁護士費用を負担する財力など、ゴシップで食っている零細企業にはない。誰が金を出しているのかは明白であった。

 

 帝国では同性愛は「遺伝性の精神障害」とされており、発覚した場合は死刑もありえた。同性愛疑惑をでっちあげ、ヴェストパーレ男爵夫人の動きを封じ、開明派にダメージを与える。ミューゼル男爵夫人に同性愛の疑いをなすりつけ、同じ遺伝子を持つラインハルトの名誉を傷つける。陰湿なやり口だが効果は大きい。ラインハルトはさぞ怒っていることだろう。

 

「卑劣にもほどがあります。障害やセクシャリティを攻撃材料にするなんて、まともな人間がすることじゃありません」

 

 妹は右の拳を固く握りしめた。掌の中のリンゴが砕け、果汁が流れ落ちる。

 

「わしがオットーの立場なら、同じことをするがね」

「えっ?」

 

 俺と妹は同時に声を発した。ファルストロング伯爵がこんなやり方を肯定するなど、思いもよらなかった。

 

「考えてみろ。オーベルシュタインとヴェストパーレを消すには、どれだけのコストがかかる? 同盟軍はあの二人を殺すために、大軍を動かし、腕利きの暗殺者を送り込んだ。それでも殺せなかったのじゃぞ。金を使うだけで済むなら安いものだ」

「消す理由がおかしいです。国民を守るためなら、許せないけど理解はできます。でも、ブラウンシュヴァイクは違います。税金を払いたくないだけじゃないですか」

 

 妹は貴族への課税を阻止しようとする門閥派を、「税金を払いたくないだけ」と切り捨てる。

 

「ブラウンシュヴァイクは民主化するとか、講和したいとか言ってますけどね。信用できません」

「オットーは本気だと思うがな」

「どうして……」

 

 妹が大声を出しそうになったので、俺は手を伸ばして遮る。

 

「理由をお聞かせ願えますか?」

 

 俺は姿勢を正して質問した。そして、右隣の妹にアイコンタクトで「落ち着け」と指示する。

 

「簡単な話じゃ。リヒテンラーデやローエングラムは、皇帝陛下の威光を拠り所としている。陛下の威光が弱くなれば、奴らの力も弱くなる。貴族から税金を取ることもできなくなるのじゃよ」

 

 ファルストロング伯爵の回答は明快だった。権力を皇帝から議会に移す。そうなったら、貴族に課税しようとする先帝側近グループは、権力を失うわけだ。

 

「そう考えると、民主化はうまいやり方ですね。皇帝はリヒテンラーデ公爵に囲い込まれている。武力をもって皇帝を廃立するのは難しい。だったら、皇帝権力を弱くするのが正解です」

「選挙を操作するのはたやすい。卿らが三年一か月前にやったことを真似れば良いだけだ」

「耳が痛いです」

 

 俺はいたたまれない気持ちになった。七九八年一二月、同盟軍は解放区の総選挙に干渉し、民意をねじ曲げた。俺もその片棒を担いだ。解放区を安定させるためとはいえ、正当化はできない。

 

「貴族ならもっとうまくやるであろうな。平民が働く企業も、平民が物を買う店も、平民が借りている家も、平民が金を預ける銀行も、平民に金を借すローン会社も、すべて貴族の持ち物じゃ。締め付ける方法などいくらでもある」

「有権者の仕事と食べ物と家と預金と借金を握ってる政党ですか。恐ろしいですね」

「役所やフェザーン企業の世話になっている者でも、貴族から自由になることなどできん。縁をたどれば、貴族の世話になっている者にたどり着く。『お前の兄をクビにする』と脅されたらどうする? 逆らえるか?」

「無理です」

「選挙は操作できる。卿らがオットーにそう教えた」

「…………」

 

 俺は無言で首を振った。特権階級にコントロールされた議会政治。思いつく限り、最悪の政治体制だ。同盟と講和してしまえば、体制が外圧で倒れる可能性もなくなる。自分が開けてはいけない扉を開けたことに気づいた。

 

「ローエングラム大元帥が選挙に出たら、勝つかもしれませんよ。あの方には軍隊票があります。昨日の式典で二一〇〇万人が味方についたはずです」

 

 妹が反論を試みた。ブラウンシュヴァイク公爵が勝つなんて認めたくないと、その目が語っていた。

 

「ローエングラムの小僧は金を持っているのか?」

「侯爵ですから、お金は持っていると思います」

「貴族の資産とは一門企業全体の資産じゃぞ? オットーの一門が経営する企業は三〇〇〇社を超える。ウィルヘルムの一門が抱える企業も三〇〇〇社を超えるじゃろう。二〇〇〇社以上の企業を抱える一族は五家、一〇〇〇社以上の企業を抱える一族は二〇家前後、数百社や数十社を抱える家となると数え切れぬ。ローエングラムの小僧は、どれだけの企業を抱えているのだ?」

「あまり持っていないでしょうね」

「ローエングラム家の財政事情はわからん。じゃが、ある程度は推測できる。復興から五年しか経っていない家じゃ。領地以外の権益は持っておるまい。大貴族と結婚しておらぬゆえ、一門の支援はあてにできぬ。ローエングラムの小僧には、兵士とその家族を囲い込むだけの金がない」

 

 ファルストロング伯爵は、ラインハルトが勝つ可能性を資金力の面から否定した。

 

「リヒテンラーデ公爵やブラッケ侯爵はどうです? お金を持っていそうですが」

「どっちも金は持っとらんよ。官僚貴族というのは爵位は高くても、一門の数は多くない。不正蓄財に励んだところで、一門企業が集める金に比べれば微々たるものじゃ」

「勝つ方法はないですか?」

 

 妹は諦めきれないといった表情で、ファルストロング伯爵を見る。

 

「選挙をやったら、ローエングラムは確実に負ける。人気なんてものは何の役にも立たん。金がすべてだ。それがわかっているからこそ、あの男は民主化に反対した」

「民主化ってお金の問題なんでしょうか?」

「金の問題じゃよ」

 

 ファルストロング伯爵はきっぱりと言い切る。

 

「結局のところ、金が欲しいだけに過ぎぬ。ローエングラムやリヒテンラーデらは、貴族から取った金を国庫に移し、国家予算という名目で子分に配りたい。オットーやウィルヘルムらは、自分や子分が稼いだ金を守りたい。金のためなら議会を作るし、講和もする。それが権力者というものじゃ」

「他の人はともかく、ローエングラム大元帥はお金を欲しがる人には見えません」

「あの男は権力を求めている。ならば、金を欲しがるのは当然のこと。金は力を生む。金を持っていれば、人が群がる。人を集めれば、やりたいことができる。問題を解決するにも、理想を実現するにも金が要る。誠実な権力者ほど金を欲しがる。金を集めるのは上に立つ者の義務だ」

 

 元権力者が語る金と力の原理は、単純だがある種の真実を突いているように思われた。金がないところに力は生まれない。トリューニヒト議長は金集めの名人だ。クリーンなイメージがあるレべロ議員にしても、スポンサーを引っ張る力はあった。

 

「帝国情勢はどうなるとお考えでしょう?」

 

 俺は今後のことについて質問した。混沌とした帝国情勢も、彼なら的確に分析できそうだ。

 

「民主化の流れが加速するじゃろうな。金を守れるとなれば、有力貴族はこぞってオットーに味方する。宮廷政治というのは金のある方が勝つ」

「先帝側近グループが逆転する可能性はあるでしょうか?」

「わしがリヒテンラーデなら、オットーとウィルへルムに取り引きを持ちかける。『民主化を潰してくれたら、娘を皇帝にする。摂政はあなただ』とな。議会の黒幕より、専制君主の摂政の方がうまみは大きい。取り引きが成り立つ余地はある。成功しなかったとしても、敵の足並みを乱すことはできる。どう転んでも損はしない」

 

 ファルストロング伯爵にとって、策略を練ることは料理を作ることよりも容易いようだった。本当に恐ろしい人だ。

 

「ローエングラム大元帥が活躍するシナリオはありますか?」

「ありえんな。兵士の支持なんてものは、取引材料にはならん。リヒテンラーデに敬遠されているふしもある。この時期に外へ出されたのだからな」

「武勲を立てすぎたんですかね」

「そうじゃろうな。ローエングラムを先帝側近グループのトップにしたい者は多いはず。リヒテンラーデは知恵はあるが人望がない。引退したら殺されかねないという理由で、現役を続けている男じゃからな」

「帝国は厳しいですね」

 

 俺は肩をすくめた。同盟政界は引退してもただの人になるだけで済む。だが、帝国政界には殺されるのが怖くて引退できない人がいる。想像を絶する世界だ。

 

「同盟も厳しいと思うがな」

「平和ですよ」

「武勲を立てすぎて外に出された提督が、同盟にもいるではないか」

 

 ファルストロング伯爵は意地悪な笑みを浮かべる。

 

「偶然でしょう」

 

 俺は言葉を濁し、三品目のシーフードピラフを注文した。その提督は褒美として休暇をもらったのだ。警戒されたわけではない。恐れるに値しない小物なのだから。

 

「それなら良いのじゃがな」

「当面は平和が続くとみてよろしいんですよね?」

「世の中に絶対はない。わしは常識的なシナリオを提示しただけに過ぎん。物事が常識通りに進むとは限らん」

 

 ファルストロング伯爵はどこまでも慎重だった。百戦錬磨の老貴族は己の智謀を過信しない。

 

「非常識的なシナリオになったら、ブラウンシュヴァイクが負けるかもしれないんですね」

 

 やけ食いをしていた妹の表情が少し明るくなる。

 

「常識的なシナリオを望みます。帝国人には申し訳ないですが、ローエングラム大元帥が失脚してくれた方がありがたいですから」

 

 俺は苦笑いを浮かべた。敵なんて弱い方がいい。軍人の仕事は国を守ることであって、強敵と戦って満足感を得ることではないのだ。

 

「食えるだけ食え。どんなシナリオになろうとも、飯は必要じゃぞ」

 

 ファルストロング伯爵は口を開けて笑い、俺と妹の肩を叩いた。そして、ウェイターを呼び、大量の料理を注文してくれる。ディナーは始まったばかりだ。


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