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「シノン、これ、半分」
「え、いいの? あんたが全部食べた方がいいんじゃない?」
「ルコ、そんなおなか空いてないから、大丈夫」
自身を《ルコ》と言った少女から、半分こされたパンをシノンが受け取るのを、キリトは見ていた。
この黒き巨樹の前で出会った少年と少女の二人とは、ひとまず敵対関係とはならなかった。この二人に出会ってすぐに、「自分達は互いの事しか憶えていない記憶喪失であり、気が付いたらこの森の中に迷い込んでいた」と話したところ、少年の方が「君達が
何でも、《暗黒神ベクタ》と呼べる存在が、その力を持って人の記憶を抜き去り、森や草原に
そんな説明の後、少年は《ユージオ》と名乗り、この近くの村に住んでいると話してくれた。そして今、丁度昼休みに差し掛かり、
「あんなパンくらいしかなくてごめんね。昔はもっとちゃんとしたお弁当があったものなんだけれど……」
ユージオは申し訳なさそうにしていた。キリトは首を横に振る。
「いやいや、食べれる物をくれただけで十分だよ。それに、あんな小さい子からも半分もらってしまって、申し訳ない」
「……そうなんだよ。彼女がいてくれたら、きっとルコの面倒も見てくれて、美味しいものだって沢山食べさせてあげられたんだ」
答えたユージオにキリトは目を丸くした。彼女とは誰の事だ?
「彼女って?」
「《アリス》。僕の幼馴染で、同い年の女の子だった。小さい頃は朝から夕方まで一緒に遊んでたんだ。僕が《天職》を与えられてからも、毎日お弁当を持ってきてくれて、それが本当に美味しくてね。
でも、彼女は六年前……僕が十一歳の夏に、村に《整合騎士》がやってきて、彼女を《央都》へ連れ去ってしまったんだ」
《天職》、《整合騎士》、《央都》。登場してきた聞いた事の無い単語を頭の中に入れ、軽く考える。整合騎士というのはこの世界における秩序維持者、央都はこの世界の都の事だろう。
キリトはユージオに続きを促した。
「それは、僕のせいなんだ」
「え、なんで?」
「安息日に北の洞窟に二人で出かけて、帰る途中で道を間違えて、果ての山脈の向こうの、闇の国への入り口に出ちゃったんだ。知ってるだろう? 《禁忌目録》には闇の国に決して踏み入ってはいけないって。僕はそうならずに済んだけど、アリスはつまずいて転んで……闇の国の土に触れてしまったんだ。たったそれだけの事なのに、整合騎士が村に来て、皆の前でアリスを鎖で縛りあげて、連れ去った」
ユージオは拳で地面を叩いた。悔しさで顔が歪みかかっている。
「僕はその時アリスを助けようとした。でも動けなかった。斧で騎士に斬りかかろうとしたけど、全然動けなくて、結局黙って見てただけだった」
《それで、そのアリスはどうなったのだ。整合騎士とやらに連れ去られて、その後は?》
リランの《声》による問いかけにユージオは答える。最初は驚いていたが、この短時間のうちにリランの《声》に慣れたようだった。
「整合騎士は、審問の後に処刑するって言ってた。だからアリスは処刑されたのかもしれない……けど、僕はそれを信じてるわけじゃないんだ。アリスはきっと生きている。ここから遠い央都で、今も生きてるって信じてるんだ」
ユージオの推測を聞く中で、キリトはとある単語に引っ掛かりを覚えていた。アリスという名前だ。それ自体はありふれた女性の名前であるが、何故だか、ユージオの口から出てくるアリスという名前からは、妙な懐かしさを感じる。まるで子供の時に一緒に遊んでいた友達の名前がアリスだったかのように。
しかしキリトの記憶の中にはそんなものは存在しない。だからこそ、奇妙に感じられて仕方がなかった。いや、奇妙なのはそこだけではない。ユージオとルコ自身もだ。
この世界は何かしらのゲームの中。そして彼らはNPCか何かだと思っていたが、ユージオもルコも、豊かな表情と仕草、自然な受け答えを先程からやり続けている。こんな真似はそこら辺のゲームのNPCにはできない事だ。彼らには超高性能AI――それこそリラン達《
その疑問をキリトは頭の片隅に置いておき、ユージオに尋ねた。
「なら、探しに行かないのか。その央都ってところにさ」
ユージオは首を横に振り、話してくれた。
何でも、この近辺にあるという、ユージオの住んでいる村こと《ルーリッドの村》は、《ノーランガルス北帝国》の更に北方に位置しており、南にある《央都セントリア》まではどんな早馬を使ったところで1週間はかかるそうだ。
そして何より、ユージオには、この《ギガスシダー》という名を持つ大樹を切るという《天職》が与えられており、それを投げ出すと《禁忌目録》違反になってしまうため、この村からは出る事が叶わないという。
(この禁忌目録というのが……)
現実世界における法律や規則に値するものなのであろう。だが、幼馴染のアリスの生死よりも、この禁忌目録を遵守するというユージオの行動には、違和感を覚えた。禁忌目録はそこまでして守らないといけないものなのか?
いよいよ尋ねたくなってきたその時、先に尋ねたのがシノンだった。
「ねぇユージオ、この木を切り倒してしまえば、あんたは天職が完了できて、央都までアリスを探しに行けたりするんじゃないの。もしそうなら、さっさと切ってしまえば――」
「それ、難しい」
答えたのはユージオではなく、ルコだった。
「ルコの言う通りさ。これだけの《天命》を削り切るなんて、無理な話だよ」
そう言ってユージオは、何もない空間に《S》の字を描く動作をした。すると、その《S》の字が描かれた空間に、突如として紫色のウインドウが出現した。そう、自分達がどんな事をしても出現させる事のできなかったウインドウだ。その光景を見る事で、キリトはこの世界が仮想世界であるという事を改めて認識する事ができたが、余りに突然の事だったので、驚いてしまっていた。
そんなキリトをユージオが不思議そうに見る。
「キリト、まさか《ステイシアの窓》を見るのも初めてとか言わないよね?」
《ステイシアの窓》。勿論聞いた事の無い用語だが、それがこの世界におけるウインドウ――ステータスを見れるモノという事で間違いないようだ。「それくらいは見た事あるさ」と言い返して、キリトはユージオの開いた《ステイシアの窓》の中身を閲覧する。
そこには二十三万二千という数字が出ていた。これがユージオの言うギガスシダーの《天命》――即ちHPや耐久値という事なのだろう。ただの黒ずんだ樹が持つにしては、随分とぶっ飛んだ数値だと言えそうだ。
「二十三万二千……これがギガスシダーの《天命》って奴か」
「そうだよ。この樹を斧で刻むたびに、《天命》は確かに減るんだけど、夜の間にこいつは刻んだ深さの半分を埋め戻しちゃうからね。実際は一日に刻んだ回数の半分しか削れてないんだ」
「何? こいつは自分で《天命》を回復させられるのか」
「そうだよ。そんな性質を持ってるせいで、僕が一年のうちに減らせるこいつの《天命》は、六百程度なんだ。それもただの斧じゃなくて、竜骨の斧でやってね」
うげぇと言いたくなった。ギガスシダーの《天命》は二十三万二千で、一年のうちにユージオが減らせる《天命》は六百。つまりこの樹を切り倒せる日が来るのは、単純計算で今から三百八十六年後になってしまう。現在のユージオで七代目という事は、八代目と九代目ではまだ無理で、十代目か十一代目で達成されるという事になるが、勿論その時にユージオが生きている事はない。ユージオはこのギガスシダーという巨樹に囚われたまま一生を終えるしかないというわけだ。
それはあんまりじゃあないか。彼には幼馴染であるアリスを探すという目標があるというのに。
「こんな事してる場合じゃないっていうのはわかっているんだ。アリスのためにも、ルコのためにも……でも、禁忌目録には逆らえない」
そう言ってユージオは、シノンとリランの隣にいるルコを見た。キリトも同じように、シノンの右隣でパンを食べている少女に目をやる。見たところ九歳から十歳程度の体型で、我が子であるユイを思い出させる黒色の長髪。瞳はオレンジ色と茶色の中間くらいの色をしている。
しかし、その中で一番目立っているのは、被っている帽子だった。ルコの帽子は、大きな猫耳帽子のような形状をしているのだが、その耳の部分がちゃんと天へと逆立っているのだ。まるで骨組みか何かが入っているかのように、しっかりしている。
それだけではない。帽子はルコの額の辺りも覆っているのだが、その部分に妙な出っ張りがある。これも骨組みがあるか、もしくは下に何かあるように、型崩れしたりしないでいる。そんな不思議な恰好のルコを眺めながら、キリトはユージオに問うた。
「そういえば、あの子はなんなんだ。お前の妹とかか?」
「まさか。ルコとは昨日の昼頃に、このギガスシダーの近くで会ったんだ」
「昨日? 出会ってまだ一日だったのか、お前とルコは」
「うん。最初は村の子が
「すごい問題?」
ユージオは立ち上がり、ルコへと歩み寄った。即座に反応し、見上げてくるルコのすぐ近くにしゃがみ込み、話しかける。
「ルコ、キリト達に見せてもいいかな」
ルコは不安そうな顔になった。乗り気ではないというのがとてもよくわかる。
「……嫌な事なったりしない?」
「多分大丈夫だよ。リランっていう、君よりもすごいのを連れてるのがキリト達だしさ」
「なら、見せる」
ルコはそう言って、トレードマークの帽子に手を伸ばし、ゆっくりと外した。そして見えたものに、キリトは思わず目を丸くしてしまった。
ルコの帽子の下から出てきたのは耳だった。髪の毛と同じ色の毛に包まれた大きな獣の耳が、ルコの頭部から生えていたのだ。その姿はファンタジー世界でお馴染みの、獣の耳を生やす亜人そのものだった。
だが、驚くべきところはそこだけではない。ルコの顔の側面を見てみたところ、自分達人間の耳があるところにも耳があったのだ。彼女は獣の耳と人間の耳、両方合わせて四つの耳を持っていた。更に額を見てみれば、赤い宝石のような質感の一本角と思わしきものが、空に向かって生えていると来ている。
それはまるで、現実世界がまだ十六世紀だった頃、南米にて、とあるスペイン人が発見したという幻獣カーバンクルのようだ。哺乳類なのか鳥類なのか爬虫類なのかさえわからず、ドラゴンであるなんていう説さえも出てくるカーバンクルが、半分が獣で、もう半分が人の姿を取っている。そう思えてくるルコの姿は、本当にこの世界がファンタジーの仮想世界であるという事を証明していた。
「み、耳が……」
「四つある……」
シノンとキリトで言うと、ユージオが頷いた。良くない出来事を想像しているかのような表情になっていた。
「そうだよ。最初は僕もびっくりした。耳がもう一対あって、角がある子なんて、初めて見たから」
こういう亜人族がいるというのはファンタジー世界ではよくある事だし、そういった者達と人間が普通に交流している文化があるというのも、一種の当たり前みたいなものだから、ルコの存在自体は何も問題ないとキリトは思う。だが、ユージオの反応と先程の話を聞く限り、無問題というわけではないらしい。それについてキリトは尋ねる。
「ルコみたいな人は他にいないのか。こんな感じで獣っぽい耳があって、角が生えてる人」
「いると思うよ。ただし《人界》じゃなく、《ダークテリトリー》にいるんだと思う」
そこでユージオはまた話してくれた。《ダークテリトリー》とは、先程のユージオの話に出てきた、ここから北にある果ての山脈を超えた先にある闇の国の事で、そこには凶悪な《ゴブリン》や《オーク》、《ジャイアント》や《ギガース》といった、人ならざる者が生息しているのだという。
つまりは亜人の国であるようだが――《ダークテリトリー》とかいう名前である事と、話すユージオの嫌そうな顔を見る限り、どうやら《ダークテリトリー》と《人界》は良好な関係を築いているわけではないらしい。恐らく亜人は悪という認識なのだろう。
そんな悪しき闇の国から来た子供がルコである可能性があるならば、村に連れて行くなんて事はできないのかもしれない。
「って事は、ルコは昨日からずっとここで一人で野宿してたっていうの」
シノンが問いかけると、ユージオがすまなそうに頷いた。
「そうするしかなかったんだ。村に連れていって、もし耳と角がある事がバレたりしたら、確実に騎士が来て、アリスみたいに連れていかれて……見世物にされながら殺されてしまうと思う」
キリトは目を見開いた。人界に迷い込んだ亜人を殺すのを見世物にするだと? こんな小さい子供の亜人にまでそんな事をするというのか? 流石にいかれているとしか言いようがない。いや、それだけ人界の人々が《ダークテリトリー》の者に対して憎悪を持っているという事なのか。
《だが、我が感じる限り、ルコはお前の言うゴブリンやオークなどのような凶暴性は持っておらぬようだぞ。もしルコがそういった者達と同じならば、キリトやシノン、お前の事も襲っているはずだからな》
リランの《声》にユージオが答える。
「そうだよ。それは間違いないんだ。ルコは他の《ダークテリトリー》の連中とは違って、全然恐ろしくなんかない。僕達に危害を加えたりするような子じゃないんだ。もしかしたらダークテリトリーから来たわけじゃないっていう可能性だってある。だから、村に連れていって、ちゃんとしたところで過ごさせてあげたいとは思うんだけれど……」
「大人達は認めないか」
キリトの問いかけにユージオが悔しそうに頷く。
「ルコは《ダークテリトリー》の連中とは違うって主張しても、ルコの耳と角を見た大人達や騎士達は、《ダークテリトリー》の差し金って言って、確実にルコを殺そうとすると思うし……ルコは大人しくて何もしないから、そこに付け込んで、面白がって、苦しめて殺すかもしれない。大人達に本当の事はとても教えられないよ。だから、村に行かせたりせずに、早くルコを帰らせてあげたいんだけど……」
まだ何かあるようだ。キリトは続きをユージオに促す。彼はキリトとルコを交互に見て、尋ねてきた。
「ねぇ三人とも……《はじまりの
キリトは目を半開きにした。《はじまりの姫巫女》と《護の巫》。どちらも聞いた事のない言葉だった。何か重要な役割を持った存在を示す単語であるというのはなんとなく想像がつくが、それ以上の事は全く思いつかない。ユージオの求めている答えを返せそうにはなかった。
そもそも、「記憶喪失である」と前もって伝えているはずの自分達に、そんな事を聞いてどうするというのだろう――そんなツッコミを入れたくなったが、キリトは即座にやめた。ユージオがはっとしたような顔になったからだ。
「あぁっ、ごめん! 三人とも記憶がなかったんだったね。こんな事聞かれても答えようがないのに、聞いちゃって……」
「それは何なんだ。何かの役職……誰かの天職か?」
「探してって言われたの」
答えたのはルコだった。胸の前で手を組んで、一言一言はっきり伝えてくる。
「《はじまりの姫巫女》と《護の巫》を探しておいでって、そうしたら、おうちに帰れるって、おかあさんに言われた。だからルコ、ここ来た」
話を聞く限りでは、母親が子供に何かしらのお使いを頼んだように思える。しかし、《はじまりの姫巫女》と《護の巫》が、明らかに子供でも買えるような物とは思えない。恐らくは人の事なのだろうが――それをルコが理解しているのかは怪しい。確認するため、キリトはルコに問う。
「ルコ、君は《はじまりの姫巫女》と《護の巫》が何なのか、わかるのか。物なのか、人なのかとか」
そうならないでくれと思っていた事をルコがした。首を横に振ったのだ。
「わかんない。でも、見つけないと、おうち帰れない」
「物なのか人なのかもわからないものなのに、探して来いって言ったの? それはいくら何でもあんまりなんじゃないの」
シノンの言葉にキリトは強く同感だった。ルコは九歳から十歳程度だと思えるくらいの見た目であるが、言葉がたどたどしい辺り、精神年齢は実年齢以下だろう。そんな子供に、物なのか人なのかさえもろくに教えていないものを探して来いと言うのは、無茶にもほどがある。
可能であればその事をルコの母親とやらに言ってやりたいところだが、その母親に会う手段を《はじまりの姫巫女》と《護の巫》を見つける以外に絶たれているのがルコなので、できそうにない。
いや、そもそもルコの言っている事と置かれている状況は、何かおかしい。《はじまりの姫巫女》と《護の巫》を探して来いと言われたと言っているからには、その時ルコは母親の
そして《はじまりの姫巫女》と《護の巫》を探すためにここまで来たならば、ルコは家からここに来るまでのルートを通ってきているという事になるはずだ。だから、《はじまりの姫巫女》と《護の巫》を探すのは諦めて、家に帰る事もできるはず。
《そんなもの放っておいて帰ればよいではないか。それで、母親には無理だと正直に伝えればよいのだ》
まさに今思った事をリランが伝えたが、ルコはまた首を横に振った。
「駄目。《はじまりの姫巫女》と《護の巫》、探さないと、帰れない」
キリトはユージオに顔を向けた。ユージオは困った顔をしていた。恐らく自分も同じ顔をしているに違いない。
「この通りなんだよ。おかあさんの言いつけがそんなに大事なのか、ルコは《はじまりの姫巫女》と《護の巫》を見つけないと帰れないって言ってて、聞いてくれないんだ。だから、《はじまりの姫巫女》と《護の巫》を探すしかないって思ったんだけど……」
「お前には天職があるから、ルコの問題には対応できない、か」
ユージオは深く頷いた。天職に縛られて、アリスを探しにいく事も、ルコの抱える問題を解決に向かわせる事もできないユージオと、母親から頼まれた《はじまりの姫巫女》と《護の巫》を探すという頼みに縛られて、帰る事ができないうえ、耳と角を見られれば殺される危険性が高いために、村に行く事が叶っていないルコ。ど事なく両者は似ている。この世界の住人は皆この調子なのだろうか?
そう思っているキリトの横で、シノンが訴えるように言ってきた。
「それでも、この子をここに置いたままっていうのは良くないでしょ。このまま村にも連れていかずに、ここで野放しにしてたら、そう遠くないうちに死んじゃうわ」
「確かにそうなんだけど……でも、ルコの耳、普通に動くみたいだし、もし村に入れた時に耳が動いてるところを見られたら、帽子をはぎ取られて……」
ユージオが言いかけたそこで、リランが《声》を送った。
《ユージオ、お前の心配は必要ないものなのではないか》
「えっ?」
ユージオはきょとんとしてリランを見る。リランはルコを見つめていたが、その視線の先、ルコは帽子を被り直していた。耳と角はすっぽり覆われて、ルコの見た目は大きな猫耳帽子を被った女の子にしか見えなくなった。
《見たところルコの被っている帽子は、骨組みのようなものが入っていて、ある程度中で耳を動かしても違和感がないようにできている。村や町に入ったとしても怪しまれないようにはなっているようだぞ》
「け、けれど……」
《では聞くが、禁忌目録に帽子を被って生活してはいけない、帽子を被っている奴がいたら無理矢理その帽子をはぎ取らなければならないという記載はあるのか?》
「そんなものあるわけないじゃないか。ルーリッドの村にだって、帽子を被って生活している人は
《ならば、村にルコを連れていく事はできるだろう。お前の言う大人達に見つかったところで、変わった帽子を被った子供程度にしか思われないはずだ》
リランに言われても、ユージオは首を横に振った。
「そうかもしれないけど……だけど、僕だけで……いや、セルカと力を合わせても、隠し通していけるかどうか……セルカだって、子供達の面倒を見るのに慣れているけれど、こんな特徴を持った子の面倒をちゃんと見ていけるかどうかわからないし……」
セルカというのは人名だろう。そしてその者が身寄りのない子供達を見ているというのもわかった。その者に任せるのが難しいならば――。
「ユージオ、聞きたい事があるんだが」
「えっ?」
半ば話をぶつ切りにするようにして、キリトはユージオに尋ねた。
「お前の住んでいる村に、まだ人が住める空き家とか、宿とかはないか」
ユージオは「うーん」と言った後に答えた。ユージオが暮らすルーリッドの村には空き家も宿もないそうだが、《シスター・アザリヤ》という人物が仕切っている教会に行けば、泊めてくれるかもしれないのだという。ならば決まりだ。
「それじゃあ、お前の今日の分の仕事が終わったら、そこに案内してくれるか。どうなるかは考え中だけど、俺達でルコの面倒を見るからさ」
「えぇっ、いいの?」
シノンが得意げに答える。
「大丈夫よ。私達、これでも小さい子の面倒を見るのには慣れてるの」
「そうなの? でも、リランはどうするの。こんなに大きいリランを見たら、村の人達、獣が襲ってきたって思って攻撃するかもしれないよ」
それも心配なかった。これまでのゲームと同じ事ができるのであればだが、リランは人間の姿を取る事もできる。それは本人も自覚している事だから、言われなくてもしてくれるはずだ――と、キリトが思った直後だった。
《その心配はない。我には
リランの《声》がしてきたが、そこでキリトは違和感を覚える。三つの姿? 人間形態と狼竜形態の二つではなかったか? 疑問を投げかけようとしたその時、リランの身体が急に光った。そこまで強くはないが、目を覆いたくなるような光だったので、キリトは腕で目を隠した。その光が止んですぐに、光の発生源である《使い魔》を見たところ――。
《この姿になってキリトの肩に止まっておれば、キリトに飼われている小竜程度にしか思われぬだろう?》
自分の肩に載れるくらいの大きさの、小さな狼竜がそこにいた。《SAO》が終わってからは見た事がなかった小さなリランの姿に、キリトは声を上げて驚いた。
――くだらないネタ オリキャライメージCV――
ルコ ⇒ 久野美咲さん
ユピテルと同じイメージCVであるが、ユピテルは少年ボイス、ルコは幼女ボイスと思えばOK。