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「どららららららッ!!」
最初に発砲をしてきたのはバザルト・ジョーの方だった。彼の持つ二丁の《ミニミ軽機関銃》より無数の銃弾が発射されて、こちらへ向かってきた。シノンの使う狙撃銃のような正確さはないものの、弾道はかなりアルトリウスに近いところに命中していた。
その中の十発以上がアルトリウスの居場所を捉えていたが、アルトリウスは岩陰に飛び込んで隠れ、やり過ごした。アルトリウスが隠れた途端にバザルト・ジョーの銃声は止む。無駄弾の使用を防いでいるのだ。
銃を持つエネミーはこちらが隠れても数秒程度は発砲してきたりするものだが、バザルト・ジョーはエネミーではないので、動きが単調である事はない。
更にバザルト・ジョーは二丁軽機関銃という無茶な武器の使い方をしているが、敵を見つけ次第とりあえず撃ち、数打ち当たるを狙うのではなく、ちゃんと狙いを定めて撃っているというのが一瞬でわかった。二丁軽機関銃という無茶振りな武器を見事に使いこなしている。
二丁銃、それも連射可能のものと言ったらシュピーゲルとレインの使う二丁サブマシンガンが思い浮かぶが、あれらよりも、バザルト・ジョーの使っている二丁軽機関銃の方が扱いが難しいはずだ。
そんなものを使っておきながら、あれだけ正確な狙いを出せるのだから、バザルト・ジョーは恐るべき手練だろう。思わず息を呑む。
「……!」
アルトリウスは手元を見た。
あちらは二丁の《ミニミ軽機関銃》。対するこちらの武器は《M4カービン》とホルスターに仕舞っている《ソーコム》、そしてレイアのくれたUFGとプラズマグレネードが三つ。バザルト・ジョーに対抗できる火力が十分に揃っているとは思えない。真っ向から勝負したところで勝ち目がないのは目に見えている。
もし自分ではなくキリトだったならば、あの光剣
勝てるだろうか――アルトリウスは自問していた。ほぼ勢いに任せてバザルト・ジョーとの決闘を受けてしまった。それは間違いだっただろう。勝てない勝負に挑んでしまったのだ。
このまま行けばどうなるのだろう。バザルト・ジョーに負けて、レイアを失うのだろうか。いや、そうなるしかない。
《GGO》では弱者は強者に大切なものを奪われるのが基本だ。だから強くならなければならないが、強くなる前にバザルト・ジョーという強者と戦ってしまっている。そうなれば最後、負けるしかない。
思わず俯いたその時、一つの声が飛び込んでくる。
「おい! アルトリウスよぉ! 隠れるのは別に良い事だが、そこから何もしねえは無しだぞ!」
対戦相手であるバザルト・ジョーの声だった。こちらに出てくるように挑発している。しかしそれに答えられるわけもないし、乗るわけにも行かない。乗ったが最後あれに蜂の巣にされて終わりなのは目に見えているのだから。
アルトリウスは沈黙してやり過ごそうとした。
「出てこねえか……じゃあ、これでどうだよッ!」
バザルト・ジョーの声がもう一回届いた直後、岩の向こうから何かが複数個、弧を描いて飛んでくるのが見えた。
一部が突き出ているような形状の、掌サイズの球体。グレネードだった。しかもプラズマグレネードではなく、爆炎と破片で敵を攻撃する純正グレネードだ。
それが地面に転がったのを見た瞬間に、アルトリウスは咄嗟にダイブとローリングをして離れた。間もなく爆発が起きて、隠れていた岩場が粉々になる。爆風が身体を撫でてきたが、ダメージはなかった。
「そこだな!」
バザルト・ジョーの声がしたかと思うと、足元を銃弾が襲ってきた。気付けばバザルト・ジョーから丸見えの位置に出てしまっていた。しかしこちらからもバザルト・ジョーの位置は補足できる。アルトリウスは反射的にM4を構えて連射した。
弾丸は真っ直ぐ飛んでいってくれたが、一発たりともバザルト・ジョーには当たらなかった。狙いがずれていたのと、バザルト・ジョーが岩陰に隠れたせいだった。
攻撃ばかりではなく、防御や回避もしっかりしているらしい。そしてこちらの射撃がやむと、バザルト・ジョーは岩陰から飛び出して二丁軽機関銃を連射し返してきた。
咄嗟によける事に成功したのと、右足に弾丸を浴びてしまってHPが若干減ったのは同時だった。岩陰にもう一度隠れ、アルトリウスは息を整えようとする。
(駄目だ)
全然攻撃を当てる事ができない。そして向こうはこちらに弾丸を浴びせてくる。
もしかしたら向こうはこちらの動きを読めているのかもしれない。プレイ歴は何日かわからないが、バザルト・ジョーは歴戦の戦士だ。数多くのプレイヤーやエネミーを相手にしては、倒してきたはず。
いくらプレイヤーの数だけ行動パターンがあったとしても、ある程度グループ分けして、予想できるようになっていてもおかしくはない。
増々勝機が
いよいよどうすべきか見えなくなってきたその時。
「おいおいおい! さっきから隠れてばっかりなうえに、オレ様に一発も当てられてねぇじゃねえか!」
またしてもバザルト・ジョーの声がした。仕方がないだろう、俺の実力はあんたよりも低いんだから。あんたの放つ弾丸の雨を浴びたらすぐに蜂の巣になるんだから――アルトリウスは悪態の一つも吐きたくなる。
そこにバザルト・ジョーの挑発は続いてきた。
「そんなんじゃ絶対に勝てねえぞ! お前さんはアファシスちゃん――レイアちゃんのマスターだろうが! そんなんじゃ、レイアちゃんを守る事なんてできねえぞ!!」
アルトリウスは思わず目を見開いた。バザルト・ジョーは挑発をしている――はずなのだが、明らかにこちらを鼓舞しているような口調だった。意外に思うよりも先に、アルトリウスはその鼓舞に乗ってしまっていた。
お前はレイアのマスターだろ――その言葉を耳に入れた途端、脳裏にクレハとレイアの様子が思い浮かんだ。そしてレイアに出会った時の光景、経緯も。
(そうだ)
レイアは自分と一緒に居る事を選んでくれた。レイアという名前も拒絶しなかったし、《GGO》に行けばいつでも一緒に居て、他愛のない話をしてくれて、暢気で元気な様子をいつだって見せてくれる。
その様子に自分は癒やされ――そしてクレハが笑顔になる。
クレハがあんなに楽しそうに笑うところを見たのは、いつ以来だっただろう。いずれにしてもクレハは長い事笑みを失っていた。そんな感じで笑わなかったクレハを、笑わせてくれたのがレイアだ。
笑顔を失った人間に笑顔を取り戻させるくらいの力を持つのがレイアであり、レイアに選ばれたマスターが自分だ。
そのレイアが、勝負に負けた自分を見たらどう思うだろうか。いずれにしても、これ以上ないくらいに悲しい顔をするだろうし、悲しい気持ちでいっぱいになるだろう。そんなレイアもクレハも、絶対に見たくない。
この勝負に負ける事など、誰も許しはしない。レイアも、クレハも、キリト達も、誰一人として許してくれはしないだろう。自分が勝つしかない。
レイアのマスターに相応しいプレイヤーは、この広大な《GGO》で自分ただ一人だけだ。この戦いはそれを証明する最高のチャンスだ。これを逃すわけにはいかない。負けるわけにはいかない――。
アルトリウスは思考を巡らせた。ホルスターに入っているUFGが目に付いた。
UFG――
そしてこのUFGは、今のところ使用者は自分以外に存在していないという。それはつまり、歴戦のバザルト・ジョーであろうとも、UFGを戦いに織り交ぜてくるプレイヤーと交戦した事はないという事だ。
つまりこの武器こそがバザルト・ジョーの想定を超える事ができるもの――バザルト・ジョーの死角を付く事ができるという事。
「……!」
アルトリウスは閃いた。これならいけるはずだ。
それに確認不足だった。こちらには《M4カービン》とソーコムの他に、まだ一つ武器がある。それらすべてを組み合わせれば、あいつの意表を突く事ができるかもしれない。できる限りの動きと戦法をアルトリウスは練り上げた。
「出てこねえか! ならこうするぞッ!」
バザルト・ジョーの声がした。またグレネードを使うつもりだろう。耳を澄ませると、グレネードの
バザルト・ジョーの武器は二丁軽機関銃だった。それ故に発砲時には必ず両手が塞がる。その中でグレネードを使うには、どちらか片手を自由にしておかなければならない。つまりどちらかの手から軽機関銃は外れるのだ。
グレネードを使っている今、バザルト・ジョーは軽機関銃一丁しか持てておらず、あの弾幕の展開はできなくなっているはず。今飛び込んでも、あの弾幕は飛んでこないはずだ。
――
「だぁッ!!」
アルトリウスは思わず声を出して岩陰から飛び出した。グレネードが背後で爆発し、それまで隠れていた岩が破砕された。そして眼前にはバザルト・ジョーの姿があった。
予想通り、バザルト・ジョーは右手にしか軽機関銃を持っておらず、残りを地面に置いていた。ここで飛び出してくるとは思っていなかったのか、バザルト・ジョーは右手の軽機関銃だけで弾丸を飛ばしてきた。
弾道予測線はアルトリウスの身体を捉えていた。それらが飛んでくるよりも前に、アルトリウスは左方向へと銃口を向けたUFGのトリガーを絞った。
UFGの銃口部分よりレーザーワイヤーが射出されて、左方向の地面に突き刺さると、アルトリウスの身体はぎゅんと高速でそちらへ引き寄せられた。
所謂Gが身体にかかってくるが、そこまでひどくはなかった。バザルト・ジョーの弾丸は全てアルトリウスを捉えられずに通過していった。
「おぉッ!?」
こんな動きは見た事がない――バザルト・ジョーはそう言いたそうな顔をしていた。ワイヤーを地面から抜いて転がったアルトリウスは、咄嗟の速度で《M4カービン》をバザルト・ジョーに向けて連射した。
当然ながらバザルト・ジョーは岩陰に身を隠してきたが、それこそアルトリウスの狙い通りだった。《M4カービン》の銃身下部に装着している《M26 MASS》の結合ピンを緩めて外し、UFGが入っていたホルスターに突っ込む。
「このやろッ!!」
バザルト・ジョーが岩陰から出てきて、二丁軽機関銃による掃射を仕掛けてきたが、その中に混ぜるようにしてアルトリウスは《M4カービン》のトリガーを絞り続けた。バザルト・ジョーの放った弾丸の数発がアルトリウスの身体に当たり、HPが奪われる。
しかしそれはあちらも同じだった。《M4カービン》から発射される弾丸の数発がバザルト・ジョーの身体を
同時に彼からの弾丸の一発が《M4カービン》に命中し、腕から弾き飛ばされる。
「うおおおッ!!」
バザルト・ジョーが叫び、残された軽機関銃で銃撃を試みてきた。
銃弾が飛んでくる中でアルトリウスは、ホルスターに突っ込んでいた《M26 MASS》に予備のピストルグリップを突っ込んで装着。
落しておいたUFGを拾い上げて転がり、体勢を立て直すと同時にバザルト・ジョーに銃口を向けた。そのままトリガーを引き――バザルト・ジョーにレーザーワイヤーを突き刺した。
「な、なんだッ!!?」
受けた事のない攻撃だったのだろう、バザルト・ジョーはトリガーから指を離して銃撃を止めた。
「そこだッ!!」
アルトリウスはレーザーワイヤーに導かれてバザルト・ジョーに一気に接敵する。いきなり決闘を申し込んできたかと思いきや、大事な事を教えてくれたバザルト・ジョーが近付いてくる中で、アルトリウスはホルスターから《M26 MASS》を引き抜いた。
そしてバザルト・ジョーに近付ききったところで、《M26 MASS》の銃口をバザルト・ジョーに押し付け、トリガーを絞った。
《M26 MASS》のショットガン特有の轟音と小規模な爆発が起こり――、
「ぐおあああああッ」
バザルト・ジョーは散弾をその身に全部受け、後方へと吹っ飛んでいった。
アルトリウスも反動を諸に受けて、バザルト・ジョーとは反対の方向へ弾き飛ばされてしまい、地面を転がった。しかしできる限りの受け身を取って体勢を立て直し、顔を上げる。
バザルト・ジョーは同じように地面に伏せていたが、そのHPは――赤く変色していた。対する自分のHPはオレンジだ。
決闘の決着条件は、《HPバー》が赤くなるまで減った方が負け。つまりバザルト・ジョーの負けであり、自分の勝ちだ。
確認したアルトリウスは高揚感に包まれそうだったが、すぐに疲労が先に来てしまい、その場に腰を抜かすように座った。
「勝った……」
まだ新人の域を出られていない自分が、歴戦のバザルト・ジョーに勝利する事ができた。信じられないような気もするが、事実であると認められた。
アルトリウスの勝利を確認できたのだろう、後方で決闘を見ていた仲間達が続々とやってきた。誰もが
「アーサー、あんた勝っちゃったの!? バザルト・ジョーに!?」
「あぁ、自分でも信じられないくらいだけど、勝てたみたいだ」
「すっご……まさか、そんな事までできちゃうなんて……あんた、すっご……」
完全に驚ききっている様子なのが見てわかり、アルトリウスは苦笑いした。そこまで意外な出来事だったのだろうか。そんなアルトリウスに続いたのはレイアだった。
「マスターが勝つと信じていました! そしてマスターはそれを現実にしました! 流石わたしのマスター、アルトリウスです!」
「あぁ、なんとか君を守り切る事ができたよ」
「すごいじゃないか、アーサー。まさかあれだけの実力者に勝つなんてさ」
キリトも興奮気味で声をかけてきていた。根っからのバトルマニアであるというキリトからすれば、白熱した戦いというものに興奮せずには居られなかったのだろう。……可能であれば代わってもらいたかったくらいだ。
「正直、勝てる気はしてなかったんだけどな……だから、疲れた」
そう零すと、仲間達の労いは強くなった。やはり誰もが自分の勝利を予想できてはいなかったのだろう。もし今の戦いに賭けがあったならば、バザルト・ジョーに賭けた側は唖然とするしかなかったに違いない。そう思うと尚更苦笑いしそうだった。
その直後に、バザルト・ジョーが起き上がったのが見えて、アルトリウスは咄嗟にそちらへ顔を向けた。
「かぁーッ。負けた。一対一の大勝負に、まさかオレ様が負けちまうだなんて」
バザルト・ジョーはとても悔しそうな顔をしていた。やはり自分に負けるとは思っていなかったようだが――そうなると不思議な事になる。
彼はあの時自分を鼓舞するような事を言ってくれた。もし問答無用で勝つつもりだったならば、自分への鼓舞は余計な事だったはずだ。アルトリウスはバザルト・ジョーに近付き、問いをかけた。
「バザルト・ジョー、あんたはなんで?」
「あ、なんだよぉ?」
「なんで俺にあんな事を言ってくれたんだ。決闘中に言うべき事だったのか」
バザルト・ジョーは少し顔を
「……お前さんの戦い方が、レイアちゃんのマスターらしくないと思ったからだ。レイアちゃんのマスターは、もっと勇猛っていうか、
アルトリウスは首を傾げた。そうなると、自分がレイアのマスターである事を自覚させようとしてくれた事になる。あれだけレイアを欲しがっていたというのに。気になったのだろう、シュピーゲルがバザルト・ジョーに問うた。
「もしかしてバザルト・ジョーは、最初からアーサーに勝つつもりなんかなかったの?」
「いや、アルトリウスには勝つつもりだった! けれど、まさかアルトリウスがあそこまでできるだなんて思ってなかったんだよ。オレ様、やっぱり余計な事を言っちまってたか……」
直後、レイアがアルトリウスの隣に並んだ。
「ジョー、お疲れ様でした。ナイスファイトでしたよ」
「レイアちゃん?」
「最初に言った通り、わたしはアルトリウスをマスターとするアファシスであり、ジョーのアファシスになる事はできません。でも、ジョーはわたしを心配してくれて、とても優しくて、銃が大好きな良い人です。なのでどうか、わたしと友達になってください!」
バザルト・ジョーの目が見開かれた。レイアの言葉はアルトリウスも納得できるものだった。
「俺もそう思うよ。あんたは俺に大事な事を教えてくれた。流石にレイアを渡す事はできないけど、感謝してるよ、バザルト・ジョー」
心からの礼を言うと、バザルト・ジョーは目頭を押さえた。
「くう~……男に涙は不要だっていうのに、何故か目から汗が流れ出ちまいそうだ……お前さん達、なんでそんなに良い奴なんだよぉ、
今にも泣き出してしまいそうなバザルト・ジョーだが、やはりというべきか、彼の全身からは優しさの雰囲気を感じられた。バザルト・ジョーの原動力は優しさを中心とした熱意だったと改めてわかり、アルトリウスは微笑んでいた。
間もなくして、バザルト・ジョーはぐんと顔をこちらに向け直してきた。
「アルトリウス。オレ様の完敗だ。約束通り、良いものをくれてやる。とびっきりの良いものだぞ」
そういえばそんな約束だった。自分が勝ったら、バザルト・ジョーからとびっきりの良いものをもらうという約束――反応したのはシノンだった。
「そんな事言ってたわね。何を
バザルト・ジョーは首を横に振った。
「そんなんじゃねえ。オレ様からアルトリウスに贈るものはただ一つ……」
何を贈るつもりなんだ――首を傾げるアルトリウスに向けて、バザルト・ジョーは両手を腰に添えて、胸を張った。
「《オレ様》だ」
アルトリウスは目を点にした。いや、全員が目を点にしていた。
「は?」
「オレ様がお前さんの仲間になって、お前さんの攻略を支えてやるよ! な、最高に良いものだろ?」
全員で瞬きを繰り返すしかなかった。恐らくも何も、バザルト・ジョーの贈り物とは、バザルト・ジョーのフレンド登録権限であろう。まさか自分自身を最高の贈り物としてくるとは。
出会いから決闘、そして今と、バザルト・ジョーの突拍子の無さには言葉を失うしかなかった。
そこでアスナの隣に並んでいるユピテルが、挙手するように言う。
「もしかしてジョーさん、最初からそれが目的で、ぼく達のところに来たのではないでしょうか」
「わかってるなチビ助! いやな、最初はアルトリウスからレイアちゃんを引き離して、オレ様の相棒にしたいとは思ってたんだよ。さっきも言ったとおり、勝負にだって勝つつもりだった。
だけどよ、よくよく考えてみたら、それはオレ様の思い描いていたのとは違う事になっちまうってわかったんだ。アルトリウスからレイアちゃんを引き剥がせば、レイアちゃんは悲しんじまうだろうし、そうなればオレ様は許されない悪人になっちまう」
バザルト・ジョーはもう一度レイアに向き直った。
「そんな事になったなら、相棒を続けてても嬉しくもねえし、楽しくもねえ。だから、アルトリウスにレイアちゃんのマスターを任せたまま、オレ様がアルトリウスのところへ行けば、レイアちゃんを悲しませる事もないまま、レイアちゃんの近くに居れる! そうわかったんだ」
つまりユピテルの質問通り、バザルト・ジョーは最初からレイアを持っていこうとは思っていなかったのだ。すなわち今の戦いは完全に無駄だったのだが――アルトリウスは無駄だとは思わなかった。バザルト・ジョーのおかげで、とても大切な事に気が付く事ができたのだから。
しかしクレハはバザルト・ジョーの動向を認めていない様子だった。
「何それ! じゃあ結局アーサーはあんたと戦う必要はなかったんじゃないの」
「……そうなるんだが、無条件でアルトリウスの仲間になろうとするのは、戦ってもいないのに勝手に降伏するのと同じだ。そんなんじゃ男が
クレハはもう一度「何それ!?」と言って怒った。戦う意味がなかったと言われたのだから、当然の反応だろう。そこに加えてバザルト・ジョーが仲間になるなんて言っているのだから、認められなくて当たり前かもしれない。
だが、そんな彼が仲間になってくれるというのは、素直に嬉しい。そう思ったアルトリウスは、バザルト・ジョーに率直に返した。
「なるほどな。でも、俺はあんたとの戦いを無駄とは思わないぞ。あんたと戦えてよかったし、これから一緒に戦ってもらえるなら、すごく頼もしいよ」
「おぉっ! わかってくれたみたいだな。勿論だとも! これからはオレ様がお前さんとレイアちゃんの面倒を見てやるからよ、安心しとけ!」
バザルト・ジョーはもう一度胸を張り、クレハとシノン、リランから呆れの溜息が聞こえた。彼女達にとっては、とんでもないものを抱えてしまったような気分になるしかない出来事だろうが、その中でアルトリウスは純粋な嬉しさを抱いていた。
そこでアルトリウスはある事に気が付き、もう一度バザルト・ジョーに言った。
「あぁそうだ、バザルト・ジョー」
「ん、どうしたよ、アルトリウス」
「俺を呼ぶ時は《アーサー》でいいよ」
仲間達からの通称であり、仲間同士である証。それを聞いたバザルト・ジョーは
「わかったぜ。よろしく頼むぞ、アーサー」
そう言って、バザルト・ジョーはフレンド申請を飛ばしてきた。受け取ったアルトリウスは素直に承諾ボタンを押し、バザルト・ジョーとのフレンド関係を結んだ。
――原作との相違点――
・バザルト・ジョーが一回の戦いで仲間になる。原作のフェイタルバレットでは三回戦う必要がある。
――今回登場武器解説――
・M26 MASS
実在するショットガン。ベルツ・コーポレーション社という企業が作っている特殊な銃。
M4などのアサルトライフルの銃身下部に取り付けられる構造になっており、アサルトライフルのアクセサリ、補助武装として使う事ができる。また、散弾やスラッグ弾だけではなく、催涙弾、ゴム弾といった非殺傷弾も発射できるため、暴動鎮圧などにも用いることが可能。
M4などのアサルトライフルとはピン一本で結合しているため、割と簡単に外す事ができ、更にM26 MASSそのものにグリップとストックを取り付けて、単体で運用する事もできる。
何かと便利なアクセサリー銃。