キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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 時間を変えて投稿。

 


03:新たな参入者

          □□□

 

 

 

 大会は無事に自分達の優勝で終わってくれた。優勝賞金の代わりとして渡されたアイテムはアサルトライフルで、沢山のOP(オプション)のついたレジェンダリークラスのレアアイテムであった。

 

 だが、キリトが本当に求めていたアファシスに匹敵するほどの性能やレアさはどこにもない。オークションに出せば結構な額のWCとGCが稼げるくらいだ。

 

 WCやGCを狙ってこの大会に参加したわけではなかったので、とんだ期待はずれとしか言いようがなかった。それでも今回傷付いたリランのボディの修復及び行動に必要なバッテリーを買う事は余裕で出来るので、何もないわけではなかったが。

 

 そうして結果と優勝賞品をもらって戻ってきた《SBCグロッケン》の総督府では、多くのプレイヤー達が集まっていた。誰もが熱狂している。先の大会に参加した者、それを見ていた者が集まっているらしい。

 

 耳をすばせば、大会の感想を述べている者、それを聞いている者達の声が聞こえて来る。

 

 参加した側としては結構白熱したバトルが繰り広げられた大会だったと思っていたが、見ていた側としてはどうだったのだろうか。仲間の皆はほぼ全員チームルームに集まって観戦をしているという話だが、どうだろう。

 

 

「キリト。あそこ」

 

 

 隣を歩くシノンの声掛けにキリトは反応する。前の方を見てみると、プレイヤー達の中に混ざって、見覚えのある者達が集まっているのが確認できた。

 

 ピンク色の髪をサイドポニーにしている、ピンクの戦闘服が特徴的な少女。もう片方は白銀の髪と朱色の瞳で、自分に全体的に似た雰囲気を持った少年と、それに付き添う銀髪の女の子。

 

 先程の大会で出会ったクレハとアルトリウスだ。そしてアルトリウスの傍にいる銀髪の女の子は、もしかしたら自分が手に入れられたかもしれないアファシスであった。どうやら彼らも無事に大会で最後まで生き残ったらしい。

 

 

「アーサー、クレハ」

 

 

 クレハ曰くアルトリウスの通称で呼ぶと、当人はこちらへ振り返ってきた。

 

 

「キリト、シノン」

 

 

 先に反応してきたのはアルトリウスの方だった。二人で三人に近付くと、アファシスが如何にも嬉しそうな様子を見せてきた。そのままキリトは二人に労いの言葉をかけた。

 

 

「二人共お疲れ。無事に大会を最後まで通れたみたいだな」

 

 

 アルトリウスが頷く。

 

 

「あぁ、なんとかなった。結果を見たけど、キリトとシノンが優勝だったんだな」

 

「流石キリトさんですよね! やっぱりキリトさんくらいの人なら、この程度の大会なんて余裕でしょう?」

 

 

 クレハの言葉にキリトは苦笑いする。確かに自分達の装備と技術、そしてビークルオートマタであるリランの力が揃っていた事で、そこら辺のプレイヤーやエネミーに出会ったとしても、余裕を持って対処する事はできた。

 

 しかし大会の最後に出会ったスコードロンとの戦いは危なかった。特にあの白い八咫烏(ヤタガラス)型ビークルオートマタとの戦いが長引けば、こちらが負けていた可能性は低くない。

 

 もしかしたらあれらが優勝を取っているのではないかと思っていたが、その予想に反して自分達が優勝であったのは、キリトにとっては驚きだった。

 

 キリトはその説明をしようと口を開く。

 

 

「いや、そうでもなかった。二人は出会ってないかもしれないけど、本当にヤバい奴らに最後のあたりで出くわして……」

 

「おや、アルトリウス君にクレハ君じゃないか」

 

 

 背後から聞こえてきた声にキリトは思わずぎょっとした。その声色には聞き覚えがある。飄々(ひょうひょう)としていて余裕に満ちている男性の声。あの時白い八咫烏を従えていたと思われるビークルオートマタ持ちの狙撃手の声色と似ている気がする。もしかしたら気のせいかもしれないが。

 

 そう思いつつ振り返って見るより先に、声の主がキリトの隣に並んで来た。少しウェーブのかかった茶色い髪の毛で、焦げ茶色と白色を基調としたコートタイプのコンバットスーツに身を包んでいる男性。

 

 間違いなく、大会の最後に撃ち合いになったあのプレイヤーだった。その姿を認めるなり、クレハが驚いたような声を上げた。

 

 

「イツキさん、お疲れ様です」

 

「そっちこそお疲れ様。その様子だと、最後まで生き残れたみたいだね」

 

 

 キリトは首を傾げた。このプレイヤーはイツキというらしいが、早速クレハとアルトリウスに親しい様子を見せてきている。知り合いだろうか。

 

 思考を巡らすキリトを差し置き、アルトリウスがイツキに声かける。

 

 

「イツキ、あの時分岐したルートはどうだったんだ。そっちはどんな感じだったんだ?」

 

 

 イツキは残念そうな顔をした。何か不服な事でもあったような様子だ。

 

 

「こっちのルートは大ハズレ。トラップだらけだったよ。おまけに最後はとんでもない人達と出くわす事になってしまって」

 

「そのとんでもない人達っていうのは、俺達の事かな」

 

 

 試しに言ってみたところ、イツキはびっくりした様子でこちらに振り返ってきた。思わず驚いてしまったのが、それがわざとらしいものではないという事だった。

 

 

「き、君達……いや、君はキリト君じゃないか」

 

「そうだけど。名前は知られてるんだな」

 

「あぁ、君の名前はトップランキングで頻繁に目にしているからね。けれどまさか、この大会で、あの場面で出くわすとは思ってもみなかったよ。《光剣使い兼ビークルオートマタ使い》のキリト君に」

 

「それはこっちもだよ。あんたもあんなビークルオートマタを使ってるなんてな」

 

 

 そこでクレハが驚いたような声を出してきた。何か意外な事を聞いたような様子である。

 

 

「えぇっ。イツキさんもビークルオートマタを使ってるんですか? あの時は見なかったですけど」

 

「あぁ、あの時はパイソン君達と一緒に別行動をさせていたからね。紹介しそびれてしまったよ」

 

 

 どうやらイツキは自分達と出会うよりも前に、クレハとアルトリウスに出会っていたようだ。三人が知り合いのような様子なのはそのためだろう。そのうちの一人であるアルトリウスに改めて向き直り、イツキは首を傾げた。

 

 

「それでアルトリウス君。さっきまで居なかった()がそこにいるね?」

 

 

 イツキはアルトリウスのアファシスを見ていた。アルトリウスが説明するより先に、アファシスの方が声を出した。

 

 

「はじめまして、レイアです!」

 

 

 《レイア》。どうやらそれがアファシスの名前であるようだ。アルトリウスが付けたのだろう。そしてレイアという名前は、アルトリウスのアファシスにぴったりと当てはまっている。そんな気がした。

 

 直後、イツキが驚いたような顔になる。

 

 

「ん? 待ってくれ。もしかしてこの娘は、いや、この娘こそが新要素のアファシスなんじゃないかい!?」

 

「はい、そうですよ! 《Type-X》のアファシスが、このわたしです!」

 

 

 この前の大型アップデートで導入されて、瞬く間に話題を()(さら)っていった新要素、《アファシス》。その《Type-X》という最大級のレアものが目の前にいる。その事実を改めて確認したのか、イツキはひどくがっくりとした。

 

 

「なるほど……僕と君達が分かれたルートのうち、君達の選んだ方にこの娘が居たって事なんだね。それでアルトリウス君は無事にその娘のマスターになる事が出来た、と……」

 

 

 アルトリウスが頷く。彼にとってはそうするしかない。

 

 

「まさかアファシスなんていうレアものがあるなんて、思ってなかったんだ。近付いてみたら、レイアは俺をマスターに登録して……」

 

「うん、アファシスの入手方法は情報を聞く限りではそうだよ。つまり僕があの時君達のルートに進んで行けば、アファシスを手に入れられていたというわけで……あぁ、なんで僕の落とすパンはバターを塗った側を床側にして落ちるんだろう」

 

 

 イツキはかなり落ち込んでいる様子だ。確かに、あの時アファシスのカプセルに近付いていたのがイツキだったならば、彼は強力なビークルオートマタと高度な知性を持つアファシスの両方を所有する、《GGO》で唯一無二のプレイヤーとなっていただろう。

 

 そうなって話題や視線を集め尽くしたいという気持ちでもあったのだろうか。(ある)いは自分のように純粋にアファシスを所有してみたいという好奇心か。

 

 そんな事を考えるキリトを他所に、イツキは顔を上げた。

 

 

「……まぁいいや。おめでとうアルトリウス君。今回の大会の勝者は間違いなく君だよ」

 

「あぁ。なんたって、アファシスの中で一番レアなのを引いて、こうしてトッププレイヤーに興味を持たれてるんだからな。もしかしたらお前が今日、世界で一番運がいいプレイヤーかもな」

 

 

 そう言ってやると、アルトリウスはレイアへ向き直った。レイアはふふーんと得意げな笑みを浮かべる。どうやら自分がレアものであるという自覚があるらしい。そんな認識も出来るとは、レイアは余程高度なAIを搭載しているようだ。是非ともレイア、アファシスそのものの情報を聞き出したい。

 

 アルトリウスへの要件を思い出したその時に、シノンが声を出した。

 

 

「ねぇアーサー、良かったらこれから私達のところに来ないかしら。仲間の皆でちょっとした打ち上げパーティーをやるんだけど」

 

 

 キリトはきょとんとしてシノンに向き直った。そんな話は聞いていない。そういい出すより前に、シノンが耳打ちして教えてくれた。自分とアルトリウスとイツキとで喋っていた最中、シノンの許にメールが来たそうだ。

 

 差出人がアスナであるそこには、「二人を優勝を祝うパーティーをしたいから、戻って来て」と書いてあったらしい。それならば、アルトリウスとクレハを誘わない手はないだろう。現にキリトは、アルトリウスとクレハから親近感のようなものを感じていた。きっと仲良くなれるはずだ。

 

 

「俺もお前に来てもらいたい。なんだか仲間を紹介せずにいられないっていうか、皆にお前達を紹介したいっていうか」

 

 

 答えたのはアルトリウスではなくてレイアだった。

 

 

「マスター、わたしにはパーティーの経験がありません。なのですごく興味があります! 行きましょう!」

 

「それ大賛成! 参加させてもらうわ!」

 

 

 レイアだけでなくクレハも参加する気満々のようだ。そんな彼女達に背中を押される――前から、アルトリウスもその気だというのが顔で分かった。

 

 

「行く気みたいだな、アーサーも」

 

「勿論だ。参加させてくれ、キリト」

 

「よし来た!」

 

 

 そこでキリトはイツキに向き直る。あの時追い詰められはしたが、別にイツキが悪人であるようには思っていないし、そんな気配や雰囲気も感じられていない。

 

 

「イツキはどうかな。一緒に来るか」

 

 

 イツキは首を横に振った。残念そうな苦笑いを顔に浮かべている。

 

 

「正直そうしたいんだけど、僕はこれから仲間達に奢る約束があるんだ。だから、君達のパーティーには参加できそうにないな」

 

「そっか。それじゃあアーサーにクレハに、レイア。付いて来てくれ」

 

 

 アルトリウス、レイア、クレハの三名が頷いたのを確認して、キリトは総督府を出た。相変わらず騒がしい街中を抜けていき、仲間達の待っているチームルームへ向かった。

 

 その最中ですら明るさを感じられたのは、アルトリウスのアファシスとなったレイアの言葉や雰囲気だった。

 

 

 

 

          □□□

 

 

 

 アルトリウス、レイア、クレハの三人を加えたパーティーは大盛り上がりで幕を下ろした。特にクレハは数少ない女性プレイヤーという事で女性陣から大歓迎されており、早速友達になれていた。

 

 そしてアルトリウスの方はレイアと《UFG》なる未知の装備を手に入れたという事で仲間達の大勢から注目を浴びていた。だが嬉しい事に、三人ともとても嬉しそうにしてくれており、仲間達とも問題なく話し合ったりしていた。無事に打ち解けてくれたようだ。

 

 そういった嬉しい事情を確認すると、キリトはアルトリウスを連れて屋上に出た。チームルームとして利用している部屋には屋上に出るエレベーターもあり、そこから本当に屋上に出て、《SBCグロッケン》を高いところから見る事が出来るようになっている。

 

 二人で向かった時に見えてきたのは、すっかり見慣れた夜の《SBCグロッケン》。鋼鉄のビル等の建造物が、無数のネオンライトで装飾されており、その光が街そのものを照らし出している。その明るさは、ここがかつて帰還した移民船である事、そして人類は僅かしか帰還して来ていないという世界観設定を忘れさせるくらいだった。

 

 その光の数々、下の街を行き交うプレイヤー達や車両を見つつ、キリトはアルトリウスに声をかけた。

 

 

「急に誘い出して悪かったな。びっくりしただろ?」

 

「そんな事はないよ。寧ろ誘ってもらえてすごく良かった」

 

 

 そう応答するアルトリウスの表情は朗らかだった。皆がアルトリウスの事を受け入れて、アルトリウスに自分達を受け入れてもらえた証拠だ。そんなアルトリウスはキリトへ顔を向ける。

 

 

「キリトは沢山の仲間がいるんだな」

 

「あぁ。一部は口が悪いかもしれないけれど、皆頼れる仲間達なんだ。だからお前も頼ったら良いよ」

 

 

 アルトリウスはきょとんとする。こう言われる事が予想出来ていなかった様子だ。

 

 

「え? いいのか。俺はキリト達の仲間に加わったわけじゃ……」

 

「そうだろうな。けれど、俺はお前を仲間だと思いたい。っていうか、一緒にこの世界を遊んでいきたいんだ。お前とはなんか共通点っていうか、親近感があるような感じがしてさ」

 

 

 キリトは改めてアルトリウスに向き直る。

 

 

「アーサー、お前はソロタイプだろ? そんなに沢山仲間や友達を作ったりしない方だろ」

 

 

 アルトリウスはびっくりしたような顔をした。図星を突かれたらしい。

 

 

「なんでわかったんだ?」

 

「昔の俺みたいなフレンドゼロって程じゃないけれど、雰囲気が似てるんだよ。それにあの時お前はアファシスを庇っていたじゃないか。あれってもしかして、何かを考えるより先に身体が動いていたんじゃないか?」

 

 

 アルトリウスの目が若干見開かれる。これも図星だったようだ。

 

 

「そ、それは……」

 

「いやいや、そんな反応しないで良いよ。俺もそうなんだ。俺も普段は効率重視、理屈で物を考える方なんだが、ふとした時には身体の方が先に動くんだよ」

 

「……!」

 

 

 アルトリウスの反応は、身に覚えのあるとわかるようなものだった。やはりアルトリウスは自分と似通った部分を持つ人物だと、キリトは確信を得た。

 

 

「だからさ、お前とは何か気が合いそうな感じがしてるんだ。これから仲間として一緒にやっていけそうな……なんだかそんな気がするんだ。だから、お前とはこれから一緒に遊んでいきたいんだが、そういうのは迷惑か?」

 

 

 直後、キリトの眼前にウインドウが現れた。フレンド申請を受けている事を通達しているウインドウだ。確認すると、それはアルトリウスからのフレンド申請であり――アルトリウスはウインドウを操作する姿勢のままこちらを見て、微笑んでいた。

 

 

「全然迷惑じゃない。寧ろ、キリト達のチームに入れてほしい。いや、入りたい。いいかな?」

 

 

 アルトリウスの宣言を受けて、キリトは思わず笑った。気の合う彼を仲間にしたい、彼と仲間になりたいという思いは無事に通じた。キリトは彼の言葉に応じるようにして、ウインドウを操作。承認ボタンをクリックし、アルトリウスとフレンド関係となった。

 

 

「……ありがとうアーサー。これからよろしく頼むぜ」

 

「……こっちこそ誘ってくれてありがとう、キリト。これからよろしく」

 

 

 そう言ってくれたアルトリウスに向けて、キリトは右手を差し出した。握手をしてくれという意思表示を、アルトリウスはちゃんと受け取ってくれて、右手でしっかりとキリトと握手を果たした。その手は不思議な暖かさで満たされており、とても心地が良かった。

 

 アルトリウスとは仲良くやっていける――そんな不可思議な自信がキリトの中で起こっていた。

 

 そのアルトリウスとの握手を終えたその時だった。屋内への入り口の方からエレベーターの稼働音が聞こえたかと思うと、大きな声が届けられてきた。少女の声だった。

 

 

「ま、マスター、助けてくださ――――いッ!!」

 

 

 二人でびっくりしながら向き直ると、駆けてくる少女の姿が一人。現在《GGO》で最もレアなアファシスとされ、パーティーでも皆の注目と興味の的であったレイアだった。

 

 

「レイア!?」

 

「どうしたんだよ!?」

 

 

 思わず二人同時に言ったところで、レイアはとても焦った様子でアルトリウスの許へ到達。そのまま身を隠すようにしてアルトリウスの背中に張り付いた。間もなくしてアルトリウスの顔が一気に赤くなる。

 

 自分のアファシスであるとはいえ、十代半ばくらいの女の子の外観をしているレイアが、身体の前面を当ててくるなんていう事をして来るのだから、当然の反応だ。そんなアルトリウスは恥ずかしさを隠さずにレイアに叫んだ。

 

 

「わわわわわッ! どうしたんだよレイア!?」

 

「とにかくわたしを守ってください! 追われてるんです!」

 

 

 レイアはアルトリウスの背中から離れようとせず、入口の方を見ていた。追われていると言っているが、何に追われているのだろうか。

 

 ……そういえばパーティーの最中、女運にどうも恵まれないおかげで彼女を作れないでいるクラインが、レイアの事を興味津々の様子で見ており、話しかけていた。

 

 もしかしてあいつがレイアの事を気に入ってしまって、当人が逃げ出すほどの過剰なコミュニケーションをしようとしているのか。もしそうだったならば、その時は顔面に蹴りを一撃入れてやらねばならない。キリトは小さく溜息を吐いてから、入口の方を改めて確認した。

 

 足音がする。レイアを追う者がやって来ているのだ。クライン、お前はアルトリウスのアファシスに、いやそれ以前に女の子に何て事をしているんだよ――彼に向って言う台詞を考えつつ準備をしたその時、ついにレイアを追う者は姿を見せた。

 

 

「待っておくれレイちゃんー。君の癖や特徴が気になるんだよー。そんなに怖がらないでおくれってー」

 

 

 そう言ってやってきた人物に、キリトは目を点にした。てっきり赤茶色の髪をバンダナで巻いている、和風感のある戦闘服を着た野武士のような青年かと思われた来訪者は、小さな少女だった。

 

 ユイと同じ色合いの黒髪をなびかせ、ストレアと同じ色合いである赤茶色の瞳をした、白くてどっしりとしている戦闘服――というよりも鎧に近しい――を身に纏った、プレミアとティアくらいの身長しかない少女。

 

 彼女達の開発者(ははおや)であり、自分にとって頼れる協力者であり恩師である、イリスだった。

 

 

「え、イリスさん?」

 

 

 イリスがレイアを追ってやってくるという展開は、流石のキリトも読めていなかった。完全に呆然としてしまっているキリトと、レイアに張り付かれて大焦りしているアルトリウスの許へ、イリスはやってきた。

 

 

「あぁキリト君にアーサー君。レイちゃんもそこにいるね。ならレイちゃんをそのままにしておいてくれ」

 

「ひいいいい!?」

 

 

 イリスはじりじりとアルトリウスへ、その背に隠れているレイアに向かって行く。なるべく刺激したりしないように、威嚇している動物に近付くような姿勢だ。彼女にしては珍しいどころではない様子に、キリトは引き続き目を点にしているしかない。勿論どうするべきかも。

 

 そんな中で行動を起こしたのはアルトリウスだった。彼はばっと腕を広げて、完全にレイアを隠した。自分と初めて出会った時の姿勢とほぼ同じだ。それがこんな展開で再度出てくるとは思ってもみなかった。

 

 

「や、やめてください! レイアが怖がってますって!」

 

 

 立ち塞がるアルトリウスをイリスは見上げ、「おや?」と言った。その隙を狙って、キリトはイリスの両肩に掴みかかった。これまでは決して出来なかった容易さで、イリスの身体を止める事が出来た。

 

 

「落ち着いてください、イリスさん。どうしたっていうんですか」

 

「ッ! 隙ありです! 今の内ですッ!!」

 

 

 その瞬間、レイアはばっとアルトリウスの身体から離れて飛び出し、一気に屋内の方へ駆けて行った。その行動の早さは驚くべきものだ。あんな速度をレイアに出させるなんて、イリスは何をしたのだろう。

 

 キリトは両手を載せているイリスに声をかける。

 

 

「イリスさん、何やったんですか」

 

 

 イリスは「はぁー」と残念そうな溜息を吐き、キリトの手から離れた。意外にもレイアを追って行く様子はない。諦めが一応ついたようだ。

 

 

「ちょっとレイちゃんを調べたかっただけだよ。あの子、とんでもない特別製のAIだ」

 

 

 


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