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「マスター、わたしの名前を決めてください! 後で変更は可能ですが、変な名前を付けたら大爆発します!」
《GGO》で高い知名度を持つトップランカーであるキリトとシノン、その《ビークルオートマタ》であるリランと出会うという、ある意味の奇跡を体験した後、アルトリウスには更なる奇跡が訪れていた。《アファシス》という《GGO》の大型アップデートで実装された新要素を、早速手に入れる事が出来た。
しかもそれはキリト達トップランカーさえも狙っているくらいのレアアイテムであったらしい。そのアファシスを目覚めさせたかと思いきや、起動完了と言い出すと、今のような口調になった。
如何にも機械が喋っているような喋り方から、突然現在の流暢な喋り方になったものだから、アルトリウスは勿論、クレハも驚いていた。
「えぇっ。あんた、なんか口調変わってない?」
「それは仕様です! Type-Xは元々、個体ごとにそれぞれの個性がある優れたアンドロイドなのです!」
クレハの尋ねごとにさえ、アファシスは元気な口調で答えた。彼女の口調のせいなのか、それともアファシス自身の持つものなのか、起動完了と言い出したところから、この場の空気が一気に明るくて暖かいものに変わっている。まるで彼女自身が太陽であるかのようだ。
そんなアファシスのマスターが自分であり、アファシスとはこれからずっと一緒に居て、自分が連れて歩く事になる。その事がアルトリウスはとても嬉しく思えていて、気付いた時には顔がほころんでいた。
「それでアーサー、この娘に名前を付けてあげなさいよ。ずっと連れ歩くんでしょ」
「いや、名前自体はもう決めてあるんだ」
クレハは「そうなの?」と意外そうな顔をした。先程のようにもっと驚いてきそうな気がしたが、そうではなかったらしい。
アファシスの名前は既に決めてある。このアファシスが眠っていたカプセルに近付いた時、目前に一枚のウインドウが展開された。《名前を決めてください》というメッセージと、入力のためのホロキーボードが表示されているウインドウだった。あまりに突拍子もない出来事だったが、アルトリウスは内側で疼く興味と探求心のために入力せずにはいられなかった。
そこで入力した名前を思い出しつつ、アルトリウスはアファシスへ向き直った。
「君の名前は、《レイア》だよ」
特に由来はない。カプセルの蓋越しで見た彼女に似合いそうな名前は、そうであるとしか思えなかったので、その名前にした。アルトリウスの口から出たその名前に、クレハは少し嬉しそうな様子を見せた。
「あら、良い名前じゃないの。シンプルで呼びやすいし」
「レイア……登録完了しました。その名前をわたしに与えてくださるのですね。マスターのセンスが変じゃなくてよかったです!」
アルトリウスは思わずずっこけそうになる。もしここで変な名前を入力していたならば、レイアは自分を罵倒してきたのだろうか。それとも宣言通りに大爆発して、アファシス獲得を無かった事にしてきたか。その時の想像を抑え、アルトリウスはレイアへ向き直った。
するとレイアは懐に手を入れて、何かを取り出してきた。
「そうです、マスター。わたしに名前をくれて、尚且つわたしのマスターになってくれたお礼として、この銃を差し上げます」
そう言ってレイアが差し出してきた物に目線を向け、アルトリウスは思わず首を傾げた。大きさ自体は今持っている拳銃――ソーコムに近しいが、実弾銃のように無骨な外観をしてはおらず、全体的に白くて流線的なフォルムだ。
そしてどういう事か、拳銃のスライドに該当する部分には緑色の弓のようなものが付いている。全く見た事がない銃の登場に、クレハも意外そうな顔をしていた。
「何これ。こんな銃見た事ないわよ。見た感じ光線銃っぽいけど」
「これは《
アルトリウスは《UFG》なる銃を眺めた。確かに自分は今日初めて《GGO》どころか、VRMMOというものにログインを果たした。ここからどんなプレイスタイルをとっていく事になるのか、どういったプレイヤーとしてやっていくのか、全く予想もしていないし、考えてもいない。レイアの言うとおりの未知数がそのまま当てはまっている。
そんな未知数の自分に与えられた未知数の銃の姿は、どこか頼もしく、そして親近感があるような気がした。その銃をホルスターに仕舞ったそこで、どこからともなく声が聞こえてきた。
《タイムアウト。参加者は戦闘を停止してください。尚、この瞬間以降の戦闘結果はポイントに加算されません》
「あ、大会終わっちゃったわね」
クレハがウインドウを展開し、指先で操作を加えていく。結果を見ているのだ。恐らくは優勝者を探しているのだろう。アルトリウスも同じように結果を見ようとしたが、すぐにクレハが声を上げてきた。
「す、すごいわ。結局キリトさんが優勝してる! やっぱりあれかしら、《ビークルオートマタ》が居るおかげかしらね」
確かにキリトの持っている《ビークルオートマタ》であるリランは、他のエネミーなどとは比べ物にならないような気配や強さを感じられた。アレを操って戦っているのがキリトなのだから、この程度の大会など、容易く優勝が取れてしまうだろう。
その領域にいつか俺も辿り着けるのだろうか。いや、辿り着いてみたい――そんな事を思うアルトリウスに、クレハが続けて声を掛けてきた。
「けど、一番の勝者はアーサーだと思うわ。なんたって、レイちゃんをゲットできたんだから!」
《レイちゃん》――アルトリウスは思わず首を傾げたが、すぐにその意味を理解した。レイちゃんとは、恐らくレイアの愛称だ。自分のアルトリウスをアーサーと呼び変えている辺りと同じような感覚で、レイアの呼び方も見つけ出したのだろう。
早くも愛称をもらったレイアは、この大会で優勝を果たしたキリトも求めるような激レアアイテムだという話だから、それを手に入れられた自分はある意味勝者と言えるのかもしれない。
そんなクレハの言葉を、レイアが肯定する。
「はい! マスターはものすごくラッキーなプレイヤーです! アファシスType-Xは最高級にレアな存在なのですから! 大事にしてくださいね、マスター」
「勿論だよ。レアアイテム以前に、レイアを大事にしないなんて出来そうにないな」
そう言うとレイアはとても嬉しそうにした。VRMMOのAIはこれまでのゲームと比べて高い知能と対応能力を持っているという話だったが、レイアは話に聞くそれらよりも高知能に見えた。これがレイアを激レアの存在足らしめている要素だろう。
こんなレイアを手に入れられたのは、本当に幸運だっただろう。アルトリウスは本日の幸運と言うものに改めて感謝した。
「さてと、大会も終わったところだし、もうすぐ《SBCグロッケン》に転送される頃ね。帰ったら打ち上げしましょ、アーサー」
「あぁ、そうしよう。出来れば料理とか飲み物が美味いところが良い」
「任せておきなさい。そんな店、もう何軒も見つけてるから!」
だから期待しておいて良いわよ――自信満々のクレハに頼もしさを感じていると、彼女の宣言通りに転送が始まった。
白い光が目の前を包み込んだかと思うと、全身を一瞬だけ浮遊感が包み込む。それらが収まった頃に見えた光景は、このイベントに参加するために利用した《SBCグロッケン》の総督府だった。
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大会終了まで十分前
大会終了までの残り時間は少ない。長話していたつもりはなかったが、どうやらアルトリウス達との会話、アファシスの確認に思いの外時間を取られていたらしい。キリトはなるべくリランを急がせていた。
アファシスの眠っていた部屋からは一変して、またしても鋼鉄の壁と床で構成されているだけのシンプルな様相をしている廊下、部屋をいくつも超えていく。
その中でキリトは独り言ちた。
「残り時間はあと十分くらいだけど、大丈夫かな」
「これだけの時間でエネミーとかプレイヤーを見つけてポイントを稼ぐのはちょっと難しいかもしれないわね。それでも、最後まで何もしないっていうのは無しだけど」
シノンからの応答にキリトは頷く。
「そうだな。残り十分、何もしないでいるのなんて俺には無理だ」
「そうでしょう? だから、出来る限りエネミーを見つけないとね」
シノンの声はかなり強気だった。ここ三ヶ月で彼女もステータス的にとても強くなり、トップランカーの一人として君臨するようになった。そのためなのか、彼女は時折強気な態度を見せてくるようにもなっている。今の言葉だって、強気になっているからこそ出てきたものだ。
この三ヶ月間で、シノンは強くなったと言える。それは彼女の当初の目的であるので、それが達成されていっているのは嬉しい事だ。
(けれど)
シノンが強気になっているのは今のところ《GGO》の時だけで、現実の時はそうでもない。現実のシノン/詩乃は、これまで自分の接してきている詩乃と何ら変わりなく、正確や態度や言動にこれといった変化は見受けられない。《GGO》に居る時のような強気な姿勢や態度を示したところは一度も確認できていないのだ。
彼女が強気な態度や姿勢を見せてくるのは、《GGO》に居る時だけ。その根本に居るはずの詩乃は、特に何も変わっていない。それがキリトはずっと気になっていた。
《GGO》で強くなれば現実の私も強くなれる。だから強くなるの――詩乃/シノンは確かにそう言っていたが、強くなっているのは《
シノンは確かに詩乃なのに、シノンばかりが強くなっていき、詩乃が取り残されている。そう思える部分がところどころ見え隠れしているのが、今の彼女の現状だった。それを懸念に思わない事は勿論できず、キリトはずっと引っかかっていた。
今のこの状態を続けたところで、果たして詩乃の望む強さは得られるのだろうか。
「――ッ! キリト!!」
そのシノンの呼び声によってキリトは我に返った。間もなくしてリランが急ブレーキをかけ、その場に止まろうとする。鋭い金属音を長々と響かせたリランが停止した直後、その目の前が突然爆発し、炎上し始めた。リランの急ブレーキによって投げ出されそうになっていたキリトは体勢を立て直し、思わず声を上げた。
「な、なんだ!?」
「敵に決まってるでしょ!」
シノンの鋭い
――鳥だ。巨大な鳥が炎の向こうで羽ばたいていた。この《GGO》に生息する生体兵器にあそこまで純粋な姿をしているものは居ないから、生物ではない。それに鳥が羽ばたく際に出るような羽毛の音ではなく、機械が動く音が聞こえてくる。巨大な鳥型戦機だ。
その姿をしっかりと認めてすぐに、弾丸がリランの近く、キリトのすぐ傍を通過していった。あの鳥型戦機以外のエネミーもいるようだ。キリトはリランから飛び降りて炎の側面に回り込み、周囲を見回した。
あちこちに敵対プレイヤー達が待ち構えている。確認できるだけでも七人近くがアサルトライフル、狙撃銃、ショットガン、ロケットランチャー、ミサイルランチャーといった多彩な火器を携えて、こちらに狙いを付けて来ていた。
どうやら残り時間が僅かになった中、少しでもスコアを多く稼ごうと思ったプレイヤー達――スコードロンに出くわしてしまったらしい。その中でも一際存在感を放っているモノにキリトはもう一度目を向ける。先程急な爆撃を仕掛けてきた本人であろう鳥型戦機。その姿をしかと認め直して、キリトは思わず息を呑んだ。
鳥型戦機は
その姿は日本神話に登場する太陽の女神である天照大神が、初代天皇とされる
それだけではない。あの八咫烏型戦機は周囲に居るプレイヤー達には狙いを向けておらず、こちらだけを狙ってきている。ここにいるプレイヤー達とは敵対関係ではなく、自分とシノンとリランのようなパーティ関係なのだ。
それが実現出来ているという事は、あの戦機はここに配置されているエネミーではなく、誰かの所有物であるという事である。そして大きさと攻撃力から考えて、リランと同じ《ビークルオートマタ》と考えて間違いない。
「寄りによって《ビークルオートマタ》持ちのスコードロンと遭遇かよッ」
「けれど、倒せればスコアは高そうよ!」
そう言ってシノンは愛用武器となった対物ライフル、ヘカートⅡを発砲した。放たれた弾丸は目にも止まらぬ速度で飛んでいき、遮蔽物から偶然身体を出していたミサイルランチャー持ちのプレイヤーを吹き飛ばした。まずは一人目。更にリランが肩に搭載されているアヴェンジャーを連射してプレイヤー達を撃とうとするが、プレイヤー達は一斉に物陰に隠れて被弾を防ぐ。
直後、プレイヤー達の中から声がした。
「イツキさん、あの《ビークルオートマタ》は!」
「間違いないね。《光剣使い兼《ビークルオートマタ》使い》のキリトだ。厄介なモノに当たってしまったようだね」
声を出したのは二名。一人は若干若い男の声色。そしてもう一人の方はかなり若い男の声だ。
「けれど、何も対策をしていないのが僕達じゃない。全員、対《ビークルオートマタ》弾装填に切り替え。《
飄々とした男の声によって、プレイヤー達が銃弾に切り替えに入ったのが見えた。どうやらこの男こそがここにいるプレイヤー達のリーダーであるらしい。そしてその男の声の直後に白八咫烏が後退し、その腹部に搭載されているランチャーより弾頭を複数射出してきた。
弾頭は小さいものの、戦闘機に積まれる自由落下型爆弾の形をしている。そしてその先端は真っ直ぐにこちらを捉えていた。リランの背中を狙っている。それがわからない彼女ではなく、即座に床を後ろ脚で蹴って回避しようとしたが、それでも間に合わない。
「ッ!」
キリトはUSPと光剣を構えた状態でリランの背中から飛び降りた。シノンも同じタイミングでリランの背中から離脱し、二人で床に足を付ける。それから一秒もしない内にリランの背中で爆発が起き、猛烈な爆炎が広がった。しかも先程のように火柱が上がっており、離れた位置からでもわかるくらいの熱風が来ている。
――ナパーム弾だ。炸裂すると燃え盛るゼリーを広範囲に撒き散らし、辺り一面を火の海に変え、更にゼリーを浴びた全てを水で消えない炎で焼き尽くしてしまう焼夷弾である。撒き散らされるゼリーはその性質により消火が困難で、浴びた者を炎で包んで炭になるまで焼き続け、更に周辺の酸素を著しく消費して無酸素状態を作り出して全てを殺し尽くすという、あまりに凄惨な被害を出してしまう事から現実世界では規制された兵器の一つだ。
それが今この《GGO》の世界で息を吹き返し、あの八咫烏に搭載されているという事らしい。しかし現実世界のように酸素を著しく使い切ってしまうような特性はないらしく、呼吸が出来なくなるような状態異常にはなっていない。それでもリランの背中は引火性ゼリーを浴びて燃え上がってしまっているのは変わりなかった。
「リラン!」
《この程度の炎で我をやれると思うでないわ。炎は我の得意属性なのでな!》
キリトの声に応じたかのように、リランはスナイパーキャノンを発射して八咫烏を撃った。放たれた規格外の大きさの弾丸を、果たして八咫烏は驚きの瞬発力で回避して見せた。どうやらミサイルくらいでしかあの八咫烏を撃ち落とす方法は無いらしい。そのミサイル兵器をリランは背負っているが、背中が燃えているせいでミサイルを射出できない。今使えばその場で爆発して、自分自身がダメージを受けてしまうだけで終わる。
あの八咫烏を撃ち落とすのは諦めて、他のプレイヤー達――特にあの八咫烏の持ち主を倒すのを優先すべきだろう。それをキリトが伝えるよりも先に、シノンはヘカートⅡでもう一人プレイヤーを撃ち倒していた。シノンは既にやるべき事が見えていたのだ。
キリトはそれに続くようにしてリランの背後から出て、敵陣へ向かった。目の前にはアサルトライフルを構えたプレイヤーが一人。勿論こちらの接近を受けて弾丸を連射してきたが、キリトはその軌道を《弾道予測線》の動きで察知、全て光剣で弾き飛ばした。
やはりというべきか、敵対プレイヤーは驚きを隠せない様子を見せてくる。光剣で弾丸を弾き飛ばすなどという芸当を見た事はなかったのだろう。その驚きによる隙は絶好の機会だ。
キリトは一気に駆け抜けてアサルトライフル持ちのプレイヤーに接敵、一閃を喰らわせた。スコードロンを組んでいるためか、プレイヤーのアバターが両断されるような事はなく、後方に吹っ飛んでいって転がり、戦闘不能になったのが確認できた。
直後、攻撃を終えたキリトの背後にショットガン持ちのプレイヤーが躍り出て、近距離からの射撃を仕掛けてきた。壁とまではいかないものの、かなりの数の細かい弾丸が飛んでくる。回避する事は困難だが、何もできないわけではない。
キリトは光剣を手首で思い切り回転させてスクリューのようにして、上半身に飛んでくる散弾を全て弾いた。全部弾き飛ばせたわけではなく、かなりの数が脚を中心に命中したが、拡散する弾丸そのものの威力は低い方に入るのが散弾なので、大したダメージにはならなかった。
「えぇっ!?」
散弾までも防がれるとは思っていなかったのだろう、ショットガン持ちのプレイヤーが思い切り驚いている。これが光剣の強さなのだ。使いこなせばこんなふうにガンナーを圧倒できるんだぞ――それを伝えるかのように、キリトはそのプレイヤーへ縦方向斬撃をお見舞いし、戦闘不能に陥らせた。残っているのは狙撃銃持ちの二名だけだ。
その二人を視界に捉えたそこで右端の方から大きな影が踊ってくるのが見えて、キリトは咄嗟に後退した。白八咫烏が空中からの突進攻撃を仕掛けて来ていたのだ。白八咫烏はこれまでのゲームでリランが翼を広げた時と同じくらいの大きさがあり、回避は寸でのところだった。
《ビークルオートマタ》は主が戦闘不能になると動かなくなるという仕様があるが、白八咫烏は活動を続けている。先程まで倒してきた者の中に主は居なかったのだ。それはつまり、少し遠くにいる狙撃銃持ちのプレイヤーのどちらかが白八咫烏の主であるという事であり、恐らくそいつこそがこのスコードロンのリーダーであろう。そいつをやれば自分達の勝ちは確定になりそうだ。
そのどちらかに使役されている白八咫烏は一旦地上に足を付けたかと思うと、すぐに飛び上がった。隙が出来た――かと思ったそこで、白八咫烏は一瞬口内で何かを溜めたような動作を取り、すぐさま解放するように口を開けた。次の瞬間、白八咫烏の口の奥から燃え盛る弾が十数発発射されてきて、そのままキリトの許へ降り注いできた。
「うおおおおおッ!!?」
思わず声を上げて驚き、キリトは即座にステップとダイブを繰り返して回避した。先程までいた位置で爆発が何度も起きて、瞬く間に火の海になった。
どうやら白八咫烏の口内にはブレスのような感覚でナパーム弾の中身を発射する事が出来る武器が装填されているらしい。そんな白八咫烏の身体には胸部にナパーム弾ランチャー、脚に小銃、背中にミサイルポッドらしきものが搭載されているのも確認できていた。
あれだけの火器を持てている白八咫烏がレアではないわけがない。白八咫烏はリランが該当する《鋼機狼リンドガルム》に負けず劣らずのレアものであり、強い《ビークルオートマタ》だろう。そんなものになんてタイミングで出会ってしまったのか。
いつもの事ながら、キリトは敵対したスコードロンが相手にするべきではないモノだった事にようやく気が付いていた。そして白八咫烏は未だにキリトに狙いを付けており、ナパーム弾の射出口を開けていた。こちらが踏める床を全部炎で覆い尽くすつもりでいるのか。だとすればどう対処すればよいか。
《こっちに向けッ!!》
その時《声》がしたかと思いきや、白八咫烏をミサイルと爆発が襲った。リランが咄嗟にヘルファイアを発射して白八咫烏を狙ってくれたらしい。流石に高性能ミサイルまでは回避できないのだろう、白八咫烏は体勢を崩して攻撃を中断した。
キリトはリランに目で礼を伝え、狙撃銃を持っているプレイヤーの許へ駆けた。あちらももう隠れていても無駄だと判断したのだろう、物陰から出てきていた。茶色と白のコートに茶髪で手には《SVD》を構えている。その銃口はしっかりとこちらを狙っており、《弾道予測線》が真っ直ぐ伸びてきている。
拳銃やアサルトライフルの弾丸は容易に弾けるが、狙撃銃弾となると話は異なってきて、簡単には弾けない。迎撃したとしても失敗して被弾する可能性の方が高いだろう。ならば撃たれる前に斬るだけだ。キリトは一気に駆けて、茶髪の狙撃手に接敵した。
「そこだッ!!」
「ッ!!」
互いの掛け声が交差し、刀身が届き、引き金が引かれたその時だった。
《タイムアウト。参加者は戦闘を停止してください。尚、この瞬間以降の戦闘結果はポイントに加算されません》
互いの攻撃判定が無効化され、キリトの光剣は対象を斬る前に刀身が無くなり、相手の狙撃銃は
――原作との相違点――
・《彼》がビークルオートマタ使いになっている。
――今回登場武器解説――
・ソーコム
ソーコムピストルという通称で呼ばれているが、正式名称は《H&K MARK 23》。
実在する拳銃。ヘッケラー&コッホという企業で作られており、アメリカ合衆国軍の特殊部隊等で現在も使われている。サブマシンガン並みの火力が欲しいというコンセプトで作られており、攻撃力が高く、重い。レーザーサイトとフラッシュライトが同時に搭載された四角いアクセサリを付けている姿は印象的。
・SVD
実在する狙撃銃であり、ドラグノフ狙撃銃とも呼ばれる。旧ソ連で作られたセミオート狙撃銃であり、その優秀な汎用性から現在でも使われている。銃床に穴が開いているのが特徴であり、先端部には銃剣を付ける事も出来る。